説明

海中ケーブルの端末構造、海中ケーブルの端末固定方法

【課題】 より高い鎧装の引き留め力を確保することが可能な海中ケーブルの端末構造および海中ケーブルの端末固定方法を提供する。
【解決手段】 海中ケーブル3の端部において、最外層である防食層25が剥離され、内部の電力用線心13および外層23a、23bが引き出される。電力用線心13は、海中ケーブル3の軸方向と略同一方向にまっすぐに引き出され、孔41に挿通される。鎧装23a、23bは、防食層25が剥離された部位から、海中ケーブル3に対し、やや径方向に広がるように引き出される。引き出された鎧装23a、23bの端部は、それぞれ挿通孔37a、37bに挿通される。挿通孔37a、37bの蓋部材43が設けられる側とは逆側の端部から、挿通孔37a、37bの内部に膨張剤39が充填されている。膨張剤39は、加水することによる水和反応で膨張し、固結する物質であり、例えば生石灰および珪酸塩を主成分とする膨張剤が使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上浮体設備用の海中ケーブルの端末構造、海中ケーブルの端末固定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の点から、再生可能エネルギーの開発が進められている。例えば、洋上浮体設備である発電用風車から送電する浮体式洋上風力発電の実用化が進められている。
【0003】
洋上浮体設備から送電するためには、海中ケーブルが使用される。海中ケーブルは、電力用線心を3相交流送電用に3本集合撚り合わせ、さらにコアの外周にケーブル荷重をサポートするための鎧装線を設け、更にその外部に外傷防止用のプラスチック層を押し出し被覆した構造である。
【0004】
このような海中ケーブルとしては、例えば、ケーブル線心と捻り補強線の複数本を一方向に撚り合わせた線状集合体の外周に、そのケーブル線心及び捻り補強線撚り合わせ方向と逆方向に鎧装線を撚り合わせた鎧装体を設け、線状集合体と鎧装体に作用する捻りトルクを打ち消してトルクバランスさせた海中ケーブルがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−192831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような海中ケーブルは、海中に常時懸垂され、波浪、潮流による流体力や自重を受けた状態で使用される。したがって、これを支持するための鎧装線は、海中ケーブルの接続部において高応力の引張り、曲げ、捩れに耐え得るように固定される必要がある。
【0007】
これに対し、従来の鎧装線は、例えばステンレス製の引き留め金具に配置され、くさび部材で挟み込んで圧縮することで固定される。このようなくさび部材で圧縮する固定方法は、作業の熟練度によって大きなばらつきが生じる。このため、作業者が低熟練度の場合、スリーブ拘束力は1.0kN以下となる恐れがあり、鎧装線が引き留め金具からで簡単に抜けてしまう恐れがある。
【0008】
また、仮に高い熟練度で圧縮固定したしても、本スリーブの拘束力のレベルとしては5.0kN程度が最大レベルである。すなわち、鎧装線端末部の金属スリーブ圧縮部の引き止め強度が小さい。しかし、鎧装線材1本毎に必要とされる拘束力は、20〜30kN程度であり、本構造では端末部で必要とされる拘束力が得られないケースも多い。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、より高い鎧装の引き留め力を確保することが可能な海中ケーブルの端末構造および海中ケーブルの端末固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、洋上浮体設備用の海中ケーブルの端末構造であって、導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記電力用線心の軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、を具備し、前記海中ケーブルの端部において、固定部材が設けられ、前記固定部材の中央の孔には、前記電力用線心が挿通され、前記固定部材の前記中央の孔の外周側には、複数の線材挿通孔が周方向に併設されており、前記線材挿通孔には、前記線材が挿通され、前記線材と前記線材挿通孔との間には膨張剤が充填され、前記線材は、前記膨張剤によって前記線材挿通孔と接合されることを特徴とする海中ケーブルの端末構造である。
【0011】
前記線材は、前記固定部材の前記線材挿通孔に対して、前記電力用線心の全体の外周に螺旋巻きされる巻き付け角度と略同一の角度で挿通されることが望ましい。
【0012】
一つの前記線材挿通孔に対し、複数本の前記線材が互いに隙間をあけて挿通され、前記膨張剤によって前記線材挿通孔に接合されてもよい。
【0013】
前記線材挿通孔は、前記固定部材の面方向に対して斜めに形成され、前記固定部材に対する前記線材の挿通方向と、前記固定部材に対する前記線材挿通孔の形成方向が略一致させてもよい。前記線材挿通孔は、前記固定部材の線材が挿入される面側から、他方の面側に向かって拡径するように形成されてもよい。
【0014】
前記膨張剤は、セメント膨張剤であり、加水による水和反応時に膨張し、前記膨張剤によって、前記線材の表面と前記線材挿通孔の内面に対して膨張圧が付与されることにより、前記膨張剤と、前記線材の表面および前記線材挿通孔の内面との摩擦によって前記線材と前記線材挿通孔とが接合されることが望ましい。
【0015】
第1の発明によれば、膨張剤によって線材を拘束するため、極めて高い引止め力で線材を引き留めることができる。また、別途くさび部材などで線材を挟み込む必要がないため、コンパクトな端末構造を得ることができる。
【0016】
また、海中ケーブルの保護層を剥離して、線材を固定部材の方向に引き出す際、線材が、海中ケーブルの長手方向に対する線材の巻き付け角度と略同一の角度で固定部材方向に引き出されるため、線材の引き出し部において、線材に過剰な応力が付与されることがない。また、巻き付け角度にあわせて線材を引き出せば良いため、作業が容易である。
【0017】
また、挿通孔の形成方向を固定部材の面方向(面の法線方向)に対して斜めに形成し、線材の挿通方向と挿通孔の形成方向を略一致させることで、挿通孔の内径をより小さくすることができる。このため、よりコンパクトな端末構造を得ることができる。
【0018】
また、一つの挿通孔に対して複数本の線材が隙間をあけて挿通され、膨張材で固定されれば、挿通孔の数を減らすことができる。このため、よりコンパクトな固定部材とすることができる。したがって、よりコンパクトな端末構造を得ることができる。
【0019】
また、膨張剤がセメント膨張剤であり、加水により膨張が可能であれば、線材の固定作業性にも優れる、線材と固定部材とを膨張剤によって確実に固定することができる。
【0020】
第2の発明は、洋上設備用の海中ケーブルの端末固定方法であって、導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記海中ケーブルの軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、を具備し、電力用線心の端部に、固定部材を設け、前記固定部材の中央の孔に、前記電力用線心を挿通し、前記固定部材の前記中央の孔の外周側に形成され、周方向に複数併設されている線材挿通孔に対し、前記電力用線心の全体の外周に螺旋巻きされる巻き付け角度と略同一の角度で前記線材を挿通し、前記線材と前記線材挿通孔との間に膨張剤を充填し、前記線材を前記膨張剤によって前記線材挿通孔と接合することを特徴とする海中ケーブルの端末固定方法である。
【0021】
第2の発明によれば、線材を挿通孔に容易に挿通可能であり、作業性に優れ、極めて高い引き留め力で線材を固定することが可能な海中ケーブルの端末固定方方法を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より高い鎧装の引き留め力を確保することが可能な海中ケーブルの端末構造および海中ケーブルの端末固定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】海中ケーブル3の敷設状態を示す図。
【図2】海中ケーブル3を示す断面図。
【図3】端末構造30を示す断面図。
【図4】固定板35の正面図。
【図5】端末構造30の固定板35近傍の拡大図。
【図6】(a)は海中ケーブル3に対する鎧装23の引き出し状態を示す正面図、(b)は固定板側から見た図。
【図7】端末構造30aを示す断面図。
【図8】端末構造30bを示す断面図。
【図9】端末構造30cを示す断面図。
【図10】端末構造30dを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態にかかる海中ケーブル等について説明する。図1は海中ケーブル3の敷設状態を示す図である。洋上には、洋上浮体設備1が配置される。洋上浮体設備1は、たとえば浮体式洋上風力発電装置である。洋上浮体設備1は、洋上に浮いた状態であり、下部が海底に係留索11で固定される。
【0025】
例えば、複数の洋上浮体設備1が洋上に配置される。洋上浮体設備1は接続部5cで海中ケーブル3と接続される。また、海中ケーブル3同士は、海底に設置された接続部5aにおいて接続される。すなわち、それぞれの洋上浮体設備1同士は海中ケーブル3で接続される。
【0026】
また、海中ケーブル3の洋上浮体設備1と接続部5bとの間にはブイ9が接続される。すなわち、海中ケーブル3は、ブイ9によって海中で浮遊した状態となる。海中ケーブル3の詳細は後述する。
【0027】
地上側の海中ケーブル3は、海底に設置された接続部5aで海底ケーブル7と接続される。海底ケーブル7は海中ケーブル3と略同一の構成である。海底ケーブル7は地上の電力送電設備等と接続される。すなわち、洋上浮体設備1で発電された電気は、海中ケーブル3および海底ケーブル7によって地上に送電される。
【0028】
ここで、洋上浮体設備1は、洋上の波浪や、潮流等によって大きく揺動する。したがって、洋上浮体設備1と接続される海中ケーブル3は、洋上浮体設備1の揺動に追従し、海中で繰り返しの大きな曲げ変形を受ける。なお、海中ケーブル3は、ブイ9によって海中に浮遊するため、海底に引きずられることがなく、また、潮の満ち引きや海流に対して、海中ケーブル3に局所的な応力が付与されることが防止される。
【0029】
次に、海中ケーブル3の構造について説明する。図2は、海中ケーブル3の断面図である。海中ケーブル3は、主に電力用線心13、鎧装23a、23b、防食層25等から構成される。
【0030】
電力用線心13は、導体部15、絶縁部17、シールド層19、遮水層21等から構成される。導体部15は、例えば銅素線を撚り合わせて構成される。
【0031】
導体部15の外周部には、絶縁部17が設けられる。絶縁部17は、例えば架橋ポリエチレンで構成される。なお。絶縁部17は、内部半導体層、絶縁体層、外部半導体層の三層構造としてもよい。内部半導体層、絶縁体層、外部半導体層の三層構造とすることで、水トリー劣化抑制と、絶縁体と金属層との機械的緩衝層としての効果を得ることができる。
【0032】
例えば、導体と絶縁体、シールドと絶縁体とが直接接している場合において、接触界面に突起等があると、そこに電界が集中し、水トリーや部分放電の発生起点となる。そこで半導電の樹脂を間に挟むことにより、接触界面の電界を緩和することができる。なお、この内部および外部半導電層のことを「電界緩和層」と呼ぶこともある。
【0033】
また、内部半導体層や外部半導体層が無かった場合、導体やシールドの金属層が絶縁体に直接食い込む恐れがある。充電部である金属層が絶縁体に食い込むと、電界集中により部分放電発生が起こり、絶縁破壊の原因となる。このため、絶縁体と金属層の間に半導電の樹脂層を形成することでこのような問題を抑制することが可能となる。
【0034】
絶縁部17の外周には、シールド層19および遮水層21が設けられる。シールド層は、導電性部材により構成される。また、遮水層21は、例えば金属層と樹脂層が積層されて構成される。例えば、接着樹脂層とSUSテープ層と導電性樹脂層とからなるSUSラミネートテープがポリエチレン樹脂と積層されて形成される。
【0035】
このようにして構成される電力用線心13が、3相交流送電用に3本集合撚りされる。また、3本の電力用線心13を撚り合わせた後、隙間に樹脂紐等の介在物を配置して略円形のコアを形成する。得られたコアの外周に海中ケーブル3の荷重を支持する鎧装部が設けられる。
【0036】
鎧装部は、たとえば鎧装23a、23bの2層構造である。鎧装23a、23bは、例えば金属線(鋼線またはステンレス線)や繊維補強プラスチック製の線材である。鎧装部は、それぞれ周方向に併設された複数の鎧装23a、23bがコアの外周にロングピッチで隙間なく巻きつけられる。すなわち、鎧装23a、23bは、鎧装23a、23bの外径に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように形成される。なお、内周側の鎧装23aと外周側の鎧装23bは、コアの外周に互いに逆方向に螺旋巻きされる。
【0037】
鎧装部(鎧装23a、23b)の外周には、防食層25が設けられる。防食層25は、外部から水が内部に浸入することを防止し、外傷を防止するための層である。防食層25は、例えば樹脂製である。なお、必要に応じて、海中ケーブル3の内部には、光ケーブルなどの通信ケーブルを配置してもよい。
【0038】
次に、端末構造30について説明する。図3は端末構造30を示す軸方向断面図である。端末構造30は、海中ケーブル3に対し、パイプ27、フランジ29、31、固定板35等から構成される。なお、このような端末構造30は、図1に示した接続部5a、5b、5cのいずれにおいても適用可能である。
【0039】
海中ケーブル3はパイプ27内に挿通される。パイプ27の端部にはフランジ29が固定される。フランジ29はシール部材33を介してフランジ31と図示を省略したボルトおよびナット等で接続される。また、フランジ31には、図示を省略したボルトおよびナット等によって固定板35が接続される。
【0040】
図4は、固定部材である固定板35を示す正面図である。固定板35は、中央に孔41が設けられる。また、固定板35の中心に対して同心円状に複数の挿通孔37aが周方向に併設される。また、同様に、挿通孔37aの外周側には、固定板35の中心に対して同心円状に複数の挿通孔37bが周方向に併設される。なお、挿通孔37a、37bは固定板35を貫通する。
【0041】
図3に示すように、海中ケーブル3の端部において、最外層である防食層25が剥離され、内部の電力用線心13および外層23a、23bが引き出される。電力用線心13は、海中ケーブル3の軸方向と略同一方向にまっすぐに引き出され、孔41に挿通される。すなわち、孔41から電力用線心13が引き出される。なお、電力用線心13は、水密に保たれた固定板35の外部で、他の部材(例えば他の海中ケーブルから引き出された電力用線心)と接続される。
【0042】
鎧装23a、23bは、防食層25が剥離された部位から、海中ケーブル3に対し、やや径方向に広がるように引き出される。引き出された鎧装23a、23bの端部は、それぞれ挿通孔37a、37bに挿通される。
【0043】
図5は、固定板35近傍の拡大図である。前述の通り、挿通孔37a、37bには鎧装23a、23bが挿通される。固定板35の内面側(海中ケーブル3側であって、図中左側)には、挿通孔37a、37bを塞ぐように蓋部材43が設けられる。すなわち、鎧装23a、23bは、蓋部材43を貫通して挿通孔37a、37bに挿通される。
【0044】
挿通孔37a、37bの蓋部材43が設けられる側とは逆側の端部から、挿通孔37a、37bの内部に膨張剤39が充填される。膨張剤39は、加水することによる水和反応で膨張し、固結する物質であり、例えば生石灰および珪酸塩を主成分とする膨張剤が使用できる。膨張剤は、生石灰および珪酸塩を主成分とする粉末に水を加えてスラリー状とした状態で、対象部に流しこめば良い。膨張剤39としては、例えば太平洋マテリアル社製「EXGRIPPER」(登録商標)が適用可能である。
【0045】
膨張剤39が水和反応で膨張する際に、膨張剤39が鎧装23a、23bの表面および挿通孔37a、37bの内面に垂直な方向に膨張による膨張圧が付与される。膨張剤39は、膨張剤39が鎧装23a、23bの表面および挿通孔37a、37bの内面に対して膨張圧を生じた状態で固結する。
【0046】
なお、膨張圧力による鎧装23a、23bと固定板35との引き留め力は、例えば充填後20hで30MPa、100hで50〜70MPa程度となる。このため、鎧装23a、23bと膨張剤39との界面および膨張剤39と固定版35(挿通孔37a、37b)との界面に摩擦力を生じる。この摩擦力によって、鎧装23a、23bは固定板35に接合される。
【0047】
なお、摩擦力を大きくするために、膨張剤39の充填前にあらかじめ鎧装23a、23bの表面または挿通孔37a、37bの内面の少なくとも一方の表面に対して粗面化処理(ブラスト処理等)を施してもよい。鎧装23a、23bの表面または挿通孔37a、37bの内面にブラスト処理を行うと、鎧装23a、23bの表面または挿通孔37a、37bの内面に圧縮の残留応力が生じるので、これらの材料の引張力に対する抵抗を増加させることもできる。
【0048】
このように摩擦力を大きくすることで、膨張剤39の使用量を削減することもでき、固定板35も、より小さなものを使用することもできる。ここで、膨張剤39が設計通りの膨張圧を発揮するためには、膨張剤39に応じた所定の温度範囲で反応を進める必要がある。温度が低すぎると反応が進まないためである。一方、膨張剤39に水を加えると、当該膨張剤39は発熱する。しかし、膨張剤39が高温になり過ぎると、膨張剤39が挿通孔37a、37bから噴出する恐れがある。したがって、固定板35としては、膨張圧に耐えうる強度を確保するために最低限の肉厚が必要なだけでなく、温度を熱伝導により放熱させるのに必要な肉厚が要求される。
【0049】
次に、鎧装23a、23b(簡単のため以下鎧装23とする)の海中ケーブル3からの引き出し方法について説明する。図6(a)は、海中ケーブル3に巻きつけられていた鎧装23が、海中ケーブル3から引き出されて固定板35方向に引き出される状態を示す概略図である。
【0050】
前述したように、鎧装23は、海中ケーブル3の内部にロングピッチで螺旋巻きされる。すなわち、鎧装23は、海中ケーブル3のケーブル軸心45に対して、角度Aで巻きつけられる。
【0051】
海中ケーブル3の端部では、外部の防食層が剥離され、内部の鎧装23が露出し、固定板35の方向に引き出される。この際、鎧装23は、防食層が剥離された部位から、まっすぐに(ケーブル軸心45と平行に)引き出されるのではなく、ケーブル軸心45を中心に螺旋状に角度Bで引き出される。この際、鎧装23の巻き付け角度Aと、引き出し角度Bとは略一致する。すなわち、鎧装23は、巻き付け角度を保ったまま螺旋状に引き出される。
【0052】
また、鎧装23は、海中ケーブル3に対して径方向に広がるように引き出される。図6(b)は固定板35側から見た正面図である。すなわち、鎧装23は、海中ケーブル3のケーブル軸心45に対する巻き付け角度を保ちつつ、径方向に広がるように引き出される。このように、引き出された状態を保って径方向に、鎧装が広がることにより、ケーブル端末における各ケーブルに生じる応力のバランスを保ち、ケーブル端末近傍の各鎧装のねじれを防止できる。さらに、海中ケーブル3の端部における鎧装の引出し部の外周を、ポリエステル繊維やアリレート繊維あるいはポリアミド繊維製のテープを巻きつけて、防食層25の端部を保護することが望ましい。
【0053】
したがって、図5に示したように、鎧装23a、23bは、軸方向断面において挿通孔37a、37bに対して斜めに挿通される。すなわち、固定板35の内面側(海中ケーブル3側であって、図中左側)の位置よりも、固定板35の外面側(海中ケーブル3と逆側であって、図中右側)の位置が、固定板3の径方向外周側に位置する。
【0054】
以上、本実施の形態によれば、鎧装23a、23bが、膨張剤39によって固定板35に接合されるため、鎧装23a、23bをくさび部材等で固定する必要がない。また、鎧装23a、23bをくさび部材等で挟み込んだ際に局所的な傷の発生や応力集中が生じることがない。また、鎧装23a、23bは、海中ケーブル3の巻き付け角度を保った状態で引き出されるため、鎧装23a、23bに無理な力が付与されることがなく、作業も容易である。
【0055】
また、膨張剤39は、加水するのみで極めて短時間で膨張して固結するため、作業が容易で、作業時間も短縮可能である。また、膨張材39により高い引き留め力を確保することができる。
【0056】
次に、第2の実施の形態にかかる端末構造30aについて説明する。図7は、端末構造30aを示す図である。なお、以下の実施の形態においては、端末構造30と同様の機能を奏する構成については、図5等と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。端末構造30aは、端末構造30と略同様の構成であるが、挿通孔に対する鎧装の挿通態様が異なる。なお、図7では、挿通孔37bに対する鎧装23bの挿通状態について示すが、挿通孔37aに対する鎧装23aも同様の態様である(図示省略)。
【0057】
端末構造30aでは、一つの挿通孔37bに対して複数本の鎧装23bが挿通される。したがって、端末構造30aにおける個々の挿通孔37bのサイズは、端末構造30におけるものよりもやや大きい。挿通孔37b内では、それぞれの鎧装23b同士は隙間をあけて配置される。すなわち、挿通孔37b内では鎧装23b同士は接触しない。
【0058】
挿通孔37bに複数本の鎧装23bが挿通れた状態で膨張材39が充填される。この際、膨張材39は挿通孔37bの内面と鎧装23bの隙間と、鎧装23b同士の隙間に充填される。膨張剤39によって鎧装23bが固定板35に固定される。なお、挿通孔37bの形状は、長穴であってもよく、この場合、固定板35の径方向または周方向に長穴とすればよい。また、図示した例では、挿通孔37b内において、鎧装23bが径方向にずれて配置されるが、周方向にずらして配置してもよい。
【0059】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、一つの挿通孔37bに複数本の鎧装23bが挿通される。このため、鎧装23bの本数に対して、挿通孔37bの数を減らすことができる。したがって、固定板35をよりコンパクトにすることができる。この際、鎧装23b同士の間に隙間が形成される。このため、確実に鎧装23b同士の間に膨張材39を充填することができる。したがって、引き留め力を確実に確保することができる。
【0060】
次に、第3の実施の形態にかかる端末構造30bについて説明する。図8は、端末構造30bを示す図である。端末構造30bは、端末構造30と略同様の構成であるが、挿通孔の形状が異なる。
【0061】
端末構造30bでは、挿通孔37a、37bが、固定板35aの内面側(鎧装23a、23bが挿通される側であって、海中ケーブル側)から外面側向かって、拡径するように形成される。前述の通り、鎧装23a、23bは、海中ケーブルへの巻き付け角度にあわせて螺旋状に引き出されるとともに、径方向にやや広がるように引き出される。したがって、鎧装23a、23bは周方向および径方向それぞれに斜めに引き出される(図6(b))。
【0062】
図8の端末構造30bでは、固定板25aの内面側においては、挿通孔37a、37bの略中央にそれぞれの鎧装23a、23bが配置される。鎧装23a、23bは、挿通孔37a、37b内を斜めに挿通される。したがって、固定板35aの外面側においては、鎧装23a、23bは、挿通孔37a、37bの中心から径方向および周方向のいずれに対してもずれる。したがって、鎧装23a、23bの外面と挿通孔37a、37bの内面との距離が、位置によって異なる。
【0063】
しかし、端末構造30bでは、挿通孔37a、37bが拡径される。このため、固定板35aの外面側においても、鎧装23a、23bの外面と挿通孔37a、37bの内面との距離の最大位置と最小位置における距離の比を、まっすぐな穴(例えば図5に示す端末構造30)と比較して、小さくすることができる。すなわち、膨張剤39から付与される圧縮力の位置によるバランスに優れる。また、鎧装23a、23bと挿通孔37a、37bとが接触することを防止することができる。
【0064】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、挿通孔37a、37bと鎧装23a、23bとをより確実に固定することができる。また、膨張剤がくさび効果によって固定板35aから抜けることが無い。このため、より高い引き留め力を得ることができる。
【0065】
次に、第4の実施の形態にかかる端末構造30cについて説明する。図9は、端末構造30cを示す図である。端末構造30cは、端末構造30と略同様の構成であるが、挿通孔の形状が異なる。
【0066】
端末構造30cでは、挿通孔37a、37bが斜めに形成される。前述の通り、鎧装23a、23bは、海中ケーブルへの巻き付け角度にあわせて螺旋状に引き出されるとともに、径方向にやや広がるように引き出される。したがって、鎧装23a、23bは周方向および径方向それぞれに斜めに引き出される(図6(b))。
【0067】
端末構造30cでは、それぞれの鎧装23a、23bの挿通方向に沿って挿通孔37a、37bが形成される。したがって、挿通孔37a、37bの形成方向が、鎧装23a、23bの引き出し方向と略一致するように設けられる。なお、鎧装23a、23bの径方向への広がりは、鎧装23a、23bで多少異なる。このため、挿通孔37a、37bの径方向への形成角度は互いに多少異なっても良い。また、海中ケーブル3に対する鎧装23aおよび鎧装23bの巻き付け方向は、互いに逆方向となる。このため、挿通孔37aおよび挿通孔37bの周方向の形成方向は互いに反対方向となる。
【0068】
第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、挿通孔37a、37bの挿通方向に鎧装23a、23bが挿通される。このため、挿通孔37a、37bの径(固定板の端面における径)を小さくすることができる。したがって、コンパクト35をよりコンパクトにすることができる。また、挿通孔37a、37bの内面の膨張材との接触面積を大きくすることができる。このため、より高い引き留め力を得ることができる。
【0069】
次に、第5の実施の形態にかかる端末構造30dについて説明する。図10は、端末構造30dを示す図である。端末構造30dは、端末構造30cと略同様の構成であるが、ガイド板49が設けられる点で異なる。
【0070】
端末構造30dでは、固定板35bとフランジ31との間にガイド板49が設けられる。ガイド板49には、鎧装23a、23bを挿通可能な複数の孔47a、47bが形成される。前述の通り、鎧装23a、23bは、海中ケーブルへの巻き付け角度にあわせて螺旋状に引き出されるとともに、径方向にやや広がるように引き出される。したがって、鎧装23a、23bは周方向および径方向それぞれに斜めに引き出される(図6(b))。
【0071】
ガイド板49の孔47a、47bは、それぞれの鎧装23a、23bの挿通方向に沿って形成される。すなわち、孔47a、47bは、挿通孔37a、37bと略一直線上に形成される。したがって、孔47a、47bおよび挿通孔37a、37bの形成方向は、鎧装23a、23bの引き出し方向と略一致するように設けられる。なお、孔47aと孔47bのそれぞれの周方向の形成方向は、挿通孔37aと挿通孔37bの周方向の形成方向と同様に、互いに反対方向となる。
【0072】
孔47a、47bの孔径は、鎧装23a、23bが挿通可能な程度に鎧装23a、23bの外径よりもわずかに大きく形成される。したがって、孔47a、47bによって確実に鎧装23a、23bの位置および方向を規制することができる。すなわち、ガイド板の孔47a、47bによって鎧装23a、23bの位置および方向がずれることを防止することができる。
【0073】
また、孔47a、47bの孔径が鎧装23a、23bの外径よりもわずかに大きいのみであるため、孔47a、47bの内面と鎧装23a、23bの外面との間のクリアランスは極めて小さい。したがって、膨張剤39を充填する際に、膨張剤39が固定板35bの内面側に漏れ出すことが無い。
【0074】
また、固定板35bに固定された鎧装23a、23bが海中ケーブル方向に引張られた際に、固定板35bは、この鎧装23a、23bの引張力を受け止める。この際、ガイド板49の外面側が、固定板35bの内面側と面接触するため、固定板35bからの力をガイド板49で受けることができる。したがって、固定板35bの変形等を防止することができる。
【0075】
第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、ガイド板49を設けることで、鎧装23a、23bの位置決めを確実に行うことができる。また、ガイド板49の孔47a、47bと鎧装23a、23bとのクリアランスが小さいため、蓋部材43(図5等)を設けなくても、膨張剤39の固定板35bの内面側への漏れを防止することができる。また、ガイド板49によって、固定板35bの変形を防止し、より高い強度を得ることができる。
【0076】
なお、第5の実施形態において、端末構造30dでは、固定板35bの内面側にガイド板49を配置したが、本発明はこれに限られない。ガイド板49は、固定板35(図5)、固定板35a(図8)と組み合わせることもできる。なお、この場合には、孔47a、47bの形成方向は、総通孔37a、37bの形成方向と必ずしも一致せず、一直線状にはならないが、上述したガイド板49の効果はいずれの固定板と組み合わせても得ることができる。
【0077】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技
術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0078】
たとえば、各実施例は互いに組み合わせることができることは言うまでない。
【符号の説明】
【0079】
1………洋上浮体設備
3………海中ケーブル
5a、5b、5c………接続部
7………海底ケーブル
9………ブイ
11………係留索
13………電力用線心
15………導体部
17………絶縁部
19………シールド層
21………遮水層
23、23a、23b………鎧装
25………防食層
27………パイプ
29………フランジ
30、30a、30b………端末構造
31………フランジ
33………シール部材
35、35a………固定板
37a、37b………挿通孔
39………膨張剤
41………孔
43………蓋部材
45………ケーブル軸心
47a、47b………孔
49………ガイド板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上浮体設備用の海中ケーブルの端末構造であって、
導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、
複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記電力用線心の軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、
前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、
を具備し、
前記海中ケーブルの端部において、固定部材が設けられ、
前記固定部材の中央の孔には、前記電力用線心が挿通され、
前記固定部材の前記中央の孔の外周側には、複数の線材挿通孔が周方向に併設されており、
前記線材挿通孔には、前記線材が挿通され、前記線材と前記線材挿通孔との間には膨張剤が充填され、前記線材は、前記膨張剤によって前記固定部材と接合されることを特徴とする海中ケーブルの端末構造。
【請求項2】
前記線材は、前記固定部材の前記線材挿通孔に対して、前記電力用線心の全体の外周に螺旋巻きされる巻き付け角度と略同一の角度で挿通されることを特徴とする請求項1記載の海中ケーブルの端末構造。
【請求項3】
前記線材挿通孔は、前記固定部材の面方向に対して斜めに形成され、前記固定部材に対する前記線材の挿通方向と、前記固定部材に対する前記線材挿通孔の形成方向が略一致することを特徴とする請求項2記載の海中ケーブルの端末構造。
【請求項4】
前記線材挿通孔は、前記固定部材の線材が挿入される面側から、他方の面側に向かって拡径するように形成されることを特徴とする請求項2記載の海中ケーブルの端末構造。
【請求項5】
一つの前記線材挿通孔に対し、複数本の前記線材が互いに隙間をあけて挿通され、前記膨張剤によって前記線材挿通孔に接合されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の海中ケーブルの端末構造。
【請求項6】
前記膨張剤は、セメント膨張剤であり、加水による水和反応時に膨張し、
前記膨張剤によって、前記線材の表面と前記線材挿通孔の内面に対して膨張圧が付与されることにより、前記膨張剤と、前記線材の表面および前記線材挿通孔の内面との摩擦によって前記線材と前記線材挿通孔とが接合されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の海中ケーブルの端末構造。
【請求項7】
洋上設備用の海中ケーブルの端末固定方法であって、
導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、
複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記海中ケーブルの軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、
前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、
を具備し、
海中ケーブルの端部に、固定部材を設け、
前記固定部材の中央の孔に、前記電力用線心を挿通し、
前記固定部材の前記中央の孔の外周側に形成され、周方向に複数併設されている線材挿通孔に対し、前記電力用線心の全体の外周に螺旋巻きされる巻き付け角度と略同一の角度で前記線材を挿通し、
前記線材と前記線材挿通孔との間に膨張剤を充填し、前記線材を前記膨張剤によって前記線材挿通孔と接合することを特徴とする海中ケーブルの端末固定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−38940(P2013−38940A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173683(P2011−173683)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】