説明

海中汚損生物付着防止剤

本発明は、魚介類や人体に対する安全性が高い、カレキグサに由来する海中汚損生物に対する付着防止剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、海藻類、特にカレキグサ等の紅藻類から抽出されるエゾバフンウニのようなウニに対する摂餌阻害や忌避活性を有する抽出物に関する。
海藻類は自らの生存のため、多様な防衛機能を有しており、他の動植物との競合及び補食に対抗するために、接触阻害物質等の他感作用物質(アレロケミカルス)を産生し、含有することが示唆されている。今までに海藻類に由来する生理活性物質がいくつか発見されてきているが、陸上植物に比べて未知の部分が多く残されている。
さらに、ウニ等の食植動物の接触行動を阻害する物質は知られているが、忌避行動を誘起する化学物質は知られていない。
海藻から得られたウニに対する摂餌刺激物質としては、DGDGやSQDGといった複合脂質が知られており(K.Sakata et al.,(1991),Bull.Japan Soc.Sci.Fish,57(2)261−265)、これらの物質は全ての海藻に共通して含まれている。
また、海藻に含まれる海産植食動物の摂餌阻害物質としては、テルペン化合物(K.Kurata et al.,(1990),Phytochemistry,29,3453−3455;K.Kurata et al.,(1996),Phytochemistry,41,749−752;K.Kurata et al.,(1998),Phytochemistry,47,363−369)やフェノール化合物(谷口和也ら(1991),日本水産学会誌,57,2065−2072;K.Kurata et al.,(1997),Phytochemistry,45,485−487)が知られている。
これまでの研究では、海藻からウニの摂餌行動を阻害する物質は知られているが、ウニに対して忌避行動を誘起する物質は報告されていない。
一方、北海道東部では、アイヌワカメ、スジメ、カレキグサ、ヒバマタ等の海藻が天然に生育し、大量に採取可能であるが、食用に適さないこと等から、資源としては活用されていなかった。
したがって、本発明の目的は、北海道東部に分布し、かつ、利用されていない海藻種に由来する有用な生理活性を示す活性物質を分離・精製し、海中汚損生物に対する付着防止剤を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意探索を行った結果、紅藻カレキグサ(Tichocarpus crinitus(Gmelin)Ruprecht)の抽出物にエゾバフンウニに対する摂食阻害作用や忌避行動作用があることを発見するとともに、それらの活性物質を分離・精製し、その構造を明らかにして本発明を完成させた。
【発明の開示】
本発明は、下記式:

及び/又は

の化合物に関する。
また、本発明は、上記化合物を含む、海中汚損生物に対する付着防止剤に関する。
また、本発明は、下記式:

及び/又は

の化合物を含む、海中汚損生物に対する付着防止剤にも関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、カレキグサ抽出物(有機層)の詳細な精製方法である。
第2図は、カレキグサ抽出物(水層)の詳細な精製方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の化合物は、化学的に合成するか、又は海藻類から抽出することができる。
本発明で用いる海藻としては、カレキグサ等を挙げることができる。採集した海藻を乾燥してからメタノールに浸漬して抽出する方法もあるが、採集した海藻を水切り後に直ぐメタノールに浸漬して抽出することが好ましい。抽出温度は、好ましくは室温(約20℃)であり、抽出時間は、好ましくは1週間である。抽出操作は、1回でもよいが、2回とするとより多くの抽出物を得ることができる。メタノール抽出物の濃縮は、湯浴の温度を20〜25℃に設定し、減圧下で行うことができる。減圧濃縮後、残渣をクロロホルム/メタノール/水で分配して得られた溶性画分から本発明の化合物を分離・精製することができる。
本発明の海中汚損生物に対する付着防止剤は、そのまま使用する形態、あるいは、ハイドロゲルのようなゲル、塗料、溶液、乳剤などの形に調製することができる。また、本発明の海中汚損生物に対する付着防止剤には、必要に応じ、増粘剤、可塑剤、着色料等を配合することができる。
【実施例】
1.カレキグサからの活性物質の抽出及び活性測定
道東沿岸に生育する海藻のなかで、ウニ類が餌料として好まないカレキグザを対象種とした。両海藻種とも北海道釧路市桂恋沿岸にて採集し、抗菌活性等の試験に用いた。また、ウニがほとんど摂餌しないカレキグサについて、摂餌阻害・忌避物質の抽出・分離を試みた、
(1)カレキグサから活性物質の抽出と活性試験
新鮮カレキグサをメタノールおよび60%メタノールに24時間浸漬し、それぞれ粗抽出液を得た。得られたメタノール粗抽出液および60%メタノール抽出液はそれぞれ定法により有機層と水層に分け、生物試験に用いた。それぞれの試料を減圧濃縮し、次いでゲルろ過によるカラムクロマトグラフィを行ない、有機層ではA−Fの6画分に、水層ではTCa〜TCdの4画分に分画し、エゾバフンウニに対する摂餌試験に供した(図1及び2)。
摂餌試験には殼径15〜20mmのエゾバフンウニを用い、水溶性の物質に応用出来るようアビセル板法(K.Sakata et al.,(1991),Bull.Japan Soc Sci.Fish,57(2)261−265)を一部改変して行なった。
また、摂餌試験とは別に、カレキグサ抽出液を用いて、エゾバフンウニの忌避行動の観察を行なった。新鮮藻体25gを滴過滅菌海水50mlとともにホモジネート・ろ過して抽出液とした。実験は、供試ウニ(殻径15−20mm)近傍1cmのところに、海藻抽出液を満たしたパスツールピペットの先端を近づけ、拡散する抽出液に対するウニの行動を目視で観察した。
(2)摂餌阻害活性
エゾバフンウニに対する摂餌試験の結果、カレキグサ抽出有機層では摂餌阻害活性が全く認められず、摂餌刺激物質の存在が示された。
一方、カレキグサ抽出水層とそのクロマトグラフィー画分で、ウニに対して摂餌阻害活性が認められた。海藻に含まれる海産植食動物の摂餌阻害物質として、テルペン化合物やフェノール化合物が知られている。しかし、今回の活性画分は水層に含まれており、フェノール試薬によく反応したことからフェノール化合物の可能性が高いと考えられた。
そこで、摂餌阻害活性を示したカレキグサの水溶性部を各種クロマトグラフィーで分離を行い、下記4種類の活性物質が得られた。活性物質の構造は、NMRやMSスペクトルから推定した。


(3)忌避行動活性
忌避行動試験において、エゾバフンウニは、カレキグサの抽出液を満たしたパスツールピペットの先端から拡散する抽出液から遠ざかる忌避行動を示した。
【産業上の利用可能性】
本発明は、魚介類や人体に対する安全性が高い、カレキグサに由来する海中汚損生物に対する付着防止剤を提供する。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:

及び/又は

の化合物。
【請求項2】
請求の範囲第1項記載の化合物を含む、海中汚損生物に対する付着防止剤。
【請求項3】
下記式:

及び/又は

の化合物を含む、海中汚損生物に対する付着防止剤。
【請求項4】
海中汚損生物が、ウニである、請求の範囲第1項又は第2項記載の海中汚損生物に対する付着防止剤。

【国際公開番号】WO2004/067501
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567545(P2004−567545)
【国際出願番号】PCT/JP2003/000979
【国際出願日】平成15年1月31日(2003.1.31)
【出願人】(399100293)歯舞漁業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】