説明

海洋温度差発電装置及び低温液体輸送船

【課題】装置コストを削減でき、且つ海域や季節に関係なく安定的に電力を得られる海洋温度差発電装置を提供する。
【解決手段】海洋表層から温海水を汲み上げる温海水ポンプと、温海水との熱交換によって液相作動流体を気相作動流体に相変換させる第1の熱交換器と、外部から供給される低温液体との熱交換によって温海水を冷海水に変換させる第2の熱交換器と、気相作動流体によって回転駆動されるタービンと、タービンに軸結合された発電機と、冷海水との熱交換によってタービンの駆動に使用された気相作動流体を液相作動流体に相変換させる第3の熱交換器と、第3の熱交換器から得られる液相作動流体を前記第1の熱交換器へ圧送する作動流体ポンプとによって海洋温度差発電装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋温度差発電装置及び低温液体輸送船に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、海洋温度差発電装置とは、海洋表層の温海水と海洋深層の冷海水との温度差を利用して発電を行う装置である。例えば下記特許文献1には、海洋表層から汲み上げられた温海水との熱交換によって低沸点の液相作動流体を蒸発させ、蒸発後の気相作動流体を利用してタービン発電機を回転させて発電を行い、海洋深層から汲み上げられた冷海水との熱交換によって発電に利用された気相作動流体を凝縮(液相化)させ、再度、温海水との熱交換に使用する海洋温度差発電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−340342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の海洋温度差発電装置は、以下のような問題点があった。
(1)水深600〜1000mの海洋深層から冷海水を汲み上げるために、長大な冷水取水管や大型ポンプが必要となり、装置コストの上昇を招いていた。
【0005】
(2)海洋温度差発電装置の発電効率は、温海水と冷海水との温度差が20°C程度の場合に最大となることが知られているが、この条件にあてはまる海域はハワイ周辺海域や南太平洋等の孤立した海域に限定されるため、装置の設置海域によって所望の電力が得られないことがあった。また、温海水と冷海水との温度差は季節によって変動するため、年間を通じて安定的に電力を得ることが困難であった。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、装置コストを削減でき、且つ海域や季節に関係なく安定的に電力を得られる海洋温度差発電装置、及びこれを備えた低温液体輸送船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、海洋温度差発電装置に係る第1の解決手段として、海洋表層から温海水を汲み上げる温海水ポンプと、前記温海水との熱交換によって液相作動流体を気相作動流体に相変換させる第1の熱交換器と、外部から供給される低温液体との熱交換によって前記温海水を冷海水に変換させる第2の熱交換器と、前記気相作動流体によって回転駆動されるタービンと、前記タービンに軸結合された発電機と、前記冷海水との熱交換によって前記タービンの駆動に使用された気相作動流体を液相作動流体に相変換させる第3の熱交換器と、前記第3の熱交換器から得られる液相作動流体を前記第1の熱交換器へ圧送する作動流体ポンプと、を具備することを特徴とする。
【0008】
また、本発明では、海洋温度差発電装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記第1の熱交換器に供給される前記温海水の温度を計測する第1の温度計と、前記第3の熱交換器に供給される前記冷海水の温度を計測する第2の温度計と、前記第1及び第2の温度計から得られる温度計測結果に基づいて、前記温海水と前記冷海水との温度差が最大発電効率を得られる目標温度差となるように、前記第2の熱交換器に対する前記低温液体の供給量を制御する制御装置と、をさらに具備することを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、海洋温度差発電装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記低温液体は、液化天然ガス或いは液化石油ガスであることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明では、低温液体輸送船に係る解決手段として、低温液体を輸送する低温液体輸送船において、前記低温液体を貯蔵する低温液体タンクと、上記第1〜第3のいずれかの解決手段を有する海洋温度差発電装置と、を具備し、前記海洋温度差発電装置の前記第2の熱交換器には、前記低温液体タンクから前記低温液体が供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る海洋温度差発電装置によれば、外部から供給される低温液体を利用して冷海水を生成するため、海洋深層から冷海水を汲み上げるための長大な冷水取水管や大型ポンプが不要となり、装置コストの削減を図ることができる。また、本発明に係る海洋温度差発電装置によれば、例えばLNG等の低温液体を輸送する低温液体輸送船に搭載することで、海上を自由に移動しながら発電を行うことができるようになるため、海域や季節に依存せずに安定的に電力を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態における海洋温度差発電装置3を備えたLNG輸送船1(低温液体輸送船)の構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における海洋温度差発電装置3を備えたLNG輸送船1(低温液体輸送船)の構成概略図である。本実施形態におけるLNG輸送船1は、低温液体としてLNG(液化天然ガス)を輸送する船舶であり、LNGを貯蔵するLNGタンク2(低温液体タンク)と、海水の温度差を利用して発電を行う海洋温度差発電装置3とを備えている。なお、図1において、実線矢印は流体(液相、気相を含む)の流れを示し、点線矢印は電気信号の流れを示している。
【0014】
海洋温度差発電装置3は、温海水ポンプ11、12と、第1の熱交換器13と、第2の熱交換器14と、LNGポンプ15と、タービン16と、発電機17と、第3の熱交換器18と、作動流体ポンプ19と、第1の温度計20と、第2の温度計21と、マイコン22とを備えている。
【0015】
温海水ポンプ11、12は、海洋表層から温海水Xを汲み上げ、一定流量で第1の熱交換器13及び第2の熱交換器14に供給する。なお、図1では、2つの温海水ポンプ11、12を用いて温海水Xを汲み上げる構成を図示しているが、1つの温海水ポンプによって温海水Xを汲み上げて、第1の熱交換器13と第2の熱交換器14とに分岐供給する構成を採用しても良い。
【0016】
第1の熱交換器13は、温海水ポンプ11によって汲み上げられた温海水Xと、後述の作動流体ポンプ19から供給される低沸点の液相作動流体Y(例えばフロンやアンモニア、或いはアンモニアと水の混合液等)との熱交換によって液相作動流体Yを蒸発させ、該液相作動流体Yを気相作動流体Y’に相変換させる。なお、この第1の熱交換器13によって生成された気相作動流体Y’はタービン16に供給され、熱交換に使用された温海水Xは海に排水される。
【0017】
第2の熱交換器14は、温海水ポンプ12によって汲み上げられた温海水Xと、LNGタンク2からLNGポンプ15を介して供給されるLNGとの熱交換によって温海水Xを冷却し、該温海水Xを冷海水X’に変換させる。なお、この第2の熱交換器14によって生成された冷海水X’は第3の熱交換器18に供給され、熱交換に使用されたLNGはLNGタンク2に返送される。
【0018】
LNGポンプ15は、マイコン22から入力されるポンプ制御信号S1に応じて動作するポンプであり、マイコン22による制御の下、LNGタンク2からLNGを吸い出し、マイコン22から指示された流量でLNGを第2の熱交換器14に圧送する。
【0019】
タービン16は、第1の熱交換器13から供給される高圧の気相作動流体Y’によって回転駆動される。なお、タービン16の駆動に使用された気相作動流体Y’は第3の熱交換器18に送出される。発電機17は、タービン16に軸結合されており、該タービン16の回転に伴って発電を行う。なお、発電機17によって得られた電力は不図示のリチウムイオンバッテリやニッケル水素バッテリ等の二次電池に蓄えられる。
【0020】
第3の熱交換器18は、第2の熱交換器14から供給される冷海水X’と、タービン16から供給される気相作動流体Y’との熱交換によって気相作動流体Y’を凝縮させ、気相作動流体Y’を液相作動流体Yに相変換させる。なお、この第3の熱交換器18によって生成された液相作動流体Yは作動流体ポンプ19に送出され、熱交換に使用された冷海水X’は海に排水される。作動流体ポンプ19は、第3の熱交換器18から得られる液相作動流体Yを、一定流量で第1の熱交換器13へ圧送する。
【0021】
第1の温度計20は、第1の熱交換器13に供給される温海水Xの温度T1を計測し、その計測結果を示す温海水温度信号S2をマイコン22に出力する。第2の温度計21は、第3の熱交換器18に供給される冷海水X’の温度T2を計測し、その計測結果を示す冷海水温度信号S3をマイコン22に出力する。
【0022】
マイコン22は、第1の温度計20から入力される温海水温度信号S2と第2の温度計21から入力される冷海水温度信号S3とに基づいて、温海水Xと冷海水X’との温度差(T1−T2)が最大発電効率を得られる目標温度差(例えば20°C)となるように、LNGポンプ15を制御して第2の熱交換器14に対するLNGの供給量を制御する。これらのLNGポンプ15及びマイコン22は、本発明における制御装置を構成するものである。
【0023】
次に、上記のように構成されたLNG輸送船1、特に海洋温度差発電装置3の発電動作について説明する。
まず、LNG輸送船1は海上を自由に航行できるため、海洋表層の温海水Xが18°C〜30°C程度の海域にLNG輸送船1を移動させる。このような海域にLNG輸送船1が到着した後、海洋温度差発電装置3の温海水ポンプ11、12、LNGポンプ15及び作動流体ポンプ19が作動する。各ポンプの作動により、海洋表層から温海水Xが汲み上げられて第1の熱交換器13及び第2の熱交換器14に供給されると共に、液相作動流体Yが第1の熱交換器13に供給され、LNGタンク2からLNGが第2の熱交換器14に供給される。
【0024】
第1の熱交換器13に供給された液相作動流体Yは、温海水Xとの熱交換によって気相作動流体Y’に相変換された後、タービン16に供給されて該タービン16を回転駆動する。これにより、発電機17は発電を開始する。一方、第2の熱交換器14に供給された温海水Xは、LNGとの熱交換によって冷海水X’に変換された後、第3の熱交換器18に供給される。そして、タービン16の駆動に使用された気相作動流体Y’は、第3の熱交換器18における冷海水Y’との熱交換によって液相作動流体Yに再変換された後、作動流体ポンプ19によって第1の熱交換器13へ再送されて1サイクルが終了する。
【0025】
このような発電サイクルが繰り返される間、マイコン22は、第1の温度計20から入力される温海水温度信号S2と第2の温度計21から入力される冷海水温度信号S3とに基づいて、温海水Xと冷海水X’との温度差(T1−T2)を常にモニタリングしており、この温度差が最大発電効率を得られる目標温度差(例えば20°C)となるように、LNGポンプ15を制御して第2の熱交換器14に対するLNGの供給量を制御している。
【0026】
具体的には、マイコン22は、温海水Xと冷海水X’との温度差が目標温度差より小さい場合、第2の熱交換器14に対するLNGの供給量を増加させ、また、温海水Xと冷海水X’との温度差が目標温度差より大きい場合、第2の熱交換器14に対するLNGの供給量を減少させることにより、温海水Xと冷海水X’との温度差を目標温度差に一致させる。これにより、発電機17は常に最大の発電効率で発電を行うため、海洋温度差発電装置3から最大限の電力を得ることができるようになる。
【0027】
以上のように、本実施形態の海洋温度差発電装置3によれば、外部から供給されるLNGを利用して冷海水X’を生成するため、海洋深層から冷海水を汲み上げるための長大な冷水取水管や大型ポンプが不要となり、装置コストの削減を図ることができる。また、本実施形態の海洋温度差発電装置3によれば、LNGを輸送するLNG輸送船1に搭載することで、海上を自由に移動しながら発電を行うことができるようになるため、海域や季節に関係なく常に最大発電効率で安定的に電力を得ることができる。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。例えば、上記実施形態では、温海水Xから冷海水X’を生成するための低温液体としてLNGを使用する場合を例示したが、本発明はこれに限らず、LPG(液化石油ガス)など、他の低温液体を使用しても良い。
【0029】
また、上記実施形態では、海洋温度差発電装置3をLNG輸送船1に搭載する場合を例示したが、例えば海岸に建設されたLNG受入基地内に海洋温度差発電装置3を設け、LNG受入基地内のLNGタンクから海洋温度差発電装置3へLNGの供給を行っても良い。つまり、本発明に係る海洋温度差発電装置は、温海水と低温液体を得られる場所であれば、どのような場所にも設置することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…LNG輸送船、2…LNGタンク、3…海洋温度差発電装置、11、12…温海水ポンプ、13…第1の熱交換器、14…第2の熱交換器、15…LNGポンプ、16…タービン、17…発電機、18…第3の熱交換器、19…作動流体ポンプ、20…第1の温度計、21…第2の温度計、22…マイコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋表層から温海水を汲み上げる温海水ポンプと、
前記温海水との熱交換によって液相作動流体を気相作動流体に相変換させる第1の熱交換器と、
外部から供給される低温液体との熱交換によって前記温海水を冷海水に変換させる第2の熱交換器と、
前記気相作動流体によって回転駆動されるタービンと、
前記タービンに軸結合された発電機と、
前記冷海水との熱交換によって前記タービンの駆動に使用された気相作動流体を液相作動流体に相変換させる第3の熱交換器と、
前記第3の熱交換器から得られる液相作動流体を前記第1の熱交換器へ圧送する作動流体ポンプと、
を具備することを特徴とする海洋温度差発電装置。
【請求項2】
前記第1の熱交換器に供給される前記温海水の温度を計測する第1の温度計と、
前記第3の熱交換器に供給される前記冷海水の温度を計測する第2の温度計と、
前記第1及び第2の温度計から得られる温度計測結果に基づいて、前記温海水と前記冷海水との温度差が最大発電効率を得られる目標温度差となるように、前記第2の熱交換器に対する前記低温液体の供給量を制御する制御装置と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の海洋温度差発電装置。
【請求項3】
前記低温液体は、液化天然ガス或いは液化石油ガスであることを特徴とする請求項1または2に記載の海洋温度差発電装置。
【請求項4】
低温液体を輸送する低温液体輸送船であって、
前記低温液体を貯蔵する低温液体タンクと、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の海洋温度差発電装置と、を具備し、
前記海洋温度差発電装置の前記第2の熱交換器には、前記低温液体タンクから前記低温液体が供給されることを特徴とする低温液体輸送船。

【図1】
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