説明

海洋生物の付着を抑制する方法およびシステム、および、水の塩素濃度を減少させる方法およびシステム

【課題】海洋生物を含有する水を用いて熱交換対象設備と熱交換するにあたり塩素系薬剤を熱交換のための水に注入した後に、COマイクロバブルを注入することによって、熱交換対象設備から放出する水の残留塩素濃度を低く抑えながら、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法およびシステムを提供すること。また、COマイクロバブルを注入することによって、塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させる方法およびシステムを提供すること。
【解決手段】熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法として、海洋生物を含有する水を、熱交換対象設備に供給する工程と、供給された水を用いて、熱交換対象設備と熱交換する工程と、熱交換対象設備と熱交換後の水を、熱交換対象設備から放出する工程と、海洋生物を含有する水、供給された水、及び、熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素系薬剤を注入する工程と、塩素系薬剤を注入された水に、COマイクロバブルを注入する工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COマイクロバブルを注入することにより熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法およびシステム、および、COマイクロバブルと混合することにより水の残留塩素濃度を減少させる方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水として海水を利用する火力発電所や原子力発電所などの発電プラントにおいては、海から海水を取り入れて復水器に供給する取水路や、復水器を通った海水を海へ放出するための放水路の内部に、フジツボ類やイガイ類をはじめとする貝等の海洋生物が付着し易い。海洋生物の付着量が多くなると、冷却水の流路が塞がれて冷却性能が低下するなどの不具合を招くおそれがある。そこで、従来から、例えば、特許文献1〜5に開示されるように、次亜塩素酸ナトリウム溶液や二酸化塩素などの塩素系薬剤を冷却水に注入することにより、冷却水流路への海洋生物の付着を抑制することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−265867号公報
【特許文献2】特開平11−37666号公報
【特許文献3】特開2005−144212号公報
【特許文献4】特開2005−144213号公報
【特許文献5】特開2005−244214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のように、発電プラントにおいて冷却水として利用された後の海水は海へと放出され、冷却水に注入された塩素系薬剤も一緒に海へと放出されてしまうことから、環境保全のために、海へと放出される冷却水に含まれる残留塩素濃度は、一定の協定値以下であることが要求される。従って、海洋生物を除去するための塩素系薬剤の注入量も、上記の要求を満足できるように制限しなければならず、この制限の範囲内で十分な除去効果を得ることは容易でなかった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、海洋生物を含有する水を用いて熱交換対象設備と熱交換するにあたり、塩素系薬剤を熱交換のための水に注入した後に、COマイクロバブルを注入することによって、熱交換対象設備から放出する水の残留塩素濃度を低く抑えながら、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法およびシステムを提供することを目的とする。
また、本発明は、COマイクロバブルと混合することによって、塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させる方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法は、海洋生物を含有する水を、熱交換対象設備に供給する工程と、前記供給された水を用いて、前記熱交換対象設備と熱交換する工程と、前記熱交換対象設備と熱交換後の水を、前記熱交換対象設備から放出する工程と、前記海洋生物を含有する水、前記供給された水、及び、前記熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素系薬剤を注入する工程と、前記塩素系薬剤を注入された水に、COマイクロバブルを注入する工程とを含む。
【0007】
本発明によれば、塩素系薬剤を熱交換のための水に注入することによって、注入された水に含まれる海洋生物が熱交換水流路に付着するのを抑えることができる。さらに、塩素系薬剤を注入された水にCOマイクロバブルを注入することによって、この水の塩素濃度を減少させることができるので、塩素系薬剤によって海洋生物の付着を抑えた後に、熱交換のための水の残留塩素濃度を減らすことが可能となるため、環境への負荷を軽減しながら、熱交換のための水を熱交換対象設備から放出することができる。
【0008】
ここで、熱交換対象設備は特に限定されないが、例えば、火力発電所などの発電プラントが備える、復水器やLNG(液化天然ガス)気化器であっても良い。
海洋生物の種類は特に限定されないが、例えば、フジツボ類やイガイ類などの貝類であっても良く、これらの中でもフジツボ類の幼生であることがより好ましい。
また、ここでいうCOマイクロバブルとは、発生時における粒径が5μm〜50μmである二酸化炭素の気泡をいう。COマイクロバブルを発生させる方法は特に限定されないが、例えば、エジェクタ型、ベンチュリー型、ラインミキサー型、加圧溶解型、旋回流型、または、キャビテーション型のマイクロバブル発生装置を使用して、発生させることができる。
【0009】
塩素系薬剤は、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制することができれば特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素、または、塩素であっても良い。
【0010】
COマイクロバブルを注入した水のpHは特に限定されないが、例えば、8.1以下であっても良い。
【0011】
海洋生物を含有する水の種類は特に限定されないが、例えば、海水であっても良い。
【0012】
本発明に係る塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させる方法は、前記塩素系薬剤を含有する水と、COマイクロバブルとを混合する工程を含む。
【0013】
本発明によれば、COマイクロバブルと混合することによって、塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させることができる。
塩素系薬剤は、海洋生物を含有する水に注入することによって、海洋生物が熱交換水流路へ付着するのを防ぐために使われたり、飲料水に注入することによって、飲料水に含まれる微生物を殺菌するために使われたりしているが、本発明によって、例えば、これらの塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させることが可能となる。
【0014】
塩素系薬剤を含有する水とCOマイクロバブルとを混合する方法は、水中において、塩素系薬剤とCOマイクロバブルとを接触させる方法であれば、特に限定されない。例えば、塩素系薬剤を含有する水にCOマイクロバブルを注入しても良く、塩素系薬剤を含有する水にCOマイクロバブルを含有する水などを注入しても良く、または、COマイクロバブルを含有する水などに塩素系薬剤を注入しても良い。
【0015】
塩素系薬剤は、特に限定されないが、例えば、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するためや、飲料水に含まれる微生物の殺菌のために用いられる、次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素、または、塩素であっても良い。
【0016】
COマイクロバブルと混合した水のpHは特に限定されないが、例えば、8.1以下であっても良い。
【0017】
一方、本発明に係る熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するシステムは、海洋生物を含有する水を、熱交換対象設備に供給するための供給装置と、前記供給された水を用いて、前記熱交換対象設備と熱交換するための熱交換器と、前記熱交換対象設備と熱交換後の水を、前記熱交換対象設備から放出するための放出装置と、前記海洋生物を含有する水、前記供給された水、及び、前記熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素系薬剤を注入するための薬剤注入装置と、前記塩素系薬剤を注入された水に、COマイクロバブルを注入するためのマイクロバブル注入装置とを備える。
【0018】
また、塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させるシステムは、前記塩素系薬剤を含有する水と、COマイクロバブルとを混合するためのマイクロバブル混合装置を備える。
【0019】
これらのシステムにおける塩素系薬剤は、特に限定されないが、例えば、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するためや、飲料水に含まれる微生物の殺菌のために用いられる、次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素、または、塩素であっても良い。また、海水を電気分解することにより得られる塩素または次亜塩素酸ナトリウムでも良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、海洋生物を含有する水を用いて熱交換対象設備と熱交換するにあたり塩素系薬剤を熱交換のための水に注入した後に、COマイクロバブルを注入することによって、熱交換対象設備から放出する水の塩素濃度を低く抑えながら、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法およびシステムを提供することができる。
また、COマイクロバブルと混合することによって、塩素系薬剤を含有する水の塩素濃度を減少させる方法およびシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態として説明する、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するシステムの全体構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における、取水路、放水路、LNG気化器流路、および、復水器流路からなる、熱交換水流路を、模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における、薬剤注入装置の詳細構成を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における、薬剤注入管が供える薬剤注入口の構成例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における、薬剤注入管が供える薬剤注入口の別の構成例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態における、COマイクロバブル注入装置の詳細構成を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における、人工海水に対する、エアーストーンによるCO供給時の残留塩素濃度減少効果を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態における、人工海水に対する、エアーマイクロバブル供給時の残留塩素濃度減少効果を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態における、人工海水に対する、COマイクロバブル供給時の残留塩素濃度減少効果を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態におけるエアーストーンによるCO供給時の遊離残留塩素濃度減少効果を示す図(1回目:初期濃度0.28mg/L)である。
【図11】本発明の一実施形態における、エアーストーンによるCO供給時の遊離残留塩素濃度減少効果を示す図(2回目:初期濃度0.51mg/L)である。
【図12】本発明の一実施形態における、COマイクロバブル供給時の遊離残留塩素濃度減少効果を示す図(1回目:初期濃度0.26mg/L)である。
【図13】本発明の一実施形態における、COマイクロバブル供給時の遊離残留塩素濃度減少効果を示す図(2回目:初期濃度0.51mg/L)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0023】
==本発明に係る熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するシステムの構成==
図1は、本発明の一実施形態として説明する、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するシステムの全体構成を示す図である。図1に示すように、本発明に係る、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するシステム(以下、単に「システム」と称する。)100は、海2に面する敷地に建設された火力発電所10を備える。火力発電所10は、燃料貯蔵設備12、LNGタンク14、発電設備16、LNG気化器17、取水路20、および、放水路22などを備える。
【0024】
発電設備16は、さらに、復水器18Aおよび18Bを備える。復水器18Aおよび18Bは、蒸気原動機に連結し、蒸気を凝結させるとともに高い真空を作り、蒸気の膨張作用を助ける装置である。復水器18Aおよび18Bにおいて水蒸気を冷却して凝結させるために、復水器18Aおよび18Bは、冷却水が通る熱交換水流路として、復水器流路29Aおよび29Bを備える。なお、復水器18Aおよび18Bとして、冷却水が復水器流路29Aおよび29Bの内部を通る表面復水器を図示しているが、冷却水を復水器内部に直接導入し、冷却水と蒸気とを混合する直接接触復水器であっても良い。
【0025】
LNG気化器17は、LNGを熱交換で気化させる装置である。LNG気化器17においてLNGを加温して気化させるために、LNG気化器17は、さらに、加温の熱源となる水が通る熱交換水流路として、LNG気化器流路27を備える。
【0026】
取水路20は、取水された熱交換のための水を、熱交換対象設備へと供給するための流路である。取水路20は、さらに、水を取水するための取水口24を備える。取水路20は、取水口24を通じて海洋生物を含有する海水を海2から取水し、このようにして取水された海水を、熱交換対象設備である復水器18Aおよび18Bを冷却するための、復水器流路29Aおよび29Bへと供給する。
【0027】
放水路22は、熱交換対象設備と熱交換後の水を、熱交換対象設備の外へと放出するための流路である。放水路22は、さらに、熱交換後の水を海へと放出するための放出口26を備える。即ち、放水路22は、復水器18Aおよび18Bとの熱交換により加温された、復水器流路29Aおよび29B内部を流れる海水を、放出口26を通じて海へと放出する。
なお、本実施形態では、復水器18Aおよび18Bで加温された海水を有効に利用するべく、放水路22の一部は、LNG気化器流路27へと通じている。これにより、復水器18Aおよび18Bで加温された海水は、LNG気化器17へと送られるため、復水器18Aおよび18Bで発生した熱を利用して、LNG気化器17を加温することができる。LNG気化器17と熱交換後の、LNG気化器流路27内部を流れる海水は、放水路22へと合流する。放水路22は、合流したLNG気化器流路27内部を流れる海水を、放出口26を通じて海へと放出する。
【0028】
上記のように、熱交換水流路である、取水路20、放水路22、LNG気化器流路27、および、復水器流路29Aおよび29Bには海水が流れるため、熱交換水流路の内部には、貝等の海洋生物が付着・繁殖しやすい。そして、熱交換水流路内に多量の海洋生物が付着すると、流路が塞がれて十分な流量が得られなくなる等のために、熱交換機能が低下してしまう可能性がある。
特に、取水路20については、復水器18Aおよび18Bを効率よく冷却するべく、低い水温の海水を取り込めるように、取水口24を陸地からかなり離れた沖合に設けるため、取水路20は非常に長くなって、海洋生物の付着の影響を受けやすい。また、LNG気化器流路27については、復水器18Aおよび18Bで加温された海水が流れることより、海洋生物が繁殖しやすい状態となっており、さらに、LNG気化器17との熱交換の効率を向上させるべく、流路直径が放水路22よりも細くなっているため、海洋生物が付着した場合の影響を受けやすい。
【0029】
そこで、本実施形態では、取水口24から取水した熱交換のための海水に、塩素系薬剤を注入することによって、取水路20、放水路22、LNG気化器流路27、および、復水器流路29Aおよび29Bの内壁面における、貝等の海洋生物の付着を抑制している。加えて、復水器18Aおよび18Bで加温された熱交換のための海水に、塩素系薬剤を注入することによって、特にLNG気化器流路27の内壁面における、貝等の海洋生物の付着をさらに抑制している。
なお、塩素系薬剤の種類は特に限定されず、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素や塩素などであっても良い。塩素系薬剤の形態は、特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸ナトリウムであれば、安定な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
また、取水口24から取水した海水に注入する塩素系薬剤の種類と、復水器18Aおよび18Bで加温された海水に注入する塩素系薬剤の種類とは、同一であっても良く、組み合わせによって有毒な物質を生成しない限り異なっていても良い。
【0030】
取水口24から取水した海水に塩素系薬剤を注入する場合、取水路20の取水口24に近い箇所で注入することが好ましい。それによって、熱交換水流路の上流で海洋生物の遊泳を阻害することができるため、COマイクロバブル注入箇所よりも下流にある熱交換水流路全体への海洋生物の付着を抑制することができる。
また、復水器18Aおよび18Bで加温された海水に塩素系薬剤を注入する場合、LNG気化器流路27の入り口に近い箇所で注入することが好ましい。それによって、LNG気化器17と熱交換が行われるLNG気化器流路27の内壁面に対する海洋生物の付着を抑制し、LNG気化器流路27の熱交換機能の低下を効果的に防ぐことができる。
【0031】
さらに、本実施形態では、上記2箇所の塩素系薬剤の注入箇所よりも下流である箇所で、COマイクロバブルを注入することによって、放水路22を流れる熱交換後の海水の塩素濃度を減少させている。この結果、放出口26から海2へと放出される海水の塩素濃度を減少させて、海2への環境負荷を軽減している。
【0032】
COマイクロバブルを注入する際、放水路22のLNG気化器流路27の出口に近い箇所で注入することが好ましい。それによって、放水路22を熱交換後の海水が流れている間に、COマイクロバブルが熱交換後の海水の塩素濃度を減少させ、放出口26における塩素濃度を大きく減少させることができる。
従って、高濃度の塩素系薬剤を注入しても、放出口26における塩素濃度を大きく減少させることができるため、海2に与える環境への負荷を軽減しながら、高濃度の塩素系薬剤を用いて効率的に熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制することができる。
【0033】
図2は、取水路20、放水路22、LNG気化器流路27、および、復水器流路29Aおよび29Bからなる、熱交換水流路80を模式的に示す図である。
図2に示すように、取水路20は、復水器18Aおよび18Bとの接続部、即ち、復水器流路29Aおよび29Bとの接続部に、それぞれ第1の海水ポンプ30Aおよび30Bを備える。第1の海水ポンプ30Aおよび30Bは、取水口24を通じて、海水を海2から取水路20へと吸入する。
【0034】
取水路20は、好ましくは取水口24に近い箇所に、塩素系薬剤を注入するための薬剤注入装置32Aを備える。また、LNG気化器流路27は、好ましくは入り口に近い箇所、即ち、放水路22との接続部に、薬剤注入装置32Bを備える。
放水路22は、LNG気化器流路27よりも下流側の、好ましくはLNG気化器流路27に近い箇所に、COマイクロバブル注入装置34を備える。
【0035】
図3は、薬剤注入装置32Aの詳細構成を示す。図3に示すように、薬剤注入装置32Aは、塩素系薬剤を供給する薬剤供給槽40と、薬剤供給槽40から供給された塩素系薬剤を、取水路20を流れる熱交換のための海水に注入するための薬剤注入管42とを備える。
【0036】
薬剤注入管42は、薬剤供給槽40からの塩素系薬剤の供給量を制御するバルブ44を備える。このバルブ44を用いることによって、海洋生物の遊泳を阻害し、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制することができるような量の塩素系薬剤を、取水路20を流れる熱交換のための海水に必要に応じて注入することができる。
【0037】
また、薬剤注入管42は、薬剤供給槽40から薬剤注入管42に供給されてきた塩素系薬剤を、取水路20を流れる熱交換のための海水に注入するための、薬剤注入口43を備える。
図3に示す例では、薬剤供給槽40と接続していない側の薬剤注入管42の先端は、取水路20の下流側へ向けて屈曲し、その最先端に薬剤注入口43を備えている。なお、この場合において、図4に示すように、薬剤供給槽40と接続していない側の薬剤注入管42の先端部の断面を、薬剤注入口43へ向けて次第に拡がるように構成してもよい。
また、図5に示すように、薬剤供給槽40と接続していない側の薬剤注入管42の先端は屈曲せずに、薬剤注入管42の側面に設けた穴を薬剤注入口43としてもよい。このように、薬剤注入管42および薬剤注入口43として様々な構成が考えられる。
【0038】
なお、薬剤注入管42は、同一箇所または複数個所に複数本あっても良い。
また、薬剤注入口43は、取水路20及びLNG気化器流路27の壁面近傍での塩素系薬剤濃度が高くなるように、これらの壁面に沿って位置することが好ましい。この場合、取水路20については、取水路20の底部には汚泥が堆積するため、側部又は上部に沿って位置することがより好ましい。
【0039】
図6は、COマイクロバブル注入装置34の詳細構成を示す。図6に示すように、COマイクロバブル注入装置34は、COマイクロバブル発生装置46と、COマイクロバブル発生装置46を用いて発生させたCOマイクロバブルを、放水路22を流れる熱交換後の海水に注入するためのマイクロバブル注入管48と、COマイクロバブル発生装置40に海水を供給するための第2の海水ポンプ50と、COマイクロバブル発生装置40にCOを供給するためのCOボンベ52とを備える。
【0040】
第2の海水ポンプ50は、放水路22から海水を取水し、取水した海水をCOマイクロバブル発生装置46へと供給する。
【0041】
COボンベ52は、COボンベ52とCOマイクロバブル発生装置46との間に、COライン53を備える。COライン53は、COボンベ52側から順に、減圧弁54と流量調節弁55とを備える。
COボンベ52からCOライン53に流入する二酸化炭素は、減圧弁54で大気圧になるように圧力を調整され、流量調節弁55で流量を調整されて、COマイクロバブル発生装置46に送られる。このCOは、COマイクロバブル発生装置46に第2の海水ポンプ50が取り込んだ海水の流水の力によって装置内が負の圧力となることで、自動的に装置内に取り込まれる。
この際、COマイクロバブル発生装置46に供給するCOの流量を流量調節弁55で調節することにより、放水路22を流れる熱交換後の海水の残留塩素濃度が、海2に定められた規定濃度以下にまで減少するように、COマイクロバブル発生装置46から発生させるCOマイクロバブルの流量を調節することができる。
なお、放水路22を流れる熱交換後の海水の残留塩素濃度を、海2に定められた規定濃度以下にまで減少させることができるCOマイクロバブルの流量は、例えば、あらかじめ実験をして求めることもできるし、また、放出口26に、海2へ放出される海水中の残留塩素濃度を測定する残留塩素濃度計(図示せず)を設け、その残留塩素濃度計の値を観測しながら調節することもできる。
【0042】
マイクロバブル注入管48は、COマイクロバブル発生装置46からマイクロバブル注入管48に送られてきたCOマイクロバブルを、放水路22を流れる熱交換後の海水に排気するための、マイクロバブル注入口49を備える。マイクロバブル注入管48は、流量調節弁55を用いてCOの供給量を調節することによって、COマイクロバブル発生装置46から必要量を発生させたCOマイクロバブルを、マイクロバブル注入口49を通じて、放水路22を流れる熱交換後の海水に注入する。
【0043】
COマイクロバブル発生装置46と接続していない側のマイクロバブル注入管48の先端は、薬剤注入口43と同様に、放水路22の下流側へ向けて屈曲し、その最先端にマイクロバブル注入口49を備えていても良く、また、この場合において、COマイクロバブル発生装置46と接続していない側のマイクロバブル注入管48の先端部の断面を、マイクロバブル注入口49へ向けて次第に拡がるように構成してもよい。COマイクロバブル発生装置46と接続していない側のマイクロバブル注入管48の先端は屈曲せずに、マイクロバブル注入管48の側面に設けた穴をマイクロバブル注入口49としてもよい。このように、マイクロバブル注入管48およびマイクロバブル注入口49として様々な構成が考えられる。
【0044】
マイクロバブル注入管48は、同一箇所または複数個所に複数本あっても良い。
【0045】
COマイクロバブルを注入した後の、熱交換後の海水のpHが、8.1以下になるように、マイクロバブル注入口49からCOマイクロバブルを注入しても良い。
【0046】
==本発明に係る熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法==
次に、本実施の一形態として、塩素系薬剤を熱交換のための水に注入した後に、塩素系薬剤を注入された水にCOマイクロバブルを注入することによって、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法について説明する。
まず、第1の海水ポンプ30Aおよび30Bを用いて、海洋生物を含有する海水を、海2から取水口24を通じて取水路20へと吸入する。
【0047】
薬剤注入装置32Aの薬剤供給槽40に貯えられている塩素系薬剤から、取水路20を含む熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制することができる量を、バルブ44を用いて薬剤注入管42へと供給し、供給された塩素系薬剤を、取水路20へと取水した海水に、薬剤注入口43を通じて注入する。
このようにして塩素系薬剤を、海洋生物を含有する海水に注入することによって、含有される海洋生物が熱交換水流路へと付着するのを抑制することができる。
【0048】
塩素系薬剤を注入した海水を、取水路20を通じて、復水器18Aおよび18Bの内部を通る復水器流路29Aおよび29Bへと供給する。復水器流路29Aおよび29Bへと供給された海水は、復水器18Aおよび18Bとそれぞれ熱交換することによって、復水器18Aおよび18Bを冷却する。
【0049】
復水器18Aおよび18Bと熱交換した後の海水を、復水器流路29Aおよび29Bから放水路22へと放出する。放水路22へと放出した海水の一部を、LNG気化器の内部を通るLNG気化器流路27へと供給する。
【0050】
LNG気化器流路27へと供給した海水に、上記薬剤注入装置32Aの時と同様に、薬剤注入装置32Bから塩素系薬剤を注入する。塩素系薬剤を、LNG気化器流路27へと供給した海水に注入することによって、復水器18Aおよび18Bで加温されたために海洋生物が繁殖しやすい状態となっているLNG気化器流路27内部における、海洋生物の遊泳を阻害し、LNG気化器流路27および放出路22を含む熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制することができる。
【0051】
塩素系薬剤を注入したLNG気化器流路27内部の海水は、LNG気化器17と熱交換することによって、LNG気化器17を加温する。この際、LNG気化器流路27内部の海水は、復水器18Aおよび18Bよって加温されているため、復水器18Aおよび18Bで発生した熱を利用して、LNG気化器17を加温することができる。
【0052】
LNG気化器17と熱交換した後の海水を、LNG気化器流路27から放水路22へと放出する。ここで、復水器流路29Aおよび29Bから放水路22へと放出した海水のうち、LNG気化器流路27へと供給した海水と、LNG気化器流路27へと供給しなかった海水とが合流する。
【0053】
一方、第2の海水ポンプ50を用いて、放水路22を流れる海水を、COマイクロバブル発生装置46へと供給すると、COボンベ52から、COがマイクロバブル発生装置46に自動的に取り込まれ、COマイクロバブルが発生する。
このようにして発生させたCOマイクロバブルを、マイクロバブル注入管48を通じてマイクロバブル注入口49から、LNG気化器流路27へと供給した海水と、LNG気化器流路27へと供給しなかった海水とが合流した後の、放水路22を流れる海水に、注入する。
ここで、COマイクロバブル発生装置46から発生させるCOマイクロバブルの流量は、流量調節弁55を用いて調節することができ、合流した海水の塩素濃度を、放出口26において、海2に定められた規定濃度以下にまで減少させるのに必要な量とする。
【0054】
この、海2に定められた規定濃度以下にまで減少させることができるCOマイクロバブルの流量は、例えば、あらかじめ実験をして求めることもできるし、また、放出口26に、海2へ放出される海水中の塩素濃度を測定する残留塩素濃度計(図示せず)を設け、その残留塩素濃度計の値を観測しながら、流量調節弁55を用いて調節することもできる。
COマイクロバブルを、放水路22を流れる合流した海水に注入することによって、海洋生物の熱交換水流路への付着を抑制するために用いた塩素系薬剤由来の塩素の濃度を、放出口26から海2へと放出するまでの間に減少させることができる。従って、放出口26から海2へと放出する海水の塩素濃度を、海2に定められた規定濃度以下としながら、従来よりも高濃度の塩素系薬剤を用いることができるため、より効率的に海洋生物の熱交換水流路80への付着を抑制することが可能となる。
【0055】
なお、COマイクロバブルを注入した後の、熱交換後の海水のpHが、8.1以下になるように、マイクロバブル注入口49からCOマイクロバブルを注入しても良い。
【0056】
COマイクロバブルを注入された海水は、放水路22を通って、放水口26から海2へと放水する。
COマイクロバブルによって、放水された海水の残留塩素濃度は減少していることから、海2に与える負荷が少ない点で非常に優れている。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
==人工海水を使用した場合==
まず、実験結果を分かりやすくするために有機物濃度の低い人工海水を使用して、実施例1、および、比較例1および2を行った。詳細を以下に示す。
【0059】
[比較例1]エアーストーンによるCO供給時の塩素濃度減少効果1
COをマイクロバブル以外の状態で供給した場合における、塩素系薬剤を含有する水の塩素濃度の減少効果を調べるべく、以下の実験を行った。
2Lのビーカーに、2Lの人工海水(八洲薬品株式会社製、アクアマリンS)を入れた。エアーストーンをビーカー中の海水に入れ、海水中のエアーストーンに100mL/minの流量でCOを供給することによって、COを海水に注入した。なお、エアーストーンから発生するCOの粒径は、100μm以上である。
海水のpHが、CO注入前の8.55から、それぞれ、8.06、7.35、6.25、または、5.63となるまで、COを注入しつづけた。
【0060】
pHが、8.55、8.06、7.35、6.25、または、5.63である海水100mLを、2Lのビーカーから100mLビーカーに汲み出した。
汲み出した海水に、残留塩素濃度が0.2mg/Lになるように、約5.0g/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加した。なお、約5.0g/L次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、海水利用発電プラントにおいて普及している海水電解装置を想定し、ペン型浄水器(米国マイオックス社製、マイオックスペン)を用いて、10%塩化ナトリウム水溶液を電気分解することによって調製した。
【0061】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えてから、0、0.5分、5分、15分、および、30分後に、それぞれ、残留塩素計(ハンナインスツルメンツジャパン株式会社製、HI95711型)を用いて、海水の残留塩素濃度を測定した。
結果を、表1および図7に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
エアーストーンを用いてCOを注入した場合には、海水のpHが5.63にまで低下するほどの多量のCOを注入し、さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから30分を経過した後であっても、残留塩素濃度は0.08mg/Lにまでにしか減少しなかった。
【0064】
[比較例2]エアーマイクロバブル供給時の塩素濃度減少効果1
CO以外の気体をマイクロバブルの状態で供給した場合における、塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度の減少効果を調べるべく、以下の実験を行った。
8.5Lの水槽に、5Lの人工海水を入れた。T1型マイクロバブル発生装置(旋回流型、エアー自給流量:700mL/min)を用いて、100mL/minの流量で、空気のマイクロバブル(以下、エアーマイクロバブルとする)を発生させ、発生させたエアーマイクロバブルを、水槽中の海水に注入した。
エアーマイクロバブルを注入し始めてから120秒後、および、240秒後に、それぞれ、エアーマイクロバブルを注入した海水約200mLを、水槽から汲み出した。
【0065】
汲み出した海水約200mLから100mLを計量し、別の容器に移した。この容器に、注入したエアーマイクロバブル(泡)が目視できる状態において、約5.0g/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、残留塩素濃度が0.2mg/Lになるように添加した。
また、海水約200mLの残りを用いて、泡が消滅しpHが安定した段階で、海水の水温とpHとを測定した。
【0066】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えてから、0、0.5分、5分、および、30分後に、それぞれ、残留塩素計を用いて海水の残留塩素濃度を測定した。
結果を、表2および図8に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
空気をマイクロバブル状態で注入した場合には、240秒間エアーマイクロバブルを注入し、さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから30分を経過した後であっても、残留塩素濃度は0.10mg/Lにまでにしか減少せず、比較例1のエアーストーンによるCO供給時の結果を下回った。
【0069】
[実施例1]COマイクロバブル供給時の塩素濃度減少効果1
COをマイクロバブルの状態で注入した場合における、塩素系薬剤を含有する水の塩素濃度の減少効果を調べるべく、以下の実験を行った。
8.5Lの水槽に、5Lの人工海水を入れた。T1型マイクロバブル発生装置(旋回流型、CO自給流量:700mL/min)を用いて、100mL/minの流量で、COマイクロバブルを発生させ、発生させたCOマイクロバブルを、水槽中の海水に注入した。
COマイクロバブルを注入し始めてから30秒後、60秒後、120秒後、180秒後、および、240秒後に、それぞれ、COマイクロバブルを注入した海水約200mLを、水槽から汲み出した。
【0070】
汲み出した海水約200mLから100mLを計量し、別の容器に移した。この容器に、注入したCOマイクロバブル(泡)が目視できる状態において、約5.0g/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、残留塩素濃度が0.2mg/Lになるように添加した。
また、海水約200mLの残りを用いて、泡が消滅しpHが安定した段階で、海水の水温とpHとを測定した。
【0071】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えてから、0、0.5分、5分、15分、および、30分後に、それぞれ、残留塩素計を用いて、海水の残留塩素濃度を測定した。
結果を、表3および図9に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
この結果、COマイクロバブルの状態でCOを供給した場合には、比較例1のエアーストーンを用いてCOを供給した場合よりも、残留塩素濃度を低い値にまで減少させることが可能であり、また、その減少させる速度も速いことが明らかとなった。
実際に、比較例1のエアーストーンを用いてCOを供給した場合には、pHが5.63になるまでCOを多量に供給しても(ほぼ飽和状態になるまでCOを供給しても)、30分後に残留塩素濃度が0.08mg/Lにまでしか低下しなかったのに対し、マイクロバブルの状態でCOを供給することによって、pHが6.22と高い状態、即ち、COの溶解量が少ない状態でも、5分後には残留塩素濃度が0.03mg/Lへと大きく減少した。
また、同じマイクロバブルの状態で供給した場合であっても、COを供給した場合には、空気を供給した比較例2の場合と比較して、残留塩素濃度を低い値にまで減少させることが可能であり、また、その減少させる速度も非常に速いことが分かった。
【0074】
==天然海水を使用した場合==
次に、天然海水を使用して、実施例2および比較例3を行った。詳細を以下に示す。
【0075】
[比較例3]エアーストーンによるCO供給時の残留塩素濃度減少効果2
中国電力株式会社大崎発電所の浮き桟橋で採取した2Lの天然海水を用いて試験を実施した。
採取した海水2Lを、0.1mmメッシュの網でろ過した後、ろ液を2Lのビーカーに入れた。エアーストーンをビーカー中の海水に入れ、海水中のエアーストーンに50mL/minの流量でCOを供給することによって、COを海水に注入した。なお、エアーストーンから発生するCOの粒径は、100μm以上である。
COの注入量は、1回目の試験では、海水のpHが、CO注入前の8.04から、それぞれ、6.70、6.16、5.81、または、5.42となるまで注入をしつづけ、また、2回目の試験では、海水のpHが、CO注入前の7.87から、それぞれ、7.36、6.90、6.78、または、6.74となるまで注入をしつづけた。
【0076】
pHが、8.04、6.70、6.16、5.81、もしくは、5.42である1回目の試験における海水100mL、または、pHが、7.87、7.36、6.90、6.78、もしくは、6.74である2回目の試験における海水100mLを、2Lのビーカーから100mLビーカーに汲み出した。汲み出した海水に、1回目の試験では、遊離残留塩素濃度が0.26mg/Lになるように、また、2回目の試験では、遊離残留塩素濃度が0.51mg/Lになるように、遊離残留塩素濃度が500mg/Lである次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加した。
【0077】
人工海水を使用した比較例1および2、および、実施例1では、残留塩素濃度(即ち、次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンの形で存在する遊離残留塩素と、遊離残留塩素がアンモニアと結合した結合残留塩素との合計の濃度)を測定したが、これらの試験で用いたDPD法による残留塩素濃度の測定では、天然海水に含まれる妨害物質による影響を受けやすく、天然海水中の残留塩素濃度を正確に測ることは困難である。従って、比較例3、および、以下に記載する比較例4、および、実施例2においては、同じくDPD法による残留塩素計を用いて、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えてから、0、1分、7分、15分、および、30分後に、それぞれの海水中の、遊離残留塩素濃度を測定した。
【0078】
1回目の試験の結果を、表4および図10に、そして、2回目の試験の結果を、表5および図11に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
表4および5の一番上段の値は、COを注入していない天然海水の値である。表4および5のいずれの場合においても、天然海水は塩素と反応する有機物を多く含んでいることから、COを注入しなくとも、ある程度は自然に塩素を減少させていくことが分かる。
この天然海水そのもののデータと、例えば、表5の、海水のpHが5.72にまで低下するほどの多量のCOを注入した場合とを比較すると、エアーストーンを用いてCOを注入した際には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから1分を経過した後では、塩素濃度は0.25mg/Lから0.20mg/Lまでにしか減少せず、そして、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから30分を経過した後であっても、遊離残留塩素濃度は0.08mg/Lから0.04mg/Lまでにしか減少しなかった。
また、さらに多量のCOを注入し海水のpHが5.42にまで低下した、表4の最下段の値と、COを注入していない天然海水のデータとを比較すると、エアーストーンを用いてCOを注入した場合には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから15分を経過した後に、遊離残留塩素が検出されなくなったものの、この際のCOを注入していない天然海水の遊離残留塩素濃度は0.01mg/Lであり、その差はほとんどなかった。
【0082】
[比較例4]エアーマイクロバブル供給時の塩素濃度減少効果2
比較例3で用いた海水5Lを、0.1mmメッシュの網でろ過した後、ろ液を8.5Lの水槽に入れた。T1型マイクロバブル発生装置(旋回流型、エアー自給流量:700mL/min)を用いて、100mL/minの流量でエアーマイクロバブルを発生させ、発生させたエアーマイクロバブルを、水槽中の海水に注入した。
エアーマイクロバブルを注入し始めてから5分後に、エアーマイクロバブルを注入した海水約200mLを、水槽から汲み出した。
【0083】
汲み出した海水約200mLから100mLを計量し、別の容器に移した。この容器に、注入したエアーマイクロバブル(泡)が目視できる状態において、遊離残留塩素濃度が500mg/Lである次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、遊離残留塩素濃度が0.26mg/Lになるように添加した。
また、海水約200mLの残りを用いて、泡が消滅しpHが安定した段階で、海水の水温とpHとを測定した。
【0084】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えてから、0、1分、7分、15分、および、30分後に、残留塩素計を用いて、海水中の遊離残留塩素濃度を測定した。
結果を、表6に示す。
【0085】
【表6】

【0086】
エアーマイクロバブルを注入した場合には、比較例2で行った際の2倍以上の時間である5分間に渡って注入しても、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから1分を経過した後では、遊離残留塩素濃度は0.11mg/Lから0.09mg/Lまでにしか減少せず、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから15分を経過した後に、ようやく遊離残留塩素が検出されなくなった。
【0087】
[実施例2]COマイクロバブル供給時の塩素濃度減少効果2
比較例3で用いた海水5Lを、それぞれ、0.1mmメッシュの網でろ過した後に、ろ液を8.5Lの水槽に入れた。T1型マイクロバブル発生装置(旋回流型、CO自給流量:700mL/min)を用いて、100mL/minの流量で、COマイクロバブルを発生させ、発生させたCOマイクロバブルを、水槽中の海水に注入した。
COの注入量は、1回目の試験では、海水のpHが、CO注入前の8.00から、それぞれ、7.48、7.30、または、6.74となるまで注入をしつづけ、また、2回目の試験では、海水のpHが、CO注入前の7.87から、それぞれ、7.36、6.90、6.78、または、6.74となるまで注入をしつづけた。このようにしてCOマイクロバブルを注入した海水約200mLを、水槽から汲み出した。
【0088】
汲み出した海水約200mLから100mLを計量し、別の容器に移した。この容器に、注入したCOマイクロバブル(泡)が目視できる状態において、1回目の試験では、遊離残留塩素濃度が0.26mg/Lになるように、また、2回目の試験では、遊離残留塩素濃度が0.51mg/Lになるように、遊離残留塩素濃度が500mg/Lである次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加した。
【0089】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えてから、0、1分、7分、15分、および、30分後に、残留塩素計を用いて、それぞれの海水中の、遊離残留塩素濃度を測定した。
6月に採取した海水を用いた際の結果を、表7および図12に、そして、9月に採取した海水を用いた際の結果を、表8および図13に示す。
【0090】
【表7】

【0091】
【表8】

【0092】
この結果、COマイクロバブルの状態でCOを供給した場合には、比較例3のエアーストーンを用いてCOを供給した場合よりも、また、比較例4のエアーマイクロバブルを供給した場合よりも、遊離残留塩素濃度を減少させる速度が速いことが明らかとなった。
実際に、比較例3のエアーストーンを用いてCOを供給した場合には、例えば、1回目の試験の結果である表4において、pHが6.70になるまでCOを供給したところ、遊離残留塩素が検出されなくなるまで、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してから30分を要したのに対し、マイクロバブルの状態でCOを供給した表7において、ほぼ同じpHであるpH6.74になるまでCOを供給したところ、わずか1分後には遊離残留塩素が検出されなくなった。
また、比較例4のエアーマイクロバブルを供給した場合と比較しても、表6において5分間にわたりエアーマイクロバブルを供給した結果よりも、表7の結果の方が、いずれのpHにおいても、また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してからいずれの時間においても、遊離残留塩素濃度が低かった。
【0093】
以上の実施例1および2と、比較例1〜4との結果より、海水の種類に関係なく、COマイクロバブルを添加することによって、効率よく水中の残留塩素濃度を低下させることが可能であることが示された。
【符号の説明】
【0094】
2 海
10 火力発電所
12 燃料貯蔵設備
14 LNGタンク
16 発電設備
17 LNG気化器
18A,18B 復水器
20 取水路
22 放水路
24 取水口
26 放水口
27 LNG気化器流路
29A,29B 復水器流路
30A,30B 第1の海水ポンプ
32A,32B 薬剤注入装置
34 COマイクロバブル注入装置
40 薬剤供給槽
42 薬剤注入管
43 薬剤注入口
44 バルブ
46 COマイクロバブル発生装置
48 マイクロバブル注入管
49 マイクロバブル注入口
50 第2の海水ポンプ
52 COボンベ
53 COライン
54 減圧弁
55 流量調節弁
80 熱交換水流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制する方法であって、
海洋生物を含有する水を、熱交換対象設備に供給する工程と、
前記供給された水を用いて、前記熱交換対象設備と熱交換する工程と、
前記熱交換対象設備と熱交換後の水を、前記熱交換対象設備から放出する工程と、
前記海洋生物を含有する水、前記供給された水、及び、前記熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素系薬剤を注入する工程と、
前記塩素系薬剤を注入された水に、COマイクロバブルを注入する工程とを含む抑制方法。
【請求項2】
前記塩素系薬剤が次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、または、塩素であることを特徴とする、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項3】
前記COマイクロバブルを注入された水のpHが8.1以下であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項4】
前記海洋生物を含有する水が海水であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項5】
塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させる方法であって、
前記塩素系薬剤を含有する水と、COマイクロバブルとを混合する工程を含む方法。
【請求項6】
前記塩素系薬剤が次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、または、塩素であることを特徴とする、請求項5に記載の減少方法。
【請求項7】
前記COマイクロバブルと混合された水のpHが8.1以下であることを特徴とする、請求項5または6のいずれか1項に記載の減少方法。
【請求項8】
熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制するシステムであって、
海洋生物を含有する水を、熱交換対象設備に供給するための供給装置と、
前記供給された水を用いて、前記熱交換対象設備と熱交換するための熱交換器と、
前記熱交換対象設備と熱交換後の水を、前記熱交換対象設備から放出するための放出装置と、
前記海洋生物を含有する水、前記供給された水、及び、前記熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素系薬剤を注入するための薬剤注入装置と、
前記塩素系薬剤を注入された水に、COマイクロバブルを注入するためのマイクロバブル注入装置とを備えるシステム。
【請求項9】
塩素系薬剤を含有する水の残留塩素濃度を減少させるシステムであって、
前記塩素系薬剤を含有する水と、COマイクロバブルとを混合するためのマイクロバブル混合装置を備えるシステム。
【請求項10】
前記塩素系薬剤が次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、または、塩素であることを特徴とする、請求項8または9のいずれか1項に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−104586(P2011−104586A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237924(P2010−237924)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】