説明

海洋生物の付着防止方法

【課題】海洋構造物への海洋生物の付着を防止することができる海洋生物の付着防止方法を提供する。
【解決手段】海洋構造物への海洋生物の付着を防止する方法であって、前記海洋構造物に黄色又は赤色の光を投射することで、前記海洋構造物への海洋生物の付着を防止することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海洋構造物への海洋生物の付着を防止する方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
人工漁礁や観測装置等の海洋構造物へのフジツボ等の海洋生物の付着を防止する方法としては、防汚塗料やオゾンの発生、塩素、過酸化酸素による方法が種々提案されている(例えば、非特許文献1を参照。)
【非特許文献1】日本付着生物学会編,2006年2月:フジツボ類の最新学,恒星社恒星閣
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の付着防止方法はいずれも効果の寿命や経済性等の問題があり、十分な効果を発揮するに至っていない。
【0004】
ところで、従来からフジツボの幼生は正あるいは負の走光性を示すことが知られているが、光に対しての走光性は白色光のみで、他の発光色に関しては調べられていない。
【0005】
そこで、本出願人は光と海洋生物との関係を実験により調べてみた。
【0006】
<実験条件>
実験に使用した光源、実験場所、実験期間、海中に吊り下げた深度は、以下の通りである。なお、無発光の水中ライトも同様に実験した。
光源:赤、青、黄、緑、白色の発光ダイオードを内蔵した水中ライト(北海産業有限会社製、高輝度LED「H0−G1」)
実験場所:長崎県長崎港港内
実験期間:平成18年8月10日〜同年10月10日
吊り下げ深度:LWL−1
【0007】
<実験結果>
発光させた各々の水中ライト、及び無発光の水中ライトの表面に付着した海洋生物とその個数、及び付着重量は以下の通りである。
【0008】
[付着した海洋生物とその個数]
赤色光:アメリカフジツボ2個
青色光:シロスジフジツボ17個、アメリカフジツボ3個、アカフジツボ3個
黄色光:なし
緑色光:シロスジフジツボ16個、アメリカフジツボ2個、アカフジツボ2個
白色光:シロスジフジツボ15個、アメリカフジツボ2個、アカフジツボ2個
無発光:シロスジフジツボ13個、アメリカフジツボ2個、アカフジツボ2個
【0009】
[付着重量]
赤色光:0.29g
青色光:8.52g
黄色光:0g
緑色光:6.28g
白色光:5.48g
無発光:6.33g
【0010】
以上の実験結果から、黄色又は赤色の光は海洋生物の付着を防止できることが分かった。
【0011】
したがって本発明の目的は、上記実験結果を鑑み、海洋構造物への海洋生物の付着を防止することができる海洋生物の付着防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る海洋生物の付着防止方法は、
海洋構造物への海洋生物の付着を防止する方法であって、
海洋構造物に黄色又は赤色の光を投射することで、前記海洋構造物への海洋生物の付着を防止することを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の海洋生物の付着防止方法において、
光は発光ダイオードにより投射することを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の海洋生物の付着防止方法において、
光が海洋構造物に50Lux以上の強さで投射されることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載の海洋生物の付着防止方法において、
海洋構造物は人工漁礁であり、
この人工漁礁は太陽電池パネルと蓄電池とを有し、前記人工漁礁の上部は前記太陽電池パネルに太陽光を照らすことができるように透明パネルで形成しており、
さらに前記人工漁礁は黄色又は赤色の発光ダイオードを有し、同発光ダイオードは前記蓄電池から電力が供給される構成としていること、
前記透明パネルに発光ダイオードの光を投射することで、前記透明パネルへの海洋生物の付着を防止することを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載の海洋生物の付着防止方法において、
海洋構造物は観測装置であり、
この観測装置は本体部と感知部とを有する構成としていること、
海中に沈めた前記感知部の近傍に黄色又は赤色の発光ダイオードを配置して、前記感知部に前記発光ダイオードの光を投射することで、前記感知部への海洋生物の付着を防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る海洋生物の付着防止方法は、海洋構造物に黄色又は赤色の光を投射するので、前記海洋構造物に海洋生物が付着することを防止でき、常に健全な状態に維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<実施形態1>
先ず、本発明に係る海洋生物の付着防止方法の実施形態1を図1に基いて説明する。
【0019】
本実施形態の付着防止方法は、図1に示すように、海洋構造物である人工漁礁1において実施する。
【0020】
この人工漁礁1は、海底に設置したアンカー(図示は省略)に漂流防止ワイヤー2を介して連結されたFRP等から成る外殻3内に、浮き具(図示は省略)や流出(漂流)警報装置4等が格納されており、前記流出警報装置4の電源部は太陽電池パネル(図示は省略)と蓄電池(図示は省略)とを有する。そして、前記外郭3の上部は、前記太陽電池パネルに太陽光を照らすことができるように、耐圧の透明パネル5で覆われ防水されている。つまり、図示した人工漁礁1は、通例の浮沈式浮漁礁と略同様の構成とされているが、黄色又は赤色の発光ダイオード6を有し、同発光ダイオード6は前記蓄電池から電力が供給される構成とされている。
【0021】
上記構成の人工漁礁1を用いて、前記人工漁礁1の透明パネル5に発光ダイオード6の光を投射することで、前記透明パネル5への海洋生物の付着を防止する(以上、請求項1、2及び請求項4記載の発明)。人工漁礁は海面上に位置したり、海面下に位置したりするため、従来の人工漁礁は透明パネル5に海洋生物が付着して透明性が損なわれ、太陽電池の充電が思わしくない欠点があったが、本実施形態の付着防止方法は、透明パネル5に黄色又は赤色の光を投射するので、発明が解決しようとする課題の項で述べてように、透明パネル5に海洋生物が付着することを防止でき、常に健全な状態に維持できる。したがって、太陽電池の充電が良好で、しかも従来1ヶ月に1度の頻度で必要であった透明パネル5の洗浄作業を殆ど省略できる。
【0022】
また、光源として省電力の発光ダイオード6を採用したので、蓄電池は流出警報装置4を機能させつつ、発光ダイオード6にも十分な電力を供給することができる。そのため、他の電源装置を新たに加える必要がない。しかも、発光ダイオード6は小型であるため、外郭3内の空いているスペースに容易に配置できる。
【0023】
ちなみに、光は海洋構造物に50Lux以上の強さで投射されることが好ましい(請求項3記載の発明)。より確実に海洋生物の付着を防止できる。
【0024】
<実施形態2>
次に、本発明に係る海洋生物の付着防止方法の実施形態2を図2に基づいて説明する。
【0025】
本実施形態の付着防止方法は、図2に示すように、海洋構造物である観測装置(図示は省略)の感知部7近傍において実施する。
【0026】
この観測装置は、通例の観測装置と同様に、海上に設置された本体部と、海水の温度、塩分、流速、クロロフィル等のデータを連続観測し、そのデータを前記本体部に送信する感知部7とを有し、前記感知部7は通電コード8によって本体部に接続された状態で海中に沈められている。
【0027】
上記構成の観測装置の感知部7近傍に、黄色又は赤色の発光ダイオード6(例えば、本体部に通電コード8によって接続された水中ライトに内蔵される。)を配置して、前記感知部7に前記発光ダイオード6の光を投射することで、前記感知部7への海洋生物の付着を防止する(請求項1、2及び請求項5記載の発明)。従来の観測装置は、感知部に海洋生物が付着して、前記感知部への海水流動性が悪くなり、正常に観測できなくなる欠点があったが、本実施形態の付着防止方法は、感知部7に黄色又は赤色の光を投射するので、発明が解決しようとする課題の項で述べているように、感知部7に海洋生物が付着することを防止でき、常に健全な状態で観測できる。したがって、観測されたデータの精度が高く、しかも従来定期的に感知部を引き上げて実施されていた洗浄作業を殆ど省略できる。
【0028】
また、光源として省電力の発光ダイオード6を採用したので、少ない電力供給で済む。そのため、発光ダイオード6が例えば本体部に内蔵された電源装置(バッテリー等)から通電コード8を介して電力の供給を受ける構成とされていると、電源装置を交換する頻度を少なくすることができる。
【0029】
本実施形態においても、光は海洋構造物に50Lux以上の強さで投射されることが好ましい(請求項3記載の発明)。実施形態1と同様により確実に海洋生物の付着を防止できるからである。
【0030】
上記実施形態1、2の付着防止方法は、人工漁礁及び観測装置に対して実施したが、この限りでない。要するに、海洋生物の付着を防止したい海洋構造物、例えば船底や海水を取水する取水管内部に対して、実施することが可能である。
【0031】
上記実施形態1、2の付着防止方法は、発光ダイオード6により光を投射したが、この限りでない。要するに、海洋構造物に黄色又は赤色を投射できる光源であれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の付着防止方法は、フジツボ等の海洋生物の付着を防止するべく、人工漁礁や観測装置等の海洋構造物へ利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る海洋生物の付着防止方法の第1実施形態を示した概略図である。
【図2】本発明に係る海洋生物の付着防止方法の第2実施形態を示した概略図である。
【符号の説明】
【0034】
1 人工漁礁
2 漂流防止ワイヤー
3 外殻
4 流出警報装置
5 透明パネル
6 黄色又は赤色の発光ダイオード
7 観測装置の感知部
8 通電コード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋構造物への海洋生物の付着を防止する方法であって、
海洋構造物に黄色又は赤色の光を投射することで、前記海洋構造物への海洋生物の付着を防止することを特徴とする、海洋生物の付着防止方法。
【請求項2】
光は発光ダイオードにより投射することを特徴とする、請求項1に記載の海洋生物の付着防止方法。
【請求項3】
光が海洋構造物に50Lux以上の強さで投射されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の海洋生物の付着防止方法。
【請求項4】
海洋構造物は人工漁礁であり、
この人工漁礁は太陽電池パネルと蓄電池とを有し、前記人工漁礁の上部は前記太陽電池パネルに太陽光を照らすことができるように透明パネルで形成しており、
さらに前記人工漁礁は黄色又は赤色の発光ダイオードを有し、同発光ダイオードは前記蓄電池から電力が供給される構成としていること、
前記透明パネルに発光ダイオードの光を投射することで、前記透明パネルへの海洋生物の付着を防止することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の海洋生物の付着防止方法。
【請求項5】
海洋構造物は観測装置であり、
この観測装置は本体部と感知部とを有する構成としていること、
海中に沈めた前記感知部の近傍に黄色又は赤色の発光ダイオードを配置して、前記感知部に前記発光ダイオードの光を投射することで、前記感知部への海洋生物の付着を防止することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の海洋生物の付着防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−142050(P2008−142050A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335435(P2006−335435)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】