説明

海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具

【課題】 海苔網を所定の深さに維持するための長さ調整綱を、簡単に、且つ、確実に支柱に固定する器具の提供。
【解決手段】間隔をおいて立設された支柱に取り付けられた海苔養殖網の深さ調整綱を固定するための器具10であって、リングを半円状に分割した複数の部材11,12からなり、この分割された部材11,12の一方の端部は、それぞれが相互に回動自在に連結され、他方の端部はそれぞれが連結固定可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に立設した支柱に海苔網を展張してこの海苔網に海苔を養殖する支柱方式による海苔養殖において、潮の干満、潮の動きによる海苔網の移動を抑えて、海苔養殖網を海面から一定の深さに維持するための長さ調整綱を支柱、俗称、竿に固定するための器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の支柱方式による海苔養殖の海苔網展張装置としては、図7に示すように、水深の浅い海の海底に適宜な間隔をおいて立設された多数の支柱aに取り付けられた吊り綱bに支持されている。さらに、多数の支柱aのほぼ中間位置には、海苔網cの短手方向に伸子棒dが、その両端を縁綱eに係止されて設けられており、これによって、海苔網cに浮力を与え、さらに海苔網cの捻れを防止している。
【0003】
この構造において、支柱aと縁綱eとは大きい弛みを持たせた吊り綱bによって連結されているために、潮の干満による海面の上下動に合わせて、吊り綱bに連結された縁綱eの位置も上下動し、これに伴って、縁綱eに取り付けられた海苔網cの位置もある程度調整される。
【0004】
ところが、潮の流れや風等による海苔網cの左右前後の水平方向の移動に対しては、海苔網cの移動量が大きく、吊り綱bの長さの調整だけでは、海苔網cの左右前後の水平方向の移動に対して適切に位置せしめることは困難であった。
【0005】
この潮の干満と流れによる海苔網の移動の問題を解決するための手段として、特許文献1には、図示するように、海苔網cを支持した縁綱eを、弛みのない吊り綱bに連結し、さらに、この吊り綱bを、支柱aに挿通した海水に対して浮力を持った浮動環fに連結することによって、海苔網cを潮の干満による海面の上下動と、潮の流れや海上の風による海苔網の水平動に対応できるようにした海苔網展張装置が開示されている。
【0006】
海苔を効率よく養殖するためには、海苔網cは、海苔を海面下、0.5〜1m程度の深さに位置させなければならない。そのためには、海苔網cに連結した吊り綱bを緩みのない綱によって構成し、支柱aに固定した一定長さの調整綱gの端部を吊り綱bに直接連結する浮動環fを介して連結する際にその長さを調整している。
【0007】
そして、浮動環fを使用する場合には、浮動環fに調整綱gの端部を干潮時の長さに適用した長さとすることによって、浮動環fの潮の干満による動きを規制して浮動環fを干潮時に満潮時から一定深さ以上の位置にならないようにしている。
【0008】
この浮動環fの使用の有無に拘わらず、海苔網cの上下の動きを規定するための深さ調整綱gを支柱aに固定するためには、綱の支柱aへの緊締を充分にして、支柱面がずれ落ちないようにする必要があり、そのためには、綱によるスナップを形成したり、綱の結び方を工夫して支柱への固定を行っている。
【0009】
ところが、海苔網の移動範囲を規定するための長さ調整綱を支柱に固定するための作業は、波と風の中で波に揺れる舟の上からの作業となり、また、支柱表面も濡れているために滑りやすく手間と熟練を要し、海苔網の設置作業の効率化の大きな障害となっている。
【特許文献1】特許第3424891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明において解決すべき課題は、海苔網を所定の深さに安定して維持するための長さ調整綱を、簡単に、且つ、確実に支柱に固定する器具の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、間隔をおいて立設された支柱に取り付けられた海苔養殖網の深さ調整綱を固定するための器具であって、リングを半円状に分割した複数の部材からなり、この分割された部材の一方の端部は、それぞれが相互に回動自在に連結され、他方の端部はそれぞれが連結固定可能に形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の固定具は、通常、外径が50mm程度の支柱に取り付け固定されるものであるため、取り付け固定後、落下しないように、閉じられたリング状の内孔径が、この支柱よりも僅かに小さい径を持つことが必要で、形成したリングの内孔面に凹凸面その他の滑り止めを講じることも必要となる。
【0013】
また、取り付けのための作業環境が、小型の舟上で人手によって、海水で濡れた支柱表面に取り付けられるものであり、持ちやすくて作業性がよく、さらに、取り付け後は、海中に保持されるものであるから、海中にあっては、抵抗の少ないリング状の外形、例えば、駒形の外形に限らず、ドーナツ形であるのが都合がよい。また、取り扱いに際しての滑りを防止するために、その外形を角に丸みを持たせた多角形、さらには、星形の形状に形成することもできる。
【0014】
さらに、分割された部材の端部を連結固定するための手段としては、それぞれの端部に形成された係止用部材から構成することができる。この係止用部材としては、分割部材の端部に係止部を形成することもできるし、また、係止のための部材を取り付けることもできるし、さらには、留め部材を外部から挿着する形式など、任意の形態を採ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この固定器具は、簡単に、且つ、確実に支柱に固定でき、そして、この固定器具に形成された挿通穴を利用して調整用綱を簡単に取り付けることができ、潮の干満や、流れに拘わらず、海苔網を所定の深さ、位置に正確に且つ簡単に配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例】
【0017】
実施例1
図1と図2は本発明の第1の実施例に係る固定器具10の外形を示し、図1は支柱に取り付ける前の状態を、また、図2は支柱aに取り付け固定した状態を示す。
【0018】
同図において、本発明の固定器具10は、硬質で耐食性のプラスチック材からなり、中央部が厚く端部が薄く形成された駒状の本体1からなり、その中央に支柱に通すための内孔2が設けられたリング状をなす。
【0019】
リング状の本体1は、二つの半弦状の分割部材11と12から形成されており、それぞれの一方の端部、すなわち、基部はピン3によって枢支されて開閉自在に構成されている。
【0020】
そして、それぞれの分割部材11と12の他方の端部、すなわち、開放端部には切り込み4が形成され、その切り込み4にはそれぞれの分割部材の開放端部を連結して全体をリング状に形成するための係止器具5が設けられている。
【0021】
この切り込み4は、図2に示すように、分割部材11と12の開放端部を連結して全体をリング状に形成して、支柱aを内孔2に固定した際、係止器具5がリング状の固定器具10の外周面から外方に突出した場合には、海苔網の作業の邪魔になって、係止器具5による係止が外れたりしないようにするためである。
【0022】
また、係止器具5としては、留め金式の他にバネ材を使用し、その両端を係止する方式のものを使用することもできる。この際には、分割部材の開放端部に切り込み4を形成する代わりに、その外周面に溝を形成することができる。また、この係止器具5としては、各分割部材に一体的に係止機構を形成しても良いし、また、スプリングによって係止する方式のものを使用してもよい。
【0023】
6は、内孔2の内周に沿って設けられた滑り止めであって、器具10を支柱の外周面に緊締した際、滑り落ちるのを防止するためのものである。
【0024】
7は、器具表面から裏面に貫通して設けた海苔網を海面下の特定位置に保持するための調整綱を挿通するための穴を示す。
【0025】
本発明の固定器具10は、分割部材11と12を開いた状態で、支柱に取り付けたのち、図2に示すように、それぞれ分割部材11と12の開放端に取り付けられた係止器具5を留めるだけて、簡単に、支柱aに強く緊締し固定することができる。
【0026】
固定器具10は、このように、支柱aに強く固定されているので、海苔網の海面下の停止位置を調整する調整綱は、この固定器具10に取り付けるだけで機能させることができ、従来のように、調整綱そのものを支柱に緊締させるものではないので、その取り付け作業は簡単になる。
【0027】
図3は、本発明の固定器具10の使用形態を、浮遊環fを使用した場合を例に挙げて説明する。勿論、浮遊環fを使用しないで、直接、吊り綱bによって、海苔網cの支持のために使用することもできる。
【0028】
同図において、Iは干潮時の水位を、また、IIは満潮時の水位を示す。本発明の固定器具10は、干潮と満潮の中間の水位の時期を見計らって、上記の要領で、満潮時の水位IIよりも1m程度低い位置で、支柱aに取り付け固定している。
【0029】
図示の場合、深さ調整綱gは、浮動環fを介して取り付けられた海苔網cを、干潮、満潮を問わず、海面下0.5mに位置させるために、浮動環fを所定の位置にあるようにするための綱であって、支柱aの固定器具10の僅か上方で、結び固定され、固定器具10を介して、固定器具10の下方位置に配置された浮動環fに取り付けられている。
【0030】
その深さ調整綱gの長さは、干満の差の程度の長さがよい。そして、浮動環fには海苔網cを支持する吊り綱bが取り付けられている。そして、干満の差によって、浮動環fが上下し、それに伴って、浮動環fに取り付けられた吊り綱bも上下する。
【0031】
その際、深さ調整綱gは固定器具10によって固定されているので、深さ調整綱gの長さを予め所定の長さに調整しておくことで、仮に、引き潮の程度が平均を超えた場合でも、浮動環fは深さ調整綱gの長さによって拘束されることになるので、浮動環fに取り付けられた海苔網cを支持する吊り綱bの動きも拘束されることになり、これによって、海苔網cを常に海面下の所定の位置に保持することが可能になる。
【0032】
実施例2
図4は、本発明の深さ調整綱の固定具の第2の実施例20に係るもので、図1に示す第1の実施例に対し、固定具本体1を薄くすることによって、取り扱いを便利にしたものである。
【0033】
この実施例20の場合も、本体1は、基部を回動自在に取り付けた2つの分割部材11と12から構成され、調整綱挿通用穴7は、本体の外面に設けた張り出し部材8に設けられている。
【0034】
この実施例20の場合の2つの分割部材11と12の開放端部の連結のための係止器具5は、図示するように、それぞれの分割部材11と12の開放端部に形成したピン挿入穴511を設けた凹凸部51と、ピン挿入穴521を設けた装着部材52と、それぞれのピン挿入穴521に挿入して分割部材11と12の開放端部を連結するための挿入ピン53とからなる。
【0035】
この固定具20を支柱に取付け固定するには、分割部材11と12の開放端部を開いて支柱の周囲に囲繞したのち、図5に示す分割部材11と12の開放端部に形成した操作用の耳111,121を掴んで、分割部材11と12を支柱に締め付けたのち、係止器具5の装着部材52を分割端部に装着し、挿入ピン53をそれぞれの挿入穴521、511に挿入して、支柱aに締め付け固定する。
【0036】
そして、上記実施例1の場合と同じ要領で深さ調整綱gを固定したのち、吊り綱bを介して海苔網cを所定の海面下に保持する。
【0037】
実施例3
図6に実施例3の平面形状を示す。この実施例30は、上記それぞれの実施例の本体1が上方から見て、その外形が円形に形成されているのに対して、6角の星形に形成されており、円形の場合と対比して滑りがないように成されたものである。分割部材11,12の一方の端部はピン3によって相互に回動自在になっている。分割部材の相互を矢印の方向に寄せることによって、一方の分割部材11の端部に形成されたフック54が、他方の分割部材12の先端に形成された留め部材55に係止されて、図示しない支持材に固定される。7は、星形外形の突出部に形成された調整綱挿通用穴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の固定器具の第1の実施例を示す。
【図2】第1の実施例の固定器具を支柱に取り付けた状態を示す。
【図3】本発明の固定器具の作動状態を示す。
【図4】本発明の固定器具の第2の実施例を示す。
【図5】第2の実施例の固定器具を支柱に取り付けた状態を示す。
【図6】第3の実施例の平面形状を示す。
【図7】一般の海苔養殖網の態様を示す。
【符号の説明】
【0039】
10、20 固定器具
1 本体 11、12 分割部材
2 内孔 3 ピン 4 切り込み
5 係止器具、係止部
51 凹凸部 52 装着部材 511,521 ピン挿入穴
53 挿入ピン 54 フック 55 留め部材
6 滑り止め 7 調整綱挿通用穴
a 支柱 b 吊り綱 c 海苔網 d 伸子棒 e 縁綱
f 浮動環 g 深さ調整綱
I、II 海面の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて立設された支柱に取り付けられた海苔養殖網の深さ調整綱を固定するために前記支柱に取り付けられる固定器具であって、
リングを半円状に分割した形状の部材からなり、
この分割された部材の一方の端部は、回動自在に連結され、他方の端部は連結固定可能に形成された海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具。
【請求項2】
リングが平面から見て円形環状、または、基本的に外形が多角形状または星形をなす請求項1に記載の海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具。
【請求項3】
他方の端部を連結固定するための手段が、それぞれの端部に形成された係止用部材から構成されている請求項1に記載の海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具。
【請求項4】
それぞれの他方の端部に設けられた部材から構成されている連結固定するための手段が、それぞれの他方の端部に設けられた部材と外部からの挿着部材とから構成されている請求項3に記載の海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具。
【請求項5】
リングを半円状に分割した部材の内面には、取り付けられる支柱との滑りを防止するための手段が施されている請求項1に記載の海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具。
【請求項6】
滑りを防止するための手段が、凹凸面の形成または研磨用シートを貼付したものである請求項5に記載の海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具。
【請求項7】
海苔養殖網が支柱に海面高さに応じて浮動する浮き輪に取り付けられたを吊り綱を有し、この浮き輪に取り付けられた吊り綱を介して支持されたものであり、固定器具は、前記浮き輪の浮動の高さを所定位置に調整する調整綱を固定するためのものである請求項1に記載の海苔養殖網の深さ調整綱の固定器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−151491(P2007−151491A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353477(P2005−353477)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(505452542)
【Fターム(参考)】