説明

海藻の養殖方法およびその装置

【課題】 設置作業が簡便かつ安価であることはもとより、昆布等の海藻の仮根を吸着しやすく抜け落ちにくくするとともに、潮の流れや栄養分、海藻の根や葉の成長方向等が天然の海藻が育つ自然環境にできるだけ近い養殖環境を構成して高品質の海藻を提供し、しかも海底で魚礁としての役割も果たし得る海藻の養殖方法およびその装置を提供する。
【解決手段】 長尺平帯状に形成した養殖ベルト2の一方面に海藻の種苗を植え付け、その一方面を上方に向けて海中に張設して海藻を繁殖させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆布やワカメ等の海藻の養殖技術に関し、特に長尺平帯状のベルトを利用して海藻が育成される自然界に近い養殖環境を形成し、海水の循環も活発にして人工魚礁をも形成することができる海藻の養殖技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から昆布の安定した収穫量を確保するために昆布の養殖方法が提案されている。現在、実用化されている養殖方法としては、昆布の種苗が付けられた短い糸をロープの撚り目の間に挟み込むようにして植え付け、この種苗が仮植されたロープを海中に垂らしたり展張し、当該ロープに昆布の仮根を付けさせて成長させることが行われている。例えば特開平9−224510号公報に記載の昆布の養殖方法は、図25および図26に示すように、昆布の種苗が仮植された多数のロープ(養成網)12をフロート13とおもり14を使って海面から2mの位置に垂れ下げて、海中で横方向に昆布を成長させる技術が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−224510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、天然昆布等の海藻の生育環境に鑑みると、海藻は海底の岩場等にしっかりと仮根を張り、葉状体(葉)を潮の流れに従って揺らし、その葉状体全体から養分を吸収している。そして、図27乃至図29に示すように、天然昆布が岩場に根付いている状態をよく観察すると、天然昆布は葉状体の付け根の部分である葉柄(茎)から下方に多数の細かい仮根を分岐させており、それら多数の仮根によって岩場を掴むというよりも、仮根の先端面を吸盤のように使って岩場の表面に広く吸着させていることがわかる。したがって、昆布等の海草を養殖する場合、上述した天然昆布等が育つ自然環境や仮根の吸着状態をできる限り再現した方が天然昆布に近い品質の昆布を繁殖させられるものと考えられる。
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1をはじめ従来の昆布の養殖方法においては以下に示すような問題がある。
1.ロープを使用しているため、昆布の仮根が吸着する面が小さく、岩場の表面のように広く吸着できない。したがって、時化など、潮の流れが強くなるとロープから抜け落ち易いという問題がある。特に、養殖に使用されるロープは、昆布の種苗を植え付ける際、人手によってロープの撚り目を広げて、そこに昆布種苗が付いた糸をねじ込むようになっているため、容易に手で撚り目が広げられるよう、太さが約1.5cm径程度のロープが使用される。このような細いロープでは岩場の接着面とまったく異なるため、品質の良い昆布は育成できない。
2.時化などによって昆布が揺れた場合、昆布の仮根は回転方向の力を受けるが、引っ張られているロープは昆布の揺れに影響されずにほとんど回転しないため、昆布の仮根とロープとの間に大きなせん断応力が生じてしまう。このとき、昆布がロープから抜け落ちやすいという問題がある。
3.ロープで養殖される昆布は、天然昆布に比べて品質が劣るという問題がある。この要因の一つには、断面が円形状であるロープの場合、昆布の仮根がロープに巻き付くように伸びるため、上方に伸びようとする昆布とその成長方向が異なり、葉柄が歪むなど不自然な状況で育成されている要因が考えられる。特に、特許文献1に示すような、垂れ下げたロープを使って横方向に昆布を成長させる場合には、上方へ伸びようとする昆布の成長を阻害する可能性が高い。
4.また、ロープを使用する場合、船上での収穫の簡便化を考慮して海面から2m程度にロープが張られているが、海面近傍では海底とは異なり時化の影響を大きく受けるため抜け落ちる確率が高くなる。そもそも天然昆布が海面近くに浮いて生育しておらず、海面と海底とでは潮の流れや栄養分、重力の加わり方など様々な点において異なるであろうから、従来のロープを使用した育成環境では天然昆布に近い品質に生育できるとは考えにくい。
5.ロープの表面は曲線がきつく表面積も小さいため、水中浮遊している海藻の菌を海底の岩場のように付着させることは難しい。
6.一方、魚礁ブロック等を海底に沈めて海藻を根付かせる場合もあるが、魚礁ブロックは大きくて重いため、設置作業が大掛かりとなるし、危険も伴う。しかも、魚礁ブロックはその重量によって時間が経つと海底の砂地に沈んでしまう。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、設置作業が簡便かつ安価であることはもとより、昆布等の海藻の仮根を吸着しやすく抜け落ちにくくするとともに、潮の流れや栄養分、海藻の根や葉の成長方向等が天然の海藻が育つ自然環境にできるだけ近い養殖環境を構成して高品質の海藻を提供し、しかも海底で魚礁としての役割も果たし得る海藻の養殖方法およびその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る海藻の養殖方法の特徴は、長尺平帯状に形成した養殖ベルトの一方面に海藻の種苗を植え付け、その一方面を上方に向けて海中に張設して海藻を繁殖させる点にある。
【0008】
また、本発明において、前記養殖ベルトを網目状に構成したネット状養殖ベルトを海中に張設することが好ましい。
【0009】
さらに、本発明において、前記ネット状養殖ベルトは、複数本の使用済みのシートベルトを網目状に縫合して構成されることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、前記養殖ベルト幅は3cm〜15cmの範囲内に形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明に係る海藻の養殖装置の特徴は、海藻の種苗が植え付けられる長尺平帯状の養殖ベルトを網目状に構成したネット状養殖ベルトと、このネット状養殖ベルトを展張させた状態で海底の岩や砂地等に固定される張設部材とを有する点にある。
【0012】
また、本発明において、前記張設部材は、内側に圧縮空気を通過し得る通気孔を備えた筒状支柱と、この筒状支柱の下端部に前記通気孔を開口してフランジ状に形成された海底抜け防止プレートと、前記海底抜け防止プレートの上方に所定間隔を隔ててフランジ状に形成された傾斜防止プレートと、この傾斜防止プレートの上方で前記ネット状養殖ベルトを結着するベルト結着部とを有することが好ましい。
【0013】
さらに、本発明において、前記傾斜防止プレートには、海底の砂地に埋められた際、傾斜防止プレートの下方に空隙が生じるのを防止する空隙防止孔が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下のいずれか1つ乃至それ以上の効果を効果を奏することができる。
1.使用済みのシートベルトを使用することができるし、作業が1人でもできるほど簡単かつ安価な設置作業となる。
2.昆布等の海藻の仮根が吸着しやすく抜け落ちにくい養殖環境を提供する。
3.潮の流れや栄養分、海藻の根や葉の成長方向等が天然の海藻が育つ自然環境にできるだけ近い養殖環境を提供し、天然海藻に近い品質の海藻が育成できる。
3.海底の養殖場が魚礁としての役割も果たすことができる。
4.養殖装置が海底の砂地に簡単に埋まらないような工夫を備え、砂地の状況に合わせて高さを調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る海藻の養殖方法およびその装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
本実施形態における海藻の養殖方法およびその装置1は、シートベルト等の長尺平帯状のベルトを海藻を養殖させる養殖ベルト2として利用し、この養殖ベルト2の平坦面に海藻の仮根を吸着させてしっかり根付かせ、潮の流れに対しては海藻の揺れに合わせて養殖ベルト2がゆったりと揺動するようになっている。
【0017】
図1および図2は、本実施形態における昆布の養殖装置1を示す図である。図1に示すように、本実施形態の昆布養殖装置1は、昆布の種苗が植え付けられる長尺平帯状の養殖ベルト2を網目状に構成したネット状養殖ベルト3と、このネット状養殖ベルト3を展張させた状態で海底の岩や砂地等に固定する張設部材4とを有している。
【0018】
図1に示すように、ネット状養殖ベルト3は、ベルト幅が約5cmのシートベルトからなる養殖ベルト2を縦および横に8本ずつ並べて交差部分を縫合し、一辺が約2.1mの正方形状に形成されている。ネット状養殖ベルト3の4隅には、張設部材4に結着するための結着ベルト5が対角線上の外方向に延出されて縫合されている。前記結着ベルト5の先端部は折り返されてループ状に縫合されており、ここに紐6が通されて張設部材4に結着されるようになっている。本実施形態で使用する養殖ベルト2は一般的な車載用のシートベルトを利用するため、そのベルト幅が約5cmであるが、これに限る必要はなく、昆布の仮根の吸着面を確保しつつ、昆布の揺れに伴って揺動すること、および間引きの手間を抑えることを考慮すれば、約3cm〜15cmの範囲であることが好ましい。また、養殖ベルト2の素材は、ポリアミドやポリエステル、強化ナイロン等の布地が、縫合加工できる、素材コストが安いこと、昆布の仮根が根付きやすいこと、潮の流れに揺れすぎず、昆布の揺れに合わせて多方向に適度な可撓性を有すること、腐食しにくいことなどの観点から好ましいが、これに限るものではない。適性の差は存在しても養殖できれば他の素材に代替することができる。
【0019】
また、図1および図3に示すように、張設部材4は、円筒状の筒状支柱7と、この筒状支柱7の下端部にフランジ状に形成された海底抜け防止プレート8と、この海底抜け防止プレート8の上方に所定間隔を隔ててフランジ状に形成された傾斜防止プレート9と、前記筒状支柱7の上端部に取り付けられたベルト結着部10とを有している。
【0020】
筒状支柱7は、支柱本体71の内側にスライド支柱72が長軸方向に沿って摺動自在に収納されている。支柱本体71の上部には固定穴73が貫通されており、この固定穴73に合わせるようにしてスライド支柱72には長手方向に複数の高さ調整穴74が穿孔されている。これらの穴には、高さ調整ボルト75が貫通されて所定の高さで高さ調整ナット76により締結される。これらによってネット状養殖ベルト3を展張する海底からの高さを適宜調整可能であり、設置後の高さ調整や砂地に埋まりそうになったネット状養殖ベルト3を高い位置に移動できる。
【0021】
また、支柱本体71およびスライド支柱72は、いずれも上端から下端まで中空に貫通されており、圧縮空気が通気される通気孔(図示せず)が形成されている。後述するように、筒状支柱7の通気孔に上から圧縮空気を入れて下方から噴射させることで、海底の砂地を掘り起こし、筒状支柱7を埋設するようになっている。
【0022】
海底抜け防止プレート8は、筒状支柱7の下端部に溶接されている。図4に示すように、海底抜け防止プレート8は、直径約40cmの円板状に形成されており、その中央部に筒状支柱7の通気孔に連通する開口部81が形成されている。このような構成によって、前記開口部81から圧縮空気を噴射して砂地を掘り起こし、海底に埋設される。そして、フランジ状の形状によって筒状支柱7が抜けたり、傾くのを防止するようになっている。
【0023】
傾斜防止プレート9は、筒状支柱7の支柱本体71のほぼ中間位置に溶接されている。図5に示すように、傾斜防止プレート9は、直径約40cmの円板状に形成されており、このフランジ状の形状によって、前記海底抜け防止プレート8と共に筒状支柱7が傾くのを防止する。また、傾斜防止プレート9の中央部には支柱本体71に嵌め込むための嵌合穴91が形成されている。この嵌合穴91の周囲には、外方向に三角形状の頂点を配する空隙防止孔92が形成されている。この空隙防止孔92は、図6に示すように、張設部材4を埋設する際、圧縮空気を噴射して砂地を吹き飛ばすため、傾斜防止プレート9の下方に空隙が生じてしまう。傾斜防止プレート9の下方に空隙が存在していると、筒状支柱7が傾きやすいし、抜けやすい。したがって、そのような空隙を埋めるため、傾斜防止プレート9の上方から空隙防止孔92を通して砂を落とし、空隙をなくすようになっている。
【0024】
なお、空隙防止孔92が大きすぎると、抵抗部分が小さくなるので傾斜防止効果および抜け防止効果が低減されてしまう。このため、前記空隙防止孔92の形状は三角形状の頂点を外方向に向けた形状に形成され、筒状支柱7に近い位置に生じる空隙を埋めるのに効果的で、かつ必要な程度の大きさに形成されている。
【0025】
また、ベルト結着部10は図7に示すように、十字円形状に形成されており、十字と輪の間の穴部分に結着ベルト5に結ばれた紐6が結着されるようになっている。また、図8に示すように、複数の昆布養殖装置1が連結されて並置される場合には、ベルト結着部10の各穴に四方から結着ベルト5の紐6が結着される。
【0026】
なお、結着ベルト5には紐6が結ばれることを例示したが、これに限る必要はなく、ネット状養殖ベルト3および張設部材4のそれぞれに結着ベルト5を結着しておき、図9に示すような複数のベルト通し孔11aを形成したベルト留板11を使用し、両方の結着ベルト5を前記ベルト通し孔11aに通して折り返し、連結するようにしてもよい。
【0027】
つぎに、本実施形態の昆布の養殖装置1の作用とその養殖方法について説明する。
【0028】
本実施形態の昆布の養殖装置1は、張設部材4を海底の所定位置に打ち込んでおき、その後、ネット状養殖ベルト3を展張するように結着する。張設部材4を海底に打ち込む場合、船上にコンプレッサー等の圧縮空気を排出する装置を載せておき、ホースを介してベルト結着部10を外した筒状支柱7の上端から通気孔に連結する。そして、張設部材4を海底に運び、筒状支柱7の下端の開口部81から圧縮空気を噴射して砂地を吹き飛ばしながら掘り起こし、張設部材4の海底抜け防止プレート8および傾斜防止プレート9を埋設して、前記筒状支柱7をまっすぐ上に向けて立てる。
【0029】
このようにして他の張設部材4も適当な間隔を隔てて立設した後、筒状支柱7の上端にベルト結着部10をボルト等によって固定する。このベルト結着部10にネット状養殖ベルト3の各結着ベルト5を紐6などで結んで結着し、適当な張力をもって展張する。この場合、図9に示すようなベルト留板11を使用すれば、ネット状養殖ベルト3の張りの調整がし易い。また、ネット状養殖ベルト3には、あらかじめ一方面に昆布の種苗が付けられた糸が取り付けられており、この昆布種苗が植えられた一方面を上に向けて張設部材4に設置される。
【0030】
このようにして1ユニットの昆布の養殖装置1の設置が完了する。もし、複数ユニットを設置する場合には、図8に示すように、張設部材4を複数のネット状養殖ベルト3で共有することにより、効率的に設置できる。
【0031】
昆布の養殖装置1の設置後、昆布は養殖ベルト2の上面に沿って仮根を伸ばし、その先端を吸着させながら広がる。数ヶ月後には昆布が生い茂るように成長する。このような昆布の生育状況を観察した結果を図10〜図19に示す。
【0032】
図10はネット状養殖ベルト3を張設した状態を示す。図11は約3週間後の育成状況を示すものであり、昆布が10cm前後に育っている。図12は40日後の昆布の育成状況を示すものであり、徐々に成長している。図13は60日後の昆布の育成状況を示す図である。根株が大きくなっていることがわかる。図14および図15は約100日経過後の昆布の育成状況を示す図である。昆布がネット状養殖ベルト3覆って隠してしまうほど生い茂っている。図15に示すように、昆布の仮根が養殖ベルト2の上面に吸着している。図16乃至図19は、約150日経過後の昆布の育成状況を示す図である。通常、昆布は2年周期で収穫期を迎えるが、図に示すように本実施形態による養殖昆布は1年目にもかかわらず、天然昆布と同等な肉厚と大きさの昆布に成長しているといえる。また、図17から図19に示すように、昆布の仮根が多数分岐して伸び、その先端を養殖ベルト2の表面の折り目にしっかりと吸着し、ベルト幅いっぱいに広がっていることが観察できる。これは、図27乃至図29に示す岩場に育つ天然昆布の仮根の生育状態と類似していることがわかる。そして、その仮根から上方に向かって葉柄が伸び、葉状体が大きく広がることができている。
【0033】
また、以上のように昆布が大きく成長しても、その重量にネット状養殖ベルト3は耐えることができる。これは各養殖ベルト2がシートベルトのような布地で形成されているため必要以上に伸びないこと、ネット状に構成されているため弛みにくいからである。さらに、張設部材4も海底抜け防止プレート8および傾斜防止プレート9の作用によって傾斜を防止し、倒れ難くしていることも理由である。
【0034】
以上のような本実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
1.養殖ベルト2が昆布の仮根との接地面を広く確保するため、天然昆布が岩場に仮根を張り巡らせるのと同様な作用を得ることができ、しっかりと根を張ることができる。
2.養殖ベルト2は可撓性を備えているため、昆布が潮の流れによって揺れると、これに伴って各養殖ベルト2も柔軟に揺動できるので、昆布の仮根と養殖ベルト2との間に大きなせん断力が生じるのを抑制することができ、昆布の抜け落ちを防止できる。
3.養殖ベルト2の上面に昆布の仮根を吸着させられるため、仮根の育成方向と昆布の成長方向が自然であり、従来のような葉柄が歪んだ成長をするなどの適正な成長を阻害しない。
4.ネット状養殖ベルト3は適当な間隔を空けて昆布を育成できるので、間引き処理が軽減されるし、海底に安定して張設できるため、潮の流れや栄養分の吸収が天然昆布の育成環境に極めて近く、天然昆布のような品質の良い昆布を安定的に養殖できる。
5.張設部材4を海底や岩盤に固定して、ネット状養殖ベルト3を張設するだけなので、設置が極めて簡単で1人でも作業可能である。また、廃品のシートベルトを使用することができるので、低コストで設置できる。
6.図20〜図24に示すように、昆布の養殖装置1を海底に設置すれば、適度な潮の流れと隠れ場所を確保することができ、ウニやナマコ、クロガシラ等の魚介類が棲息できる魚礁を形成することができる。したがって、養殖装置としてだけでなく、人工魚礁としての高付加価値まで兼ね備えている。これは従来の人工魚礁ブロックに比べて、比較にならないほど軽くて設置作業が簡単であり、安全な作業となる。
7.従来の魚礁ブロックの場合、その重量によって時間の経過と共に砂地に沈んでしまうが、本実施形態の場合、筒状支柱7は軽くて細いので沈みにくいし、仮に沈みはじめても高さ調整が可能なので簡単に海底からの高さを調整できる。
8.近年、昆布などの海藻が、森林と同等またはそれ以上に二酸化炭素の削減に寄与することが環境省の調査で明らかとなり、海藻を育成する魚礁の設置が促進されている。この点、本実施形態の養殖装置は極めて簡便な作業で設置することができ、効果的に海藻を増殖できるため、二酸化炭素の削減による環境保全に資することもできる。
【0035】
なお、本発明に係る海藻の養殖方法およびその装置は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0036】
例えば、張設部材4の海底抜けや傾斜を防止するために、円板状のプレートを使用しているがこれに限る必要はなく、抜け防止や傾斜防止の作用効果を奏するのであれば様々な形状のプレートを使用してもよく、複数枚のプレートを筒状支柱7の長手方向に沿って羽根のように配置する構成としてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、ネット状養殖ベルト3を海底に張設する例を示したが、ネット状以外の形状に形成してもよい。また、シートベルトを縫合するのではなく、予めネット状に縫製した製品を作成してもよい。さらに、養殖ベルト2を従来のロープに代えて海底から離れた海中に水平に吊っても、従来装置に比べて所定の効果を奏することができる。
【0038】
さらに、本実施形態の張設部材4は、砂地に埋設する場合を例示したが、岩場に設置してもよい。この場合、岩場を掘削して支柱が倒れないように接着材等によって立設するようになる。
【0039】
また、ネット状養殖ベルト3は多数の養殖ベルト2を縫合して連結するのが腐食や強度の点から好ましいが、縫合に代えて鋲を打って連結することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る海藻の養殖装置の実施形態を示す平面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】本実施形態における張設部材を示す図であり、(a)は筒状支柱を縮めた状態を示し、(b)は筒状支柱を伸ばした状態を示す図である。
【図4】本実施形態における張設部材の海底抜け防止プレートを示す平面図である。
【図5】本実施形態における張設部材の傾斜防止プレートを示す平面図である。
【図6】傾斜防止プレートの下方に生じる空隙を示す図である。
【図7】本実施形態における張設部材のベルト結着部を示す平面図である。
【図8】本実施形態の昆布の養殖装置を複数ユニット連設した状態を示す図である。
【図9】本実施形態において結着ベルトを張設部材に結着する際に使用するベルト留板を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は結着ベルトを結着した状態を示す図である。
【図10】本実施形態の昆布の養殖装置を海底に設置した状態を示すデジタル写真画像である。
【図11】本実施形態の昆布の養殖装置を設置して3週間経過後の昆布の育成状態を示すデジタル写真画像である。
【図12】本実施形態の昆布の養殖装置を設置して約40日経過後の昆布の育成状態を示すデジタル写真画像である。
【図13】本実施形態の昆布の養殖装置を設置して約60日経過後の昆布の育成状態を示すデジタル写真画像である。
【図14】本実施形態の昆布の養殖装置を設置して約100日経過後の昆布の育成状態を示すデジタル写真画像である。
【図15】図14における昆布の仮根の吸着状態を示すデジタル写真画像である。
【図16】本実施形態の昆布の養殖装置を設置して約150日経過後の昆布の育成状態を示すデジタル写真画像である。
【図17】図16における昆布の仮根の吸着状態を示すデジタル写真画像である。
【図18】図16における昆布の仮根の吸着状態を示す他のデジタル写真画像である。
【図19】図16における昆布の仮根の吸着状態を示す他のデジタル写真画像である。
【図20】本実施形態が海底にて魚礁としての機能も果たすことを示す図であって、昆布の養殖装置の下に棲息するウニを示すデジタル写真画像である。
【図21】本実施形態の昆布の養殖装置の下に棲息するナマコを示すデジタル写真画像である。
【図22】本実施形態の昆布の養殖装置の下に棲息するイソギンポの稚魚を示すデジタル写真画像である。
【図23】本実施形態の昆布の養殖装置の下に棲息するクロガシラを示すデジタル写真画像である。
【図24】本実施形態の昆布の養殖装置の下に棲息するヒトデを示すデジタル写真画像である。
【図25】従来のロープを使用した養殖装置を示す図である。
【図26】図25で示す従来の養殖装置で養殖した昆布の育成状態を示す図である。
【図27】天然昆布が岩に仮根を張っている状態を示すデジタル写真画像である。
【図28】図27を拡大して仮根の先端における吸着状態を示すデジタル写真画像である。
【図29】図27を拡大して仮根の先端における吸着状態を示す他のデジタル写真画像である。
【符号の説明】
【0041】
1 昆布の養殖装置
2 養殖ベルト
3 ネット状養殖ベルト
4 張設部材
5 結着ベルト
6 紐
7 筒状支柱
8 海底抜け防止プレート
9 傾斜防止プレート
10 ベルト結着部
11 ベルト留板
11a ベルト通し孔
12 ロープ(養成網)
13 フロート
14 おもり
71 支柱本体
72 スライド支柱
73 固定穴
74 高さ調整穴
75 高さ調整ボルト
76 高さ調整ナット
81 開口部
91 嵌合穴
92 空隙防止孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺平帯状に形成した養殖ベルトの一方面に海藻の種苗を植え付け、その一方面を上方に向けて海中に張設して海藻を繁殖させることを特徴とする海藻の養殖方法。
【請求項2】
請求項1において、前記養殖ベルトを網目状に構成したネット状養殖ベルトを海中に張設することを特徴とする海藻の養殖方法。
【請求項3】
請求項2において、前記ネット状養殖ベルトは、複数本の使用済みのシートベルトを網目状に縫合して構成されることを特徴とする海藻の養殖方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかにおいて、前記養殖ベルト幅は3cm〜15cmの範囲内に形成されていることを特徴とする海藻の養殖方法。
【請求項5】
海藻の種苗が植え付けられる長尺平帯状の養殖ベルトを網目状に構成したネット状養殖ベルトと、
このネット状養殖ベルトを展張させた状態で海底の岩や砂地等に固定される張設部材とを有することを特徴とする海藻の養殖装置。
【請求項6】
請求項5において、前記張設部材は、内側に圧縮空気を通過し得る通気孔を備えた筒状支柱と、この筒状支柱の下端部に前記通気孔を開口してフランジ状に形成された海底抜け防止プレートと、前記海底抜け防止プレートの上方に所定間隔を隔ててフランジ状に形成された傾斜防止プレートと、この傾斜防止プレートの上方で前記ネット状養殖ベルトを結着するベルト結着部とを有することを特徴とする海藻の養殖装置。
【請求項7】
請求項6において、前記傾斜防止プレートには、海底の砂地に埋められた際、傾斜防止プレートの下方に空隙が生じるのを防止する空隙防止孔が形成されていることを特徴とする海藻の養殖装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図25】
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【図26】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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