海藻類の生長促進方法
【課題】 海藻類に対して所定期間経過後の葉長や葉面積を飛躍的に増大させることができ、少量かつ安価に顕著な生長促進効果を実現することができる海藻類の生長促進方法を提供すること。
【解決手段】 天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにするという技術的手段を採用したことによって、海藻類の生長促進方法を完成させた。
【解決手段】 天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにするという技術的手段を採用したことによって、海藻類の生長促進方法を完成させた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類の育成技術の改良、更に詳しくは、海藻類に対して所定期間経過後の葉長や葉面積を飛躍的に増大させることができ、少量かつ安価に顕著な生長促進効果を実現することができる海藻類の生長促進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水中に生息する海藻類としては、アマモ、小アマモ、エビアマモなどの海草類や、ワカメ、コンブ、アラメなどの海藻類などは馴染みが深い。
【0003】
ところで、かかる海藻類は、単に食用に供されているだけでなく、例えばコンブには、カリウム、カルシウム、アルギン酸、ヨード、フコイダン、フコサンチン、ラミニンなどの有効成分が含まれており、がん予防、高血圧予防、動脈硬化予防、便秘予防、骨粗しょう症予防に効果があると言われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
したがって、食用や上記のような有効成分を多く抽出するためにも、収穫量を増加させることが要望されており、従来、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンによる生長促進剤も知られているが(例えば、特許文献2参照)、これらは高価であるという難点がある。
【特許文献1】特開2006−320320号公報(第4頁、段落〔0002〕)
【特許文献2】特開平8−53302号公報(第2−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の海藻類の育成方法に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、海藻類に対して所定期間経過後の葉長や葉面積を飛躍的に増大させることができ、少量かつ安価に顕著な生長促進効果を実現することができる海藻類の生長促進方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0007】
即ち、本発明は、天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにするという技術的手段を採用したことによって、海藻類の生長促進方法を完成させた。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、混合液における添加剤の濃度を約5μg/mlにするという技術的手段を採用した。
【0009】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、混合液におけるpHを8.0〜8.2にするという技術的手段を採用した。
【0010】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、海藻類として、コンブ類またはホンダワラ類を用いるという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにすることによって、極微量のオリゴ糖を添加するだけで顕著な生長促進効果を得ることができる。
【0012】
したがって、本発明の促進方法によれば、海藻類に対して所定期間経過後の葉長や葉面積を飛躍的に増大させることができ、少量かつ安価に顕著な生長促進効果を実現することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0014】
本発明の実施形態を図1から図15に基づいて説明する。まず、本実施形態に使用する添加剤について説明する。この添加剤は、キチンまたはキトサンを少なくとも含有してなるオリゴマー(オリゴ糖)である。因みに、キチンは、おもにエビ、カニなど甲殻類の殻の主成分で、セルロースについで自然界に多く存在するバイオマスである。キチンは、化学的にはN−アセチル−β−(1→4)グリコシド結合を介して直鎖状に縮合したホモ多糖類であり、キトサンは、β−D−グルコサミンが直鎖状に縮合したホモ多糖類である。キトサンは、化学的にキチンを脱アセチル化することで得られる。キチンオリゴ糖(キチンオリゴマーともいう)は、N−アセチルグルコサミンがβ−(1→4)結合で2〜7個結合したオリゴ糖であり、キトサンオリゴ糖(キトサンオリゴマーともいう)は、D−グルコサミンがβ−(1→4)結合で2〜10個結合したオリゴ糖である。
【0015】
以下、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを添加することによる海藻類の生理活性、特に生長促進効果を調べ、添加量の最適濃度、海藻種別による生長促進効果を調べた実験結果を示す。
【0016】
〔実験条件〕
海藻類として、コンブ類(カジメ、アラメ)、ホンダワラ類(アカモク、ジョロモク)の計4種類を用い、できるだけ自然条件に近付けるため、人工気象機にて、温度16度、明暗周期12h:12hで約2100Lux(23.31μmol/m2 /sec)の光量で30日間培養した。培地には、敦賀湾の海水を滅菌ろ過したものを用い、シャーレ20ml中で培養した。
【0017】
また、海水の一般的な成分比を以下に示す。
〔海水の成分比(出展:たばこと塩の博物館)〕
水 96.6%
塩分 3.4%
(塩分内訳)
塩化ナトリウム(NaCl) 77.9%
塩化マグネシウム(MgCl2 ) 9.6%
硫酸マグネシウム(MgSO4 ) 6.1%
硫酸カルシウム(CaSO4 ) 4.0%
塩化カリウム(KCl) 2.1%
そして、本実施形態に用いる添加剤の種類および濃度を以下のように設定する。
【0018】
添加剤 濃度
(A)キチンオリゴマー 50μg/ml
(B)キチンオリゴマー 5μg/ml
(C)キチンオリゴマー 0.5μg/ml
(D)キチンオリゴマー 0.05μg/ml
(E)キトサンオリゴマー 50μg/ml
(F)キトサンオリゴマー 5μg/ml
(G)キトサンオリゴマー 0.5μg/ml
(H)キトサンオリゴマー 0.05μg/ml
また、本実施形態では、キチンオリゴマー/キトサンオリゴマーとの比較例として、従来の植物ホルモンであるオーキシン(インドール酢酸)およびサイトカイニン(ゼアチン)を対照例として挙げる。また、「コントロール」とは、相対値を算出する際の基準値(を1として定義するもの)であり、何も施さない状態のものを示す。
【0019】
添加剤 濃度
(P)オーキシン 0.05μg/ml
(Q)サイトカイニン 0.05μg/ml
(R)コントロール
『実験例1』
まず、図1および図2において、コンブ類(アラメ)における葉長について測定した結果を示す。なお、棒グラフの中心上下に描かれた線は、サンプル(10個)の上限から下限の分布範囲を示しており、グラフはこれらの平均値をとっている。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(F)について、コントロールの1.37倍を示す高い効果がみられた。また、キチンオリゴマー(D)およびキトサンオリゴマー(G)(H)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例2』
次に、図3および図4において、ホンダワラ類(アカモク)における葉長について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キチンオリゴマー(A)について、コントロールの1.31倍を示す高い効果がみられた。また、キトサンオリゴマー(E)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例3』
次に、図5および図6において、コンブ類における胞子体の体長について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(F)について、コントロールの3.57倍を示す極めて顕著な効果がみられた。また、キチンオリゴマー(A)(C)およびキトサンオリゴマー(E)(H)についても、1.3倍以上の高い効果がみられた。
『実験例4』
次に、図7および図8において、コンブ類における胞子体の葉面積について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キチンオリゴマー(B)について、コントロールの48.81倍を示し、また、キトサンオリゴマー(F)について、コントロールの11.71倍を示す極めて顕著な効果がみられる一方、キトサンオリゴマー(E)について、コントロールの2.29倍を示す高い効果がみられ、更にまた、キチンオリゴマー(C)およびキトサンオリゴマー(H)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例5』
次に、図9および図10にホンダワラ類における葉長について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(G)(H)について、それぞれコントロールの1.43倍および1.45倍を示す高い効果がみられ、また、キチンオリゴマー(B)(D)およびキトサンオリゴマー(E)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例6』
次に、図11から図13にコンブ類におけるクロロフィルa量(および葉長)について測定した結果を示す。この「クロロフィルa」は、葉緑素とも呼ばれ、植物が光合成を行うために不可欠な生理活性物質である。
〔結果〕
実験より、キチンオリゴマー(B)がコントロールの3.26倍、(C)が1.76倍、(D)が3.51倍を示す高い効果がみられた一方、キトサンオリゴマー(E)がコントロールの1.88倍、(F)が3.27倍、(G)が3.28倍を示す高い効果がみられた。
『実験例7』
図14および図15にホンダワラ類と葉長とクロロフィルa量について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(E)がコントロールの3.58倍、(F)が6.37倍、(G)が7.36倍、(H)が8.93倍を示す高い効果がみられた。
【0020】
また、海藻種によって葉長の生長促進の最適濃度に違いがみられた。その結果を以下に示す。
【0021】
海藻種 添加剤(濃度μg/ml) 相対値 備考
ホンダワラ(アカモク) キチンオリゴマー(A:50) 1.31 21日目
キトサンオリゴマー(E:50) 1.21 21日目
ホンダワラ(ジョロモク) キチンオリゴマー(B:5) 1.33 30日目
キトサンオリゴマー(G:0.5 ) 1.43 30日目
キトサンオリゴマー(H:0.05) 1.45 30日目
コンブ(カジメ) キチンオリゴマー(B:5) 1.50 21日目
キチンオリゴマー(D:0.05) 1.94 21日目
キトサンオリゴマー(G:0.5 ) 1.99 21日目
キトサンオリゴマー(H:0.05) 1.73 21日目
コンブ(アラメ) キトサンオリゴマー(F:5) 3.57 30日目
キチンオリゴマー(B:5) 48.81 30日目
キトサンオリゴマー(F:5) 11.07 30日目
〔pHについて〕
キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを海水に溶かした添加濃度が高い場合、pH6.1前後と酸性になり海藻生育が悪かった。色素が抜けているものもあった(一般的な日本海沿岸の海水pHは8.1〜8.2)。そこで上記のように濃度を0.05〜50μg/mlとして、pHを測定した結果、8.0〜8.2となり正常に生育した。
【0022】
以上のように、生長促進効果を示す物質として、植物ホルモンであるオーキシンやサイトカイニンが知られているが、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーはこれらの生長ホルモンより顕著な生長促進が認められた。
【0023】
また、生長培地中のキトサンオリゴ糖の添加濃度が5μg/mlでコンブ類のアラメが最大の生長を示し、無添加の約4倍の生長率を示した。これらの結果から、海藻培地に極微量のオリゴ糖を添加するだけで顕著な生長促進を示すことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の実験例1の結果を表わすグラフである。
【図2】本発明の実施形態の実験例1の結果を表わすグラフである。
【図3】本発明の実施形態の実験例2の結果を表わすグラフである。
【図4】本発明の実施形態の実験例2の結果を表わすグラフである。
【図5】本発明の実施形態の実験例3の結果を表わすグラフである。
【図6】本発明の実施形態の実験例3の結果を表わすグラフである。
【図7】本発明の実施形態の実験例4の結果を表わすグラフである。
【図8】本発明の実施形態の実験例4の結果を表わすグラフである。
【図9】本発明の実施形態の実験例5の結果を表わすグラフである。
【図10】本発明の実施形態の実験例5の結果を表わすグラフである。
【図11】本発明の実施形態の実験例6の結果を表わすグラフである。
【図12】本発明の実施形態の実験例6の結果を表わすグラフである。
【図13】本発明の実施形態の実験例6の結果を表わすグラフである。
【図14】本発明の実施形態の実験例7の結果を表わすグラフである。
【図15】本発明の実施形態の実験例7の結果を表わすグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類の育成技術の改良、更に詳しくは、海藻類に対して所定期間経過後の葉長や葉面積を飛躍的に増大させることができ、少量かつ安価に顕著な生長促進効果を実現することができる海藻類の生長促進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水中に生息する海藻類としては、アマモ、小アマモ、エビアマモなどの海草類や、ワカメ、コンブ、アラメなどの海藻類などは馴染みが深い。
【0003】
ところで、かかる海藻類は、単に食用に供されているだけでなく、例えばコンブには、カリウム、カルシウム、アルギン酸、ヨード、フコイダン、フコサンチン、ラミニンなどの有効成分が含まれており、がん予防、高血圧予防、動脈硬化予防、便秘予防、骨粗しょう症予防に効果があると言われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
したがって、食用や上記のような有効成分を多く抽出するためにも、収穫量を増加させることが要望されており、従来、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンによる生長促進剤も知られているが(例えば、特許文献2参照)、これらは高価であるという難点がある。
【特許文献1】特開2006−320320号公報(第4頁、段落〔0002〕)
【特許文献2】特開平8−53302号公報(第2−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の海藻類の育成方法に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、海藻類に対して所定期間経過後の葉長や葉面積を飛躍的に増大させることができ、少量かつ安価に顕著な生長促進効果を実現することができる海藻類の生長促進方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0007】
即ち、本発明は、天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにするという技術的手段を採用したことによって、海藻類の生長促進方法を完成させた。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、混合液における添加剤の濃度を約5μg/mlにするという技術的手段を採用した。
【0009】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、混合液におけるpHを8.0〜8.2にするという技術的手段を採用した。
【0010】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、海藻類として、コンブ類またはホンダワラ類を用いるという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにすることによって、極微量のオリゴ糖を添加するだけで顕著な生長促進効果を得ることができる。
【0012】
したがって、本発明の促進方法によれば、海藻類に対して所定期間経過後の葉長や葉面積を飛躍的に増大させることができ、少量かつ安価に顕著な生長促進効果を実現することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0014】
本発明の実施形態を図1から図15に基づいて説明する。まず、本実施形態に使用する添加剤について説明する。この添加剤は、キチンまたはキトサンを少なくとも含有してなるオリゴマー(オリゴ糖)である。因みに、キチンは、おもにエビ、カニなど甲殻類の殻の主成分で、セルロースについで自然界に多く存在するバイオマスである。キチンは、化学的にはN−アセチル−β−(1→4)グリコシド結合を介して直鎖状に縮合したホモ多糖類であり、キトサンは、β−D−グルコサミンが直鎖状に縮合したホモ多糖類である。キトサンは、化学的にキチンを脱アセチル化することで得られる。キチンオリゴ糖(キチンオリゴマーともいう)は、N−アセチルグルコサミンがβ−(1→4)結合で2〜7個結合したオリゴ糖であり、キトサンオリゴ糖(キトサンオリゴマーともいう)は、D−グルコサミンがβ−(1→4)結合で2〜10個結合したオリゴ糖である。
【0015】
以下、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを添加することによる海藻類の生理活性、特に生長促進効果を調べ、添加量の最適濃度、海藻種別による生長促進効果を調べた実験結果を示す。
【0016】
〔実験条件〕
海藻類として、コンブ類(カジメ、アラメ)、ホンダワラ類(アカモク、ジョロモク)の計4種類を用い、できるだけ自然条件に近付けるため、人工気象機にて、温度16度、明暗周期12h:12hで約2100Lux(23.31μmol/m2 /sec)の光量で30日間培養した。培地には、敦賀湾の海水を滅菌ろ過したものを用い、シャーレ20ml中で培養した。
【0017】
また、海水の一般的な成分比を以下に示す。
〔海水の成分比(出展:たばこと塩の博物館)〕
水 96.6%
塩分 3.4%
(塩分内訳)
塩化ナトリウム(NaCl) 77.9%
塩化マグネシウム(MgCl2 ) 9.6%
硫酸マグネシウム(MgSO4 ) 6.1%
硫酸カルシウム(CaSO4 ) 4.0%
塩化カリウム(KCl) 2.1%
そして、本実施形態に用いる添加剤の種類および濃度を以下のように設定する。
【0018】
添加剤 濃度
(A)キチンオリゴマー 50μg/ml
(B)キチンオリゴマー 5μg/ml
(C)キチンオリゴマー 0.5μg/ml
(D)キチンオリゴマー 0.05μg/ml
(E)キトサンオリゴマー 50μg/ml
(F)キトサンオリゴマー 5μg/ml
(G)キトサンオリゴマー 0.5μg/ml
(H)キトサンオリゴマー 0.05μg/ml
また、本実施形態では、キチンオリゴマー/キトサンオリゴマーとの比較例として、従来の植物ホルモンであるオーキシン(インドール酢酸)およびサイトカイニン(ゼアチン)を対照例として挙げる。また、「コントロール」とは、相対値を算出する際の基準値(を1として定義するもの)であり、何も施さない状態のものを示す。
【0019】
添加剤 濃度
(P)オーキシン 0.05μg/ml
(Q)サイトカイニン 0.05μg/ml
(R)コントロール
『実験例1』
まず、図1および図2において、コンブ類(アラメ)における葉長について測定した結果を示す。なお、棒グラフの中心上下に描かれた線は、サンプル(10個)の上限から下限の分布範囲を示しており、グラフはこれらの平均値をとっている。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(F)について、コントロールの1.37倍を示す高い効果がみられた。また、キチンオリゴマー(D)およびキトサンオリゴマー(G)(H)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例2』
次に、図3および図4において、ホンダワラ類(アカモク)における葉長について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キチンオリゴマー(A)について、コントロールの1.31倍を示す高い効果がみられた。また、キトサンオリゴマー(E)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例3』
次に、図5および図6において、コンブ類における胞子体の体長について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(F)について、コントロールの3.57倍を示す極めて顕著な効果がみられた。また、キチンオリゴマー(A)(C)およびキトサンオリゴマー(E)(H)についても、1.3倍以上の高い効果がみられた。
『実験例4』
次に、図7および図8において、コンブ類における胞子体の葉面積について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キチンオリゴマー(B)について、コントロールの48.81倍を示し、また、キトサンオリゴマー(F)について、コントロールの11.71倍を示す極めて顕著な効果がみられる一方、キトサンオリゴマー(E)について、コントロールの2.29倍を示す高い効果がみられ、更にまた、キチンオリゴマー(C)およびキトサンオリゴマー(H)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例5』
次に、図9および図10にホンダワラ類における葉長について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(G)(H)について、それぞれコントロールの1.43倍および1.45倍を示す高い効果がみられ、また、キチンオリゴマー(B)(D)およびキトサンオリゴマー(E)についても、1.2倍以上の良好な効果がみられた。
『実験例6』
次に、図11から図13にコンブ類におけるクロロフィルa量(および葉長)について測定した結果を示す。この「クロロフィルa」は、葉緑素とも呼ばれ、植物が光合成を行うために不可欠な生理活性物質である。
〔結果〕
実験より、キチンオリゴマー(B)がコントロールの3.26倍、(C)が1.76倍、(D)が3.51倍を示す高い効果がみられた一方、キトサンオリゴマー(E)がコントロールの1.88倍、(F)が3.27倍、(G)が3.28倍を示す高い効果がみられた。
『実験例7』
図14および図15にホンダワラ類と葉長とクロロフィルa量について測定した結果を示す。
〔結果〕
実験より、キトサンオリゴマー(E)がコントロールの3.58倍、(F)が6.37倍、(G)が7.36倍、(H)が8.93倍を示す高い効果がみられた。
【0020】
また、海藻種によって葉長の生長促進の最適濃度に違いがみられた。その結果を以下に示す。
【0021】
海藻種 添加剤(濃度μg/ml) 相対値 備考
ホンダワラ(アカモク) キチンオリゴマー(A:50) 1.31 21日目
キトサンオリゴマー(E:50) 1.21 21日目
ホンダワラ(ジョロモク) キチンオリゴマー(B:5) 1.33 30日目
キトサンオリゴマー(G:0.5 ) 1.43 30日目
キトサンオリゴマー(H:0.05) 1.45 30日目
コンブ(カジメ) キチンオリゴマー(B:5) 1.50 21日目
キチンオリゴマー(D:0.05) 1.94 21日目
キトサンオリゴマー(G:0.5 ) 1.99 21日目
キトサンオリゴマー(H:0.05) 1.73 21日目
コンブ(アラメ) キトサンオリゴマー(F:5) 3.57 30日目
キチンオリゴマー(B:5) 48.81 30日目
キトサンオリゴマー(F:5) 11.07 30日目
〔pHについて〕
キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを海水に溶かした添加濃度が高い場合、pH6.1前後と酸性になり海藻生育が悪かった。色素が抜けているものもあった(一般的な日本海沿岸の海水pHは8.1〜8.2)。そこで上記のように濃度を0.05〜50μg/mlとして、pHを測定した結果、8.0〜8.2となり正常に生育した。
【0022】
以上のように、生長促進効果を示す物質として、植物ホルモンであるオーキシンやサイトカイニンが知られているが、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーはこれらの生長ホルモンより顕著な生長促進が認められた。
【0023】
また、生長培地中のキトサンオリゴ糖の添加濃度が5μg/mlでコンブ類のアラメが最大の生長を示し、無添加の約4倍の生長率を示した。これらの結果から、海藻培地に極微量のオリゴ糖を添加するだけで顕著な生長促進を示すことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の実験例1の結果を表わすグラフである。
【図2】本発明の実施形態の実験例1の結果を表わすグラフである。
【図3】本発明の実施形態の実験例2の結果を表わすグラフである。
【図4】本発明の実施形態の実験例2の結果を表わすグラフである。
【図5】本発明の実施形態の実験例3の結果を表わすグラフである。
【図6】本発明の実施形態の実験例3の結果を表わすグラフである。
【図7】本発明の実施形態の実験例4の結果を表わすグラフである。
【図8】本発明の実施形態の実験例4の結果を表わすグラフである。
【図9】本発明の実施形態の実験例5の結果を表わすグラフである。
【図10】本発明の実施形態の実験例5の結果を表わすグラフである。
【図11】本発明の実施形態の実験例6の結果を表わすグラフである。
【図12】本発明の実施形態の実験例6の結果を表わすグラフである。
【図13】本発明の実施形態の実験例6の結果を表わすグラフである。
【図14】本発明の実施形態の実験例7の結果を表わすグラフである。
【図15】本発明の実施形態の実験例7の結果を表わすグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにすることを特徴とする海藻類の生長促進方法。
【請求項2】
混合液における添加剤の濃度を約5μg/mlにすることを特徴とする請求項1記載の海藻類の生長促進方法。
【請求項3】
混合液におけるpHを8.0〜8.2にすることを特徴とする請求項1または2記載の海藻類の生長促進方法。
【請求項4】
海藻類として、コンブ類を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の海藻類の生長促進方法。
【請求項5】
海藻類として、ホンダワラ類を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の海藻類の生長促進方法。
【請求項1】
天然海水中に生息する海藻類を生長せしめるにあたり、キチンオリゴマーまたはキトサンオリゴマーを少なくとも含有してなる添加剤を前記天然海水中に溶解して混合せしめ、この混合液中における添加剤の濃度を0.05〜50μg/mlにすることを特徴とする海藻類の生長促進方法。
【請求項2】
混合液における添加剤の濃度を約5μg/mlにすることを特徴とする請求項1記載の海藻類の生長促進方法。
【請求項3】
混合液におけるpHを8.0〜8.2にすることを特徴とする請求項1または2記載の海藻類の生長促進方法。
【請求項4】
海藻類として、コンブ類を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の海藻類の生長促進方法。
【請求項5】
海藻類として、ホンダワラ類を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の海藻類の生長促進方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−173010(P2008−173010A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6549(P2007−6549)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【Fターム(参考)】
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