説明

海藻養殖用網の被覆剤及び被覆加工方法

【構成】 カルボニル基を有するPVA系樹脂、又はカルボニル基を有するPVA系樹脂と架橋剤からなる海藻養殖用網の被覆剤及び、被覆加工方法
【効果】 カルボニル基を有するPVA系樹脂、又はカルボニル基を有するPVA系樹脂と架橋剤からなる被覆剤を用いると耐水性が良好な皮膜を海藻養殖用網に被覆できる。また、カルボニル基を有するPVA系樹脂、又はカルボニル基を有するPVA系樹脂と架橋剤からなる被覆剤は製造して翌年も使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低温でも粘度変化が少なく、皮膜を形成した場合に耐水性が良好となる海苔養殖用網の被覆剤及び被覆加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海苔養殖用網の被覆剤は、従来はPVAを主成分とする被覆剤に、タンニン酸又はアルデヒドなどを添加して架橋ないし、不溶化することによって海藻養殖用網の表面に耐水性皮膜を形成させるものであった(特許文献1、特許文献2)。
また、PVAと尿素樹脂、メラミン樹脂を含有するものが知られている。
【特許文献1】特開昭55−34005号公報
【特許文献2】特開昭58−49759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PVAとアルデヒド又は尿素樹脂あるいはメラミン樹脂などの架橋剤を混合した被覆剤で海苔養殖用網を被覆すると表面に皮膜を形成するが、この皮膜は海中で徐々に溶出する。その為、網表面が徐々に毛羽立ち、この毛羽に珪藻や泥などの汚れが付着し、海藻の生育に悪影響を与えている。
また、PVAとアルデヒド又は尿素樹脂あるいはメラミン樹脂などの架橋剤を混合した被覆剤は徐々に増粘し、ついにはゲル状を呈し、使用できなくなる。海苔養殖用網の被覆加工は、例年7〜8月に行い、未使用の被覆剤は製造後にPVAと架橋剤が徐々に反応する為に増粘して、気温が低下する12月〜翌年2月の間にゲル状を呈する。一度ゲル状となった被覆剤はその後真夏の気温下でも元の状態には戻らない為に、製造した次の年には使えなくなる。使用不能となった被覆剤は産業廃棄物として処理され、環境に負荷をかけることになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
カルボニル基を分子内に有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする被覆剤を使用することにより、製品の経時的ゲル化を防止すると共に、耐水性の高い被膜を形成させることを見出し本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は次の通りである。
(1)カルボニル基を分子内に有するポリビニルアルコ−ル(PVA)系樹脂を主成分とすることを特徴とする海藻養殖用網の被覆剤。
(2)カルボニル基を分子内に有するPVA系樹脂が一般式化1で示されることを特徴とする(1)に記載の海藻養殖用網の被覆剤。
(3)架橋剤がアクリル樹脂、酢ビ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネ−ト、グルタルアルデヒド、ホルマリン、アジピン酸ジヒドラジドの内から選択される少なくとも1種の架橋剤であることを特徴とする(1)、(2)に記載の海藻養殖用網の被覆剤。
(4)(1)〜(3)に記載の被覆剤を用いて海藻養殖用網を被覆する被覆加工方法。
【発明の効果】
【0006】
一般式化1で示される分子内にカルボニル基を有するPVA系樹脂(以下Dポリマ−と略す)を主成分とする本発明の被覆剤は、海藻養殖用網の表面に良好な耐水性皮膜を形成する。また、気温が低い時期でもゲル化しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に示す。
本発明の被覆剤は、Dポリマ−を主成分としており、被覆剤中のDポリマ−の使用量は特に限定しないが、粘度が1000c.p.以上になると被覆加工時に海藻養殖用網同士が付着し、被覆加工の作業が煩雑になるので粘度が1000c.p.以下になることが好ましい。また、Dポリマ−の濃度が低すぎると海藻養殖用網の表面に良好な耐水性皮膜が得られなくなるので2%以上であることが好ましい。また、Dポリマ−はpH値が9以上になるとカルボニル基が徐々に失活する為、被覆剤のpH値は9以下が好ましい。
海藻養殖用網を被覆剤で加工する場合は、海藻養殖用網をそのまま被覆剤に浸漬、又は被覆剤を水で任意に希釈した液に浸漬して加工しても良い。加工は室内での自然乾燥、天日乾燥、加熱乾燥のいずれでも良い。
Dポリマ−単独で加工しても海藻養殖用網の表面に良好な耐水性皮膜を形成できるが、架橋剤を併用すると更に良好な耐水性皮膜が形成できる。架橋剤としてはアクリル樹脂、酢ビ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネ−ト、グルタルアルデヒド、ホルマリン、アジピン酸ジヒドラジドなどがあげられる。特に好ましいのは、メラミン樹脂、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)である。
また、架橋剤はあらかじめDポリマ−と混合しておいても良いし、使用時に添加して用いても良い。
本発明による被覆剤には肥料あるいは栄養分または顔料などの着色材を含有させても良い。
【実施例】
【0008】
以下に実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例で使用した海苔養殖用網は、ビニロン100%のものを使用した。
【0009】
(試験例1)
表1に示した被覆剤を調製して、海藻養殖用網を浸漬後、引き上げて天日乾燥して耐水性を調べた。
耐水性は被覆した海苔網を沸騰水に20分間浸漬して、撚りの解れ具合で判定した。なお、Dポリマ−は日本酢ビ・ポバ−ル社のDF−17とDF−20を用いた。
【0010】
【表1】

【0011】
表1の比較例1〜3と実施例1、3、5を比べると、PVA(日本酢ビ・ポバ−ル社)を用いた被覆剤では耐水性が得られず、DF−17又はDF−20を用いた被覆剤では耐水性が得られたことが分かる。また、比較例4〜15と実施例1〜6を比べるとDF−17又はDF−20が2%以下では耐水性が得られないことがわかる。逆にDF−17又はDF−20が多すぎて粘度が1000c.p.以上になると、海藻養殖用網同士がくっついて加工できなくなる。
又、実施例1、2と実施例3〜6を比較するとDF−17又はDF−20単独よりもメラミン樹脂、ADHを併用すると耐水性が向上することがわかる。
【0012】
(試験例2)
表2に示した被覆剤を製造して1年後に粘度を測定した。
【0013】
【表2】

【0014】
表2の比較例16、17と実施例7〜10を比較するとPVA単独の被覆剤又は、PVAとメラミン樹脂から成る被覆剤は1年後には増粘又はゲル化するが、DF−17又はDF−20単独の被覆剤及び、DF−17又はDF−20とメラミン樹脂から成る被覆剤は翌年3月も特に増粘が認められないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
カルボニル基を有するPVA系樹脂、又はカルボニル基を有するPVA系樹脂と架橋剤からなる被覆剤を用いると、耐水性が良好な皮膜を海藻養殖用網に形成することができる。 また、カルボニル基を有するPVA系樹脂、又はカルボニル基を有するPVA系樹脂と架橋剤からなる被覆剤は、製造後の粘度上昇がないため、製造後翌年でも使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基を分子内に有するポリビニルアルコ−ル(PVA)系樹脂を主成分とすることを特徴とする海藻養殖用網の被覆剤。
【請求項2】
カルボニル基を分子内に有するPVA系樹脂が一般式化1で示されることを特徴とする請求項1に記載の海藻養殖用網の被覆剤。
【化1】

【請求項3】
架橋剤がアクリル樹脂、酢ビ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネ−ト、グルタルアルデヒド、ホルマリン、アジピン酸ジヒドラジドの内から選択される少なくとも1種の架橋剤であることを特徴とする請求項1、2に記載の海藻養殖用網の被覆剤。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の被覆剤を用いて海藻養殖用網を被覆する被覆加工方法。

【公開番号】特開2006−180721(P2006−180721A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375114(P2004−375114)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000208787)第一製網株式会社 (24)
【Fターム(参考)】