説明

浸漬処理装置

【課題】車体製造ラインにおいて車体を液体貯留槽内の薬液に浸漬させる浸漬工程の処理効率をあげる。
【解決手段】ガイドレール111は、液体貯留槽102に溜められた電着塗装液105に近づくよう傾斜する下り傾斜部115及び上り傾斜部116と、これらから車体製造ラインFLの上流側及び下流側に水平に延びる上流側水平部114及び下流側水平部117と、を備える。車体104を搭載するハンガー112は、ガイドレール111に複数吊り下げ支持される。ハンガー112は、上流側水平部114もしくは下流側水平部117から吊り下がる場合、搬送ローラ181によって搬送される。ハンガー112は、下り傾斜部115もしくは上り傾斜部116から吊り下がる場合、ハンガー112に設けられたピニオンギア217が回動し、ピニオンギア217が下り傾斜部115及び上り傾斜部116に平行に設けられるラックギア119に噛合して自走する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車工場の車体製造ラインの途中に配置される浸漬処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車工場に設けられた車体製造ラインでは、車体を搬送し液体貯留槽内の薬液に浸漬する浸漬工程が行われる(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の図6には、浸漬処理装置が示されている。浸漬処理装置は、自動車の車体の製造ラインに設けられ、浸漬工程を実現する。浸漬処理装置は、電着塗装液が溜められている液体貯留槽と、車体を搬送して液体貯留槽に潜らせる車体搬送装置とを備える。車体搬送装置は、液体貯留槽の上方に位置するガイドレールと、ガイドレールに吊り下げられ車体を積載するハンガーとを備える。ガイドレールは、搬送方向の上流側から下流側に向けて、下り傾斜ガイドレールと水平ガイドレールと上り傾斜ガイドレールとがこの順に連なって形成される。このため、ハンガーがガイドレールに沿って移動すると、ハンガーに積載された車体は、斜めに入槽して電着塗装液に浸漬し、槽内で水平に搬送し、斜めに出槽する。なお、浸漬処理装置において電着塗装液に代えて液体貯留槽に洗浄液を溜め、車体をハンガーに積載し液体貯留槽に潜らせることで、車体の洗浄を行うこともできる。
【0004】
特許文献1に記載の車体搬送装置は、ハンガーをガイドレールに沿って搬送するパワーレールを備える。そして、この車体搬送装置では、車体が液体貯留槽から脱出するときに低速用パワーレールから高速用パワーレールに切り替えて、出槽時に車体から電着塗装液及び洗浄液等の薬液を早く排出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−223048号公報(段落0003〜0006、0028〜0030、図1、図2及び図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、車体製造ラインでは、オーバーヘッドコンベアがループ状に敷設され、ハンガーがこのオーバーヘッドコンベアに取り付けられてガイドレールに沿って一定間隔に配置されている。ここで、特許文献1に記載の技術を用いてハンガーの搬送速度を変化させると、全てのハンガーがパワーレールの速度変化に応じて同時に加速したり減速したりする。
【0007】
しかしながら、製造ラインにおける浸漬工程での処理効率を上げるためにハンガーの搬送速度を速めると、車体が液体貯留槽内の薬液に浸漬する時間が短くなってしまう。この場合、液体貯留槽の大きさをガイドレールに沿って長く設けなければならない。一方、液体貯留槽内の薬液に浸漬させる時間を長くするためにハンガーの搬送速度を遅くすると、浸漬工程での処理効率が悪くなってしまう。
【0008】
また、特許文献1に記載の技術では、パワーレール(低速用パワーレール、高速パワーレール)が全てのハンガーを一律に搬送する。このため、浸漬工程においてハンガーに搭載された車体の間隔は一律となる。つまり、特許文献1に記載の技術では、必要に応じて車体間隔を狭めたり広げたりして、浸漬工程の処理効率を上げることが難しい。
【0009】
本発明の目的は、車体製造ラインにおいて車体を液体貯留槽内の薬液に浸漬させる浸漬工程の処理効率をあげることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の浸漬処理装置は、車体製造ラインの途中に設けられ薬液が溜められる液体貯留槽と、前記液体貯留槽の上方を通過させて前記車体製造ラインの上流側から下流側にかけて延び、前記薬液に近づくよう傾斜する傾斜部と、前記傾斜部から前記車体製造ラインの上流側及び下流側の少なくとも一方に水平に延びる水平部と、を備えるガイドレールと、前記ガイドレールに沿って移動自在に当該ガイドレールに吊り下げ支持され、車体を搭載する複数のハンガーと、第1の駆動源を有し、当該第1の駆動源の駆動によって前記水平部から吊り下がる前記ハンガーを当該水平部に沿って搬送させる水平搬送部と、前記傾斜部に沿って当該傾斜部に平行に設けられるラックギアと、前記傾斜部に沿って当該傾斜部に平行に設けられる集電レールと、個々の前記ハンガーに設けられ、前記ハンガーが搬送される過程で前記ラックギアに噛合するピニオンギアと、個々の前記ハンガーに設けられ、第2の駆動源を有し、当該第2の駆動源の駆動によって前記ピニオンギアを回動させるピニオンギア駆動部と、個々の前記ハンガーに設けられ、前記集電レールにスライド接触し、前記第2の駆動源に配電する配電部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハンガーは別個独立に移動する。そして、水平搬送部の駆動によってガイドレールの水平部においてハンガーを早く搬送させることと、ピニオンギアの回動によってガイドレールの傾斜部においてハンガーをゆっくり搬送させることとが実現することができ、工程長を短くすることができる。したがって、車体製造ラインにおいて車体を液体貯留槽内の薬液に浸漬させる浸漬工程の処理効率をあげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一の実施の形態における、浸漬処理装置を搬送方向の右側から見た側面図である。
【図2】H鋼レール、ガイドレール、集電レール及びラックギアを示す平面図である。
【図3】上流側水平部に吊り下げられたハンガーを右側から見た側面図である。
【図4】ハンガーを車体製造ラインの下流側から見た側面図である。
【図5】上流側水平部から吊り下げられた状態のハンガーにおける、車体製造ラインの下流側から見たトロリー連結部の側面図である。
【図6】下り傾斜部から吊り下げられた状態のハンガーにおける、車体製造ラインの下流側から見たトロリー連結部の側面図である。
【図7】図6のA−A線断面図である。
【図8】制御回路が行う処理の流れについて示すフローチャートである。
【図9】第二の実施の形態における、下り傾斜部から吊り下げられた状態のハンガーにおける、車体製造ラインの下流側から見たトロリー連結部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の一形態を、図1ないし図8に基づいて説明する。本実施の形態を、説明の便宜上、第一の実施の形態と呼ぶ。図1は、浸漬処理装置101を搬送方向の右側から見た側面図である。浸漬処理装置101は、液体貯留槽102と、H鋼レール110と、二本のガイドレール111と、ハンガー112と、ラックギア119と、水平搬送部としての搬送ローラ181とを備える。H鋼レール110の一部は、集電レール113となっている。浸漬処理装置101は、車体104を搭載したハンガー112を工場に設けられた車体製造ラインFLに沿って搬送し、その途中で車体104を液体貯留槽102に浸漬させる。
【0014】
液体貯留槽102は、車体製造ラインFLの途中の床面103に陥没して形成されている。この液体貯留槽102は、車体製造ラインFLに沿う方向に車体104を二台並べて収納できる大きさを有する。液体貯留槽102には、薬液である電着塗装液105が溜められている。
【0015】
二本のガイドレール111は、液体貯留槽102の上方に設けられる。ガイドレール111は、いずれも断面コ字形状を有している(図5参照)。そして、二本のガイドレール111は、コ字形状の開口側を向かい合わせて、水平方向に並んで互いに平行に延びている。ガイドレール111は、車体製造ラインFLの上流側から下流側に向けて順に、水平部としての上流側水平部114と、傾斜部としての下り傾斜部115と、傾斜部としての上り傾斜部116と、水平部としての下流側水平部117とが連なって形成される。下り傾斜部115及び上り傾斜部116は、液体貯留槽102の上方で電着塗装液105に近づく下向き凸形状を形成する。
【0016】
ハンガー112は、ガイドレール111に複数吊り下げ支持され、ガイドレール111に沿って移動自在となっている。ハンガー112は、車体104を積載する。ハンガー112は、上流側水平部114から吊り下がっている場合及び下流側水平部117から吊り下がっている場合には、搬送ローラ181によって搬送される。また、ハンガー112は第2の駆動源としてのモータ214(図4参照)を有しており、下り傾斜部115から吊り下がっている場合及び上り傾斜部116から釣り下がっている場合には、モータ214の駆動によってガイドレール111に沿って自走する。ハンガー112の詳細については、図3ないし図7に基づいて説明する。
【0017】
図2は、H鋼レール110、ガイドレール111、集電レール113及びラックギア119を示す平面図である。なお、図2では、個々のハンガー112が占有する領域を一点鎖線の矩形で概略的に示している。図1及び図2の両方に基づいて説明する。ラックギア119は、ガイドレール111に対して車体104の搬送方向(車体製造ラインFLの上流側から下流側に向かう方向)の左側下方に位置付けられている。ラックギア119は、ガイドレール111の上流側水平部114及び下り傾斜部115に平行に、上流側水平部114と下り傾斜部115との上流側接続箇所P1よりも上流側の位置から、上り傾斜部116と下流側水平部117との下流側接続箇所P2よりも下流側の位置まで延びている。
【0018】
H鋼レール110は、ガイドレール111の上方で、平面視において二本のガイドレール111の間となる位置に、ガイドレール111に平行に延びている。H鋼レール110のウェブ110a(図5参照)は、上下方向に向いている。H鋼レール110の一部であって上流側水平部114及び下り傾斜部115に対し平行をなす部分は、集電レール113になっている。集電レール113は、H鋼レール110の下側に位置する下フランジ110b(図5参照)の下側面に、入力電源RST(図6参照)が取り付けられたものである。入力電源RSTは、H鋼レール110の下フランジ110bの下面に、H鋼レール110の長さ方向に延びて設けられる。入力電源RSTの上流端とラックギア119の上流端とは、搬送方向に対して直交する向きに並んでいる。同様に、入力電源RSTの下流端とラックギア119の下流端とは、搬送方向に対して直交する向きに並んでいる。
【0019】
図1に戻る。H鋼レール110とガイドレール111とは、ヨーク118によって連結されている。ヨーク118は、搬送方向に沿って所定間隔ごとに設けられている。ヨーク118には、ラックギアステイ171(図4参照)を介して小型オイルパン174が取り付けられている。また、ヨーク118には、オイルパンステイ172を介してオイルパン173が取り付けられる。そして、下り傾斜部115及び上り傾斜部116に設けられたヨーク118には、ラックギアステイ171を介してラックギア119が取り付けられている。
【0020】
搬送ローラ181は、ガイドレール111における上流側水平部114及び下流側水平部117に対する下方及び外側で、ガイドレール111から離反した箇所に設けられる。搬送ローラ181は、搬送方向に沿って所定間隔ごとに複数設けられる。いずれの搬送ローラ181も、第1の駆動源としてのローラモータ182から下方に延びるローラ回動軸183に取り付けられている。ローラモータ182は、H鋼レール110の上方に位置付けられる。搬送ローラ181とローラモータ182とローラ回動軸183とは、ガイドレール111の上流側水平部114もしくは下流側水平部117から吊り下がるハンガー112を搬送させる水平搬送部を構成する。
【0021】
浸漬処理装置101では、ガイドレール111に沿って複数のセンサ131が配置されている。センサ131は、ガイドレール111に沿って搬送されるハンガー112をセンシングする。一例として、センサ131は、発光部と受光部とを備える透過型フォトセンサである。この場合、発光部と受光部とは、ハンガー112の吊下支持部184(図3及び図4)を挟む位置に配置される。センサ131には、各搬送ローラ181に対応させてその搬送ローラ181の上流側に配置されるものがある。このセンサ131を、水平部センサ132と呼ぶ。水平部センサ132は、制御回路CTとともに、ハンガー112が上流側水平部114もしくは下流側水平部117から吊り下がっているか否かを検出する第1の検出部を構成する。また、センサ131の一つは、上流側接続箇所P1に設けられている。このセンサ131を、通電開始センサ133と呼ぶ。また、センサ131の別の一つは、下流側接続箇所P2に設けられている。このセンサ131を、通電終了センサ134と呼ぶ。通電開始センサ133及び通電終了センサ134は、制御回路CTとともに、ハンガー112が下り傾斜部115もしくは上り傾斜部116から吊り下がっているか否かを検出する第2の検出部を構成する。水平部センサ132、通電開始センサ133及び通電終了センサ134は、いずれも、制御部としての制御回路CTに対して、センシング結果に応じた電気信号を出力する。制御回路CTは、水平部センサ132、通電開始センサ133及び通電終了センサ134から出力された電気信号に応じて、ローラモータ182の駆動制御を行う。また、制御回路CTは、水平部センサ132、通電開始センサ133及び通電終了センサ134から出力された電気信号に応じて、集電レール113に備わる入力電源RSTへの通電の制御を行う。
【0022】
図3は、上流側水平部114に吊り下げられたハンガー112を右側から見た側面図である。図4は、ハンガー112を車体製造ラインFLの下流側から見た側面図である。ハンガー112は、コ字フレーム121を二つ備える。コ字フレーム121は、ステンレス製角材を組み合わせて形成される。コ字フレーム121は、上辺121aと下辺121bと連結部121cとを有する。上辺121a及び下辺121bは、上下に並んで、互いに平行をなしている。連結部121cは、上下に延びて上辺121aと下辺121bとを繋いでいる。より詳細には、連結部121cは、上辺121aにおける車体製造ラインFLの左側(図4における左側)の部分と、下辺121bにおける同じく左側の部分とを連結している。二つのコ字フレーム121は、上方連結フレーム122と棒状補強部材122aと下方連結フレーム123とによって連結されている。上方連結フレーム122は、ガイドレール111と平行に延びる棒状部材であり、二つのコ字フレーム121の上辺121a同士を連結している。上方連結フレーム122の中央には、搬送方向に対し左右両側に銅バー122bが延出している。銅バー122bは、ハンガー112が搬送される途中で集電子(図示せず)に接触する。そして、銅バー122bは、車体104が電着塗装液105に浸かった状態で集電子から電着塗装液105に通電するための電流路となる。また、棒状補強部材122aは、上方連結フレーム122と平行に延びる棒状部材であり、二つのコ字フレーム121の連結部121c同士を連結している。下方連結フレーム123は、板状部材であり、二つのコ字フレーム121の下辺121b同士を連結している。下方連結フレーム123の上面には、支持具124が取り付けられている。車体104は、支持具124に支持される。
【0023】
ハンガー112は、ガイドレール111から吊り下がるための吊下支持部184を備える。184は、フロントトロリー185と、二つのセンタートロリー186と、トロリー連結部201と、リアトロリー187と、三本の連結バー188とを含んでいる。二つのセンタートロリー186は、互いに離れた位置で、ガイドレール111から吊り下がっている。各センタートロリー186の下方には、連結バー188を介してトロリー連結部201が取り付けられている。トロリー連結部201は、上方連結フレーム122に連結している。また、フロントトロリー185は、センタートロリー186よりも下流側の位置で、ガイドレール111から吊り下がっている。リアトロリー187は、センタートロリー186よりも上流側の位置で、ガイドレール111から吊り下がっている。ここで、吊下支持部184と下流側のセンタートロリー186との間の距離、二つのセンタートロリー186間の距離、及び、上流側のセンタートロリー186とリアトロリー187との間の距離は、いずれも等しい。
【0024】
連結バー188は、各トロリー(フロントトロリー185、センタートロリー186、リアトロリー187)間を連結している。最も下流側に位置する連結バー188は、フロントトロリー185及びセンタートロリー186のいずれに対してもユニバーサルジョイント(図示せず)を介して上下左右に回動自在に連結されている。また、最も上流側に位置する連結バー188は、センタートロリー186及びリアトロリー187のいずれに対してもユニバーサルジョイント(図示せず)を介して上下左右に回動自在に連結されている。
【0025】
図5は、上流側水平部114から吊り下げられた状態のハンガー112における、車体製造ラインFLの下流側から見たトロリー連結部201の側面図である。トロリー連結部201は、上方に延びる縦フレーム202と、縦フレーム202から左右方向に突出する横フレーム203と、縦フレーム202の下端に連結して右方向に突出するCネック204と、Cネック204の下端とコ字フレーム121の上辺121aとを連結する絶縁ブラケット205とを有する。
【0026】
センタートロリー186は、T字部材206を備える。T字部材206の下端には、連結バー188を介して、トロリー連結部201を構成する縦フレーム202の上端が連結している。また、T字部材206の左右両端面からは、タイヤ軸207が突出する。タイヤ軸207には、タイヤ208が回動自在に取り付けられている。タイヤ208は、ガイドレール111の下面111bに支持される。
【0027】
T字部材206の上方端面からは、電源用配線209が延びている。電源用配線209の先端には、集電レール113の下面に設けられた入力電源RST(図6参照)にスライド接触する端子210が取り付けられている。また、電源用配線209には、滑車211を有する端子支持部212が取り付けられている。滑車211は、H鋼レール110の下フランジ110bの上面に載っていて、H鋼レール110から外れないようになっている。また、横フレーム203の右側部分には、インバータ213が取り付けられている。インバータ213には、電源用配線209が取り付けられている。そして、インバータ213からは、モータ214へ給電するためのモータ配線215が延びている。端子210と電源用配線209とインバータ213とモータ配線215とは、配電部218を構成する。
【0028】
モータ214は、横フレーム203の左側部分に取り付けられている。モータ214は、横フレーム203に取り付けられる。このとき、モータ214のモータ回動軸216は、左側に突出し、横フレーム203に平行に向く。モータ回動軸216には、ピニオンギア217が取り付けられている。ピニオンギア217は、ハンガー112が搬送される過程でラックギア119に噛合する位置に設けられ、モータ214の駆動によって回転する。モータ214とモータ回動軸216とは、ピニオンギア駆動部219を構成する。
【0029】
ところで、ヨーク118は、図5に示すように、H鋼レール110の上側をなす上フランジ110cと、ガイドレール111の外側側面111aとを連結している。そして、ヨーク118の下面の左端箇所からは、ラックギアステイ171が延出している。ラックギアステイ171の下端には、小型オイルパン174が取り付けられている。小型オイルパン174は平板状の部材であり、水平に向いて、Cネック204の内側に入り込んでいる。しかしながら、上流側水平部114に取り付けられたヨーク118から延出するラックギアステイ171には、ラックギア119(図1参照)は取り付けられていない。また、ヨーク118の下面の右端箇所からは、オイルパンステイ172が延出している。オイルパンステイ172は、オイルパン173を水平に保持し、このオイルパン173をハンガー112のコ字フレーム121の上辺121aの下方に位置付ける(図4参照)。
【0030】
ハンガー112が上流側水平部114から吊り下がっている場合、吊下支持部184を構成する連結バー188は、搬送ローラ181に挟まれる。より詳細には、搬送ローラ181は、その外周面を連結バー188の左右両側面に接触する位置に配置される。搬送ローラ181は、ローラモータ182から延出し上下方向に延びるローラ回動軸183に取り付けられている。ローラモータ182が駆動すると、ローラ回動軸183が回動する。これにより、連結バー188が搬送ローラ181によって送られる。その結果、ハンガー112がガイドレール111に沿って搬送される。
【0031】
図6は、下り傾斜部115から吊り下げられた状態のハンガー112における、車体製造ラインの下流側から見たトロリー連結部201の側面図である。図7は、図6のA−A線断面図である。下り傾斜部115に取り付けられたヨーク118から延出するラックギアステイ171には、ラックギア119が取り付けられる。ラックギア119は、ラックギアステイ171におけるトロリー連結部201に向く面に取り付けられている。ラックギア119の歯120は、上方を向いている。この歯120に対して、ピニオンギア217は上側から噛合する。また、下り傾斜部115の上方にあるH鋼レール110の下フランジ110bの下面には、入力電源RSTが取り付けられている。すなわち、下り傾斜部115の上方に位置するH鋼レール110は、集電レール113としての役目を果たす。
【0032】
ハンガー112が上流側水平部114から下り傾斜部115に移動すると、ピニオンギア217がラックギア119に噛合する。また、下り傾斜部115には搬送ローラ181(図5参照)が設けられていない。このため、連結バー188は搬送ローラ181に挟まれなくなる。そして、端子210が入力電源RSTに接触する。このため、入力電源RSTからインバータ213を介しモータ214に通電可能となる。この状態で、制御回路CT(図1参照)が入力電源RSTに通電をしてモータ214が給電を受けた場合、モータ214は、モータ回動軸216を矢印Rの向きに回動させる。そして、図6及び図7に示すようにピニオンギア217がラックギア119に噛合しているので、モータ214の駆動によってピニオンギア217はラックギア119に沿って転がる。その結果、ハンガー112は、車体製造ラインFLの下流側に移動する。
【0033】
ハンガー112が下り傾斜部115から上り傾斜部116に移動した場合でも、図6に示す場合と同じように、ピニオンギア217はラックギア119に噛合している。この状態でモータ214に給電された場合、ピニオンギア217がラックギア119に沿って転がる。その結果、ハンガー112は、ガイドレール111に沿って移動する。
【0034】
ハンガー112が上り傾斜部116から下流側水平部117に移動すると、ピニオンギア217がラックギア119から離脱する。また、ハンガー112が下流側水平部117から吊り下がっている場合、吊下支持部184を構成する連結バー188は、図5に示した状態と同様に、搬送ローラ181に挟みこまれた状態となる。この状態でローラモータ182が駆動すると、ローラ回動軸183が回動する。これにより、連結バー188が搬送ローラ181によって送られる。その結果、ハンガー112はガイドレール111に沿って搬送される。
【0035】
図8は、制御回路CTが行う処理の流れについて示すフローチャートである。制御回路CTは、センサ131(水平部センサ132、通電開始センサ133、通電終了センサ134)から入力される電気信号に応じて、ローラモータ182の駆動を制御したり、集電レール113の入力電源RSTに対する通電の制御をしたりする処理を実行する。
【0036】
より詳細には、制御回路CTは、水平部センサ132が出力した検出信号の入力を判定した場合(ステップS101)、水平部センサ132に対応するこの水平部センサ132よりも下流側にあるローラモータ182を駆動する(ステップS102)。その結果、搬送ローラ181は回動する。これにより、上流側水平部114又は下流側水平部117に吊り下げられたハンガー112は、ガイドレール111に沿って搬送方向の下流側に搬送される。制御回路CTは、駆動したローラモータ182を所定時間駆動した後、この駆動を停止する。
【0037】
また、制御回路CTは、通電開始センサ133が出力した検出信号の入力を判定した場合(ステップ103)、集電レール113の入力電源RSTに対する通電を行う(ステップS104)。ここで、集電レール113がハンガー112を検出した場合、ハンガー112のピニオンギア217はラックギア119に噛合している。このため、入力電源RSTに対する通電がなされた場合、ハンガー112に設けられたモータ214が駆動してピニオンギア217が回動する。その結果、ハンガー112はガイドレール111に沿って搬送方向の下流側に移動する。
【0038】
また、制御回路CTは、通電終了センサ134が出力した検出信号の入力によってハンガー112の通過が完了したことを判定した場合(ステップS105)、集電レール113の入力電源RSTに対する通電を停止する(ステップS106)。より詳細には、通電終了センサ134がハンガー112を検出し、その後にハンガー112が無いことを通電終了センサ134が検出したことによる検出信号の変化を制御回路CTが判定した場合、制御回路CTはステップS106の処理を実行する。ここで、ハンガー112が下流側接続箇所P2を通過しきった場合、ピニオンギア217はラックギア119から離脱している。また、この場合、ハンガー112の連結バー188は搬送ローラ181に挟まれていて、通電終了センサ134の上流側にある水平部センサ132がハンガー112の吊下支持部184をセンシングしている。このため、ハンガー112が上り傾斜部116から下流側水平部117に移動した場合、ハンガー112の移動は、ピニオンギア217の回動によるものから、搬送ローラ181の駆動によるものに変化する。
【0039】
以上のように構成される浸漬処理装置101において、車体104を搭載したハンガー112は、ガイドレール111の上流側水平部114に吊り下げられる。続いて、このハンガー112は、水平部センサ132からの電気信号を受けて回動する搬送ローラ181の回動駆動によって、搬送方向の下流側に向けて搬送される。
【0040】
続いて、ハンガー112が上流側水平部114から下り傾斜部115に移動すると、通電開始センサ133からの電気信号を受けてピニオンギア217が回動し、ピニオンギア217がラックギア119に噛合する。その結果、ハンガー112は下流方向に自走する。そして、ハンガー112は電着塗装液105に車体104を浸漬させ、続いて電着塗装液105から車体104を離脱させる。
【0041】
続いて、ハンガー112が上り傾斜部116から下流側水平部117に移動すると、ピニオンギア217がラックギア119から離脱し、通電終了センサ134からの電気信号を受けてピニオンギア217の回動が停止し、ハンガー112の連結バー188は搬送ローラ181に挟まれる。そして、水平部センサ132からの電気信号を受けて搬送ローラ181は回動し、この搬送ローラ181はハンガー112を下流側に搬送させる。
【0042】
このように、浸漬処理装置101では、複数のハンガー112が別個独立に搬送される。そして、浸漬処理装置101では、水平部である上流側水平部114や下流側水平部117においては搬送ローラ181によってハンガー112を搬送し、傾斜部である下り傾斜部115や上り傾斜部116においてはピニオンギア217とラックギア119とによるラックアンドピニオン機構によってハンガー112が自走することになる。このため、車体製造ラインFL中の浸漬工程において、ガイドレール111の水平部分ではハンガー112を早く搬送させることができ、ガイドレール111の傾斜部分で車体104を液体貯留槽102に通過させる部分ではハンガー112をゆっくり搬送させることができる。すなわち、本実施の形態の浸漬処理装置101では、工程長を短くし、車体製造ラインFLにおいて車体104を液体貯留槽102内の薬液に浸漬させる浸漬工程の処理効率をあげることができる。
【0043】
また、本実施の形態の浸漬処理装置101では、個々のハンガー112を搬送する駆動源が独立していて、ハンガー112に搭載された車体104の間隔を任意に調整することができ、これによって浸漬工程の処理効率をあげることができる。
【0044】
そして、本実施の形態の浸漬処理装置101では、下り傾斜部115及び上り傾斜部116におけるハンガー112の搬送を、ラックアンドピニオン機構によって実現している。そして、ピニオンギア217は、ハンガー112及び車体104、さらには電着塗装液105から車体104を引き上げるときにかかる電着塗装液105の重さが、ラックギア119に加わる。その結果、ピニオンギア217とラックギア119とが強力に噛み合う。このため、下り傾斜部115及び上り傾斜部116においてハンガー112が滑ることなく確実に搬送される。
【0045】
また、本実施の形態の浸漬処理装置101では、ガイドレール111に沿って配置されるセンサ(水平部センサ132、通電開始センサ133、通電終了センサ134)からの電気信号を受けてローラモータ182の駆動や集電レール113に対する通電の制御がなされる。このため、浸漬処理装置101では、ハンガー112が搬送される場合にのみ電力消費がなされ、ハンガー112が搬送されない場合には電力消費を抑えることができる。
【0046】
さらに、本実施の形態の浸漬処理装置101では、ラックギア119にピニオンギア217が乗るため、ハンガー112の移動が安定する。
【0047】
なお、本実施の形態の浸漬処理装置101は、電着塗装液105に代えて洗浄液を用い、車体104の洗浄に用いることもできる。
【0048】
次いで、別の実施の一形態を、図9に基づいて説明する。本実施の形態を、説明の便宜上、第二の実施の形態と呼ぶ。この場合、前述した第一の実施の形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明も省略する。
【0049】
図9は、下り傾斜部115から吊り下げられた状態のハンガー112における、車体製造ラインFLの下流側から見たトロリー連結部201の側面図である。本実施の形態では、モータ214は、横フレーム203の左側部分に、モータ回動軸216を上方に突出させる向きに取り付けられている。そして、ラックギア119は、下り傾斜部115に取り付けられたヨーク118から延出するラックギアステイ171において、トロリー連結部201に向く面に、歯120を水平方向に向ける向きに取り付けられている。このようなラックギア119に対し、ピニオンギア217は、水平方向から噛合する。
【0050】
本実施の形態の浸漬処理装置101においても、前述した実施の形態の浸漬処理装置101と同様に、ハンガー112が上流側水平部114から下り傾斜部115に移動すると、ピニオンギア217がラックギア119に噛合する。また、ハンガー112が上り傾斜部116から下流側水平部117に移動すると、ピニオンギア217がラックギア119から離脱する。また、ピニオンギア217がラックギア119に噛合している間にモータ214が駆動すると、ピニオンギア217が回動して、ハンガー112がガイドレール111に沿って自走する。
【0051】
このように、本実施の形態の浸漬処理装置101においても、工程長を短くし、車体製造ラインFLにおいて車体104を液体貯留槽102内の薬液に浸漬させる浸漬工程の処理効率をあげることができる。また、本実施の形態の浸漬処理装置101では、ラックギア119は歯120を横方向に向けて設けられている。このため、下り傾斜部115及び上り傾斜部116におけるガイドレール111の曲がり具合が変化しても歯120の間隔の変化を抑えることができ、ガイドレール111に対するハンガー112の動きをスムーズにすることができる。
【符号の説明】
【0052】
101 浸漬処理装置
102 液体貯留槽
104 車体
105 電着塗装液(薬液)
111 ガイドレール
112 ハンガー
113 集電レール
114 上流側水平部(水平部)
115 下り傾斜部(傾斜部)
116 上り傾斜部(傾斜部)
117 下流側水平部(水平部)
119 ラックギア
120 ラックギアの歯
132 水平部センサ(第1の検出部)
133 通電開始センサ(第2の検出部)
134 通電終了センサ(第2の検出部)
181 搬送ローラ(水平搬送部)
182 ローラモータ(第1の駆動源)
214 モータ(第2の駆動源)
217 ピニオンギア
218 配電部
219 ピニオンギア駆動部
CT 制御回路(制御部)
FL 車体製造ライン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体製造ラインの途中に設けられ薬液が溜められる液体貯留槽と、
前記液体貯留槽の上方を通過させて前記車体製造ラインの上流側から下流側にかけて延び、前記薬液に近づくよう傾斜する傾斜部と、前記傾斜部から前記車体製造ラインの上流側及び下流側の少なくとも一方に水平に延びる水平部と、を備えるガイドレールと、
前記ガイドレールに沿って移動自在に当該ガイドレールに吊り下げ支持され、車体を搭載する複数のハンガーと、
第1の駆動源を有し、当該第1の駆動源の駆動によって前記水平部から吊り下がる前記ハンガーを当該水平部に沿って搬送させる水平搬送部と、
前記傾斜部に沿って当該傾斜部に平行に設けられるラックギアと、
前記傾斜部に沿って当該傾斜部に平行に設けられる集電レールと、
個々の前記ハンガーに設けられ、前記ハンガーが搬送される過程で前記ラックギアに噛合するピニオンギアと、
個々の前記ハンガーに設けられ、第2の駆動源を有し、当該第2の駆動源の駆動によって前記ピニオンギアを回動させるピニオンギア駆動部と、
個々の前記ハンガーに設けられ、前記集電レールにスライド接触し、前記第2の駆動源に配電する配電部と、
を備える浸漬処理装置。
【請求項2】
前記ハンガーが前記水平部から吊り下がっているか否かを検出する第1の検出部と、
前記ハンガーが前記傾斜部から吊り下がっているか否かを検出する第2の検出部と、
前記第1の検出部が前記水平部に吊り下がる前記ハンガーを検出したと判定した場合に前記第1の駆動源を駆動する処理と、前記第2の検出部が前記傾斜部に吊り下がる前記ハンガーを検出したと判定した場合に前記集電レールに通電を行う処理とを行う制御部と、
を備える、請求項1記載の浸漬処理装置。
【請求項3】
前記ラックギアは、歯を上方に向けて設けられ、
前記ピニオンギアは、前記ラックギアに上側から噛合する、
請求項1又は2記載の浸漬処理装置。
【請求項4】
前記ラックギアは、歯を水平方向に向けて設けられ、
前記ピニオンギアは、前記ラックギアに水平方向から噛合する、
請求項1又は2記載の浸漬処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−47009(P2011−47009A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197166(P2009−197166)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000108188)セントラル自動車株式会社 (66)
【Fターム(参考)】