説明

浸透圧ポンプを用いた送液駆動機構および該送液駆動機構を有するマイクロチップ

【課題】マイクロチップの内部に浸透圧による駆動源を配設した簡易な構成によりマイクロ流路内の溶液を送液でき、しかも、温度などを用いた制御手段により浸透圧を制御することで、断続的に駆動させることや、一定の速度で連続して駆動させるなどの駆動制御を可能にする送液機構を有するマイクロチップを提供する。
【解決手段】本発明に係る浸透圧を利用した送液機構は、半透膜で隔離された室内にそれぞれ充填された液体の浸透圧を利用した浸透圧ポンプと、ポンプ動作のタイミングに基づいて、前記室内の液体の少なくとも一つの室内における溶液の状態を変更することによって浸透圧を変化させる手段を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浸透圧ポンプを用いた送液駆動機構に関する。特に、本発明の送液駆動機構は基板内にマイクロチャネルと呼ばれる微細流路やポートなどの微細構造を有するマイクロチップにおける流体制御のための送液手段に利用可能である。
【背景技術】
【0002】
半透膜を介して液体が移動する浸透圧現象を利用した浸透圧ポンプが知られている。このような浸透圧を利用する技術としては、特許文献1に液体の抽出ポンプとして利用するものが開示されている。
【0003】
また、特許文献2にも、浸透圧を利用して溶媒の移動によりポンプ機能を生じさせるものが開示されている。予め水溶液が充填された水溶液室と、水充填室とを半透膜で隔離した浸透圧容器を有し、水充填室に水を充填することで、浸透圧を発生させることが開示されている。
【0004】
ところで近年、立体微細加工技術の発展に伴い、ガラスやシリコン等の基板上に、微小な流路とポンプ、バルブ等の液体素子およびセンサを集積化し、その基板上で化学分析を行うシステムが注目されている。これらのシステムは、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)の名称で知られている。基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロチップ」と呼ばれる。
【0005】
マイクロチップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。マイクロチップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0006】
これらのマイクロチップにおいては、反応液、試薬溶液、サンプル溶液などの液体成分類を正確に秤量し、かつ、チップ内においてチャネルの所望の位置に正確に送達させなければならない。
このため、特許文献3に開示されているようなマイクロチップの開発と共に、チップ内で液体成分類を正確に秤量し、秤量された液体成分類を任意の位置へ正確に送達する手段の開発が強く求められている。
【0007】
上述した浸透圧ポンプをマイクロチップの送液駆動手段に利用することができれば、上述の課題を解決する好適なマイクロチップが開発される可能性があるが、従来この試みは試されていない。
【特許文献1】特開昭58-54962号公報
【特許文献2】特開平06-094669号公報
【特許文献3】特開2004-53371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
浸透圧ポンプは、構成が簡便であり、且つ浸透圧に応じた正確なポンプ作用を与えることから、これをマイクロチップの送液駆動手段として利用することができれば、より精度のよい送液を達成するマイクロチップを提供できる可能性がある。
【0009】
しかし、浸透圧ポンプに関わる従来技術は、浸透圧差を発生させるための濃度差をポンプ動作の開始前に調整しておくものであり、流路内の液体等の送液駆動機構として利用した場合には、流路への接続がそのポンプ作用の駆動開始を意味していた。
【0010】
すなわち、従来の浸透圧ポンプの単なる転用では、オンデマンドで浸透圧ポンプの駆動開始の制御ができないばかりか、濃度差の生じる環境におくとただちに浸透圧が発生してしまうため、駆動させたい時に浸透圧を発生させるように制御することができない。
【0011】
また、駆動力となる浸透圧は半透膜を介して生じる溶液の濃度差に起因するものであるが、濃度差が一定に落ち着くと浸透圧も発生しなくなる。このため、断続的に使用したり、複数回使用するのが難しいという課題もあった。 すなわち、マイクロチップ等に送液駆動機構としてこれらの従来技術をそのまま配置する構成は実効性を欠いていた。このため、浸透圧ポンプの駆動開始やポンプによる送液の調整、持続的な使用が可能であり、且つ簡便な構成である浸透圧ポンプを用いた新たな送液駆動機構が求められていた。 本発明は、従来技術の有する上記したような課題に鑑みてなされたものであり、所定の圧力の発生を所望のタイミングで生じるよう制御することができる、浸透圧を利用した送液制御機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る送液駆動機構は、
溶液の浸透圧により送液動作を駆動する送液駆動機構であって、
半透膜で互いに隔離された二つの液室を有する駆動本体部と、
前記二つの液室内に充填された内液の浸透圧を変化させる手段とを有し、
前記二つの液室の夫々が、前記内液が出入り可能な開口部を有し、
前記浸透圧を変化させる手段が、前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の状態を変更することにより前記浸透圧を変化させることを特徴とする送液駆動機構である。
【0013】
また、本発明に係るマイクロチップは、
基材上に形成された流路と、
該流路に接続する本発明に係る送液駆動機構と、
該送液駆動機構が有する前記濃度変更手段を刺激するための外部刺激を発生させる手段と、
を有するマイクロチップである。
【0014】
また、本発明に係る分析装置は、
マイクロチップを用いた分析装置であって、
本発明に係るマイクロチップを保持する保持部と、
前記マイクロチップが有する前記外部刺激発生手段を駆動するための駆動手段とを有する分析装置である。
【0015】
さらに、本発明に係る送液動作の駆動方法は、
半透膜で互いに隔離された二つの液室内に充填された液室内液の浸透圧により対象とする液体の送液動作を駆動する方法であって、
前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の状態を変更することで前記浸透圧を変化させ、
前記送液動作を制御することを特徴とする送液動作の駆動方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、浸透圧ポンプ内の半透膜で隔離された2つの液室において、この2つの液室の少なくとも一方における溶液の状態を変更することによって浸透圧を変化させる手段を有する浸透圧ポンプがマイクロチップ内に駆動源として配設されている。これにより簡易な構成でマイクロ流路内の溶液を送液でき、断続的な駆動や、一定の速度での連続した駆動などの制御を可能にすることができる。また、溶媒が供給される環境に設置しても、浸透圧の発生の開始を制御することができるため、送液が必要とされる時までは駆動しないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を詳細に説明する為に、以下に発明を実施する為の最良の形態を示す。
【0018】
本発明にかかる送液駆動機構は、半透膜で互いに隔離された二つの液室を有する駆動本体部と、
駆動本体部が備える二つの液室内に充填される液体(送液対象の液体と区別するため内液と呼ぶ)の浸透圧を変化させる手段とを有する。駆動本体部が備える二つの液室は、液室内に充填される内液あるいは外部からの液体が出入り可能な開口部をそれぞれが有する。半透膜は溶媒のみを選択的に透過する膜である。
【0019】
駆動本体部は、液体を収容することができる液体放出部を、半透膜を介して溶媒が浸透(流入)してくる側の液室の開口部に接続して有する構成であってもよい。液体放出部は、例えば、筒状あるいは管状の形状を取ることができる。液体放出部を有することで、開口部から流出する内液を収容する領域(溶液流出部)を確保することができる。さらに、液体放出部は、送液動作により送液する対象となる液体(送液対象液)を収容する領域(駆動液体部)を有してもよい。液体放出部が駆動液体部を有する場合は、溶液流出部と駆動液体部とを隔離する物質(以下、隔離物質と記す)により、液室から流出する内液と送液目的となる液体とが混合しないようにすることが好ましい。隔離物質には、液体放出部内の内液と送液対象液とを隔離しながら、かつ液体放出部内を移動することができる材料を選択する。よって、液体駆動機構は、液室の開口部を直接にマイクロチップの流路に接続してもよいし、液体放出部を介してマイクロチップの流路に接続してもよい。いずれの接続方法でも、送液駆動機構が有する浸透圧を変化させる手段が生ぜしめる液室内の内液の状態の変化によって、マイクロチップの流路内の液体の移動を制御することができる。また、駆動本体部が備える二つの液室の一方に溶媒を取り入れることができるように、溶媒を収容した溶媒流入部を一方の液室の開口部と接続して設けることもできる。
【0020】
浸透圧ポンプは、溶液の浸透圧を利用した送液駆動機構であって、半透膜を介して溶媒が移動可能に結合された二つの液室(チャンバー)を有し、それぞれの液室が液体が出入り可能な開口部を有する構造をもつ。浸透圧ポンプでは、液室間における液室内液の濃度差より浸透圧が生じ、内液の濃度が低い(あるいは内液が溶媒のみからなる)液室から内液の濃度が高い液室に溶媒が浸透する。そのため、濃度が高い方の液室の開口部から内液が押し出され、濃度が低い方の液室の開口部からは外部から液体(例えば、溶媒)が流入してくる。濃度が高い液室の開口部に接続された流路等に送液対象とする液体を収容しておくと、当該開口部から押し出される内液によって、送液対象とする液体が押し出すことができる。よって、本発明の送液駆動機構は、送液対象とする液体を収容する液体保持部を前記液室の開口部と連通するように接続して有する構成とすることができる。
【0021】
浸透圧を変化させる手段は、駆動本体部が備える二つの液室の少なくとも一方の液室に充填される内液の状態を変更することにより液室内に発生する浸透圧を変化させる。浸透圧を変化させる手段としては、駆動本体部の液室の少なくとも一方に充填される溶液の濃度を変更する濃度変更手段を好適に用いることができる。濃度変更手段は、駆動本体部の溶液(あるいは高濃度溶液)側の液室から溶液が流出するに従って、溶媒(あるいは低濃度溶液)側の液室に補充される溶媒(あるいは低濃度溶液)による濃度変更とは別に設置される手段である。
【0022】
濃度変更手段の一つとして、本発明の送液駆動機構は、液室内の半透膜と液体放出部との間の領域(溶液相)において、この領域を満たす内液から隔離する材料で覆われている溶質あるいは溶液を有することができる。そして、この溶質あるいは溶液の隔離を解除する手段(以下、隔離解除手段ともいう)を設けるか、あるいは、駆動本体部外部に設けられている隔離解除手段が、溶質あるいは溶液の隔離を解除するように作動するための部位を有している。そのため、隔離解除手段を制御することにより、浸透圧の発生開始時期を制御し、また、浸透圧の持続的あるいは断続的な発生を可能とする。隔離する材料で覆われている溶質あるいは溶液は、駆動本体部に複数存在し、それぞれ異なる物質からなるように構成することができる。隔離される溶質あるいは溶液の設計により隔離解除手段により、半透膜と液体放出部との間の領域を満たす溶液内の濃度を制御することができる。また、溶質を固形物として、隔離解除手段を用いずに、直接、液室内液中に配置することもできる。
【0023】
また、浸透圧を変化させる手段として、駆動本体部の二つの液室の少なくとも一方に充填される内液の温度を変更する温度変更手段を有する構成とすることもできる。この温度変更手段は、前記濃度変更手段とともに有してもよく、例えば、濃度変更手段として、内液から隔離する材料で覆われている溶質あるいは溶液を用いる場合、温度変更手段を有することで、上記隔離解除手段として用いることができる。
【0024】
また、浸透圧を変化させる手段として、駆動本体部の二つの液室の少なくとも一方に新たな溶液を追加する手段を有する構成とすることもできる。
【0025】
また、本発明は、半透膜で互いに隔離された二つの液室内に充填された液室内液の浸透圧により対象とする液体の送液動作を駆動する方法であって、前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の状態を変更することで前記浸透圧を変化させ、前記送液動作を制御することを特徴とする送液動作の駆動方法を包含する。浸透圧を変化させる手段は、上記で説明した送液駆動機構で用いる手段を用いることができる。
【0026】
また、本発明は、上記で説明した送液駆動機構と、この送液駆動機構に接続される流路が形成された基材(基板)とを有するマイクロチップを包含する。流路を有する基材として、例えば、基材上に流路となる溝を形成し、さらに平板の基板を蓋材として用いることで流路を形成したものを用いることができる。送液駆動機構において用いる浸透圧を変更する手段として濃度変更手段を用いる場合、マイクロチップは、更に、濃度変更手段を刺激するための外部刺激を発生させる手段を有することが好ましい。
【0027】
さらに、本発明は、上記で説明したマイクロチップを用いた分析装置を包含する。分析装置は、
マイクロチップを保持する保持部を少なくとも有する。また、マイクロチップが外部刺激を発生させる手段を有する場合は、分析装置は、更に、外部刺激発生手段を駆動するための駆動手段とを有することが好ましい。
【0028】
本発明の送液動作を駆動する方法は、半透膜で互いに隔離された二つの液室内に充填された液室内液の浸透圧により対象とする液体の送液動作を駆動する方法である。そして、前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の状態を変更することで前記浸透圧を変化させ、前記送液動作を制御することを特徴とする。
【0029】
(実施形態1)
本実施形態では、浸透圧を変化させる手段として濃度変更手段を用いる態様について説明する。
図3は本発明の送液機構を用いたマイクロチップおよび、その分析装置の一例を示す斜視図である。図のX方向はチップの縦方向で送液の方向を、Y方向はチップの横方向、Z方向はチップの厚さ方向を表す。
【0030】
211はマイクロチップ、212は分析装置を示す。マイクロチップ211には、内部に検体である血液を注入し試薬と混合させる。このマイクロチップ211を分析装置にかけると、分析装置は、このマイクロチップから供給される検体由来の細胞、微生物、染色体、核酸等に対して、抗原抗体反応や核酸ハイブリダイゼーション反応等の生化学反応を実施して分析を行う。
【0031】
図1は本発明の実施形態を表し、図3に示すマイクロチップ211の平断面図である。10はマイクロチップ、5は溶媒流入口、14は溶媒流入部、15は溶液流出部、1は駆動本体部を示し、その内部に半透膜2を設けており、溶媒流入口5より溶媒を流した際に、半透膜2は溶媒のみを透過することができる。この半透膜2の材質としては、ポリアミド系、または、セルロース系の高分子材料を用いることができる。3は駆動本体部からの圧力によって駆動する隔離物質であり、高分子ゲルなどによりできている。12は溶液流出部15から出てくる液体が隔離物質を駆動させることにより送液される液体を収容する駆動液体部である。溶液流出部15と駆動液体部とからなり、隔離物質が移動可能な領域が液体放出部である。
【0032】
4はマイクロ流路内に検体を導入する検体導入口、6は試薬流路であり、1種類あるいは複数種類の試薬が間隔を置いてバッファで仕切られた状態で存在する。検体導入口4は、検体を導入した後でポンプを駆動させる前に蓋をして、チップ外に液体が流出するのを防ぐ。7の検体流入部、および、6の試薬流入部が混合ポイント13において一つの流路に合流し、送液される過程で混合領域8において混合され、検出領域11において、検出される。検出の方法としては、たとえば、電気化学的検出、蛍光を用いた検出などが挙げられる。9は廃液部であり、検出された液体は、ここから廃液として最終的に基板外に排出される。
【0033】
図2は、図1の駆動源である駆動本体部とその周辺の構成の詳細について示した図で、図1をA−A'で切断した断面図である。
【0034】
101は駆動本体部、105は溶媒流入部、113は溶液流出部、102は半透膜、103は隔離物質を示す。半透膜102は、周囲が膜ホルダー116によって保持されており、ポンプの膜ホルダー挿入口117に膜ホルダーを挿入することで固定されている。隔離物質103によって、溶液流出部113と駆動液体部115が仕切られている。112は水溶性の溶質あるいは溶液、111はそれらを駆動本体部内の溶媒から隔離するための隔離する材料で、たとえば、メラミン樹脂などからできたカプセル材のようなものである。114は、111の隔離する材料を解く手段(以後、隔離解除手段とも記す)の一つで、たとえば、ヒーターなどの温度制御機構である。なお、本実施形ではヒーターをマイクロチップ211に搭載する構成となっているが、分析装置212側に設けてもよい。
【0035】
また、分析装置212はヒーターを機能させるために電力を供給する電源としての役目を担っており、図2におけるヒーターのニクロム線の先端は、分析装置212に内蔵されている不図示の電源部分に接続されて起動する。接続はスイッチにより任意のタイミングで行うことができる。
これによって、マイクロチップ211を分析装置212にかけたときに、分析装置212からヒーターに任意のタイミングで電力をかけ、ヒーターの起動時を制御することができる。
【0036】
また、溶質はカプセル材のような溶媒から隔離するための材料で隔離されているものだけでなく、溶質のままの状態で存在していてもよく、ヒーターなどの温度制御機構で温度を上げることにより熱を供給し、溶質の溶解度を上げ、溶媒に溶ける溶質の量を制御し濃度を調整することができる。
【0037】
次に、実際の駆動原理の詳細について説明する。図2において、マイクロ流路の製造時において、駆動本体部101が備える液室内に半透膜102の壁が設けられている。半透膜と溶液流出部113との間の領域内にカプセル材などの隔離する材料111で覆われた溶質あるいは溶液112を示しており、マイクロ流路の製造時に駆動本体部に封入しておく。なお、溶質は、たとえば塩化ナトリウム、酢酸、ショ糖など水溶性のある物質であり、複数種類存在し、それぞれ融解温度が異なるカプセル材で覆われている。
【0038】
実際の処理手順について、図4のフローチャート図にその一連の流れを示す。
【0039】
駆動させるときは溶媒流入口5から溶媒を流し、溶媒流入部105を通って駆動本体部101内に流入する(ステップ1)。半透膜102は溶媒のみを透過するため、溶媒は溶媒流入部と半透膜の間の領域、及び、最終的に液体放出部と半透膜の間の領域にも満たされる。そこで、駆動本体部に溶媒が満たされた状態でヒーター114により温度を上げていき、いずれかのカプセル材111の融解温度の低いものから順に融解させていく(ステップ2)。カプセル材の中身が塩化ナトリウムであるとき、カプセル材111が融解すると内部の塩化ナトリウムが溶媒中に溶け、半透膜と液体放出部との間が塩化ナトリウム水となり、駆動本体部において半透膜を介して濃度差が生じる。すると、溶媒流入部側から半透膜を介して、濃度の高い塩化ナトリウム水側の方に溶媒のみが移動してくる浸透圧が生じ、塩化ナトリウム水の濃度が平衡状態になるまで浸透圧が発生する(ステップ3)。
【0040】
液体の浸透圧は、次のファントホッフの式により算出できる。
溶質が非電解質の場合、浸透圧π(atm)=R×T×C
溶質が電解質の場合、浸透圧π(atm)=i×R×T×C
ここで、R=気体定数0.082(atm L/mol K)
T=絶対温度(K)
C=モル濃度(mol / L)
i=ファントホッフ係数=φ×z
φ=浸透係数
z=溶質が電離するイオンの個数
例えば、25℃における0.15(mol / L)の塩化ナトリウム水の浸透圧は、塩化ナトリウムの浸透係数φ=0.9355であるので、浸透圧π(atm)=i×R×T×C=0.9355×2×0.082×(273+25)×0.15=6.85(atm)となる。
【0041】
つまり、ファントホッフの式によれば、浸透圧πは液体の温度Tに比例するので、温度制御手段により液体の温度を単純に上げることによって、浸透圧πを上げることが可能である。
【0042】
また、カプセル材の中の塩化ナトリウムが溶媒中に拡散していく際に、マイクロチップに超音波により振動を与えることで拡散効率を上げることが可能である。
【0043】
浸透圧により溶媒が溶液側の液室に浸透することで増えた溶液が液体放出部に流入していくことで、隔離物質である高分子ゲル103が押し出され、駆動液体部115に含まれる液体が送液される。この駆動液体部115に含まれる液体が送液されることによって、試薬流入部6と検体流入部7が駆動され混合ポイント13で試薬と検体の混合が始まる。混合領域8の間で均一に混合されていき、最終的には検出領域11のところまで送液され検出が行われる。
【0044】
また、試薬流入部6ではある間隔をおいて異なる試薬間にバッファを挟み連続して送ることができる。そのため、異なる試薬をバッファを挟んで同時に送液し、合流ポイント13でそれぞれを検体と混合させることができる。
【0045】
また、混合の際に一旦送液を止めて混合させてから再度動かすということや、混合、検出の際に一定の速度で溶液を動かすことが考えられる。そこで、断続的な駆動をさせる場合には、以下のような手順を行う。まず、浸透圧が弱くなってきたことを確認するために、液体駆動部115の流速を測定する速度計測機能を分析装置212が有する。これによって計測された速度に基づいて、次のカプセルを融解させるのに最適なタイミングを知ることが可能となる(ステップ4)。
【0046】
つまり、速度が減速していき、最も融解温度の低いカプセル(第一のカプセルとする)が融解したことにより溶出した塩化ナトリウム水の浸透圧がなくなったら、ヒーターなどの温度制御機構の温度を上げて、次に融解温度の低いカプセル(第二のカプセルとする)を融解させる(ステップ5)。そして第二のカプセル内の溶質が溶けて再び濃度差が生じることで、新たな浸透圧が発生する(ステップ6)。そして、再度駆動させるときは以下同様にして、液体駆動部の速度を測定することでカプセルを融解するタイミングを判断し(ステップ7)、次のカプセルを融解させて浸透圧を発生させる(ステップ8)。
【0047】
これにより、止まっていた状態から再度溶液を動かすといったことが可能になる。また、溶液を一定の速度で連続的に送液する際には、融解温度の異なるカプセルを複数用意しておき、融解させる時間を早めて、第一のカプセルを融解させて得られる浸透圧が弱くなってきたら、温度を上げて第二のカプセルを融解させて、浸透圧を新たに発生させる。
【0048】
また、その際には前記のように、異なる物質からなる溶質あるいは溶液ごとに、異なるカプセル材で覆われていることが好ましい。たとえば、第一のカプセルで覆われた塩化ナトリウムと、それよりも融解温度の高い第二のカプセルで覆われたグルコースがあったとする。第一のカプセルを融解し、内部の塩化ナトリウムが溶媒に溶けることで第一の浸透圧が発生するが、第二のカプセルが同じ塩化ナトリウムであると、一定の体積の溶媒中に溶ける溶質の量は、その物質固有の溶解度があるため一定値以上溶けない。そのため、同じ溶質を別カプセルに入れて溶媒中に溶解させていくとある段階で溶解が飽和して溶けなくなってしまうため、新たに浸透圧が発生しなくなってしまう。そこで、第一のカプセルに塩化ナトリウム、第二のカプセルにグルコースと、異なるカプセルごとに異なる溶質を封入することで、塩化ナトリウムの濃度による浸透圧が止まっても、さらに、グルコースの濃度による新たな浸透圧が発生し、より大きな浸透圧を持続させて起こすことができる。
【0049】
上記フローチャートは、駆動本体部において、半透膜で隔離された2つの液室のうちの1液室についてカプセル化した溶質を配置した例を示したが、2つの液室の両方にカプセルを配置することも可能である。たとえば、駆動本体部において溶媒流入部105と半透膜102の間の領域にもカプセル化した溶質を封入しておき、この領域にもヒーターなどの温度制御手段を設ける。これによって、温度制御により2つの液室の溶液の濃度を変えることが可能となり、溶媒流入部105と半透膜102間の領域の濃度を高くすれば、半透膜を介して溶媒を液体放出部から溶媒流入部へと戻す吸引力が働くことになる。これによって隔離物質を一方向に送液するのみならず、往復して送液することも可能になる。
【0050】
なお、本実施形は本発明である浸透圧を利用したマイクロポンプをマイクロチップ内に適用した一つの例であり、これに限定されるものではない。図1では、チップ内に一つのポンプと流路を想定した系を示したが、このような系に限られず、チップ内でポンプと、流路が複数存在するような系に対しても適用することができる。カプセルで覆う中身については、溶質では塩化ナトリウムに限られず、その他水溶性のある物質であればよく、溶質でなくともすでに溶質の溶けている溶液の状態でも適用できる。また、カプセル材についてはメラミン樹脂に限られず、ウレタン樹脂、ゼラチン、尿素などの材質も適用できる。また、隔離物質としては、高分子ゲルに限られず、空気の気泡など液体間を仕切ることができるものであれば適用できる。また、溶質を覆っているカプセル材のような保持部材を解く手段としては、外部刺激として熱を与えるための外部刺激発生手段であるヒーターによる温度制御に限られず、外部刺激として振動、電磁波をあてて解く手段でも可能である。前記刺激としての振動とは、たとえば超音波による振動である。前記超音波や電磁波は、非接触で、かつ、遠隔して操作可能であり、制御性にも優れている。溶質を覆う保持部材は複数を液室内に個別に配置することができ、また、それぞれの保持部材が異なる種類の材料からなっているものを用いることもできる。例えば、外部刺激の程度によって、異なる種類の保持部材を選択することで、保持部材に覆われる溶質または溶媒を選択的に放出可能とすることができる。よって、同じ材料であっても、厚さなどが異なることで、外部刺激により選択的に保持部材内部の溶質または溶媒を放出させることができる。
【0051】
(実施形態2)
実施形態1では、半透膜で隔離された2つの液室内に充填された液体の浸透圧を利用した浸透圧ポンプにおいて、濃度変更手段として温度制御により濃度を調整する方法を示した。本実施形態では、温度制御をせずに該2液室間の溶液における少なくとも一方の溶質の濃度を変化させる方法を示す。
【0052】
図5は図2のようなポンプ内の半透膜で隔離された2つの液室のうちの1液室を示したマイクロチップの断面図であり、313は溶液流出部、301は駆動本体部、302は溶液供給口、305は液体排出口、303は供給バルブ、304は排出バルブ、306は高濃度溶液充填室、307は溶液駆動装置、308は排出溶液充填室、309は半透膜、310は膜ホルダー、311は膜ホルダー挿入口を示す。半透膜309は、周囲を膜ホルダー310によって保持されており、ポンプの膜ホルダー挿入口311に膜ホルダーを挿入することで固定されている。
【0053】
駆動本体部301の半透膜で隔離させた2つの液室内のうちの一つである溶液流出部313に接続される液室内には、高濃度の溶液が充填した状態になっているとする。もう一方の室内には前記溶液より溶質濃度の低い溶液、好ましくは溶媒のみが充填しているとき浸透圧が発生し、半透膜を通過して高濃度の溶液が充填した方の室内に溶媒が流入してくる。やがて、該2液室間の濃度差が小さくなっていくに従い、発生する浸透圧も小さくなっていく。そこで、濃度を上げる時は、以下のような操作を行う。
【0054】
今、高濃度溶液充填室306内には溶質が溶けた高濃度の溶液が満たされている。供給バルブ303を開き、溶液駆動装置307によって高濃度溶液充填室306内の溶液を、溶液供給口302を通って駆動本体部301に供給する。なお、この溶液駆動装置307には当該発明の浸透圧を利用したポンプを駆動源として並列して接続して使用することができる。
【0055】
また、供給バルブ303と同時に排出バルブ304を開いて液体排出口305より増加分を排出し、排出溶液充填室308内に逃がす。このバルブの開閉と、溶液駆動装置307の制御により液室内への溶液の流入量、液室内からの流出量をコントロールすることで、液室内の液体の濃度差を一定に保つことが可能である。
【0056】
なお、本実施形では半透膜で隔離された2つの液室のうちの1液室について溶液供給口、液体排出口、バルブ、高濃度溶液充填室、溶液駆動装置、排出溶液充填室を一つずつ配置する構成としたが、溶液を入れ替えるための構成の一つであり、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のマイクロポンプを導入したマイクロチップの平断面図である。
【図2】本発明のマイクロポンプを示す拡大図である。
【図3】分析装置、マイクロチップの斜視図である。
【図4】本実施形1の処理手順のフローチャート図である。
【図5】本実施形2のポンプ部の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1、101、301:駆動本体部
2、102、309:半透膜
3、103:隔離物質
4:検体導入口
5:溶媒流入口
14、105:溶媒流入部
6:試薬流入部
7:検体流入部
8:混合領域
9:廃液部
10、211:マイクロチップ
11:検出領域
12、115:駆動液体部
13:混合ポイント
111:カプセル材
112:塩化ナトリウム(溶質)
15、113、313:溶液流出部
114:ヒーター
212:分析装置
116、310:膜ホルダー
117、311:膜ホルダー挿入口
302:溶液供給口
305:液体排出口
303:供給バルブ
304:排出バルブ
306:高濃度溶液充填室
307:溶液駆動装置
308:排出溶液充填室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液の浸透圧により送液動作を駆動する送液駆動機構であって、
半透膜で互いに隔離された二つの液室を有する駆動本体部と、
前記二つの液室内に充填された内液の浸透圧を変化させる手段とを有し、
前記二つの液室の夫々が、前記内液が出入り可能な開口部を有し、
前記浸透圧を変化させる手段が、前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の状態を変更することにより前記浸透圧を変化させることを特徴とする送液駆動機構。
【請求項2】
前記浸透圧を変化させる手段が生ぜしめる前記内液の状態の変化により、前記液室の一方の前記開口部に接続された流路内の液体の移動を制御する請求項1に記載の送液駆動機構。
【請求項3】
前記浸透圧を変化させる手段が、前記液室の少なくとも一方に充填される溶液の濃度変更手段を有し、
該濃度変更手段が、溶質または溶媒を前記内液から隔離して保持する保持部材を有し、
該保持部材が外部刺激に応じて前記溶質または溶媒を前記内液中に放出するものである請求項1または2に記載の送液駆動機構。
【請求項4】
前記保持部材の複数が、前記液室内に個別に配置されており、前記溶質または溶媒を選択的に放出可能である請求項3に記載の送液駆動機構。
【請求項5】
前記保持部材は、カプセル材であることを特徴とする請求項3または4に記載の送液駆動機構。
【請求項6】
前記保持部材として、融解温度が互いに異なるものが含まれることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の送液駆動機構。
【請求項7】
前記浸透圧を変化させる手段が、前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の濃度を変更する濃度変更手段を有し、
該濃度変更手段が、溶質の固形物を有し、
該固形物が外部刺激に応じて前記液室内の内液に放出されるものである請求項1または2に記載の送液駆動機構。
【請求項8】
前記浸透圧を変化させる手段が、前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の温度を変更する温度変更手段を有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の送液駆動機構。
【請求項9】
前記外部刺激が、熱であることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の送液駆動機構。
【請求項10】
前記外部刺激が、振動であることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の送液駆動機構。
【請求項11】
前記振動が、音波であることを特徴とする請求項10に記載の送液駆動機構。
【請求項12】
前記外部刺激が、電磁波であることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の送液駆動機構。
【請求項13】
前記溶質として、互いに異なる物質が含まれることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の送液駆動機構。
【請求項14】
前記浸透圧を変化させる手段が、前記液室の少なくとも一方に新たな溶液を追加するものである請求項1または2に記載の送液駆動機構。
【請求項15】
基材上に形成された流路と、
該流路に接続する請求項3から7及び9から13のいずれかに記載の送液駆動機構と、
該送液駆動機構が有する前記濃度変更手段を刺激するための外部刺激を発生させる手段と、
を有するマイクロチップ。
【請求項16】
マイクロチップを用いた分析装置であって、
請求項15に記載のマイクロチップを保持する保持部と、
前記マイクロチップが有する前記外部刺激発生手段を駆動するための駆動手段とを有する分析装置。
【請求項17】
半透膜で互いに隔離された二つの液室内に充填された液室内液の浸透圧により対象とする液体の送液動作を駆動する方法であって、
前記液室の少なくとも一方に充填される前記内液の状態を変更することで前記浸透圧を変化させ、
前記送液動作を制御することを特徴とする送液動作の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−115755(P2009−115755A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292138(P2007−292138)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】