説明

消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル及びそれを使用した消化管局所炎症モデル動物作製方法

【課題】炎症性腸疾患の病因研究に必要な、開腹することなくかつ消化管内部に病変部と非病変部が存在する消化管局所炎症モデル動物を提供すること。
【解決手段】複数のバルーン2、3を有し、該複数のバルーン間におけるチューブ本体1の外周壁に1又は2以上の側孔を有するカテーテルAの構造により、消化管の局所のみに薬剤を供給することができることを見出し、さらには、最適な薬剤の種類及び濃度を設定することにより、消化管の局所のみを炎症させた消化管局所炎症モデル動物を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル及びそれを使用した消化管局所炎症モデル動物作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(IBD)は難治性の疾病であり、未だ明確な原因については解明されていない。炎症性腸疾患として、潰瘍性大腸炎とクローン病の二つが良く知られている。さらに、類似した疾患である腸管ベーチェット病や単純性潰瘍も知られている。これらは、緩解期と活動期を繰り返す難治性の慢性消化管疾患であり、病因の主体は、腸管上皮の防御力の低下、腸管組織に進入する腸内細菌に対する腸管免疫反応の異常によると考えられている。
【0003】
炎症性腸疾患の一つである潰瘍性大腸炎は、何らかの原因により、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらん(ただれ)及び/又は潰瘍ができる病気である。炎症は通常、肛門に近い直腸から始まり、その後、その奥の結腸に向って炎症が拡がっていくと考えられている。 腸に起こる炎症のために、下痢や粘血便(血液、粘膜及び膿の混じった軟便)、発熱や体重減少などの症状が現れる。病状は、おさまったり(緩解期)、悪化したり(活動期)を繰り返すことが多く、長期にわたってこの病気に悩まされる。
なお、潰瘍性大腸炎は、1973年より厚生労働省の特定疾患治療研究対象疾患(難病)の一つとして指定されている。
【0004】
上記炎症性腸疾患病因解明のアプローチの一つとして疾患モデル動物を用いることが一般的である。
例えば、大腸炎モデル動物としては、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)やトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)による大腸炎モデル動物が挙げられ、酢酸による大腸炎モデル動物は病理組織像やアラキドン酸代謝物の産出パターンがヒトの潰瘍性大腸炎の病態と比較的良く反映していることが知られている。
【0005】
上記大腸炎モデル動物の作製方法は、経肛門的に酢酸溶液を注入する方法、開腹下で大腸膜に直接酢酸溶液を添加する方法、DSS溶液等の自由飲水による方法等がある。
しかし、上記いずれの方法も、投与する薬剤の注入位置を限局できない、又はモデル動物の開腹が必要であった。
【0006】
一方、バルーンカテーテルは、医療用チューブであるカテーテルを経皮的、或いは内視鏡的に血管、消化管、尿道あるいは気管等へ挿入し、血液を遮断したり、目的の部位にて臨床上必要とする期間留置するために、カテーテルに膨張可能なバルーンを付設している(参照:特許文献1〜5)。
しかし、バルーンカテーテルの主な使用目的は、血液遮断であり、消化管局所炎症モデル動物作製には使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-164891
【特許文献2】特表2007-530148
【特許文献3】特表2004-503295
【特許文献4】特開平8-187291
【特許文献5】特開2008-173137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炎症性腸疾患の病因研究に必要な、開腹することなくかつ消化管内部に病変部と非病変部が存在する消化管局所炎症モデル動物を作製するためのバルーンカテーテル及び該バルーンカテーテルを使用して消化管局所炎症モデル動物作製方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、複数のバルーンを有し、該複数のバルーン間におけるチューブ本体の外周壁に1又は2以上の側孔を有するカテーテルの構造により、消化管の局所のみに薬剤を供給することができることを見出し、さらには、最適な薬剤の種類及び濃度を設定することにより、消化管の局所のみを炎症させた消化管局所炎症モデル動物を作製することができることを確認して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルであって、
チューブ本体と、
前記チューブ本体先端縁の外周壁に一定の間隔を置いて形成された2以上のバルーン用孔と、
前記チューブ本体内に形成されており前記2以上のバルーン用孔へ連通する第1ルーメン又は前記チューブ本体内の前記2以上のバルーン用孔へ連通する第1管と、
前記2以上のバルーン用孔の各々を覆う状態で前記チューブ本体の外周周りに設置された2以上のバルーンと、
前記チューブ本体の外周壁の前記各バルーン間に形成された側孔と、
前記チューブ本体内に形成されており前記側孔へ連通する第2ルーメン又は前記チューブ本体内の前記側孔へ連通する第2管と、
を少なくとも備えることを特徴とするカテーテル。
2.前記第1ルーメンが各バルーン用孔の各々に対応する2以上のルーメンを含むこと、又は前記第1管が各バルーン用孔の各々に対応する2以上の管を含むこと、により各バルーンを個別に拡張可能であることを特徴とする前項1に記載のカテーテル。
3.前記第2ルーメンが各側孔の各々に対応する2以上のルーメンを含むこと、又は前記第2管が各側孔の各々に対応する2以上の管を含むこと、により各側孔から異なる薬剤を放出可能であることを特徴とする前項1又は2に記載のカテーテル。
4.前記バルーンが2つ(第1バルーン及び第2バルーン)設置されており、かつ前記バルーン用孔が2つ(第1バルーン用孔及び第2バルーン用孔)設置されており、前記第1ルーメンが2個のルーメン(ルーメン5a'及びルーメン5b')又は前記第1管が2個の管(管5a及び管5b)を含み、前記管5a又はルーメン5a'が前記第1バルーン用孔に連通し、前記管5b又はルーメン5b'が前記第2バルーン用孔に連通し、これにより、
前記第1バルーン及び第2バルーンを個別に拡張可能であることを特徴とする前項1〜3のいずれか1に記載のカテーテル。
5.前記バルーンが3つ(第1バルーン、第2バルーン及び第3バルーン)設置されており、かつ各バルーン間の側孔が2つ(第1側孔及び第2側孔)設置されており、
前記第2ルーメンが2個のルーメン(ルーメン7a'及びルーメン7b')又は前記第2管が2個の管(管7a及び管7b)を含み、
前記管7a又は前記ルーメン7a'が前記第1側孔に連通し、前記管7b又は前記ルーメン7b'が前記第2側孔に連通し、これにより、
前記第1側孔と前記第2側孔から異なる薬剤を放出可能であることを特徴とする前項1〜4のいずれか1に記載のカテーテル。
6.さらに、前記チューブ本体内に形成されており、チューブ本体の先端へ開口し、かつガイドワイヤを挿通可能な第3ルーメンを設けることを特徴とする前項1〜5のいずれか1に記載のカテーテル。
7.各バルーン間の距離を伸縮可能にするための伸縮手段を有することを特徴とする前項1〜6のいずれか1に記載のカテーテル。
8.前記伸縮手段は、チューブ本体が該チューブ本体の先端部を有する先端管及び末端管で構成されており、さらに該末端管の先端の一部又は全部が摺動可能に該先端管の末端内に格納されていることを特徴とする前項7に記載のカテーテル。
9.前記伸縮手段は、チューブ本体が該チューブ本体の先端部を有する先端管及び末端管で構成されており、さらに該先端管の末端の一部又は全部が摺動可能に該末端管の先端内に格納されていることを特徴とする前項7に記載のカテーテル。
10.前記末端管が前記先端管から離脱することを防ぐための1組の停止部材を有する前項8又は9に記載のカテーテル。
11.前項1〜10のいずれか1に記載のカテーテルを使用して、モデル動物に薬剤を注入することを特徴とする消化管局所炎症モデル動物の作製方法。
12.前記薬剤が、7.0%〜13.0%酢酸であることを特徴とする前項11の作製方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、消化管内部に病変部と非病変部が存在する消化管局所炎症モデル動物を作製するためのカテーテル及び該カテーテルを使用して消化管局所炎症モデル動物作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施態様1のカテーテルの全体図(第1バルーン及び第2バルーンの両方が拡張している状態である)
【図2】実施態様1のカテーテルの断面模式図(第1バルーン及び第2バルーンの両方が拡張している状態である)
【図3】実施態様2のカテーテルの全体図(第1バルーンのみが拡張している状態である)
【図4】実施態様2のカテーテルの断面模式図(第1バルーンのみが拡張している状態である)
【図5】実施態様3のカテーテルの全体図(すべてのバルーンが拡張している状態である)
【図6】実施態様3のカテーテルの断面模式図(すべてのバルーンが拡張している状態である)
【図7】実施態様4のカテーテルの全体図(第1バルーン及び第3バルーンが拡張している状態である)
【図8】実施態様4のカテーテルの断面模式図(第1バルーン及び第3バルーンが拡張している状態である)
【図9】実施態様5のガイドワイヤを挿通可能なカテーテル
【図10】実施態様6の各バルーン間の距離を伸縮可能なカテーテルの断面模式図
【図11】酢酸注入後のラットから摘出した大腸(矢印で示した箇所のみに炎症が起きている)の画像
【図12】酢酸注入後のラットの体重変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルでは、側孔から放出される薬剤が複数のバルーン間の存在により広範囲に拡散されるのを防ぐことにより消化管内の局所のみに薬剤を供給することができ、該局所供給により消化管内部に病変部と非病変部が存在する消化管局所炎症モデル動物を作製することができる(参照:図1)。
さらに、本発明の消化管局所炎症モデル動物の作製方法では、上記カテーテルを使用して最適な薬剤の種類及び濃度を設定することにより、体重の減少を極力抑えた消化管局所炎症モデル動物を提供することができる(参照:図12)。
【0014】
(消化管局所炎症モデル動物)
本発明の「消化管局所炎症モデル動物」とは、消化管内部に病変部と非病変部、特に炎症部と非炎症部が存在する動物を意味する。なお、消化管は、口腔、食道、胃、小腸、大腸、肛門を含む。
加えて、病変部(炎症部)の体積は、全体積に対して、1〜90%、好ましくは5〜80%、より好ましくは10〜70%、最も好ましくは15〜60%である。
【0015】
炎症とは、急性的な炎症と慢性的な炎症を含む。なお、粘膜上皮が物理的または化学的な刺激や細菌やウイルスの感染を受けると炎症が生じ、その程度によりびらんや潰瘍病変を生じる。
【0016】
(モデル動物)
本発明の「モデル動物」とは、非ヒト動物であり、特に限定されない。例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどの哺乳動物が例示される。これらのうち、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットが好ましい。
【0017】
(薬剤)
本発明で用いる「薬剤」とは、モデル動物の消化管内部の一部分に炎症部位を生じさせる自体公知の任意の物質又は該炎症部位に治療効果のある物質若しくは治療効果が期待される物質を意味する。
例えば、モデル動物に炎症を起こす目的の薬剤では、デキストラン硫酸ナトリウム、トリニトロベンゼンスルホン酸、エタノール、酢酸、インドメタシン等を使用することができる。
また、モデル動物の炎症を予防及び/又は治療目的の薬剤では、以下のような物質等を使用する。
胃炎、胃・十二指腸潰瘍などの炎症に対しては、胃酸分泌やその作用を抑制する目的で制酸剤、抗コリン剤、抗ヒスタミンH2受容体拮抗剤、プロトンポンプ阻害剤などが使われる。また、非ステロイド性抗炎症剤が原因の炎症には、その薬剤により産生が阻害されるプロスタグランジンEを補う目的でプロスタグランジンE誘導体などが使われる。
【0018】
(本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルの実施態様1)
以下、本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル(A)について、図面1及び図面2を参照して説明する。
該カテーテル(A)は、先端から基端縁まで延びるチューブ本体(1)と、チューブ本体(1)の基端と連続するポート接続部(1a)と、該先端側に位置する第1バルーン(2)、第2バルーン(3)、該ポート接続部(1a)と接続されたバルーン用ポート(1b)と、薬液供給ポート(1d)と、を少なくとも備えている
チューブ本体(1)には、バルーン用ポート(1b)と連通した第1ルーメン(5')と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2ルーメン(7')と、が少なくとも配置されている。または、チューブ本体(1)が、中空状態の形状を有する場合には、バルーン用ポート(1b)と連通した第1管(5)と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2管(7)と、が少なくとも配置されている。
さらに、チューブ本体(1)の先端縁の外周壁には、一定の間隔を置いて、第1バルーン用孔(4a)、第2バルーン用孔(4b)、側孔(6)が形成されている。
そして、第1管(5)又は第1ルーメン(5')は、第1バルーン用孔(4a)及び第2バルーン用孔(4b)へ連通し、第2管(7)又は第2ルーメン(7')は側孔(6)へ連通し、第1バルーン用孔(4a)及び第2バルーン用孔(4b)の各々を覆う状態で、チューブ本体(1)の外周周りに、第1バルーン(2)および第2バルーン(3)が設置されている。
さらに、バルーン用ポート(1b)及び薬液供給ポート(1d)には、シリンジ、液体供給装置又はガス(空気、酸素も含む)供給装置を連結可能である。
【0019】
本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル(A)の側孔(6)から放出した薬剤は、図面1の矢印から明らかなように、両端の第1バルーン(2)及び第2バルーン(3)の存在により、消化管内の局所のみに供給される。
【0020】
(本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルの実施態様2)
以下、本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル(B)について、図面3及び図面4を参照して説明する。なお、該カテーテルは、第1バルーン(2)及び第2バルーン(3)を個別に拡張可能であることを特徴とする。
該カテーテル(B)は、先端から基端縁まで延びるチューブ本体(1)と、チューブ本体(1)の基端と連続するポート接続部(1a)と、該先端側に位置する第1バルーン(2)、第2バルーン(3)、該ポート接続部(1a)と接続された第1バルーン用ポート(1b)と、該ポート接続部(1a)と接続された第2バルーン用ポート(1c)と、該ポート接続部(1a)と接続された薬液供給ポート(1d)と、を少なくとも備えている。
チューブ本体(1)には、第1バルーン用ポート(1b)と連通した第1ルーメン(5a')と、第2バルーン用ポート(1c)と連通した第1ルーメン(5b')と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2ルーメン(7')と、が少なくとも配置されている。
または、チューブ本体(1)が、中空状態の形状を有する場合には、第1バルーン用ポート(1b)と連通した第1管(5a)と、第2バルーン用ポート(1c)と連通した第1管(5b)と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2管(7)と、が少なくとも配置されている。
さらに、チューブ本体(1)の先端縁の外周壁には、一定の間隔を置いて、第1バルーン用孔(4a)、第2バルーン用孔(4b)、側孔(6)が形成されている。
そして、第1管(5a)又は第1ルーメン(5a')は第1バルーン用孔(4a)へ連通し、第1管(5b)又は第1ルーメン(5b')は第1バルーン用孔(4b)へ連通し、第2管(7)又は第2ルーメン(7')は側孔(6)へ連通し、第1バルーン用孔(4a)及び第2バルーン用孔(4b)の各々を覆う状態で、チューブ本体(1)の外周周りに、第1バルーン(2)および第2バルーン(3)が設置されている。
【0021】
本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル(B)は、図面3及び図面4から明らかなように、第1バルーン(2)及び第2バルーン(3)を個別に拡張させることができる。
【0022】
(本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルの実施態様3)
実施態様3のカテーテル(C)について、図面5及び図面6を参照して説明する。なお、該カテーテルは、各側孔から異なる薬剤を放出可能であることを特徴とする。
該カテーテル(C)は、先端から基端縁まで延びるチューブ本体(1)と、チューブ本体(1)の基端と連続するポート接続部(1a)と、該先端側に位置する第1バルーン(2)と、第2バルーン(3)と、第3バルーン(8)と、該ポート接続部(1a)と接続された第1バルーン用ポート(1b)と、該ポート接続部(1a)と接続された第1側孔に連通している薬液供給ポート(1d)と、該ポート接続部(1a)と接続された第2側孔に連通している薬液供給ポート(1e)と、を少なくとも備えている。
チューブ本体(1)には、バルーン用ポート(1b)と連通した第1ルーメン(5')と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2ルーメン(7a')、薬液供給ポート(1e)と連通した第2ルーメン(7b')と、が少なくとも配置されている。または、チューブ本体(1)が、中空状態の形状を有する場合には、バルーン用ポート(1b)と連通した第1管(5)と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2管(7a)、薬液供給ポート(1e)と連通した第2管(7b)と、が少なくとも配置されている。
また、チューブ本体(1)の先端縁の外周壁には、一定の間隔を置いて、第1バルーン用孔(4a)、第2バルーン用孔(4b)、第3バルーン用孔(4c)、側孔(6a)及び側孔(6b)が形成されている。
そして、第1管(5)又は第1ルーメン(5')は、第1バルーン用孔(4a)、第2バルーン用孔(4b)及び第3バルーン用孔(4c)へ連通し、第2管(7a)又は第2ルーメン(7a')は側孔(6a)へ連通し、第2管(7b)又は第2ルーメン(7b')は側孔(6b)へ連通し、第1バルーン用孔(4a)、第2バルーン用孔(4b)及び第3バルーン用孔(4c)の各々を覆う状態で、チューブ本体(1)の外周周りに、第1バルーン(2)、第2バルーン(3)及び、第3バルーン(8)が設置されている。
【0023】
本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル(C)は、図面5の矢印から明らかなように、2つの側孔から異なる薬剤を放出することができる。
【0024】
(本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルの実施態様4)
実施態様4のカテーテル(D)について、図面7及び図面8を参照して説明する。なお、該カテーテルは、第1バルーン、第2バルーン及び第3バルーンを個別に拡張可能であり並びに各側孔から異なる薬剤を放出可能であることを特徴とする。
該カテーテル(D)は、先端から基端縁まで延びるチューブ本体(1)と、チューブ本体(1)の基端と連続するポート接続部(1a)と、該先端側に位置する第1バルーン(2)、第2バルーン(3)、第3バルーン(8)、該ポート接続部(1a)と接続された第1バルーン用ポート(1b)と、該ポート接続部(1a)と接続された第2バルーン用ポート(1c)と、該ポート接続部(1a)と接続された第3バルーン用ポート(1f)と、該ポート接続部(1a)と接続された第1側孔に連通している薬液供給ポート(1d)と、該ポート接続部(1a)と接続された第2側孔に連通している薬液供給ポート(1e)と、を少なくとも備えている。
チューブ本体(1)には、第1バルーン用ポート(1b)と連通した第1ルーメン(5a')と、第2バルーン用ポート(1c)と連通した第1ルーメン(5b')と、第3バルーン用ポート(1f)と連通した第1ルーメン(5c')と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2ルーメン(7a')、薬液供給ポート(1e)と連通した第2ルーメン(7b')と、が少なくとも配置されている。または、チューブ本体(1)が、中空状態の形状を有する場合には、第1バルーン用ポート(1b)と連通した第1管(5a)と、第2バルーン用ポート(1c)と連通した第1管(5b)と、第3バルーン用ポート(1f)と連通した第1管(5c)と、薬液供給ポート(1d)と連通した第2管(7a)、薬液供給ポート(1e)と連通した第2管(7b)と、が少なくとも配置されている。
また、チューブ本体(1)の先端縁の外周壁には、一定の間隔を置いて、第1バルーン用孔(4a)、第2バルーン用孔(4b)、第3バルーン用孔(4c)、側孔(6a)側孔(6b)が形成されている。
そして、第1管(5a)又は第1ルーメン(5a')は第1バルーン用孔(4a)へ連通し、第1管(5b)又は第1ルーメン(5b')は第2バルーン用孔(4b)へ連通し、第1管(5c)又は第1ルーメン(5c')は第3バルーン用孔(4c)へ連通し、第2管(7a)又は第2ルーメン(7a')は側孔(6a)へ連通し、第2管(7b)又は第2ルーメン(7b')は側孔(6b)へ連通し、第1バルーン用孔(4a)、第2バルーン用孔(4b)及び第3バルーン用孔(4c)の各々を覆う状態で、チューブ本体(1)の外周周りに、第1バルーン(2)、第2バルーン(3)及び、第3バルーン(8)が設置されている。
【0025】
本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル(D)は、図面7及び図8から明らかなように、2つの側孔から異なる薬剤を放出することができ、さらに、第1バルーン、第2バルーン及び第3バルーンを個別に拡張することができる。
【0026】
(本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルの実施態様5)
実施態様5のカテーテル(E)について、図面9を参照して説明する。なお、該カテーテルは、上記実施態様1〜4のいずれか1のカテーテルのチューブ本体1の先端へ開口しているガイドワイヤを挿通可能な第3ルーメン(9)が配置されている。
【0027】
(本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルの実施態様6)
各バルーン間の距離を伸縮可能な実施態様6のカテーテル(F)について、図面10を参照して説明する。
なお、該カテーテルは、各バルーン間の距離を伸縮可能にするための伸縮手段を有する。より詳しくは、上記実施態様1〜5のいずれか1のカテーテルの中空状態のチューブ本体1が、該チューブ本体の先端部を有する先端管(1A)及び末端管(1B)から構成されている。先端管(1A)の内径は、末端管(1B)の先端の一部又は全部が該先端管(1A)内に摺動可能に受容されること(格納)ができるように、該末端管(1B)の外径よりも大きい。
さらに、該カテーテルは、前記末端管が前記先端管から離脱することを防ぐための1組の停止部材を有してもよい。なお、1組の停止部材は、2つの停止器具10及び2つの停止器具11を含む。
停止器具10は先端管(1A)の末端の内面に配置され、停止器具11は、末端管(1B)の先端の外面に配置されている。停止器具10及び停止器具11は、先端管(1A)の末端及び末端管(1B)の先端で係合して、該末端管が該先端管から離脱することを防ぐことができる。
加えて、停止器具10が先端管(1A)の末端の内面及び外面に配置されている場合には、各バルーン間の距離が過度に近くなることを防ぐための停止部材にもなる。詳しくは、末端管(1B)を矢印の方向に移動させることにより、停止器具10が該末端管の停止面12と接触することにより、各バルーン間の距離を縮めることができない。
【0028】
加えて、図10とは異なり、末端管(1B)の内径は、先端管(1A)の末端の一部又は全部が該末端管(1B)内に摺動可能に受容されること(格納)ができるように、該先端管(1A)の外径よりも大きくすることもできる。
【0029】
本発明の消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテル(F)は、図10から明らかなように、末端管(1B)を矢印の方向に移動させることにより、各バルーン間の距離を縮めることができる。
これにより、各種のモデル動物の消化管の長さに合わせて各バルーン間の距離を適切に調整することができる。
【0030】
(モデル動物の前処理)
使用するモデル動物は、好ましくは消化管の内容物を排出させる。排出方法は、例えば、グリセリンを適宜直腸より注入し、可能な限りバルーンカテーテルにて消化管の内容物を除去する。
【0031】
(消化管局所炎症モデル動物作製方法)
本実施態様のカテーテルを、モデル動物の肛門から慎重に挿入し、さらに、該カテーテルの各バルーン間{第1バルーン(2)と第2バルーン(3)の間}が消化管内の施術部位の位置に達するまで挿入する。
なお、本実施態様5のカテーテルを使用する場合には、予め目的の消化管内位置までガイドワイヤを公知の方法で導入しておき、第3ルーメン(9)の先端にガイドワイヤの基端を入れる。そして、本実施態様5のカテーテルを該ガイドワイヤに沿わせて進め、施術部位が各バルーン間(第1バルーン(2)と第2バルーン(3)の間)に位置するようにした後に、ガイドワイヤを引く。
次に、バルーン用ポートに接続した流体注入器を操作し、各バルーンを拡張する。
さらに、薬液用ポートに接続した機器を操作し、各バルーンの間の側孔から酢酸等の薬液を消化管内の局所(各バルーン間)に注入する。これにより、モデル動物の消化管内の局所で炎症が生じることにより、消化管局所炎症モデル動物が作製できる。
なお、本発明の消化管局所炎症モデル動物の作製では、下記実施態様の結果により、好ましくは、7.0%〜13.0%の酢酸を注入することが好ましい。
【0032】
(消化管局所炎症モデル動物)
本発明のカテーテルを使用して作製した消化管局所炎症モデル動物では、消化管内に病変部(炎症部)と非病変部が存在しており、炎症治療過程及び治療後の病変部と非病変部の相違及び細菌叢を比較することができる。
さらに、実施態様3又は4のカテーテルを使用して作製した消化管局所炎症モデル動物は炎症性消化管疾患の治療剤のスクリーニング方法に適している。
詳しくは、消化管局所炎症モデル動物の消化管内に異なる種類の炎症を同時に発症させることができる。例えば、実施態様3又は4のカテーテルの側孔(6a)から薬剤A及び側孔(6b)から薬剤Bを放出することにより、消化管内に薬剤A誘発炎症部位及び薬剤B誘発炎症部位を生じさせることができる。
さらに、消化管局所炎症モデル動物の消化管内に同時に異なる薬剤候補物質のスクリーニングをすることができる。
例えば、予め同じ薬剤Aで誘発した炎症部位を消化管内に2箇所生じさせた後に、実施態様3又は4のカテーテルの側孔(6a)から炎症部位に治療効果が期待される薬剤C及び側孔(6b)から炎症部位に治療効果が期待される薬剤Dを放出することにより、同時に薬剤C及び薬剤Dの治療効果を確認することができる。
【0033】
上記スクリーニングで得られた炎症性消化管疾患の治療剤は、予防、改善又は治療等の目的に応じて、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、液剤、注射剤(液剤、懸濁剤)または遺伝子療法に用いる形態などの各種の形態に、常法にしたがって調製することができる。本発明の治療剤は、通常は1種または複数の医薬用担体を用いて医薬組成物として製造することが好ましい。
【0034】
炎症性消化管疾患の治療剤の投与量または摂取量については、特に限定されるものではなく、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等に応じて適宜選択される。本発明の医薬または食品は、1日1〜数回に分けて投与または摂取することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与または摂取してもよい。
【0035】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(消化管局所炎症モデル動物の作製)
実施態様1のカテーテルを介して各濃度の酢酸をラットの大腸の局所に注入して、酢酸誘発大腸炎局所炎症ラットを作製した。さらに、酢酸注入後の体重変化の測定、及び各ラットを開腹して大腸を摘出して肉眼的に評価した。なお、生理食塩水を注入したラットをコントロールとして使用した。詳細は、以下の通りである。
(1)使用したラット:SD系ラット(雌性、7週齢)を1週間馴化飼育した後、試験に使用した。
(2)使用した酢酸濃度、投与量及び投与時間
ラット1:50.0%酢酸 1mlを1分で投与した。
ラット2:20.0%酢酸 1mlを1分で投与した。
ラット3−1:10.0%酢酸 1mlを3分で投与した。
ラット3−2:10.0%酢酸 1mlを5分で投与した。
ラット3−3:10.0%酢酸 2mlを3分で投与した。
ラット4−1:5.0%酢酸 1mlを1分で投与した。
ラット4−2:5.0%酢酸 1mlを5分で投与した。
コントロールラット:0.9%の生理食塩水 2mlを3分で投与した。
【0037】
(摘出した大腸の肉眼的評価)
上記10.0%酢酸を注入したラット3−1及び3−3から摘出した大腸を図11に示す。 図11の画像から明らかなように、大腸の一部に炎症を起こしていることがわかる(図中の矢印を参照)。同様に、10.0%酢酸を注入したラット3−2から摘出した大腸の一部でも炎症を起こしていた(図なし)。
上記5.0%酢酸を注入しているラット4−1及び4−2は、酢酸注入後には生育することができたが、大腸の一部に炎症が起きていなかった。なお、上記50.0%酢酸を注入したラット1及び20.0%酢酸を注入したラット2は、酢酸注入24時間後までに生育できなかったので、大腸を摘出しなかった。
以上により、本発明のカテーテルを介して約10.0%の酢酸をラットの大腸の局所に注入すれば、酢酸誘発局所大腸炎ラットを作製できた。すなわち、本発明のカテーテルを介して約7.0〜13.0%の酢酸をラットの大腸の局所に注入すれば、酢酸誘発局所大腸炎ラットを作製できる。
【0038】
(酢酸注入後の体重変化)
上記大腸を摘出する前の10.0%酢酸2mlを3分で投与したラット3匹(開始体重▲:約640g、■:約625g、×:約560g)及びコントロールラット(開始体重約700g)の体重変化の測定結果を図12に示す。
図12のグラフから明らかなように、酢酸注入後のラットの体重変化が欠しかった。該体重変化が欠しい理由は、大腸の炎症箇所は限局的であり周囲の組織は正常に保たれているからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、炎症性腸疾患の病因研究に必要な、開腹することなくかつ消化管内部に病変部と非病変部が存在する消化管局所炎症モデル動物を作製するためのバルーンカテーテル及び該バルーンカテーテルを使用して消化管局所炎症モデル動物作製方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1:チューブ本体、1a:ポート接続部、1b、1c、1f:バルーン用ポート、1d、1e:薬液供給ポート、1A:先端管、1B:末端管
2:第1バルーン
3:第2バルーン
4a、4b、4c:バルーン用孔
5、5a、5b、5c:第1管
5'、5a'、5b'、5c': 第1ルーメン
6、6a、6b:側孔
7、7a、7b、7c:第2管
7'、7a'、7b'、7c':第2ルーメン
8:第3バルーン
9:第3ルーメン
10:停止器具
11:停止器具
12:停止面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管局所炎症モデル動物作製用カテーテルであって、
チューブ本体と、
前記チューブ本体先端縁の外周壁に一定の間隔を置いて形成された2以上のバルーン用孔と、
前記チューブ本体内に形成されており前記2以上のバルーン用孔へ連通する第1ルーメン又は前記チューブ本体内の前記2以上のバルーン用孔へ連通する第1管と、
前記2以上のバルーン用孔の各々を覆う状態で前記チューブ本体の外周周りに設置された2以上のバルーンと、
前記チューブ本体の外周壁の前記各バルーン間に形成された側孔と、
前記チューブ本体内に形成されており前記側孔へ連通する第2ルーメン又は前記チューブ本体内の前記側孔へ連通する第2管と、
を少なくとも備えることを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記第1ルーメンが各バルーン用孔の各々に対応する2以上のルーメンを含むこと、又は前記第1管が各バルーン用孔の各々に対応する2以上の管を含むこと、により各バルーンを個別に拡張可能であることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記第2ルーメンが各側孔の各々に対応する2以上のルーメンを含むこと、又は前記第2管が各側孔の各々に対応する2以上の管を含むこと、により各側孔から異なる薬剤を放出可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記バルーンが2つ(第1バルーン及び第2バルーン)設置されており、かつ前記バルーン用孔が2つ(第1バルーン用孔及び第2バルーン用孔)設置されており、前記第1ルーメンが2個のルーメン(ルーメン5a'及びルーメン5b')又は前記第1管が2個の管(管5a及び管5b)を含み、前記管5a又はルーメン5a'が前記第1バルーン用孔に連通し、前記管5b又はルーメン5b'が前記第2バルーン用孔に連通し、これにより、
前記第1バルーン及び第2バルーンを個別に拡張可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記バルーンが3つ(第1バルーン、第2バルーン及び第3バルーン)設置されており、かつ各バルーン間の側孔が2つ(第1側孔及び第2側孔)設置されており、
前記第2ルーメンが2個のルーメン(ルーメン7a'及びルーメン7b')又は前記第2管が2個の管(管7a及び管7b)を含み、
前記管7a又は前記ルーメン7a'が前記第1側孔に連通し、前記管7b又は前記ルーメン7b'が前記第2側孔に連通し、これにより、
前記第1側孔と前記第2側孔から異なる薬剤を放出可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のカテーテル。
【請求項6】
さらに、前記チューブ本体内に形成されており、チューブ本体の先端へ開口し、かつガイドワイヤを挿通可能な第3ルーメンを設けることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のカテーテル。
【請求項7】
各バルーン間の距離を伸縮可能にするための伸縮手段を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記伸縮手段は、チューブ本体が該チューブ本体の先端部を有する先端管及び末端管で構成されており、さらに該末端管の先端の一部又は全部が摺動可能に該先端管の末端内に格納されていることを特徴とする請求項7に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記伸縮手段は、チューブ本体が該チューブ本体の先端部を有する先端管及び末端管で構成されており、さらに該先端管の末端の一部又は全部が摺動可能に該末端管の先端内に格納されていることを特徴とする請求項7に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記末端管が前記先端管から離脱することを防ぐための1組の停止部材を有する請求項8又は9に記載のカテーテル。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1に記載のカテーテルを使用して、モデル動物に薬剤を注入することを特徴とする消化管局所炎症モデル動物の作製方法。
【請求項12】
前記薬剤が、7.0%〜13.0%酢酸であることを特徴とする請求項11の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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