説明

消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型を成形する金型の製造方法

【課題】目標寸法を有する鋳物を成形するために、消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型を成形する金型を製造する金型製造方法を提供する。
【解決手段】発泡製品模型の形状の最終三次元データを決定する工程と;決定された最終三次元データをNC工作機のコントローラに入力する工程と;決定された発泡製品模型の形状のキャビティを前記NC工作機によって金型基材に切削加工する工程とを含む消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型を成形する金型を製造する金型製造方法において、最終三次元データは、仮想発泡製品模型を用いる消失模型鋳造法による鋳造のコンピュータによるシミュレーションによる鋳物の変形から得た情報に基づいて決定され、又は、発泡製品模型を試作し該試作発泡製品模型を用いて消失模型鋳造法により実際に鋳物を試作し、該試作鋳物の寸法と前記目標寸法との差異をフィードバックして決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型を成形する金型を製造する方法に関する。本発明はまた、該方法を用いて製造した金型、該金型を用いて製造した発泡製品模型、該発泡製品模型を用いて消失模型鋳造法により製造した鋳物に関する。
【背景技術】
【0002】
消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型は以下のように製作されている。先ず、粒状の発泡材料ビーズを容器内に密閉して蒸気を吹き込んで予備発泡(一次発泡)させ、この予備発泡させたビーズを次に発泡製品模型製作用の金型のキャビティに充填して硬化させる。
【0003】
材料ビーズはPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を主成分とし、これにポリスチレン等が加えられており、これらの成分の混合比率は製造者によって異なっている。予備発泡において材料ビーズは発泡倍率が40倍程度で発泡されている。発泡倍率を場合によっては(例えば、薄肉の鋳物を製造する場合)、45倍程度にすることもある。但し、このように発泡率を高くすると、発泡模型硬度が小さくなるため、砂充填した際に発泡模型が変形する傾向があるので、厚肉の鋳物の製造には適していない。
【0004】
このように成形された発泡製品模型を使用して消失模型鋳造法により鋳物を製造した場合に、発泡材料ビーズの組成と発泡倍率の相異によって製造された鋳物の収縮率が異なってくる。
【0005】
また、注湯された金属が凝固して製品鋳物となる際の縮み代を考慮(即ち、伸尺を使用)して実際の金型キャビティは製作されている。縮み代は金属により異なる。鋳物と模型との関係の伸尺は5/1000の〜8/1000である。また、発泡製品模型とその成形用金型との関係においても発泡製品模型の縮みが存在し、その伸尺として3/1000の〜10/1000が用いられている。
【0006】
このように伸尺を用いて鋳造された鋳物製品が目的とする形状・寸法であるか、あるいはその許容誤差範囲内に収まっているかを確認している。しかしながら製品が目標寸法ではなく、あるいは、許容誤差範囲から外れている場合には、模型寸法を修正する必要があるため発泡製品模型を成形する金型のキャビティを広げるか、あるいは、キャビティを埋めることは困難なため、再度金型を製作する必要性が生じてくる。
【0007】
上記のように一定の伸尺を用いて鋳造しても、鋳物の部位により縮み代に相異が出る場合があり、鋳物製品が許容誤差内に収まらずに発泡製品模型用金型を再製作する必要が生じることが多々あった。部位により縮み代に相異が出る場合とは、例えば、二股に分岐する管であって、分岐した一方の管部分はほぼ直線状であり、もう一方の管部分は円弧状に湾曲している鋳物管製品であり、この場合、円弧状に湾曲している管部分の凸側部分と凹側部分の縮み代に相異が出る。
【0008】
下記特許文献1(特開平4−361849)に記載された発明は、フルモールド法によってプレス金型等を鋳造する場合に用いる鋳造品製造システムに関し、CADデータ作成時に、鋳造条件を充分考慮した設計を行い、鋳造区(鋳造工程)での作業管理を行うことのできる鋳造品製造システムを提供することを目的としている。
【0009】
下記非特許文献1(「ジャクトニュース第558号(平成15年6月20)」(社団法人 日本鋳造技術協会))は、コンピュータソフトウェアを用いて有限要素法等により鋳物の湯流れ、凝固、変形シミュレーションを行い、湯流れの状況、引け巣の発生の有無、鋳物凝固時の割れ・変形を観察することを教示している。
【0010】
但し、これらの両文献は、鋳物を試作して試作鋳物の寸法をフィードバックすることにより、あるいは、コンピュータによる消失模型鋳造法を用いる鋳造シミュレーションにおける変形解析による変形に基づいて、発泡製品模型の三次元データを決定することを開示又は示唆していない。
【0011】
消失模型鋳造法における発泡製品模型用金型を再製作する必要を減少させ、あるいは、なくすことができる発泡製品模型用金型を製造する方法が望まれている。
【特許文献1】特開平4−361849号公報
【非特許文献1】「ジャクトニュース第558号(平成15年6月20)」(社団法人 日本鋳造技術協会)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、消失模型鋳造法により鋳造された鋳物製品が許容誤差内に収まらずに発泡製品模型用金型を再製作する必要が生じるという問題を解決し、鋳物製品が目的寸法あるいはその許容誤差範囲内に収まるようにするために、消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型を成形する金型を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型を成形する金型を製造する方法であって:目標寸法を有する最終製品としての鋳物を成形するために該鋳物の形状の三次元データに相関する発泡製品模型の形状の最終三次元データを決定する工程と;該決定された最終三次元データをNC工作機のコントローラに入力する工程と;前記決定された発泡製品模型の形状のキャビティを前記NC工作機によって金型基材に切削加工する工程と;を含む金型製造方法である。
【0014】
最終三次元データは、消失模型鋳造法を用いる鋳造のコンピュータによるシミュレーションを行い、前記シミュレーションによる鋳物の凝固解析及び湯流れ解析に基づく変形解析による鋳物の変形から決定され、又は、発泡製品模型を試作し該試作発泡製品模型を用いて消失模型鋳造法により実際に鋳物を試作し、該試作鋳物の寸法と前記目標寸法との差異をフィードバックすることにより決定される。上記シミュレーションとフィードバックの両方を使用して最終三次元データを決定することとしても良い。
【0015】
本発明によって、上記金型製造法によって製造された発泡製品模型成形用金型、該発泡製品模型成形用金型に発泡材料を流し込んで成形した発泡製品模型、該発泡製品模型を用いて消失模型鋳造法により製造した鋳物を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、消失模型鋳造法により鋳造された鋳物製品が許容誤差内に収まらずに発泡製品模型用金型を再製作する必要性をなくし、あるいは、金型の再製作の回数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の主要部である発泡製品模型の形状の最終三次元データを決定する方法の実施例を以下に説明する
【実施例1】
【0018】
本実施例はデータをフィードバックすることにより最終三次元データを決定する。
【0019】
本実施例においては、まず、粒状の発泡材料ビーズを密閉容器内に入れ蒸気を吹き込んで適当な発泡倍率の発泡ブロックを成形する。次に、鋳物と模型との関係の伸尺及び発泡製品模型と成形用金型との関係の伸尺を用いて発泡ブロックを加工して、目標寸法を有する鋳物を消失模型鋳造法により成形するための発泡製品模型を試作する。
【0020】
この試作発泡製品模型を使用して消失模型鋳造法により鋳物製品を実際に製造(試作)する。この試作鋳物製品の寸法を実測し、寸法が目標寸法と異なる場合、あるいは、その許容誤差から外れる場合に、寸法を修正した発泡製品模型を試作する。この寸法の修正は、例えば、次のように行われる。実測の結果、製品の一部分の寸法が許容誤差である0.020mmより大きい0.024mmとなった場合、これをなくすように発泡製品模型の寸法を変更する。そして、この変更した寸法の発泡製品模型を製作し使用して再度製品鋳物を製造する。そして、鋳物の寸法が許容範囲内にあるか否かを確認する。許容範囲内であれば問題がないが、許容範囲外であれば、同様に発泡製品模型の寸法を繰り返し変更して、許容範囲内になるまで試作鋳物を繰り返し製造する。
【0021】
この実施例は、鋳物を試作する必要があるが、発泡製品模型用金型を作り直す必要性をなくすことができる。
【0022】
このようにして、試作鋳物の寸法と目標寸法との差異をフィードバックして発泡製品模型の形状の三次元データを最終的に決定する。本発明において、発泡製品模型の形状の「最終三次元データ」とは、このようなフィードバックにより最終的に決定される最終三次元データと、以下の実施例2において最終的に決定される最終三次元データとを意味するものである。
【実施例2】
【0023】
次に、コンピュータによるシミュレーションにより発泡製品模型の形状の最終三次元データを決定する方法を説明する。
【0024】
コンピュータ解析ソフトウェアを用いて有限要素法により最小メッシュ間隔4.5のメッシュモデルにより、以下の条件で消失模型鋳造法の鋳造シミュレーションを行った。
【0025】
なお、シミュレーションは、湯流れ解析、凝固解析、変形解析の順に行われる。湯流れ解析はキャビティに溶湯が入っていく過程、キャビティに溶湯が入りきった時間、溶湯のキャビティ充填時の圧力状態及び温度分布を求めるものである。この湯流れ解析によって得られたキャビティ充填時の温度分布を使用して凝固解析を行い、次に、凝固解析によって得られた凝固時間と、凝固時の製品温度分布から熱応力による変形解析を行うものである。すなわち、湯流れはキャビティへの充填がどのようになされるのかを解析するために行われ、そのために、(1)充填時間、(2)湯流れが乱流かあるいは整流かどうか、(3)充填位置の順番の3つの因子を検討する。充填解析がなされた後、凝固に着目して熱解析を行い、そして熱解析における熱応力による変形解析がなされる。
【0026】
条件
鋳造製品の形状:円筒(長さ(高さ)80mm、外径250mm、最小肉厚3.5mm)
製品材質:FCD450
結果
鋳造シミュレーションの結果は以下の通りであった。
【0027】
1.湯流れ解析
溶湯が製品に入っていく過程、入りきった時間、溶湯のキャビティ充填時の圧力状態が得られた。注湯時間は7.07秒、溶湯圧(製品部)は0.07〜0.10MPaであった。
【0028】
(注湯時間が長すぎると、キャビティに完全に湯が入りきらないといった欠陥の発生が考えられる。シミュレーションの結果を基に、溶湯が入りやすい鋳造方案を立てることも可能である。)
2.凝固解析
キャビティに湯が入りきった状態(液体状態)から湯が凝固する(固体状態になる)までの時間である凝固時間は120秒であった。
【0029】
ポロシティ量0.2%以上存在する箇所が湯道部に少し見られた。
【0030】
(製品が最後に凝固する部分には引け巣等の欠陥が発生し易すくなり、また、ポロシティが存在すると製品強度に大きな影響を及ぼすので、それらの位置をシミュレーションにより特定する。また、欠陥が発生しにくい鋳造方案を立てることも可能である。)
3.変形解析
製品外周部の変位量が最も大きく、0.021mm歪んだ。
【0031】
製品が凝固する過程で熱応力が発生し、製品が応力によって変形するが、シミュレーションにより製品がどの程度変形するか事前に把握できれば、変形量を見越した発泡模型成形金型を製作することが可能である。
【0032】
変形解析後のデータはシミュレーションソフトウェアによりSTLデータ(3次元CAD中間ファイルデータ)に変換される。
【0033】
上記変異量0.021mmは許容誤差の0.015mmを超えているので、これをなくすことができるような寸法に発泡製品模型の寸法を変更して、再度シミュレーションを行う。発泡製品模型の寸法の変更と、シミュレーションは、シミュレーションによる鋳物の変異量が許容誤差に収まるまで行われる。これにより、発泡製品模型の形状の最終三次元データが決定される。
【0034】
変異量に関する上記STLデータと、実施例に1において試作した試作鋳物を三次元測定器により測定した三次元データを比較して参考として、発泡製品模型の形状の最終三次元データ(目標寸法)を決定するために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消失模型鋳造法に用いる発泡製品模型を成形する金型を製造する方法であって、
目標寸法を有する最終製品としての鋳物を成形するために該鋳物の形状の三次元データに相関する発泡製品模型の形状の最終三次元データを決定する工程と、
該決定された最終三次元データをNC工作機のコントローラに入力する工程と、
前記決定された発泡製品模型の形状のキャビティを前記NC工作機によって金型基材に切削加工する工程と、
を含む金型製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金型製造方法であって、前記発泡製品模型の形状の最終三次元データは、消失模型鋳造法を用いる鋳造のコンピュータによるシミュレーションを行い、前記シミュレーションによる鋳物の凝固解析及び湯流れ解析に基づく変形解析による変形から決定される金型製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金型製造方法であって、発泡製品模型を試作し該試作発泡製品模型を用いて消失模型鋳造法により実際に鋳物を試作し、該試作鋳物の寸法と前記目標寸法との差異をフィードバックして前記発泡製品模型の形状の最終三次元データを決定する金型製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の金型製造方法であって、発泡ブロックを加工して前記発泡製品模型を試作する金型製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の金型製造法によって製造された発泡製品模型成形用金型。
【請求項6】
請求項5に記載の発泡製品模型成形用金型に発泡材料を流し込んで成形した発泡製品模型。
【請求項7】
請求項6に記載の発泡製品模型を用いて消失模型鋳造法により製造した鋳物。

【公開番号】特開2007−54841(P2007−54841A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239736(P2005−239736)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(504472938)三重可鍛工業株式会社 (4)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(395004575)大藤株式会社 (4)
【出願人】(591209361)ダイセン株式会社 (9)
【Fターム(参考)】