説明

消泡剤の添加による無細胞タンパク質合成系におけるタンパク質発現収率の増強法

消泡剤を含む反応混合物における生物学的分子のインビトロ合成のための組成物および方法が提供される。消泡剤を含む反応ミックスはスケールアップされた反応でもよく、例えば反応体積は少なくとも約15μl超でよい。反応は、当技術分野において公知のように、さまざまな反応装置において実施されてよく、これらは撹拌反応装置、気泡カラム反応装置などを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
タンパク質合成は基本的な生物学的プロセスであり、ポリペプチド治療法、診断法、および触媒の開発の根底にあるものである。組み換えDNA(rDNA)技術の出現により、所望のタンパク質を産生するために細胞の触媒機構を利用することが可能となった。これは細胞環境中、または細胞由来の抽出物を用いるインビトロの中で達成できる。
【0002】
過去10年の間に、無細胞系の生産性は、約5μg/ml-hrから約500μg/ml-hrまで2桁改善した。この成果は、インビトロにおけるタンパク質合成を実験室スケールの研究のための実践的技法にし、ハイスループットタンパク質発現のためのプラットフォーム技術を提供する。このことはまた、タンパク質製剤のインビボ大スケール産生のための代替手段としての無細胞技術の使用の実行可能性も示唆し始めている。
【0003】
無細胞タンパク質合成は、従来のインビボタンパク質発現方法に優るいくつかの利点を提示する。無細胞系は、細胞の全てではないがほとんどの代謝資源を、一つのタンパク質の独占的な産生に向けて方向づけることができる。さらに、インビトロにおける細胞壁の欠如は、合成環境のよりよい制御を可能にするので有利である。例えば、tRNAレベルは発現される遺伝子のコドン使用を反映して変更することができる。同様に、細胞の増殖または生存能は懸案事項ではないので、酸化還元電位、pH、またはイオン強度はインビボよりも高い柔軟性で変更できる。さらに、精製され、適切に折りたたまれたタンパク質産物の直接回収を、簡単に達成できる。
【0004】
インビトロ翻訳は、非天然で同位体標識されたアミノ酸を組み入れる能力、ならびにインビボで不安定、不溶性または細胞毒性であるタンパク質を産生する能力についても認識されている。さらに、無細胞タンパク合成は革命的なタンパク質工学およびプロテオームスクリーニング技術において役割を果たす可能性がある。無細胞法は、新たな遺伝子産物のインビボにおける発現のためのクローニングおよび細胞の形質転換のために必要な骨の折れるプロセスを回避し、この分野のプラットフォーム技術になりつつある。
【0005】
無細胞タンパク質合成の有望な特性にもかかわらず、その実際的な使用および大スケールの遂行はいくつかの障害によって制限されてきた。これらの中最も主要なのは、短い反応時間および低いタンパク質産生率であり、それが低いタンパク質合成収率および過剰な試薬コストをもたらす。Spirinら(1988)Science 242:1162-1164(非特許文献1)の先駆的な研究が、連続的流系の開発により、短い反応時間の問題を初めに回避した。多くの研究室がこの研究を再現し、かつ改良しているが、すべて反応チャンバーに絶え間なく基質を補充する最初に使われた方法をとっている。このアプローチはバッチ系と比べて翻訳反応の継続時間とタンパク質収率を増大させる。しかし、それは高価な試薬の使用の点で効率が悪く、一般的に希釈された生産物を産生し、生産速度において著しい改善を提供しなかった。
【0006】
従来のバッチ系は、これらの連続および半連続スキームに優る、スケールアップの容易さ、再現性、タンパク質産生速度の上昇、利便性、ハイスループット発現のための多重方式の適用性、およびより効率的な基質の使用を含む、いくつかの利点を提供する。これらの利点は、無細胞タンパク質合成の工業的利用のために重要なバッチ系の生産性を向上させる。しかし、現在の手法を使用すると、反応をスケールアップする場合に効率が低下する。特定のタンパク質産物収率の減少は、酸化的リン酸化のために酸素を必要とする系において特に深刻である。より大きな反応における産物収率の増大が、この必要を満たす本質的構成要素である。
【0007】
関連文献
米国特許第6,337,191号 B1、Swartz et al.(特許文献1); Kim and Swartz (2000) Biotechnol Prog. 16:385-390(非特許文献2); Kim and Swartz (2000) Biotechnol Lett. 22:1537-1542(非特許文献3); Kim and Choi (2000) J Biotechnol. 84:27-32(非特許文献4); Kim et al. (1996) Eur J Biochem.239:881-886(非特許文献5); Tao and Levy (1993) Nature 362:755-758(非特許文献6); Hakim et al. (1996) J Immun. 157:5503-5511(非特許文献7); Pratt (1984) Coupled transcription-translation in prokaryotic cell-free systems. In: Hames BD, Higgins SJ. Ed. In transcription and translation: a practical approach. New York: IRL press:179-209.(非特許文献8); Davanloo et al.(1984) PNAS 81:2035-2039(非特許文献9); Cock et al.(1999) Biochemistry 259:96-103(非特許文献10); Gill and Hippel(1989) Anal. Biochem. 182:319-326(非特許文献11); Kim et al.(1999) Europ. J. Biochem. 239:881-886(非特許文献12); Davanloo et al.(1984) PNAS 81:2035-2039(非特許文献13)
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,337,191号 B1、Swartz et al.
【非特許文献1】Spirinら(1988)Science 242:1162-1164
【非特許文献2】Kim and Swartz (2000) Biotechnol Prog. 16:385-390
【非特許文献3】Kim and Swartz (2000) Biotechnol Lett. 22:1537-1542
【非特許文献4】Kim and Choi (2000) J Biotechnol. 84:27-32
【非特許文献5】Kim et al. (1996) Eur J Biochem.239:881-886
【非特許文献6】Tao and Levy (1993) Nature 362:755-758
【非特許文献7】Hakim et al. (1996) J Immun. 157:5503-5511
【非特許文献8】Pratt (1984) Coupled transcription-translation in prokaryotic cell-free systems. In: Hames BD, Higgins SJ. Ed. In transcription and translation: a practical approach. New York: IRL press:179-209.
【非特許文献9】Davanloo et al.(1984) PNAS 81:2035-2039
【非特許文献10】Cock et al.(1999) Biochemistry 259:96-103
【非特許文献11】Gill and Hippel(1989) Anal. Biochem. 182:319-326
【非特許文献12】Kim et al.(1999) Europ. J. Biochem. 239:881-886
【非特許文献13】Davanloo et al.(1984) PNAS 81:2035-2039
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
消泡剤を含む反応混合物中における、生物学的分子のインビトロ合成のための組成物と方法が提供される。無細胞合成反応への消泡剤の添加は、無細胞系におけるタンパク質の比収率を増強する。本発明の一つの態様において、消泡剤を含む反応ミックスはスケールアップされた反応であり、例えば反応容量において少なくとも約15μlより大きい。反応は当技術分野において公知であるように、気泡カラム反応装置(bubble-column reactor)を含むさまざまな反応装置中で実施することができる。
【0010】
態様の詳細な説明
無細胞系において合成されるタンパク質の総収率、可溶性収率、および活性収率を増強するために、消泡剤を含む反応混合物における、生物学的分子のインビトロ合成のための組成物および方法が提供される。消泡剤の添加は小スケール反応において収率を増大させることができるが、より大きなスケールの反応、特に好気条件を提供する反応装置において特に有益である。
【0011】
インビトロ合成は、本明細書において使用されているように、生物学的抽出物および/または定義された試薬を含む反応ミックスにおける生物学的高分子の無細胞合成を指す。反応ミックスは高分子の産生のための鋳型、例えばDNA、mRNAなど;合成される高分子に対するモノマー、例えばアミノ酸、ヌクレオチドなど、ならびに合成のために必要な補因子、酵素、および他の試薬、例えばリボソーム、tRNA、ポリメラーゼ、転写因子などを含むであろう。このような合成反応系は当技術分野において周知であり、文献に記載されている。ポリペプチド合成のための多くの反応化学を、本発明の方法において使用できる。例えば、反応化学は参照により本明細書に組み入れられる、2002年1月8日発行の米国特許第6,337,191号、および2001年1月2日発行の米国特許第6,168,931号において記載されている。
【0012】
本発明の一つの態様において、反応化学は、参照により本明細書に組み入れられる同時係属中の米国特許出願第10/643,683号に記載されている。酸化的リン酸化が活性化され、増大した収率およびエネルギー源の増強された活用を提供する。改善した収率は、グルコース含有培地で生育したバクテリア由来の生物学的抽出物の使用;ポリエチレングリコールの欠如;および最適化したマグネシウム濃度を含む因子の組み合わせによって得られる。これは恒常性の系を提供し、ここで合成は二次的なエネルギー源の非存在下でも起こり得る。
【0013】
バイオリアクターの性能がスケールによって劇的に変わり得るということは当技術分野において周知である。大規模な系における均質性の維持には困難があり、表面対体積の比の変化、および増大した時間枠による反応そのものの変化がおこる。これらの問題に加えて、酸化的リン酸化を活性化するインビトロタンパク質合成反応は、最適な性能のために増大した酸素を必要とする可能性があり、その送達は反応体積が増大するとより困難になる。
【0014】
より一般的なタイプの反応装置の中には、撹拌槽型反応装置、撹拌に関してガス噴霧に依存する気泡カラム反応装置およびエアリフト反応装置などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。Cytomim反応条件のためには気泡カラム反応装置が好ましいであろう。
【0015】
商業的発酵においてしばしば遭遇する問題は発泡であり、これは汚染細胞が発酵槽に入る経路を提供することを含むさまざまな理由のために望ましくない。細胞培養における泡は界面活性化学薬剤を添加することにより制御されるが、そのような消泡剤は通常KLa値を低下させ、酸素および他のガスを供給する反応装置の能力を低減し、かつ細胞の増殖も阻害する可能性がある。タンパク質が、例えば従来の組み換え発現方法によりインビボで発現される場合、触媒および新生産物は細胞内でそのままの状態には保護されないことから、インビトロ合成では、消泡剤の疎水性成分はタンパク質の合成および折りたたみを妨げると予想される。したがって本明細書において提供される結果は予想外である。
【0016】
消泡剤
本発明のインビトロタンパク質合成反応は、消泡剤を含む。本剤は通常少なくとも約0.00007%の濃度で存在し、少なくとも約0.0001%でよく、かつ約0.001%超ではなく、通常約0.007重量%超ではない。一定のアリコート、オンデマンドの制御、ならびに比例制御、積分制御、および/もしくは微分制御またはそれらの組み合わせを含む異なる制御方法を、連続フィード反応における消泡剤流速を調節するために採用できる。消泡剤添加の最適量は、反応条件、消泡剤のタイプなどの変数に依存する。消泡剤添加の最適量、および適用できる場合は添加の間の時間スパンは、試行の間に経験により決定されてもよい。
【0017】
本明細書において使用されるように、消泡剤は、泡の破壊およびガス放出を促進し、かつ混合、噴霧、または撹拌により引き起こされ得る発泡を相殺するために反応混合物に添加される界面活性化学物質である。消泡剤は泡を防止、除去、および/または低減し得る。消泡剤はさらに湿潤、分散、乳化、可溶化、流動および平滑化、粘着性、ならびに光沢のような良好な付随的な表面性質を与え得る。
【0018】
多くの化合物が消泡剤として使用でき、これらはアルキルポリオキシアルキレングリコールエーテル、エステル、アルコール、シロキサン、シリコン、サルファイト、スルホネート、脂肪酸およびそれらの誘導体などを含むが、これらに限定されない。さまざまなこれらの薬剤は公知であり、例えばSigma Chemicals、J.T.Bakerなどを通して市販されている。本発明のいくつかの態様において、消泡剤は洗剤以外である。
【0019】
関心対象の消泡剤の中にはブロック共重合体があり、これは泡の空気/水界面に不溶性単分子層を形成することにより脱泡/消泡作用を提供する。ブロック重合体の脱泡活性は、共重合体の曇り点(cloud point)および使用温度の両方の機能である。効果的な脱泡剤を選択するために、曇り点が意図される使用温度よりも低いブロック共重合体が選択される。低いエチレンオキシド含量を有するブロック共重合体は、最も効果的な脱泡剤である。PLURONIC(登録商標)界面活性剤は、脱泡剤として広く使用されている。逆の構造のPLURONIC(登録商標)R界面活性剤もまた、脱泡への適用において効果的である。その他の関心対象の消泡剤は、シロキサンポリマー、有機非シリコンポリプロピレンをベースにしたポリエーテル分散物の混合物、有機脂肪酸エステル型消泡剤などを含む。
【0020】
反応化学
無細胞タンパク質合成のための鋳型は、mRNAまたはDNAのいずれでもよい。安定化されたmRNAの翻訳または転写および翻訳の組み合わせは、保存された情報をタンパク質に変換する。一般的に大腸菌系において利用される組み合わされた系は、認識可能なプロモーターを有するDNA鋳型からmRNAを継続的に生成する。内在性のRNAポリメラーゼが使用されるか、または典型的にはT7もしくはSP6である外来性のファージRNAポリメラーゼが反応混合物に直接添加される。または、RNA依存性RNAポリメラーゼであるQΒレプリカーゼの鋳型にメッセージを挿入することによってmRNAが持続的に増幅され得る。精製されたmRNAは一般的に、反応混合物に添加される前に化学的修飾によって安定化される。ヌクレアーゼはmRNAレベルを安定化するのを助けるために抽出物から除去されてもよい。鋳型は任意の関心対象の特定遺伝子をコードし得る。
【0021】
他の塩、特にマンガンのような生物学的に関連のあるものもまた、添加され得る。カリウムは通常50〜250mMの間で添加され、アンモニウムは0〜100mMの間で添加される。反応のpHは通常pH6〜9の間で実行される。反応の温度は通常20℃から40℃の間である。これらの範囲は拡張され得る。
【0022】
望ましくない酵素活性に対する代謝阻害剤が反応混合物に添加されてもよい。または、望ましくない活性に関与する酵素または因子が、抽出物から直接除去されてもよい。第三に、望ましくない酵素をコードする遺伝子が不活性化されるか、または染色体から欠失されてもよい。
【0023】
宿主生物から精製されるか、または合成された小胞もまた、系に添加されてもよい。これらはタンパク質合成および折りたたみを増強するために使用され得る。このCytomim技術は、酸化的リン酸化の活性化のための呼吸鎖成分を含む膜小胞を利用するプロセスを活性化することが示されている。本方法は、他の一連の膜タンパク質を活性化するための無細胞発現に用いられ得る。
【0024】
関心対象の合成系はDNAの複製を含み、これはDNAの増幅、DNAまたはRNA鋳型からのRNAの転写、RNAのポリペプチドへの翻訳、および単糖からの複合糖質の合成を含み得る。
【0025】
反応は大スケール、小スケールでもよく、または複数の同時合成を実行するために多重化されてもよい。さらなる試薬が活性合成のための期間を延長するために導入されてもよい。合成された産物は通常反応装置の中に蓄積され、次いで系の稼働完了の後、タンパク質精製のための通常の方法に従って単離および精製される。
【0026】
特に関心対象であるのは、タンパク質を産生するためのmRNAの翻訳であり、この翻訳はDNA鋳型からのmRNAのインビトロ合成と共役する可能性がある。このような無細胞系はmRNAの翻訳のために必要とされるすべての因子、例えばリボソーム、アミノ酸、tRNA、アミノアシル合成酵素、伸長因子、および開始因子を含むであろう。当技術分野において公知の無細胞系は大腸菌抽出物などを含み、これは活性な内在性mRMAを除去するために適当なヌクレアーゼで処理され得る。
【0027】
無細胞抽出物、遺伝子鋳型、およびアミノ酸などの上記の成分に加えて、タンパク質合成のために特異的に必要とされる材料が反応に添加されてもよい。これらの材料は塩、高分子化合物、環状AMP、タンパク質または核酸分解酵素の阻害剤、タンパク質合成の阻害剤または調節物質、酸化/還元調整剤、非変性界面活性剤、緩衝剤成分、スペルミン、スペルミジンなどを含む。
【0028】
塩は好ましくは酢酸または硫酸のカリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、およびマンガン塩を含み、これらのうちのいくつかは対アニオンとしてアミノ酸を有してもよい。高分子化合物はポリエチレングリコール、デキストラン、ジエチルアミノエチルデキストラン、四級アミノエチルおよびアミノエチルデキストランなどでもよい。酸化/還元調整剤は、ジチオスレイトール、アスコルビン酸、グルタチオン、および/またはそれらの酸化物でよい。同様に、Triton X-100のような非変性界面活性剤も0〜0.5Mの濃度で使用されてもよい。スペルミンおよびスペルミジンがタンパク合成能を向上させるために使用されてもよく、cAMPが遺伝子発現調節物質として使用されてもよい。
【0029】
反応媒質の特定の成分の濃度を変化させたときは、他の成分の濃度がそれに応じて変えられてもよい。例えば、ヌクレオチドおよびエネルギー源成分のようないくつかの成分の濃度が、他の成分の濃度の変化に従って同時に制御されてもよい。同様に、反応装置における成分の濃度レベルも時間経時的に変動してもよい。
【0030】
好ましくは、反応はpH5〜10の範囲、および温度は20°〜50℃の範囲に維持され、より好ましくはpH6〜9の範囲および温度は25°〜40℃の範囲に維持される。
【0031】
翻訳反応において産生されるタンパク質の量は、さまざまな様式で測定され得る。一つの方法は翻訳される特定のタンパク質の活性を測定するアッセイの入手可能性に依存する。タンパク質の活性を測定するためのアッセイの例はルシフェラーゼアッセイ系、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼアッセイ系である。これらのアッセイは、翻訳反応から産生された機能的に活性なタンパク質の量を測定する。活性アッセイは、不適当なタンパク質折りたたみ、またはタンパク質活性のために必要な他の翻訳後修飾の欠如のために不活性な全長タンパク質を測定しない。
【0032】
インビトロ転写および翻訳反応の組み合わせにおいて産生されるタンパク質の量を測定するもう一つの方法は、35S-メチオニンまたは14C-ロイシンのような放射性標識されたアミノ酸の既知の量を用いる反応を行い、続いて新たに翻訳されたタンパク質に取り込まれた放射性標識されたアミノ酸の量を測定する。取り込みアッセイは、切り詰められたタンパク質産物を含む、インビトロ翻訳反応において産生される全タンパク質中の放射性標識されたアミノ酸の量を測定するであろう。放射性標識されたタンパク質はタンパク質ゲル上でさらに分離されてもよく、タンパク質が適切な大きさであること、および二次的タンパク質産物が産生されていないことがオートラジオグラフィによって確認されてもよい。
【0033】
反応体積および形状
反応は任意の体積でよいが、本方法はスケールアップされた反応において特に有利であり、ここで反応体積は少なくとも約15μl、通常少なくとも約50μl、より通常には少なくとも約100μlであり、かつ500μl、1000μl、5000μlまたはそれより大きくてもよい。多くの場合、複数の反応が並行して実行され得るが、個々の反応は約10ml超ではないであろう。しかし、本発明が、1リットル、10リットル、100リットル、1000リットル、またはそれより大きい体積用に設計され得る商業的バイオリアクターにおいて使用されるような、よりはるかに大きな体積へスケールアップすることを可能にすることも予測される。反応混合物は脂質、例えば反転小胞を含んでもよいが、それは通常、脂質二重層によって表面に結合されない。
【0034】
本明細書において使用されているように、「小スケール」という用語は、約15μl、もしくは約15μl未満の体積を有する反応を指す。本発明の方法は、上記のように、小スケール反応と比較して実質的に一貫した収率を維持する「スケールアップされた」反応を可能にする。収率は、反応間で一貫して適用される限り、例えば総タンパク質合成/ml反応混合物、可溶性タンパク質合成/ml反応混合物、生物学的活性タンパク質合成/ml反応混合物などの任意の便利な方法によって算出され得る。比較可能な小スケール反応(すなわち反応は同一の反応物を含み、体積のみが異なる)と比較して、スケールアップ反応における収率は、通常少なくとも約90%、より通常には少なくとも約95%であり、かつ少なくとも約99%でよい。いくつかの場合において、本発明のスケールアップされた反応混合物において、収率が実際に増加することが観察されている。
【0035】
系は好気的および嫌気的条件下で稼働され得るが、好ましくは好気的条件下である。反応の乾燥を防ぐために、ヘッドスペース(headspace)は、通常は作業温度で少なくとも約80%飽和、より通常には作業温度で少なくとも約90%飽和に加湿されてもよい。実験室条件下では、チャンバーを密閉してヘッドスペースを封鎖することで通常十分である。反応チャンバーのヘッドスペースは酸素で満たされてもよく、または酸素が反応混合物中に吹き込まれてもよい。酸素は継続的に供給されてもよく、またはより長い反応時間のために、反応チャンバーのヘッドスペースはタンパク質発現過程中に補充されてもよい。酸素の他にニトレートなどの他の電子受容体も、適切な呼吸経路について前もって誘導された細胞抽出物に供給されてもよい。
【0036】
通気反応条件は気泡カラムのデザインにおいて提供されてもよい。気泡カラムにおいて、空気は液体で満たされた容器に吹き込まれるか、または噴霧される。カラム中にあるような液体相の中にガスが噴霧されることによって、ガスは気泡として分散され得る。ガス、例えば酸素または酸素を含む混合物は、カラムの全領域を覆う分配板を通して、およびある種の全体的な循環パターンを槽全体に付与するようにデザインされているループまたは通気チューブによって空気が導管の中に閉じ込められるエアリフト反応装置を通じても気泡に分散され得る。さまざまなカラム形状が当技術分野において公知であり、サイズ、バッフル(baffles)、ヘッドスペースなどに相違を含み得る。例えば、とりわけ参照により本明細書に組み入れられる、Bubble Column Reactions, 1st ed.; Wolf-Dieter Deckwer (Gesellschaft fur Biotechnologische Forschung mbH、Braunschweig Germany) ISBN: 0471918113; Oldshue (1983) Biotechnol Adv.1(1):17-30; Poulsen & Iversen (1999) Biotechnol Bioeng. 64(4):452-8; Poulsen & Iversen (1998) Biotechnol Bioeng. 58(6):633-41を参照されたい。
【0037】
本発明は記載された特定の手法、プロトコール、細胞株、動物種または属、構築物、および試薬に限定されず、もちろん変動してもよいことが理解される。本明細書において使用されている用語は特定の態様だけを記載する目的のために使用されており、添付の特許請求の範囲のみにより限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも理解される。
【0038】
特に定義されない限り、本明細書で使用されている技術的用語および科学的用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同一の意味をもつ。本明細書中に記載されているものと類似のまたは同等の任意の方法、装置、および材料を、本発明の実行もしくは試験において使用できるが、好ましい方法、装置、および材料はここに記載される。
【0039】
本明細書において言及されるすべての刊行物は、例えばここに記載される発明に関連して使用され得ることが刊行物において記載される細胞株、構築物、および手法を記載、および開示する目的のために、参照により本明細書中に組み入れられる。上記および本文を通して論じられた刊行物は、単にそれらが本願の出願日より前に開示されているために提供されている。本明細書中に、本発明者らが先行発明の効力によってこのような開示に先行する資格がないということの承認と解釈されることはない。
【0040】
下記の実施例は、本発明をどのように作製し、かつ使用するかについての完全な開示および記載を当業者に提供するために示されており、本発明であるとみなされるものの範囲を限定することは意図されない。使用されている数字(例えば量、温度、濃度など)に関しては正確さを期すよう努力が払われたが、いくらかの実験誤差および偏差は許容されるべきである。特に示されない限り、割合は重量による割合であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、かつ圧力は大気圧またはその近辺である。
【0041】
実験
実施例1
無細胞タンパク質合成系への消泡剤の添加を試験した。5つの異なる消泡剤を、PANOx(Kim and Swartz 2001 Biotechnol.Bioengineer. 74:309-316)無細胞系に添加し、大腸菌クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の総収率、可溶性収率、および活性収率を増強することが見出された(図1)。図2は気泡反応装置の基本的な概略を示している。図3および図4は、大スケールの気泡反応装置とエッペンドルフチューブ中の小スケールとにおけるGMCSF-VL-VH哺乳動物タンパク質構築物およびCATの収率を比較している。薬剤は表1に、反応成分は表2および表3に記載されている。
【0042】
Cytomim 系のために、表2に列挙された成分は示された濃度において混合される(Jewett and Swartz、同時係属中の出願第10/643,683号)。PANOx系のために、表3に記載された成分は、Swartz and Kim,“Regeneration of Adenosine Triphosphate from Glycolytic Intermediates for Cell-Free Protein Synthesis”, Biotechnology and Bioengineering, Vol.74, 4, 2001年8月20日に記載されているように、示された濃度において混合される。
【0043】
CATタンパク質発現のために、この系において鋳型として使用されるDNAは、大腸菌タンパク質クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が続くT7プロモーターを含むpK7-CAT環状プラスミドである。構造遺伝子にT7ターミネーターが続く。
【0044】
GMCSF-scFvタンパク質発現のために、この系において鋳型として使用されるDNAは、GMCSFタンパク質をコードする遺伝子(Mi-Hua Tao, 1993)が続き、5アミノ酸リンカー(グリシン4-セリン)を介してマウスリンパ腫抗体38C13のscFV断片をコードする遺伝子(Hakim, 1996)に融合されているT7プロモーターを含む、pK7-GMCSF-VL-VH環状プラスミドである。構造遺伝子にT7ターミネーターが続く。
【0045】
Pratt(1984)の手順に従って、大腸菌K12(A19株)からS30細胞抽出物を調製した。ホモジナイズの後、細胞溶解物にDL-ジチオスレイトールを添加しなかった。Davanlooら(1984)の手順に従って、大腸菌BL21株(pAR1219)培養物からT7 RNAポリメラーゼを調製した。
【0046】
GMCSF-VL-VH発現のために、以下の追加を使用して、タンパク質の折りたたみおよびジスルフィド結合形成を増強するために発現系を修正した。反応混合物に添加する前に、無細胞抽出物は0.85mMのヨードアセトアミド(IAM)により30分間室温で前処置される。大腸菌DsbCを50μg/mlの濃度で添加した。酸化グルタチオンおよび還元グルタチオンを、おのおの4mmおよび1mmの濃度で反応混合物に添加する。
【0047】
大腸菌DsbCを、BL21(DE3)株(pETDsbC)の過剰発現により調製し、コバルトIMACカラムで精製した。選択された分画を、DsbCの活性部位を還元するために、5mM DTTを含むS30緩衝液(Pratt、1984)に対して透析した。
【0048】
消泡剤を列挙された供給業者から購入し、示された量において添加した。いくつかの場合において、1μlの消泡剤/水の混合物を各15μlの無細胞反応に添加するなどして、消泡剤は水で希釈された。
【0049】
エッペンドルフ試験チューブ法のために、適切な体積の混合物をエッペンドルフ試験チューブの底にピペットで移す。チューブを適切な時間、37℃でインキュベートする(PANOxについて3時間、Cytomim系については6時間)。
【0050】
(表1)

【0051】
(表2)Cytomim無細胞タンパク質合成系のための試薬構成および濃度

【0052】
(表3)PANOx無細胞タンパク質合成系のための試薬構成および濃度

【0053】
気泡カラム反応装置は、直径は内径1cm、高さ5cmのカラムからなる。無細胞反応混合物(表1および表2)をカラムの内部にピペットで移した(図2)。圧縮ガス槽から小さな噴出口(1mm直径未満)を通してカラムの底にガスが気泡化される。
【0054】
Cytomim系(Jewett and Swartz、同時係属中の出願第10/643,683号に記載されている)のために、純酸素ガスが使用され、反応は37℃で最大4時間にわたって持続した。PANOx反応のために、アルゴンガスが使用され、反応時間は37℃で3時間であった。気泡のサイズは直径約0.5cmであり、気泡形成速度は約1気泡/秒であった。消泡剤を添加しない場合は、無細胞タンパク質合成反応物は即座に泡立ち、カラム反応装置の上端からあふれる。タンパク質は産生されない。消泡剤の添加によって(Sigma 204、1/1000〜1/10000の消泡剤体積/反応体積)、タンパク質合成反応は、最小限の発泡で最長3.5時間から4時間にわたって、15μlエッペンドルフチューブ反応由来の収率に比較可能なタンパク質収率をもたらして進行する(図3および図4を参照されたい)。
【0055】
合成されたタンパク質の量は、液体シンチレーションカウンター(LS3801,Beckman Coulter, Inc.)で測定したTCA沈殿された放射能から概算した。4℃、15,000RCFで15分間サンプルを遠心分離した後、上清を取得し、TCA沈殿およびシンチレーション計数により可溶性収率を決定するために使用した。詳細な手順は以前に記載されている(Kim et al, 1996b)。
【0056】
GM-CSF-scFv融合タンパク質についての結果と同様に、CATについての結果も示されている。全反応は、開始後の添加なしにバッチ形式で稼働される。
【0057】
これらのデータは、異なるスケールならびに異なる反応形状およびタンパク質においても、消泡剤の添加は改善されたインビトロタンパク質合成を提供するということを示している。特に、消泡剤は気泡カラムを使用するスケールアップ反応における増強された収率を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】異なる消泡剤を含む反応におけるタンパク質収率を表すグラフである。
【図2】気泡反応装置の概略図である。
【図3】15μl反応と比較した、総反応体積1500μlの気泡カラムにおけるタンパク質GMCSF-scFvの収率を表すグラフである。
【図4】200μlの薄膜反応、および15μlのエッペンドルフチューブ反応と比較した、反応体積2000μlの気泡カラムにおける収率を表すグラフである。消泡剤の添加により、各系の比収率が比較可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的高分子を消泡剤を含む反応混合物中で合成する段階を含む、インビトロにおける生物学的高分子の増強された合成のための方法。
【請求項2】
生物学的高分子の合成がポリペプチドの産生のためのmRNAの翻訳を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
合成がDNA鋳型からのmRNAの転写をも含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
反応ミックスが約15μl超の体積を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
反応ミックスが約100μl超の体積を含む、請求項2記載の方法。
【請求項6】
反応が、比較可能な小スケールの反応における収率の少なくとも約90%の収率を有する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
改良点として消泡剤を含む、インビトロにおける生物学的高分子の合成のための反応混合物。
【請求項8】
反応ミックスが約15μl超の体積を含む、請求項7記載の反応混合物。
【請求項9】
反応ミックスが約100μl超の体積を含む、請求項7記載の反応混合物。
【請求項10】
反応が、比較可能な小スケールの反応における収率の少なくとも約90%の収率を生じる、請求項7記載の反応混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−530042(P2007−530042A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505063(P2007−505063)
【出願日】平成17年3月21日(2005.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/009342
【国際公開番号】WO2005/098048
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(503174475)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (41)
【Fターム(参考)】