説明

消火剤原液貯蔵タンクおよび消火剤混合装置

【課題】メンテナンスが容易であり、かつシンプルな作動機構による信頼性の高い消火剤原液貯蔵タンクおよび消火剤混合装置を提供する。
【解決手段】消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの作動液体の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管9より押し出す消火剤原液貯蔵タンク11であって、消火剤原液を貯蔵するための貯蔵空間をその内壁面にて形成するとともに、吐出管9を有するタンク本体23と、タンク本体23内に保持され、作動液体を内部に取り込むことにより膨張して、該タンク本体23内の消火剤原液を吐出管9を通じて押し出す弾性の袋体25と、を具えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの作動液体の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管より押し出す消火剤原液貯蔵タンク、および該消火剤原液貯蔵タンクから吐出された消火剤原液と所定の消火用水とを所定の割合で混合する消火剤混合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの作動液体の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管より押し出す消火剤原液貯蔵タンクとしては、特許文献1に記載されたものがあり、この消火剤原液貯蔵タンク100は、図4に示すように、タンク本体103と、このタンク本体103内に装着、保持され、タンク本体103内の空間を径方向の内外二室に区分するダイアフラム105とを具え、ダイアフラム105の内側(内室)には消火剤原液を、外側(外室)には作動液体(水)をそれぞれ充填してなる消火剤原液貯蔵タンク100であり、使用時に、外部からポンプ等により外室内に作動液体を流入し、内室内に貯蔵された消火剤原液をこの作動液体の圧力によって吐出管106を通じて所定の圧力で吐出するものである。
【0003】
ところで、このようなダイアフラム105を具えた消火剤原液貯蔵タンク100においてメンテナンスを行うにあたっては、ダイアフラム105内の消火剤原液をすべて抜き取り、タンク本体103の上部および下部に設けられたダイアフラム105の固定部107,109を取り外し、液送管111を抜き取り、ダイアフラム105をタンク本体103内から取り出し、ダイアフラム105内への水張り試験などによってダイアフラム105の破損や劣化を調査し、再度、逆の工程をたどって復旧を行わなければならず、メンテナンス作業が非常に煩雑である。また、上記従来の消火剤原液貯蔵タンク100では、消火剤原液を吐出するにあって、上記外室内に満たされた作動液体の圧力をもって、円筒状に展張するダイアフラム105をタンク本体103の中心に配置された液送管111に向けて均一に圧縮することは難しく、局所的な変形などによって予測できない応力が生じてダイアフラム105が破損する危険性がある。
【0004】
このような理由から、長期に亘る高い信頼性が要求される消火設備(例えば船舶の消火設備)に対しては、特許文献1に記載されるようなダイアフラム式の消火剤原液貯蔵タンクが採用された実績はほとんどなく、代わりに、図5に示すように、消火剤原液を収容する貯槽120と、該貯槽120から消火剤原液を抜き出し加圧して混合器122に向けて送給する消火剤原液移送ポンプ124とを有する消火設備が用いられている。混合器122に送られた消火剤原液は、消火水移送ポンプ126から送給された海水や清水などの消火水と混合されて混合液出口管128を通って各消火対象区域に送られることとなる。図5において、符号130は、圧力スイッチ132、消火剤原液サクション弁134および消火剤原液移送ポンプ124等を制御する制御盤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−291925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図5に示すような消火設備では、消火剤原液および消火水双方の圧力制御を必要とすることから、多くの自動弁を用いなければならず設備が複雑化するとともにコストが嵩み、その上、誤操作やシステム障害などにより消火設備が作動しない事例も生じている。
【0007】
それゆえ、本発明は、メンテナンスが容易であり、かつシンプルな作動機構による信頼性の高い消火剤原液貯蔵タンクおよび消火剤混合装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、本発明の消火剤原液貯蔵タンクは、消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの作動液体の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管より押し出す消火剤原液貯蔵タンクであって、前記消火剤原液を貯蔵するための貯蔵空間をその内壁面にて形成するとともに、前記吐出管を有するタンク本体と、前記タンク本体内に保持され、前記作動液体を内部に取り込むことにより膨張して、該タンク本体内の前記消火剤原液を前記吐出管を通じて押し出す弾性の袋体と、を具えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の消火剤混合装置は、消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの消火用水の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管より押し出す消火剤原液貯蔵タンクと、前記消火剤原液貯蔵タンクに消火用水の一部を供給するとともに、該消火用水の残部と前記消火剤原液貯蔵タンクに供給された消火用水の圧力を受けて吐出管より押し出された消火剤原液とを所定割合で混合する混合器と、を具えた消火剤混合装置であって、前記消火剤原液貯蔵タンクは、前記消火剤原液を貯蔵するための貯蔵空間をその内壁面にて形成するとともに、前記吐出管を有するタンク本体と、前記タンク本体内に保持され、前記消火用水を内部に取り込むことにより膨張して、該タンク本体内の前記消火剤原液を前記吐出管を通じて押し出す弾性の袋体と、を具えることを特徴とするものである。
【0010】
かかる消火剤原液貯蔵タンクおよびこの消火剤原液貯蔵タンクを具える消火剤混合装置にあっては、タンク本体内に消火剤原液を充填するとともに、タンク本体内に袋体を保持した状態から、袋体内に作動液体を送り込むと、袋体が膨張して作動液体の圧力がタンク本体内の消火剤原液に伝播され、該消火剤原液は吐出管を通じて押し出される。
【0011】
したがって、本発明の消火剤原液貯蔵タンクおよびこの消火剤原液貯蔵タンクを具える消火剤混合装置によれば、袋体への作動液体の供給は、作動時のみとなり、未作動の状態では袋体は空であるから、メンテナンスを行うにあたって空の袋体をタンク本体から取り出して袋体を点検することができ、すなわち、従来のダイアフラム式の消火剤原液貯蔵タンクのようにダイアフラム内の消火剤原液を一旦抜き取る必要がないから、メンテナンス作業が非常に楽となる。また、この消火剤原液貯蔵タンクでは、袋体の膨張によりタンク本体内の消火剤原液を押し出す方式であるので、袋体を均一に拡張変形させることができ、袋体の不均一な変形に起因する破損を回避することができ、それゆえ長期に亘る高い信頼性を実現することができる。さらに、この消火剤原液貯蔵タンクによれば、袋体内に作動液体を供給するというシンプルな操作で迅速に作動させることができるので、操作に熟練者を必要とせず、また図5に示した方式に比べて自動弁等を大幅に削減することができることから、誤操作や機器のトラブルを減少させることができる。
【0012】
なお、本発明の消火剤原液貯蔵タンクおよびこの消火剤原液貯蔵タンクを具える消火剤混合装置にあっては、前記袋体は、ゴム製であることが好ましく、これによれば、その良好な膨張性から小さな力で均一に袋体を膨張させることができ、袋体の破損等に対する信頼性をより一層高めることができる。
【0013】
また、本発明の消火剤原液貯蔵タンクおよびこの消火剤原液貯蔵タンクを具える消火剤混合装置にあっては、前記袋体は、内部に前記作動液体を取り込む前の非膨張状態においてその厚みが、200μm〜1000μmであることが好ましく、これによれば、重量を抑えつつも袋体を十分に膨張させてタンク本体内の消火剤原液をスムーズに押し出すことができる。
【0014】
さらに、本発明の消火剤原液貯蔵タンクおよびこの消火剤原液貯蔵タンクを具える消火剤混合装置にあっては、前記吐出管内または、前記タンク本体の前記内壁面の、前記吐出管を開口する部分に、多孔質部材を設けてなることが好ましく、これによれば、袋体の膨張時に吐出管内に袋体が入り込んで不均一に変形し、袋体が破損するのを回避することができる。
【0015】
しかも、本発明の消火剤原液貯蔵タンクおよびこの消火剤原液貯蔵タンクを具える消火剤混合装置にあっては、前記吐出管を、前記タンク本体の下端部に配置するとともに、前記袋体を前記タンク本体の上端部に垂下、保持してなることが好ましく、これによれば、未作動時には、袋体を消火剤原液の液面に浮遊させておくことができるので、袋体の口部にかかる応力が低減し、袋体の耐久性を向上させることができる。また、このようにすることで、袋体は、作動時に重力方向に膨張していくことになるので、より均一に膨張変形することができるとともに、重力方向にタンク本体内に消火剤原液を吐出させることができるので、その吐出をよりスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、メンテナンスが容易であり、かつシンプルな作動機構による信頼性の高い消火剤原液貯蔵タンクおよび消火剤混合装置を提供するが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にしたがう一実施形態の消火剤原液貯蔵タンクおよび消火剤混合装置を適用してなる消火設備の概略図である。
【図2】図1の消火剤混合装置を拡大して示す図である。
【図3】袋体の耐久性試験を行う装置の概略図である。
【図4】従来のダイアフラム式の消火剤原液貯蔵タンクを示す概略図である。
【図5】船舶向けの代表的な消火設備(混合装置)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は一実施形態の消火剤原液貯蔵タンクおよび消火剤混合装置を適用してなる消火設備の概略図である。
【0019】
図1に示す消火設備1は、本実施形態の消火剤原液混合装置3と、この消火剤原液混合装置3に送給するための、海水または清水からなる消火用水を溜めおく、給水源としての水槽5と、この水槽5内の消火用水を吸い上げて消火剤原液混合装置3に供給する通常のポンプ7とを具えている。
【0020】
消火剤原液混合装置3は、図2に示すように、消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの消火用水の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管9より押し出す消火剤原液貯蔵タンク11と、混合器13と、を具えている。
【0021】
混合器13は、消火剤原液貯蔵タンク11に作動液体として消火用水の一部を供給するとともに、該消火用水の残部と消火剤原液貯蔵タンク11に供給された消火用水の圧力を受けて吐出管9より押し出された消火剤原液とを所定割合で混合するものであって、ポンプ7から吐出された消火用水を導入する導入口15と、流れの前後の圧力差で消火用水の流量を調整、設定する第1オリフィス17と、流れの前後の圧力差で消火剤原液貯蔵タンク11から吐出された消火剤原液の流量を調整、設定する第2オリフィス19と、これら消火用水および消火剤原液の混合物である消火剤を排出する排出口21と、を有するものである。
【0022】
消火剤原液貯蔵タンク11は、消火剤原液を貯蔵するための貯蔵空間をその内壁面23aにて形成するタンク本体23と、タンク本体23内に保持され、作動液体(ここではポンプ7から吐出された消火用水)を内部に取り込むことにより膨張して、該タンク本体23内の消火剤原液を吐出管9を通じて押し出す弾性の袋体25とを有してなる。タンク本体23は、下端部から上述の吐出管9を突設するとともに、上端部に収納管27を有する。また、タンク本体23は、本実施形態のように、メンテナンス時等に使用される、胴部に配置されたマンホール29、上記貯蔵空間内に消火剤原液を充填するための充填管31、および上記貯蔵空間内に消火剤原液を充填する際や吐出管9から消火剤原液を排出する際の空気置換口となるベント管33を有していてもよい。なお、タンク本体23内の上部には、後述する袋体25の膨張を容易するために空間部Sが設けられている。
【0023】
袋体25は、作動液体を内部に導入してタンク本体23内の消火剤原液に作動液体の圧力を伝播するとともに作動液体とタンク本体23内の消火剤原液が混ざるのを防止するものであり、タンク本体23の収納管27のフランジ部に固定された固定金具35のノズル35aに被せられる口部25aと、この口部25aにつながる略球状の本体部25bとからなる。袋体25の口部25aは、図示は省略するが、熱収縮チューブ(加熱されると径方向に収縮するチューブ)や結束バンドなどにより固定金具35のノズル35aに固着することができる。
【0024】
ここでは、袋体25は、天然ゴム製あるいは合成ゴム製の一体成型品であり、例えば、汎用品である気象観測用のゴム風船を用いることができる。袋体25は、内部に作動液体を導入する前の非膨張状態において、その厚みを200μm〜1000μmとすることが好ましい。袋体25の厚みが、200μm未満の場合には、タンク本体23の容量にもよるが、袋体25に作動液体を供給して膨張変形させた際に袋体25が破損することも考えられ、一方、袋体25の厚みが1000μmを超えても袋体25の膨張には大きな影響はないが重量が増すためである。また、袋体25の厚みが増すとそれに伴って袋体25の断面積も増大し、袋体25の口部の径も大きくなるので、袋体25を挿入するノズル35aの径も大きくなり、タンク重量増加やメンテナンス難化の点で好ましくない。例えば、袋体25の厚さが1000μmを超えるとノズル35aの径が2倍以上に大きくなる。さらに、袋体25の厚さを増すとそれに伴って重量も増えるが、袋体25はタンク内にぶら下げた状態で使用するため、重量が増えると自重による袋体(特に袋体の口部)の伸びが大きくなる。例えば、容量2000Lの消火液タンクでは袋体の厚さを1000μmより厚くすると袋体25の口部に計算上10%以上の自重による伸びが発生することになり、ゴムの劣化促進や物理的な破損の危険が大きくなる。なお、袋体25として薄肉の合成樹脂製フィルム(例えばポリエチレンフィルム)を用いてもよい。
【0025】
また、本実施形態では、吐出管9内または、タンク本体23の内壁面23aの、吐出管9を開口する部分に、上記袋体25の膨張時に該袋体25が吐出管9内に入り込んで破損するのを防止する多孔質部材37を有している。多孔質部材37としては、メッシュやフィルターを用いることができる。なお、このような多孔質部材37は、本実施形態のように、充填管31およびベント管33に対しても設けてもよい。同様の観点から、マンホール29の開口を塞ぐ蓋体38の裏面には、タンク本体23内に向けて筒状のマンホール29内に延出し、タンク本体23の内壁面23aと面一となる凸状の面合わせ部材39が設けられており、これにより、袋体25の膨張時に該袋体25がマンホール29内に入り込んで破損するのを防止することができる。
【0026】
なお、図2中、符号41は、袋体25内部に作動液体を導入するための分岐管であり、符号43は、タンク本体23の吐出管9より押し出された消火剤原液を混合器13に送給するための原液管であり、符号45は、袋体25内へ作動液体の流入を許可または遮断する閉止弁であり、符号47は、タンク本体23内からの消火剤原液の、混合器13への流入を許可または遮断する閉止弁である。
【0027】
次いで、本発明をするに至った経緯を説明する。上述の特許文献1(特開2002−291925号公報)にて提案されているような従来のダイアフラム式の消火剤原液貯蔵タンクは、とくに船舶向けではほとんど採用されたことはない。その理由は、使用するダイアフラムが汎用品として市販されておらず、作成には複数の異なる部材を、充填する消火剤原液の容量に合わせて接着剤等で張り合わせる必要があるため製作が容易でなくコストも嵩むものであるからである(例えば、ダイアフラムとしては特開2004−209168号公報に提案されている。)。その上、消火設備は、長期に使用されないことから定期的な点検が必要となるが、この種のダイアフラム式のタンクは、図4に示したように、メンテナンスを行うにあたっては、ダイアフラム105内の消火剤原液をすべて抜き取り、タンク本体103の上部および下部に設けられたダイアフラム105の固定部107,109を取り外し、液送管111を抜き取り、ダイアフラム105をタンク本体103内から取り出し、ダイアフラム105内への水張り試験などによってダイアフラム105の破損や劣化を調査し、再度、逆の工程をたどって復旧を行わなければならず、メンテナンス作業が非常に煩雑である。また、上記従来の消火剤原液貯蔵タンク100では、消火剤原液を吐出するにあって、外室内に満たされた作動液体の圧力をもって、円筒状に展張するダイアフラム105をタンク本体103の中心に配置された液送管111に向けて均一に圧縮することは難しく、局所的な変形などによって予測できない応力が生じてダイアフラム105が破損する危険性があり、長期の信頼性が低いものであった。
【0028】
長期に亘る高い信頼性が必要な理由は、とくに船舶は常に外洋を航行しており、陸上用の装置に比べて装置の専門家が迅速かつ直接に関与できず、また、交換用部品が入手し難いからである。このような理由から、とくに船舶では、特許文献1に記載されるようなダイアフラム式の消火剤原液貯蔵タンクが採用された実績はほとんどなく、代わりに、図5にて示したような、消火剤原液を収容する貯槽120と、該貯槽120から消火剤原液を抜き出し加圧して混合器122に向けて送給する消火剤原液用ポンプ124とを有する消火設備が用いられていた。
【0029】
しかしながら、図5に示す消火設備では、消火剤原液および消火水双方の圧力制御を必要とすることから、多くの自動弁を用いなければならず設備が複雑化するとともにコストが嵩み、その上、誤操作やシステム障害などにより消火設備が作動しない事例も生じている。
【0030】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、本実施形態の消火剤原液貯蔵タンク11にあっては、タンク本体23内に消火剤原液を充填するとともに、袋体25を固定金具35のノズル35aに垂設した状態から、ポンプ7を起動し袋体25内に作動液体としての消火用水の一部を送り込むと、袋体25が膨張して消火用水の圧力がタンク本体23内の消火剤原液に伝播され、該消火剤原液は吐出管9を通じて押し出される。そして、押し出された消火剤原液は混合器13内で消火用水の残部と混合されて消火剤となり、所定の消火対象区域に送られる。
【0031】
したがって、本実施形態の消火剤原液貯蔵タンク11によれば、袋体25への作動液体(ここでは消火用水)の供給は、作動時のみとなり、未作動の状態では袋体25は空であるから、メンテナンスを行うにあたって空の袋体25をタンク本体23から取り出して袋体25を点検することができ、すなわち、従来のダイアフラム式の消火剤原液貯蔵タンクのようにダイアフラム内の消火剤原液を一旦抜き取る必要がないから、メンテナンス作業が非常に楽となる。なお、袋体25の点検は、袋体25をタンク本体23から取り出し空気でインフレートさせることにより行ってもよい。また、本実施形態の消火剤原液貯蔵タンク11では、袋体25の膨張によりタンク本体23内の消火剤原液を押し出す方式であるので、袋体25を均一に拡張変形させることができ、袋体25の不均一な変形に起因する破損を回避することができ、それゆえ長期に亘る高い信頼性を実現することができる。さらに、本実施形態の消火剤原液貯蔵タンク11によれば、袋体25内に消火用水を供給するというシンプルな操作で迅速に作動させることができるので、操作に熟練者を必要とせず、また図5に示した方式に比べて自動弁等を大幅に削減することができることから、誤操作や機器のトラブルを減少させることができる。また、本実施形態の消火剤原液貯蔵タンク11では、図4に示すダイアフラム式の消火剤原液貯蔵タンクに比べて、袋体25と消火剤原液との接触面積が非常に小さいので、消火剤原液との接触による袋体25の劣化や破損の危険性が極めて小さくなる。さらに、袋体25は、小さく折り畳んで小さく保管することができ(紫外線遮断袋や真空パック内に保管してもよい)、それゆえ、この消火剤原液貯蔵タンク11は、厳しい信頼性が要求される船舶に対しても有利に用いることができる。
【0032】
また、本実施形態の消火剤原液貯蔵タンク11の袋体25は一体成型品であって、従来のダイアフラムに比べて、非常に構造が簡素であるので製造が容易であり、袋体25として気象観測用の風船を用いることも可能であって安価であり、かつ軽量である。例えば、縦横寸法比が約2:1、容量が1000リットルのタンク本体23に対しては、従来のダイアフラムでは厚さ約2mm、重さ約49kgとなるが、本発明を適用すれば、袋体25の厚さは約200μmであり、その重さもダイアフラムに比べて1/10程度となる。
【0033】
さらに、本実施形態では、ゴム製の袋体25を用いたことから、その良好な膨張性から小さな力で均一に膨張させることができ、袋体25の破損等に対する信頼性をより一層高めることができる。
【0034】
さらに、本実施形態では、吐出管9内に多孔質部材37を設けたことから、袋体25の膨張時に吐出管9内に袋体25が入り込んで不均一に変形し、袋体25が破損するのを回避することができる。
【0035】
しかも、本実施形態では、吐出管9を、タンク本体23の下端部に配置するとともに、袋体25をタンク本体23の上端部に垂下、保持したことから、未作動時には、袋体25を消火剤原液の液面に浮遊させておくことができるので、袋体25の口部25aにかかる応力が低減し、袋体25の耐久性を向上させることができる。また、このようにすることで、袋体25は、作動時に重力方向に膨張していくことになるので、より均一に膨張変形することができるとともに、重力方向にタンク本体23内に消火剤原液を吐出させることができるので、その吐出をよりスムーズに行うことができる。
【0036】
<袋体の耐久性試験>
本発明に用いられる袋体の耐久性試験を行ったので、以下説明する。耐久性試験は、図3に示す試験用装置を用いる。図3中、符号60は、供試用の袋体、符号62は、タンク本体、符号64は、袋体60内に導入するための第1液体を収容する第1液体用槽、符号66は、第1液体を袋体60内に移送する第1液体移送ポンプ、符号68は、タンク本体62から吐出した第2液体を収容する第2液体用槽、符号70は、第2液体用槽の第2液体をタンク本体62内に戻す第2液体移送ポンプである。試験方法は、表1に示す条件下で、ゴム製の袋体60をタンク本体62内に設置して、袋体60内部に作動液体として第1液体を導入し、その圧力を袋体60を介してタンク本体62内の第2液体に伝達し、タンク本体62内の第2液体を第2液体用槽に95%送給した時点で流れを逆転させ、第2液体移送ポンプ70を運転してタンク本体62内に戻し、その圧力で袋体60内の第1液体を第1液体用槽64に押し出し、初期状態に戻すまでを1サイクルとし、1検体の袋体60に対してこのサイクルを1500回繰り返して行う。試験結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1により、まず、実際のサイクル時間に変化がなかったことから、袋体60に異常な膨張による不安定な状況が発生していないことが分かり、また、1500回のサイクルでも袋体60に破損が生じていないことから、十分な耐久性が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、メンテナンスが容易であり、かつシンプルな作動機構による信頼性の高い消火剤原液貯蔵タンクおよび消火剤混合装置を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0040】
1 消火設備
3 消火剤原液混合装置
5 水槽
7 ポンプ
9 吐出管
11 消火剤原液貯蔵タンク
13 混合器
15 導入口
17 第1オリフィス
19 第2オリフィス
21 排出口
23 タンク本体
25 袋体
25a 口部
25b 本体部
27 収納管
29 マンホール
31 充填管
33 ベント管
35 固定金具
35a ノズル
37 多孔質部材
38 蓋体
39 面合わせ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの作動液体の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管より押し出す消火剤原液貯蔵タンクであって、
前記消火剤原液を貯蔵するための貯蔵空間をその内壁面にて形成するとともに、前記吐出管を有するタンク本体と、
前記タンク本体内に保持され、前記作動液体を内部に取り込むことにより膨張して、該タンク本体内の前記消火剤原液を前記吐出管を通じて押し出す弾性の袋体と、を具えることを特徴とする消火剤原液貯蔵タンク。
【請求項2】
前記袋体は、ゴム製である、請求項1に記載の消火剤原液貯蔵タンク。
【請求項3】
前記袋体は、内部に前記作動液体を取り込む前の状態においてその厚みが、200μm〜1000μmである、請求項2に記載の消火剤原液貯蔵タンク。
【請求項4】
前記吐出管内または、前記タンク本体の前記内壁面の、前記吐出管を開口する部分に、多孔質部材を設けてなる、請求項1〜3の何れか一項に記載の消火剤原液貯蔵タンク。
【請求項5】
前記吐出管を、前記タンク本体の下端部に配置するとともに、前記袋体を前記タンク本体の上端部に垂下、保持してなる、請求項1〜4の何れか一項に記載の消火剤原液貯蔵タンク。
【請求項6】
消火剤原液を内部に貯蔵し、外部からの消火用水の圧力を該消火剤原液に伝播して吐出管より押し出す消火剤原液貯蔵タンクと、
前記消火剤原液貯蔵タンクに消火用水の一部を供給するとともに、該消火用水の残部と前記消火剤原液貯蔵タンクに供給された消火用水の圧力を受けて吐出管より押し出された消火剤原液とを所定割合で混合する混合器と、を具えた消火剤混合装置であって、
前記消火剤原液貯蔵タンクは、前記消火剤原液を貯蔵するための貯蔵空間をその内壁面にて形成するとともに、前記吐出管を有するタンク本体と、
前記タンク本体内に保持され、前記消火用水を内部に取り込むことにより膨張して、該タンク本体内の前記消火剤原液を前記吐出管を通じて押し出す弾性の袋体と、を具えることを特徴とする消火剤混合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−249763(P2012−249763A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123749(P2011−123749)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(591286203)株式会社カシワテック (2)
【Fターム(参考)】