説明

消臭剤及び消臭剤の製造方法

【課題】消臭効果が高いと共に、生体に対しても安全に使用できる消臭剤、並びにこのような消臭剤を製造する消臭剤の製造方法を提供する。
【解決手段】消臭剤は、ベチバー植物の水溶性抽出物を含む。ベチバー植物の水溶性抽出物を含んだ抽出液をそのまま消臭剤として使用することができるが、抽出液を遠心濃縮、加熱濃縮、減圧濃縮、オートクレーブ濃縮等の濃縮方法で濃縮して消臭剤として使用することもできる。ベチバー植物の水溶性抽出物を含んだ抽出液を凍結乾燥し、凍結乾燥したものを目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末にして消臭剤として使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消臭剤及び消臭剤の製造方法に関する。詳しくは、安全性が高い天然素材を用いた消臭剤及び消臭剤の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、気密性の高い住宅が増え、また、居住者の清潔志向も高まり、犬や猫等のペット臭や、生活臭を消臭したいという要望が高まっている。
また、病院や老人介護施設では、患者や老人による尿失禁等に伴う不快な尿臭(アンモニア臭)を消臭したいという要望が高まっている。
【0003】
また、消臭効果の高い消臭剤の有効成分としては、各種合成化合物が知られており、これらを用いた消臭剤が多く提案されている。
例えば、特許文献1には、塩素含有の酸化剤を10〜1000ppm含み、無機塩または有機塩によってpH8〜13に調整された水溶液からなる消臭剤が記載されている。
また、特許文献2には、ジャスモン酸系化合物とデルタラクトン類を消臭成分として含有する消臭剤が記載されている。
また、特許文献3には、3d遷移金属のハロゲン化物塩を含有する水溶液からなる消臭剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−316213号公報
【特許文献2】特開2002−253651号公報
【特許文献3】特開2002−85537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来の消臭剤の有効成分として用いられる化合物は、臭気の分解能は高いものの、ペットや人体が直接触れるものや、ペットや人体等の生体そのものに対して使用する場合は、安全性の面で依然として問題を有していた。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、消臭効果が高いと共に、生体に対しても安全に使用できる消臭剤、並びにこのような消臭剤を製造する消臭剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の消臭剤は、ベチバー植物の抽出物を含むものである。
【0008】
また、本発明の消臭剤において、ベチバー植物はベチバーの根であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の消臭剤において、抽出物は水溶性抽出物を含んでいることが好ましい。
【0010】
ここで、水溶性抽出物によって、消臭剤を液体状にすることができる。
【0011】
また、本発明の消臭剤は、水溶性抽出物の液体である場合、消臭液として散布することができる。
また、この液体は水溶液であっても、コロイド分散液であってもよい。
【0012】
また、本発明の消臭剤において、抽出物は乾燥粉末であり、しかも乾燥粉末は、250μm以下の大きさである場合、より高いアンモニア消臭効果が得られ、好ましい。
【0013】
また、本発明の消臭剤において、抽出物は有機溶媒抽出物を含んでいることが好ましい。
【0014】
また、上記の目的を達成するために、本発明の消臭剤の製造方法は、ベチバー植物から水溶性抽出物を抽出する抽出工程を有する。
また、ベチバー植物はベチバーの根であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の消臭剤の製造方法において、抽出工程の後に、ベチバー植物またはベチバーの根の水溶性抽出物を乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明の消臭剤の製造方法において、乾燥工程は、ベチバー植物またはベチバーの根の水溶性抽出物を凍結して乾燥することが好ましい。
【0017】
また、本発明の消臭剤の製造方法において、乾燥工程の後に、乾燥工程によって得られた乾燥粉末を250μm以下の大きさに微細化する微細化工程を有する場合、より高いアンモニア消臭効果を有する消臭剤を製造できる。
【0018】
また、本発明の消臭剤の製造方法は、ベチバー植物から有機溶媒抽出物を抽出する抽出工程を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る消臭剤は、消臭効果が高いと共に、生体に対しても安全に使用できる。
本発明に係る消臭剤の製造方法によって、消臭効果が高いと共に、生体に対しても安全に使用できる消臭剤を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ベチバー根の抽出液のアンモニア消臭効果を示すグラフである。
【図2】ベチバー根の微粉末抽出物のアンモニア消臭効果を示すグラフである。
【図3】ベチバー根の抽出液と市販の天然素材系消臭剤のアンモニア消臭効果を比較したグラフである。
【図4】褐色成分を除去されたベチバー根の抽出液のアンモニア消臭効果を示すグラフである。
【図5】エタノール、メタノール、クロロホルムおよびイソプロパノールによってそれぞれ抽出された抽出物のアンモニア消臭試験結果を示すグラフである。
【図6】n−ヘキサン、メタノール、水および酢酸エチルによってそれぞれ抽出された抽出物のアンモニア消臭試験結果を示すグラフである。
【図7】酢酸エチル、メタノール、エタノールおよび水によってそれぞれ抽出された抽出物のアンモニア消臭試験結果を示すグラフである。
【図8】アンモニアガスと抽出物との接触から40分後における各種抽出物のアンモニア除去量のグラフである。
【図9】アンモニアガスと抽出物との接触から40分後における各種抽出物1mgあたりのアンモニア除去量のグラフである。
【図10】各フラクションの固形物重量を示すグラフである。
【図11】各フラクションのアンモニア除去量を示すグラフである。
【図12】アンモニアガスとフラクションの接触から30分後における各フラクションのアンモニア除去量を示すグラフである。
【図13】アンモニアガスとフラクションの接触から30分後における各フラクションの抽出物1mgあたりのアンモニア除去量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を適用した消臭剤は、ベチバー植物の水溶性抽出物を含む。また、ベチバーは、インドネシア原産のイネ科の多年生草木である。
【0022】
また、ベチバー植物から水溶性抽出物を抽出できればどのような抽出方法でもよいが、例えば、乾燥されたベチバー植物を水に浸して、100〜125℃で30〜40分間、オートクレーブ抽出する方法や、乾燥されたベチバー植物を水に浸して、50〜65℃で1〜2時間、熱水抽出する方法が挙げられる。
【0023】
また、ベチバー植物の水溶性抽出物を含んだ抽出液をそのまま消臭剤として使用することができるが、抽出液を遠心濃縮、加熱濃縮、減圧濃縮、オートクレーブ濃縮等の濃縮方法で濃縮して消臭剤として使用することもできる。
また、濃縮された、ベチバー植物の水溶性抽出物を含んだ抽出液を凍結乾燥し、凍結乾燥したものを目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末にして消臭剤として使用することもできる。
【0024】
また、ベチバー植物から抽出したことにより、抽出液は褐色を呈している。しかし、抽出液に色があると衣類に散布した場合に衣類が変色してしまうため、褐色成分を除去することが好ましい。よって、例えば、抽出液を、ろ紙でろ過したり、膜孔径0.2μmのセルロース膜でろ過したり、合成吸着剤で褐色成分を吸着したりして、褐色成分を除去することが好ましい。
【0025】
また、ベチバー植物の水溶性抽出物を含む本発明の消臭剤を水に薄めて水溶液(消臭液)とし、この消臭液を加湿器等の中へ入れると部屋の臭いが消え続ける。また、洗濯水に本発明の消臭液を入れることで、衣類に付いた魚の生臭いニオイ(トリメチルアミン)、汗のニオイ(アンモニア臭)、ペット臭やタバコ臭が消臭される。また、本発明の消臭液を浴槽のお湯に入れて使用する入浴用消臭液は、加齢臭、アンモニア臭を除去しお湯の不快なニオイも抑止する。
また、本発明の消臭液によって、大腸菌やブドウ球菌等の細菌の増殖を抑えることや、ゴキブリやダニ等の害虫を寄せ付けにくくすることも期待できる。
【0026】
[アンモニア消臭試験1]
乾燥されたベチバーの根(ベチバー植物の一例である。)100gを1.8リットルの水に浸し、オートクレーブ抽出を121℃で40分間行なった後、遠心濃縮及びろ過を行なってオートクレーブ抽出液を得た。オートクレーブ抽出の水溶性成分の抽出率(ベチバー根100g当たりの水溶性成分の重さ)は、6.31%であった。なお、ろ過を行なっていない点以外は同様にオートクレーブ抽出を行なった結果、水溶性成分の抽出率は7.66%であった。
また、乾燥されたベチバーの根100gを1.8リットルの水に浸し、熱水抽出を55〜60℃で1.5時間行なった後、遠心濃縮及びろ過を行なって熱水抽出液を得た。熱水抽出の水溶性成分の抽出率は、6.42%であった。
次に、容量5リットルのテドラーバッグの口元の栓をはずし、検知管に合う太さのシリコンチューブに付け替え、試薬注入場所としてテドラーバッグの隅を折り曲げてテープで止めた。折り曲げていない端部に、容積が変わらないように切り口を入れ、約5mlに精秤した熱水抽出液を切り口から入れた後にテープで切り口に封をした。
そして、ポンプでテドラーバッグ内部の空気を抜き、積算流量計を用いて圧縮空気を4リットル入れ、クリップでシリコンチューブを閉じて密閉した。折り曲げてテープで止めていた部分即ち、熱水抽出液が付着していない部分にマイクロシリンジ(10マイクロリットル容)を刺し、25%アンモニア水3マイクロリットルを注入した。
そして、マイクロシリンジによって穴の開いた部分は、直ちにテープで閉じ、ドライヤーでテドラーバッグ全体を熱して溶液を気化させた(初期アンモニア濃度:600ppm)。その後、2分後、10分後、20分後、40分後及び80分後というように間隔を置き、検知器及び検知管を使用して、アンモニアの濃度を測定し、アンモニア残存率を算出した。
また、約5mlに精秤したオートクレーブ抽出液を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。
また、比較のために、約5mlに精秤した単なる水を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。結果を図1に示す。
【0027】
図1から判るように、乾燥されたベチバーの根から抽出された、オートクレーブ抽出液と熱水抽出液は、どちらもアンモニアの消臭を始めて2分経過した時点で50%以上(即ち、アンモニア残存率が50%以下)消臭した。
【0028】
[アンモニア消臭試験2]
乾燥されたベチバーの根200gを1リットルの水に浸し、熱水抽出を55〜60℃で1.5時間行なって熱水抽出液を得た。
次に、得られた熱水抽出液を100℃で1.5時間、加熱濃縮した。水溶性成分の抽出率は、2.53±0.064%であった。加熱濃縮した後、凍結乾燥して抽出物を得た。
また、別途得られた熱水抽出液を、60℃で圧力100mmHgという条件で減圧濃縮した。水溶性成分の抽出率は、2.41±0.233%であった。減圧濃縮した後、凍結乾燥して抽出物を得た。
また、別途得られた熱水抽出液を、121℃で40分間、オートクレーブ濃縮した。水溶性成分の抽出率は、2.35±0.099%であった。オートクレーブ濃縮した後、凍結乾燥して抽出物を得た。
また、別途得られた熱水抽出液を、何ら濃縮せずに(水溶性成分の抽出率:2.94±0.486%)、凍結乾燥して抽出物を得た。
【0029】
そして、加熱濃縮後凍結乾燥して得られた抽出物を、目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末に調整した。
一方、減圧濃縮後凍結乾燥して得られた熱水抽出物を、目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末に調整した。
次に、容量5リットルのテドラーバッグの口元の栓をはずし、検知管に合う太さのシリコンチューブに付け替え、試薬注入場所としてテドラーバッグの隅を折り曲げてテープで止めた。折り曲げていない端部に、容積が変わらないように切り口を入れ、約0.4gに精秤した、目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末に調整された減圧濃縮凍結乾燥抽出物を切り口から入れた後にテープで切り口に封をした。
そして、ポンプでテドラーバッグ内部の空気を抜き、積算流量計を用いて圧縮空気を4リットル入れ、クリップでシリコンチューブを閉じて密閉した。折り曲げてテープで止めていた部分即ち、目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末に調整された減圧濃縮凍結乾燥抽出物が付着していない部分にマイクロシリンジ(10マイクロリットル容)を刺し、25%アンモニア水3マイクロリットルを注入した。
そして、マイクロシリンジによって穴の開いた部分は、直ちにテープで閉じ、ドライヤーでテドラーバッグ全体を熱して溶液を気化させた(初期アンモニア濃度:420ppm)。その後、2分後、10分後、20分後、40分後及び80分後というように間隔を置き、検知器及び検知管を使用して、アンモニアの濃度を測定し、アンモニア除去率を算出した。
また、約0.4gに精秤した、目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末に調整された加熱濃縮凍結乾燥抽出物を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。結果を図2に示す。
【0030】
図2から判るように、乾燥されたベチバーの根から熱水抽出した後、加熱濃縮して得られた微粉末抽出物は、アンモニアの消臭を始めて2分経過した時点で80%消臭しており、また、乾燥されたベチバーの根から熱水抽出した後、減圧濃縮して得られた微粉末抽出物は、アンモニアの消臭を始めて2分経過した時点で60%消臭していた。
更に、加熱濃縮して得られた微粉末抽出物及び減圧濃縮して得られた微粉末抽出物はどちらも、アンモニアの消臭を始めて10分経過した時点で90%以上消臭していた。
従って、ベチバーの根から抽出された熱水抽出液よりも、ベチバーの根から熱水抽出した後、加熱濃縮して目開き250マイクロメートル(60メッシュ)以下の微粉末に調整された抽出物の方が、高いアンモニア消臭効果を示した。
【0031】
[アンモニア消臭試験3]
乾燥されたベチバーの根100gを1.8リットルの水に浸し、熱水抽出を55〜60℃で1.5時間行なった後、遠心濃縮及びろ過を行ない、更に100℃で1.5時間、加熱濃縮して、ベチバー根熱水抽出液を得た。水溶性成分の抽出率は5.39%であった。
また、ベチバー根熱水抽出液と比較するため、トウモロコシ由来成分抽出液消臭剤〔ファブリーズ(登録商標)、P&G社製〕(水溶性成分の含有率:1.94g/100ml)及び、カテキン由来成分抽出液消臭剤〔リセッシュ(登録商標)、花王株式会社製〕(水溶性成分の含有率:1.11g/100ml)を用意した。
次に、容量5リットルのテドラーバッグの口元の栓をはずし、検知管に合う太さのシリコンチューブに付け替え、試薬注入場所としてテドラーバッグの隅を折り曲げてテープで止めた。折り曲げていない端部に、容積が変わらないように切り口を入れ、約3mlに精秤したベチバー根熱水抽出液を切り口から入れた後にテープで切り口に封をした。
そして、ポンプでテドラーバッグ内部の空気を抜き、積算流量計を用いて圧縮空気を4リットル入れ、クリップでシリコンチューブを閉じて密閉した。折り曲げてテープで止めていた部分即ち、ベチバー根熱水抽出液が付着していない部分にマイクロシリンジ(10マイクロリットル容)を刺し、25%アンモニア水3マイクロリットルを注入した。
そして、マイクロシリンジによって穴の開いた部分は、直ちにテープで閉じ、ドライヤーでテドラーバッグ全体を熱して溶液を気化させた(初期アンモニア濃度:400ppm)。その後、2分後、10分後、20分後及び40分後というように間隔を置き、検知器及び検知管を使用して、アンモニアの濃度を測定し、アンモニア残存率を算出した。
また、約3mlに精秤したトウモロコシ由来成分抽出液消臭剤を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。
更に、約3mlに精秤したカテキン由来成分抽出液消臭剤を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。
また、約3mlに精秤した単なる水を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。結果を図3に示す。
【0032】
図3から判るように、ベチバー根熱水抽出液は、アンモニアの消臭を始めて10分経過した時点で80%を消臭(即ち、アンモニア残存率20%)したのに対して、トウモロコシ由来成分抽出液消臭剤は、アンモニアの消臭を始めて10分経過した時点で65%を消臭(即ち、アンモニア残存率35%)したに過ぎなかった。また、カテキン由来成分抽出液消臭剤は、アンモニアの消臭を始めて10分経過した時点で40%を消臭(即ち、アンモニア残存率60%)したに過ぎなかった。
更に、ベチバー根熱水抽出液は、アンモニアの消臭を始めて20分経過した後や40分経過した後もアンモニア残存率を低下させたのに対して、トウモロコシ由来成分抽出液消臭剤はアンモニアの消臭を始めて10分経過した後はほとんどアンモニア残存率に変化がなく、カテキン由来成分抽出液消臭剤にいたっては、アンモニアの消臭を始めて2分経過した後は、ほとんどアンモニア残存率に変化がなかった。
【0033】
[アンモニア消臭試験4]
乾燥されたベチバーの根100gを1.8リットルの水に浸し、熱水抽出を55〜60℃で1.5時間行なった後、得られた熱水抽出液を、ろ紙によってろ過し、更に膜孔径0.2μmのセルロース膜によってろ過し、褐色成分が除去された第1のベチバー根熱水抽出液を得た。
また、乾燥されたベチバーの根100gを1.8リットルの水に浸し、熱水抽出を55〜60℃で1.5時間行なった後、得られた熱水抽出液を、ろ紙によってろ過し、更に膜孔径0.2μmのセルロース膜によってろ過し、その後、合成吸着剤〔ダイヤイオン(登録商標)HP20、三菱化学社製〕で更に褐色成分を吸着して、褐色成分が除去された第2のベチバー根熱水抽出液を得た。
また、乾燥されたベチバーの根100gを1.8リットルの水に浸し、熱水抽出を55〜60℃で1.5時間行なった後、得られた熱水抽出液を、ろ紙によってろ過し、更に膜孔径0.2μmのセルロース膜によってろ過し、その後、合成吸着剤〔セパビーズ(登録商標)SP207、三菱化学社製〕で更に褐色成分を吸着して、褐色成分が除去された第3のベチバー根熱水抽出液を得た。
次に、容量5リットルのテドラーバッグの口元の栓をはずし、検知管に合う太さのシリコンチューブに付け替え、試薬注入場所としてテドラーバッグの隅を折り曲げてテープで止めた。折り曲げていない端部に、容積が変わらないように切り口を入れ、約3mlに精秤した第1のベチバー根熱水抽出液を切り口から入れた後にテープで切り口に封をした。
そして、ポンプでテドラーバッグ内部の空気を抜き、積算流量計を用いて圧縮空気を4リットル入れ、クリップでシリコンチューブを閉じて密閉した。折り曲げてテープで止めていた部分即ち、第1のベチバー根熱水抽出液が付着していない部分にマイクロシリンジ(10マイクロリットル容)を刺し、25%アンモニア水3マイクロリットルを注入した。
そして、マイクロシリンジによって穴の開いた部分は、直ちにテープで閉じ、ドライヤーでテドラーバッグ全体を熱して溶液を気化させた(初期アンモニア濃度:400ppm)。その後、2分後、10分後、20分後及び40分後というように間隔を置き、検知器及び検知管を使用して、アンモニアの濃度を測定し、アンモニア残存率を算出した。
また、約3mlに精秤した第2のベチバー根熱水抽出液を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。
更に、約3mlに精秤した第3のベチバー根熱水抽出液を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。
また、約3mlに精秤した単なる水を切り口から入れた後にテープで切り口に封をして、上記と同様の試験を行なった。結果を図4に示す。
【0034】
図3と図4の比較から判るように、ベチバー根熱水抽出液は、セルロース膜や合成吸着剤によって褐色成分が除去されても、カテキン由来成分抽出液消臭剤よりもアンモニア消臭効果が高かった。
【0035】
[各種抽出物の抽出率]
乾燥されたベチバーの根をウィレー式粉砕機にて粉砕して得られたベチバー根粉砕物1gを純水10mlに浸し、オートクレーブ抽出を121℃で40分間行なった後、ろ過した。ろ液は遠心濃縮した。次に、ろ過して得られた残渣物を純水10mlに浸し、オートクレーブ抽出を121℃で40分間行なった後、ろ過した。ろ液は遠心濃縮した。そして、得られた残渣物に対して同様にオートクレーブ抽出を行ない、残渣物を得て、ろ液は遠心濃縮した。すなわち、合計3回の抽出を行なった。
そして、抽出に用いたベチバー根の重量に対して抽出された固形物重量により、抽出率(%)を算出した。結果を、溶媒比などの抽出条件と共に表1に示す。
一方、抽出に用いる溶媒として、純水の代わりに「純水とエタノール10%」や「純水とエタノール20%」を用いて、同様にオートクレーブ抽出を行なった。
【0036】
また、乾燥されたベチバーの根を、切断鋏で1cm長に切断して得られた1cm長ベチバー根1gをn−ヘキサン18mlに浸し、150rpmの条件で振とう抽出を20℃で24時間行なった後、ろ過した。ろ液は遠心濃縮した。次に、ろ過して得られた残渣物をn−ヘキサン18mlに浸し、150rpmの条件で振とう抽出を20℃で24時間行なった後、ろ過した。ろ液は遠心濃縮した。そして、抽出に用いたベチバー根の重量に対して抽出された固形物重量により、抽出率(%)を算出した。結果を、溶媒比などの抽出条件と共に表1に示す。
一方、抽出に用いる有機溶媒として、n−ヘキサンの代わりに、メタノール、エタノール、酢酸エチル、クロロホルム、イソプロパノール(2−プロパノール)を用いて、同様に振とう抽出を行なった。なお、メタノールを溶媒として用いた場合には、乾燥されたベチバーの根をウィレー式粉砕機にて粉砕して得られたベチバー根粉砕物1gについても振とう抽出を行なった。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から判断すると、抽出方法に関して、ベチバー根に含まれる成分の抽出率は、抽出回数や、溶媒と成分との比率よりも、溶出に用いる溶媒に依存すると考えられる。しかし、純水を用いて加熱や加圧する(オートクレーブ)抽出方法が最も回収率が高いことから、熱や圧力をかけることによって抽出される化合物は、オートクレーブ処理した純水抽出物中のみに含まれるものと思われる。
また、有機溶媒を用いた抽出方法のみで比較すると、メタノール抽出物が最も高い抽出率を示した。また、ベチバー根粉砕物と1cm長ベチバー根いずれを用いても抽出率に大きな違いは認められなかった。従って、ベチバー根の形状としては、粉砕物と1cm長のどちらを用いても良いものと考えられる。
また、抽出物の色に関しては、有機溶媒抽出物は、淡い黄色、赤褐色あるいは茶褐色を呈することが分かった。また、純水あるいは純水に10〜20%のエタノールを添加して抽出した抽出物に関しては、淡い黄色を呈した。つまり、褐色色素成分は、有機溶媒を用いて抽出した際により多く抽出されるものと考えられる。
【0039】
[アンモニア消臭試験5]
ろ紙に、ベチバーの根から各種溶媒を用いて抽出された抽出液(抽出物濃度:20mg/ml)を1ml添加し、約24時間、真空デシケータで溶媒を完全に除去させた。
次に、抽出液が添加されたろ紙とアンモニアガスを容量1リットルのテドラーバッグ内で接触させ、0分後、0.5分後、10分後、20分後および40分後の系内濃度を測定した。測定は、ガラス検知管(ガステック社製)を用いて行なった。
また、比較対照として、溶媒のみが添加されたろ紙を用意し、約24時間、真空デシケータで溶媒を完全に除去させた後、このろ紙(無添加ろ紙)とアンモニアガスを容量1リットルのテドラーバッグ内で接触させ、0分後、0.5分後、10分後、20分後および40分後の系内濃度を測定した。
また、用いた溶媒は、エタノール、メタノール、クロロホルム、イソプロパノール、n−ヘキサン、水、および酢酸エチルである。
【0040】
結果を図5〜図7に示す。なお、図5(a)、図6(a)および図7(a)は、アンモニア濃度と経過時間との関係を示したグラフであり、図5(b)、図6(b)および図7(b)は、アンモニア残存率と経過時間との関係を示したグラフである。ここで、アンモニア残存率は、ブランク(無添加ろ紙)を100として算出した。
【0041】
また、図8に、アンモニアガスと抽出物との接触から40分後における各種抽出物のアンモニア除去量のグラフを示し、図9に、アンモニアガスと抽出物との接触から40分後における各種抽出物1mgあたりのアンモニア除去量のグラフを示す。
【0042】
図5〜図9から分かるように、各種抽出物間のアンモニア消臭効果を比較した結果、メタノール抽出物が最も高い効果を示すことが分かった。
また、n−ヘキサンや酢酸エチルなどの比較的極性の低い溶媒の抽出物では、アンモニア消臭効果が低かった。これらの消臭効果の結果と、先に示した抽出物の性状から、ベチバー根に含まれるアンモニア消臭効果を持つ物質としては、比較的親水性が高い成分である、加熱や加圧処理によっても変性しない、褐色色素成分である等、幾つかの化学的な特徴を有すると考えられる。
また、ベチバー根に含まれる対アンモニア有効成分をより効率良く抽出する方法として、有機溶媒で抽出するのであれば、メタノール、イソプロパノール、エタノールのような比較的極性の高い溶媒を用いる方がより多くの有効成分を抽出することができ、純水で抽出するのであれば、オートクレーブ抽出を用いる方がより多くの有効成分を抽出することができると考えられる。
【0043】
[シリカゲルカラム分画による消臭活性画分]
シリカゲルカラムクロマトグラフィにて、ベチバー根のメタノール抽出物を分画した。また、ベチバー根の粉砕物200.191gをメタノール1800mlで2回抽出した後、2回の抽出物を混合してエバポレータで濃縮および乾固させて試料を得た。
また、この試料を用いて、表2に示すように、n−ヘキサン100%/酢酸エチル0%からメタノール100%/酢酸エチル0%まで逐次、展開溶媒の極性を変えて溶出させて、合計81のフラクション(抽出分画物)に分画した(抽出物回収率93.20%)。
また、シリカゲルカラムクロマトグラフィ分画条件は以下のとおりである。
すなわち、シリカゲルとしてWakogelC−200(商品名、和光純薬工業社製)(75−150μm)を用い、メタノール抽出物20.265g、吸着させたシリカゲル量60.027g、カラム直径10.5cm、カラム長さ97cm、展開幅35.5cm、カラム体積30.7L、シリカゲル量1600.20gであった。
【0044】
【表2】

【0045】
次に、1フラクションにつき、500〜1000mlずつ分取した。
そして、分画した後、すみやかにエバポレータにて濃縮して乾固させ、固形物重量を計測した。各フラクションの固形物重量を図10に示す。
図10から分かるように、第12フラクションから第14フラクションあたり、あるいは第61フラクションから第69フラクションにかけて、特に多くの化合物を含むことが推察された。
【0046】
次に、各フラクションの固形物2mgを溶媒10μlで溶解して得た液を、ろ紙に添加し、そして約24時間、真空デシケータにて溶媒を完全に除去した。そして、ろ紙とアンモニアガスを、容量100mlの三角フラスコ内で接触させた。各フラクションのアンモニア除去量を図11に示す。図11中、「MeOH」はメタノールを意味する。
また、アンモニア除去量は、無添加ろ紙と、試料添加ろ紙の系内アンモニア濃度から算出した。また、エピカテキンガレート(ECg)およびカテキン(C)は、これまでアンモニア消臭に効果があることが報告されていることから、比較のため使用した。
なお、使用した三角フラスコは、口に穴の開いたゴム栓が付けられ、穴には直径5mm、長さ10cmのガラス管を三角フラスコの内外に貫通するような形で差し込まれたものである。ガラス管の外側(三角フラスコから外に突出した部分)には、長さ15cmのゴムチューブを付け、そのゴムチューブを半分から折ってクリップで挟み、三角フラスコ内の気体が外へ漏れ出ないようにした。
【0047】
図11から分かるように、網羅的なスクリーニングの結果から、第17フラクション、第26〜28フラクション、第41〜43フラクション、第60〜64フラクション、第68フラクション、第69フラクション及び第74〜81フラクションは、系内のアンモニア濃度が、無添加ろ紙よりも20ppm以上減少しており、アンモニア消臭効果を持つ成分が含まれていることが推測された。
そこで、メタノール抽出物を比較対照として、これらのフラクションの中から、第17フラクション、第27フラクション、第41フラクション、第63フラクション、第69フラクション及び第78フラクションについて、容量1リットルのテドラーバッグを用いてアンモニア消臭試験を行なった。結果を図12及び図13に示す。図12は、アンモニアガスとフラクションの接触から30分後における各フラクションのアンモニア除去量を示すグラフであり、図13は、アンモニアガスとフラクションの接触から30分後における各フラクションの抽出物1mgあたりのアンモニア除去量のグラフを示す。
【0048】
図12および図13から分かるように、特に第17フラクション及び第41フラクションに関しては、メタノール抽出物と同等の消臭効果を示すことが分かった。また、各種溶媒抽出物間でのアンモニア消臭効果を検討した実験結果(図9)と比較して、抽出物1mgあたりの吸着量が減少した。
しかし、用いたフラクションは、メタノール抽出物を用いて分画して得られたもので、その効果を検討しており、第17フラクション、第27フラクション、第41フラクションおよび第63フラクションは特にアンモニアに対して有効な成分を含むことが示唆される。
また、これらの結果を、分画条件と併せて考えると、ベチバー根のメタノール抽出物に含まれる、アンモニアに対する有効成分は化学的な特徴が異なり、幾つかのまとまったフラクションに分散していることが推測される。
【0049】
以上のように、ベチバーの根から熱水抽出された水溶性抽出物を含む抽出液(ベチバー根熱水抽出液)は、アンモニアの消臭を開始して2分経過した時点で50%以上も消臭することができるという高い消臭効果を有し、天然素材であるベチバーの根から抽出された抽出液なので、生体に対しても安全に使用できる。
【0050】
更に、ベチバー根熱水抽出液は、市販されているトウモロコシ由来成分抽出液消臭剤やカテキン由来成分抽出液消臭剤よりも、時間を経るごとに高いアンモニア消臭効果を示す。
【0051】
また、ベチバーの根から抽出したことにより、抽出液は褐色を呈しているが、抽出液に色があると衣類に散布した場合に衣類が変色してしまうため、褐色成分を除去することが好ましいが、褐色成分を除去しても、ベチバー根熱水抽出液はカテキン由来成分抽出液消臭剤よりアンモニア消臭効果が高い。
【0052】
また、ベチバー根熱水抽出液は水溶液であるので、散布することができ、従って、非常に簡便に使用することができて用途も広い。また、ベチバー根熱水抽出液という天然素材のみで構成された消臭剤なので、散布しても、べたつきの心配は一切ない。
【0053】
また、ベチバーの根から有機溶媒抽出、特にメタノール抽出されたメタノール抽出物は、水抽出された水溶性抽出物よりもアンモニア除去量が多く、よって高いアンモニア消臭効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベチバー植物の抽出物を含む
消臭剤。
【請求項2】
前記ベチバー植物はベチバーの根である
請求項1に記載の消臭剤。
【請求項3】
前記抽出物は水溶性抽出物を含んでいる
請求項1または請求項2に記載の消臭剤。
【請求項4】
前記水溶性抽出物の液体である
請求項3に記載の消臭剤。
【請求項5】
前記液体は水溶液である
請求項4に記載の消臭剤。
【請求項6】
前記液体はコロイド分散液である
請求項4に記載の消臭剤。
【請求項7】
前記抽出物は、乾燥粉末である
請求項1〜3のいずれか1つに記載の消臭剤。
【請求項8】
前記乾燥粉末は、250μm以下の大きさである
請求項7に記載の消臭剤。
【請求項9】
前記抽出物は有機溶媒抽出物を含んでいる
請求項1または請求項2に記載の消臭剤。
【請求項10】
ベチバー植物から水溶性抽出物を抽出する抽出工程を有する
消臭剤の製造方法。
【請求項11】
前記ベチバー植物はベチバーの根である
請求項10に記載の消臭剤の製造方法。
【請求項12】
前記抽出工程の後に、前記水溶性抽出物を乾燥する乾燥工程を有する
請求項10または請求項11に記載の消臭剤の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥工程は、前記水溶性抽出物を凍結して乾燥する
請求項12に記載の消臭剤の製造方法。
【請求項14】
前記乾燥工程の後に、前記乾燥工程によって得られた乾燥粉末を250μm以下の大きさに微細化する微細化工程を有する
請求項12に記載の消臭剤の製造方法。
【請求項15】
ベチバー植物から有機溶媒抽出物を抽出する抽出工程を有する
消臭剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−94506(P2010−94506A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217416(P2009−217416)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(508278767)株式会社アカル (2)
【出願人】(394009245)株式会社久留米リサーチ・パーク (2)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】