説明

消臭性繊維シート

【課題】カーテン、壁掛け、テーブル掛け、ランプシエードおよび空調用フィルタ等に加工することができ、可視光および紫外線の少なくとも一方が存在すれば、空気中のホルムアルデヒドやアンモニア等の臭気を効率的に分解除去することができる消臭性繊維シートを提供する。
【解決手段】合成繊維、カーボン繊維またはガラス繊維からなる布帛の片面または両面に金属蒸着膜を積層した繊維シートにおいて、上記の金属蒸着膜を銀または銅からなる抗菌性被膜で形成し、その上にチタンやタンタルからなる酸化防止膜を積層する。また、上記の抗菌性被膜を銀または銅とチタンまたはタンタルとの合金で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気中のホルムアルデヒドやアンモニア、酢酸等の臭気成分を分解除去することができ、カーテン、壁掛け、テーブル掛け、ランプシエードおよび空調用フィルタ等として使用が可能な消臭性繊維シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーテン等に使用することができ、その際に太陽の光を受けて周囲の酸素を活性化し、この活性酸素で室内の臭気を消すことが可能な繊維シートとして、合成繊維からなる織物、編物、不織布等の繊維布帛上にチタン銀合金、ニッケル銅合金、ステンレス鋼等の耐食性金属からなるアモルファス構造の耐食性被膜をスパッタリングで積層し、この耐食性被膜の上に酸化チタンや酸化亜鉛等の金属酸化物からなるアモルファス構造の光触媒被膜をスパッタリングで積層することが下記の特許文献1によって知られている。
【特許文献1】特開平8−215295号公報
【0003】
上記の繊維シートは、耐食性被膜を介して光触媒被膜を積層したものであるから、光触媒の担体である繊維シートが耐食性被膜によって活性酸素から保護される。したがって、繊維シートが活性酸素によって侵されることはない。しかしながら、紫外線の存在が不可欠であり、可視光の場合や白色蛍光灯の下ではホルムアルデヒドやアンモニア等の臭気を分解除去することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、カーテン、壁掛け、テーブル掛け、ランプシエードおよび空調用フィルタ等に加工することができ、可視光および紫外線の少なくとも一方が存在すれば、空気中のホルムアルデヒドやアンモニア、酢酸等の臭気を効率的に分解除去することができる消臭性繊維シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る消臭性繊維シートは、合成繊維、カーボン繊維またはガラス繊維からなる布帛の片面または両面に金属蒸着膜を積層した繊維シートにおいて、上記の金属蒸着膜を銀または銅からなる抗菌性被膜で形成する。
【0006】
上記の消臭性繊維シートでは、抗菌性を備えた銀または銅が物理蒸着によって繊維布帛に固定されて抗菌性被膜を構成する。この銀および銅は、それぞれ水分の存在下で銀イオンおよび銅イオンを発生し、この銀イオンや銅イオンが抗菌性を発揮するが、本件発明者は、実験の結果、銀または銅の蒸着膜は、可視光または紫外線の照射を受けることにより、その抗菌性が増大するとの知見を得た。これは、上記の銀または銅が空気中の水蒸気に溶出してイオン化し、このイオンが可視光または紫外線を浴びることによって活性化され、その抗菌作用が向上し、そのため空気中のホルムアルデヒド、アンモニア等の臭気成分が分解除去され、空気が清浄化されるものと考えられる。ただし、アセトアルデヒドに対しては分解消臭機能が認められないので、酸化チタン等の光触媒機能とは異質のものと考えられる。
【0007】
そして、上記の銀または銅が、繊維布帛に蒸着によってアモルファス構造の薄い膜の形に固定されて抗菌性被膜を構成するので、銀または銅の使用量が少なくても、空気との接触面積が広くなり、そのため効率的に空気が清浄化される。しかも、上記の銀または銅からなる抗菌性被膜は、酸化チタン等の金属酸化物からなる光触媒と異なり、活性酸素を作り出すものではないので、担体布帛の構成繊維が活性酸素で侵されることがない。また、上記の抗菌性被膜は、使用中に酸化等で変色するが、抗菌性は低下しないので、空調用フィルタのように外観低下を問題にしない用途ではそのまま使用することができる。
【0008】
なお、上記の抗菌性被膜は、銀または銅の蒸着により、好ましくはスパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム法等の物理蒸着によって繊維布帛上に積層、形成される。その場合、被膜の厚さは、1〜100nm、特に3〜10nmが好ましく、1nm未満では効果が不十分であり、100nmを超えると、経済的でない。
【0009】
上記の銀または銅からなる抗菌性被膜は、必要に応じて銀または銅の酸化防止機能を備えた金属の蒸着膜、すなわち酸化防止膜で被覆することができ、この酸化防止膜を設けることにより、上記抗菌性被膜の酸化が防止され、酸化による外観低下を防ぐことができる。しかも、蒸着によりアモルファス構造の被膜が形成されるので、抗菌性被膜の機能が阻害されない。また、紫外線の透過を防ぐので、紫外線による繊維の脆化が防止される。なお、この酸化防止膜を構成する金属は、銀または銅よりも溶出し難く、耐蝕性に優れ、銀または銅が水へ溶出するのを抑制する性質を備えた金属であり、チタン、タンタル、ニオブ等が例示され、特にチタンが耐蝕性および環境保護の点で好ましい。また、この酸化防止膜の厚さは、10〜100nmであり、10nm未満では効果がなく、100nmを超えると、抗菌性被膜の機能が低下する。
【0010】
銀または銅からなる抗菌性被膜の上に酸化防止膜を重ねて積層する代わりに、繊維布帛の片面または両面に形成する金属蒸着膜を、銀または銅と、銀または銅の酸化防止機能を備えた金属との合金からなる抗菌性合金被膜で単層に形成することができる。この場合、酸化防止機能を備えた金属は、前記同様に、銀または銅よりも耐蝕性に優れ、銀または銅が水へ溶出するのを抑制する性質を備えた金属であり、チタン、タンタル、ニオブ等が例示され、特にチタンが好ましい。この場合、繊維布帛上には銀または銅の抗菌性金属原子とチタンまたはタンタル等の酸化防止性金属原子とが平面上に配列されることで抗菌性金属の酸化が抑制される。また、紫外線の透過を防ぐので、紫外線による繊維の脆化が防止される。なお、抗菌性金属の含有量は、合金被膜全量の0.3〜30%、特に3〜10%が好ましく、0.3%未満では抗菌性が不足し、30%を超えると、耐蝕性、酸化防止の効果が得られない。
【0011】
この発明において、上記物理蒸着膜の担体となる繊維布帛は、合成繊維、カーボン繊維またはガラス繊維からなる編物、織物または不織布であり、合成繊維としてはナイロン、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、アクリル等が例示され、特にポリエステルのポリエチレンテレフタレートは、含有水分が少なく、上記蒸着膜の剥離強度が大きくなる点で好ましい。そして、繊維の形態は、ステープルよりもフィラメントの方が繊維シート表面に毛羽が無く、表面が平滑になる点で好ましい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る消臭性繊維シートは、銀または銅からなる抗菌性被膜を備えており、可視光または紫外線を浴びることにより、抗菌性被膜の抗菌性が向上する。また、上記の抗菌性被膜は、繊維布帛に蒸着によってアモルファス構造の薄い膜の形に固定されているので、銀や銅の使用量が少なくても、空気との接触面積が広くなる。したがって、空気中のホルムアルデヒド、アンモニアおよび酢酸等の臭気成分が効率的に分解除去され、空気が清浄化される。なお、上記の抗菌性被膜は、使用中に酸化等で変色しても、消臭機能には影響がないので、空調用フィルタ等での使用には問題がない。
【0013】
請求項2に係る発明は、上記抗菌性被膜の上に酸化防止膜を積層したものであるから、使用中に抗菌性被膜が酸化等で変色し外観が低下することがなく、カーテン、壁掛け、テーブル掛け、ランプシエード等に用いた場合に長期間にわたって良好な外観が維持され、かつ紫外線による繊維布帛の脆化が防止される。また、請求項3に係る発明は、繊維布帛に銀または銅と、銀または銅の酸化防止機能を備えた金属との合金からなる抗菌性合金被膜を蒸着で形成したものであるから、銀や銅の酸化が抑制され、外観が良好に維持され、かつ紫外線による繊維布帛の脆化が防止される。また、請求項4に係る発明は、酸化防止機能を備えた金属としてチタンを用いるものであるから、特に外観が良好に維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施形態1
ガラス繊維(太さ4〜8μm)100〜200本からなるマルチフィラメント糸を経糸および緯糸に用い、経糸密度および緯糸密度がそれぞれ30〜40本/インチ、目付量200〜300g/m2の平織物を製織してロールに巻取る。次いで、このガラス繊維織物の巻きロールをスパッタリング装置の密閉可能なチャンバ内にセットする。このチャンバには、あらかじめ銀または銅からなる平板状のターゲット(陰極)および棒状陽極が対向して設けられ、上記の陰極からみて陽極の後方に上記巻きロールの送出し軸および該巻きロールから引出された織物の巻取り軸が所定間隔で並設される。
【0015】
上記のガラス繊維織物をチャンバ内の送出し軸から引出し、巻取り軸に巻取り可能にセットした後、該チャンバ内を圧力3×10-3Pa程度に減圧し、次いでアルゴンガスを導入してチャンバ内を圧力5×10-1Pa程度のアルゴンガス雰囲気とし、上記の陽極と陰極との間に直流高電圧500〜1000Vを加えると共に、上記の送出し軸および巻取り軸を駆動し、送出し軸上のガラス繊維織物を所定の速度で送出して巻取り軸に巻取り、この巻取り軸に向かう織物の前面に陰極のターゲット表面から飛散する銀原子を衝突、付着させ、これにより上記の織物を構成するマルチフィラメント糸の前面に銀または銅からなるアモルファス構造の抗菌性被膜を厚さ1〜100nm、好ましくは3〜10nmに積層する。
【0016】
上記銀被膜の積層が終わると、上記のチャンバ内を通常圧に戻し、ガラス繊維織物上に抗菌性被膜を積層してなる消臭性繊維シートの巻きロールを取出し、得られた消臭性繊維シートを所望の大きさに裁断し、必要に応じて縫製し、空調用フィルタとして使用する。この場合、空調用フィルタの抗菌性被膜に面して任意の蛍光灯またはブラックライトを設置して上記の抗菌性被膜表面を照射すると、上記の空調用フィルタを通過する空気中のホルムアルデヒドやアンモニアが分解除去され、空気が清浄化される。したがって、シックハウス症候群の発生を防ぐことが可能になる。
【0017】
実施形態2
ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(75デニール、36フィラメント)を経糸および緯糸に用い、経糸密度90〜100本/インチ、緯糸密度90〜100本/インチ、目付量75〜83g/m2の織物を平組織に製織し、得られた織物を乾燥し、水分率を0.1%以下にしてロールに巻取る。以下、前記の実施形態1と同様にスパッタリング装置にセットし、上記ポリエチレンテレフタレート織物の片面に銀または銅からなるアモルファス構造の抗菌性被膜を厚さ1〜100nm、好ましくは3〜10nmに積層する。
【0018】
上記抗菌性被膜の積層が終わると、いったん上記のチャンバ内を通常圧に戻し、抗菌性被膜の積層された織物ロールを巻取り軸から送出し軸にセットし直し、銀または銅製のターゲットをチタン製ターゲットに交換し、しかるのち前記同様にチャンバ内を減圧し、アルゴンガスを導入し、上記の抗菌性被膜の上にチタン製の酸化防止被膜を厚さ10〜100nmの厚さに形成、積層する。そして、積層が終ったのち、チャンバ内を通常圧に戻し、抗菌性被膜および酸化防止被膜が順に積層された織物を取出す。なお、上記のチャンバ内に2個のターゲット(陰極)を並設し、第1のターゲットで銀または銅をスパッタし、得られた抗菌性被膜の上に第2のターゲットでチタンをスパッタすることもできる。
【0019】
得られたポリエチレンテレフタレート織物製の消臭用繊維シートは、目的に応じて所望の大きさに裁断し、必要に応じて縫製し、カーテン、壁掛け、テーブル掛け、ランプシエード等に加工して使用される。この場合、繊維シートの片面が抗菌性被膜で覆われているため、可視光または紫外線が存在すると、空気中のホルムアルデヒドやアンモニア、酢酸が分解除去される。したがって、シックハウス症候群の発生を防ぐことが可能になる。しかも、抗菌性被膜の表面がチタン製の酸化防止被膜で被覆され、裏面が担体織物のポリエチレンテレフタレート織物で覆われているため、抗菌性被膜の酸化が抑制され、長期間にわたって外観が良好に維持される。
【0020】
実施形態3
前記実施形態1のポリエチレンテレフタレート織物を前記同様にスパッタリング装置のチャンバにセットする。このチャンバには、あらかじめチタンからなる平板状ターゲット(陰極)の複数箇所に銀または銅からなる抗菌性金属の塊が表面を露出させて埋設されている。ただし、上記抗菌性金属塊の大きさおよび個数は、その露出部分の合計表面積が平板状ターゲット全面積の0.3〜30%、好ましくは3〜10%となるように設定される。
【0021】
上記のポリエチレンテレフタレート織物をチャンバ内にセットした後、前記同様にチャンバ内をアルゴンガス雰囲気とし、上記の陽極と陰極との間に直流高電圧を加えると共に、上記のポリエチレンテレフタレート織物を所定の速度で送出し、このポリエチレンテレフタレート織物の前面に陰極のターゲット表面から飛散する抗菌性金属原子とチタン原子とを衝突、付着させ、これにより上記のポリエチレンテレフタレート織物の前面に抗菌性金属原子とチタン原子とが入り混じり、抗菌性金属含有量が0.3〜30%、好ましくは3〜10%でアモルファス構造の合金被膜を厚さ1〜100nm、好ましくは3〜10nmに積層して消臭性繊維シートを得る。この消臭性繊維シートは、実施形態2の消臭性繊維シートと同様の目的で使用することができる。
【実施例】
【0022】
実施例1
ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(75デニール、36フィラメント)を経糸および緯糸に用い、経糸密度90本/インチ、緯糸密度90本/インチの平織物(タフタ)を製織し、その片面に実施形態3の方法で、銀とチタンの合金からなり銀含有量が5%の合金被膜を厚さ30nmに積層して実施例1の消臭性繊維シートを得た。
【0023】
実施例2
上記の実施例1において、抗菌性金属に銅を用い、酸化防止金属にチタンおよびタンタルを併用し、銅、チタンおよびタンタルの含有比率が20:70:10で、厚さが30nmの合金被膜を積層して実施例2の消臭性繊維シートを得た。
【0024】
比較例1
上記の実施例2において、チタンおよびタンタルに代えてニッケルを用い、ニッケル・銅合金からなり、銅含有量が40%、厚さが30nmの合金被膜を積層して比較例1の消臭性繊維シートを得た。
【0025】
比較例2
前記実施例1のポリエチレンテレフタレート織物(タフタ)の片面に酸化チタン粉末を含有するウレタン系合成樹脂塗料(酸化チタン含有量:5%)を塗布、乾燥し、上記塗料の固形分付着量を3.5g/m2 (ただし、酸化チタン付着量は2.6g/m2)として、比較例2の消臭性繊維シートを得た。
【0026】
上記の実施例1、2および比較例1、2の消臭性繊維シート、並びに未加工のポリエチレンテレフタレート織物(比較例3)について、メチレンブルーによる光触媒反応の有無を色変化によって比較した。光源には白色蛍光灯およびブラックライトを用いた。その結果を下記の表1に記載した。試験試料は、直径90mmの円形に切断して内径90mmのシャーレに置き、メチレンブルーの水溶液(水100gにメチレンブルーの色素0.01gを溶かしたもの)2ccと水60ccを入れ、10cmの高さからブラックライト(FL20W)2本または白色蛍光灯(20W)2本で照射し、所定時間後に試料を取出し、液の状態を写真に撮影し、液の色変化を目視で判定し、青色が消えて透明になったものを○、変化しなかったものを×、その中間を△で示した。
【0027】
【表1】

【0028】
上記の表1に示すとおり、銀・チタン合金の実施例1および銅・チタン・タンタル合金の実施例2は、白色蛍光灯およびブラックライトのいずれにおいても良好な分解力を示した。そして、この実施例1および2の消臭性繊維シートは、温度20℃、湿度40%の室内に60日間放置しても外観変化が生じなかった。これに対し、酸化チタンの比較例2は、ブラックライトの照明下では良好な分解力を示したが、白色蛍光灯の下では性能が半減した。また、銅・ニッケル合金の比較例1は、白色蛍光灯およびブラックライトのいずれでも分解力を示さなかったが、これは、ニッケルのイオン化傾向が銅よりも大きいため、銅がイオン化されないためと考えられる。また、比較例3は、未加工品のため、分解力が皆無であった。なお、暗室で照明がない場合は、いずれも全く変化しなかった。
【0029】
実施例3
前記の実施例1で用いたポリエチレンテレフタレート織物の片面に前記実施形態2に記載した方法で銀からなる厚さ10nmの抗菌性被膜およびチタンからなる厚さ30nmの酸化防止被膜を順に積層し、実施例3の消臭性繊維シートを得た。
【0030】
比較例4
上記の実施例3において、銀およびチタンの蒸着順序を反対にし、ポリエチレンテレフタレート織物の片面にチタンからなる厚さ30nmの酸化防止被膜および銀からなる厚さ10nmの抗菌性被膜を順に積層し、比較例4の消臭性繊維シートを得た。
【0031】
上記の実施例3および比較例4の消臭性繊維シートについて、ホルムアルデヒドの消臭性を高濃度臭気希釈テドラーバッグ法(三菱レイヨン法)で比較した。すなわち、テドラーバッグ(容量1000ml)の中に測定用試料(1g)を入れ、密閉用クリップで密閉し、テドラーバッグに残っている空気を抜き、定量ポンプで500mlの空気を注入する。次いで、別に調製したホルムアルデヒド高濃度臭気(700ppm)から注射針で25mlを吸入し、上記のテドラーバッグに注入して初期濃度35ppmの雰囲気とする。室内蛍光灯で照射し、1時間および8時間放置した後、北川式検知管および検知器で濃度を測定する。同時に測定用試料を入れてないテドラーバッグを用意し、同様の手順で1時間および8時間後の残濃度を測定し、これをブランク濃度とする。ただし、ブランクは本測定の前後2回測定する。結果を下記の表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
上記の表2に示すように、チタンの酸化防止被膜を表面層とする実施例3も、また銀の抗菌性被膜を表面層とする比較例4も、その消臭率は、照射1時間後でも34%を超えており、大差が無かった。ただし、銀を表面層とする比較例4は、24時間後に表面が部分的に酸化し、しみ状の汚れのようになり、外観が低下した。
【0034】
次に、上記の実施例3および比較例4の試料につき、JAFET法によるホルムアルデヒド消臭試験を行なった。すなわち、上記の試験法に準拠し、試料の大きさを10cm×10cm、初期濃度を14ppm、ガス量を3000mlにそれぞれ設定し、室内蛍光灯およびブラックライトで照射し、2時間後、5時間後および24時間後の濃度を測定し、減少率を算出した。その結果を下記の表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
上記の表3に示すように、チタンの酸化防止被膜を表面層とする実施例3も、銀の抗菌性被膜を表面層とする比較例4も、消臭機能は同一であった。これは、実施例3のようにチタンからなる酸化防止被膜が表面層を形成する場合でも、その厚さが30〜100nm程度であれば、表面層を構成するチタンの隙間から下層の抗菌性被膜を構成する銀のイオンがにじみ出るからではないか、と推論される。ただし、表面層を銀の抗菌性被膜で形成した場合は、前記のとおり、銀の表面層が酸化して外観が低下する。
【0037】
上記の実施例3および比較例4の試料につき、光触媒性能評価試験法により、可視光下におけるアセトアルデヒドの消臭試験を行なった。すなわち、テドラーバッグ(容量5リットル)に測定用試料(10cm×10cm)を入れ、ヒートシールで密閉し、アセトアルデヒド100ppmを含む空気3リットル注入し、2時間放置した後、テドラーバッグ内のアセトアルデヒド濃度を測定し、テドラーバッグを白色蛍光灯で照射し(照度1000Lx)、一定時間の照射後にアセトアルデヒド濃度を測定し、ガス除去率を算出した。その結果を下記の表4に示す。なお、表中の「湿潤」は、試料に水分を含ませ、水分率50〜60%とした場合である。
【0038】
【表4】

【0039】
上記の表4に示すとおり、アセトアルデヒドに対する消臭機能は、実施例3および比較例4とも極めて低く、特に乾燥状態では、皆無であった。
【0040】
次いで、上記の実施例3および比較例4の試料につき、ブラックライトの照射下でアセトアルデヒドの消臭試験を上記同様に行なった。ただし、ブラックライトとしては、GE/HITACHI FL20S/BL-Bを2灯用い、試料までの距離を22cm、照射時間を3時間に設定した。その結果を下記の表5に示す。なお、表中の「湿潤」は、試料に水分を含ませ、水分率50〜60%とした場合である。
【0041】
【表5】

【0042】
上記の表5に示すとおり、アセトアルデヒドに対しては、実施例3および比較例4とも消臭機能がほとんど認められなかった。特に銀からなる抗菌性被膜を表面に有する比較例4は、除去率0という結果になった。これは、アセトアルデヒドが水に溶け難いためではないかと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維、カーボン繊維またはガラス繊維からなる布帛の片面または両面に金属蒸着膜を積層した繊維シートにおいて、上記の金属蒸着膜が銀または銅からなる抗菌性被膜であることを特徴とする消臭性繊維シート。
【請求項2】
抗菌性被膜の上に銀または銅の酸化防止機能を備えた金属の蒸着膜からなる酸化防止膜が積層された請求項1記載の消臭性繊維シート。
【請求項3】
合成繊維、カーボン繊維またはガラス繊維からなる布帛の片面または両面に金属蒸着膜を積層した繊維シートにおいて、上記の金属蒸着膜が銀または銅と、銀または銅の酸化防止機能を備えた金属との合金からなる抗菌性合金被膜であることを特徴とする消臭性繊維シート。
【請求項4】
銀または銅の酸化防止機能を備えた金属がチタン、タンタルまたはニオブである請求項2または3に記載の消臭性繊維シート。

【公開番号】特開2006−14965(P2006−14965A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196233(P2004−196233)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(591158335)株式会社鈴寅 (20)
【Fターム(参考)】