説明

消防用ホースの暴れ防止装置

【課題】圧縮空気泡の輸送に使われる既存の消防用ホースを買い替えることなく、低コストで断裂時の消防用ホース暴れを防止し、周囲に与える危険を最小限に抑える消防ボースの暴れ防止装置を提供する。
【解決手段】消防用ホース1の差し金具2と受け金具3の内円に、消防用ホース1の中を通すロープ4で繋いだリング5をそれぞれ嵌め込んで固定する。消防用ホース1のジャケットが破裂し、圧縮空気の噴き出しにより断裂に至った場合、ロープ4に引っ張られているため、大きく暴れることがない。よって、周囲に与える危険が低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防用ホースの破断による危険を回避するための暴れ防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
消防隊による消火活動において、消防車から火点まで消防用ホースを延長し、消火剤を確実に送る必要がある。
つまり、消防用ホースと消防車の吐出口、消防用ホースと放水ノズル、および、消防用ホース同士は結合金具によって連結され、そして、消防車からの加圧された水または泡がそれらを通って、放水ノズルに送られ、消火などのために放出される。
【0003】
消防用ホースは、消防法の規定に基づき、消防用ホースの技術上の規格を定める省令により定められており、消防用ゴム引きホース、消防用麻ホース、消防用濡れホース、消防用保形ホース及び大容量泡放水砲用ホースに区分される。
消防用ゴム引きホースとは、ジャケットにゴムまたは合成樹脂の内張りを施した消防用ホースをいう。消防用麻ホースとは、麻糸に織られた消防用ホースをいう。消防用濡れホースとは、水流によりホース全体が均一に濡れる消防用ホースをいう。消防用保形ホースとは、ホースの断面が常時円形に保たれる消防用ホースをいう。大容量泡放水砲用ホースとは、石油コンビナート等災害防止法施行令に規定する大容量泡放水砲用防災資器材としての用途にのみ用いられる消防用ホースをいう。
【0004】
消防車に使用される消防用ホースは、消防用ゴム引きホースが主流である。消防用ゴム引きホースもジャケット種やホースの加工方法等により種類がある。全合繊ジャケットホースや天然繊維ジャケットホースならびに、コーティッドホースやカバードホースなどの表面加工したゴム引きホースと、ダブルジャケットホースなどが挙げられるが、図5に示すように、構造上基本的にジャケット、ライニング、コーティングの3つの要素から構成されている。
図5(a)はホースの要部横断面図、図5(b)はホースの要部縦断面図である。
ジャケット101は、ホースの本体となる繊維製の円筒状織物で、内部の圧力を耐える役目を果す横糸102と長さ方向の強度を保つ縦糸103からなる。ライニング104は、ジャケット101の裏面に貼り付け、漏水防止の役目を果すゴム張りの部分であり、コーティング105は、ジャケット101の摩耗や劣化を防ぎ、吸水を減らす目的で、ゴムまたはプラスチックスでホースの表面を覆う部分である。
また、消防用ホース同士を繋ぐ結合金具のほとんどは、日本においては、町野式と呼ばれた差込式の結合金具である。
【0005】
ジャケット101は繊維製の円筒状織物なので、軽量で柔軟であり、取り扱いやすい。一方、良好な操作性を持つ反面、消火活動中、ホースが地面の鋭利な突起物にぶつかったり、建物から落下したガラス片などに刺さったりすることによって、ホースが破断することも少なくはない。
【0006】
一方、近年、水と泡の放射が簡単に切り替えられ、A火災とB火災を効率よく対応できる圧縮空気泡消火システム(CAFS)を搭載する消防車が増えている。CAFS車は従来のポンプ車よりさまざまな火災に対応でき、効率よく消火できる反面、圧縮空気泡を使用しているため、加圧の状態でホースが破裂した場合では、高いエネルギーを持つ圧縮空気の噴出でホースが完全に断裂されることも考えられる。そうなると、ホースが大きく暴れ、周囲の人に危害を加える恐れがある。
従って、圧縮空気泡の放射や、排煙用の圧縮エアーの放射に使われる消防用ホースにおいては、特にホースの断裂時の対策が重要である。
【0007】
特許文献1は、一種類の送水ホースの暴れ防止装置を提示したが、その対象は大容量泡放水砲に使われた大流量の送水ホースであり、また、ホースの断裂による暴れを想定しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−270870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ホースの断裂による暴れを防止する根本的な方法は、ホースの断裂を防止することである。例えば、ホースの製造段階から、ホースの縦糸に強度の強い繊維を使用するなどの対策を採ることが挙げられる。しかし、CAFS車に使われている既存の消防用ホースをすべて強度の強いホースに取り替えることは、自治体消防にとっては膨大な財政負担となるため、現実的な対策とは言えない。経済的な方法で現行のホースを強化し、ジャケットが断裂しても、ホースが大きく暴れない対策が求められている。
【0010】
そこで本発明は、圧縮空気泡の輸送に使われる既存の消防用ホースを買い替えることなく、低コストで断裂時のホース暴れを防止し、周囲に与える危険を最小限に抑える消防ボースの暴れ防止装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために創案された本発明の消防用ホースの暴れ防止装置は、両端にそれぞれ金具を有し、消防用ホース内に配置されるロープと、ロープの両端に設けられる一対の係止具と、からなり、一対の係止具を、金具に係止して用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る消防用ボースの暴れ防止装置によれば、既存のCAFS車に使用される消防用ホースを買い替えることなく、低コストでホース断裂時の暴れを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る消防用ホースの暴れ防止装置を模式的に示す図
【図2】同消防用ホースの暴れ防止装置の断面図
【図3】拡張リングの構造を示す図
【図4】拡張リングの装着状態を示す図
【図5】一般の消防用ホースの構造を模式的に示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、消防用ホースの暴れ防止装置を模式的に示す。図1に示すように、消防用ホース1の差し金具2と受け金具3の内周面に、消防用ホース1の中を通すロープ4で繋いだ係止具(リング)5をそれぞれ嵌め込んで固定する。消防用ホース1のジャケットが破裂し、圧縮空気の噴き出しにより断裂に至った場合、ロープ4に引っ張られるため、大きく暴れることがない。よって、周囲に与える危険が低減できる。
【0016】
図2は、同消防用ホースの暴れ防止装置の断面図を示す。差し金具2と受け金具3の内径が同じ寸法であり、また、相互に隙間がほとんどないため、段差によるリング5の固定はできない。
また、すでに消防用ホース1のジャケットと一体化された差し金具2と受け金具3(以下、金具)に対して、消防署などの現場での機械加工が困難であるため、金具2、3に金属加工を実施せず、現場でも簡単に装着できるリング5が望ましい。
なお、本実施の形態では、消防用ホース1の両端には、金具2、3を有するもので説明するが、金具は放水ノズルであってもよい。
【0017】
図3は、金具2、3を再加工せず、現場でも簡単に取り付けられる拡張式の係止具(リング)5を示す。自己拡張性を持つリング5は、拡張斜面上部52と拡張斜面下部53との上下二つの斜面を持つC形の構造で、上下二つの斜面のねじりにより、装着前、リング5の外径は金具2、3の内径よりやや小さくなるように製造できる。また、拡張斜面上部52にねじを通す貫通孔51とロープ孔6を設け、拡張斜面下部53にメネジ孔54を加工する。
【0018】
図4は、リングの装着状態を示す。リング5を金具2、3の内孔に入れてから、拡張ねじ55を、拡張斜面上部52にある貫通孔51を通して、拡張斜面下部53にあるメネジ孔54にねじり込み、拡張斜面上部52と拡張斜面下部53を密着させる。そうすることにより、リング5が円周方向に延び、直径が大きくなる。よって、金具2、3の内径に密着する。
【0019】
そのほかに、リング5の外径を金具2、3の内径よりやや大きく加工する。リング5を嵌め込む際、金具2、3を加熱する。また、リング5を冷却してから嵌め込む方法も考えられる。
また、ロープ孔6の位置はリング5の軸線上ではなく、円周寄りの位置に設けることが望ましい。それによって、リング5がロープ4に引っ張られた時、非対称の力により、リング5がより強く金具2、3に固着することができる。
異種金属間の電蝕を避けるため、リング5は金具2、3と同じ材質の使用が望ましい。
【0020】
また、耐酸性と耐アルカリ性および電蝕防止の観点から、ロープ4の材質は高分子材料を使用することが望ましい。例えば、アラミド繊維(ケプラ)、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維(ザイロン)、超高強力ポリエチレン繊維(ダイニーマ)などを使用する。
また、高強度と高弾性率の観点から、パラ系アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、炭素繊維を、高耐熱性の観点から、メタ系アラミド繊維、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維を、不燃性の観点からガラス繊維などを使用する
【0021】
以上、本発明の一実施形態に係る消防用ホース1の暴れ防止装置について説明を行ったが、リング5の設置方法には種々の変更を施すことが可能である。例えば、上記に示した実施形態では、リング5の外径は金具2、3の内径より数十μm程度大きくなるように加工し、温度差で金具2、3に嵌め込む(焼バメ)方法を採っているが、金具2、3の内面とリング5の外面にねじ加工を施し、ねじり込むこともできる。
【実施例】
【0022】
既存の消防用ホース1の金具2、3に、外径57.02〜57.07mmに加工したリング5を焼バメの方法で嵌め合い、その消防用ホース1内に太さ1.5mm程度、断面積として約7mmのザイロン材質のロープ4を通して、それぞれの金具2、3に嵌め合ったリング5のロープ孔6につながる。ザイロンの引張強さは5.8Gpaを有し、太さ1.5mmほどのロープ4は約4000kgの引っ張る力に耐えられる。よって、消防用ホース1は破損し、圧縮空気泡、または空気の噴出しで消防用ホース1が断裂しても、消防用ホース1内を通すロープ4に抑えられ、大きく暴れることがなく、消防用ホース1の断裂による危険を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、既存の消防用ホースに用いることができる消防用ホースの暴れ防止装置であり、特に圧縮空気泡の放射や、排煙用の圧縮エアーの放射に使われる消防用ホースに適している。
【符号の説明】
【0024】
1 消防用ホース
2 差し金具
3 受け金具
4 ロープ
5 係止具(リング)
6 ロープ孔
51 貫通孔
52 拡張斜面上部
53 拡張斜面下部
54 メネジ孔
55 拡張ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端にそれぞれ金具を有する消防用ホースの暴れ防止装置であって、
前記消防用ホース内に配置されるロープと、
前記ロープの両端に設けられる一対の係止具と、
からなり、
一対の前記係止具を、前記金具に係止して用いることを特徴とする消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項2】
前記消防用ホースが、加圧流体又は加圧気体に用いられることを特徴とする請求項1に記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項3】
前記係止具が、前記金具の内径より大きい外径であり、前記金具の内径より小さい内径のリングで構成され、前記リングには前記ロープを通すロープ孔を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項4】
前記リングが、端部が重なり合うC型の構造であり、一方の前記端部が拡張斜面上部を、他方の前記端部が拡張斜面下部を構成し、前記拡張斜面上部と前記拡張斜面下部との密着により、前記リングが拡径することで、前記金具に固着することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項5】
前記拡張斜面上部にねじを通す貫通孔を設け、前記拡張斜面下部に前記ねじがねじ込められるメネジ孔を有することを特徴とする請求項4に記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項6】
前記拡張斜面上部に前記ロープを固定するロープ孔を設けることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項7】
前記リングを、前記金具と同じ材質としたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項8】
前記ロープ孔を、前記リングの軸から離れた位置に設けることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれかに記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項9】
前記ロープの材質を、高分子材料とすることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の消防用ホースの暴れ防止装置。
【請求項10】
前記高分子材料として、パラ系アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、炭素繊維、メタ系アラミド繊維、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、ポリイミド繊維、及びフッ素繊維のいずれかを少なくとも含むことを特徴とする請求項9に記載の消防用ホースの暴れ防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−13673(P2013−13673A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150371(P2011−150371)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000192073)株式会社モリタホールディングス (80)
【Fターム(参考)】