説明

消防車の消防ポンプ制御システム

【課題】消防ポンプの駆動制御に係り、エンジンが設定回転数を超えた場合の応答性を高くしてガバナ機能の規制を確実にクリアできるようにする。
【解決手段】エンジン1にPTO3で連結されて駆動され放水用消防ポンプ2が消防車に装備され、エンジンの回転数が設定回転数を超えた場合にスロットルレバー4を減速側に動作させる。コントローラ13には、操作部12がスロットルレバーの増速側への動作を操作した場合に第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10に閉鎖を指示して負圧ポンプ7に駆動を指示し、操作部がスロットルレバーの減速側への動作を操作した場合に第1の開閉バルブに閉鎖を指示し第2の開閉バルブに開放を指示して負圧ポンプに駆動停止を指示し、回転数センサ11がエンジンの設定回転数を超える回転を検出した場合に第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブに開放を指示して負圧ポンプに駆動停止を指示するように設定がなされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用のエンジンで駆動され放水用に使用される消防ポンプが固定的に装備された消防車における消防ポンプの駆動制御に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
最近、大規模都市災害への対応の観点等から、小型の自動車(軽自動車)に走行用のエンジンで駆動される消防ポンプが固定的に装備された小型消防車の需要が高まっている。
【0003】
現在、多用されている小型消防車では、小型の自動車の荷台等に可搬式の消防ポンプが搭載されている。可搬式の消防ポンプは、駆動用のエンジンと一体化されているため、排気量,重量の制約から充分な放水量を確保するのが困難であるという不具合がある。このため、小型の自動車に消防ポンプを固定的に装備して走行用のエンジンでPTO(Power Take Off)方式で駆動することが試みられるようになってきている。
【0004】
なお、消防用ポンプについては、エンジン保護のための一定のガバナ機能が規制(消防検定試験)されている。この規制では、高圧放水の運転中に無負荷となった場合に、駆動源であるエンジンの回転速度等について、瞬時最高回転速度が定格回転速度の120%を超えないこと、静定回転速度が定格回転速度の110%を超えないこと、静定回転速度に達するまでに10秒を超えないことが内容とされている。
【0005】
また、最近の自動車の走行用のエンジンについては、低燃費,低公害の要請等から回転数を含めてコンピュータによる制御が一般化され、消防自動車として提供される場合にはコンピュータにエンジンを消防ポンプの駆動源として使用する際の制御のプログラムも入力されている。
【0006】
従来、小型の消防車に固定的に装備され走行用のエンジンで駆動される消防ポンプの駆動制御に係る技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0007】
特許文献1には、走行用のエンジンにPTOで連結されて駆動され放水用に使用される消防ポンプが消防車に固定的に装備され、エンジンの回転数が設定回転数を超えた場合にスロットルレバーを減速側に動作させる消防車の消防ポンプ制御システムが記載されている。スロットルレバーには、スライド部材,作動レバー等の機械的機構を介して減速機が付設された駆動源となる電動モータが連結されてなる。
【0008】
特許文献1に係る消防車の消防ポンプ制御システムは、コンピュータにエンジンを消防ポンプの駆動源として使用する際の制御のプログラムが入力されていなくても、消防ポンプのガバナ機能に係る駆動制御を実行することができることから、消防車として汎用されずコンピュータのプログラム関係の開発がなされていない小型の消防車に特に有効であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−131959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に係る消防車の消防ポンプ制御システムでは、ガバナ機能に係る駆動制御の駆動源として減速機付きの電動モータが採用され伝達機構としてスライド部材,作動レバー等の機械的機構が構成されるため、構造が複雑で装備コストが高くなるとともに、応答性が低くガバナ機能の規制を確実にクリアすることができないことがあるという問題点がある。
【0011】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、構造が簡素で装備コストが低くなるとともに、エンジンが設定回転数を超えた場合の応答性が高くガバナ機能の規制を確実にクリアすることのできる消防車の消防ポンプ制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するため、本発明に係る消防車の消防ポンプ制御システムは、特許請求の範囲の各請求項に記載の手段を採用する。
【0013】
即ち、請求項1では、走行用のエンジンにPTOで連結されて駆動され放水用に使用される消防ポンプが消防車に固定的に装備され、エンジンの回転数が設定回転数を超えた場合にスロットルレバーを減速側に動作させる消防車の消防ポンプ制御システムにおいて、負圧によりスロットルレバーを増速側に動作させ負圧の解除によりスロットルレバーを減速側に動作させるアクチュエータと、アクチュエータに接続された負圧ポンプと、アクチュエータ,負圧ポンプの間に外気に連通するように分岐接続された相対的に通気量が大である第1の開閉バルブと、アクチュエータ,負圧ポンプの間に第1の開閉バルブと並列に外気に連通するように分岐接続された相対的に通気量が小である第2の開閉バルブと、エンジンの回転数を検出する回転数センサと、スロットルレバーを操作する操作部と、負圧ポンプ,第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブ,回転数センサ,操作部に接続されたコントローラとを備え、コントローラには、操作部がスロットルレバーの増速側への動作を操作した場合に第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブに閉鎖を指示して負圧ポンプに駆動を指示し、操作部がスロットルレバーの減速側への動作を操作した場合に第1の開閉バルブに閉鎖を指示し第2の開閉バルブに開放を指示して負圧ポンプに駆動停止を指示し、回転数センサがエンジンの設定回転数を超える回転を検出した場合に第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブに開放を指示して負圧ポンプに駆動停止を指示するように設定がなされていることを特徴とする。
【0014】
この手段では、完成された速度維持の技術であるクルーズコントロール(Cruise Control)に近似した構成が採用され、通常の消防ポンプの駆動ではスロットルレバーの動作でエンジンの回転数が制御される。そして、エンジンが設定回転数を超えた場合に、相対的に通気量が大,小である第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブの双方から急速に外気を導入してアクチュエータの負圧を解除しスロットルレバーを減速側に動作させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る消防車の消防ポンプ制御システムは、完成された速度維持の技術であるクルーズコントロールに近似した構成が採用され、通常の消防ポンプの駆動では操作部によるスロットルレバーの動作でエンジンの回転数が制御されるため、構造が簡素で装備コストが低くなる効果がある。また、エンジンが設定回転数を超えた場合に、相対的に通気量が大,小である第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブの双方から急速に外気を導入してアクチュエータの負圧を解除しスロットルレバーを減速側に動作させるため、エンジンが設定回転数を超えた場合の応答性が高くガバナ機能の規制を確実にクリアすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る消防車の消防ポンプ制御システムを実施するための形態の構成図である。
【図2】図1の制御にともなう各部の動作のフローチャートである。
【図3】図1の要部の増速状態図である。
【図4】図1の要部の減速状態図である。
【図5】図1の要部のガバナ機能の発揮状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る消防車の消防ポンプ制御システムを実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
この形態では、小型の消防車への装備に好適なものを示してある。
【0019】
この形態は、図1に示すように、走行用のエンジン1と荷台等に設置されて放水用として使用される消防ポンプ(メインポンプ,真空ポンプ)2とがPTO3で連結されているものに適用される。
【0020】
エンジン1の回転数を調整するスロットルレバー4には、ケーブル5を介してアクチュエータ6が連結されている。
【0021】
スロットルレバー4は、走行時にはアクセル等によって動作されてエンジン1の回転数を調整するもので、図示しないバネ材で減速側へ付勢されている。
【0022】
ケーブル5は、アウタチューブにインナワイアが挿通されたもので、インナワイアの一端部がスロットルレバー4の可動部分に連結され他端部がアクチュエータ6の可動部分(スライダ)に連結されている。従って、アクチュエータ6の可動部分の動作は、ケーブル5のインナワイアの押引動作となってスロットルレバー4に伝達されることになる。
【0023】
アクチュエータ6は、圧力応動タイプからなるもので、内部に区画された気密チャンバにケーブル5のインナワイアの他端部が連結されたスライダがスライド可能に収容され、気密チャンバに負圧ポンプ7が接続されるバキューム口が設けられ、気密チャンバの内部または外部にスライダを押弾圧するスプリングが設けられている。スライダは、気密チャンバの負圧化によってスプリングに抗してスライドしてケーブル5を介してスロットルレバー4を増速側に動作させ、気密チャンバの負圧の解除によってスプリングの弾圧で逆方向へスライドしてケーブル5を介してスロットルレバー4を減速側に動作させる。このアクチュエータ6については、クルーズコントロール用として市販されているものを利用することができる。
【0024】
負圧ポンプ7は、バキュームによってアクチュエータ6の気密チャンバを負圧化するもので、チューブ8を介してアクチュエータ6のバキューム口に接続されている。
【0025】
チューブ8には、外気に連通するように第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10が並列に分岐接続されている。
【0026】
第1の開閉バルブ9は、第2の開閉バルブ10よりも相対的に通気量が大となるものが選択されている。なお、第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10については、同一規模のものを選択して、第2の開閉バルブ10に絞りパーツを取付けて通気量を制約することも可能である。
【0027】
エンジン1には、回転数を検出する回転数センサ11が取付けられている。
【0028】
回転数センサ11は、光を利用するタイプ等を自由に選択することができるが、一定の回転数を超えたときのみに信号を発信するタイプを選択することもできる。
【0029】
これ等の負圧ポンプ7,第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10,回転数センサ11は、電気的にコントローラ13に接続されている。
【0030】
さらに、コントローラ13には、エンジンの回転数を操作する操作部12が電気的に接続されている。操作部12は、ダイヤル式,レバー式等の選択が可能であるが、図面では増速スイッチ12a,減速スイッチ12bの選択押ボタンスイッチからなる簡易タイプのものが示されている。
【0031】
コントローラ13は、マイクロプロセッサを内蔵して各種の信号の受信,処理と各種機器への指示とを行う機能をもったものである。このコントローラ13には、操作部12の増速スイッチ12aが押された場合に第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10に閉鎖を指示して負圧ポンプ7に駆動を指示してスロットルレバー4を増速側へ動作させ、操作部12の減速スイッチ12bが押された場合に第1の開閉バルブ9に閉鎖を指示し第2の開閉バルブ10に開放を指示し負圧ポンプ7に駆動停止を指示してスロットルレバー4を減速側へ動作させ、回転数センサ11がエンジン1の設定回転数を超える回転を検出した場合に第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10に開放を指示して負圧ポンプ7に駆動停止を指示しスロットルレバー4を減速側へ動作させるように設定がなされている。
【0032】
この形態によると、装備の際(後の補正は可能)に、コントローラ13に前述の設定の前提となるエンジン1の設定回転数を入力しておく。
【0033】
エンジン1を走行から消防ポンプ2の駆動伝達系に切換えると、各部が図3〜図5に示すように制御され動作する。
【0034】
即ち、初期的には、第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10が閉鎖され、負圧ポンプ7が駆動停止されている。
【0035】
そして、図3に示すように、操作部12の増速スイッチ12aによってエンジン1の回転数を増速して放水量を増量しようとすると、コントローラ13が第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10に閉鎖を指示して負圧ポンプ7に駆動を指示する。
【0036】
この結果、アクチュエータ6の気密チャンバが負圧化されて、アクチュエータ6のスライダがスプリングに抗してスライドすることで、スロットルレバー4が増速側へ動作される。
【0037】
また、図4に示すように、操作部12の減速スイッチ12bによってエンジン1の回転数を減速して放水量を減量しようとすると、コントローラ13が第1の開閉バルブ9に閉鎖を指示し第2の開閉バルブ10に開放を指示して負圧ポンプ7に駆動停止を指示する。
【0038】
この結果、第2の開閉バルブ10から導入された相対的に小量の外気によってアクチュエータ6の気密チャンバが負圧が解除されて、アクチュエータ6のスライダがスプリングの弾圧で逆方向へスライドすることで、スロットルレバー4が減速側への動作へ動作される。
【0039】
このため、この形態は、完成された速度維持の技術であるクルーズコントロールに近似した構成が採用され、通常の消防ポンプ2の駆動では通常の消防ポンプの駆動では操作部12によるスロットルレバー4の動作でエンジン1の回転数が制御されることになる。従って、特許文献1に係る消防車の消防ポンプ制御システムのようなスロットルレバー4にスライド部材,作動レバー等の機械的機構を介して減速機が付設された駆動源となる電動モータが連結された複雑な構造が回避されるため、構造が簡素になって装備コストが低くなる。
【0040】
また、図5に示すように、消防ポンプ2の駆動中に水利の枯渇等で負荷が低減され、回転数センサ11がエンジン1の設定回転数を超える回転を検出した場合には、回転数センサ11の検出信号を受信したコントローラ13が第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10に開放を指示して負圧ポンプ7に駆動停止を指示する。
【0041】
この結果、第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10の双方から導入された相対的に大量の外気によってアクチュエータ6の気密チャンバが負圧が解除されて、アクチュエータ6のスライダがスプリングの弾圧で逆方向へ急速にスライドすることで、スロットルレバー4が減速側へ動作される。
【0042】
このため、この形態は、エンジン1が設定回転数を超えた場合に、相対的に通気量が大,小である第1の開閉バルブ9,第2の開閉バルブ10の双方から急速に外気を導入してアクチュエータ6の負圧を解除しスロットルレバー4を減速側に動作させることになる。従って、エンジン1が設定回転数を超えた場合の応答性が高く、ガバナ機能の規制を確実にクリアすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る消防車の消防ポンプ制御システムは、小型の消防車に限られず装備することができ、特に消防車以外の目的で製造された自動車に装備することで消防自動車に簡単に改造実施することができる。
【符号の説明】
【0044】

エンジン
2 消防ポンプ
3 PTO
4 スロットルレバー
6 アクチュエータ
7 負圧ポンプ
9 第1の開閉バルブ
10 第2の開閉バルブ
11 回転数センサ
12 操作部
13
コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用のエンジンにPTOで連結されて駆動され放水用に使用される消防ポンプが消防車に固定的に装備され、エンジンの回転数が設定回転数を超えた場合にスロットルレバーを減速側に動作させる消防車の消防ポンプ制御システムにおいて、負圧によりスロットルレバーを増速側に動作させ負圧の解除によりスロットルレバーを減速側に動作させるアクチュエータと、アクチュエータに接続された負圧ポンプと、アクチュエータ,負圧ポンプの間に外気に連通するように分岐接続された相対的に通気量が大である第1の開閉バルブと、アクチュエータ,負圧ポンプの間に第1の開閉バルブと並列に外気に連通するように分岐接続された相対的に通気量が小である第2の開閉バルブと、エンジンの回転数を検出する回転数センサと、スロットルレバーを操作する操作部と、負圧ポンプ,第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブ,回転数センサ,操作部に接続されたコントローラとを備え、コントローラには、操作部がスロットルレバーの増速側への動作を操作した場合に第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブに閉鎖を指示して負圧ポンプに駆動を指示し、操作部がスロットルレバーの減速側への動作を操作した場合に第1の開閉バルブに閉鎖を指示し第2の開閉バルブに開放を指示して負圧ポンプに駆動停止を指示し、回転数センサがエンジンの設定回転数を超える回転を検出した場合に第1の開閉バルブ,第2の開閉バルブに開放を指示して負圧ポンプに駆動停止を指示するように設定がなされていることを特徴とする消防車の消防ポンプ制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−110305(P2011−110305A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270954(P2009−270954)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(508171295)株式会社ネイチャー (5)
【Fターム(参考)】