説明

消音ピアノの止音機構

【課題】 振動吸収性能を維持することにより、ハンマー5の衝突による雑音を抑制するとともに、レットオフ距離の短縮化により、通常のアコースティックなピアノにより近似した良好なタッチ感を得ることができる消音ピアノの止音機構を提供する。
【解決手段】 本発明による消音ピアノの止音機構は、消音演奏モードにおいて、ハンマーシャンク5aが当接することによって、ハンマー5による打弦を阻止するストッパレール1を備え、ストッパレール1は、左右方向に延びるレール本体1aと、レール本体1aの、ハンマーシャンク5aが当接する表面側に一体に積層されたクッション1bと、レール本体1aの裏面側に一体に積層された制振材1cと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の押鍵に伴って回動するハンマーによる前記弦の打弦を許容する通常演奏モードと、前記弦の打弦を阻止する消音演奏モードに切り替えて演奏される消音ピアノの止音機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の消音ピアノとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この消音ピアノは、アップライト型のものであり、上下方向に張られた弦と、弦を打弦する回動自在のハンマーと、弦とハンマーの間に回動自在に設けられ、ハンマーの打弦を阻止するハンマーストッパなどを備えている。
【0003】
ハンマーは、ハンマーヘッドやハンマーシャンクなどを備えており、押鍵時に回動するウィッペンやジャックなどによって駆動され、弦に向かって回動する。
【0004】
ハンマーストッパは、通常演奏モードにおいて、回動するハンマーの打弦を許容するとともに、消音演奏モードにおいて、ハンマーシャンクが当接することにより、ハンマーの打弦を阻止する。
【0005】
また、ハンマーストッパは、複数の鍵の並び方向に延び、回動に伴って通常演奏モードと消音演奏モードとを切り替える回動軸と、この回動軸のハンマー側に順に積層された、複数の弾性部材で構成されている。これらの複数の弾性部材は、弾性率が互いに異なっており、回動軸側から順に、硬クッション、軟クッションおよび極軟クッションで構成され、ハンマーに近いものほど、弾性率が小さくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6―180583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この従来の止音機構では、ハンマーストッパのハンマー側に3つの弾性部材が積層されているため、弾性部材全体の厚さが大きくなる。このためレットオフが終了した後に、ハンマーシャンクがハンマーストッパに当接するようにするには、レットオフ距離(ジャックがハンマーから離脱する際の弦とハンマーヘッドの距離)が、長くならざるを得ない。このように、レットオフ距離が長くなると、消音ピアノでない通常のアコースティックピアノと比較して、押鍵の際の違和感が生じてしまう。
【0008】
一方、このような不具合を避けるために、一部の弾性部材を省略したり、各弾性部材を薄くしたりすることで、弾性部材全体の厚さを減少させ、レットオフ距離を短くすることが考えられる。しかし、その場合には、ハンマーストッパ全体の振動吸収性能が低下するため、ハンマーが衝突した際に発生する振動を十分に吸収できない。その結果、吸収できなかった振動が、回動軸を介してピアノのフレームなどに伝搬されることにより、大きな雑音が発生するおそれがある。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、振動吸収性能を維持することにより、ハンマーの衝突による雑音を抑制するとともに、レットオフ距離の短縮化により、通常のアコースティックなピアノにより近似した良好なタッチ感を得ることができる消音ピアノの止音機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴って回動するハンマーによる弦の打弦を許容する通常演奏モードと、弦の打弦を阻止する消音演奏モードとに切り替えて演奏される消音ピアノの止音機構であって、通常演奏モードにおいて、打弦許容位置に駆動され、ハンマーのハンマーシャンクの通過を許容することによって、ハンマーによる打弦を許容するとともに、消音演奏モードにおいて、打弦阻止位置に駆動され、ハンマーシャンクが当接することによって、ハンマーによる打弦を阻止するストッパレールを備え、ストッパレールは、左右方向に延びるレール本体と、レール本体の、ハンマーシャンクが当接する表面側に一体に積層されたクッションと、レール本体の裏面側に一体に積層された制振材と、を有することを特徴とする。
【0011】
この消音ピアノの止音機構によれば、鍵の押鍵に伴ってハンマーが回動すると、消音演奏モードにおいては、打弦阻止位置に位置するストッパレールにハンマーシャンクが当接することによって、ハンマーによる打弦が阻止される。この際、ハンマーシャンクの当接によってストッパレールに発生した振動は、レール本体の表面側に積層されたクッションによって吸収され、次いで、レール本体の裏面側に積層された制振材によって吸収される。この場合、レール本体の表面側のクッションの厚さが小さくても、レール本体の裏面側に制振材を有することで、振動がさらに吸収される。その結果、ストッパレール全体としては、従来と同等の振動吸収性能が維持されるので、ハンマーシャンクの衝突による雑音を抑制することができる。
【0012】
また、クッションの厚さが減少した分、レットオフのタイミングを遅らせることが可能になり、それにより、レットオフ距離を短く設定することができる。その結果、通常のアコースティックなピアノにより近似した、良好なタッチ感を得ることができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の消音ピアノの止音機構において、ストッパレールは、レール本体との間に制振材を挟持した状態で、レール本体と一体に設けられた補強板をさらに有していることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、ストッパレールは、補強板をさらに有しており、この補強板は、制振材を挟持した状態で、レール本体と一体に設けられている。この構成により、レール本体、制振材および補強板の互いの接触面に沿う方向の相対的な動きが拘束される。この拘束作用により、ハンマーがストッパレールに衝突した際に発生する曲げ振動を、その振動エネルギーを熱エネルギーに効率的に変換することによって、効果的に減衰させることができる。この振動減衰効果により、ストッパ全体の振動がさらに抑制され、その結果、ストッパレールへのハンマーシャンクの衝突により発生する雑音をさらに抑制することができる。
【0015】
また、レール本体、制振材および補強板が一体に設けられていることにより、ストッパレール全体の剛性が向上する。それにより、ハンマーシャンクの衝突によるストッパレールの変形を抑制することができ、その結果、従来と比較して、ハンマーによる打弦をより確実に阻止することができる。
【0016】
また、前記目的を達成するために、請求項3に係る発明は、鍵の押鍵に伴って回動するハンマーによる弦の打弦を許容する通常演奏モードと、弦の打弦を阻止する消音演奏モードとに切り替えて演奏される消音ピアノの止音機構であって、通常演奏モードにおいて、打弦許容位置に駆動され、ハンマーのハンマーシャンクの通過を許容することによって、ハンマーによる打弦を許容するとともに、消音演奏モードにおいて、打弦阻止位置に駆動され、ハンマーシャンクが当接することによって、ハンマーによる打弦を阻止するストッパレールを備え、ストッパレールは、左右方向に延びるレール本体と、レール本体のハンマーのハンマーヘッド側に配置され、レール本体の表面側に一体に積層され、消音演奏モードにおいてハンマーシャンクが当接する第1クッションと、レール本体のハンマーのハンマーヘッドと反対側に配置され、レール本体の表面側に、第1クッションとハンマーシャンクの長さ方向に所定の間隔を隔てた状態で一体に積層され、消音演奏モードにおいてハンマーシャンクが当接する第2クッションと、を有することを特徴とする。
【0017】
この消音ピアノの止音機構によれば、ストッパレールのレール本体の表面側に第1および第2クッションが一体に積層されている。鍵の押鍵に伴ってハンマーが回動すると、消音演奏モードにおいては、打弦阻止位置に位置するストッパレールに、第1および第2クッションを介してハンマーシャンクが当接することによって、ハンマーによる打弦が阻止される。
【0018】
また、これらの第1および第2クッションは、ハンマーシャンクの長さ方向に互いに所定の間隔を隔てて配置されている。一般に、ストッパレールへのハンマーシャンクの衝突により発生する雑音(以下「衝突ノイズ」という)の大きさは、クッションの厚さ、硬さおよび幅に依存している。具体的には、クッションの厚さおよび硬さが同じ場合には、幅が小さいほど衝突ノイズが小さくなるという傾向がある。本発明によれば、第1および第2クッションが互いに間隔を隔てて配置されているので、単一のクッションが連続的に設けられている場合と比較して、ハンマーシャンクが当接する第1および第2クッションの実質的な幅が小さいことで、衝突ノイズを低減することができる。
【0019】
同じ理由から、単一のクッションが連続的に設けられている場合と比較して、クッション材の使用量を低減することができ、それにより、コストダウンを図ることができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の消音ピアノの止音機構において、所定の間隔は、第1クッションのハンマーシャンクの長さ方向の幅よりも大きいことを特徴とする。
【0021】
一般に、ハンマーヘッドに近いほど、ハンマーの支点から遠く、ハンマーの回動速度が大きいため、衝突ノイズが大きくなるという傾向がある。本発明によれば、第1クッションと第2クッションとの間の間隔が、ハンマーのハンマーヘッド側に配置された第1クッションの幅よりも大きく、それにより、第2クッションが第1クッションと十分な間隔を隔ててハンマーの支点に近い位置に配置されているので、ハンマーの回動速度が小さい位置において第2クッションにハンマーが当接するため、それによる衝突ノイズを低減でき、その結果、ストッパレール全体としての衝突ノイズをさらに低減することができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項3または4に記載の消音ピアノの止音機構において、第2クッションのハンマーシャンクの長さ方向の幅は、第1クッションの幅よりも大きいことを特徴とする。
【0023】
一般に、ハンマーシャンクが衝突した際のストッパレールの止音性能(以下、単に「止音性能」という)は、クッションの厚さ、硬さおよび幅に依存している。具体的には、クッションの厚さおよび硬さが同じ場合には、幅が大きいほど止音性能は高くなるという傾向がある。本発明によれば、第2クッションの幅が第1クッションよりも大きいので、止音性能を向上させることができる。また、このようにクッションの幅が大きくなると、前述したように、衝突ノイズは大きくなるという傾向があるが、第2クッションは、ハンマーの支点から近く、ハンマーの回動速度が小さい位置に配置されているので、その幅を大きくしても衝突ノイズはほとんど変わらない。以上の結果、衝突ノイズを抑制しながら止音性能を向上させることができる。
【0024】
請求項6に係る発明は、請求項3ないし5のいずれかに記載の消音ピアノの止音機構において、第1および第2クッションの少なくとも一方のハンマーシャンクの長さ方向の幅は、消音ピアノの低音域側のものが高音域側のものよりも大きいことを特徴とする。
【0025】
一般に、ピアノのハンマーの質量は、高音域側よりも低音域側の方が大きい。このため、第1および第2クッションの幅が全音域にわたって同じであれば、ハンマーの衝突によるそれらの圧縮量は、低音域側の方が大きくなる。本発明によれば、第1および第2クッションの少なくとも一方の幅は、低音域側の方が高音域側よりも大きいので、ハンマーの質量の相違に応じた適切な止音性能を消音ピアノの全音域にわたってバランス良く得ることができる。
【0026】
請求項7に係る発明は、請求項3ないし6のいずれかに記載の消音ピアノの止音機構において、ストッパレールは、レール本体の裏面側に一体に積層された制振材をさらに有することを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、前述した請求項1の作用が併せて得られる。すなわち、ハンマーシャンクの当接によってストッパレールに発生した振動は、レール本体の表面側に積層された第1および第2クッションによって吸収され、次いで、レール本体の裏面側に積層された制振材によって吸収される。この場合、レール本体の表面側の第1および第2クッションの厚さが小さくても、レール本体の裏面側に制振材を有することで、振動がさらに吸収される。その結果、ストッパレール全体としては、従来と同等の振動吸収性能が維持されるので、衝突ノイズを抑制することができる。
【0028】
また、第1および第2クッションの厚さが減少した分、レットオフのタイミングを遅らせることが可能になり、それにより、レットオフ距離を短く設定することができる。その結果、通常のアコースティックなピアノにより近似した、良好なタッチ感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のグランド型消音ピアノの鍵盤装置の離鍵状態を示す側断面図である。
【図2】図1の鍵盤装置の押鍵状態を示す側断面図である。
【図3】第1実施形態によるストッパレールの部分拡大側断面図である。
【図4】第2実施形態によるストッパレールの部分拡大側断面図である。
【図5】第3実施形態によるストッパレールの部分拡大側断面図である。
【図6】第4実施形態によるストッパレールの部分拡大側断面図である。
【図7】第4実施形態によるストッパレールの部分拡大底面図である。
【図8】第5実施形態によるストッパレールの部分拡大側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1および図2は、第1実施形態による止音機構を備えたグランド型の消音ピアノの鍵盤装置30を、それぞれ離鍵状態および押鍵状態において示している。なお、図1および図2では、理解の容易化のために、断面を表すハッチングは省略されている。これらの図に示すように、この消音ピアノは、複数の鍵4(1つのみ図示)と、鍵4ごとに設けられ、弦Sを打弦するハンマー5と、鍵4の後部の上側に設けられたアクション7と、ストッパレール1などを備えている。
【0031】
この消音ピアノは、ハンマー5による打弦を許容し、アコースティックな演奏音を発生させる通常演奏モードと、ハンマー5による打弦を阻止し、電子的な演奏音を発生させる消音演奏モードに切り替えて演奏される。以下、消音ピアノを演奏者から見た場合の手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」として説明を行うものとする。
【0032】
鍵4は、その中央に形成されたバランス孔(図示せず)を介して、バランスピン(図示せず)に回動自在に支持されている。弦Sは、フレーム(図示せず)に張られており、前後方向に水平に延びている。
【0033】
ハンマー5は、前後方向に延びるハンマーシャンク5aと、ハンマーシャンク5aの後端部に取り付けられたハンマーヘッド5bと、ハンマーシャンク5aの前部の下面に取り付けられたシャンクローラ5cなどを備えている。また、ハンマー5は、ハンマーシャンク5aの前端部において、ハンマーシャンクフレンジ6に、センターピン11を中心として回動自在に支持されている。また、ハンマーヘッド5bのサイズは、低音域側のものほど大きくなっており、それによりハンマー5の質量は、高音域側から低音域側に向かって徐々に大きくなっている。
【0034】
ハンマーシャンクフレンジ6は、左右方向に延びるシャンクレール17の上面に固定されている。また、シャンクレール17は、筬(図示せず)の上に左右方向に並んだ状態で設けられた複数のブラケット18(1つのみ図示)に取り付けられている。シャンクレール17の下面には、レギュレーティングレール19が一体に設けられている。このレギュレーティングレール19には、レギュレーティングボタン19aが下方に突出するように設けられている。
【0035】
アクション7は、ウィッペン21と、ウィッペン21に取り付けられたレペティションレバー8およびジャック10などを備えている。ウィッペン21は、その後端部において、ウィッペンレール24に固定されたウィッペンフレンジ22に回動自在に支持されており、鍵4の後部にキャプスタンスクリュー23を介して載置されている。
【0036】
レペティションレバー8は、前後方向に延びており、その中央部でウィッペン21に回動自在に取り付けられている。レペティションレバー8は、レペティションスプリング16によって、図1の反時計方向に付勢されている。レペティションレバー8の前部には、上下方向に貫通するジャック案内孔9が形成されている。シャンクローラ5cは、ジャック案内孔9を塞いだ状態で、レペティションレバー8に載置されている。
【0037】
ジャック10は、L字状に形成されており、上下方向に延びる突き上げ部10aと、その下端部の角部から前方に延びる当接部10bで構成されている。ジャック10は、その角部を介して、ウィッペン21に回動自在に取り付けられている。ジャック10の突き上げ部10aの上端部は、レペティションレバー8のジャック案内孔9に挿入され、シャンクローラ5cとわずかな間隔を隔てた状態で対向している。また、ジャック10の当接部10bは、レギュレーティングボタン19aと所定の間隔を隔てて、下方から対向している。
【0038】
ストッパレール1は、弦Sとハンマーシャンク5aの間に配置され、左右方向に延びるとともに、ブラケット18に回動自在に支持されている。図3に示すように、ストッパレール1は、レール本体1aと、レール本体1aのハンマー5側(表面側)に積層されたクッション1bと、レール本体1aの弦S側(裏面側)に積層された制振材1cで構成されている。
【0039】
また、ストッパレール1は、これと一体で、前方に延びるアーム3を有し、このアーム3を介して回動軸2に回動自在に支持されている。また、ストッパレール1は、演奏モードを切り替えるために棚板(図示せず)の下面に設けられた操作レバー(図示せず)に、ワイヤ(図示せず)などを介して連結されている。ストッパレール1は、操作レバーが操作されるのに応じて、回動軸2を中心として回動し、ハンマーシャンク5aの回動範囲から退避し、ハンマー5による打弦を許容する打弦許容位置(図1および図2の破線位置)と、ハンマーシャンク5aの回動範囲に進入し、ハンマー5による打弦を阻止する打弦阻止位置(実線位置)とに移動する。
【0040】
レール本体1aは、鉄板などの金属材で構成され、左右方向に延びるとともに、前端部が上方に直角に折り曲げられており、L字状の断面を有している。
【0041】
クッション1bは、発泡ウレタンなどの弾性材で構成され、レール本体1aに沿い、その全体にわたって左右方向に延びている。また、クッション1bは、接着剤などによりレール本体1aに取り付けられている。
【0042】
制振材1cは、低反発ウレタンや、ゴムなどのクッション性を有する材料で構成され、レール本体1aに沿い、その全体にわたって左右方向に延びている。また、制振材1cは、接着剤などによりレール本体1aに取り付けられている。なお、制振材1cは、制振性能を有するものであればよく、上記以外に、例えば、シリカと石英を混入したビニルや、アルミブチル樹脂、アスファルト、粘土などを採用してもよい。
【0043】
次に、上述した構成の消音ピアノの動作を説明する。通常演奏モードで演奏を行う場合には、操作レバーを操作することにより、ストッパレール1を打弦許容位置に位置させる。
【0044】
鍵4が押鍵されると、ウィッペン21が上方に回動するとともに、これに取り付けられたレペティションレバー8やジャック10が、ウィッペン21と一緒に上方に移動する。この移動に伴い、ジャック10の突き上げ部10aが、シャンクローラ5cを介してハンマー5を突き上げ、図1の反時計方向に回動させる。その後、ジャック10の当接部10bが、レギュレーティングボタン19aに当接し、ジャック10の上方への移動が規制されることによって、ジャック10が、ウィッペン21に対して時計方向に回動し、シャンクローラ5cから離脱する(レットオフ)。このレットオフの後、ハンマー5は慣性で回動する。また、ストッパレール1が打弦許容位置に位置しているため、ハンマーシャンク5aの通過が許容されることにより、ハンマー5の回動が許容され、ハンマーヘッド5bが弦Sを打弦することによって、アコースティックな通常演奏が行われる。
【0045】
一方、消音演奏モードで演奏を行う場合には、操作レバーを操作することによって、ストッパレール1を打弦阻止位置に位置させる。
【0046】
この状態で、鍵4が押鍵されると、通常演奏モードと同様に、アクション7が動作し、ジャック10がハンマー5を突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中でレットオフが行われる。このレットオフの後、ハンマーシャンク5aが、打弦阻止位置に位置するストッパレール1に当接することによって、ハンマー5の回動が阻止される。その結果、ハンマーヘッド5bによる弦Sの打弦が阻止され、消音演奏が行われる。
【0047】
このときの、ハンマーシャンク5aの当接によりストッパレール1に発生した振動は、クッション1bによって吸収され、次いで、制振材1cによって吸収される。この場合、レール本体1aの表面側のクッション1bの厚さが小さくても、レール本体1aの裏面側に制振材1cを有することで、振動がさらに吸収される。その結果、従来と同等のストッパレール1の振動吸収性能が維持されることにより、ハンマーシャンク5aの衝突による雑音を抑制することができる。
【0048】
また、クッション1bの厚さが減少した分、レットオフのタイミングを遅らせ、レットオフ距離を短く設定することができ、通常のアコースティックなピアノにより近似した、良好なタッチ感を得ることができる。
【0049】
また、前述したように、クッション1bおよび制振材1cはいずれも、レール本体1aにわたって左右方向に連続的に延びている。そのため、ハンマー5の衝突による荷重を、ストッパレール1全体で支持することにより、振動吸収性能をさらに向上させることができる。また、クッション1bおよび制振材1cをハンマー5ごとに設ける場合と比較して、部品点数および組立工程が大幅に減少するので、止音機構ひいては消音ピアノの製造コストを削減することができる。なお、クッション1bおよび制振材1cは、レール本体1aの長さ方向に沿い、所定の間隔ごとに分割して設けてもよい。
【0050】
次に、図4を参照しながら、第2実施形態を説明する。この第2実施形態によるストッパレール31は、第1実施形態のストッパレール1の制振材1cの裏面側に、補強板1dをさらに付加したものである。この補強板1dは、鋼板などの金属材で構成され、制振材1cに沿い、その全体にわたって左右方向に延びている。また、補強板1dは、制振材1cを挟持した状態で、レール本体1aと一体にねじ止めされている。
【0051】
具体的には、補強板1dの所定の位置には、複数のねじ挿入孔1e(2つのみ図示)が形成されており、それに対応するレール本体1aの所定の位置には、ねじ孔1fが形成されている。そして、補強板1dとレール本体1aの間に制振材1cを挟んだ状態で、ねじ32(2つのみ図示)をねじ挿入孔1eに挿入した後、ねじ孔1fにねじ込み、締め付けることによって、補強板1dは、制振材1cを挟持した状態で、レール本体1aと一体に固定される。
【0052】
以上の構成によれば、制振材1cの裏面側に補強板1dが配置され、制振材1cを挟持した状態で、レール本体1aと一体に設けられていることによって、レール本体1a、制振材1cおよび補強板1dの互いの接触面に沿う方向の相対的な動きが拘束される。この拘束作用により、ハンマー5がストッパレール31に衝突した際に発生する曲げ振動を、その振動エネルギーを熱エネルギーに効率的に変換することによって、効果的に減衰させることができる。この振動減衰効果により、ストッパレール31全体の振動がさらに抑制され、その結果、ストッパレール31へのハンマーシャンク5aの衝突により発生する雑音をさらに抑制することができる。
【0053】
また、レール本体1a、制振材1cおよび補強板1dは、ねじ止めによって互いに一体に構成されているので、ストッパレール1全体の剛性が向上し、それにより、ハンマーシャンク5aの衝突によるストッパレール1の変形を抑制することができ、その結果、ハンマー5による打弦をより確実に阻止することができる。なお、レール本体1a、制振材1cおよび補強板1dは、上述したねじに代えて、リベットや接着などにより、互いに一体に構成してもよい。
【0054】
次に、図5を参照しながら、第3実施形態を説明する。この第3実施形態によるストッパレール41は、第2実施形態のストッパレール31のレール本体1a、制振材1cおよび補強板1dに代えて、制振鋼板42を用いたものである。この制振鋼板42は、ゴムなどから成る制振材42aと、制振材42aの表面および裏面にそれぞれ積層された第1鋼板42bおよび第2鋼板42cで構成されている。第1鋼板42bと第2鋼板42cは、材質および厚さが互いに同じであり、制振鋼板42は、両鋼板42b、42cの間に、制振材42aを挟持した状態で圧着することにより、全体として、あらかじめ一体に構成されている。また、制振鋼板42は、前端部が直角に折り曲げられており、L字状の断面を有している。なお、このような構成の制振鋼板42として、市販のものを用いることも可能である。
【0055】
以上の構成によれば、制振鋼板42の第1鋼板42bおよび第2鋼板42cが、制振材42aを挟持した状態で、一体に設けられていることによって、互いの接触面に沿う方向の相対的な動きが拘束される。したがって、第2実施形態と同様、この拘束作用により、ハンマー5がストッパレール41に衝突した際に発生する曲げ振動を、効果的に減衰させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、制振鋼板42が、あらかじめ圧着により一体化されているので、レール本体1aなどがねじ止めで一体化される第2実施形態と比較して、第1鋼板42b、制振材42aおよび第2鋼板42cの互いの接触面全体にわたって、上述した拘束作用が均一に働き、それにより、より高い安定した振動減衰効果を得ることができる。
【0057】
その結果、制振鋼板42全体の厚さを小さくしても、ストッパレール31と同等の効果を得ることができ、ストッパレール41全体の薄肉化および軽量化を図ることができる。
【0058】
次に、図6および図7を参照しながら、第4実施形態を説明する。図6に示すように、本実施形態によるストッパレール51は、レール本体1a、制振材1c、第1クッション52および第2クッション53で構成されている。制振材1cは、第1実施形態と同様に構成され、接着剤などによりレール本体1aの裏面に取り付けられている。
【0059】
第1および第2クッション52,53は、第1〜第3実施形態のクッション1bと同様、発泡ウレタンなどの弾性材で構成され、レール本体1aに沿い、その左右方向の全体にわたって延び、レール本体1aの表面に接着剤などで取り付けられている。また、第1および第2クッション52,53は、レール本体1aの後側および前側にそれぞれ配置されている。レール本体1aの前後方向の幅W0は、例えば40mmである。また、図7に示すように、第1クッション52の前後方向の幅W1は、消音ピアノの音域全体にわたって一定であり、例えば4mmである。また、第2クッション53の前後方向の幅W2は、消音ピアノの高音域側(同図の右側)から低音域側(左側)に向かって徐々に大きくなっており、例えば6〜8mmである。また、第1クッション52と第2クッション53との間の間隔Dは、第1クッション52の幅W1よりも大きく、例えば25〜27mmである。
【0060】
以上の構成のストッパレール51によれば、鍵4の押鍵に伴ってハンマー5が回動すると、消音演奏モードにおいては、打弦阻止位置に位置するストッパレール51に、第1および第2クッション52,53を介してハンマーシャンク5aが当接することによって、ハンマー5による打弦が阻止される。
【0061】
また、第1および第2クッション52,53が互いに間隔を隔てて配置されているので、単一のクッションが連続的に設けられている場合と比較して、ハンマーシャンク5aが当接する第1および第2クッション52,53の実質的な幅が小さいことで、衝突ノイズを低減することができる。同じ理由から、単一のクッションが連続的に設けられている場合と比較して、クッション材の使用量を低減することができ、それにより、コストダウンを図ることができる。
【0062】
また、第1クッション52と第2クッション53との間の間隔Dが、第1クッション52の幅W1よりも大きく、それにより、第2クッション53が第1クッション52と十分な間隔を隔ててハンマー5の支点に近い位置に配置されているので、ハンマー5の回動速度が小さい位置において第2クッション53にハンマー5が当接するため、それによる衝突ノイズを低減できる。その結果、ストッパレール51全体としての衝突ノイズをさらに低減することができる。
【0063】
また、第2クッション53の幅W2が第1クッション52の幅W1よりも大きいので、止音性能を向上させることができる。この場合、第2クッション53は、ハンマー5の支点から近く、ハンマー5の回動速度が小さい位置に配置されているので、上記のように第2クッション53の幅W2を大きくしても、衝突ノイズの大きさはほとんど変わらない。以上の結果、衝突ノイズを抑制しながら、止音性能を向上させることができる。
【0064】
また、第2クッション53の幅W2は、高音域側から低音域側に向かって徐々に大きくなっている。このため、高音域側よりも低音域側の方が大きいというハンマー5の質量の分布に応じ、適切な止音性能を消音ピアノの全音域にわたってバランス良く得ることができる。
【0065】
さらに、レール本体1aの裏面に制振材1cが取り付けられていることで、前述した第1実施形態による効果が併せて得られる。すなわち、制振材1cによって、従来と同等のストッパレール51の振動吸収性能が維持されることにより、衝突ノイズを抑制でき、また、通常のアコースティックなピアノにより近似した、良好なタッチ感を得ることができるとともに、止音機構ひいては消音ピアノの製造コストを削減することができる。
【0066】
なお、第1クッション52、第2クッション53および制振材1cは、レール本体1aの長さ方向に沿い、所定の間隔ごとに分割して設けてもよい。また、前述した第2実施形態と同様に、ストッパレール51の制振材1cの裏面に補強板1dをさらに付加してもよい。
【0067】
また、本実施形態では、第1クッション52の幅W1は全音域にわたって一定であるのに対し、第2クッション53の幅W2は高音域側から低音域側に向かって徐々に大きくなっているが、この関係を逆にし、すなわち、第1クッション52の幅W1を低音域側に向かって徐々に大きくし、第2クッション53の幅W2を一定にしてもよく、あるいは、第1および第2クッション52,53の幅W1,W2の両方を、音域に応じて同様に変化させてもよい。また、第2クッション53の幅W2は、連続的に変化するように設定されているが、区分された所定の複数の音域ごとに階段状に変化するように設定してもよい。
【0068】
図8は、第5実施形態を示している。この第5実施形態によるストッパレール61は、第4実施形態のストッパレール51から制振材1cを省略したものである。したがって、前述した制振材1cによる効果は得られないが、第1および第2クッション52,53による前述した効果を同様に得ることができる。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態は、グランド型の消音ピアノの例であるが、本発明は、他のタイプの消音ピアノ、例えばアップライト型の消音ピアノなどに適用してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 ストッパレール
1a レール本体
1b クッション
1c 制振材
1d 補強板
4 鍵
5 ハンマー
5a ハンマーシャンク
5b ハンマーヘッド
31 ストッパレール
41 ストッパレール
42a 制振材
42b 第1鋼板(レール本体)
42c 第2鋼板(補強板)
51 ストッパレール
52 第1クッション
53 第2クッション
61 ストッパレール
S 弦
W1 第1クッション52の幅(第1クッションのハンマーシャンクの長さ方向の 幅)
W2 第2クッション53の幅(第2クッションのハンマーシャンクの長さ方向の 幅)
D 第1クッション52と第2クッション53との間の間隔(所定の間隔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴って回動するハンマーによる弦の打弦を許容する通常演奏モードと、前記弦の打弦を阻止する消音演奏モードとに切り替えて演奏される消音ピアノの止音機構であって、
前記通常演奏モードにおいて、打弦許容位置に駆動され、前記ハンマーのハンマーシャンクの通過を許容することによって、前記ハンマーによる打弦を許容するとともに、前記消音演奏モードにおいて、打弦阻止位置に駆動され、前記ハンマーシャンクが当接することによって、前記ハンマーによる打弦を阻止するストッパレールを備え、
当該ストッパレールは、
左右方向に延びるレール本体と、
当該レール本体の、前記ハンマーシャンクが当接する表面側に一体に積層されたクッションと、
前記レール本体の裏面側に一体に積層された制振材と、
を有することを特徴とする消音ピアノの止音機構。
【請求項2】
前記ストッパレールは、前記レール本体との間に前記制振材を挟持した状態で、前記レール本体と一体に設けられた補強板をさらに有していることを特徴とする請求項1に記載の消音ピアノの止音機構。
【請求項3】
鍵の押鍵に伴って回動するハンマーによる弦の打弦を許容する通常演奏モードと、前記弦の打弦を阻止する消音演奏モードとに切り替えて演奏される消音ピアノの止音機構であって、
前記通常演奏モードにおいて、打弦許容位置に駆動され、前記ハンマーのハンマーシャンクの通過を許容することによって、前記ハンマーによる打弦を許容するとともに、前記消音演奏モードにおいて、打弦阻止位置に駆動され、前記ハンマーシャンクが当接することによって、前記ハンマーによる打弦を阻止するストッパレールを備え、
当該ストッパレールは、
左右方向に延びるレール本体と、
当該レール本体の前記ハンマーのハンマーヘッド側に配置され、前記レール本体の表面側に一体に積層され、前記消音演奏モードにおいて前記ハンマーシャンクが当接する第1クッションと、
前記レール本体の前記ハンマーの前記ハンマーヘッドと反対側に配置され、前記レール本体の前記表面側に、前記第1クッションと前記ハンマーシャンクの長さ方向に所定の間隔を隔てた状態で一体に積層され、前記消音演奏モードにおいて前記ハンマーシャンクが当接する第2クッションと、
を有することを特徴とする消音ピアノの止音機構。
【請求項4】
前記所定の間隔は、前記第1クッションの前記ハンマーシャンクの長さ方向の幅よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の消音ピアノの止音機構。
【請求項5】
前記第2クッションの前記ハンマーシャンクの長さ方向の幅は、前記第1クッションの前記幅よりも大きいことを特徴とする請求項3または4に記載の消音ピアノの止音機構。
【請求項6】
前記第1および前記第2クッションの少なくとも一方の前記ハンマーシャンクの長さ方向の幅は、前記消音ピアノの低音域側のものが高音域側のものよりも大きいことを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の消音ピアノの止音機構。
【請求項7】
前記ストッパレールは、前記レール本体の裏面側に一体に積層された制振材をさらに有することを特徴とする請求項3ないし6のいずれかに記載の消音ピアノの止音機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−134401(P2010−134401A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86713(P2009−86713)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)