液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法、液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法
【課題】性能の再現性が良好なカラム充填剤の製造方法を提供する。また、該カラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法を提供する。
【解決手段】親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法であって、水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1と、前記架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に前記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、前記分散液を1時間以上撹拌する工程2と、反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3と、反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4と、反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5と、反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、前記架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法。
【解決手段】親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法であって、水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1と、前記架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に前記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、前記分散液を1時間以上撹拌する工程2と、反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3と、反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4と、反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5と、反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、前記架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法に関する。また、本発明は、該液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性のカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーは、親水性物質の測定に極めて有益な測定方法であり、現在汎用されている分析手法の一つである。親水性のカラム充填剤を用いた測定モードとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、親水性ゲル浸透クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0003】
親水性の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤(以下、単にカラム充填剤ともいう)は、無機系高分子粒子、又は、有機系高分子粒子に、親水性基を導入することにより得ることができる。無機系高分子粒子の素材としては、シリカ、セラミックス、ガラス等が挙げられ、有機系高分子粒子の素材としては、ポリスチレン系高分子やアクリル系高分子等の有機合成高分子系素材、ポリアミノ酸や多糖類等の天然高分子系素材等が挙げられる。
【0004】
無機系カラム充填剤として汎用されているシリカ系充填剤は、中性以上のpH条件下におけるシリカ自体の溶出や、残存するシラノール基による非特異吸着等の欠点が報告されている。また、有機高分子系の中でも天然高分子系充填剤は、親水性が大きく非特異吸着が少ない反面、機械的強度に乏しいため高流速での測定が行えず、測定時間が大幅に延長されるという問題がある。一方、有機合成高分子系カラム充填剤は、上記無機系カラム充填剤や上記天然高分子系カラム充填剤が有する欠点が少なく、簡便な方法により製造できる利点がある。
【0005】
有機合成高分子系カラム充填剤として、例えば、特許文献1には、親水性基であるカルボキシル基を含有する単量体5〜90重量%、架橋性単量体10〜95重量%、非架橋性単量体0〜85重量%を混合し、共重合して得られるイオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤が開示されている。また、特許文献2には、疎水性架橋重合体粒子の表面に、親水性基を有する親水性単量体を重合させたカラム充填剤が開示されている。更に、特許文献3には、2段階重合法による、分離性能に優れたカラム充填剤の製造方法が開示されている。
【0006】
しかし、これらの有機合成高分子系カラム充填剤は、液体クロマトグラフィーに適用した場合の性能にロット間等のバラツキが認められる。再現性の良いカラム充填剤を得るためには、有機合成高分子を得るための重合反応の諸条件を、厳密に制御する必要があった。しかしながら、その制御は困難であり、収率の低下を招く場合が多い。一般に、カラム充填剤、及び、充填カラムは高価であるため、収率の低下はコスト抑制の大きな弊害となっていた。
【0007】
液体クロマトグラフィーの臨床検査分野への代表的な実用例として、例えば、糖尿病診断を目的としたヘモグロビンA1cの測定が挙げられる。液体クロマトグラフィーを用いたヘモグロビンA1cの測定方法は、他の測定方法に比較して精度が良く、短時間で測定できるため、特に糖尿病患者のヘモグロビンA1c値の管理に用いられている。この用途では、測定値のCV値が1%以下程度となる高い精度が要求される。
【0008】
高精度に測定するためには、ヘモグロビンA1cと他のヘモグロビン類との良好な分離が必要である。高い分離性能を得るための一般的な手段は、カラム充填剤粒子の粒径を小さくし、より均一にすることである。例えば、特許文献4には、平均粒径値が3〜4μmの微小な充填剤を用いてヘモグロビン類を測定する方法が開示されている。しかし、その結果、測定系にかかる圧力は5MPa以上と大きくなる。
【0009】
そのため、使用する液体クロマトグラフは高い耐圧性能が必要になり、高価で複雑な機構となる。また、測定系に常時高圧がかかる場合、長期間使用した場合の配管系の詰まりや劣化、カラム寿命の短縮等の弊害をもたらす。ヘモグロビンA1cの測定のような多数の検体を測定する項目においては、カラム寿命はコストに直接影響を及ぼすため、短期間で測定精度が低下するカラムは実用上使用できない。
【0010】
従って、測定系に生じる圧力値は低いほど有利であると考えられるが、従来のカラム充填剤を用いて高精度な測定を行う場合は、特許文献4に示された程度か、又は、それ以上の圧力値が生じる。一方、圧力値を低くするためにカラム充填剤の粒径を大幅に増大させると、測定精度の低下、及び、カラム寿命の短縮という問題が生じる。更に、圧力値が低すぎる場合、送液が不安定になり、測定時間が延長する等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭57−178157号公報
【特許文献2】特開平03−073848号公報
【特許文献3】特開2000−88826号公報
【特許文献4】特開平05−005730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、性能の再現性が良好なカラム充填剤の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該カラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法であって、水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1と、上記架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に上記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、上記分散液を1時間以上撹拌する工程2と、反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3と、反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4と、反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5と、反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、上記架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明者らは、従来のカラム充填剤の性能の再現性が不良となる要因は、粒度分布の再現性が低いこと、及び、分離性能に大きな影響を及ぼす親水基の導入量の再現性が低いことであると考えた。そこで本発明者らは、重合反応の精密制御ではなく、従来省みられなかった、重合反応を行う前の工程において攪拌条件を規定することにより、カラム充填剤の性能の再現性が向上することを見出した。また、攪拌条件の規定により、低い圧力においても高い分離性能を維持できること見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明のカラム充填剤の製造方法は、水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1を有する。
架橋性単量体は、1分子中にビニル基を2個以上有する単量体であることが好ましい。また、架橋性単量体は、イオン交換基を有さない、又は、イオン交換基を有していても微量である架橋性単量体が好ましい。更に架橋性単量体は、アクリル系の架橋性単量体であることがより好ましい。
なお、本明細書において上記「アクリル系」とは、アクリル基又はメタクリル基を有することを意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリルレート又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味する。
【0016】
架橋性単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)−ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール−ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ウレタン(メタ)ジアクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−5−メチル−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,11−ジ(メタ)アクリロキシ−4,8−ジオキサウンデガン−2,6,10−トリオール等が挙げられる。
分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの架橋性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
水性分散媒には、架橋性単量体以外に、必要に応じて非架橋性単量体を添加してもよい。
【0018】
非架橋性単量体は、アクリル系単量体が好ましく、具体的には例えば、(メタ)アクリル酸アルキル類、水酸基を有する非架橋性アクリル系単量体等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
水酸基を有する非架橋性アクリル系単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、その他の水酸基を有する(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その他の水酸基を有する(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの非架橋性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
非架橋性単量体を用いる場合、非架橋性単量体の添加量は、架橋性単量体100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。非架橋性単量体の添加量が100重量部を超えると、得られる架橋重合体粒子の架橋度が低下してカラム充填剤が耐圧性に劣るものとなり、膨潤や収縮が起きて分離精度が低下しやすくなる。
【0020】
工程1では、架橋性単量体、又は、架橋性単量体と非架橋性単量体との混合物(以下、両者を合わせて「単量体混合物」ともいう)を水性分散媒に添加する。なお、単量体混合物には、水性分散媒に添加する前に、後述する工程3で用いる重合開始剤を溶解しておくことが好ましい。
【0021】
水性分散媒としては、水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合物等が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、アセトニトリル等が挙げられる。
水溶性有機溶媒を水との混合物として用いる場合、水溶性有機溶媒の濃度の好ましい上限は20重量%である。
【0022】
水性分散媒の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましい下限は200重量部、好ましい上限は1万重量部である。
【0023】
分散液は、必要に応じて、界面活性効果を有する物質(以下、分散剤ともいう)を含有してもよい。
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デンプン、ヒドロキシセルロース、ポリビニルエーテル等の水溶性高分子化合物や、リン酸カルシウム等の無機塩類や、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤や、ポリオキシエチレンノニルフェニールエーテル、ポリエチレングリコールモノステアリレート、ソルビタンモノステアリレート等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
分散液中の分散剤の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は20重量%である。分散剤の含有量が0.01重量%未満であると、添加した単量体が分散しにくくなり、凝集物が発生しやすくなる。分散剤の含有量が20重量%を超えると、得られる親水性架橋重合体粒子の粒径が小さくなり、重合中に凝集物が発生しやすくなる。分散剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0025】
分散液は、その他に公知の各種添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、例えば、pH調節剤、消泡剤、得られる親水性架橋重合体粒子にマクロポアを形成させるための多孔質化剤、重合反応を制御するための各種連鎖移動剤、単量体混合物の溶解度を調節するための有機化合物又は無機化合物等が挙げられる。
【0026】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に上記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、上記分散液(以下、「反応系」ともいう)を1時間以上撹拌する工程2を有する。
【0027】
工程2における反応系の温度は、架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に架橋性単量体の重合反応が進行しない温度である。
「架橋性単量体の融点以上」とは、複数の架橋性単量体を使用する場合は、全ての架橋性単量体の融点以上であることを意味し、上記非架橋性単量体を併用する場合は、全ての架橋性単量体と全ての非架橋性単量体の融点以上であることを意味する。
上記「実質的に上記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度」とは、その温度で少なくとも1時間撹拌を行った場合に生じる重合物が、単量体混合物全量の10重量%以下となる温度を意味する。具体的には、単量体混合物として上記例示したものを用い、重合開始剤として下記例示するものを用いる場合、工程2における反応系の温度は、5〜40℃であることが好ましい。工程2における反応系の温度が5℃未満であると、単量体混合物の一部が凍結して均一に撹拌することが困難となることがある。工程2における反応系の温度が40℃を超えると、撹拌中に単量体混合物の一部が重合し、得られるカラム充填剤の性能の再現性が低下することがある。工程2における反応系の温度のより好ましい下限は10℃、より好ましい上限は30℃である。
【0028】
工程2における撹拌時間の下限は1時間である。工程2における撹拌時間が1時間未満であると、分散液の単量体混合物が安定せず、得られる親水性架橋重合体粒子の粒径の再現性が悪くなる。工程2における撹拌時間の好ましい下限は3時間、より好ましい下限は5時間である。
工程2における撹拌時間は、長時間行っても操作時間が延長するのみで再現性や分離性能を向上する効果は得られない。また、反応系が上述した「実質的に重合反応が進行しない温度」であっても、重合が進行してしまう可能性があるため、実質的には、工程2における撹拌時間の好ましい上限は48時間である。
【0029】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3を有する。
【0030】
第1の重合反応としては、公知の重合方法を用いることができる。なかでも、重合開始剤を添加した後に、反応系を一定の温度に保持する方法が好ましく、重合開始剤を溶解した単量体混合物を水性分散媒中に添加した後に反応系を一定の温度に保持する方法がより好ましい。
【0031】
工程3で用いる重合開始剤は、水溶性又は油溶性の公知のラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物や、これらの誘導体類等が挙げられる。
【0032】
工程3で用いる重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は5重量部である。重合開始剤の使用量が0.05重量部未満であると、第1の重合反応が充分に進行せず、未反応の単量体が反応系に残存する可能性がある。また、重合反応を完了させるために長時間を要し、作業効率が低下する。上記重合開始剤の使用量が5重量部を超えると、急激な反応の進行により、凝集物が発生しやすくなる。
【0033】
第1の重合反応において保持する温度の好ましい下限は40℃、好ましい上限は100℃である。第1の重合反応において保持する温度が40℃未満であると、温度を制御することが困難であり、反応に長時間を要する場合がある。第1の重合反応において保持する温度が100℃を超えると、凝集物が発生しやすくなる。
また、第1の重合反応における反応時間の好ましい下限は0.3時間、好ましい上限は12時間である。第1の重合反応における反応時間が0.3時間未満であると、単量体混合物の重合が不充分となり、得られるカラム充填剤の性能の再現性が低下することがある。第1の重合反応における反応時間が12時間を超えると、凝集物が発生しやすくなる。上記第1の重合反応における反応時間のより好ましい下限は1時間、より好ましい上限は6時間である。
【0034】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4を有する。上記工程4により、上記第1の重合反応は、実質上進行しない状態に保持される。
工程4における冷却温度が5℃未満であると、5℃未満に冷却する作業、及び、設備が煩雑となり作業時間が延長する。また、反応系に残存する単量体が析出することがある。工程4における冷却温度が40℃を超えると、重合が進行する場合があるため、得られるカラム充填剤の性能の再現性が悪くなることがある。
第1の重合反応時において保持した温度から、工程4で冷却する温度までの反応系の降温に要する時間の好ましい上限は60分、より好ましい上限は30分である。
【0035】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5を有する。
【0036】
親水性単量体は、重合性基、及び、親水性官能基を有する単量体であることが好ましい。上記親水性官能基は、重合後に得られる架橋重合体粒子に親水性を付与し、かつ、液体クロマトグラフィーによる測定の際に、試料中の各成分との相互作用により分離を行う役割を担う。従って、親水性単量体は、カラム充填剤として適用する測定モードによって、適宜選択できる。
【0037】
例えば、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤(以下、本発明によるカラム充填剤ともいう)を、イオン交換クロマトグラフィーに用いる場合に使用する親水性単量体は、1分子中に1個以上のイオン交換基を有する親水性単量体(以下、イオン交換性単量体ともいう)であることが好ましい。
イオン交換基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のカチオン交換基、3級アミノ基、4級アンモニウム基等のアニオン交換基等が挙げられる。
なお、本明細書において、イオン交換基には、イオン交換基に付随する構造は問わないため、イオン交換基を末端に有する全ての官能基を含む。例えば、「カルボキシル基」とは、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基等、カルボキシル基が結合する官能基類全てを含む(以下、官能基を記載する場合は同様の構造を意味する)。
【0038】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類や、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、マレイン酸、フマル酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0039】
スルホン酸基を有する有単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類や、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、(3−スルホプロピル)−イタコン酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0040】
リン酸基を有する単量体としては、例えば、((メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0041】
3級アミノ基を有する単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0042】
4級アンモニウム基を有する単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0043】
本発明によるカラム充填剤を、イオン交換クロマトグラフィーに用いるための他の方法としては、イオン交換性単量体を用いる代わりに、イオン交換基を有する化合物(以下、イオン交換性化合物ともいう)と反応可能な官能基(以下、反応性基ともいう)を有する親水性単量体(以下、反応性単量体ともいう)を上記架橋重合体粒子の表面に重合し、その後に、該反応性基にイオン交換性化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0044】
反応性基は、非イオン性の親水性基であることが好ましい。
非イオン性の親水性基としては、例えば、水酸基、グリコール基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、シアノ基、アルデヒド基等が挙げられ、なかでも、水酸基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基が好ましく、水酸基、エポキシ基、グリシジル基がより好ましい。
【0045】
反応性単量体は、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、エポキシ化又はヒドロキシル化(メタ)アクリレート類、アミノ化(メタ)アクリレート類、アルデヒド化又はシアノ化(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類は、例えば、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
エポキシ化又はヒドロキシル化(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノ化(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
アルデヒド化又はシアノ化(メタ)アクリレート類としては、例えば、(メタ)アクロレイン、シアノ(メタ)アクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、(メタ)アクリロニトリル、等が挙げられる。
これらの反応性単量体は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
反応性基にイオン交換性化合物を反応させる方法は、公知の化学反応を用いることができる。架橋重合体粒子の分解等の反応を伴わない条件であれば、これらの公知の化学反応を限定なく用いることができる。
【0047】
反応性基が水酸基の場合、例えば、ブロムエタンスルホン酸ナトリウム等のハロゲン化エタンスルホン酸類やクロロ酢酸ナトリウム等のハロゲン化酢酸類をイオン交換性化合物として用いる。これらのイオン交換性化合物と、表面に水酸基を有する架橋重合体粒子とを水酸化アルカリ水溶液中で反応させることにより、イオン交換基を導入できる。
また、イオン交換基を有するアルデヒド化合物を、酸触媒下にてアセタール化反応により、表面に水酸基を有する架橋重合体粒子と反応させることにより、イオン交換基を導入できる。
更に、例えば、トリカルバニル酸、ブタンテトラカルボン酸等の多官能カルボン化合物と水酸基との脱水反応によるエステル化により、上記架橋重合体粒子の表面にカルボキシル基を導入できる。
加えて、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン等を、水酸化アルカリの水溶液中又は有機溶媒溶液中で、表面に水酸基を有する架橋重合体粒子と反応させることによっても架橋重合体粒子の表面にスルホン酸基を導入できる。
【0048】
反応性基がエポキシ基又はグリシジル基の場合、表面にエポキシ基又はグリシジル基を有する架橋重合体粒子と硫酸ナトリウムやタウリン、グリコール酸等のイオン交換性化合物とを反応させる方法、表面にエポキシ基又はグリシジル基を有する架橋重合体粒子と三フッ化ホウ素エーテラートとを結合した後、亜硫酸ナトリウム水溶液中で加熱処理する方法等によりイオン交換基を導入できる。
【0049】
反応性基がアミノ基の場合、エピクロルヒドリンやトリグリシジルエーテルのようなエポキシ化合物を水酸化アルカリの水溶液中又は有機溶媒溶液中で反応させてエポキシ化した後、上記のエポキシ基又はグリシジル基の場合と同様の処理を行うことによりイオン交換基を導入できる。
【0050】
本発明によるカラム充填剤を、ゲル浸透クロマトグラフィーに用いる場合に使用する親水性単量体は、水酸基、又はエポキシ基のような非イオン性親水基を1分子中に1個以上有する親水性単量体であることが好ましく、例えば、上記のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、エポキシ化又はヒドロキシル化(メタ)アクリレート類等の単量体類が挙げられる。
【0051】
本発明によるカラム充填剤を、順相クロマトグラフィーに用いる場合に使用する親水性単量体は、1級アミノ基、2級アミノ基、シアノ基、水酸基のような非イオン性親水基を1分子中に1個以上有する親水性単量体であることが好ましく、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、アミノ化(メタ)アクリレート類、アルデヒド化又はシアノ化(メタ)アクリレート類を有する単量体の他に、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類及びこれらの誘導体等の単量体類が挙げられる。
【0052】
親水性単量体は、アクリル系単量体であることが好ましい。また、親水性単量体は、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩類、塩化物等でもよい。
親水性単量体は、2種類以上を混合して用いてもよく、上述した各測定モードに限定されず、他の測定モードに使用したり、他の測定モードに挙げた親水性単量体と混合して用いたりしてもよい。親水性単量体として、1分子中に同一の複数の官能基を有する単量体を用いてもよく、1分子中に異なる種類の官能基を有する単量体を用いてもよい。
【0053】
親水性単量体の添加量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましい下限は10重量部、好ましい上限は200重量部である。親水性単量体の添加量が10重量部未満であると、得られるカラム充填剤を用いた場合の分離性能が低下することがある。親水性単量体の添加量が200重量部を超えると、親水性が大きくなり過ぎ、耐圧性や耐膨潤性が低下することがある。また、複数の溶離液を用いて測定を行う場合に、溶離液の切り替え時における平衡化に長時間を要し、測定時間が延長することがある。
【0054】
反応系に親水性単量体を添加する方法は、使用する親水性単量体の種類、及び、添加量に応じて最適な手法を選択することができる。例えば、親水性単量体の全量を一括して添加する方法、その一部を分割して添加する方法、数分〜数時間かけて添加する方法等が挙げられる。
【0055】
工程5における反応系の温度は、5〜40℃である。工程5における撹拌時の温度が5℃未満であると、温度を変更する作業が繁雑となり、作業時間が延長するとともに、内容物によっては、溶解度の大きな低下により析出する。工程5における撹拌時の温度が40℃を超えると、重合が徐々に進行するため、重合率の制御が困難となり、得られたカラム充填剤の性能の再現性が低下する。工程5における撹拌時の温度の好ましい下限は15℃、好ましい上限は35℃である。
なお、工程4における冷却後の反応系の温度と工程5における攪拌温度とを同じ温度にできる場合は、工程5を行う際に温度を変更する必要がなくなるため、同じ温度にしておくことが好ましい。工程4における冷却後の反応系の温度と工程5における攪拌温度とを異なる温度とする必要がある場合は、工程5を行う前に適宜温度を調整する工程を追加する。
【0056】
工程5における撹拌時間は、0.2〜24時間である。工程5における撹拌時間が0.2時間未満の場合、親水性単量体が反応系に均一に分散しないため、得られるカラム充填剤の性能の再現性が悪くなる。工程5において24時間を超えて撹拌を行っても、それ以上分散の均一化効果は向上せず、作業時間の延長を招くのみである。工程5における撹拌時間の好ましい下限は0.5時間、好ましい上限は24時間である。
【0057】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する。
【0058】
第2の重合反応において保持する温度の好ましい下限は40℃、好ましい上限は100℃である。第2の重合反応において保持する温度が40℃未満であると、温度を制御することが困難であり、反応に長時間を要する場合がある。第2の重合反応において保持する温度が100℃を超えると、凝集物が発生しやすくなる。
また、第2の重合反応における反応時間の好ましい下限は0.3時間、好ましい上限は12時間である。第2の重合反応における反応時間が0.3時間未満であると、親水性単量体の重合が不充分となり、得られるカラム充填剤の性能の再現性が低下することがある。第2の重合反応における反応時間が12時間を超えると、凝集物が発生しやすくなる。
【0059】
第2の重合反応時においては、第1の重合反応において挙げたものと同様の重合開始剤を添加してもよいが、重合開始剤を添加せずに第2の重合反応を行う方法が好ましい。この場合は、第1の重合反応によって消費されなかった反応系に残存する重合開始剤用いて重合反応を行う。
【0060】
第2の重合反応を行った後、得られた重合物を反応系より取り出し、必要に応じて、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等で洗浄することにより、架橋重合体粒子の表面に親水性重合体を有する親水性架橋重合体粒子を得ることができる。また、得られた親水性架橋重合体粒子に、必要に応じて、公知の技術による親水化処理を行ってもよい。
親水化処理は、例えば、特開2001−91505号公報に開示されている、ヘモグロビン、アルブミン、グロブリン等の蛋白質、糖類、ノニオン系界面活性剤等の親水基を有する化合物を吸着させる方法や、特開2004−295368号公報に記載の方法によるオゾン処理を行う方法等が好ましい。
【0061】
本発明によるカラム充填剤をカラムに充填することにより、液体クロマトグラフィーに適用することができる。本発明のカラム充填剤の製造方法により得られるカラム充填剤を用いる液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法もまた、本発明の1つである。
本発明の液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法は、公知の構成による液体クロマトグラフ、及び、公知の組成による溶離液を用いることができる。
【0062】
本発明の液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法は、ヘモグロビン類やその他のタンパク質類、糖類等の親水性物質を測定することができる。
【0063】
本発明の液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法もまた、本発明の1つである。
本発明者らは、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において、測定精度が最も向上する圧力範囲を見出した。また、該圧力範囲における測定を安定して維持することにより、カラム寿命を延長させることができることを見出した。更に、本発明者らは、本発明によるカラム充填剤を用いることにより、高い分離性能を維持したまま、測定系の圧力値を上記圧力範囲内に安定させることができることを見出した。
【0064】
本発明のヘモグロビン類の測定方法は、健常人血に含まれるヘモグロビン類、例えば、ヘモグロビンA0、ヘモグロビンA1c、ヘモグロビンF(胎児性ヘモグロビン)やヘモグロビンA2を短時間で高精度に測定することができる。更に、異常ヘモグロビン類、例えば、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD、ヘモグロビンE等を測定することができる。
【0065】
本発明のヘモグロビン類の測定方法においては、測定系に生じる圧力値を9.8×103Pa以上、19.6×105Pa以下に設定することが好ましい。
なお、本明細書において、上記「測定系に生じる圧力値(以下、単に圧力値ともいう)」とは、クロマトグラフィーの流路系において、カラムを含む、送液ポンプ以降の配管系流路全体により発生する圧力の値を意味する。この圧力値は、具体的には例えば、送液ポンプとカラムとの間に接続した圧力計により測定できる値である。
【0066】
本発明のヘモグロビン類の測定方法において、圧力値を9.8×103Pa未満に設定した場合、ヘモグロビン類の測定値の精度が低下したり、測定時間が長くなったりすることがある。また、圧力値が非常に小さいため、圧力値の制御が困難となる。圧力値が19.6×105Paを超える値に設定した場合、測定精度が低下し、カラム寿命が短くなる。本発明のヘモグロビン類の測定方法では、本発明によるカラム充填剤を用いることにより、高い分離性能及び短い測定時間を維持したまま、上記圧力値を、再現性良く、19.6×105Pa以下にすることできる。
【0067】
本発明のヘモグロビン類の測定方法に用いられる液体クロマトグラフィーは、溶離液送液用のポンプ、検出器、試料導入装置等を備えた公知の液体クロマトグラフに、本発明によるカラム充填剤を充填したカラムを接続することにより行うことができる。
【0068】
本発明のヘモグロビン類の測定方法に用いる溶離液は、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、有機酸、無機酸、及び、これらの塩類、アミノ酸類、グッドの緩衝液等が挙げられる。
有機酸は、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。上記無機酸は特に限定されず、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等が挙げられる。
アミノ酸類は、例えば、グリシン、タウリン、アルギニン等が挙げられる。
また、上記緩衝液には、他に一般的に添加される物質、例えば、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物、カオトロピックイオン類等を適宜添加してもよい。
【0069】
本発明のヘモグロビン類の測定方法において、ヘモグロビン類の測定を行う際の上記緩衝液の塩濃度の好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は1000mmol/Lである。緩衝液の塩濃度が10mmol/L未満の場合、イオン交換反応が行なわれず、ヘモグロビン類を分離することができなくなることがある。緩衝液の塩濃度が1000mmol/Lを超える場合、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。
【発明の効果】
【0070】
本発明のカラム充填剤の製造方法は、所定の温度、及び、所定の時間で単量体混合物の分散液を撹拌した後に第1の重合反応を行い、その後、反応系を一定の温度に保持して親水性単量体を添加し、第2の重合反応を行うカラム充填剤の製造方法である。単量体混合物の分散液を、重合反応の前に一定の条件下で撹拌することにより、得られるカラム充填剤が保持時間や分離性能等の再現性に優れたものとなる。また、第2の重合反応において、架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合することで、高い分離性能を有するカラム充填剤を再現性良く製造することができる。
また、本発明のカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法は、ヘモグロビン類やその他のタンパク質類、糖類等の親水性物質を、短時間に精度よく測定することができる。
更に、本発明によるカラム充填剤を用いたヘモグロビン類の測定方法は、従来よりも低い圧力値で、ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、タンパク質類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図2】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、健常人血のヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図3】実施例2で得られたカラム充填剤を用いて、タンパク質類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図4】実施例3で得られたカラム充填剤を用いて、タンパク質類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図5】実施例4で得られたカラム充填剤を用いて、糖類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図6】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図7】比較例1で得られたカラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図8】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含むヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図9】比較例1で得られたカラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含むヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図10】測定例3、7、及び、10によるカラム耐久性試験の結果である。
【図11】測定例1、2、11、及び、12によるカラム耐久性試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0073】
(実施例1)
実施例1では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、カチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0074】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体として、テトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)140g、及び、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン(新中村化学工業社製)60gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gを混合して溶解し、分散剤として5重量%のポリビニルアルコール(日本合成化学社製、「ゴーセノールGH−20」)水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、25℃で15時間撹拌した(撹拌工程1)。攪拌工程後の重合率は1.2%であった。
次に反応系を窒素雰囲気下で80℃に加温して1.2時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1の重合反応後の重合率は90%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した(冷却工程)後、親水性単量体として2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成社製)180g、及び、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油社製)60g、並びに、メタノール100gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、30℃で0.5時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で2時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
粒度分布測定装置(ナイコンプ社製、「アキュサイザー780」)により、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は6.4μm、粒度分布のCV値は27.6%であった。
【0075】
(2)カラムへの充填
「(1)カラム充填剤の調製」で得られたカラム充填剤0.8gを、50mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)30mLに分散して撹拌し、スラリー化した。5分間超音波処理した後、スラリー全量を、ステンレス製空カラム(4.6φ×35mm)を接続したパッカー(アズワン社製)に注入した。パッカーに送液ポンプ(GLサイエンス社製、「PU−614」)を接続し、圧力20MPaで送液して、定圧充填した。
【0076】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価1
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて、タンパク質類の標準物質混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:280nm
溶離液A:100mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.9)
溶離液B:溶離液A+530mmol/L NaCl(pH6.9)
溶出条件:溶離液A100%から溶離液B100%へのリニアグラジエント
流速 :1.5mL/分
測定試料:トリプシノーゲン、α−キモトリプシノーゲン、リボヌクレアーゼA、リゾチーム(以上、いずれもSigma−Aldrich社製)の混合物
【0077】
得られたクロマトグラムを図1に示す。図1において、ピーク1はトリプシノーゲン、ピーク2はα−キモトリプシノーゲン、ピーク3はリボヌクレアーゼA、ピーク4はリゾチームを示す。図1より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また、同様の測定を10回連続して繰り返した際の、リゾチームの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のリゾチームの保持時間のCV値は1.2%となり、再現性は良好であった。
【0078】
【表1】
【0079】
(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて、健常人血中のヘモグロビンA1cを含むヘモグロビン類の測定を行った。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:415nm
溶離液C:40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液D:250mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)
溶出条件:溶離液C100%から溶離液D100%へのステップグラジエント
流速 :1.5mL/分
測定試料:フッ化ナトリウム採血した健常人血を、0.05%のTritonX−100(Sigma−Aldrich社製)を含むリン酸緩衝液(pH6.7)により150倍に溶血希釈したもの
【0080】
得られたクロマトグラムを図2に示す。図2において、ピーク11はヘモグロビンF、ピーク12はヘモグロビンA1c、ピーク13はヘモグロビンA0を示す。図2より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また、同様の測定を10回連続して繰り返した際の、ヘモグロビンA1cの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は0.8%となり、再現性は良好であった。
【0081】
(5)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2」を行い、ヘモグロビンA1cの保持時間の再現性を確認した。なお、各ロットの測定を3回実施した際の平均値を該当ロットの測定値とした。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は2.1%となり、再現性は良好であった。
【0082】
(実施例2)
実施例2では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、アニオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0083】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体として、ジエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、テトラメチロールメタントリアクリレート(新中村化学工業社製)30g、及び、トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)140gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.0gを混合して溶解し、5重量%のポリビニルアルコール水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、20℃で10時間撹拌した(撹拌工程1)。撹拌工程後の重合率は0.6%であった。
次に反応系を窒素雰囲気下で80℃に加温して1時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1の重合反応後の重合率は87%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した後、親水性単量体としてジエチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業社製)220g、及び、メタノール100gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、20℃で5時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で1.6時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は8.2μm、粒度分布のCV値は26.3%であった。
【0084】
(2)カラムへの充填
実施例1と同様に操作して、得られたカラム充填剤1.4gをステンレス製空カラム(4.6φ×50mm)に充填した。
【0085】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いてタンパク質類の標準物質混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:280nm
溶離液E:40mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH8.1)
溶離液F:溶離液E+400mmol/L NaCl(pH8.1)
溶出条件:溶離液E100%から溶離液F100%へのリニアグラジエント
流速 :1.3mL/分
測定試料:コンアルブミン、オブアルブミン、トリプシンインヒビターの混合物
【0086】
得られたクロマトグラムを図3に示す。図3において、ピーク21はコンアルブミン、ピーク22はオブアルブミン、ピーク23はトリプシンインヒビターを示す。図3より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また、同様の測定を10回連続して繰り返した際の、トリプシンインヒビターの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のトリプシンインヒビターの保持時間のCV値は1.7%となり、再現性は良好であった。
【0087】
(4)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価」を行い、トリプシンインヒビターの保持時間の再現性を確認した。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のトリプシンインヒビターの保持時間のCV値は2.4%となり、再現性は良好であった。
【0088】
(実施例3)
実施例3では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、水系ゲル浸透クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0089】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体としてテトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)200g、非架橋性単量体として、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、及び、トルエン350gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.0gを混合して溶解し、4重量%のポリビニルアルコール水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、10℃で20時間撹拌した(撹拌工程)。撹拌工程後の重合率は0.3%であった。
窒素雰囲気下で80℃に加温して2.3時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1重合反応後の重合率は94%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した後、親水性単量体として2,3−ジヒドロキシルエチルメタクリレート(日油社製)200gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、25℃で1時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で2.5時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は8.6μm、粒度分布のCV値は28.1%であった。
【0090】
(2)カラムへの充填
実施例1と同様に操作して、得られたカラム充填剤3.2gをステンレス製空カラム(6.0φ×100mm)に充填した。
【0091】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて分子量標準物質の混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出器 :示差屈折計SE−51(昭和電工社製)
溶離液G:80mmol/L硫酸ナトリウムを含む100mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.6)
流速 :1.5mL/分
測定試料:チログロブリン(分子量64万)、γ−グロブリン(分子量155000)、オブアルブミン(分子量47000)、リボヌクレアーゼ(分子量13700)(以上、いずれも和光純薬工業社製)の混合物
【0092】
得られたクロマトグラムを図4に示す。図4において、ピーク31はチログロブリン、ピーク32はγ−グロブリン、ピーク33はオブアルブミン、ピーク34はリボヌクレアーゼを示す。図4より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また同様の測定を10回連続して繰り返した際の、リボヌクレアーゼの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のリボヌクレアーゼの保持時間のCV値は1.3%となり、再現性は良好であった。
【0093】
(4)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価」を行い、リボヌクレアーゼの保持時間の再現性を確認した。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のリボヌクレアーゼの保持時間のCV値は3.1%となり、再現性は良好であった。
【0094】
(実施例4)
実施例4では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、順相クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0095】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体として、トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)200g、及び、テトラメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業社製)50g、非架橋性単量体としてポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学工業社製)150gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.0gを混合して溶解し、5重量%のポリビニルアルコール水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、30℃で5時間撹拌した(撹拌工程1)。撹拌工程後の重合率は2.8%であった。
次に反応系を窒素雰囲気下で80℃に加温して1.8時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1の重合反応後の重合率は92%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した後、親水性単量体として2−アミノエチルメタクリレート(和光純薬工業社製)200g、及び、メタノール50gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、25℃で2時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で2.8時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は4.1μm、粒度分布のCV値は29.4%であった。
【0096】
(2)カラムへの充填
実施例1と同様に操作して、得られたカラム充填剤1.4gをステンレス製空カラム(4.6φ×50mm)に充填した。
【0097】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて糖類の標準物質混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:280nm
溶離液H:アセトニトリル:水=75:25の混合水溶液
流速 :1.3mL/分
測定試料:フルクトース、グルコース、シュクロース、マルトース(以上、いずれも和光純薬工業社製)の混合物
【0098】
得られたクロマトグラムを図5に示す。図5において、ピーク41はフルクトース、ピーク42はグルコース、ピーク43はシュクロース、ピーク44はマルトースを示す。図5より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また同様の測定を10回連続して繰り返した際の、マルトースの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のマルトースの保持時間のCV値は1.2%となり、再現性は良好であった。
【0099】
(4)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価」を行い、マルトースの保持時間の再現性を確認した。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のマルトースの保持時間のCV値は2.6%となり、再現性は良好であった。
【0100】
(実施例5)
実施例5では、実施例1の撹拌工程1の条件を変更してカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0101】
(1)カラム充填剤の調製
実施例1における撹拌工程1の条件を、5℃及び3時間に変更した以外は、実施例1と同様に操作してカラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は6.1μm、粒度分布のCV値は29.3%であった。
【0102】
(2)カラムへの充填、及び液体クロマトグラフィーによる性能評価
実施例1と同様の方法により、カラムへの充填、及びヘモグロビン類の測定を行った。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は1.5%で、再現性は良好であった。
【0103】
(3)重合再現性の評価
実施例1と同様の方法により、重合再現性を評価した。20ロット測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は3.0%で、再現性は良好であった。
【0104】
(実施例6)
実施例6では、実施例1の撹拌工程1の条件を変更してカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0105】
(1)カラム充填剤の調製
実施例1における撹拌工程1の条件を、40℃及び1時間に変更した以外は、実施例1と同様に操作してカラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は5.8μm、粒度分布のCV値は32.8%であった。
【0106】
(2)カラムへの充填、及び液体クロマトグラフィーによる性能評価
実施例1と同様の方法により、カラムへの充填、及びヘモグロビン類の測定を行った。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は2.3%で、再現性は良好であった。
【0107】
(3)重合再現性の評価
実施例1と同様の方法により、重合再現性を評価した。20ロット測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は4.1%で、再現性は良好であった。
【0108】
(比較例1〜6)
比較例では、本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法における工程2(撹拌工程1)の条件を満たさないカラム充填剤を調製した。比較例1〜6における撹拌工程の条件、及び、攪拌工程終了後の重合率を表1に示す。
撹拌工程1以外の条件は、比較例1は実施例1、比較例2は実施例2、比較例3は実施例3、比較例4は実施例4、比較例5は実施例5、比較例6は実施例6と同様に操作してカラム充填剤を調製した。なお、比較例5は撹拌工程1を行わなかった例、すなわち、単量体混合物を水性分散媒に添加した後、すぐに第1の重合反応を行った例を示す。
得られた各カラム充填剤の粒度分布の測定結果を表1に示す。比較例4では、攪拌工程において、分散液中の単量体混合物の一部が凍結して均一に撹拌することができず、第1の重合反応中に凝集物が発生してカラム充填剤粒子が得られなかった。
比較例における、保持時間による重合再現性(n=20)の評価結果を表1に示す。実施例に比較してCV値が大きな値となった。
以上から、撹拌工程の条件を規定することにより、得られるカラム充填剤の重合再現性が向上した。
【0109】
(ヘモグロビン類の測定性能評価)
撹拌工程の条件を規定したことによる、カラム充填剤の分離性能への影響を確認するため、実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、種々のヘモグロビン類を測定し、分離性能を評価した。
【0110】
(1)修飾ヘモグロビン類の測定
実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、人為的に調製した修飾ヘモグロビン類の測定を行った。修飾ヘモグロビン類を含む試料として、不安定型ヘモグロビンA1c含有試料(試料L)、アセチル化ヘモグロビン含有試料(試料A)、カルバミル化ヘモグロビン含有試料(試料C)の3種類を、公知の方法により調製した。
試料Lは、健常人血に、グルコースを2500mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温して調製した。試料Aは、健常人血に、アセトアルデヒドを60mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温して調製した。試料Cは、健常人血に、シアン酸ナトリウムを60mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温して調製した。
分離性能は、修飾ヘモグロビン類を含む試料のヘモグロビンA1c値から、修飾ヘモグロビン類を含む試料の調製に用いた健常人血(非修飾品)のヘモグロビンA1c値を差し引いた値(Δ値)を算出し、両者を比較して評価した。結果を表2に示す。
表2より、実施例1のカラム充填剤を用いた場合、Δ値は0.15%以下と小さく、修飾ヘモグロビン類が含まれる試料においても、正確にヘモグロビンA1cが測定できた。比較例1及び比較例6のカラム充填剤を用いた場合ではΔ値が大きく、ヘモグロビンA1cの測定時において、修飾ヘモグロビン類の影響を受けた。
【0111】
【表2】
【0112】
(2)異常ヘモグロビン類の測定
実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビンであるヘモグロビンS及びヘモグロビンCを含む試料(ヘレナ研究所社製、「AFSCヘモコントロール」)を測定した。
実施例1のカラム充填剤を用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図6に示す。図6において、ピーク14はヘモグロビンS、ピーク15はヘモグロビンCを示す。図6より、実施例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、異常ヘモグロビン類を良好に分離できた。比較例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、図7に示すように、異常ヘモグロビン類の分離性能は悪かった。比較例6で得られたカラム充填剤を用いた場合も比較例1の場合と同様に、異常ヘモグロビン類の分離性能は悪かった。
【0113】
(3)ヘモグロビンA2の測定
実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含む試料(バイオラッド社製「A2コントロール(レベル2)」)を測定した。
実施例1の充填剤を用いて測定して得られたクロマトグラムを図8に示す。図8において、ピーク16はヘモグロビンA2を示す。図8より、実施例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、ヘモグロビンA2を良好に分離することができた。比較例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、図9に示すようにヘモグロビンA2を分離することはできなかった。比較例6で得られたカラム充填剤を用いた場合も比較例1の場合と同様に、ヘモグロビンA2を分離することはできなかった。
【0114】
上記のヘモグロビン類の測定性能評価から、撹拌工程の条件を規定したことにより、カラム充填剤の重合再現性だけでなく、分離性能も向上することが確認できた。
【0115】
(ヘモグロビン類の測定における、液体クロマトグラフィーの測定条件)
(測定例1〜12)
実施例1の「(1)カラム充填剤の調製」において、ポリビニルアルコール濃度、及び、撹拌時の回転数を表3に示すように制御して、平均粒径値の異なるカラム充填剤を調製し、各カラム充填剤を表3に示す内径、及び、長さの空カラムに充填した。なお、測定例7のカラム充填剤は実施例1で得られたカラム充填剤と同様のものである。
得られたカラムを用いて、実施例1の「(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2」の条件で健常人血のヘモグロビン類の測定を行った。なお、測定時における流速を表3に示すように変更して圧力値が異なる状態にして比較した。
【0116】
【表3】
【0117】
(性能評価)
(1)圧力値の測定
圧力値は、以下の方法により測定した。まず、各カラムを、液体クロマトグラフ(島津製作所社製、「LC−10Aシステム」)に接続した。次に、送液ポンプとカラムの間に、デジタル圧力計(長野計器社製、「GC61」)を接続し、溶離液Cを送液した時の圧力計の表示値を読み取った。測定結果を表3に示す。
【0118】
(2)同時再現性評価
健常人血を用いて、実施例1の「(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2」の条件でヘモグロビンA1cの測定を10回連続で行い、同時再現性の比較を行った。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1c値のCV値を表3に示す。
測定例3〜10において、CV値は1.5%以下であり、糖尿病患者のヘモグロビンA1c値の管理を行うための充分な測定精度を示した。一方、測定例1及び測定例2では、CV値が5%以上と悪く、実用上問題のあるレベルであった。
【0119】
(3)カラム耐久性の評価
各測定例において、健常人血を繰り返し測定し、ヘモグロビンA1c値の推移を確認した。測定結果を図10及び図11に示す。ヘモグロビンA1c値(HbA1c(%))は、測定例3、7、及び、10では、2000回測定まで安定していた。一方、測定例1、2、11、及び、12では、ヘモグロビンA1c値が大きく低下した。
カラム耐久性の評価結果から、撹拌工程の条件、及び、圧力値を規定したことにより、カラム充填剤の分離性能は、多数の試料を測定しても維持された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、性能の再現性が良好なカラム充填剤の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該カラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法を提供できる。
【符号の説明】
【0121】
1 トリプシノーゲン
2 α−キモトリプシノーゲン
3 リボヌクレアーゼA
4 リゾチーム
11 ヘモグロビンF
12 ヘモグロビンA1c
13 ヘモグロビンA0
14 ヘモグロビンS
15 ヘモグロビンC
16 ヘモグロビンA2
21 コンアルブミン
22 オブアルブミン
23 トリプシンインヒビター
31 チログロブリン
32 γ−グロブリン
33 オブアルブミン
34 リボヌクレアーゼ
41 フルクトース
42 グルコース
43 シュクロース
44 マルトース
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法に関する。また、本発明は、該液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性のカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーは、親水性物質の測定に極めて有益な測定方法であり、現在汎用されている分析手法の一つである。親水性のカラム充填剤を用いた測定モードとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、親水性ゲル浸透クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0003】
親水性の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤(以下、単にカラム充填剤ともいう)は、無機系高分子粒子、又は、有機系高分子粒子に、親水性基を導入することにより得ることができる。無機系高分子粒子の素材としては、シリカ、セラミックス、ガラス等が挙げられ、有機系高分子粒子の素材としては、ポリスチレン系高分子やアクリル系高分子等の有機合成高分子系素材、ポリアミノ酸や多糖類等の天然高分子系素材等が挙げられる。
【0004】
無機系カラム充填剤として汎用されているシリカ系充填剤は、中性以上のpH条件下におけるシリカ自体の溶出や、残存するシラノール基による非特異吸着等の欠点が報告されている。また、有機高分子系の中でも天然高分子系充填剤は、親水性が大きく非特異吸着が少ない反面、機械的強度に乏しいため高流速での測定が行えず、測定時間が大幅に延長されるという問題がある。一方、有機合成高分子系カラム充填剤は、上記無機系カラム充填剤や上記天然高分子系カラム充填剤が有する欠点が少なく、簡便な方法により製造できる利点がある。
【0005】
有機合成高分子系カラム充填剤として、例えば、特許文献1には、親水性基であるカルボキシル基を含有する単量体5〜90重量%、架橋性単量体10〜95重量%、非架橋性単量体0〜85重量%を混合し、共重合して得られるイオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤が開示されている。また、特許文献2には、疎水性架橋重合体粒子の表面に、親水性基を有する親水性単量体を重合させたカラム充填剤が開示されている。更に、特許文献3には、2段階重合法による、分離性能に優れたカラム充填剤の製造方法が開示されている。
【0006】
しかし、これらの有機合成高分子系カラム充填剤は、液体クロマトグラフィーに適用した場合の性能にロット間等のバラツキが認められる。再現性の良いカラム充填剤を得るためには、有機合成高分子を得るための重合反応の諸条件を、厳密に制御する必要があった。しかしながら、その制御は困難であり、収率の低下を招く場合が多い。一般に、カラム充填剤、及び、充填カラムは高価であるため、収率の低下はコスト抑制の大きな弊害となっていた。
【0007】
液体クロマトグラフィーの臨床検査分野への代表的な実用例として、例えば、糖尿病診断を目的としたヘモグロビンA1cの測定が挙げられる。液体クロマトグラフィーを用いたヘモグロビンA1cの測定方法は、他の測定方法に比較して精度が良く、短時間で測定できるため、特に糖尿病患者のヘモグロビンA1c値の管理に用いられている。この用途では、測定値のCV値が1%以下程度となる高い精度が要求される。
【0008】
高精度に測定するためには、ヘモグロビンA1cと他のヘモグロビン類との良好な分離が必要である。高い分離性能を得るための一般的な手段は、カラム充填剤粒子の粒径を小さくし、より均一にすることである。例えば、特許文献4には、平均粒径値が3〜4μmの微小な充填剤を用いてヘモグロビン類を測定する方法が開示されている。しかし、その結果、測定系にかかる圧力は5MPa以上と大きくなる。
【0009】
そのため、使用する液体クロマトグラフは高い耐圧性能が必要になり、高価で複雑な機構となる。また、測定系に常時高圧がかかる場合、長期間使用した場合の配管系の詰まりや劣化、カラム寿命の短縮等の弊害をもたらす。ヘモグロビンA1cの測定のような多数の検体を測定する項目においては、カラム寿命はコストに直接影響を及ぼすため、短期間で測定精度が低下するカラムは実用上使用できない。
【0010】
従って、測定系に生じる圧力値は低いほど有利であると考えられるが、従来のカラム充填剤を用いて高精度な測定を行う場合は、特許文献4に示された程度か、又は、それ以上の圧力値が生じる。一方、圧力値を低くするためにカラム充填剤の粒径を大幅に増大させると、測定精度の低下、及び、カラム寿命の短縮という問題が生じる。更に、圧力値が低すぎる場合、送液が不安定になり、測定時間が延長する等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭57−178157号公報
【特許文献2】特開平03−073848号公報
【特許文献3】特開2000−88826号公報
【特許文献4】特開平05−005730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、性能の再現性が良好なカラム充填剤の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該カラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法であって、水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1と、上記架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に上記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、上記分散液を1時間以上撹拌する工程2と、反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3と、反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4と、反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5と、反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、上記架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明者らは、従来のカラム充填剤の性能の再現性が不良となる要因は、粒度分布の再現性が低いこと、及び、分離性能に大きな影響を及ぼす親水基の導入量の再現性が低いことであると考えた。そこで本発明者らは、重合反応の精密制御ではなく、従来省みられなかった、重合反応を行う前の工程において攪拌条件を規定することにより、カラム充填剤の性能の再現性が向上することを見出した。また、攪拌条件の規定により、低い圧力においても高い分離性能を維持できること見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明のカラム充填剤の製造方法は、水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1を有する。
架橋性単量体は、1分子中にビニル基を2個以上有する単量体であることが好ましい。また、架橋性単量体は、イオン交換基を有さない、又は、イオン交換基を有していても微量である架橋性単量体が好ましい。更に架橋性単量体は、アクリル系の架橋性単量体であることがより好ましい。
なお、本明細書において上記「アクリル系」とは、アクリル基又はメタクリル基を有することを意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリルレート又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味する。
【0016】
架橋性単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)−ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール−ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ウレタン(メタ)ジアクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−5−メチル−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,11−ジ(メタ)アクリロキシ−4,8−ジオキサウンデガン−2,6,10−トリオール等が挙げられる。
分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの架橋性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
水性分散媒には、架橋性単量体以外に、必要に応じて非架橋性単量体を添加してもよい。
【0018】
非架橋性単量体は、アクリル系単量体が好ましく、具体的には例えば、(メタ)アクリル酸アルキル類、水酸基を有する非架橋性アクリル系単量体等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
水酸基を有する非架橋性アクリル系単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、その他の水酸基を有する(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その他の水酸基を有する(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの非架橋性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
非架橋性単量体を用いる場合、非架橋性単量体の添加量は、架橋性単量体100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。非架橋性単量体の添加量が100重量部を超えると、得られる架橋重合体粒子の架橋度が低下してカラム充填剤が耐圧性に劣るものとなり、膨潤や収縮が起きて分離精度が低下しやすくなる。
【0020】
工程1では、架橋性単量体、又は、架橋性単量体と非架橋性単量体との混合物(以下、両者を合わせて「単量体混合物」ともいう)を水性分散媒に添加する。なお、単量体混合物には、水性分散媒に添加する前に、後述する工程3で用いる重合開始剤を溶解しておくことが好ましい。
【0021】
水性分散媒としては、水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合物等が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、アセトニトリル等が挙げられる。
水溶性有機溶媒を水との混合物として用いる場合、水溶性有機溶媒の濃度の好ましい上限は20重量%である。
【0022】
水性分散媒の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましい下限は200重量部、好ましい上限は1万重量部である。
【0023】
分散液は、必要に応じて、界面活性効果を有する物質(以下、分散剤ともいう)を含有してもよい。
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デンプン、ヒドロキシセルロース、ポリビニルエーテル等の水溶性高分子化合物や、リン酸カルシウム等の無機塩類や、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤や、ポリオキシエチレンノニルフェニールエーテル、ポリエチレングリコールモノステアリレート、ソルビタンモノステアリレート等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
分散液中の分散剤の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は20重量%である。分散剤の含有量が0.01重量%未満であると、添加した単量体が分散しにくくなり、凝集物が発生しやすくなる。分散剤の含有量が20重量%を超えると、得られる親水性架橋重合体粒子の粒径が小さくなり、重合中に凝集物が発生しやすくなる。分散剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0025】
分散液は、その他に公知の各種添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、例えば、pH調節剤、消泡剤、得られる親水性架橋重合体粒子にマクロポアを形成させるための多孔質化剤、重合反応を制御するための各種連鎖移動剤、単量体混合物の溶解度を調節するための有機化合物又は無機化合物等が挙げられる。
【0026】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に上記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、上記分散液(以下、「反応系」ともいう)を1時間以上撹拌する工程2を有する。
【0027】
工程2における反応系の温度は、架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に架橋性単量体の重合反応が進行しない温度である。
「架橋性単量体の融点以上」とは、複数の架橋性単量体を使用する場合は、全ての架橋性単量体の融点以上であることを意味し、上記非架橋性単量体を併用する場合は、全ての架橋性単量体と全ての非架橋性単量体の融点以上であることを意味する。
上記「実質的に上記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度」とは、その温度で少なくとも1時間撹拌を行った場合に生じる重合物が、単量体混合物全量の10重量%以下となる温度を意味する。具体的には、単量体混合物として上記例示したものを用い、重合開始剤として下記例示するものを用いる場合、工程2における反応系の温度は、5〜40℃であることが好ましい。工程2における反応系の温度が5℃未満であると、単量体混合物の一部が凍結して均一に撹拌することが困難となることがある。工程2における反応系の温度が40℃を超えると、撹拌中に単量体混合物の一部が重合し、得られるカラム充填剤の性能の再現性が低下することがある。工程2における反応系の温度のより好ましい下限は10℃、より好ましい上限は30℃である。
【0028】
工程2における撹拌時間の下限は1時間である。工程2における撹拌時間が1時間未満であると、分散液の単量体混合物が安定せず、得られる親水性架橋重合体粒子の粒径の再現性が悪くなる。工程2における撹拌時間の好ましい下限は3時間、より好ましい下限は5時間である。
工程2における撹拌時間は、長時間行っても操作時間が延長するのみで再現性や分離性能を向上する効果は得られない。また、反応系が上述した「実質的に重合反応が進行しない温度」であっても、重合が進行してしまう可能性があるため、実質的には、工程2における撹拌時間の好ましい上限は48時間である。
【0029】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3を有する。
【0030】
第1の重合反応としては、公知の重合方法を用いることができる。なかでも、重合開始剤を添加した後に、反応系を一定の温度に保持する方法が好ましく、重合開始剤を溶解した単量体混合物を水性分散媒中に添加した後に反応系を一定の温度に保持する方法がより好ましい。
【0031】
工程3で用いる重合開始剤は、水溶性又は油溶性の公知のラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物や、これらの誘導体類等が挙げられる。
【0032】
工程3で用いる重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は5重量部である。重合開始剤の使用量が0.05重量部未満であると、第1の重合反応が充分に進行せず、未反応の単量体が反応系に残存する可能性がある。また、重合反応を完了させるために長時間を要し、作業効率が低下する。上記重合開始剤の使用量が5重量部を超えると、急激な反応の進行により、凝集物が発生しやすくなる。
【0033】
第1の重合反応において保持する温度の好ましい下限は40℃、好ましい上限は100℃である。第1の重合反応において保持する温度が40℃未満であると、温度を制御することが困難であり、反応に長時間を要する場合がある。第1の重合反応において保持する温度が100℃を超えると、凝集物が発生しやすくなる。
また、第1の重合反応における反応時間の好ましい下限は0.3時間、好ましい上限は12時間である。第1の重合反応における反応時間が0.3時間未満であると、単量体混合物の重合が不充分となり、得られるカラム充填剤の性能の再現性が低下することがある。第1の重合反応における反応時間が12時間を超えると、凝集物が発生しやすくなる。上記第1の重合反応における反応時間のより好ましい下限は1時間、より好ましい上限は6時間である。
【0034】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4を有する。上記工程4により、上記第1の重合反応は、実質上進行しない状態に保持される。
工程4における冷却温度が5℃未満であると、5℃未満に冷却する作業、及び、設備が煩雑となり作業時間が延長する。また、反応系に残存する単量体が析出することがある。工程4における冷却温度が40℃を超えると、重合が進行する場合があるため、得られるカラム充填剤の性能の再現性が悪くなることがある。
第1の重合反応時において保持した温度から、工程4で冷却する温度までの反応系の降温に要する時間の好ましい上限は60分、より好ましい上限は30分である。
【0035】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5を有する。
【0036】
親水性単量体は、重合性基、及び、親水性官能基を有する単量体であることが好ましい。上記親水性官能基は、重合後に得られる架橋重合体粒子に親水性を付与し、かつ、液体クロマトグラフィーによる測定の際に、試料中の各成分との相互作用により分離を行う役割を担う。従って、親水性単量体は、カラム充填剤として適用する測定モードによって、適宜選択できる。
【0037】
例えば、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤(以下、本発明によるカラム充填剤ともいう)を、イオン交換クロマトグラフィーに用いる場合に使用する親水性単量体は、1分子中に1個以上のイオン交換基を有する親水性単量体(以下、イオン交換性単量体ともいう)であることが好ましい。
イオン交換基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のカチオン交換基、3級アミノ基、4級アンモニウム基等のアニオン交換基等が挙げられる。
なお、本明細書において、イオン交換基には、イオン交換基に付随する構造は問わないため、イオン交換基を末端に有する全ての官能基を含む。例えば、「カルボキシル基」とは、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基等、カルボキシル基が結合する官能基類全てを含む(以下、官能基を記載する場合は同様の構造を意味する)。
【0038】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類や、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、マレイン酸、フマル酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0039】
スルホン酸基を有する有単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類や、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、(3−スルホプロピル)−イタコン酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0040】
リン酸基を有する単量体としては、例えば、((メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0041】
3級アミノ基を有する単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0042】
4級アンモニウム基を有する単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0043】
本発明によるカラム充填剤を、イオン交換クロマトグラフィーに用いるための他の方法としては、イオン交換性単量体を用いる代わりに、イオン交換基を有する化合物(以下、イオン交換性化合物ともいう)と反応可能な官能基(以下、反応性基ともいう)を有する親水性単量体(以下、反応性単量体ともいう)を上記架橋重合体粒子の表面に重合し、その後に、該反応性基にイオン交換性化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0044】
反応性基は、非イオン性の親水性基であることが好ましい。
非イオン性の親水性基としては、例えば、水酸基、グリコール基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、シアノ基、アルデヒド基等が挙げられ、なかでも、水酸基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基が好ましく、水酸基、エポキシ基、グリシジル基がより好ましい。
【0045】
反応性単量体は、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、エポキシ化又はヒドロキシル化(メタ)アクリレート類、アミノ化(メタ)アクリレート類、アルデヒド化又はシアノ化(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類は、例えば、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
エポキシ化又はヒドロキシル化(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノ化(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
アルデヒド化又はシアノ化(メタ)アクリレート類としては、例えば、(メタ)アクロレイン、シアノ(メタ)アクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、(メタ)アクリロニトリル、等が挙げられる。
これらの反応性単量体は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
反応性基にイオン交換性化合物を反応させる方法は、公知の化学反応を用いることができる。架橋重合体粒子の分解等の反応を伴わない条件であれば、これらの公知の化学反応を限定なく用いることができる。
【0047】
反応性基が水酸基の場合、例えば、ブロムエタンスルホン酸ナトリウム等のハロゲン化エタンスルホン酸類やクロロ酢酸ナトリウム等のハロゲン化酢酸類をイオン交換性化合物として用いる。これらのイオン交換性化合物と、表面に水酸基を有する架橋重合体粒子とを水酸化アルカリ水溶液中で反応させることにより、イオン交換基を導入できる。
また、イオン交換基を有するアルデヒド化合物を、酸触媒下にてアセタール化反応により、表面に水酸基を有する架橋重合体粒子と反応させることにより、イオン交換基を導入できる。
更に、例えば、トリカルバニル酸、ブタンテトラカルボン酸等の多官能カルボン化合物と水酸基との脱水反応によるエステル化により、上記架橋重合体粒子の表面にカルボキシル基を導入できる。
加えて、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン等を、水酸化アルカリの水溶液中又は有機溶媒溶液中で、表面に水酸基を有する架橋重合体粒子と反応させることによっても架橋重合体粒子の表面にスルホン酸基を導入できる。
【0048】
反応性基がエポキシ基又はグリシジル基の場合、表面にエポキシ基又はグリシジル基を有する架橋重合体粒子と硫酸ナトリウムやタウリン、グリコール酸等のイオン交換性化合物とを反応させる方法、表面にエポキシ基又はグリシジル基を有する架橋重合体粒子と三フッ化ホウ素エーテラートとを結合した後、亜硫酸ナトリウム水溶液中で加熱処理する方法等によりイオン交換基を導入できる。
【0049】
反応性基がアミノ基の場合、エピクロルヒドリンやトリグリシジルエーテルのようなエポキシ化合物を水酸化アルカリの水溶液中又は有機溶媒溶液中で反応させてエポキシ化した後、上記のエポキシ基又はグリシジル基の場合と同様の処理を行うことによりイオン交換基を導入できる。
【0050】
本発明によるカラム充填剤を、ゲル浸透クロマトグラフィーに用いる場合に使用する親水性単量体は、水酸基、又はエポキシ基のような非イオン性親水基を1分子中に1個以上有する親水性単量体であることが好ましく、例えば、上記のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、エポキシ化又はヒドロキシル化(メタ)アクリレート類等の単量体類が挙げられる。
【0051】
本発明によるカラム充填剤を、順相クロマトグラフィーに用いる場合に使用する親水性単量体は、1級アミノ基、2級アミノ基、シアノ基、水酸基のような非イオン性親水基を1分子中に1個以上有する親水性単量体であることが好ましく、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、アミノ化(メタ)アクリレート類、アルデヒド化又はシアノ化(メタ)アクリレート類を有する単量体の他に、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類及びこれらの誘導体等の単量体類が挙げられる。
【0052】
親水性単量体は、アクリル系単量体であることが好ましい。また、親水性単量体は、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩類、塩化物等でもよい。
親水性単量体は、2種類以上を混合して用いてもよく、上述した各測定モードに限定されず、他の測定モードに使用したり、他の測定モードに挙げた親水性単量体と混合して用いたりしてもよい。親水性単量体として、1分子中に同一の複数の官能基を有する単量体を用いてもよく、1分子中に異なる種類の官能基を有する単量体を用いてもよい。
【0053】
親水性単量体の添加量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましい下限は10重量部、好ましい上限は200重量部である。親水性単量体の添加量が10重量部未満であると、得られるカラム充填剤を用いた場合の分離性能が低下することがある。親水性単量体の添加量が200重量部を超えると、親水性が大きくなり過ぎ、耐圧性や耐膨潤性が低下することがある。また、複数の溶離液を用いて測定を行う場合に、溶離液の切り替え時における平衡化に長時間を要し、測定時間が延長することがある。
【0054】
反応系に親水性単量体を添加する方法は、使用する親水性単量体の種類、及び、添加量に応じて最適な手法を選択することができる。例えば、親水性単量体の全量を一括して添加する方法、その一部を分割して添加する方法、数分〜数時間かけて添加する方法等が挙げられる。
【0055】
工程5における反応系の温度は、5〜40℃である。工程5における撹拌時の温度が5℃未満であると、温度を変更する作業が繁雑となり、作業時間が延長するとともに、内容物によっては、溶解度の大きな低下により析出する。工程5における撹拌時の温度が40℃を超えると、重合が徐々に進行するため、重合率の制御が困難となり、得られたカラム充填剤の性能の再現性が低下する。工程5における撹拌時の温度の好ましい下限は15℃、好ましい上限は35℃である。
なお、工程4における冷却後の反応系の温度と工程5における攪拌温度とを同じ温度にできる場合は、工程5を行う際に温度を変更する必要がなくなるため、同じ温度にしておくことが好ましい。工程4における冷却後の反応系の温度と工程5における攪拌温度とを異なる温度とする必要がある場合は、工程5を行う前に適宜温度を調整する工程を追加する。
【0056】
工程5における撹拌時間は、0.2〜24時間である。工程5における撹拌時間が0.2時間未満の場合、親水性単量体が反応系に均一に分散しないため、得られるカラム充填剤の性能の再現性が悪くなる。工程5において24時間を超えて撹拌を行っても、それ以上分散の均一化効果は向上せず、作業時間の延長を招くのみである。工程5における撹拌時間の好ましい下限は0.5時間、好ましい上限は24時間である。
【0057】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法は、反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する。
【0058】
第2の重合反応において保持する温度の好ましい下限は40℃、好ましい上限は100℃である。第2の重合反応において保持する温度が40℃未満であると、温度を制御することが困難であり、反応に長時間を要する場合がある。第2の重合反応において保持する温度が100℃を超えると、凝集物が発生しやすくなる。
また、第2の重合反応における反応時間の好ましい下限は0.3時間、好ましい上限は12時間である。第2の重合反応における反応時間が0.3時間未満であると、親水性単量体の重合が不充分となり、得られるカラム充填剤の性能の再現性が低下することがある。第2の重合反応における反応時間が12時間を超えると、凝集物が発生しやすくなる。
【0059】
第2の重合反応時においては、第1の重合反応において挙げたものと同様の重合開始剤を添加してもよいが、重合開始剤を添加せずに第2の重合反応を行う方法が好ましい。この場合は、第1の重合反応によって消費されなかった反応系に残存する重合開始剤用いて重合反応を行う。
【0060】
第2の重合反応を行った後、得られた重合物を反応系より取り出し、必要に応じて、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等で洗浄することにより、架橋重合体粒子の表面に親水性重合体を有する親水性架橋重合体粒子を得ることができる。また、得られた親水性架橋重合体粒子に、必要に応じて、公知の技術による親水化処理を行ってもよい。
親水化処理は、例えば、特開2001−91505号公報に開示されている、ヘモグロビン、アルブミン、グロブリン等の蛋白質、糖類、ノニオン系界面活性剤等の親水基を有する化合物を吸着させる方法や、特開2004−295368号公報に記載の方法によるオゾン処理を行う方法等が好ましい。
【0061】
本発明によるカラム充填剤をカラムに充填することにより、液体クロマトグラフィーに適用することができる。本発明のカラム充填剤の製造方法により得られるカラム充填剤を用いる液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法もまた、本発明の1つである。
本発明の液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法は、公知の構成による液体クロマトグラフ、及び、公知の組成による溶離液を用いることができる。
【0062】
本発明の液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法は、ヘモグロビン類やその他のタンパク質類、糖類等の親水性物質を測定することができる。
【0063】
本発明の液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法もまた、本発明の1つである。
本発明者らは、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において、測定精度が最も向上する圧力範囲を見出した。また、該圧力範囲における測定を安定して維持することにより、カラム寿命を延長させることができることを見出した。更に、本発明者らは、本発明によるカラム充填剤を用いることにより、高い分離性能を維持したまま、測定系の圧力値を上記圧力範囲内に安定させることができることを見出した。
【0064】
本発明のヘモグロビン類の測定方法は、健常人血に含まれるヘモグロビン類、例えば、ヘモグロビンA0、ヘモグロビンA1c、ヘモグロビンF(胎児性ヘモグロビン)やヘモグロビンA2を短時間で高精度に測定することができる。更に、異常ヘモグロビン類、例えば、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD、ヘモグロビンE等を測定することができる。
【0065】
本発明のヘモグロビン類の測定方法においては、測定系に生じる圧力値を9.8×103Pa以上、19.6×105Pa以下に設定することが好ましい。
なお、本明細書において、上記「測定系に生じる圧力値(以下、単に圧力値ともいう)」とは、クロマトグラフィーの流路系において、カラムを含む、送液ポンプ以降の配管系流路全体により発生する圧力の値を意味する。この圧力値は、具体的には例えば、送液ポンプとカラムとの間に接続した圧力計により測定できる値である。
【0066】
本発明のヘモグロビン類の測定方法において、圧力値を9.8×103Pa未満に設定した場合、ヘモグロビン類の測定値の精度が低下したり、測定時間が長くなったりすることがある。また、圧力値が非常に小さいため、圧力値の制御が困難となる。圧力値が19.6×105Paを超える値に設定した場合、測定精度が低下し、カラム寿命が短くなる。本発明のヘモグロビン類の測定方法では、本発明によるカラム充填剤を用いることにより、高い分離性能及び短い測定時間を維持したまま、上記圧力値を、再現性良く、19.6×105Pa以下にすることできる。
【0067】
本発明のヘモグロビン類の測定方法に用いられる液体クロマトグラフィーは、溶離液送液用のポンプ、検出器、試料導入装置等を備えた公知の液体クロマトグラフに、本発明によるカラム充填剤を充填したカラムを接続することにより行うことができる。
【0068】
本発明のヘモグロビン類の測定方法に用いる溶離液は、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、有機酸、無機酸、及び、これらの塩類、アミノ酸類、グッドの緩衝液等が挙げられる。
有機酸は、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。上記無機酸は特に限定されず、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等が挙げられる。
アミノ酸類は、例えば、グリシン、タウリン、アルギニン等が挙げられる。
また、上記緩衝液には、他に一般的に添加される物質、例えば、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物、カオトロピックイオン類等を適宜添加してもよい。
【0069】
本発明のヘモグロビン類の測定方法において、ヘモグロビン類の測定を行う際の上記緩衝液の塩濃度の好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は1000mmol/Lである。緩衝液の塩濃度が10mmol/L未満の場合、イオン交換反応が行なわれず、ヘモグロビン類を分離することができなくなることがある。緩衝液の塩濃度が1000mmol/Lを超える場合、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。
【発明の効果】
【0070】
本発明のカラム充填剤の製造方法は、所定の温度、及び、所定の時間で単量体混合物の分散液を撹拌した後に第1の重合反応を行い、その後、反応系を一定の温度に保持して親水性単量体を添加し、第2の重合反応を行うカラム充填剤の製造方法である。単量体混合物の分散液を、重合反応の前に一定の条件下で撹拌することにより、得られるカラム充填剤が保持時間や分離性能等の再現性に優れたものとなる。また、第2の重合反応において、架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合することで、高い分離性能を有するカラム充填剤を再現性良く製造することができる。
また、本発明のカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法は、ヘモグロビン類やその他のタンパク質類、糖類等の親水性物質を、短時間に精度よく測定することができる。
更に、本発明によるカラム充填剤を用いたヘモグロビン類の測定方法は、従来よりも低い圧力値で、ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、タンパク質類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図2】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、健常人血のヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図3】実施例2で得られたカラム充填剤を用いて、タンパク質類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図4】実施例3で得られたカラム充填剤を用いて、タンパク質類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図5】実施例4で得られたカラム充填剤を用いて、糖類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図6】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図7】比較例1で得られたカラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図8】実施例1で得られたカラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含むヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図9】比較例1で得られたカラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含むヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図10】測定例3、7、及び、10によるカラム耐久性試験の結果である。
【図11】測定例1、2、11、及び、12によるカラム耐久性試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0073】
(実施例1)
実施例1では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、カチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0074】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体として、テトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)140g、及び、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン(新中村化学工業社製)60gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gを混合して溶解し、分散剤として5重量%のポリビニルアルコール(日本合成化学社製、「ゴーセノールGH−20」)水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、25℃で15時間撹拌した(撹拌工程1)。攪拌工程後の重合率は1.2%であった。
次に反応系を窒素雰囲気下で80℃に加温して1.2時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1の重合反応後の重合率は90%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した(冷却工程)後、親水性単量体として2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成社製)180g、及び、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油社製)60g、並びに、メタノール100gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、30℃で0.5時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で2時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
粒度分布測定装置(ナイコンプ社製、「アキュサイザー780」)により、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は6.4μm、粒度分布のCV値は27.6%であった。
【0075】
(2)カラムへの充填
「(1)カラム充填剤の調製」で得られたカラム充填剤0.8gを、50mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)30mLに分散して撹拌し、スラリー化した。5分間超音波処理した後、スラリー全量を、ステンレス製空カラム(4.6φ×35mm)を接続したパッカー(アズワン社製)に注入した。パッカーに送液ポンプ(GLサイエンス社製、「PU−614」)を接続し、圧力20MPaで送液して、定圧充填した。
【0076】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価1
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて、タンパク質類の標準物質混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:280nm
溶離液A:100mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.9)
溶離液B:溶離液A+530mmol/L NaCl(pH6.9)
溶出条件:溶離液A100%から溶離液B100%へのリニアグラジエント
流速 :1.5mL/分
測定試料:トリプシノーゲン、α−キモトリプシノーゲン、リボヌクレアーゼA、リゾチーム(以上、いずれもSigma−Aldrich社製)の混合物
【0077】
得られたクロマトグラムを図1に示す。図1において、ピーク1はトリプシノーゲン、ピーク2はα−キモトリプシノーゲン、ピーク3はリボヌクレアーゼA、ピーク4はリゾチームを示す。図1より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また、同様の測定を10回連続して繰り返した際の、リゾチームの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のリゾチームの保持時間のCV値は1.2%となり、再現性は良好であった。
【0078】
【表1】
【0079】
(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて、健常人血中のヘモグロビンA1cを含むヘモグロビン類の測定を行った。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:415nm
溶離液C:40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.3)
溶離液D:250mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)
溶出条件:溶離液C100%から溶離液D100%へのステップグラジエント
流速 :1.5mL/分
測定試料:フッ化ナトリウム採血した健常人血を、0.05%のTritonX−100(Sigma−Aldrich社製)を含むリン酸緩衝液(pH6.7)により150倍に溶血希釈したもの
【0080】
得られたクロマトグラムを図2に示す。図2において、ピーク11はヘモグロビンF、ピーク12はヘモグロビンA1c、ピーク13はヘモグロビンA0を示す。図2より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また、同様の測定を10回連続して繰り返した際の、ヘモグロビンA1cの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は0.8%となり、再現性は良好であった。
【0081】
(5)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2」を行い、ヘモグロビンA1cの保持時間の再現性を確認した。なお、各ロットの測定を3回実施した際の平均値を該当ロットの測定値とした。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は2.1%となり、再現性は良好であった。
【0082】
(実施例2)
実施例2では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、アニオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0083】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体として、ジエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、テトラメチロールメタントリアクリレート(新中村化学工業社製)30g、及び、トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)140gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.0gを混合して溶解し、5重量%のポリビニルアルコール水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、20℃で10時間撹拌した(撹拌工程1)。撹拌工程後の重合率は0.6%であった。
次に反応系を窒素雰囲気下で80℃に加温して1時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1の重合反応後の重合率は87%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した後、親水性単量体としてジエチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業社製)220g、及び、メタノール100gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、20℃で5時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で1.6時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は8.2μm、粒度分布のCV値は26.3%であった。
【0084】
(2)カラムへの充填
実施例1と同様に操作して、得られたカラム充填剤1.4gをステンレス製空カラム(4.6φ×50mm)に充填した。
【0085】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いてタンパク質類の標準物質混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:280nm
溶離液E:40mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH8.1)
溶離液F:溶離液E+400mmol/L NaCl(pH8.1)
溶出条件:溶離液E100%から溶離液F100%へのリニアグラジエント
流速 :1.3mL/分
測定試料:コンアルブミン、オブアルブミン、トリプシンインヒビターの混合物
【0086】
得られたクロマトグラムを図3に示す。図3において、ピーク21はコンアルブミン、ピーク22はオブアルブミン、ピーク23はトリプシンインヒビターを示す。図3より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また、同様の測定を10回連続して繰り返した際の、トリプシンインヒビターの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のトリプシンインヒビターの保持時間のCV値は1.7%となり、再現性は良好であった。
【0087】
(4)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価」を行い、トリプシンインヒビターの保持時間の再現性を確認した。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のトリプシンインヒビターの保持時間のCV値は2.4%となり、再現性は良好であった。
【0088】
(実施例3)
実施例3では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、水系ゲル浸透クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0089】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体としてテトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)200g、非架橋性単量体として、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、及び、トルエン350gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.0gを混合して溶解し、4重量%のポリビニルアルコール水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、10℃で20時間撹拌した(撹拌工程)。撹拌工程後の重合率は0.3%であった。
窒素雰囲気下で80℃に加温して2.3時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1重合反応後の重合率は94%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した後、親水性単量体として2,3−ジヒドロキシルエチルメタクリレート(日油社製)200gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、25℃で1時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で2.5時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は8.6μm、粒度分布のCV値は28.1%であった。
【0090】
(2)カラムへの充填
実施例1と同様に操作して、得られたカラム充填剤3.2gをステンレス製空カラム(6.0φ×100mm)に充填した。
【0091】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて分子量標準物質の混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出器 :示差屈折計SE−51(昭和電工社製)
溶離液G:80mmol/L硫酸ナトリウムを含む100mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.6)
流速 :1.5mL/分
測定試料:チログロブリン(分子量64万)、γ−グロブリン(分子量155000)、オブアルブミン(分子量47000)、リボヌクレアーゼ(分子量13700)(以上、いずれも和光純薬工業社製)の混合物
【0092】
得られたクロマトグラムを図4に示す。図4において、ピーク31はチログロブリン、ピーク32はγ−グロブリン、ピーク33はオブアルブミン、ピーク34はリボヌクレアーゼを示す。図4より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また同様の測定を10回連続して繰り返した際の、リボヌクレアーゼの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のリボヌクレアーゼの保持時間のCV値は1.3%となり、再現性は良好であった。
【0093】
(4)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価」を行い、リボヌクレアーゼの保持時間の再現性を確認した。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のリボヌクレアーゼの保持時間のCV値は3.1%となり、再現性は良好であった。
【0094】
(実施例4)
実施例4では、本発明のカラム充填剤の製造方法を用いて、順相クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0095】
(1)カラム充填剤の調製
架橋性単量体として、トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)200g、及び、テトラメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業社製)50g、非架橋性単量体としてポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学工業社製)150gを混合して得られた単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.0gを混合して溶解し、5重量%のポリビニルアルコール水溶液2000mLに分散させた。得られた分散液を、30℃で5時間撹拌した(撹拌工程1)。撹拌工程後の重合率は2.8%であった。
次に反応系を窒素雰囲気下で80℃に加温して1.8時間重合反応を行った(第1の重合反応)。第1の重合反応後の重合率は92%であった。
反応系を約15分かけて30℃に冷却した後、親水性単量体として2−アミノエチルメタクリレート(和光純薬工業社製)200g、及び、メタノール50gを溶解したイオン交換水200mLを反応系に添加して、25℃で2時間撹拌した(撹拌工程2)。その後、昇温して80℃で2.8時間重合反応を行った(第2の重合反応)。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は4.1μm、粒度分布のCV値は29.4%であった。
【0096】
(2)カラムへの充填
実施例1と同様に操作して、得られたカラム充填剤1.4gをステンレス製空カラム(4.6φ×50mm)に充填した。
【0097】
(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価
「(2)カラムへの充填」で得られたカラムを用いて糖類の標準物質混合物を測定した。測定条件を以下に示す。
システム:LC−10Aシステム(島津製作所社製)
検出波長:280nm
溶離液H:アセトニトリル:水=75:25の混合水溶液
流速 :1.3mL/分
測定試料:フルクトース、グルコース、シュクロース、マルトース(以上、いずれも和光純薬工業社製)の混合物
【0098】
得られたクロマトグラムを図5に示す。図5において、ピーク41はフルクトース、ピーク42はグルコース、ピーク43はシュクロース、ピーク44はマルトースを示す。図5より、各ピークが短時間で良好に分離できることを確認した。また同様の測定を10回連続して繰り返した際の、マルトースの保持時間の再現性を表1に示す。10回連続して測定した際のマルトースの保持時間のCV値は1.2%となり、再現性は良好であった。
【0099】
(4)重合再現性の評価
「(1)カラム充填剤の調製」と同様の条件により、カラム充填剤を20回(20ロット)調製した。各ロットについて、「(3)液体クロマトグラフィーによる性能評価」を行い、マルトースの保持時間の再現性を確認した。得られた結果を表1に示す。20ロット測定した際のマルトースの保持時間のCV値は2.6%となり、再現性は良好であった。
【0100】
(実施例5)
実施例5では、実施例1の撹拌工程1の条件を変更してカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0101】
(1)カラム充填剤の調製
実施例1における撹拌工程1の条件を、5℃及び3時間に変更した以外は、実施例1と同様に操作してカラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は6.1μm、粒度分布のCV値は29.3%であった。
【0102】
(2)カラムへの充填、及び液体クロマトグラフィーによる性能評価
実施例1と同様の方法により、カラムへの充填、及びヘモグロビン類の測定を行った。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は1.5%で、再現性は良好であった。
【0103】
(3)重合再現性の評価
実施例1と同様の方法により、重合再現性を評価した。20ロット測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は3.0%で、再現性は良好であった。
【0104】
(実施例6)
実施例6では、実施例1の撹拌工程1の条件を変更してカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を調製し、性能を確認した。
【0105】
(1)カラム充填剤の調製
実施例1における撹拌工程1の条件を、40℃及び1時間に変更した以外は、実施例1と同様に操作してカラム充填剤を得た。
実施例1と同様にして、得られたカラム充填剤の粒度分布を測定した結果、平均粒子径は5.8μm、粒度分布のCV値は32.8%であった。
【0106】
(2)カラムへの充填、及び液体クロマトグラフィーによる性能評価
実施例1と同様の方法により、カラムへの充填、及びヘモグロビン類の測定を行った。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は2.3%で、再現性は良好であった。
【0107】
(3)重合再現性の評価
実施例1と同様の方法により、重合再現性を評価した。20ロット測定した際のヘモグロビンA1cの保持時間のCV値は4.1%で、再現性は良好であった。
【0108】
(比較例1〜6)
比較例では、本発明の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法における工程2(撹拌工程1)の条件を満たさないカラム充填剤を調製した。比較例1〜6における撹拌工程の条件、及び、攪拌工程終了後の重合率を表1に示す。
撹拌工程1以外の条件は、比較例1は実施例1、比較例2は実施例2、比較例3は実施例3、比較例4は実施例4、比較例5は実施例5、比較例6は実施例6と同様に操作してカラム充填剤を調製した。なお、比較例5は撹拌工程1を行わなかった例、すなわち、単量体混合物を水性分散媒に添加した後、すぐに第1の重合反応を行った例を示す。
得られた各カラム充填剤の粒度分布の測定結果を表1に示す。比較例4では、攪拌工程において、分散液中の単量体混合物の一部が凍結して均一に撹拌することができず、第1の重合反応中に凝集物が発生してカラム充填剤粒子が得られなかった。
比較例における、保持時間による重合再現性(n=20)の評価結果を表1に示す。実施例に比較してCV値が大きな値となった。
以上から、撹拌工程の条件を規定することにより、得られるカラム充填剤の重合再現性が向上した。
【0109】
(ヘモグロビン類の測定性能評価)
撹拌工程の条件を規定したことによる、カラム充填剤の分離性能への影響を確認するため、実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、種々のヘモグロビン類を測定し、分離性能を評価した。
【0110】
(1)修飾ヘモグロビン類の測定
実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、人為的に調製した修飾ヘモグロビン類の測定を行った。修飾ヘモグロビン類を含む試料として、不安定型ヘモグロビンA1c含有試料(試料L)、アセチル化ヘモグロビン含有試料(試料A)、カルバミル化ヘモグロビン含有試料(試料C)の3種類を、公知の方法により調製した。
試料Lは、健常人血に、グルコースを2500mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温して調製した。試料Aは、健常人血に、アセトアルデヒドを60mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温して調製した。試料Cは、健常人血に、シアン酸ナトリウムを60mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温して調製した。
分離性能は、修飾ヘモグロビン類を含む試料のヘモグロビンA1c値から、修飾ヘモグロビン類を含む試料の調製に用いた健常人血(非修飾品)のヘモグロビンA1c値を差し引いた値(Δ値)を算出し、両者を比較して評価した。結果を表2に示す。
表2より、実施例1のカラム充填剤を用いた場合、Δ値は0.15%以下と小さく、修飾ヘモグロビン類が含まれる試料においても、正確にヘモグロビンA1cが測定できた。比較例1及び比較例6のカラム充填剤を用いた場合ではΔ値が大きく、ヘモグロビンA1cの測定時において、修飾ヘモグロビン類の影響を受けた。
【0111】
【表2】
【0112】
(2)異常ヘモグロビン類の測定
実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビンであるヘモグロビンS及びヘモグロビンCを含む試料(ヘレナ研究所社製、「AFSCヘモコントロール」)を測定した。
実施例1のカラム充填剤を用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図6に示す。図6において、ピーク14はヘモグロビンS、ピーク15はヘモグロビンCを示す。図6より、実施例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、異常ヘモグロビン類を良好に分離できた。比較例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、図7に示すように、異常ヘモグロビン類の分離性能は悪かった。比較例6で得られたカラム充填剤を用いた場合も比較例1の場合と同様に、異常ヘモグロビン類の分離性能は悪かった。
【0113】
(3)ヘモグロビンA2の測定
実施例1、比較例1及び比較例6のカチオン交換クロマトグラフィー用カラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含む試料(バイオラッド社製「A2コントロール(レベル2)」)を測定した。
実施例1の充填剤を用いて測定して得られたクロマトグラムを図8に示す。図8において、ピーク16はヘモグロビンA2を示す。図8より、実施例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、ヘモグロビンA2を良好に分離することができた。比較例1で得られたカラム充填剤を用いた場合は、図9に示すようにヘモグロビンA2を分離することはできなかった。比較例6で得られたカラム充填剤を用いた場合も比較例1の場合と同様に、ヘモグロビンA2を分離することはできなかった。
【0114】
上記のヘモグロビン類の測定性能評価から、撹拌工程の条件を規定したことにより、カラム充填剤の重合再現性だけでなく、分離性能も向上することが確認できた。
【0115】
(ヘモグロビン類の測定における、液体クロマトグラフィーの測定条件)
(測定例1〜12)
実施例1の「(1)カラム充填剤の調製」において、ポリビニルアルコール濃度、及び、撹拌時の回転数を表3に示すように制御して、平均粒径値の異なるカラム充填剤を調製し、各カラム充填剤を表3に示す内径、及び、長さの空カラムに充填した。なお、測定例7のカラム充填剤は実施例1で得られたカラム充填剤と同様のものである。
得られたカラムを用いて、実施例1の「(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2」の条件で健常人血のヘモグロビン類の測定を行った。なお、測定時における流速を表3に示すように変更して圧力値が異なる状態にして比較した。
【0116】
【表3】
【0117】
(性能評価)
(1)圧力値の測定
圧力値は、以下の方法により測定した。まず、各カラムを、液体クロマトグラフ(島津製作所社製、「LC−10Aシステム」)に接続した。次に、送液ポンプとカラムの間に、デジタル圧力計(長野計器社製、「GC61」)を接続し、溶離液Cを送液した時の圧力計の表示値を読み取った。測定結果を表3に示す。
【0118】
(2)同時再現性評価
健常人血を用いて、実施例1の「(4)液体クロマトグラフィーによる性能評価2」の条件でヘモグロビンA1cの測定を10回連続で行い、同時再現性の比較を行った。10回連続して測定した際のヘモグロビンA1c値のCV値を表3に示す。
測定例3〜10において、CV値は1.5%以下であり、糖尿病患者のヘモグロビンA1c値の管理を行うための充分な測定精度を示した。一方、測定例1及び測定例2では、CV値が5%以上と悪く、実用上問題のあるレベルであった。
【0119】
(3)カラム耐久性の評価
各測定例において、健常人血を繰り返し測定し、ヘモグロビンA1c値の推移を確認した。測定結果を図10及び図11に示す。ヘモグロビンA1c値(HbA1c(%))は、測定例3、7、及び、10では、2000回測定まで安定していた。一方、測定例1、2、11、及び、12では、ヘモグロビンA1c値が大きく低下した。
カラム耐久性の評価結果から、撹拌工程の条件、及び、圧力値を規定したことにより、カラム充填剤の分離性能は、多数の試料を測定しても維持された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、性能の再現性が良好なカラム充填剤の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該カラム充填剤の製造方法を用いて得られるカラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法、及び、ヘモグロビン類の測定方法を提供できる。
【符号の説明】
【0121】
1 トリプシノーゲン
2 α−キモトリプシノーゲン
3 リボヌクレアーゼA
4 リゾチーム
11 ヘモグロビンF
12 ヘモグロビンA1c
13 ヘモグロビンA0
14 ヘモグロビンS
15 ヘモグロビンC
16 ヘモグロビンA2
21 コンアルブミン
22 オブアルブミン
23 トリプシンインヒビター
31 チログロブリン
32 γ−グロブリン
33 オブアルブミン
34 リボヌクレアーゼ
41 フルクトース
42 グルコース
43 シュクロース
44 マルトース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法であって、
水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1と、
前記架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に前記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、前記分散液を1時間以上撹拌する工程2と、
反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3と、
反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4と、
反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5と、
反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、前記架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する
液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法。
【請求項2】
工程2における、架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に架橋性単量体の重合反応が進行しない温度が5〜40℃である請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法により得られるカラム充填剤を用いる液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法を用いる、ヘモグロビン類の測定方法。
【請求項5】
測定系に生じる圧力値を9.8×103Pa以上、19.6×105Pa以下に設定する請求項4記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項1】
親水性架橋重合体粒子からなる液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法であって、
水性分散媒中に架橋性単量体を分散させて分散液を得る工程1と、
前記架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に前記架橋性単量体の重合反応が進行しない温度で、前記分散液を1時間以上撹拌する工程2と、
反応系を一定の温度に保持して重合開始剤の存在下で第1の重合反応を行い、架橋重合体粒子を得る工程3と、
反応系の温度を5〜40℃に冷却する工程4と、
反応系に親水性単量体を添加し、反応系を5〜40℃で0.2〜24時間撹拌する工程5と、
反応系を一定の温度に保持して第2の重合反応を行い、前記架橋重合体粒子の表面に親水性単量体を重合する工程6を有する
液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法。
【請求項2】
工程2における、架橋性単量体の融点以上、かつ、実質的に架橋性単量体の重合反応が進行しない温度が5〜40℃である請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液体クロマトグラフィー用カラム充填剤の製造方法により得られるカラム充填剤を用いる液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の液体クロマトグラフィーによる試料の測定方法を用いる、ヘモグロビン類の測定方法。
【請求項5】
測定系に生じる圧力値を9.8×103Pa以上、19.6×105Pa以下に設定する請求項4記載のヘモグロビン類の測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−168055(P2012−168055A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30090(P2011−30090)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
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