説明

液体クロマトグラフィー装置及び充填剤の充填方法

【課題】可動栓やフランジに充填剤充填用のバルブ又はノズルを設ける事なく、充填剤をカラムに充填することができる液体クロマトグラフィー装置と、充填剤の充填方法を提供する。
【解決手段】液体クロマトグラフィー装置1は、下部側面にスラリー導入口2aを有したクロマトカラム2と、該クロマトカラム2内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための上側可動栓3及び下側可動栓4とを有する。上側可動栓3及び下側可動栓4をクロマトカラム2の下部に位置させ、この際、下側可動栓4を導入口2aよりも下位に位置させておき、上側可動栓3を上昇させて充填剤スラリーをクロマトカラム2内に導入する。次いで、下側可動栓4を若干上昇させた後、上側可動栓3を下降させて充填剤を加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー装置に係り、特にクロマトカラム内の充填剤又はそのスラリーを可動栓で加圧するよう構成した液体クロマトグラフィー装置に関する。また、本発明は、このクロマトカラム内に充填剤の充填層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは、天然物や発酵生産物、遺伝子組み替え等による培養生産物、合成反応物中の目的物質を目的の純度、精製速度で分離精製する手段として広く用いられている。
【0003】
クロマトカラム(液体クロマトグラフィー用カラム)へ充填剤を充填する場合、クロマトカラム内に充填剤スラリーを供給した後、可動栓を駆動手段で駆動させて該スラリーを加圧し、多孔板を有したクロマトカラム蓋又は該可動栓を介してスラリー中の溶媒をクロマトカラム外に押し出し、充填剤の充填層を形成することが行われている。充填終了後は、可動栓による充填層の加圧を維持する(特許文献1,2)。
【0004】
この特許文献1,2では、クロマトカラム内に充填剤スラリーを供給するときには、可動栓をクロマトカラム外に離脱させておき、充填剤スラリーを供給した後、可動栓をクロマトカラムに嵌合させ、前進させるようにしている。このように可動栓をクロマトカラム外に位置させて充填剤スラリーを供給する場合、クロマトカラム内に大気中から異物が混入するおそれが大きい。
【0005】
可動栓をカラム外に離脱させることなくクロマトカラム装置に充填剤を充填する方法として、特許文献3には、可動栓をカラムの所定位置まで移動させた後、可動栓中央部のバルブ(またはノズル)を開けて充填剤スラリーを注入し、ポンプ吐出圧で押圧する、あるいは、可動栓中央部のバルブ(またはノズル)を閉じて可動栓を下降させて充填剤を押圧する方法が記載されている。
【0006】
この特許文献3では、可動栓中央部にバルブ(またはノズル)があり、このバルブ(またはノズル)に相当する可動栓面積部分は、被処理液を流すことができない。また、被処理液がカラムに流入する面、あるいは流出する面に液が流れない部分があると、カラム内での液の流れに偏流が生じ、分離精製効率が低下する。また、充填剤スラリーをポンプの吐出圧のみで充填する場合、ポンプの吐出圧がポンプの状態、例えば温度や駆動部の劣化具合によって異なる為、充填条件を一定にする事が容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−346833
【特許文献2】特開2005−321302
【特許文献3】特開平4−98156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、可動栓やフランジに充填剤充填用のバルブ又はノズルを設けることなく、充填剤をカラムに充填することができる液体クロマトグラフィー装置と、充填剤の充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の液体クロマトグラフィー装置は、カラム軸心方向を上下方向にして配置されたクロマトカラムと、該クロマトカラム内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、該可動栓として上側可動栓及び下側可動栓を備えており、該上側可動栓及び下側可動栓にそれぞれ通液手段が設けられており、該クロマトカラムの側面の下部に充填剤スラリーの導入口が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
第2発明の充填剤の充填方法は、上記第1発明の液体クロマトグラフィー装置に対し充填剤を充填する方法であって、前記下側可動栓及び上側可動栓をクロマトカラムの下部に位置させ、この際、下側可動栓を前記スラリー導入口よりも下位に配置しておき、前記上側可動栓を上方に移動させて前記スラリー導入口から充填剤スラリーを前記クロマトカラム内に供給し、その後、下側可動栓をスラリー導入口よりも上位に位置させた後、上側可動栓を下降させるか又は下側可動栓を上昇させて充填層を形成することを特徴とするものである。
【0011】
第3発明の液体クロマトグラフィー装置は、カラム軸心方向を上下方向にして配置されたクロマトカラムと、該クロマトカラム内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、該可動栓として上側可動栓及び下側可動栓を備えており、該上側可動栓及び下側可動栓にそれぞれ通液手段が設けられており、該クロマトカラムの側面の上部に充填剤スラリーの導入口が設けられ、下部に充填剤スラリーの排出口が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
第4発明の充填剤の充填方法は、上記第3発明の液体クロマトグラフィー装置に対し充填剤を充填する方法であって、前記下側可動栓及び上側可動栓をクロマトカラムの上部に位置させ、この際、上側可動栓を前記スラリー導入口よりも上位に配置しておき、前記下側可動栓を下方に移動させて前記スラリー導入口から充填剤スラリーを前記クロマトカラム内に供給し、その後、上側可動栓をスラリー導入口よりも下位に位置させた後、上側可動栓を下降させるか又は下側可動栓を上昇させて充填層を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクロマトカラム装置は、可動栓として上側可動栓と下側可動栓とを備え、かつ、カラムの側面に充填剤スラリー導入口を備えている。この液体クロマトグラフィー装置及びこの液体クロマトグラフィー装置への充填剤の充填方法によれば、カラム内をカラム外雰囲気へ完全に開放すること無く、充填剤スラリーをカラム内に充填することができる。この液体クロマトグラフィー装置によると、被処理液の流れに偏流を生じること無く充填剤層に均一に分散させて、効率よく目的物の分離精製できる。また、カラム内をカラム外雰囲気へ完全に開放すること無く、一旦押圧した充填剤を再スラリー化して、カラム外へ容易に抜き出すことが可能になる。
【0014】
本発明によると、可動栓やフランジに充填剤充填用のバルブ又はノズルを設置しない為、被処理液をカラム内の充填剤層に均一分散でき、分離精製率を損なうことがない。
【0015】
本発明では、充填剤スラリーをカラム内に導入するポンプが不要であり、装置システムを簡略化して省スペース化でき、また、設備コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る液体クロマトグラフィー装置の縦断面である。
【図2】充填層の形成方法を示す説明図である。
【図3】充填層の形成方法を示す説明図である。
【図4】充填剤の排出方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1は実施の形態に係る液体クロマトグラフィー装置1を示している。この液体クロマトグラフィー装置1は、クロマトカラム2と、上側可動栓3と、下側可動栓4と、各可動栓3,4を進退させるためのシリンダ装置(ピストンロッド3d,4d以外は図示略)等を備えている。クロマトカラム2は、筒軸心方向を上下方向(この実施の形態では鉛直方向)として設置されている。クロマトカラム2の下部の側面に充填剤スラリーの導入口2aが設けられている。なお、充填剤スラリーは、充填剤を溶媒に分散させたスラリーである。溶媒は水、有機溶媒などのいずれでもよい。
【0018】
可動栓3の下面には、充填剤を通さない通液性の多孔板3aが設けられ、この多孔板3aの上側に流路3bが形成されている。この流路3bは、通液管3cを介して上側可動栓3外に連通している。
【0019】
下側可動栓4の上面には、充填剤を通さないが溶媒は通過させる通液性の多孔板4aが設けられており、この多孔板4aの下側に流路4bが形成されている。この流路4bは通液管4cを介して下側可動栓4外に通じている。
【0020】
前記シリンダ装置は、シリンダと、該シリンダ内のピストン(いずれも図示略)と、該ピストンに連なるピストンロッド3d又は4d等を備えている。このピストンロッド3dの下端が上側可動栓3に対し連結され、ピストンロッド4dの上端が下側可動栓4に連結されている。
【0021】
次に、以上の構成を有する液体クロマトグラフィー装置1への充填剤の充填方法を図2に基づいて説明する。なお、図2(a)〜(e)は図1の液体クロマトグラフィー装置を簡略化して示す縦断面図である。
【0022】
この充填方法では、まず図2(a)の通り、下側可動栓4をスラリー導入口2aの下縁と同一又はそれよりも下位とし、上側可動栓3を下側可動栓4に当接させる。この状態で充填用溶媒に充填剤を分散させてなる所定濃度の充填剤スラリーを収容したスラリータンク(図示略)と導入口2aとを接続するか、又は、スラリータンクとの接続配管のバルブを開き、上側可動栓3を上方向へ移動させる(図2(b))。これにより充填剤スラリーがカラム2内部に引き込まれる。所定量の充填剤スラリーがカラム2内に充填されるまで上側可動栓3をカラム上方向に移動させる(図2(c))。
【0023】
その後、下側可動栓4がスラリー導入口2aより上に来るまで、下側可動栓4を上に移動させるか、または、カラム2を下に移動させる(図2(d))。その後、上側可動栓3を下側に必要量だけ移動して充填層を圧縮して固定する(図2(e))。これにより、充填剤スラリー移送ポンプを使用すること無く、充填剤スラリーをカラム内に導入し、可動栓により任意の圧縮率まで再現性よく押圧でき、しかも、充填後の充填層に、被処理液を均一に流すことができ、従って、効率の良い分離精製が可能となる。
【0024】
この充填剤充填カラム2からは、上記充填操作を逆にすることによって、充填剤を抜き出すことができる。即ち、下側可動栓4の通液管4cから溶媒(充填剤スラリー化液)が吸い込めるように調整した状態で、上側可動栓3を上側に移動させる。これにより、通液管4cを介して溶媒が吸い込まれながら、上側可動栓3が上方向に移動していく(図2(d))。この時、圧縮されていた充填層がほぐれてスラリーとなる。次に、下側可動栓4をスラリー導入口2aより下側に移動させるか、又はカラム2を上方向に移動させ、スラリー導入口2aとカラム2内を連通させる(図2(c))。次いで、上側の可動栓3を下方向に移動させながら、カラム2内の充填剤スラリーをスラリー導入口2aを経て、カラム外へ押し出す(図2(b))。上側可動栓3が、下側可動栓4に密着するまで下げる(図2(a))。この間、溶媒を流し続けてもよく、あるいは、溶媒供給を一旦停止しておき、上側可動栓3と下側可動栓4とが密着する直前にカラム2内を溶媒でフラッシングしても良い。
【0025】
別の実施の形態を図3に示す。この実施の形態では、カラム2の側面の上部にスラリー導入口2aが設けられ、カラム2の側面の下部にスラリー排出口2bが設けられている。その他の構成は図1,2と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0026】
図3において、充填剤をカラム2に充填するには、図3(a)の通り、上側可動栓3及び下側可動栓4をカラム2の上部に位置させる。この時、上側可動栓3はスラリー導入口2aより上まで上げておき、下側可動栓4は上側可動栓3に当接するまで上げておく。次に、スラリー導入口2aをスラリータンクなどに接続し、あるいはスラリータンクとの接続配管のバルブを開き、図3(b)の通り、下側可動栓4を下方向へ移動させ、充填剤スラリーをカラム2内部に導入する。所定量の充填剤スラリーがカラム2内に充填されるまで下側カラム4を下方向に移動させる(図3(c))。この時、下側可動栓4をスラリー排出口2bより下に下げないようにする。その後、図3(d)の通り、上側可動栓3がスラリー導入口2aより下に来るまで、上側可動栓3を下に移動させるか、または、カラム2を上に移動させる。最後に、上側可動栓3を下側に必要量だけ移動して充填層を圧縮して固定する(図3(e))。
【0027】
このようにして、スラリー移送ポンプを使用すること無く、充填剤スラリーをカラム内に導入し、可動栓により任意の圧縮率まで再現性よく押圧でき、しかも、充填後の充填層に、被処理液を均一に流すことができ、従って、効率の良い分離精製が可能となる。
【0028】
図3(a)〜(e)の場合も、上記充填操作を逆にすることにより、カラム2から充填剤を抜き出すことができる。
【0029】
また、図3(e)の状態の充填剤充填カラム2から、図4のようにして充填剤をカラム2から抜き出すこともできる。即ち、図4(a)の充填層形成状態から、図4(b)のように上側可動栓3を上方向に移動し、スラリー導入口2aより下で止める。この時、下側可動栓4の通液管4cから溶媒が吸い込めるように調整しておき、上側可動栓3の上方向の移動でカラム2内に吸い込ませ、充填層をスラリー化させる(図4(b))。次に図4(c)の通り、下側可動栓4を下方向に移動させるか、または、カラム2を上に移動させて、下側可動栓4をスラリー排出口2bより下に位置させ、スラリー排出口2bとカラム2内を連通させる。次いで、図4(d)の通り、上側可動栓3を下方向に移動させながら、カラム2内の充填剤スラリーをスラリー排出口2bを介してカラム2外に押し出す。図4(e)の通り、上側可動栓3を下側可動栓4に当接するまで下げることにより、カラム2内のスラリーの全量がカラム2外に押し出される。この間、溶媒を流し続けてもよく、あるいは、溶媒供給を一旦停止しておき、上側可動栓3と下側可動栓4が当接する直前にフラッシングしても良い。
【0030】
上記実施の形態では、クロマトカラム2を鉛直に設置するように図示しているが、クロマトカラム2を若干(例えば鉛直線に対し数度ないし十数度程度)傾けてもよい。
【0031】
上記実施の形態では、充填層を加圧する場合に上側可動栓を下降させているが、下側可動栓を上昇させるようにしてもよい。また、上側可動栓を下降させ且つ下側可動栓を上昇させてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 液体クロマトグラフィー装置
2 クロマトカラム
3 上側可動栓
4 下側可動栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム軸心方向を上下方向にして配置されたクロマトカラムと、該クロマトカラム内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、
該可動栓として上側可動栓及び下側可動栓を備えており、
該上側可動栓及び下側可動栓にそれぞれ通液手段が設けられており、
該クロマトカラムの側面の下部に充填剤スラリーの導入口が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体クロマトグラフィー装置に対し充填剤を充填する方法であって、
前記下側可動栓及び上側可動栓をクロマトカラムの下部に位置させ、この際、下側可動栓を前記スラリー導入口よりも下位に配置しておき、前記上側可動栓を上方に移動させて前記スラリー導入口から充填剤スラリーを前記クロマトカラム内に供給し、その後、下側可動栓をスラリー導入口よりも上位に位置させた後、上側可動栓を下降させるか又は下側可動栓を上昇させて充填層を形成することを特徴とする充填剤の充填方法。
【請求項3】
カラム軸心方向を上下方向にして配置されたクロマトカラムと、該クロマトカラム内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、
該可動栓として上側可動栓及び下側可動栓を備えており、
該上側可動栓及び下側可動栓にそれぞれ通液手段が設けられており、
該クロマトカラムの側面の上部に充填剤スラリーの導入口が設けられ、下部に充填剤スラリーの排出口が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体クロマトグラフィー装置に対し充填剤を充填する方法であって、
前記下側可動栓及び上側可動栓をクロマトカラムの上部に位置させ、この際、上側可動栓を前記スラリー導入口よりも上位に配置しておき、前記下側可動栓を下方に移動させて前記スラリー導入口から充填剤スラリーを前記クロマトカラム内に供給し、その後、上側可動栓をスラリー導入口よりも下位に位置させた後、上側可動栓を下降させるか又は下側可動栓を上昇させて充填層を形成することを特徴とする充填剤の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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