説明

液体クロマトグラフ装置

【課題】
本発明の解決すべき課題は、評価情報管理の統一が図られ、分析結果について高い信頼性を維持できる液体クロマトグラフ装置を提供することにある。
【解決手段】
被検試料が含有する成分を分離する分離手段14と、前記分離手段により分離された所定成分の検出を行う検出手段16と、前記所定成分に関する定性ないし定量に必要な評価情報を記憶する評価情報記憶手段32と、前記被検試料中の所定成分及び分析目的に対応して、評価情報記憶手段の記憶する評価情報を選択し、該選択評価情報と検出手段出力情報とを対比し、被検試料の含有する所定成分に関する定性ないし定量情報を取得する分析データ処理手段34と、を備えた液体クロマトグラフ装置において、
選択された評価情報が妥当であるか否かの判定を行う判定手段36と、前記判定手段の判定結果が妥当でないとされたときに、警告を表示する警告手段38と、を備えたことを特徴とする液体クロマトグラフ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフ装置、特にそのデータ評価機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、液体クロマトグラフ装置は、未知の試料を分析する前に、既知の標準試料を分析し、その標準試料分析結果を基に所定成分の保持時間、濃度とピーク高さないし面積の関係などの評価情報を得ておく。例えば未知試料中の特定成分の定量分析を行う際には、該特定成分の濃度の異なる複数の標準試料の分析を行い、検量線を作成する(特許文献1等)。この検量線の信頼性を高める為には、検量線作成に用いられた標準試料を測定して得られた値の測定日時や、作成した検量線の作成日時、相関係数、決定係数の管理を行うことが必要である。一方、未知試料の定性分析は、既知の標準試料を分析した際に得られている保持時間等の評価情報との対比により行われる。
さらに、分析結果の精度維持のためには、その分析結果が検量線の検量域内にあるか否か、或いは分析条件が検量線作成時の条件から逸脱していないかなどの確認が必要である。
従来は、これらの確認については一般に分析者ないし機器管理者に委ねられている。
しかしながら、時としてこれらの定性、定量作業に必要な評価情報は、その管理や確認が怠られ、或いは作業者の力量の差異により異なった判断が下され、分析結果の信頼性を低下させる要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−256839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、評価情報管理の統一が図られ、分析結果について高い信頼性を維持できる液体クロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために本発明にかかる液体クロマトグラフ装置は、
被検試料が含有する成分を分離する分離手段と、
前記分離手段により分離された所定成分の検出を行う検出手段と、
前記所定成分に関する定性ないし定量に必要な評価情報を記憶する評価情報記憶手段と、
前記被検試料中の所定成分及び分析目的に対応して、評価情報記憶手段の記憶する評価情報を選択し、該選択評価情報と検出手段出力情報とを対比し、被検試料の含有する所定成分に関する定性ないし定量情報を取得する分析データ処理手段と、
選択された評価情報が妥当であるか否かの判定を行う判定手段と、
前記判定手段の判定結果が妥当でないとされたときに、警告を表示する警告手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0006】
また、前記装置において、選択評価情報は所定成分の検量線を作成するためにあらかじめ採取された複数点の標準試料を測定して得られた値であり、
判定手段は、前記複数点の標準試料を測定して得られた値の測定日時と検量線作成日時の差及び/又は各測定日時間の差が所定期間を超えているときに、該選択評価情報が妥当でないと判定することが好適である。
また、前記判定手段は、前記複数点の標準試料を測定して得られた値から得られる検量線の相関係数が所定閾値以下である場合に、該選択評価情報が妥当でないと判定することが好適である。
【0007】
また、前記判定手段は、前記複数点の標準試料を測定して得られた値から得られる検量線の決定係数が所定閾値以下である場合に、該選択評価情報が妥当でないと判定することが好適である。
また、前記判定手段は、検量線の作成に用いた複数点の標準試料を測定して得られた値の最大値を超えた測定値となる被検試料の測定を行った場合に、該選択評価情報が妥当でないと判定することが好適である。
【0008】
また、前記クロマトグラフ装置において、選択評価情報は、一連の分析プログラムの中に含まれる複数の同一試料に関する分析結果のいずれかの属性であり、
判定手段は、前記同一試料の属性を比較してその差異を指標値とし、該指標値が所定閾値以上である場合に、該評価情報が妥当でないと判定することが好適である。
また、前記装置において、選択評価情報が妥当でないと判定された場合に警告表示の履歴を保存する履歴記憶手段を備えたことが好適である。
また、前記装置において、警告表示に対する対応履歴を履歴記憶手段に保存することが好適である。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明にかかる液体クロマトグラフ装置は、前述したように評価情報の判定手段を備えたので、検量線作成等に用いる評価情報の取得、選択に問題がある場合には警告が表示され、適切な対応を促すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置の概略構成が示されている。
同図に示すように、本実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置10は、被検試料供給手段12と、該被検試料供給手段12から供給される被検試料をその構成成分に時系列分離する試料分離手段14と、試料分離手段14からの溶離成分の検出を行う検出手段16と、装置の制御、管理及び取得データ処理を行うコンピュータ18を含む。
前記被検試料供給手段12は、溶離液を貯留する溶離液タンク20と、該タンク20から供給される溶離液を圧送するポンプ22と、被検試料24を流路中に供給するインジェクタ26を備える。
【0011】
また、前記試料分離手段14は、充填剤が充填されたカラム28を含む。
検出手段16としては、吸光度計30、電気伝導度計、示差屈折率計等がある。
そして、前記被検試料供給手段12では溶離液の種類、ポンプ圧力、送液量などのパラメータが存在し、分離手段14には充填剤の種類、カラムの形状、大きさ、温度などのパラメータが存在し、さらに検出手段16には検出器種類、感度等のパラメータが存在する。
これらの各手段のパラメータはコンピュータ18で設定、管理が行われている。
【0012】
一方、コンピュータ18は定性、定量に必要な評価情報が蓄積された評価情報記憶手段32、及び検出手段16の出力と検量線等の評価情報を比較し特定成分の定性ないし定量を行う分析データ処理手段34としても機能している。
すなわち、コンピュータ18のハードディスク等には、各種成分の標準試料分析を基に作成された標準試料を測定して得られた値が蓄積されており、実際の被検試料の分析にあたっては、分析者は被検試料の種類、分析条件等に適合した複数の標準試料を測定して得られた値を選択し、検量線を作成する。そして、検出手段16から送られてくるピーク位置から該当成分を特定し、ピーク高さ或いはピーク面積などを検量線と対比し、定量を行う。
【0013】
ところで、液体クロマトグラフ装置、特にその溶離液、充填剤或いは検出器は経時変化を生じ、場合によってはそれぞれ交換などが必要となる。
そして、経時変化が生じ或いは部品交換等が行われた場合には、新たに標準試料を測定して得られた値を得る必要を生じる場合があり、これを無視して分析結果の解析を行うと分析精度に大きな影響を与えるおそれがある。また、標準試料にあたっても、その溶媒、あるいは各手段のパラメータの相違を考慮しなければならない。
そこで本実施形態では、選択評価情報の選択が妥当であるか否かの判定を行う判定手段36と、該判定手段36の判定結果が妥当でないとされたときに、警告を表示する警告手段38とを備えているのである。
【0014】
すなわち、前記判定手段36は、本実施形態においてコンピュータ18がその機能を果たしており、選択された複数の標準試料を測定して得られた値の各データ採取からの経過日時、あるいは各標準試料を測定して得られた値のデータ取得日時差をあらかじめ定められた所定期間と対比する。そして、経過日時ないしデータ取得日時差が所定期間を超過している場合には、コンピュータディスプレイ(警告手段)にその旨表示し、注意を喚起する。さらに本実施形態では履歴記憶手段40を備えており、これらの警告履歴、及びこの警告に対する対応履歴を記録しておく。
【0015】
図2は本発明の第一実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャートが詳細に示されている。
同図より明らかなように、検量線作成用の標準試料を測定して得られた値(評価情報)を採取しコンピュータのハードディスク(評価情報記憶手段)に記憶させる(S1)。
そして、分析者が分析を行う段階で、検量線を作成する為の複数の標準試料を測定して得られた値を選択する(S2)。さらに分析者は、検量線を作成する為の条件を設定し(S3)、データ処理手段34に検量線の作成を指示する(S4)。そうすると、判定手段36は選択された標準試料を測定して得られた値のうち、最新のデータと最古のデータの、測定日時の時間差、及び/又は最古のデータの測定日時と検量線作成日時との時間差を計算し(S5)、あらかじめ指定された閾値と比較する(S6)。この結果、閾値未満であるならば検量線を作成し(S7)、閾値以上であるならば選択した標準試料を測定して得られた値が不適としてディスプレイへ警告を表示し、警告履歴を保存する(S8)。
【0016】
この警告に対し、分析者が無視して検量線作成を指示する(S9)と、その操作履歴を保存するとともに警告表示を消去して検量線作成を行う(S10)。また、分析者が検量線の再作成を指示すると、データ選択工程(この場合、データ追加及び/又は削除も含まれる)(S2)に戻り、再作成を行う。
このようにして本実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置では、当該分析に関し十分な力量を有する者が分析精度維持のために必要な標準試料の測定日時の時間差に関し閾値設定を行っておくことにより、適切な検量線設定を行うよう分析者に促すことが可能となり、また予備分析などで高度な精度が要求されないときには警告をスキップすることも可能となる。さらに、警告を無視した場合には、警告表示は消去されるが、警告を無視してデータ処理を進行した事実は履歴記憶手段32に記録を残すため、分析データの精度に関し確認が容易である。
【0017】
図3には本発明の第二実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャートが示されている。
本実施形態においては、選択された複数の標準試料を測定して得られた値から検量線を作成する際に検量線の相関係数を計算し、閾値と比較する。そして、閾値以下であると警告を表示するように構成されている。
【0018】
また、図4には本発明の第三実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャートが示されている。
本実施形態では、選択された複数の標準試料を測定して得られた値から得られた回帰方程式(検量線)の妥当性を示す決定係数を計算し、閾値と比較する。そして、閾値以下であると警告を表示するように構成されている。
【0019】
また、図5には本発明の第四実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャートが示されている。
本実施形態では、検量線作成後に実際に分析を行い、その後に検量線作成した際の標準試料を測定して得られた値の選択の妥当性を検証している。
すなわち、分析試料中の特定成分の測定値が、検量線を作成した際に選択した標準試料を測定して得られた値の最大値よりも大きい場合、飽和等により精度が低下する可能性があるため、警告を表示するように構成されている。
【0020】
また、図6は本発明の第五実施例にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャートが示されている。
本実施形態では、一連の分析プログラムを有し、一回の分析を終了する度に自動で分析結果を計算し、次順の分析を行い、自動で分析結果を計算するといった流れでプログラムが終了するまで繰り返す。この一連の流れの中で分析条件の精度維持を目的として、同一の試料成分(例えば同じ容器から小分けした標準物質)が含まれた分析を2度以上行う場合、同一試料成分の分析結果(例えば、分析結果から得られるクロマトグラムの保持時間、高さ、面積、半値幅、理論段数、非対称係数)の差を自動で計算させる。次にあらかじめデータ処理装置に記憶されていた閾値との比較を自動で行い、この差があらかじめ記憶されている閾値以上であれば警告を表示する。
【0021】
このように、複数の評価情報を実際の分析過程で得、その評価情報同士の比較を行うことでクロマトグラフ装置ないしクロマトグラムの評価を行うことも好適である。
なお、本発明において、標準試料測定時の各手段の送液流量、温度、検出感度といったパラメータを評価情報記憶手段32に記憶し、標準試料測定時と実際の被検試料分析時のパラメータ相違を見出したときに警告を行うことも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかるクロマトグラフ装置の概略構成の説明図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャート図である。
【図3】本発明の第二実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャート図である。
【図4】本発明の第三実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャート図である。
【図5】本発明の第四実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャート図である。
【図6】本発明の第五実施形態にかかる液体クロマトグラフ装置のデータ処理フローチャート図である。
【符号の説明】
【0023】
10 液体クロマトグラフ装置
12 試料供給手段
14 分離手段
16 検出手段
32 評価情報記憶手段
34 分析データ処理手段
36 判定手段
38 警告手段
40 履歴記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料が含有する成分を分離する分離手段と、
前記分離手段により分離された所定成分の検出を行う検出手段と、
前記所定成分に関する定性ないし定量に必要な評価情報を記憶する評価情報記憶手段と、
前記被検試料中の所定成分及び分析目的に対応して、評価情報記憶手段の記憶する評価情報を選択し、該選択評価情報と検出手段出力情報とを対比し、被検試料の含有する所定成分に関する定性ないし定量情報を取得する分析データ処理手段と、
を備えた液体クロマトグラフ装置において、
選択された評価情報が妥当であるか否かの判定を行う判定手段と、
前記判定手段の判定結果が妥当でないとされたときに、警告を表示する警告手段と、
を備えたことを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、選択評価情報は所定成分の検量線を作成するためにあらかじめ採取された複数点の標準試料を測定して得られた値であり、
判定手段は、前記複数点の標準試料を測定して得られた値のいずれかの測定日時と検量線作成日時の差及び/又は標準試料測定日時間の差が所定期間を超えているときに、該選択評価情報が妥当でないと判定することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、選択評価情報は所定成分の検量線を作成するためにあらかじめ採取された複数点の標準試料を測定して得られた値であり、
判定手段は、前記複数点の標準試料を測定して得られた値から得られる検量線の相関係数ないし決定係数が所定閾値以下である場合に、該選択評価情報が妥当でないと判定することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、選択評価情報は所定成分の検量線を作成するためにあらかじめ採取された複数点の標準試料を測定して得られた値であり、
判定手段は、検量線の作成に用いた複数点の標準試料を測定して得られた値の最大値を超えた測定値となる被検試料の測定を行った場合に、該選択評価情報が妥当でないと判定することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、選択評価情報は、一連の分析プログラムの中に含まれる複数の同一試料に関する分析結果のいずれかの属性であり、
判定手段は、前記同一試料の属性を比較してその差異を指標値とし、該指標値が所定閾値以上である場合に、該評価情報が妥当でないと判定することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の装置において、選択評価情報が妥当でないと判定された場合に警告表示の履歴を保存する履歴記憶手段を備えたことを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、警告表示に対する対応履歴を履歴記憶手段に保存することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−181291(P2010−181291A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25350(P2009−25350)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)