説明

液体クロマトグラフ,液体クロマトグラフ用試料導入装置、および液体クロマトグラフ用試料導入装置の洗浄方法

【課題】ゴーストピークの検出を防止し、クロマトグラムの分離度を向上させることで、高感度で、分析時間が長くなることを防止できる液体クロマトグラフ用試料導入装置の洗浄方法を実現する。
【解決手段】試料貯留ループを移動相流路に接続するか切り離すかを切り替える第1の流路切替手段と、試料を吸引し吐出するニードルへの試料の吸引と吐出とを試料を計量して行う計量手段と、洗浄液を送液する洗浄液送液手段と、少なくとも二種の洗浄液を切り替える第2の流路切替手段と、ニードルと計量手段との接続、およびニードルと洗浄液送液手段との接続を切り替える第3の流路切替手段と、第1の流路切替手段,計量手段,洗浄液送液手段,第2の流路切替手段,第3の流路切替手段の動作を制御する制御手段とを備え、試料貯留ループに試料の全量を注入するとともに試料貯留ループから試料注入口までの流路に洗浄液を注入するように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ,液体クロマトグラフ用試料導入装置、および液体クロマトグラフ用試料導入装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料分析装置の一種類である液体クロマトグラフにおいては、ポンプ装置により移動相が吸入され、自動試料導入装置により導入された試料とともにカラムへと送液される。カラムに導入された試料は各々の成分に分離され、各種の検出器により検出される。一般に、高速液体クロマトグラフ(HPLC)と呼ばれる装置分野においては、最大20〜40MPaの高圧流路下で分析を行うことが要求される。このようなHPLC用ポンプ装置においては、高圧力下でも正確に且つ精密に移動相を供給できることが要求される。
【0003】
また、自動試料導入装置は、サンプルラックに並べられた試料保持容器からニードルによって試料液を吸引後、試料貯留ループに試料を貯留し、液体クロマトグラフの移動相流路中に自動で注入するための装置である。また、移動相流路中に注入する前に試料を希釈したり、試料と反応試薬とを混合してラベル化する等の前処理機能が備わった自動試料導入装置も多く使用されている。
【0004】
このような自動試料導入装置における注入方式は、ニードルおよび試料貯留ループが、高圧下にある移動相流路の一部に組み込まれるダイレクトインジェクション方式(例えば、特許文献1,特許文献2参照)と、試料貯留ループのみが、高圧下にある移動相流路の一部に組み込まれるループインジェクション方式(例えば、特許文献3,特許文献4参照)の2種類に大別される。
【0005】
ダイレクトインジェクション方式は、ニードルおよび試料貯留ループ内に一時的に貯留された試料が、分析開始時に移動相によってカラムへと押し流されるとともに、分析中はニードルおよび試料貯留ループの内部が移動相によって常時フラッシングされるため、吸引した試料を無駄なくカラムに導入でき、試料で汚染されたニードルの内部を洗浄するための別の手段を必要としないといった利点がある。
【0006】
一方、分析中、ニードルが移動相流路の一部に組み込まれる原理上から、高圧下でニードルと試料保持容器の試料注入口との間の液密性を保持する構造が必要であり、前処理の希釈や混合といった試料のハンドリングには適していないという欠点を有する。
【0007】
これに対し、ループインジェクション方式は、分析中、ニードルが高圧下の移動相流路外にあるため、分析中であってもニードルの移動や試料計量が可能であり、ニードルと試料保持容器の試料注入口との間の液密性を保持する構造が不要であることから、分析中に試料の前処理が実施できるという利点がある。一方、ニードル内部を洗浄する別の手段とその工程が必要となるため、ダイレクトインジェクション方式に比べて、試料注入に要する時間が長くなるという欠点がある。
【0008】
このように、上述した2種類の注入方式は互いに利点と欠点とを有することから、分析の目的用途に応じて、いずれかの方式を選択できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−248055号公報
【特許文献2】特開2006−292641号公報
【特許文献3】特開平6−235722号公報
【特許文献4】特開昭61−114143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したループインジェクション方式の試料導入ユニットにおいて、試料を全量無駄なくカラムに導入したい場合、カラムに導入する試料を試料貯留ループ内に一次的に貯留する過程において、実際の試料溶解液の他に洗浄液も同時に試料貯留ループ内に貯留されることになる。即ち、結果的に洗浄液がカラムへ導入されることになるため、従来技術においては、次のような課題があった。
【0011】
第1に、移動相と洗浄液とで異なる溶媒を用いた場合、洗浄液自身はカラム内に強く保持されずほぼ素通りした状態で、検出器に到達する。ここで、移動相と洗浄液との光吸収に関する波長特性が異なる場合、その光吸収の差分が検出器にて検出され、クロマトグラム上に記録される。この洗浄液によるゴーストピークは、特に微量試料を高感度で分析する場合に問題となる。
【0012】
第2に、移動相と洗浄液とで同じ溶媒を用いた場合においても、特に、試料成分の洗浄液への溶解性が高い場合は、上述した試料導入過程において試料溶解液の希釈化が促進され、試料溶解液はより広いバンド幅となって、試料貯留ループ内に貯留される。その結果、試料溶解液はより広いバンド幅を持って、カラムへと到達することになるため、検出器で検出する試料成分のクロマトグラムのピーク幅も広がる結果をもたらす。即ち、目的成分の分離度が悪化するため分析時間が長くなり、クロマトグラフ装置としての処理能力が低下するという問題があった。また、同時に、試料成分のクロマトグラムのピーク高さも減少することになるため、液体クロマトグラフとしての感度も低下するという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、ゴーストピークの検出を防止し、クロマトグラムの分離度を向上させることで、高感度で、分析時間が長くなることを防止できる液体クロマトグラフ,液体クロマトグラフ用試料導入装置、および液体クロマトグラフ用試料導入装置の洗浄方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、試料貯留ループを有し、上記試料貯留ループを上記移動相流路に接続するか、上記移動相流路から切り離すかを切り替える第1の流路切替手段と、試料を吸引し、吐出するニードルと、上記ニードルへの試料の吸引と吐出とを試料を計量して行う計量手段と、洗浄液を送液する洗浄液送液手段と、少なくとも二種の上記洗浄液を切り替える第2の流路切替手段と、上記ニードルと上記計量手段との接続と、上記ニードルと上記洗浄液送液手段との接続とを切り替える第3の流路切替手段と、上記第1の流路切替手段,上記計量手段,上記洗浄液送液手段,上記第2の流路切替手段、及び上記第3の流路切替手段の動作を制御する制御手段とを備える。
【0015】
また、本発明は、上記試料貯留ループに試料の全量を注入し、上記試料貯留ループから試料注入口までの流路に洗浄液を注入するように構成したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゴーストピークの検出を防止し、クロマトグラムの分離度を向上させることで、高感度で、分析時間が長くなることを防止できる液体クロマトグラフ,液体クロマトグラフ用試料導入装置、および液体クロマトグラフ用試料導入装置の洗浄方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例であるループインジェクション方式の自動試料導入装置を用いた液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図2】動作制御部の制御対象を示す機能図である。
【図3】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図4】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図5】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図6】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図7】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図8】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図9】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図10】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図11】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図12】図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。
【図13】クロマトグラムの一例を示すグラフである。
【図14】クロマトグラムの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0019】
〔実施例〕
図1は、本発明の実施例であるループインジェクション方式の自動試料導入装置を用いた液体クロマトグラフ装置の概略構成図である。図1において、試料保持容器1はサンプルラック14上に設置される。ニードル2は、試料保持容器1と、洗浄槽10と、6ポート2ポジションのインジェクションバルブ8の試料注入口3との間を、図示しないニードル移動機構により移動される。
【0020】
6ポート2ポジションのインジェクションバルブ8は、6個のポートと、それらの中の2個の隣りあったポートを連通する流路とを有し、インジェクトポジションでは、図に示すように、ポートP1とポートP6、ポートP2とポートP3、ポートP4とポートP5とが連通されている。また、ポートP1にポンプ装置7、ポートP2にカラム6、ポートP3とポートP6間に試料貯留ループ5、ポートP4に試料注入口3、ポートP5に廃液を排出するドレイン22が接続されている。また、カラム6は検出器30に配管で接続され、検出器30でカラム6から供給される分離された試料を検出し、図示しないデータ処理装置へ検出信号を送る。
【0021】
6ポート2ポジションのインジェクションバルブ8は、60度回転させることによって、もう一つのポジションをとることができる。ロードポジションでは、図1中に破線で示すように、ポートP1とポートP2、ポートP3とポートP4、ポートP5とポートP6が連通する。
【0022】
ロードポジションでは、ポンプ装置7,ポートP1,ポートP2,カラム6の順番で連通し、ポンプ装置7から送液される移動相に試料が注入されることなく、カラムへ流れる。また、ニードル2,試料注入口3,ポートP4,ポートP3,試料貯留ループ5,ポートP6,ポートP5,ドレイン22の順番で連通し、試料保持容器1からニードル2で吸引された試料が試料注入口3から注入され、試料貯留ループ5が試料で満たされる。
【0023】
インジェクトポジションでは、試料貯留ループ5に保持された試料が、ポンプ装置7から送液される移動相によってカラム6へ押し流される。また、試料を変更した場合にニードル2を洗浄するため、ニードル2を洗浄槽10へ位置付け、洗浄ポンプ装置15からシリンジバルブ16を介してニードル2へ洗浄液を流し、また、そのニードル2を試料注入口3へ位置付けることで、インジェクションバルブ8の洗浄を行う。洗浄ポンプ装置15,シリンジバルブ16,プランジャ洗浄流路17,三方バルブ18,洗浄液容器20,洗浄液容器21,脱気装置24,脱気装置25をまとめて洗浄ユニットと称する。
【0024】
5ポート4ポジションのシリンジバルブ16は、5個のポートを有し、図中に実線および破線で示す4種類の位置の通路が設けられ、2個のポート間が連通される。ポートP1は洗浄槽10と連通し、ポートP2はニードル2と連通し、ポートP3は試料を計量するシリンジ11と連通し、ポートP4はポンプ装置7のプランジャを洗浄するプランジャ洗浄流路17と連通し、ポートP5は洗浄ポンプ装置15と連通している。そして、45度ずつ回転させることによって、4つのポジションをとることができる。第1のポジションはポートP5とポートP1、およびポートP2とポートP3とが連通する。第2のポジションは、ポートP5とポートP2、およびポートP3とポートP4とが連通する。第3のポジションは、図中で実線で示されたもので、ポートP5とポートP3のみが連通する。第4のポジションは、ポートP5とポートP4のみが連通する。
【0025】
洗浄液はその用途により例えば2種類が用意され、洗浄液Aが洗浄液容器20に、洗浄液Bが洗浄液容器21に保持され、脱気装置24,25を介し、三方バルブ18で洗浄液Aと洗浄液Bのどちらかが洗浄ポンプ装置15で吸引され、シリンジバルブ16,バッファチューブ13からニードル2へ送られる。プランジャ洗浄流路17とポンプ装置7とを連通することで、ポンプ装置7のプランジャ表面に析出する移動相内に含まれた塩を洗浄することができる。
【0026】
シリンジバルブ16が、ポートP1とポートP5、およびポートP2とポートP3が連通しているポジションにあるとき、ニードル2はバッファチューブ13を介して、試料を計量するシリンジ11に接続され、シリンジ11が上下に操作されることによって、ニードル2からシリンジ11までの配管内の液体の吸引と吐出を行う。
【0027】
図2は、液体クロマトグラフ装置のバルブ等の動作する機構を制御する動作制御部201の制御対象を示す機能図である。動作制御部201は、図示しないメモリに予め保持された制御プログラムを実行するプロセッサを有し、ニードル移動機構202,シリンジ動作機構203,洗浄ユニット動作機構204,シリンジバルブ動作機構205,三方バルブ動作機構206,インジェクションバルブ動作機構207に動作指令を送信する。
【0028】
シリンジ11は、シリンジ動作機構203により、その移動及び吸引吐出動作が制御される。洗浄ユニットは、洗浄ユニット動作機構204により動作される。シリンジバルブ16は、シリンジバルブ動作機構205により動作される。三方バルブ18は、三方バルブ動作機構206により動作される。インジェクションバルブ8は、インジェクションバルブ動作機構207により動作される。
【0029】
次に、試料注入工程を説明する。本実施例におけるループインジェクション方式は、ニードル2から吸引した試料を全量、インジェクションバルブ8の試料貯留ループ5に送り込み、試料を分離するカラム6に到達させるため、全量注入方式とも呼ばれる。ここで、次のような用語の取り決めを行う。
【0030】
vi:インジェクションボリューム、移動相流路への正味の試料導入量である。vf:フィードボリューム。vd:デッドボリューム、試料注入口からインジェクションバルブまで。va:エアボリューム、試料前後の空気層の容積である。ここで、vaを試料前後に挟むか否かの設定は、自動試料導入装置として選択することが可能である。
【0031】
前出の図1は、自動試料導入装置が初期化され、アイドル状態である流路を示している。試料が注入されていない移動相が、ポンプ装置7からインジェクションバルブ8の試料貯留ループ5を介して、カラム6へと流れている。一方、洗浄液Aを保持する洗浄液容器20が、三方バルブ18,洗浄ポンプ装置15,シリンジバルブ16のポートP5に連通するポートP3を介してシリンジ11に接続されることで、シリンジ11内が洗浄液Aで洗浄されている。また、ニードル2は、洗浄槽10の上方に位置し、ニードル2から滴下する液を洗浄槽10で受けるようにしている。
【0032】
図3は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、洗浄液容器21に保持された洗浄液Bによりバッファチューブ13とニードル2の内部が置換されて洗浄される状態を示している。ニードル2を試料注入口3に移動させ、インジェクションバルブ8のポートP4に連通させる。また、シリンジバルブ16を、図1の状態に対して時計回りに45度回転させて、ポートP5とポートP2とを連通させるとともに、ポートP3とポートP4とを連通させるポジションに切り替える。さらに、三方バルブ18を、洗浄液Bを保持する洗浄液容器21に切り替える。そして、洗浄ポンプ装置15により洗浄液Bをシリンジバルブ16,バッファチューブ13,ニードル2,インジェクションバルブ8へ送液し、インジェクションバルブ8のポートP4に連通するポートP5内も洗浄され、ドレイン22から洗浄液Bが排出される。
【0033】
図4は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、ニードル2の外側が洗浄槽10内の洗浄液Aで洗浄される状態を示している。インジェクションバルブ8のポートの位置は変えず、シリンジバルブ16を、図3の状態に対して時計回りに45度回転させて、ポートP5とポートP1とを連通させるとともに、ポートP2とポートP3とを連通させるポジションに切り替える。洗浄ポンプ装置15により洗浄液容器20内の洗浄液Aをシリンジバルブ16を介して洗浄槽10へ送り、ニードル2を洗浄槽10内の洗浄液Aに浸漬し、シリンジ11で吸引してシリンジバルブ16やニードル2を含む配管内を洗浄液Aで満たす。吸引する量は、vf+vd、すなわちフィードボリュームとデッドボリュームを合せた量である。また、ニードル2を洗浄槽10へ浸漬することで、ニードル2の外側が洗浄される。
【0034】
図5は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、試料を吸引する工程を示している。図5に示すように、シリンジバルブ16とインジェクションバルブ8のポートの位置は変えずに、ニードル2を洗浄槽10から試料保持容器1へ移動させるが、その移動の最中に、シリンジ11により空気を吸引させる。その吸引量は、エアボリュームvaの半分である。次に、ニードル2を試料保持容器1へ移動させてシリンジ11により試料を吸引する。その吸引量は、インジェクションボリュームviである。
【0035】
図6は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、試料吸引後にニードル2の外側を洗浄液Aで洗浄する状態を示している。図6に示すように、シリンジバルブ16とインジェクションバルブ8のポートの位置は変えずに、ニードル2を試料保持容器1から洗浄槽10へ移動させるが、その移動中に、シリンジ11は、エアボリュームvaの半分だけ空気を吸引する。ニードル2を洗浄槽10に移動後、洗浄ポンプ装置15により洗浄液Aを洗浄槽10へ送液し、ニードル2の外側を洗浄する。洗浄槽10でオーバフローした洗浄液Aはドレイン23から排出される。
【0036】
図7は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、ニードル2をインジェクションバルブ8の試料注入口3へ移動させた状態を示している。図7に示すように、シリンジバルブ16とインジェクションバルブ8のポートの位置は変えずに、ニードル2をインジェクションバルブ8の試料注入口3へ移動させ、ポートP4からインジェクションバルブ8へ試料を注入する準備をする。
【0037】
図8は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、試料貯留ループ5内の圧力抜きを行う状態を示している。試料貯留ループ5内は、図7までに示す状態では、ポンプ装置7に接続されて移動相流路となっているので、その圧力は大気圧よりも高くなっている。図8に示すように、シリンジバルブ16のポートの位置は変えず、インジェクションバルブ8を反時計回りに60度回転させて、インジェクションバルブ8の試料貯留ループ5をポンプ装置7の移動相流路から切り離し、高圧下にある試料貯留ループ5を移動相流路から切り離されることで、試料貯留ループ5内の圧力がドレイン22から大気圧に開放される。
【0038】
図9は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、ニードル2に吸引された試料をインジェクションバルブ8へ送る工程を示している。図9に示すように、シリンジバルブ16とインジェクションバルブ8のポートの位置は変えずに、シリンジ11内の洗浄液Aと空気を押し出すことで、ニードル2の内部の試料がインジェクションバルブ8のポートP4からインジェクションバルブ8の内部の試料貯留ループ5へ送られる。シリンジ11で押し出す量は、フィードボリュームとインジェクションボリュームとデッドボリュームとエアボリュームとを合せた量vf+vi+vd+vaである。そして、図5の工程で吸引したボリュームviの試料が送られた後に、図4の工程で吸引したボリュームvfの洗浄液Aがインジェクションバルブ8へ送られるので、試料貯留ループ5内を試料の全量で満たすことができる。
【0039】
図10は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、試料貯留ループ5に保持された試料を移動相流路へ導入する工程を示している。図10に示すように、シリンジバルブ16のポートの位置は変えずに、インジェクションバルブ8を時計回りに60度回転させ、試料貯留ループ5のポートP3を、カラム6に接続しているポートP2と連通させ、試料貯留ループ5のポートP6を、ポンプ装置7に接続しているポートP1と連通させ、ポンプ装置7により移動相を試料貯留ループ5へ流し、試料とともにカラム6へ送液する。一方、次の工程の準備のため、シリンジ11を上死点まで移動させて、ニードル2内の洗浄液Aと試料の残りが混合した液を試料注入口3からインジェクションバルブ8のポートP4,ポートP5からドレイン22へ排出する。
【0040】
図11は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、ニードル2内を洗浄液Aで洗浄する工程を示している。図11に示すように、インジェクションバルブ8のポートの位置は変えずに、シリンジバルブ16を反時計回りに45度回転させ、ポートP5とポートP2、およびポートP3とポートP4が連通するポジションに切り替える。洗浄ポンプ装置15により洗浄液容器20に保持された洗浄液Aをシリンジバルブ16を経由してニードル2へ送り、ニードル2内を洗浄液Aで洗浄する。洗浄液Aはドレイン22から排出される。
【0041】
図11に示したニードル2の洗浄の終了後、シリンジバルブ16を反時計回りに45度回転させ、シリンジバルブ16のポートP5とポートP3を連通させて、図1に示したアイドル状態へ移行する。また、ニードル2を洗浄槽10の上方へ移動させる。
【0042】
図12は、図1と同じく液体クロマトグラフ装置の概略構成図であり、ポンプ装置7のプランジャの洗浄を予め設定しておいたときに、図10に示したニードル2の洗浄の後に実行される工程である。シリンジバルブ16を反時計回りに90度回転させ、ポートP5とポートP4とを連通させるポジションに切り替える。洗浄液Aでなく、洗浄液Bでプランジャを洗浄する場合は、三方バルブ18を切り替えて洗浄液容器21に接続させ、洗浄液Bを洗浄ポンプ装置15で吸引してプランジャ洗浄流路17から図示しないポンプ装置7のプランジャへ送液する。洗浄時間は予め設定されており、終了したらシリンジバルブ16を時計回りに45度回転させ、図1に示すアイドル状態へ移行させる。
【0043】
図13,図14はクロマトグラムの一例を示すグラフである。図13(a)は、従来の装置構成による結果、図13(b)は本発明の装置構成による結果である。分析条件は、試料が60ppmメチルパラベン、試料溶解液がメタノール、移動相が60%メタノール水溶液、洗浄液Aがメタノール、洗浄液Bが60%メタノール水溶液、移動相の流量が1ミリリットル/分、カラムがODSで寸法4.6mmID×150mmL,粒径5μm、カラム温度が40℃、吸光度検出波長が265nm、注入量が10マイクロリットルである。図13(a)は、図3に示す工程を実施しなかった場合のクロマトグラム、図3(b)は図3の工程を実施した場合のクロマトグラムであり、図13(a)に示すクロマトグラムには、目的成分であるメチルパラベンのピークの前に、移動相60%メタノール水溶液と洗浄液Aメタノールとの吸光度差によって生じた、洗浄液Aメタノール起因によるゴーストピークが検出されている。これに対して、図13(b)では、図3に示した工程で、バッファチューブ13とニードル2を含む配管内部を、洗浄液Bの60%メタノール水溶液にて置換したことにより、図13(b)に示すクロマトグラムでのゴーストピークを完全に無くすことができた。
【0044】
図14(a)は、従来の装置構成による結果、図14(b)は本発明の装置構成による結果である。分析条件は、試料が60ppmメチルパラベン、試料溶解液が60%メタノール水溶液、移動相が60%メタノール水溶液、洗浄液Aが60%メタノール水溶液、洗浄液Bが蒸留水、移動相の流量が1ミリリットル/分、カラムがODSで寸法が4.6mmID×150mmL,粒径5μm、カラム温度が40℃、吸光度検出波長が265nm、注入量が10マイクロリットルである。図14(a)は、図3に示す工程を実施しなかった場合のクロマトグラム、図14(b)は、図3に示す工程を実施した場合のクロマトグラムであり、図14(a)のクロマトグラムでは、目的成分であるメチルパラベンの試料溶解液が、洗浄液A60%メタノール水溶液に溶解し易いために、試料導入過程において希釈化され、分析流路内で広いバンド幅を有したままカラムへと到達された結果、検出器で検出したメチルパラベンのピーク幅が広がってしまっている。また、メチルパラベンのピーク高さも減少してしまっている。これに対し、図3に示した工程を実施した図14(b)のクロマトグラムでは、バッファチューブ13とニードル2を含む配管内部を、洗浄液B蒸留水にて置換したので、メチルパラベンのピーク幅が狭くなり、且つ、ピーク高さも約17%増加する結果となっており、液体クロマトグラフの高感度化を図ることができた。
【0045】
以上のように、ループインジェクション方式において、試料を全量無駄なくカラムに導入したい場合、カラムに導入する試料を試料貯留ループ内に一次的に貯留する過程において、実際の試料溶解液の他に洗浄液も同時に試料貯留ループ内に貯留されるが、本発明の実施例によれば、洗浄液の貯留量を少なくすることができるので、クロマトグラム上のゴーストピークを無くし、ピーク幅の広がりを防止することができ、クロマトグラムの分離度を悪化させることなく、あるいは分離度を向上させて高感度化をはかることができる。
【0046】
以上述べたように、本発明によれば、高感度で、分析時間が長くなることを防止できる液体クロマトグラフ及び液体クロマトグラフ用試料導入装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 試料保持容器
2 ニードル
3 試料注入口
5 試料貯留ループ
6 カラム
7 ポンプ装置
8 インジェクションバルブ
10 洗浄槽
11 シリンジ
13 バッファチューブ
14 サンプルラック
15 洗浄ポンプ装置
16 シリンジバルブ
17 プランジャ洗浄流路
18 三方バルブ
20,21 洗浄液容器
22,23 ドレイン
24,25 脱気装置
201 動作制御部
202 ニードル移動機構
203 シリンジ動作機構
204 洗浄ユニット動作機構
205 シリンジバルブ動作機構
206 三方バルブ動作機構
207 インジェクションバルブ動作機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料貯留ループを有し、該試料貯留ループを移動相の流路に接続するか切り離すかを切り替える第1の流路切替手段と、
試料を吸引し吐出するニードルと、
前記ニードルへの前記試料の吸引と吐出とを該試料を計量して行う計量手段と、
洗浄液を送液する洗浄液送液手段と、
前記洗浄液は少なくとも二種であり、該洗浄液を切り替える第2の流路切替手段と、
前記ニードルと前記計量手段との接続、および前記ニードルと前記洗浄液送液手段との接続を切り替える第3の流路切替手段と、
前記第1の流路切替手段、前記計量手段、前記洗浄液送液手段、前記第2の流路切替手段、前記第3の流路切替手段の動作を制御する制御手段とを備えることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項2】
請求項1の記載において、
前記第1の流路切替手段は前記ニードルに接続する試料注入口を有し、前記試料貯留ループに前記試料の全量が注入されるとともに前記試料貯留ループから前記試料注入口までの流路に前記洗浄液が注入されることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記第1の流路切替手段の前記試料貯留ループから前記試料注入口までの流路に注入される前記洗浄液とは異なる洗浄液で前記ニードルを洗浄することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項4】
請求項1の記載において、前記移動相と同じ成分の洗浄液で前記ニードルを洗浄することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項5】
請求項1の記載において、前記移動相と異なる成分の洗浄液で前記ニードルを洗浄することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項6】
移動相流路に注入された試料を分離して成分を検出する液体クロマトグラフに用いられる液体クロマトグラフ用試料導入装置において、
試料貯留ループを有し、該試料貯留ループを前記移動相流路に接続するか切り離すかを切り替える第1の流路切替手段と、
前記試料を吸引し吐出するニードルと、
前記ニードルへの前記試料の吸引と吐出とを前記試料を計量して行う計量手段と、
洗浄液を送液する洗浄液送液手段と、
前記洗浄液は少なくとも二種であり、該洗浄液を切り替える第2の流路切替手段と、
前記ニードルと前記計量手段との接続と、前記ニードルと前記洗浄液送液手段との接続とを切り替える第3の流路切替手段と、
前記第1の流路切替手段、前記計量手段、前記洗浄液送液手段、前記第2の流路切替手段、および前記第3の流路切替手段の動作を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする液体クロマトグラフ用試料導入装置。
【請求項7】
請求項6の記載において、
前記第1の流路切替手段は試料注入ポートを有し、前記試料貯留ループを前記移動相流路に接続するか前記試料注入ポートに接続するかを切り替えることを特徴とする液体クロマトグラフ用試料導入装置。
【請求項8】
請求項6の記載において、
前記試料貯留ループに接続され、該試料貯留ループ内に貯留された試料を該試料貯留ループから排出させるポンプ手段を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ用試料導入装置。
【請求項9】
移動相の流路に注入された試料を分離して成分を検出する液体クロマトグラフに用いられる液体クロマトグラフ用試料導入装置の洗浄方法において、
洗浄液は第1の洗浄液と第2の洗浄液が切り替えられるものであって、
試料容器から前記試料を吸引し吐出するニードルに前記第1の洗浄液を送液して該ニードルの内側を洗浄する工程と、
前記ニードルを洗浄槽に浸漬して該ニードルの外側を洗浄する工程と、
前記試料を計量しながら前記ニードル内に該試料を吸引する工程と、
前記ニードル内に吸引した前記試料を第1の流路切替手段の試料貯留ループに供給する工程と、
前記試料貯留ループに貯留された前記試料を前記移動相の流路に供給する工程と、
前記ニードルの内側を前記第2の洗浄液で洗浄する工程と
を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ用試料導入装置の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−117945(P2012−117945A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268920(P2010−268920)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)