液体タンクおよびインクジェット記録装置
【課題】記録装置や記録媒体の汚染を防止し、安定した量のウェット液を長期的に継続して転写することで、高記録品位を達成することが可能な液体タンクおよびインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】液体タンクにおいて、転写部の周辺、およびウェット液保持部材とウェット液タンクとの間、に毛細管力が発生しない程度の距離の溝を構成する。さらに、ウェット液タンク内で転写部よりも上側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を転写部よりも下側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を弱くする。
【解決手段】液体タンクにおいて、転写部の周辺、およびウェット液保持部材とウェット液タンクとの間、に毛細管力が発生しない程度の距離の溝を構成する。さらに、ウェット液タンク内で転写部よりも上側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を転写部よりも下側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を弱くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録ヘッドのインク吐出口が形成された面に付着したインク残渣等を効率よく安定的に排除して清浄化するために用いられるヘッド吐出口面保持液を貯留する液体タンクおよびそれを用いたインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、液体であるインクを媒介として入力データを記録媒体への文字や画像データとして出力変換するシステムであり、高記録品位を実現するために、インクを吐出する記録ヘッドの清浄化(クリーニング)技術が非常に重要な要素である。クリーニングが必要である主な理由を簡単に説明すると、次の通りである。
【0003】
記録ヘッドは微細なノズル(以下、吐出口、これに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギを発生するための素子を総称してこのようにいう)から記録媒体にインクを直接吐出して記録を行うものである。従って、吐出したインクが記録媒体に当たって跳ね返ったり、インクを吐出する際に記録に関与する主なインクの他に微小なインク滴(以下、サテライトともいう)が吐出されて雰囲気中に漂ったりすることがある。このようなサテライトが発生すると、これらがインクミストとなって記録ヘッドのインク吐出口の周りに付着することがある。また、空気中を漂っていた塵埃などがインク吐出口の周りに付着することもある。このようにサテライトや塵埃がインク吐出口に付着すると、それらが、吐出時の主インク滴を引っ張ることでインク吐出方向が曲がってしまう、すなわち主インク滴の直進性が妨げられることがある。
【0004】
そこでこの点を解決するためにインクジェット記録装置では、所定のタイミングでゴム等の弾性材料でなる払拭部材(以下、ワイパともいう)によって記録ヘッドの吐出口を備えた面を掃き、付着物を除去する方法(以下、ワイピングともいう)が採用されている。このように記録ヘッドの吐出状態を良好に維持するために行われるクリーニング手段はワイピングだけではない。
【0005】
記録ヘッドの吐出口近傍のインクが乾燥し、インクの増粘、固着、堆積等により吐出口の目詰まりが生じることがある。また、吐出口内部(液路)に発生した気泡や塵埃等によっても吐出口の目詰まりが生じることがある。これらの目詰まりを予防、解消する方法として、吸引回復方法が採られることがある。これは、キャッピング部材によって吐出口部に密閉系を形成し、ポンプを用いて記録ヘッドの吐出口を備えた面(以下、吐出口面ともいう)に所定の負圧吸引力を発生させ、これによって吐出口からインクと共に気泡や塵埃を強制的に排出する動作である。このような吸引回復に伴って吐出口面にインクが付着することもあるので、これを除去するために吸引回復後にもワイピングが行われる。
【0006】
一方最近では、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として染料成分を含有するインク(染料系インク)に代わり、顔料成分を含有するインク(顔料系インク)が使用されることが多くなってきている。顔料系インクは、元来固体である色材を、分散剤や、顔料表面に官能基を導入するなどして水中に分散させてなるものである。通常、染料系インクでは染料分子そのものが水溶液中に分散(溶解)している。しかし顔料系インクでは、一般に顔料粒子が親水性ではなく疎水性であるために、水には溶解しないので、水溶性を付与するために顔料粒子に樹脂や活性剤等を吸着させ顔料分散体として親水性を与え水溶液中に分散させている。あるいは顔料粒子の構造自体の末端に親水基を持たせることで水溶液中に自己分散させている。現在用いられている顔料系インクは、顔料の粒径がおよそ100nm程度と染料分子に比較してはるかに大きいために、光やオゾンの影響を受けたとしても色材の退色が顕著ではなく、耐候性は染料インクに比較してはるかに良好である。
【0007】
しかし、吐出口面上に付着しインク中の水分が蒸発して顔料インクの乾燥物が形成された吐出口面でワイピング動作を行うと、乾燥した顔料凝集物が剥離し、その剥離した顔料凝集物で吐出口面が擦られる。そして、吐出口面の表面を削ることで吐出口面の後述する表面特性を変化させてしまうことがある。これらはインク吐出特性すなわちインクの吐出方向の安定性を阻害するものであり、インク着弾位置精度を劣化させ記録品位低下の原因ともなる。このように、顔料系インクの乾燥固着物は、色材自体が分子レベルで溶解している染料系インクの乾燥固着物と比べ、吐出口面に与えるダメージが大きい。
【0008】
また、また顔料を溶剤中に分散させるために用いている高分子化合物が吐出口面に対して吸着されやすいという性質が見られる。これは、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的でインクに反応液を添加する結果、インク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料系インク以外でも生じる問題である。また、インクが増粘したり固着したりするまでの経過時間が染料インクを用いる場合より短く、早期に増粘したり固着したりする。
【0009】
これらにより、顔料系インクを用いる場合にはワイピング部材により拭き取る場合のワイピング性も染料インクを用いる場合より劣る。すなわち、ワイピングを実施しても吐出口面にインクが薄膜状に堆積し、さらにそのインクが固着してしまい、上記のような単なるワイピング動作では所望の清浄化が達成できないか極めて困難である。
【0010】
顔料粒子そのものは疎水性であるため、染料系インクと比較して記録ヘッドから顔料インクを吐出させたときに吐出口面に付着した顔料インクで吐出口面が不均一に濡れ易くなってしまう性質を持っている。また前述した樹脂を用いて顔料を分散させる、いわゆる樹脂分散系の顔料インクでは、顔料とともに樹脂も吐出口面を濡らし易いので、不均一に濡れ易くなる傾向は一層顕著である。
【0011】
そこで、吐出口面の表面特性として顔料系インクを弾くような処理、所謂撥水処理を施した記録ヘッドを用いれば、方向性が安定した吐出状態を得ることができる。しかし、基本的に顔料インク等の濡れ易いインクを用いた場合は、徐々に吐出口表面の撥水性が劣化し、吐出特性は不安定になる。また、ワイピングによっても、濡れ易い顔料系インクを吐出口面に広げてしまうために撥水性は劣化し、ついにはインクの吐出方向は不安定になり記録品位の劣化を生じてしまう。
【0012】
このような吐出口面の撥水性能もしくは親水性能の変化の問題に対しては、所謂ウェットワイピングという技術を用いることが知られている。これは、吐出口面を払拭するワイパに、例えばグリセリンやポリエチレングリコール等の揮発性の極めて低い溶剤でなる吐出口面保持液(以下、ウェット液ともいう)を付与する。そのワイパにて吐出口面を払拭することにより、吐出口面の親水性の変化を防止するものである。ウェット液の機能としては、第1に吐出口面に蓄積されたインク増粘物や増膜物を溶解する作用がある。第2に、ワイパと吐出口面との間に介在することにより潤滑材の働きをし、ワイパの磨耗を軽減する作用がある。第3に、吐出口面にウェット液を付着させることで吐出口面保護のための膜を形成する作用がある。
【0013】
これらのワイピング時に用いるウェット液は、記録装置本体内部に貯蔵する構成が採られている。そしてウェット液は、そもそも本体装置内に長期間(例えば本体寿命が尽きるまでの間)保持されているべきものであるため、空気中の飽和蒸気圧の低いもの、すなわち蒸発しにくいものが好ましい。また、インク増粘物への溶解性や記録ヘッド各部材との接液性を考慮すると、記録用液体であるインクの組成としてもしばしば用いられるグリセリン等の多価アルコール類の溶剤を用いることが好ましい。これらの溶剤は一般的に分子量が大きく、粘度が高いものが多いため、低温環境下での粘度上昇の程度も大きい。例えばグリセリンの粘度は常温で800cp程度であるが、15℃では2300cp、5℃では7000cpとなるなど、低温になるに従って急激に粘度が上昇する。このため、ウェット液の保持部からウェット液をワイパに付与する部分までの供給経路が考慮された設計がなされていないと、十分な量をワイパに付与することができず、ワイピングの効果を充分に発揮できなくなる。
【0014】
一方、グリセリンは湿潤環境では吸湿して大きく膨張するという性質を有する。このため記録装置本体には、吸湿したグリセリンすなわちグリセリン水溶液を保持するに十分な容量のウェット液保持部を用意しておく必要がある。さらには、体積膨張が生じてもウェット液の漏洩が生じないようなウェット液保持部にすることが強く望ましい。
【0015】
ここで、使用環境によってウェット液の成分比率の変化や体積変動がないようにするためには、ウェット液保持部を密閉系とすることが考えられる。しかし完全な密閉系を作り出すのは困難であり、また、その系を形成するために複雑な機構が必要となる。
【0016】
この点に関して、従来ウェット液保持部において適切な親水性や表面張力および大きさを有する繊維質部材等からなるウェット液保持部材でウェット液を含浸保持しておき、体積膨張が生じても漏洩が生じないようにする。そして、ウェット液保持部材から転写部材へとウェット液を供給し、さらにその転写部材からワイパにウェット液を供給することが行われている。
【0017】
【特許文献1】特開2007−69579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、転写部材とタンクケースとの空隙に生じる毛細管力が、ウェット液保持部材が有する保持力より大きい場合、この空隙を伝ってタンクケースの開口部から外へウェット液が流れ出すことが考えられる。
【0019】
また、タンクケースの構成によっては、通常の使用状態とは異なる状態での放置等によってウェット液が転写部材の転写部の位置よりも高い位置へ移動した場合、水頭圧の関係から転写時の転写量が著しく増加してしまうこともある。
【0020】
これらのウェット液の流出や転写量の変化によって、記録装置や記録媒体の汚染または記録品位の低下を生じさせるおそれがある。
【0021】
よって本発明は、記録装置や記録媒体の汚染を防止し、安定した量のウェット液を長期的に継続して転写することで、高記録品位を達成することが可能な液体タンクおよびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そのため本発明の液体タンクは、保持部材によって保持された液体を内部に備えた貯留部と、前記液体を転写部材によって外部へ供給する転写部とを備えた液体タンクにおいて、前記転写部材と前記液体タンクの壁との間の溝が有する前記液体に対する毛細管力は、前記保持部材が有する、前記液体に対する毛細管力より弱く、前記保持部材は、第1の保持部材と第2の保持部材とからなり、記録時の姿勢において、前記転写部材の前記転写部よりも高い位置に設けられた前記第1の保持部材は、前記転写部材の前記転写部よりも低い位置に設けられた前記第2の保持部材よりも、前記液体に対する強い毛細管力を備えている、ことを特徴とする。
【0023】
また、本発明のインクジェット記録装置は、上記液体タンクを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、転写部材とタンクの壁との間の溝が有する、液体に対する毛細管力を、保持部材が有する、液体に対する毛細管力より弱くする。さらに保持部材は、第1の保持部材と第2の保持部材とからなり、記録時の姿勢において転写部材の転写部よりも高い位置に設けられた第1の保持部材は、転写部材の転写部よりも低い位置に設けられた第2の保持部材よりも液体に対する強い毛細管力を備える。これによって、記録装置や記録媒体の汚染を防止し、高品位な記録を達成することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応する部分を示すものである。
【0026】
図1は、本発明のインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)の内部を示す斜視模式図であり、図2は、図1の記録装置の内部を示す横断面模式図である。本実施形態の記録装置は、記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うものであり、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集を早めるなど、所定の目的で記録媒体に液体を塗布する機構を備えたインクジェット記録装置である。また、記録媒体としては、紙、プラスチックシート、布、金属シート、あるいは板状部材など、種々の材質のものを使用することができる。ただし、以下の説明では、記録媒体の代表例が記録用紙であることから、広義の記録媒体を用いるべきところを記録用紙または用紙並びにシート材と称することがあるが、これは、記録媒体の範囲を記録用紙または用紙に限定するものではない。
【0027】
〔給紙部〕
インクジェット記録装置で、厚手の記録用紙へ写真調の記録を行う場合を例に挙げて説明する。記録媒体積載部(不図示)から装置内部へ記録媒体を給送するための給紙部2は、記録媒体であるシート材を積載する圧板21、シート材を給紙する給紙ローラ28、シート材を分離する分離ローラ(不図示)等をベース20に取り付けて構成されている。積載されたシート材を保持するための給紙トレイがベース20または外装部に取り付けられている。給紙トレイは多段式であり使用するときには引き出して用いる。給紙ローラ28は断面円弧の棒状をしている。用紙基準寄りに1つの分離ローラゴム(給紙ローラゴム)が設けられており、これによってシート材を給送する。給紙ローラ28の駆動は、給紙部2に設けられたモータで行われるが、このモータは回復機構部6の駆動源でもあり、駆動伝達ギア(不図示)および遊星ギア(不図示)などによってその駆動力が伝達されている。
【0028】
圧板21には、シート材の積載位置を規制するための移動可能な可動サイドガイド23が設けられている。圧板21はベース20に設けられた回転軸を中心に回転可能で、圧板バネ(不図示)により給紙ローラ28に付勢される。給紙ローラ28と対向する圧板21の部位には、積載最上層近くのシート材の重送を防止するために人工皮等の摩擦係数の大きい材質で作られた分離シート(不図示)が設けられている。圧板21は、給紙ローラ28に対して当接および離間するように、圧板カム(不図示)によってその位置が規制されている。さらにベース20には、シート材を1枚ずつ分離するための分離ローラを保持する分離ローラホルダ(不図示)が回転軸を中心に回転可能に取り付けられている。分離ローラは分離ローラバネ(不図示)により給紙ローラ28に付勢されている。
【0029】
分離ローラにはクラッチバネ(不図示)が取り付けられ、所定以上の負荷がかかったときに回転できる構成になっている。分離ローラは、分離ローラリリースシャフト(不図示)とコントロールカム(不図示)によって、給紙ローラ28に対して当接および離間するように構成されている。これら圧板21、戻しレバー(不図示)および分離ローラの位置は、ASFセンサ(不図示)によって検知されている。また、シート材を積載位置に戻すための戻しレバーは、ベース20に回転可能に取り付けられ、戻しレバーバネ(不図示)により解除方向に付勢されている。シート材を積載部へ戻すときは、戻しレバーはコントロールカムによって回転させられる。
【0030】
通常の待機状態では、圧板21は圧板カムによりリリースされ、分離ローラはコントロールカムによりリリースされている。さらに、戻しレバーは、シート材を積載部へ戻すとともに、積載されるシート材が奥に入らないように積載口を塞ぐよう位置に配置されている。この状態から給紙が始まると、モータの駆動によって、まず分離ローラが給紙ローラ28に当接する。そして、戻しレバーがリリースされ、圧板21が給紙ローラ28に当接する。この状態でシート材の装置内部への給送が開始される。
【0031】
給紙ローラ28により送り出されるシート材の枚数は、ベース20に設けられた前段分離部(不図示)で制限され、シート材の所定枚数のみが給紙ローラ28と分離ローラのニップ部に送り出される。送り出されたシート材はニップ部で分離され、最上位のシート材のみが装置内部へ給送される。シート材が搬送ローラ36とピンチローラ37の間に到達すると、圧板21は圧板カムによってリリースされ、分離ローラはコントロールカムによってリリースされる。戻しレバーは、コントロールカムによってシート材を積載部へ戻すような積載位置に戻る。このとき、給紙ローラ28と分離ローラのニップ部近傍まで送り出された余分の(最上層以外の)シート材は元の積載位置まで戻される。
【0032】
〔送紙部〕
送紙部3は、曲げ起こした板金部材などの剛固な組立て体であるシャーシ11に取り付けられている。送紙部3はシート材を搬送する搬送ローラ36とPE(ペーパーエンド)センサを有している。搬送ローラ36は、例えば金属軸の表面にセラミックの微小粒をコーティングした構造をしており、その両端金属部分をシャーシ11に設けられた軸受で軸支されることで、シャーシ11に取り付けられている。また、搬送ローラ36に回転時の負荷を与えることで安定した搬送を可能にするために、軸受と搬送ローラ36との間に搬送ローラテンションバネが装着されている。つまり、搬送ローラ36をバネ付勢することで所定の負荷を与えている。
【0033】
搬送ローラ36には、従動する複数のピンチローラ(不図示)が当接するように配設されている。ピンチローラはピンチローラホルダ30に保持され、ピンチローラバネの付勢力でピンチローラを搬送ローラ36に圧接することでシート材の搬送力を生み出している。その際、ピンチローラホルダ30の回転軸が、シャーシ11の軸受で軸支されている。さらに、シート材が搬送されてくる送紙部3の入口には、シート材をガイドするガイドフラッパ(不図示)およびプラテン34が配設されている。ピンチローラホルダには、シート材の先端および後端の検出をPEセンサに伝えるPEセンサレバー(不図示)が回動可能に取り付けられている。プラテン34はシャーシ11に取り付けられている。ガイドフラッパは、搬送ローラ36の軸受部(不図示)と同心の軸を中心に回転可能に軸支され、シャーシ11の一部に当接することで位置決めされる。
【0034】
給紙部2から送紙部3へ送られてきたシート材は、ピンチローラホルダ30およびガイドフラッパに案内されて搬送ローラ36とピンチローラとのニップ部(LFニップ部)へ送り込まれる。その際、送られてきたシート材の先端をPEセンサレバーによって検知し、これにより記録部におけるシート材の記録位置が算出される。シート材は、搬送モータ35によりローラ対36が回転駆動されることでプラテン34上を搬送される。プラテン34上には、搬送基準面になるリブが形成されており、このリブによって記録ヘッドとシート材とのギャップ管理をすると共に、排紙部4と共にシート材の浪打が大きくならないように規制している。搬送ローラ36の駆動は、DCモータである搬送モータ35の回転力を、タイミングベルトを介して搬送ローラ36の軸上のプーリ361に伝達することで行われる。
【0035】
また、搬送ローラ36の軸上には、搬送ローラ36による搬送量を検出するための150〜300lpiのピッチでマーキングが形成されたコードホイール362が取り付けられている。シャーシ11には、コードホイール362を読み取るためのエンゴーダセンサ(不図示)が取り付けられている。
【0036】
〔排紙部〕
排紙部4は、2本の排紙ローラ40、41、これらの排紙ローラ40、41に所定圧で当接されて従動回転する拍車42、搬送ローラ36の駆動を排紙ローラ40、41に伝達するためのギア列等から構成されている。
【0037】
排紙ローラ40、41はプラテン34に取り付けられている。搬送方向下流側の排紙ローラ40は、金属軸に複数個のゴム部を固着した構造を有する。搬送ローラ36からの駆動がアイドラギアを介して排紙ローラ40に伝達されることによって、2組の排紙ローラ対が駆動される。搬送方向上流側の排紙ローラ41は、樹脂の軸にエラストマの弾性体を複数取り付けた構造を有する。排紙ローラ40から排紙ローラ41への駆動はアイドラギアを介して伝達される。
【0038】
拍車42は、周囲に複数の凸形状を有するSUSの薄板を樹脂部と一体成型したものである。この拍車42は拍車ホルダ43に取り付けられている。この場合、棒状のコイルバネからなる拍車バネ(不図示)によって、拍車42の拍車ホルダへの取り付けと排紙ローラ40、41への押圧とを行っている。拍車42には、排紙ローラ40、41のゴム部材等からなる弾性体部に対応する位置に設けられることで主に搬送力を生み出す機能を有するものと、排紙ローラ40の弾性体部がない位置に設けられることで主にシート材の浮き上がりを抑える機能を有するものがある。
【0039】
排紙ローラ40、41の間には、シート材の両端部を持ち上げて排紙ローラ40、41の先でシート材を保持することで、先出のシート材上の記録画像を擦って記録にダメージを与えることを防止する紙端サポート(不図示)が設けられている。この紙端サポートは、先端にコロが設けられた樹脂部材を紙端サポートバネによって付勢することにより、コロを所定圧でシート材に押し付け、シート材の両端を持ち上げて保持するように構成されている。
【0040】
以上の構成によって、記録が行われたシート材は、排紙ローラ41と拍車42の間のニップに挟まれて搬送されることで、排紙トレイ(不図示)に排出される。排紙トレイはフロントカバー(不図示)に収納可能な構成になっており、使用時には引き出して用いる。排紙トレイは、その先端に向けて高くなり、更にその両端が高くなることで、排出されたシート材の積載性の向上と画像形成面の擦れ防止を図り得るように構成されている。
【0041】
〔キャリッジ部〕
キャリッジ50は、記録ヘッドを搭載して主走査方向に往復移動するものであり、記録ヘッドを搭載して移動する。キャリッジ50は、シート材の搬送方向に対して略直角方向に設置されたガイドシャフト52に沿って移動可能に案内支持されている。さらに、キャリッジ50の後端部はガイドシャフト52と平行に設けられたガイドレール111によって摺動自在に支持され、キャリッジ50は記録ヘッドとシート材との隙間を維持するような一定の姿勢に保持されている。ガイドシャフト52はシャーシ11に取り付けられている。ガイドレール111はシャーシ11に一体に形成されている。
【0042】
キャリッジ50は、シャーシ11に取り付けられたキャリッジモータ54によりタイミングベルト541を介して駆動される。タイミングベルト541は、アイドルプーリ(不図示)によって所定の張力を付与された状態で張架されている。タイミングベルト541はキャリッジ50に対し、ゴム等のダンパー(不図示)を介して連結されている。このダンパーは、キャリッジモータ54等の振動を減衰することで画像ムラ等を低減するためのものである。キャリッジ50の位置および移動を検出するための150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードストリップ561がタイミングベルト541と平行に配置されている。そのコードストリップ561を読み取るエンコーダセンサがキャリッジ50上のキャリッジ基板(不図示)に搭載されている。
【0043】
このキャリッジ基板には、記録ヘッドと電気的な接続を行うためのコンタクトが設けられている。キャリッジ50には、記録装置の電気基板から記録ヘッドへ、ヘッド信号を伝えるためのフレキシブル基板が接続されている。キャリッジ50には、記録ヘッドをキャリッジ50に位置決めするための突き当て部(不図示)と記録ヘッドを押し付け固定するための押圧手段(不図示)が設けられている。押圧手段は、ヘッドセットレバー51に搭載されており、ヘッドセットレバー51を回動させると記録ヘッドに作用する。
【0044】
ガイドシャフト52の両端には偏心カム521が固定されている。APモータの駆動によりギア列591を介して偏心カム521まで駆動力を伝達することによって、ガイドシャフト52を上下に昇降させることができる。これによって、キャリッジ50を昇降させ、厚みの異なるシート材に対しても最適なギャップを確保することができる。キャリッジ50には、記録ヘッドから吐出されてシート材に着弾するインクの着弾ズレを自動的に補正するための自動レジ調整センサ(不図示)が取り付けられている。このセンサは反射型の光センサであり、発光素子より発光し、シート材上の画像パターンからの反射光を受光することで、最適なレジ調整値を求めることができる。
【0045】
〔記録部〕
キャリッジ50には、画像情報に基づいて画像を記録する記録ヘッドが配設されている。記録ヘッドとしては、各色別体の交換可能なインクタンクが装着されるインクジェット記録ヘッドが用いられている。また、記録ヘッドにはインクタンクに接続される複数のインク流路が形成されており、このインク流路はプラテン34と対向する面に配された吐出口(不図示)まで連通している。吐出口列を形成する複数の吐出口のそれぞれの内部にはインク吐出用のアクチュエータ(エネルギ発生手段)が配されている。このアクチュエータとしては、例えば、電気熱変換体(発熱素子)による液体の膜沸騰圧力を利用したものや、ピエゾ素子等の電気機械変換体(電気−圧力変換素子)などが用いられる。
【0046】
上記のような記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、記録ヘッドに、フレキシブルフラットケーブルを介してヘッドドライバの信号を伝達することで、記録データに応じてインク滴を吐出することが可能である。このような構成においてシート材に記録を行うときは、記録する位置(シート材の搬送方向の位置)までシート材を搬送すると共に、キャリッジモータ54によりキャリッジ50を主走査方向の記録位置へ移動さる。そしてシャーシに張架されたコードストリップ561をキャリッジ50に搭載されたCR(キャリッジ)エンコーダによって読み取り、記録ヘッドを駆動して、電気基板からの画像信号により適切なタイミングで記録用紙に向けてインク滴を吐出することができる。このようにして、1ライン分の記録が終了すると、用紙搬送部により必要量だけ記録用紙を搬送(紙送り)する。この動作を繰り返して記録動作を実施することによりシート材に記録することができる。
【0047】
次に記録部8に装着されるインクタンクに貯蔵されるインクについて説明する。本発明に用いられるインクは5色であり、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、フォトブラック(PBk)、ブラック(Bk)である。各色に用いられる着色剤は全てが顔料であることが好ましい。ここで、顔料の分散を行うためには、公知一般の分散剤を用いてもよいし、また公知一般の方法で顔料表面を改質し、自己分散性を付与してもよい。本発明の主旨にあえば、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が染料であってもよい。また、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が顔料と染料を調色した形でもよく、顔料を複数種含んでもよい。また本実施形態に用いられる5色インクには、本発明の主旨にある範疇で、水溶性有機溶剤・添加剤・界面活性剤・バインダー・防腐剤から選ばれる少なくとも1種以上が含まれてもよい。
【0048】
〔回復機構部〕
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置の回復装置の斜視模式図である。インクジェット記録装置の場合に設けられる回復機構部6は、インクジェット方式の記録ヘッドのインク吐出性能を維持回復するためのものである。回復機構部6は、記録ヘッドの吐出口からのインク吸引などを行うためのポンプ60と、記録ヘッドの吐出口近傍の乾燥を抑えるためのキャップ61と、記録ヘッドの吐出口周辺を拭き取り清掃するためのブレードユニット64等からなる。さらには、このブレードユニット64に備えられたポリエーテルウレタンでできたワイパーブレード(以下、単にワイパともいう)641をクリーニングするためにワイパーブレードクリーニング機構7が備えられている。回復機構部6の主な駆動は、前述の給紙部2の駆動源であるAPモータから伝達される。つまり、APモータの一方向の回転でポンプ60が作動し、反対方向の回転でブレードユニット64のワイピング動作およびキャップ61の密着離間動作が行われるように、ワンウエイ機構(不図示)が設けられている。ポンプ60としては、例えば、いわゆるチューブポンプを使用することができる。
【0049】
図4は、ポンプ60に用いられるコロユニット600を示した図である。以下、図3および図4を用いて本実施形態におけるポンプ60の具体的な動作について説明する。なおここでは2系統具えているチューブポンプのうち、一方のみを説明するが他方の機構も同等であるものとする。
【0050】
ポンプ60には、APモータの駆動により回転するコロホイール603と、ボスを回転中心として、そのボスをその両側面に具えたコロホルダ602とが具えられている。コロホルダ602には、コロ601を半径方向に移動させると共に半径方向の位置を規制するためのカム部が形成されている。カム部の一端部602aは、コロ601が吸引チューブ671を押圧し、吸引チューブ671の内径を密着させる(しごいて負圧を発生させ得る状態にする)位置である。カム部の他端部602bは、コロ601が吸引チューブ671に当接するが、吸引チューブ671の内径が密着しない(密閉されるまで押しつぶされない)位置である。よって図4のようにAPモータの駆動によりCCW方向へ回転すると、吸引チューブ671の内壁が密着し、コロホイール603が回転することにより吸引を実行できる。一方、コロホルダがCW方向に回転すると、コロ601は、コロホルダ602のカム部の吸引チューブ671の内径密着位置602aからチューブ内径開放位置602bへ移動し、吸引チューブの密着を開放することで、キャップ内を大気連通状態にする。
【0051】
このようにポンプ60は、図3に示すように2本の吸引チューブ671、672を後述のポンプコロ601でしごくことで負圧を発生させるように構成され、キャップ61から、ポンプ60へは、大気連通弁62などを介して接続されている。キャップ61を記録ヘッドに密着させた状態(以下、キャッピング状態ともいう)でポンプ60を作動させることにより、記録ヘッドの吐出口からインクと共に固着インクや気泡等を含む不要インクを吸引除去することができる。また、キャップ61の内部には、吸引後の吐出口面上のインク残りを消滅させるためのキャップ吸収体611が装填されている。そして、このキャップ吸収体611にインクが残って固着することによる弊害を防止するために、キャップ61を開放した状態でポンプ60を作動することにより、キャップ61内に残っているインクを吸引することができる。ポンプ60で吸引された廃インクは下ケース(不図示)に装着された廃インク吸収体(不図示)に吸収・保持される。
【0052】
キャップ61のキャッピング動作やワイパ641のワイピング動作などの一連の動作は、複数のカムを有する後述するメインカムによって制御される。また、大気連通弁62の開閉駆動もメインカムで行われる。これにより、駆動すべき大気連通弁62を選択的に開閉することで、全色インクの一括吸引と各色インクごとの個別吸引とを必要に応じて対応させることができる構成になっている。つまり、メインカムがそれぞれの部位のカムやアームに作用することにより、所定の動作が所定のタイミングで実行される。
【0053】
メインカムの位置は、フォトインタラプタ等の位置検出センサ(不図示)で検出することができる。キャップ611が離間したときに、ワイパーブレード641を記録ヘッドの吐出口面に摺擦させることにより、吐出口面のワイピング(クリーニング)が行われる。また、本実施形態では、ワイパーブレード641は吐出口近傍をワイピングするものと、吐出口周辺部を含む吐出口面全体をワイピングするものとからなる複数のワイパーブレードで構成されている。各ワイパーブレード641は、ワイピング方向へ最も奥まで移動した際に、後述のワイパーブレードクリーニング機構7によって、ワイパ641自体に付着したインク等を除去(クリーニング)される。
〔ブレードユニット〕
図5は、図3の回復装置におけるブレードユニット64の内部構造を示す側断面模式図であり、図6(a)、(b)は、図3の回復装置におけるブレードクリーニング機構7を示す斜視模式図である。
【0054】
ブレードユニット64は、キャップ61の近傍に配されて、記録ヘッドの吐出口面に付着したインク滴を拭き取るように構成されている。また、記録ヘッドのクリーニングによりブレードユニット64のワイパーブレード641に転写された付着インクは、ブレードクリーニング機構7により、ワイパーブレード641から掻き取られる。このブレードクリーニング機構7の繰り返しの動作により、記録ヘッドのクリーニングの際に、ワイパーブレード641に付着したインクが記録ヘッドに再転写されることを防止する。そして、キャップ61を用いた吸引回復処理および予備吐出処理のための回復手段、ブレードユニット64、およびブレードクリーニング機構7によって、記録ヘッドのインクの吐出状態を良好に保つことができる。
【0055】
ブレードユニット64には、記録ヘッドの吐出口面に付着したインクを払拭するためのワイパーブレード641およびワイパーブレード641を支持して、矢印B、F方向に移動可能なブレードホルダ642等が備えられている。ブレードスライドギア644は、ブレードホルダ642の付図示のラック部にかみ合っており、ブレードスライダ643は、ブレードスライドギア644を軸支している。ブレードスライダ643は、前述したメインカム63の回転運動によって端部が押されることにより、矢印B、F方向に往復直線運動し、その往復運動をブレーホルダ642に伝達する。すなわち、ブレードスライダ643は、ブレードスライダーギア644を軸支することで、APモータで駆動されるメインカム63の回転駆動をブレードホルダ642の直線往復運動に変換する。
【0056】
本実施形態では、記録ヘッドのクリーニング時にワイパ641が侵入方向(矢印F方向)へ移動し、ワイパ641がブレードクリーニング機構70に備えられたブレードクリーナ71との対向位置を通過することで、ワイパ641に付着したインクが掻き取られる。また、メインカム63の回転運動により、ワイパ641の移動方向が退避方向(矢印B方向)に変わり、ワイパ641がブレードクリーナ71との対向位置を抜けて、不図示のばねのバネ力を受けて元の位置まで戻る。
【0057】
〔ブレードクリーニング機構〕
図7(a)から(e)は、本実施形態におけるブレードクリーニングの様子を示した図である。本実施形態におけるブレードクリーニング機構7の具体的な動作について図5、図6および図7(a)〜(e)を用いて説明する。
【0058】
ブレードクリーニング機構7に設けられたブレードクリーナ71の一端部には、ブレードクリーナ退避レバー73が回動自在に支持されている。ブレードクリーナ退避レバー73は突き当て部73aを有し、ブレードクリーナ71のレバー受部71aが矢印R方向へ回動する際にのみ接触するように構成されている。
【0059】
ブレードクリーナ退避レバー73には突き当て部73aが、ブレードクリーナ71のブレードクリーナ71のレバー受部に突き当たるように付勢するために、トーションバネ74がブレードクリーナ退避レバー73と同軸上に設けられている。また、ブレードホルダ642には、ブレードクリーナ退避レバー73を回動させるためのカム面642aが形成されている。カム部の一端部では、ブレードホルダ642が矢印F方向に進入した際に、ブレードクリーナ退避レバー73を押し上げて矢印Q方向へ回動させる。
【0060】
カム面642bは、ブレードクリーナ退避レバー73を一定の回転角度で停止させるように構成されている。一方、カム部の他端部642cでは、ブレードホルダが更に矢印F方向に進入して、搭載するワイパーブレード641の全てがブレードクリーナを通過し、ブレードクリーナ退避レバー73の矢印Q方向へ押上げ回動が解除され元の状態に戻る。
【0061】
ブレードクリーナ71によるブレードクリーニング動作を、順を追って説明する。
ブレードホルダ642が矢印F方向へ移動し、ワイパ641がブレードクリーナ71に到達すると略同時にブレードホルダ642のカム面642aがブレードクリーナ退避レバー73と当接する。更にブレードホルダ642が進むとワイパーブレード641がブレードクリーナ71に当接し、カム面642aがブレードクリーナ退避レバー73を押し上げて空転回動を開始する。この際のブレードクリーナ退避レバー73の回動動作は他の部品の動作には影響を与えない。
【0062】
さらにブレードホルダ642は矢印F方向へ移動するが、ブレードクリーナ71の位置は変わらないため、ブレードホルダ642の矢印F方向へ移動で、ワイパーブレード641に付着したインクがブレードクリーナ71によって掻き取られる。このようにして、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等がブレードクリーナ71側へ転写される。
【0063】
この時、ブレードクリーナ71の当接面の撥水性が強い材質の場合、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等は、クリーナ71へは付着せずに、ワイパーブレード641上に多く残ってしまう。そこで、インクがブレードクリーナ71の当接面に良好に掻き取られるようにするため、ブレードクリーナ71の材質は、インク等が付着しやすいように、より親水性の高いすなわち濡れ性のよい材質で形成されていることが望ましい。
【0064】
この結果、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に繰り返し当接した際に、ワイパーブレード641から除去されたインク等がワイパーブレード641に再転写することを防ぎ、記録ヘッド3に対する繰り返しのクリーニング性能が安定的に保たれる。
【0065】
さらにブレードホルダ642が矢印F方向へ移動し、全てのワイパーブレード641に対してブレードクリーナ71によって異物およびインク等が除去される。
【0066】
さらにブレードホルダ642が矢印F方向へ移動し、ワイパーブレード641がウェット液供給部であるウェット液転写部(以下、単に転写部ともいう)77Aに当接して、後述するウェット液の転写が行われる。この際、ブレードホルダ642のカム面642cによって、これまで押上げられていたブレードクリーナ退避レバー73は矢印R方向に回動して元の待機位置まで戻る(図7(c)参照)。
【0067】
次に、ワイパーブレード641およびブレードホルダ642が退避方向(矢印B方向)へ抜ける際には、ワイパーブレード641と他の部分が接触しないようにして、インクの飛び散りを極力抑えるように構成されている。すなわち、ブレードホルダ642が退避方向へ抜ける際には、ブレードホルダ642のカム面642cがブレードクリーナ退避レバー73を矢印R方向に押上回動する。この時、ブレードクリーナ退避レバー73の回動動作は、ブレードクリーナ71のレバー受部によってブレードクリーナ71に伝達され、ブレードクリーナ71も矢印R方向に回動退避する(図7(d)参照)。なお、ブレードホルダのカム面642cは、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に接触する前に回動を開始するため、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に接触することはない。
【0068】
さらにブレードホルダ642が矢印B方向へ移動し、ブレードクリーナ退避レバー73はブレードホルダ642のカム面642bに当接すると、ブレードクリーナ退避レバー73の回動動作はとまり、ブレードクリーナ退避レバー73は所定の角度で保持される。この際、ブレードクリーナ71も同様に所定の角度で保持される。全てのブレードがブレードクリーナ71の下方を完全に通過すると、ブレードクリーナ退避レバー73はブレードホルダ642のカム面642bからカム面642aへと移り、その後、ブレードクリーナ退避レバー73はブレードホルダ642から離れる。なお、ブレードホルダ642のカム面642bでの保持は、全てのブレード641がブレードクリーナ71の下方を完全に通過するまで行われる。そのため、ブレードクリーナ退避レバー73がブレードホルダ642から離れるまでブレードクリーナ71とワイパーブレード641とが接触することがない。
【0069】
よって、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に接することなく潜りぬけることが出来て、ワイパーブレード641から除去したインク等がワイパーブレード641に再転写されることを防止することができる。さらにはワイパーブレード641からのウェット液の飛散等が抑制され、ウェット液はブレードに保持されたままであり、記録ヘッドに対する繰り返しのクリーニング性能が安定的に保たれる。
【0070】
〔ウェット液転写部の詳細〕
本実施形態では、図7に示したようにワイパーブレード641にウェット液を転写・付着させることで濡らし、その濡れたワイパーブレード641でワイピング(ウェットワイピング)を行う。
【0071】
図8は、図6のブレードクリーニング機構7の内部を示す側面模式図であり、図9は、本実施形態のブレードクリーニング機構7の分解図である。また図10(a)、(b)は、図6のブレードクリーニング機構7の内部を示す斜視図である。
【0072】
本実施形態におけるブレードクリーニング機構7の詳細な構成について図6(a)、(b)、および図8〜図11を用いて説明する。
図8に示すように、本実施形態ではウェット液を貯留部であるウェット液タンク75に収納された多孔質体でなるウェット液保持部材78に含浸保持させる構成がとられている。また、ウェット液保持部材78に含浸されたウェット液はウェット液転写部材77のウェット液転写部(以下、単に転写部ともいう)77Aを介して転写される。ウェット液保持部材78は、通常の使用状態において、ウェット液転写部(以下、単に転写部ともいう)77Aよりも下部に配置される下部保持部材781と、ウェット液転写部77Aよりも上部に配置される上部保持部材782から構成されている。
【0073】
またこの保持部材78は、ウェット液がウェット液タンク75から漏れないように適度な毛細管力を有する繊維質部材等の吸収体からなり、本実施形態ではポリプロピレン繊維を用いている。なお、ポリプロピレン繊維の繊維径や、ポリプロピレン繊維の繊維同士を結合させて保持体にしたときの見かけ密度、ポリプロピレン繊維をウェット液タンク75内に組み込むときの圧縮率等は適宜選択することができる。
【0074】
ウェット液転写部材77は、クリーニング動作時にはワイパーブレード641と接触する転写部77Aを有しており、下部保持部材781の底面と接しているウェット液転写部材77は、例えば多孔質体であって適度な毛細管力を備えた材質からなっている。そしてウェット液転写部材77は、初期の状態からウェット液の残量が少なくなるまで、ウェット液保持部材78から転写部77Aに確実にウェット液の供給が行われるように構成されている。以下、確実にウェット液の供給するためのウェット液保持部材78およびウェット液転写部材77の関係を詳細に説明する。
【0075】
後述するようにウェット液保持部材78において、上部保持部材782の毛細管力は、下部保持部材781の毛細管力と比較して強くなるように構成されている。本実施形態では上部保持部材782の毛細管力は、下部保持部材781の毛細管力の略2倍である。ウェット液はウェット液タンク75に注入されると、転写部77Aより下方において下部保持部材781に含浸保持される。そして、ウェット液転写部材77の毛細管力により転写部分77Aまで引き上げられる。ここで、下部保持部材781とウェット液転写部材77の間で確実にウェット液の供給が行われるようにするために、本実施形態では、下部保持部781の毛細管力よりも、ウェット液転写部材77の毛細管力の方が強くなるよう設定されている。これにより、図8中に模式的に示した矢印7Nのように、ウェット液保持部78からウェット液転写部材77へ毛細管力差により供給されることになる。
【0076】
ウェット液転写部材77に供給されたウェット液は、毛細管力によって転写部77Aまで引き上げられる。ここで、ウェット液転写部材77は、上部保持部材782とも接している。そのため、引き上げられたウェット液が上部保持部材782へ含浸してしまう事が無いよう、上部保持部782の毛細管力よりも、ウェット液転写部材77の毛細管力の方が強くなるよう設定されている。すなわち、ウェット液転写部材77の毛細管力:Pf、上部保持部材782の毛細管力:Qf、下部保持部材781の毛細管力:Rfとすると、
Pf>Qf>Rf
の関係になる。
【0077】
図9は、本実施形態のウェット液タンク75を示した分解図である。ウェット液タンク75とウェット液保持部材78との間に隙間ができるとその隙間がエアパスとなり、意図しない大気連通路およびデッドスペースとなってしまう。この場合、注入時にエアパスに液が回り込んでしまい、外部との気液交換をしてウェット液がタンク外部へ漏れでてしまう。また、ウェット液保持部材78の繊維方向への圧縮は、繊維を座屈する方向であり、反発力も非常に大きく弾性変形範囲は乏しい。この方向への圧縮変形は、保持体の座屈による皺を招いてウェット液保持部材78とウェット液タンク75内壁との間にエアパスを生じ易い。
【0078】
そこで、本実施形態におけるウェット液保持部材78は、繊維方向(V方向)や非繊維方向(W方向)にはほとんど圧縮変形させず、積層方向(U方向)にのみに圧縮することで、著しい弾性変形と反発力を発生させている。そのため、ウェット液タンク75の最も面積の広い内壁751と間にエアパスを生じることがなく、ウェット液保持部材78を壁面751に対して均等に密着させることを可能にしている。
【0079】
またタンクカバー76と圧縮方向を直交方向にした場合、ウェット液保持部材78の反発力によってタンクカバー76に著しい応力が生じて変形してしまう。この時、タンク内容積が変化してしまい、ウェット液保持部材78のみかけの密度が変化してしまう。みかけの密度が変化すると発生させる負圧が変化してしまう。したがって、本発明ではウェット液保持部材78の繊維方向と直交方向でかつ積層方向と直交する非繊維方向(W方向)とタンク蓋とを直行方向とし、タンクカバー76の内側にリブ761を立てて、リブ761が繊維積層間に刺さりやすい構成としている。
【0080】
このようにすることで、ウェット液保持部材78高さとタンクリブ部高さで若干のオーバーラップがあっても、タンクカバー76への応力を緩和して、タンクカバー76の変形を抑制して、安定した毛細管力を発生さることが出来る。またオーバーラップさせることによってタンクカバー76がウェット液保持部材78を押し込むため、ウェット液保持部781およびウェット液転写部材77の底面部分77Bとの隙間が生じることなく略均等に密着させることを可能にしている。
【0081】
図10(a)、(b)は、図6のブレードクリーニング機構7の内部を示した図である。なお、図10(a)、(b)では、ウェット液保持部材78を取り除いた状態を示している。
【0082】
以下、ウェット液転写部材77とウェット液タンク75の関係をについて図10(a)、(b)を用いて説明する。転写部77Aには、進入してきたワイパーブレード641が当接することでワイパーブレード641にウェット液を転写供給する。したがって、転写部77Aはウェット液タンク75から常時、大気開放されている。
【0083】
タンク開口部751とウェット液転写部材77との間に溝が生じていると、この溝よって毛細管力を発生させてしまう。特に、狭い溝(微溝)である場合、毛細管力が強くなることから、ウェット液タンク75とウェット液転写部材77との間の微溝によって強い毛細管力が発生してしまう。その結果、ウェット液がウェット液転写部材77周囲の溝を伝って漏洩し、装置姿勢によってはウェット液タンク75の外へと漏れ出してしまう。そこで、本実施形態では、常時開口されている転写部77Aの周辺とウェット液タンク75との間に、毛細管力が発生しない程度の距離dの溝752が構成されている。本実施形態における溝752は、距離dを1〜3mmとすることで、スペース効率がよくかつ毛細管力を抑える構成となっている。
【0084】
なお、毛細管力が発生しない程度の溝を設けなくても、ウェット液保持部材78(下部保持部材781)が有する毛細管力よりも弱い毛細管力の溝であればよい。
【0085】
また、溝752はウェット液転写部材77の全周囲に設けることが望ましいが、周囲の一部のみに設けてもよい。その場合には、少なくとも溝752を設けた箇所においては、ウェット液転写部材77とタンク壁との間に生じる毛細管力がほぼ無くなって、タンク外へ漏れ伝わろうとする経路が断たれ、液漏れを抑制する効果がある。
【0086】
図11(a)は、物流等による放置姿勢によって、ウェット液が移動した場合の模式図である。また、図11(b)は、図11(a)の状態の後にウェット液タンク75が通常の使用時の姿勢に戻された状態を示した図である。この図11(b)の状態の場合、転写部77Aへのウェット液の供給は、上部保持部材782による転写部77Aよりも高い位置からの供給(矢印7H)と、下部保持部材781による転写部77Aよりも低い位置からの供給と、の2系統から供給されることになる。この場合、転写部77Aとウェット液を供給する側の水頭圧には差があることになる。つまり、転写部77Aよりも高い位置にある上部保持部材782が保持しているウェット液は高い水頭圧を有しており、転写部77Aよりも低い位置にある下部保持部材781が保持しているウェット液は低い水頭圧を有していることになる。
【0087】
ここで、上部保持部材782と下部保持部材781とが同じ毛細管力を有している場合、水頭圧の差から上部保持部材782から転写部77Aへのウェット液の供給量が著しく増加してしまう。その結果、転写部77Aからワイパーブレード641へのウェット液の転写量が増加してしまう。
【0088】
したがって、本実施形態では上部保持部材782の繊維密度を下部保持部材781よりも大きくすることで、上部保持部材782の毛細管力による負圧を高める構成としている。すなわち、本実施形態のように上部保持部材782と下部保持部材781とに同材質を用いている場合は、上部保持部材782の繊維密度を上げることによりその空孔間隔を狭くすることで毛細管力を強くしている。この結果、上部保持部材782の負圧が大きくなり、上部保持部材782に含浸されたウェット液と下部保持部材781に含浸されたウェット液との水頭圧に起因する圧力差が緩和される。よって、上部保持部材782からの著しい転写量の増加が抑えられ長期的、安定的にワイパーブレード641へウェット液を転写・供給することが可能となる。
【0089】
上部保持部材782と下部保持部材781とウェット液転写部材77との毛細管力の関係を、以上のような関係にすることで、ウェット液保持部材78の種類や密度や圧縮率、およびウェット液転写部材77の平均気孔径、見かけ密度は適宜選択可能である。本実施形態では、ウェット液転写部材77には旭化成ケミカルズ株式会社製サンファイン(登録商標)AQ890を採用している。また本発明者はウェット液保持部材78には下表に示す仕様のものを用いている。
【0090】
【表1】
【0091】
なお、ウェット液転写部材77にサンファイン(登録商標)AQ890、ウェット液にグリセリン水溶液を用いる本実施形態では、ウェット液転写部材77がウェット液を引き上げる限界引き上げ高さは低温・低湿環境下で60mmほどである。このため、ウェット液転写部材77の底面部77Bと転写部77Aまでの距離(高さH)は20mmとした。また、転写部77Aからウェット液転写部材77の最遠部77Dまでの、ウェット液転写部材に沿った距離は50mmとなるようにした。
【0092】
また、ウェット液としては、本実施形態ではグリセリン水溶液を用いている。グリセリンそのものは蒸発しにくいが、空気中の水分を吸湿しやすく、また一旦吸湿した場合でも低湿度環境下では水分を放出する特性がある。従って、吸湿、乾燥の影響を受けないように、ウェット液保持部78およびウェット液転写部材77の外周面を図示しない水蒸気透過性の低い材料で遮蔽することが好ましい。ただしウェット液保持部78に存在するエアーの膨張収縮に耐えられるように、完全密閉するのではなく、一部に大気連通用の細孔を設けることが望ましい。なお、図6、図8に示すように、下部保持部781およびウェット液転写部材77の接触部分(底面部分)77Bおよび転写部分77Aについては遮蔽を行わない。
【0093】
次に、ウェット液保持部材78の大きさ、すなわち容積については、ウェット液の必要量から次のように算出できる。まず、記録装置または記録ヘッドの寿命が尽きるまでに行われる記録枚数(耐久枚数)相当分のワイピングを行ったとしても吐出口面82の撥水状態に大きな変化がなく、吐出液滴の着弾位置精度が許容範囲内であるのに必要なウェット液転写量を実験等で求める。そしてウェット液保持部材78は、これに耐久枚数相当分のワイピング回数を乗じた量のウェット液を保持可能な容積より大きい容積を有するものとする。1回のワイピングで必要なグリセリン等のウェット液の量、および想定する耐久枚数ないしワイピング回数に関しては、記録装置や記録ヘッドの構成等に応じて異なる。また、使いきり時におけるウェット液保持部材78やウェット液転写部材77のグリセリン残量、および使用者によって異なる使用状況を考慮して安全係数が設定される。さらに、吸湿によるグリセリンの体積増大分を考慮しなければならない。従って、吸収体である保持部材の容積は、1回のワイピングで必要なグリセリン等のウェット液の量、ワイピング回数および安全係数を乗じ、さらに環境に応じた体積変動分を考慮して定めることが強く望ましい。そのようにウェット液保持部材78の容積を適切に定めることで、通常状態でウェット液保持部材78が、転写部分より下方においてウェット液を含浸保持しておくことが可能となる。またこれにより、ウェット液転写部材77の毛細管力によりウェット液を引き上げて供給・転写することができ、様々な環境下においても安定かつ十分なウェット液の供給ないし転写性能を維持することができるようになる。
【0094】
〔ウェットワイピング動作〕
図12は、記録ヘッドのクリーニング動作の一連のシーケンスを示したフローチャートである。本実施形態のインクジェット記録装置は、回復機構部6により記録ヘッドの吐出口面812(図7(a)参照)のクリーニングを行う場合に、図12のシーケンスにより、記録ヘッドのクリーニング動作に含まれるワイピング動作を行う。なお吐出口面812は、撥水材のコートなどによる撥水処理が施されたものとすることができる。以下、図12のフローチャートに沿って、本実施形態におけるワイピング動作を図7を参照しながら説明する。
【0095】
ステップS101でワイピング動作命令が発せられると、回復機構部6に設けられたカム(不図示)の位置をカム位置検知センサ(不図示)により検出し、キャップ61およびブレードユニット64等の動作位置を確認する。記録ヘッドがワイピング動作ポジション(ホームポジション)にない場合には、回復機構部6を構成するキャップ61やブレードユニット64等と記録ヘッドとが干渉しない状態にあることをカム位置検出センサの検出信号により確認する。その後、伝達機構(不図示)を駆動させて、ステップS102で図1のように記録ヘッドを回復動作位置(ホームポジション)に移動させる。
【0096】
その後、ステップS103でAPモータを所定量正転させて、メインカム63を駆動させることによりワイピング動作を実行する。通常ブレードユニット64は図7(a)の位置で待機している。この状態で、ブレードユニット64をワイパーブレード641侵入方向Fへ移動させる。そして、記録ヘッドの吐出口面にワイパーブレード641を接触させて、記録ヘッドの吐出口面812に付着している異物およびインク等をワイパーブレード641に転写させて除去する。
【0097】
その後、記録ヘッドの吐出口面からワイパーブレード641に転写されたインク等をブレードクリーナ71によって掻き取る。そのために、ブレードユニット64は、ブレードクリーナ71を備えたブレードクリーニング機構7に向かって、さらに矢印F方向へ移動し、ブレードクリーナ71の部位を通過させる(図7(b))。このときブレード641はブレードクリーナ71によって清掃される。
【0098】
図7(b)の状態において、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等は、ブレードクリーナ71における当接稜線エッジ部、つまりワイパーブレード641に当接する稜線上のエッジ部により掻き取られる。すなわち、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71の当接稜線エッジ部に当接して、その対向位置を通過することにより、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等は、ワイパーブレード641からブレードクリーナ71へ転写される。そして、転写された異物およびインク等はそのブレードクリーナ71に設けられたインク堆積用のスペースにインク等の堆積物として堆積する。このインク堆積用のスペースは、繰り返しのワイピング動作で、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に当接した際に、掻き取った異物およびインク等をワイパーブレード641に極力再転写させないように設けられた堆積スペースである。
【0099】
ワイパーブレード641は、ブレードクリーナ71によって異物およびインク等が除去された後、ブレードクリーナ71との対向位置をF方向に通過してから、ウェット液転写部分77Aに当接する(図7(c))。そしてステップS104で転写部分に対する所定のニップ幅および当接時間に応じ、ブレードにはウェット液が適量転写される。
【0100】
次に、ステップS105でワイパーブレード641を元の位置に戻すため、キャリッジ50に搭載された記録ヘッドを主走査方向に移動させて、それを回復動作位置から退避位置へ約80mm移動させる。これにより、記録ヘッドに対するワイパーブレード641の不必要な接触を避ける。
【0101】
その後、ステップS106でAPモータから駆動力を受けて、ブレードユニット64が退避方向Bへ移動して位置図7(d)〜(e)で示した位置を経由して待機位置(図7(a))までブレードユニット64を移動させる。なおこの時、前述したようにワイパーブレード641はブレードクリーナ退避機構によってブレードクリーナ71に接触することなく潜りぬけることが出来る。このため、ワイパーブレード641が遥動することによるウェット液の飛散等が抑制され、ウェット液はブレードに保持されたままである。
【0102】
また、このように転写されたウェット液は、連続してワイピング動作を行わない場合にも、グリセリンは揮発性が極めて低いためブレード641に付着したままなので、次回のワイピング動作を待機位置(図7(a))からそのまま実行できる。
【0103】
続いて、APモータから駆動を受けて、キャップ61は、記録ヘッドから予備吐出されるインクを受けるための所定位置に移動する。予備吐出は、記録に寄与しないインクを記録ヘッドの吐出口から吐出させるための回復処理である。
【0104】
その後、ステップS107で予備吐出を行うために、退避位置に移動していたキャリッジ2を回復動作位置へ移動させる。そしてステップS108で、記録ヘッドを搭載したキャリッジ50が回復動作位置へ移動した後、記録ヘッドから、キャップ61内に向かって、記録に寄与しないインクを吐出(予備吐出)させる。この予備吐出により、ワイピングにより記録ヘッドの吐出口内に押し込まれたインクが排出される。この予備吐出終了後に、一連のワイピング動作が終了する(ステップS109)。
【0105】
このように、転写部の周辺、およびウェット液保持部材とウェット液タンクとの間、に毛細管力が発生しない程度の距離の溝を構成する。さらに、通常使用時の記録装置の姿勢において、ウェット液タンク内で転写部よりも上側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を転写部よりも下側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を弱くする。
【0106】
これによって、ウェット液タンクとウェット液転写部材の空隙を伝ってタンクケース外へウェット液が流れ出すことが無く、さらに水頭圧の関係から転写時の転写量が著しく変化することない安定かつ十分なウェット液の供給性能を維持することができる。したがって、ウェット液の物性の変化に影響されずに、記録装置や記録媒体の汚染を防ぎ、記録品位の低下も防ぐことができた。
【0107】
なお、図7(a)で示したブレードユニット64の位置でキャリッジ50をワイピング位置から退避させ、図7(c)で示したブレードユニット64の位置まで移動させてウェット液を転写させた後に待機位置に戻すこともできる。これは所謂、空ワイピング動作とよばれるもので、これによってウェット液を転写させることもできる。その後に改めてキャリッジをタイピング位置まで移動させてワイピング動作を行うことも出来る。
【0108】
また、ブレードには適量のウェット液が転写されており、その状態でワイピングを行うことにより、所期のウェットワイプ効果を得ることができる。すなわち、吐出口面812に蓄積されたインク増粘物や増膜物を適切に溶解・除去することができる。また、ワイパーブレード641と吐出口面812との間にウェット液が介在することにより潤滑材の働きをし、ワイパの磨耗を軽減することができる。さらに、吐出口面812にウェット液を付着させることで吐出口面保護のための膜を形成することができる。
【0109】
なお本実施形態は、上述の実施形態にのみ限られるものではない。例えば、ウェット液、ウェット液保持部および転写部材等の材料や、吐出口面の性質(撥水/非撥水/親水性等)の選択、インクの親水性の指標であるインク表面張力や吐出口面に対するインクの接触角等について、様々な変更ないし変形が可能である。それぞれの間の関係を考慮して適宜定めればよい。
【0110】
また、インクに関して、本実施形態では顔料インクを用いるものとして説明した。しかし、高分子化合物が吐出口面に対して吸着されることで生じる問題は、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的でインクに反応液を添加する結果インク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料インク以外でも生じる。従って本発明は、染料インクを用いるような場合にも有効に適用可能である。さらに、用いるインクの種類や濃度についても、上述の実施形態に限られないのは言うまでもない。
【0111】
また、ウェットワイピング動作を実施するタイミングについても適宜定めることが可能である。従来から行われているように、記録ヘッドのキャップオープン状態が所定時間継続ときに吐出口面が乾燥している恐れがあるために行われる、所謂タイマワイピングのタイミングとすることができる。また、吐出ドット数のカウントを行い、所定量以上の記録がなされた場合に吐出口面がインクミストで汚れている恐れがあるために行われる、所謂ドットカウントワイピングのタイミングとすることができる。
【0112】
また、キャップクローズ後の放置に備えるようにするため、キャップクローズ前にウェットワイピングを行うこともできる。さらに、長期放置後など記録ヘッドの吐出口に固着/増粘インクが存在する場合に行われる吸引回復動作後には、吐出口面に吸引残りのインクが比較的大量に付着している。従ってこのインク残りを除去するために、吸引後のタイミングでウェットワイピングを行うことも好ましい。
【0113】
(他の実施形態)
本発明は、記録手段として、1個の記録ヘッドを用いる記録装置、異なる色のインクに対応する複数の記録ヘッドを用いるカラー記録装置、あるいは同系色で異なる濃度のインクに対応する複数の記録ヘッドを用いる階調記録装置、さらには、これらを組み合わせた記録装置に対しても同様に適用して、同様の効果を達成することができる。
【0114】
さらに本発明は、記録ヘッドとインクタンクを一体化した交換可能なインクカートリッジを用いる構成にも適用できる。さらに本発明は、記録ヘッドとインクタンクとを別体にし、それらの間をインク供給用のチューブ等によって接続する構成にも適用できるなど、記録ヘッドとインクタンクの配置構成の如何に拘わらず同様の効果を達成することができる。
【0115】
また、本発明は、例えば、ピエゾ素子等の電気機械変換体等を用いるインクジェット記録ヘッド(記録手段)を使用するインクジェット記録装置に対しても適用することができる。本発明は、特に、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式のインクジェット記録ヘッド(記録手段)を使用するインクジェット記録装置において、優れた効果をもたらすことができる。その理由は、かかるインクジェット方式によれば、記録の高密度化、高精細化が達成できるからである。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の内部を示す斜視模式図である。
【図2】図1の記録装置の内部を示す横断面模式図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置の回復装置の斜視模式図である。
【図4】ポンプに用いられるコロユニットを示した図である。
【図5】図3の回復装置におけるブレードユニットの内部構造を示す側断面模式図である。
【図6】(a)、(b)は、図3の回復装置におけるブレードクリーニング機構を示す斜視模式図である。
【図7】(a)から(e)は、本実施形態におけるブレードクリーニングの様子を示した図である。
【図8】図6のブレードクリーニング機構の内部を示す側面模式図である。
【図9】図9は、本実施形態のブレードクリーニング機構の分解図である。
【図10】(a)、(b)は、図6のブレードクリーニング機構の内部を示した図である。
【図11】(a)は、物流等による放置姿勢によって、ウェット液が移動した場合の模式図であり、(b)は、(a)の状態の後にウェット液タンクが通常の使用時の姿勢に戻された状態を示した図である。
【図12】記録ヘッドのクリーニング動作の一連のシーケンスを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0117】
6 回復機構部
11 シャーシ
34 プラテン
50 キャリッジ
60 ポンプ
63 メインカム
64 ブレードユニット
71 ブレードクリーナ
77 ウェット液転写部材
77A 転写部
641 ワイパーブレード(ワイパ)
642 ブレードホルダ
752 溝
781 下部保持部材
782 上部保持部材
812 吐出口面
【技術分野】
【0001】
本発明は記録ヘッドのインク吐出口が形成された面に付着したインク残渣等を効率よく安定的に排除して清浄化するために用いられるヘッド吐出口面保持液を貯留する液体タンクおよびそれを用いたインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、液体であるインクを媒介として入力データを記録媒体への文字や画像データとして出力変換するシステムであり、高記録品位を実現するために、インクを吐出する記録ヘッドの清浄化(クリーニング)技術が非常に重要な要素である。クリーニングが必要である主な理由を簡単に説明すると、次の通りである。
【0003】
記録ヘッドは微細なノズル(以下、吐出口、これに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギを発生するための素子を総称してこのようにいう)から記録媒体にインクを直接吐出して記録を行うものである。従って、吐出したインクが記録媒体に当たって跳ね返ったり、インクを吐出する際に記録に関与する主なインクの他に微小なインク滴(以下、サテライトともいう)が吐出されて雰囲気中に漂ったりすることがある。このようなサテライトが発生すると、これらがインクミストとなって記録ヘッドのインク吐出口の周りに付着することがある。また、空気中を漂っていた塵埃などがインク吐出口の周りに付着することもある。このようにサテライトや塵埃がインク吐出口に付着すると、それらが、吐出時の主インク滴を引っ張ることでインク吐出方向が曲がってしまう、すなわち主インク滴の直進性が妨げられることがある。
【0004】
そこでこの点を解決するためにインクジェット記録装置では、所定のタイミングでゴム等の弾性材料でなる払拭部材(以下、ワイパともいう)によって記録ヘッドの吐出口を備えた面を掃き、付着物を除去する方法(以下、ワイピングともいう)が採用されている。このように記録ヘッドの吐出状態を良好に維持するために行われるクリーニング手段はワイピングだけではない。
【0005】
記録ヘッドの吐出口近傍のインクが乾燥し、インクの増粘、固着、堆積等により吐出口の目詰まりが生じることがある。また、吐出口内部(液路)に発生した気泡や塵埃等によっても吐出口の目詰まりが生じることがある。これらの目詰まりを予防、解消する方法として、吸引回復方法が採られることがある。これは、キャッピング部材によって吐出口部に密閉系を形成し、ポンプを用いて記録ヘッドの吐出口を備えた面(以下、吐出口面ともいう)に所定の負圧吸引力を発生させ、これによって吐出口からインクと共に気泡や塵埃を強制的に排出する動作である。このような吸引回復に伴って吐出口面にインクが付着することもあるので、これを除去するために吸引回復後にもワイピングが行われる。
【0006】
一方最近では、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として染料成分を含有するインク(染料系インク)に代わり、顔料成分を含有するインク(顔料系インク)が使用されることが多くなってきている。顔料系インクは、元来固体である色材を、分散剤や、顔料表面に官能基を導入するなどして水中に分散させてなるものである。通常、染料系インクでは染料分子そのものが水溶液中に分散(溶解)している。しかし顔料系インクでは、一般に顔料粒子が親水性ではなく疎水性であるために、水には溶解しないので、水溶性を付与するために顔料粒子に樹脂や活性剤等を吸着させ顔料分散体として親水性を与え水溶液中に分散させている。あるいは顔料粒子の構造自体の末端に親水基を持たせることで水溶液中に自己分散させている。現在用いられている顔料系インクは、顔料の粒径がおよそ100nm程度と染料分子に比較してはるかに大きいために、光やオゾンの影響を受けたとしても色材の退色が顕著ではなく、耐候性は染料インクに比較してはるかに良好である。
【0007】
しかし、吐出口面上に付着しインク中の水分が蒸発して顔料インクの乾燥物が形成された吐出口面でワイピング動作を行うと、乾燥した顔料凝集物が剥離し、その剥離した顔料凝集物で吐出口面が擦られる。そして、吐出口面の表面を削ることで吐出口面の後述する表面特性を変化させてしまうことがある。これらはインク吐出特性すなわちインクの吐出方向の安定性を阻害するものであり、インク着弾位置精度を劣化させ記録品位低下の原因ともなる。このように、顔料系インクの乾燥固着物は、色材自体が分子レベルで溶解している染料系インクの乾燥固着物と比べ、吐出口面に与えるダメージが大きい。
【0008】
また、また顔料を溶剤中に分散させるために用いている高分子化合物が吐出口面に対して吸着されやすいという性質が見られる。これは、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的でインクに反応液を添加する結果、インク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料系インク以外でも生じる問題である。また、インクが増粘したり固着したりするまでの経過時間が染料インクを用いる場合より短く、早期に増粘したり固着したりする。
【0009】
これらにより、顔料系インクを用いる場合にはワイピング部材により拭き取る場合のワイピング性も染料インクを用いる場合より劣る。すなわち、ワイピングを実施しても吐出口面にインクが薄膜状に堆積し、さらにそのインクが固着してしまい、上記のような単なるワイピング動作では所望の清浄化が達成できないか極めて困難である。
【0010】
顔料粒子そのものは疎水性であるため、染料系インクと比較して記録ヘッドから顔料インクを吐出させたときに吐出口面に付着した顔料インクで吐出口面が不均一に濡れ易くなってしまう性質を持っている。また前述した樹脂を用いて顔料を分散させる、いわゆる樹脂分散系の顔料インクでは、顔料とともに樹脂も吐出口面を濡らし易いので、不均一に濡れ易くなる傾向は一層顕著である。
【0011】
そこで、吐出口面の表面特性として顔料系インクを弾くような処理、所謂撥水処理を施した記録ヘッドを用いれば、方向性が安定した吐出状態を得ることができる。しかし、基本的に顔料インク等の濡れ易いインクを用いた場合は、徐々に吐出口表面の撥水性が劣化し、吐出特性は不安定になる。また、ワイピングによっても、濡れ易い顔料系インクを吐出口面に広げてしまうために撥水性は劣化し、ついにはインクの吐出方向は不安定になり記録品位の劣化を生じてしまう。
【0012】
このような吐出口面の撥水性能もしくは親水性能の変化の問題に対しては、所謂ウェットワイピングという技術を用いることが知られている。これは、吐出口面を払拭するワイパに、例えばグリセリンやポリエチレングリコール等の揮発性の極めて低い溶剤でなる吐出口面保持液(以下、ウェット液ともいう)を付与する。そのワイパにて吐出口面を払拭することにより、吐出口面の親水性の変化を防止するものである。ウェット液の機能としては、第1に吐出口面に蓄積されたインク増粘物や増膜物を溶解する作用がある。第2に、ワイパと吐出口面との間に介在することにより潤滑材の働きをし、ワイパの磨耗を軽減する作用がある。第3に、吐出口面にウェット液を付着させることで吐出口面保護のための膜を形成する作用がある。
【0013】
これらのワイピング時に用いるウェット液は、記録装置本体内部に貯蔵する構成が採られている。そしてウェット液は、そもそも本体装置内に長期間(例えば本体寿命が尽きるまでの間)保持されているべきものであるため、空気中の飽和蒸気圧の低いもの、すなわち蒸発しにくいものが好ましい。また、インク増粘物への溶解性や記録ヘッド各部材との接液性を考慮すると、記録用液体であるインクの組成としてもしばしば用いられるグリセリン等の多価アルコール類の溶剤を用いることが好ましい。これらの溶剤は一般的に分子量が大きく、粘度が高いものが多いため、低温環境下での粘度上昇の程度も大きい。例えばグリセリンの粘度は常温で800cp程度であるが、15℃では2300cp、5℃では7000cpとなるなど、低温になるに従って急激に粘度が上昇する。このため、ウェット液の保持部からウェット液をワイパに付与する部分までの供給経路が考慮された設計がなされていないと、十分な量をワイパに付与することができず、ワイピングの効果を充分に発揮できなくなる。
【0014】
一方、グリセリンは湿潤環境では吸湿して大きく膨張するという性質を有する。このため記録装置本体には、吸湿したグリセリンすなわちグリセリン水溶液を保持するに十分な容量のウェット液保持部を用意しておく必要がある。さらには、体積膨張が生じてもウェット液の漏洩が生じないようなウェット液保持部にすることが強く望ましい。
【0015】
ここで、使用環境によってウェット液の成分比率の変化や体積変動がないようにするためには、ウェット液保持部を密閉系とすることが考えられる。しかし完全な密閉系を作り出すのは困難であり、また、その系を形成するために複雑な機構が必要となる。
【0016】
この点に関して、従来ウェット液保持部において適切な親水性や表面張力および大きさを有する繊維質部材等からなるウェット液保持部材でウェット液を含浸保持しておき、体積膨張が生じても漏洩が生じないようにする。そして、ウェット液保持部材から転写部材へとウェット液を供給し、さらにその転写部材からワイパにウェット液を供給することが行われている。
【0017】
【特許文献1】特開2007−69579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、転写部材とタンクケースとの空隙に生じる毛細管力が、ウェット液保持部材が有する保持力より大きい場合、この空隙を伝ってタンクケースの開口部から外へウェット液が流れ出すことが考えられる。
【0019】
また、タンクケースの構成によっては、通常の使用状態とは異なる状態での放置等によってウェット液が転写部材の転写部の位置よりも高い位置へ移動した場合、水頭圧の関係から転写時の転写量が著しく増加してしまうこともある。
【0020】
これらのウェット液の流出や転写量の変化によって、記録装置や記録媒体の汚染または記録品位の低下を生じさせるおそれがある。
【0021】
よって本発明は、記録装置や記録媒体の汚染を防止し、安定した量のウェット液を長期的に継続して転写することで、高記録品位を達成することが可能な液体タンクおよびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そのため本発明の液体タンクは、保持部材によって保持された液体を内部に備えた貯留部と、前記液体を転写部材によって外部へ供給する転写部とを備えた液体タンクにおいて、前記転写部材と前記液体タンクの壁との間の溝が有する前記液体に対する毛細管力は、前記保持部材が有する、前記液体に対する毛細管力より弱く、前記保持部材は、第1の保持部材と第2の保持部材とからなり、記録時の姿勢において、前記転写部材の前記転写部よりも高い位置に設けられた前記第1の保持部材は、前記転写部材の前記転写部よりも低い位置に設けられた前記第2の保持部材よりも、前記液体に対する強い毛細管力を備えている、ことを特徴とする。
【0023】
また、本発明のインクジェット記録装置は、上記液体タンクを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、転写部材とタンクの壁との間の溝が有する、液体に対する毛細管力を、保持部材が有する、液体に対する毛細管力より弱くする。さらに保持部材は、第1の保持部材と第2の保持部材とからなり、記録時の姿勢において転写部材の転写部よりも高い位置に設けられた第1の保持部材は、転写部材の転写部よりも低い位置に設けられた第2の保持部材よりも液体に対する強い毛細管力を備える。これによって、記録装置や記録媒体の汚染を防止し、高品位な記録を達成することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応する部分を示すものである。
【0026】
図1は、本発明のインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)の内部を示す斜視模式図であり、図2は、図1の記録装置の内部を示す横断面模式図である。本実施形態の記録装置は、記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うものであり、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集を早めるなど、所定の目的で記録媒体に液体を塗布する機構を備えたインクジェット記録装置である。また、記録媒体としては、紙、プラスチックシート、布、金属シート、あるいは板状部材など、種々の材質のものを使用することができる。ただし、以下の説明では、記録媒体の代表例が記録用紙であることから、広義の記録媒体を用いるべきところを記録用紙または用紙並びにシート材と称することがあるが、これは、記録媒体の範囲を記録用紙または用紙に限定するものではない。
【0027】
〔給紙部〕
インクジェット記録装置で、厚手の記録用紙へ写真調の記録を行う場合を例に挙げて説明する。記録媒体積載部(不図示)から装置内部へ記録媒体を給送するための給紙部2は、記録媒体であるシート材を積載する圧板21、シート材を給紙する給紙ローラ28、シート材を分離する分離ローラ(不図示)等をベース20に取り付けて構成されている。積載されたシート材を保持するための給紙トレイがベース20または外装部に取り付けられている。給紙トレイは多段式であり使用するときには引き出して用いる。給紙ローラ28は断面円弧の棒状をしている。用紙基準寄りに1つの分離ローラゴム(給紙ローラゴム)が設けられており、これによってシート材を給送する。給紙ローラ28の駆動は、給紙部2に設けられたモータで行われるが、このモータは回復機構部6の駆動源でもあり、駆動伝達ギア(不図示)および遊星ギア(不図示)などによってその駆動力が伝達されている。
【0028】
圧板21には、シート材の積載位置を規制するための移動可能な可動サイドガイド23が設けられている。圧板21はベース20に設けられた回転軸を中心に回転可能で、圧板バネ(不図示)により給紙ローラ28に付勢される。給紙ローラ28と対向する圧板21の部位には、積載最上層近くのシート材の重送を防止するために人工皮等の摩擦係数の大きい材質で作られた分離シート(不図示)が設けられている。圧板21は、給紙ローラ28に対して当接および離間するように、圧板カム(不図示)によってその位置が規制されている。さらにベース20には、シート材を1枚ずつ分離するための分離ローラを保持する分離ローラホルダ(不図示)が回転軸を中心に回転可能に取り付けられている。分離ローラは分離ローラバネ(不図示)により給紙ローラ28に付勢されている。
【0029】
分離ローラにはクラッチバネ(不図示)が取り付けられ、所定以上の負荷がかかったときに回転できる構成になっている。分離ローラは、分離ローラリリースシャフト(不図示)とコントロールカム(不図示)によって、給紙ローラ28に対して当接および離間するように構成されている。これら圧板21、戻しレバー(不図示)および分離ローラの位置は、ASFセンサ(不図示)によって検知されている。また、シート材を積載位置に戻すための戻しレバーは、ベース20に回転可能に取り付けられ、戻しレバーバネ(不図示)により解除方向に付勢されている。シート材を積載部へ戻すときは、戻しレバーはコントロールカムによって回転させられる。
【0030】
通常の待機状態では、圧板21は圧板カムによりリリースされ、分離ローラはコントロールカムによりリリースされている。さらに、戻しレバーは、シート材を積載部へ戻すとともに、積載されるシート材が奥に入らないように積載口を塞ぐよう位置に配置されている。この状態から給紙が始まると、モータの駆動によって、まず分離ローラが給紙ローラ28に当接する。そして、戻しレバーがリリースされ、圧板21が給紙ローラ28に当接する。この状態でシート材の装置内部への給送が開始される。
【0031】
給紙ローラ28により送り出されるシート材の枚数は、ベース20に設けられた前段分離部(不図示)で制限され、シート材の所定枚数のみが給紙ローラ28と分離ローラのニップ部に送り出される。送り出されたシート材はニップ部で分離され、最上位のシート材のみが装置内部へ給送される。シート材が搬送ローラ36とピンチローラ37の間に到達すると、圧板21は圧板カムによってリリースされ、分離ローラはコントロールカムによってリリースされる。戻しレバーは、コントロールカムによってシート材を積載部へ戻すような積載位置に戻る。このとき、給紙ローラ28と分離ローラのニップ部近傍まで送り出された余分の(最上層以外の)シート材は元の積載位置まで戻される。
【0032】
〔送紙部〕
送紙部3は、曲げ起こした板金部材などの剛固な組立て体であるシャーシ11に取り付けられている。送紙部3はシート材を搬送する搬送ローラ36とPE(ペーパーエンド)センサを有している。搬送ローラ36は、例えば金属軸の表面にセラミックの微小粒をコーティングした構造をしており、その両端金属部分をシャーシ11に設けられた軸受で軸支されることで、シャーシ11に取り付けられている。また、搬送ローラ36に回転時の負荷を与えることで安定した搬送を可能にするために、軸受と搬送ローラ36との間に搬送ローラテンションバネが装着されている。つまり、搬送ローラ36をバネ付勢することで所定の負荷を与えている。
【0033】
搬送ローラ36には、従動する複数のピンチローラ(不図示)が当接するように配設されている。ピンチローラはピンチローラホルダ30に保持され、ピンチローラバネの付勢力でピンチローラを搬送ローラ36に圧接することでシート材の搬送力を生み出している。その際、ピンチローラホルダ30の回転軸が、シャーシ11の軸受で軸支されている。さらに、シート材が搬送されてくる送紙部3の入口には、シート材をガイドするガイドフラッパ(不図示)およびプラテン34が配設されている。ピンチローラホルダには、シート材の先端および後端の検出をPEセンサに伝えるPEセンサレバー(不図示)が回動可能に取り付けられている。プラテン34はシャーシ11に取り付けられている。ガイドフラッパは、搬送ローラ36の軸受部(不図示)と同心の軸を中心に回転可能に軸支され、シャーシ11の一部に当接することで位置決めされる。
【0034】
給紙部2から送紙部3へ送られてきたシート材は、ピンチローラホルダ30およびガイドフラッパに案内されて搬送ローラ36とピンチローラとのニップ部(LFニップ部)へ送り込まれる。その際、送られてきたシート材の先端をPEセンサレバーによって検知し、これにより記録部におけるシート材の記録位置が算出される。シート材は、搬送モータ35によりローラ対36が回転駆動されることでプラテン34上を搬送される。プラテン34上には、搬送基準面になるリブが形成されており、このリブによって記録ヘッドとシート材とのギャップ管理をすると共に、排紙部4と共にシート材の浪打が大きくならないように規制している。搬送ローラ36の駆動は、DCモータである搬送モータ35の回転力を、タイミングベルトを介して搬送ローラ36の軸上のプーリ361に伝達することで行われる。
【0035】
また、搬送ローラ36の軸上には、搬送ローラ36による搬送量を検出するための150〜300lpiのピッチでマーキングが形成されたコードホイール362が取り付けられている。シャーシ11には、コードホイール362を読み取るためのエンゴーダセンサ(不図示)が取り付けられている。
【0036】
〔排紙部〕
排紙部4は、2本の排紙ローラ40、41、これらの排紙ローラ40、41に所定圧で当接されて従動回転する拍車42、搬送ローラ36の駆動を排紙ローラ40、41に伝達するためのギア列等から構成されている。
【0037】
排紙ローラ40、41はプラテン34に取り付けられている。搬送方向下流側の排紙ローラ40は、金属軸に複数個のゴム部を固着した構造を有する。搬送ローラ36からの駆動がアイドラギアを介して排紙ローラ40に伝達されることによって、2組の排紙ローラ対が駆動される。搬送方向上流側の排紙ローラ41は、樹脂の軸にエラストマの弾性体を複数取り付けた構造を有する。排紙ローラ40から排紙ローラ41への駆動はアイドラギアを介して伝達される。
【0038】
拍車42は、周囲に複数の凸形状を有するSUSの薄板を樹脂部と一体成型したものである。この拍車42は拍車ホルダ43に取り付けられている。この場合、棒状のコイルバネからなる拍車バネ(不図示)によって、拍車42の拍車ホルダへの取り付けと排紙ローラ40、41への押圧とを行っている。拍車42には、排紙ローラ40、41のゴム部材等からなる弾性体部に対応する位置に設けられることで主に搬送力を生み出す機能を有するものと、排紙ローラ40の弾性体部がない位置に設けられることで主にシート材の浮き上がりを抑える機能を有するものがある。
【0039】
排紙ローラ40、41の間には、シート材の両端部を持ち上げて排紙ローラ40、41の先でシート材を保持することで、先出のシート材上の記録画像を擦って記録にダメージを与えることを防止する紙端サポート(不図示)が設けられている。この紙端サポートは、先端にコロが設けられた樹脂部材を紙端サポートバネによって付勢することにより、コロを所定圧でシート材に押し付け、シート材の両端を持ち上げて保持するように構成されている。
【0040】
以上の構成によって、記録が行われたシート材は、排紙ローラ41と拍車42の間のニップに挟まれて搬送されることで、排紙トレイ(不図示)に排出される。排紙トレイはフロントカバー(不図示)に収納可能な構成になっており、使用時には引き出して用いる。排紙トレイは、その先端に向けて高くなり、更にその両端が高くなることで、排出されたシート材の積載性の向上と画像形成面の擦れ防止を図り得るように構成されている。
【0041】
〔キャリッジ部〕
キャリッジ50は、記録ヘッドを搭載して主走査方向に往復移動するものであり、記録ヘッドを搭載して移動する。キャリッジ50は、シート材の搬送方向に対して略直角方向に設置されたガイドシャフト52に沿って移動可能に案内支持されている。さらに、キャリッジ50の後端部はガイドシャフト52と平行に設けられたガイドレール111によって摺動自在に支持され、キャリッジ50は記録ヘッドとシート材との隙間を維持するような一定の姿勢に保持されている。ガイドシャフト52はシャーシ11に取り付けられている。ガイドレール111はシャーシ11に一体に形成されている。
【0042】
キャリッジ50は、シャーシ11に取り付けられたキャリッジモータ54によりタイミングベルト541を介して駆動される。タイミングベルト541は、アイドルプーリ(不図示)によって所定の張力を付与された状態で張架されている。タイミングベルト541はキャリッジ50に対し、ゴム等のダンパー(不図示)を介して連結されている。このダンパーは、キャリッジモータ54等の振動を減衰することで画像ムラ等を低減するためのものである。キャリッジ50の位置および移動を検出するための150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードストリップ561がタイミングベルト541と平行に配置されている。そのコードストリップ561を読み取るエンコーダセンサがキャリッジ50上のキャリッジ基板(不図示)に搭載されている。
【0043】
このキャリッジ基板には、記録ヘッドと電気的な接続を行うためのコンタクトが設けられている。キャリッジ50には、記録装置の電気基板から記録ヘッドへ、ヘッド信号を伝えるためのフレキシブル基板が接続されている。キャリッジ50には、記録ヘッドをキャリッジ50に位置決めするための突き当て部(不図示)と記録ヘッドを押し付け固定するための押圧手段(不図示)が設けられている。押圧手段は、ヘッドセットレバー51に搭載されており、ヘッドセットレバー51を回動させると記録ヘッドに作用する。
【0044】
ガイドシャフト52の両端には偏心カム521が固定されている。APモータの駆動によりギア列591を介して偏心カム521まで駆動力を伝達することによって、ガイドシャフト52を上下に昇降させることができる。これによって、キャリッジ50を昇降させ、厚みの異なるシート材に対しても最適なギャップを確保することができる。キャリッジ50には、記録ヘッドから吐出されてシート材に着弾するインクの着弾ズレを自動的に補正するための自動レジ調整センサ(不図示)が取り付けられている。このセンサは反射型の光センサであり、発光素子より発光し、シート材上の画像パターンからの反射光を受光することで、最適なレジ調整値を求めることができる。
【0045】
〔記録部〕
キャリッジ50には、画像情報に基づいて画像を記録する記録ヘッドが配設されている。記録ヘッドとしては、各色別体の交換可能なインクタンクが装着されるインクジェット記録ヘッドが用いられている。また、記録ヘッドにはインクタンクに接続される複数のインク流路が形成されており、このインク流路はプラテン34と対向する面に配された吐出口(不図示)まで連通している。吐出口列を形成する複数の吐出口のそれぞれの内部にはインク吐出用のアクチュエータ(エネルギ発生手段)が配されている。このアクチュエータとしては、例えば、電気熱変換体(発熱素子)による液体の膜沸騰圧力を利用したものや、ピエゾ素子等の電気機械変換体(電気−圧力変換素子)などが用いられる。
【0046】
上記のような記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、記録ヘッドに、フレキシブルフラットケーブルを介してヘッドドライバの信号を伝達することで、記録データに応じてインク滴を吐出することが可能である。このような構成においてシート材に記録を行うときは、記録する位置(シート材の搬送方向の位置)までシート材を搬送すると共に、キャリッジモータ54によりキャリッジ50を主走査方向の記録位置へ移動さる。そしてシャーシに張架されたコードストリップ561をキャリッジ50に搭載されたCR(キャリッジ)エンコーダによって読み取り、記録ヘッドを駆動して、電気基板からの画像信号により適切なタイミングで記録用紙に向けてインク滴を吐出することができる。このようにして、1ライン分の記録が終了すると、用紙搬送部により必要量だけ記録用紙を搬送(紙送り)する。この動作を繰り返して記録動作を実施することによりシート材に記録することができる。
【0047】
次に記録部8に装着されるインクタンクに貯蔵されるインクについて説明する。本発明に用いられるインクは5色であり、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、フォトブラック(PBk)、ブラック(Bk)である。各色に用いられる着色剤は全てが顔料であることが好ましい。ここで、顔料の分散を行うためには、公知一般の分散剤を用いてもよいし、また公知一般の方法で顔料表面を改質し、自己分散性を付与してもよい。本発明の主旨にあえば、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が染料であってもよい。また、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が顔料と染料を調色した形でもよく、顔料を複数種含んでもよい。また本実施形態に用いられる5色インクには、本発明の主旨にある範疇で、水溶性有機溶剤・添加剤・界面活性剤・バインダー・防腐剤から選ばれる少なくとも1種以上が含まれてもよい。
【0048】
〔回復機構部〕
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置の回復装置の斜視模式図である。インクジェット記録装置の場合に設けられる回復機構部6は、インクジェット方式の記録ヘッドのインク吐出性能を維持回復するためのものである。回復機構部6は、記録ヘッドの吐出口からのインク吸引などを行うためのポンプ60と、記録ヘッドの吐出口近傍の乾燥を抑えるためのキャップ61と、記録ヘッドの吐出口周辺を拭き取り清掃するためのブレードユニット64等からなる。さらには、このブレードユニット64に備えられたポリエーテルウレタンでできたワイパーブレード(以下、単にワイパともいう)641をクリーニングするためにワイパーブレードクリーニング機構7が備えられている。回復機構部6の主な駆動は、前述の給紙部2の駆動源であるAPモータから伝達される。つまり、APモータの一方向の回転でポンプ60が作動し、反対方向の回転でブレードユニット64のワイピング動作およびキャップ61の密着離間動作が行われるように、ワンウエイ機構(不図示)が設けられている。ポンプ60としては、例えば、いわゆるチューブポンプを使用することができる。
【0049】
図4は、ポンプ60に用いられるコロユニット600を示した図である。以下、図3および図4を用いて本実施形態におけるポンプ60の具体的な動作について説明する。なおここでは2系統具えているチューブポンプのうち、一方のみを説明するが他方の機構も同等であるものとする。
【0050】
ポンプ60には、APモータの駆動により回転するコロホイール603と、ボスを回転中心として、そのボスをその両側面に具えたコロホルダ602とが具えられている。コロホルダ602には、コロ601を半径方向に移動させると共に半径方向の位置を規制するためのカム部が形成されている。カム部の一端部602aは、コロ601が吸引チューブ671を押圧し、吸引チューブ671の内径を密着させる(しごいて負圧を発生させ得る状態にする)位置である。カム部の他端部602bは、コロ601が吸引チューブ671に当接するが、吸引チューブ671の内径が密着しない(密閉されるまで押しつぶされない)位置である。よって図4のようにAPモータの駆動によりCCW方向へ回転すると、吸引チューブ671の内壁が密着し、コロホイール603が回転することにより吸引を実行できる。一方、コロホルダがCW方向に回転すると、コロ601は、コロホルダ602のカム部の吸引チューブ671の内径密着位置602aからチューブ内径開放位置602bへ移動し、吸引チューブの密着を開放することで、キャップ内を大気連通状態にする。
【0051】
このようにポンプ60は、図3に示すように2本の吸引チューブ671、672を後述のポンプコロ601でしごくことで負圧を発生させるように構成され、キャップ61から、ポンプ60へは、大気連通弁62などを介して接続されている。キャップ61を記録ヘッドに密着させた状態(以下、キャッピング状態ともいう)でポンプ60を作動させることにより、記録ヘッドの吐出口からインクと共に固着インクや気泡等を含む不要インクを吸引除去することができる。また、キャップ61の内部には、吸引後の吐出口面上のインク残りを消滅させるためのキャップ吸収体611が装填されている。そして、このキャップ吸収体611にインクが残って固着することによる弊害を防止するために、キャップ61を開放した状態でポンプ60を作動することにより、キャップ61内に残っているインクを吸引することができる。ポンプ60で吸引された廃インクは下ケース(不図示)に装着された廃インク吸収体(不図示)に吸収・保持される。
【0052】
キャップ61のキャッピング動作やワイパ641のワイピング動作などの一連の動作は、複数のカムを有する後述するメインカムによって制御される。また、大気連通弁62の開閉駆動もメインカムで行われる。これにより、駆動すべき大気連通弁62を選択的に開閉することで、全色インクの一括吸引と各色インクごとの個別吸引とを必要に応じて対応させることができる構成になっている。つまり、メインカムがそれぞれの部位のカムやアームに作用することにより、所定の動作が所定のタイミングで実行される。
【0053】
メインカムの位置は、フォトインタラプタ等の位置検出センサ(不図示)で検出することができる。キャップ611が離間したときに、ワイパーブレード641を記録ヘッドの吐出口面に摺擦させることにより、吐出口面のワイピング(クリーニング)が行われる。また、本実施形態では、ワイパーブレード641は吐出口近傍をワイピングするものと、吐出口周辺部を含む吐出口面全体をワイピングするものとからなる複数のワイパーブレードで構成されている。各ワイパーブレード641は、ワイピング方向へ最も奥まで移動した際に、後述のワイパーブレードクリーニング機構7によって、ワイパ641自体に付着したインク等を除去(クリーニング)される。
〔ブレードユニット〕
図5は、図3の回復装置におけるブレードユニット64の内部構造を示す側断面模式図であり、図6(a)、(b)は、図3の回復装置におけるブレードクリーニング機構7を示す斜視模式図である。
【0054】
ブレードユニット64は、キャップ61の近傍に配されて、記録ヘッドの吐出口面に付着したインク滴を拭き取るように構成されている。また、記録ヘッドのクリーニングによりブレードユニット64のワイパーブレード641に転写された付着インクは、ブレードクリーニング機構7により、ワイパーブレード641から掻き取られる。このブレードクリーニング機構7の繰り返しの動作により、記録ヘッドのクリーニングの際に、ワイパーブレード641に付着したインクが記録ヘッドに再転写されることを防止する。そして、キャップ61を用いた吸引回復処理および予備吐出処理のための回復手段、ブレードユニット64、およびブレードクリーニング機構7によって、記録ヘッドのインクの吐出状態を良好に保つことができる。
【0055】
ブレードユニット64には、記録ヘッドの吐出口面に付着したインクを払拭するためのワイパーブレード641およびワイパーブレード641を支持して、矢印B、F方向に移動可能なブレードホルダ642等が備えられている。ブレードスライドギア644は、ブレードホルダ642の付図示のラック部にかみ合っており、ブレードスライダ643は、ブレードスライドギア644を軸支している。ブレードスライダ643は、前述したメインカム63の回転運動によって端部が押されることにより、矢印B、F方向に往復直線運動し、その往復運動をブレーホルダ642に伝達する。すなわち、ブレードスライダ643は、ブレードスライダーギア644を軸支することで、APモータで駆動されるメインカム63の回転駆動をブレードホルダ642の直線往復運動に変換する。
【0056】
本実施形態では、記録ヘッドのクリーニング時にワイパ641が侵入方向(矢印F方向)へ移動し、ワイパ641がブレードクリーニング機構70に備えられたブレードクリーナ71との対向位置を通過することで、ワイパ641に付着したインクが掻き取られる。また、メインカム63の回転運動により、ワイパ641の移動方向が退避方向(矢印B方向)に変わり、ワイパ641がブレードクリーナ71との対向位置を抜けて、不図示のばねのバネ力を受けて元の位置まで戻る。
【0057】
〔ブレードクリーニング機構〕
図7(a)から(e)は、本実施形態におけるブレードクリーニングの様子を示した図である。本実施形態におけるブレードクリーニング機構7の具体的な動作について図5、図6および図7(a)〜(e)を用いて説明する。
【0058】
ブレードクリーニング機構7に設けられたブレードクリーナ71の一端部には、ブレードクリーナ退避レバー73が回動自在に支持されている。ブレードクリーナ退避レバー73は突き当て部73aを有し、ブレードクリーナ71のレバー受部71aが矢印R方向へ回動する際にのみ接触するように構成されている。
【0059】
ブレードクリーナ退避レバー73には突き当て部73aが、ブレードクリーナ71のブレードクリーナ71のレバー受部に突き当たるように付勢するために、トーションバネ74がブレードクリーナ退避レバー73と同軸上に設けられている。また、ブレードホルダ642には、ブレードクリーナ退避レバー73を回動させるためのカム面642aが形成されている。カム部の一端部では、ブレードホルダ642が矢印F方向に進入した際に、ブレードクリーナ退避レバー73を押し上げて矢印Q方向へ回動させる。
【0060】
カム面642bは、ブレードクリーナ退避レバー73を一定の回転角度で停止させるように構成されている。一方、カム部の他端部642cでは、ブレードホルダが更に矢印F方向に進入して、搭載するワイパーブレード641の全てがブレードクリーナを通過し、ブレードクリーナ退避レバー73の矢印Q方向へ押上げ回動が解除され元の状態に戻る。
【0061】
ブレードクリーナ71によるブレードクリーニング動作を、順を追って説明する。
ブレードホルダ642が矢印F方向へ移動し、ワイパ641がブレードクリーナ71に到達すると略同時にブレードホルダ642のカム面642aがブレードクリーナ退避レバー73と当接する。更にブレードホルダ642が進むとワイパーブレード641がブレードクリーナ71に当接し、カム面642aがブレードクリーナ退避レバー73を押し上げて空転回動を開始する。この際のブレードクリーナ退避レバー73の回動動作は他の部品の動作には影響を与えない。
【0062】
さらにブレードホルダ642は矢印F方向へ移動するが、ブレードクリーナ71の位置は変わらないため、ブレードホルダ642の矢印F方向へ移動で、ワイパーブレード641に付着したインクがブレードクリーナ71によって掻き取られる。このようにして、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等がブレードクリーナ71側へ転写される。
【0063】
この時、ブレードクリーナ71の当接面の撥水性が強い材質の場合、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等は、クリーナ71へは付着せずに、ワイパーブレード641上に多く残ってしまう。そこで、インクがブレードクリーナ71の当接面に良好に掻き取られるようにするため、ブレードクリーナ71の材質は、インク等が付着しやすいように、より親水性の高いすなわち濡れ性のよい材質で形成されていることが望ましい。
【0064】
この結果、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に繰り返し当接した際に、ワイパーブレード641から除去されたインク等がワイパーブレード641に再転写することを防ぎ、記録ヘッド3に対する繰り返しのクリーニング性能が安定的に保たれる。
【0065】
さらにブレードホルダ642が矢印F方向へ移動し、全てのワイパーブレード641に対してブレードクリーナ71によって異物およびインク等が除去される。
【0066】
さらにブレードホルダ642が矢印F方向へ移動し、ワイパーブレード641がウェット液供給部であるウェット液転写部(以下、単に転写部ともいう)77Aに当接して、後述するウェット液の転写が行われる。この際、ブレードホルダ642のカム面642cによって、これまで押上げられていたブレードクリーナ退避レバー73は矢印R方向に回動して元の待機位置まで戻る(図7(c)参照)。
【0067】
次に、ワイパーブレード641およびブレードホルダ642が退避方向(矢印B方向)へ抜ける際には、ワイパーブレード641と他の部分が接触しないようにして、インクの飛び散りを極力抑えるように構成されている。すなわち、ブレードホルダ642が退避方向へ抜ける際には、ブレードホルダ642のカム面642cがブレードクリーナ退避レバー73を矢印R方向に押上回動する。この時、ブレードクリーナ退避レバー73の回動動作は、ブレードクリーナ71のレバー受部によってブレードクリーナ71に伝達され、ブレードクリーナ71も矢印R方向に回動退避する(図7(d)参照)。なお、ブレードホルダのカム面642cは、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に接触する前に回動を開始するため、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に接触することはない。
【0068】
さらにブレードホルダ642が矢印B方向へ移動し、ブレードクリーナ退避レバー73はブレードホルダ642のカム面642bに当接すると、ブレードクリーナ退避レバー73の回動動作はとまり、ブレードクリーナ退避レバー73は所定の角度で保持される。この際、ブレードクリーナ71も同様に所定の角度で保持される。全てのブレードがブレードクリーナ71の下方を完全に通過すると、ブレードクリーナ退避レバー73はブレードホルダ642のカム面642bからカム面642aへと移り、その後、ブレードクリーナ退避レバー73はブレードホルダ642から離れる。なお、ブレードホルダ642のカム面642bでの保持は、全てのブレード641がブレードクリーナ71の下方を完全に通過するまで行われる。そのため、ブレードクリーナ退避レバー73がブレードホルダ642から離れるまでブレードクリーナ71とワイパーブレード641とが接触することがない。
【0069】
よって、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に接することなく潜りぬけることが出来て、ワイパーブレード641から除去したインク等がワイパーブレード641に再転写されることを防止することができる。さらにはワイパーブレード641からのウェット液の飛散等が抑制され、ウェット液はブレードに保持されたままであり、記録ヘッドに対する繰り返しのクリーニング性能が安定的に保たれる。
【0070】
〔ウェット液転写部の詳細〕
本実施形態では、図7に示したようにワイパーブレード641にウェット液を転写・付着させることで濡らし、その濡れたワイパーブレード641でワイピング(ウェットワイピング)を行う。
【0071】
図8は、図6のブレードクリーニング機構7の内部を示す側面模式図であり、図9は、本実施形態のブレードクリーニング機構7の分解図である。また図10(a)、(b)は、図6のブレードクリーニング機構7の内部を示す斜視図である。
【0072】
本実施形態におけるブレードクリーニング機構7の詳細な構成について図6(a)、(b)、および図8〜図11を用いて説明する。
図8に示すように、本実施形態ではウェット液を貯留部であるウェット液タンク75に収納された多孔質体でなるウェット液保持部材78に含浸保持させる構成がとられている。また、ウェット液保持部材78に含浸されたウェット液はウェット液転写部材77のウェット液転写部(以下、単に転写部ともいう)77Aを介して転写される。ウェット液保持部材78は、通常の使用状態において、ウェット液転写部(以下、単に転写部ともいう)77Aよりも下部に配置される下部保持部材781と、ウェット液転写部77Aよりも上部に配置される上部保持部材782から構成されている。
【0073】
またこの保持部材78は、ウェット液がウェット液タンク75から漏れないように適度な毛細管力を有する繊維質部材等の吸収体からなり、本実施形態ではポリプロピレン繊維を用いている。なお、ポリプロピレン繊維の繊維径や、ポリプロピレン繊維の繊維同士を結合させて保持体にしたときの見かけ密度、ポリプロピレン繊維をウェット液タンク75内に組み込むときの圧縮率等は適宜選択することができる。
【0074】
ウェット液転写部材77は、クリーニング動作時にはワイパーブレード641と接触する転写部77Aを有しており、下部保持部材781の底面と接しているウェット液転写部材77は、例えば多孔質体であって適度な毛細管力を備えた材質からなっている。そしてウェット液転写部材77は、初期の状態からウェット液の残量が少なくなるまで、ウェット液保持部材78から転写部77Aに確実にウェット液の供給が行われるように構成されている。以下、確実にウェット液の供給するためのウェット液保持部材78およびウェット液転写部材77の関係を詳細に説明する。
【0075】
後述するようにウェット液保持部材78において、上部保持部材782の毛細管力は、下部保持部材781の毛細管力と比較して強くなるように構成されている。本実施形態では上部保持部材782の毛細管力は、下部保持部材781の毛細管力の略2倍である。ウェット液はウェット液タンク75に注入されると、転写部77Aより下方において下部保持部材781に含浸保持される。そして、ウェット液転写部材77の毛細管力により転写部分77Aまで引き上げられる。ここで、下部保持部材781とウェット液転写部材77の間で確実にウェット液の供給が行われるようにするために、本実施形態では、下部保持部781の毛細管力よりも、ウェット液転写部材77の毛細管力の方が強くなるよう設定されている。これにより、図8中に模式的に示した矢印7Nのように、ウェット液保持部78からウェット液転写部材77へ毛細管力差により供給されることになる。
【0076】
ウェット液転写部材77に供給されたウェット液は、毛細管力によって転写部77Aまで引き上げられる。ここで、ウェット液転写部材77は、上部保持部材782とも接している。そのため、引き上げられたウェット液が上部保持部材782へ含浸してしまう事が無いよう、上部保持部782の毛細管力よりも、ウェット液転写部材77の毛細管力の方が強くなるよう設定されている。すなわち、ウェット液転写部材77の毛細管力:Pf、上部保持部材782の毛細管力:Qf、下部保持部材781の毛細管力:Rfとすると、
Pf>Qf>Rf
の関係になる。
【0077】
図9は、本実施形態のウェット液タンク75を示した分解図である。ウェット液タンク75とウェット液保持部材78との間に隙間ができるとその隙間がエアパスとなり、意図しない大気連通路およびデッドスペースとなってしまう。この場合、注入時にエアパスに液が回り込んでしまい、外部との気液交換をしてウェット液がタンク外部へ漏れでてしまう。また、ウェット液保持部材78の繊維方向への圧縮は、繊維を座屈する方向であり、反発力も非常に大きく弾性変形範囲は乏しい。この方向への圧縮変形は、保持体の座屈による皺を招いてウェット液保持部材78とウェット液タンク75内壁との間にエアパスを生じ易い。
【0078】
そこで、本実施形態におけるウェット液保持部材78は、繊維方向(V方向)や非繊維方向(W方向)にはほとんど圧縮変形させず、積層方向(U方向)にのみに圧縮することで、著しい弾性変形と反発力を発生させている。そのため、ウェット液タンク75の最も面積の広い内壁751と間にエアパスを生じることがなく、ウェット液保持部材78を壁面751に対して均等に密着させることを可能にしている。
【0079】
またタンクカバー76と圧縮方向を直交方向にした場合、ウェット液保持部材78の反発力によってタンクカバー76に著しい応力が生じて変形してしまう。この時、タンク内容積が変化してしまい、ウェット液保持部材78のみかけの密度が変化してしまう。みかけの密度が変化すると発生させる負圧が変化してしまう。したがって、本発明ではウェット液保持部材78の繊維方向と直交方向でかつ積層方向と直交する非繊維方向(W方向)とタンク蓋とを直行方向とし、タンクカバー76の内側にリブ761を立てて、リブ761が繊維積層間に刺さりやすい構成としている。
【0080】
このようにすることで、ウェット液保持部材78高さとタンクリブ部高さで若干のオーバーラップがあっても、タンクカバー76への応力を緩和して、タンクカバー76の変形を抑制して、安定した毛細管力を発生さることが出来る。またオーバーラップさせることによってタンクカバー76がウェット液保持部材78を押し込むため、ウェット液保持部781およびウェット液転写部材77の底面部分77Bとの隙間が生じることなく略均等に密着させることを可能にしている。
【0081】
図10(a)、(b)は、図6のブレードクリーニング機構7の内部を示した図である。なお、図10(a)、(b)では、ウェット液保持部材78を取り除いた状態を示している。
【0082】
以下、ウェット液転写部材77とウェット液タンク75の関係をについて図10(a)、(b)を用いて説明する。転写部77Aには、進入してきたワイパーブレード641が当接することでワイパーブレード641にウェット液を転写供給する。したがって、転写部77Aはウェット液タンク75から常時、大気開放されている。
【0083】
タンク開口部751とウェット液転写部材77との間に溝が生じていると、この溝よって毛細管力を発生させてしまう。特に、狭い溝(微溝)である場合、毛細管力が強くなることから、ウェット液タンク75とウェット液転写部材77との間の微溝によって強い毛細管力が発生してしまう。その結果、ウェット液がウェット液転写部材77周囲の溝を伝って漏洩し、装置姿勢によってはウェット液タンク75の外へと漏れ出してしまう。そこで、本実施形態では、常時開口されている転写部77Aの周辺とウェット液タンク75との間に、毛細管力が発生しない程度の距離dの溝752が構成されている。本実施形態における溝752は、距離dを1〜3mmとすることで、スペース効率がよくかつ毛細管力を抑える構成となっている。
【0084】
なお、毛細管力が発生しない程度の溝を設けなくても、ウェット液保持部材78(下部保持部材781)が有する毛細管力よりも弱い毛細管力の溝であればよい。
【0085】
また、溝752はウェット液転写部材77の全周囲に設けることが望ましいが、周囲の一部のみに設けてもよい。その場合には、少なくとも溝752を設けた箇所においては、ウェット液転写部材77とタンク壁との間に生じる毛細管力がほぼ無くなって、タンク外へ漏れ伝わろうとする経路が断たれ、液漏れを抑制する効果がある。
【0086】
図11(a)は、物流等による放置姿勢によって、ウェット液が移動した場合の模式図である。また、図11(b)は、図11(a)の状態の後にウェット液タンク75が通常の使用時の姿勢に戻された状態を示した図である。この図11(b)の状態の場合、転写部77Aへのウェット液の供給は、上部保持部材782による転写部77Aよりも高い位置からの供給(矢印7H)と、下部保持部材781による転写部77Aよりも低い位置からの供給と、の2系統から供給されることになる。この場合、転写部77Aとウェット液を供給する側の水頭圧には差があることになる。つまり、転写部77Aよりも高い位置にある上部保持部材782が保持しているウェット液は高い水頭圧を有しており、転写部77Aよりも低い位置にある下部保持部材781が保持しているウェット液は低い水頭圧を有していることになる。
【0087】
ここで、上部保持部材782と下部保持部材781とが同じ毛細管力を有している場合、水頭圧の差から上部保持部材782から転写部77Aへのウェット液の供給量が著しく増加してしまう。その結果、転写部77Aからワイパーブレード641へのウェット液の転写量が増加してしまう。
【0088】
したがって、本実施形態では上部保持部材782の繊維密度を下部保持部材781よりも大きくすることで、上部保持部材782の毛細管力による負圧を高める構成としている。すなわち、本実施形態のように上部保持部材782と下部保持部材781とに同材質を用いている場合は、上部保持部材782の繊維密度を上げることによりその空孔間隔を狭くすることで毛細管力を強くしている。この結果、上部保持部材782の負圧が大きくなり、上部保持部材782に含浸されたウェット液と下部保持部材781に含浸されたウェット液との水頭圧に起因する圧力差が緩和される。よって、上部保持部材782からの著しい転写量の増加が抑えられ長期的、安定的にワイパーブレード641へウェット液を転写・供給することが可能となる。
【0089】
上部保持部材782と下部保持部材781とウェット液転写部材77との毛細管力の関係を、以上のような関係にすることで、ウェット液保持部材78の種類や密度や圧縮率、およびウェット液転写部材77の平均気孔径、見かけ密度は適宜選択可能である。本実施形態では、ウェット液転写部材77には旭化成ケミカルズ株式会社製サンファイン(登録商標)AQ890を採用している。また本発明者はウェット液保持部材78には下表に示す仕様のものを用いている。
【0090】
【表1】
【0091】
なお、ウェット液転写部材77にサンファイン(登録商標)AQ890、ウェット液にグリセリン水溶液を用いる本実施形態では、ウェット液転写部材77がウェット液を引き上げる限界引き上げ高さは低温・低湿環境下で60mmほどである。このため、ウェット液転写部材77の底面部77Bと転写部77Aまでの距離(高さH)は20mmとした。また、転写部77Aからウェット液転写部材77の最遠部77Dまでの、ウェット液転写部材に沿った距離は50mmとなるようにした。
【0092】
また、ウェット液としては、本実施形態ではグリセリン水溶液を用いている。グリセリンそのものは蒸発しにくいが、空気中の水分を吸湿しやすく、また一旦吸湿した場合でも低湿度環境下では水分を放出する特性がある。従って、吸湿、乾燥の影響を受けないように、ウェット液保持部78およびウェット液転写部材77の外周面を図示しない水蒸気透過性の低い材料で遮蔽することが好ましい。ただしウェット液保持部78に存在するエアーの膨張収縮に耐えられるように、完全密閉するのではなく、一部に大気連通用の細孔を設けることが望ましい。なお、図6、図8に示すように、下部保持部781およびウェット液転写部材77の接触部分(底面部分)77Bおよび転写部分77Aについては遮蔽を行わない。
【0093】
次に、ウェット液保持部材78の大きさ、すなわち容積については、ウェット液の必要量から次のように算出できる。まず、記録装置または記録ヘッドの寿命が尽きるまでに行われる記録枚数(耐久枚数)相当分のワイピングを行ったとしても吐出口面82の撥水状態に大きな変化がなく、吐出液滴の着弾位置精度が許容範囲内であるのに必要なウェット液転写量を実験等で求める。そしてウェット液保持部材78は、これに耐久枚数相当分のワイピング回数を乗じた量のウェット液を保持可能な容積より大きい容積を有するものとする。1回のワイピングで必要なグリセリン等のウェット液の量、および想定する耐久枚数ないしワイピング回数に関しては、記録装置や記録ヘッドの構成等に応じて異なる。また、使いきり時におけるウェット液保持部材78やウェット液転写部材77のグリセリン残量、および使用者によって異なる使用状況を考慮して安全係数が設定される。さらに、吸湿によるグリセリンの体積増大分を考慮しなければならない。従って、吸収体である保持部材の容積は、1回のワイピングで必要なグリセリン等のウェット液の量、ワイピング回数および安全係数を乗じ、さらに環境に応じた体積変動分を考慮して定めることが強く望ましい。そのようにウェット液保持部材78の容積を適切に定めることで、通常状態でウェット液保持部材78が、転写部分より下方においてウェット液を含浸保持しておくことが可能となる。またこれにより、ウェット液転写部材77の毛細管力によりウェット液を引き上げて供給・転写することができ、様々な環境下においても安定かつ十分なウェット液の供給ないし転写性能を維持することができるようになる。
【0094】
〔ウェットワイピング動作〕
図12は、記録ヘッドのクリーニング動作の一連のシーケンスを示したフローチャートである。本実施形態のインクジェット記録装置は、回復機構部6により記録ヘッドの吐出口面812(図7(a)参照)のクリーニングを行う場合に、図12のシーケンスにより、記録ヘッドのクリーニング動作に含まれるワイピング動作を行う。なお吐出口面812は、撥水材のコートなどによる撥水処理が施されたものとすることができる。以下、図12のフローチャートに沿って、本実施形態におけるワイピング動作を図7を参照しながら説明する。
【0095】
ステップS101でワイピング動作命令が発せられると、回復機構部6に設けられたカム(不図示)の位置をカム位置検知センサ(不図示)により検出し、キャップ61およびブレードユニット64等の動作位置を確認する。記録ヘッドがワイピング動作ポジション(ホームポジション)にない場合には、回復機構部6を構成するキャップ61やブレードユニット64等と記録ヘッドとが干渉しない状態にあることをカム位置検出センサの検出信号により確認する。その後、伝達機構(不図示)を駆動させて、ステップS102で図1のように記録ヘッドを回復動作位置(ホームポジション)に移動させる。
【0096】
その後、ステップS103でAPモータを所定量正転させて、メインカム63を駆動させることによりワイピング動作を実行する。通常ブレードユニット64は図7(a)の位置で待機している。この状態で、ブレードユニット64をワイパーブレード641侵入方向Fへ移動させる。そして、記録ヘッドの吐出口面にワイパーブレード641を接触させて、記録ヘッドの吐出口面812に付着している異物およびインク等をワイパーブレード641に転写させて除去する。
【0097】
その後、記録ヘッドの吐出口面からワイパーブレード641に転写されたインク等をブレードクリーナ71によって掻き取る。そのために、ブレードユニット64は、ブレードクリーナ71を備えたブレードクリーニング機構7に向かって、さらに矢印F方向へ移動し、ブレードクリーナ71の部位を通過させる(図7(b))。このときブレード641はブレードクリーナ71によって清掃される。
【0098】
図7(b)の状態において、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等は、ブレードクリーナ71における当接稜線エッジ部、つまりワイパーブレード641に当接する稜線上のエッジ部により掻き取られる。すなわち、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71の当接稜線エッジ部に当接して、その対向位置を通過することにより、ワイパーブレード641に付着した異物およびインク等は、ワイパーブレード641からブレードクリーナ71へ転写される。そして、転写された異物およびインク等はそのブレードクリーナ71に設けられたインク堆積用のスペースにインク等の堆積物として堆積する。このインク堆積用のスペースは、繰り返しのワイピング動作で、ワイパーブレード641がブレードクリーナ71に当接した際に、掻き取った異物およびインク等をワイパーブレード641に極力再転写させないように設けられた堆積スペースである。
【0099】
ワイパーブレード641は、ブレードクリーナ71によって異物およびインク等が除去された後、ブレードクリーナ71との対向位置をF方向に通過してから、ウェット液転写部分77Aに当接する(図7(c))。そしてステップS104で転写部分に対する所定のニップ幅および当接時間に応じ、ブレードにはウェット液が適量転写される。
【0100】
次に、ステップS105でワイパーブレード641を元の位置に戻すため、キャリッジ50に搭載された記録ヘッドを主走査方向に移動させて、それを回復動作位置から退避位置へ約80mm移動させる。これにより、記録ヘッドに対するワイパーブレード641の不必要な接触を避ける。
【0101】
その後、ステップS106でAPモータから駆動力を受けて、ブレードユニット64が退避方向Bへ移動して位置図7(d)〜(e)で示した位置を経由して待機位置(図7(a))までブレードユニット64を移動させる。なおこの時、前述したようにワイパーブレード641はブレードクリーナ退避機構によってブレードクリーナ71に接触することなく潜りぬけることが出来る。このため、ワイパーブレード641が遥動することによるウェット液の飛散等が抑制され、ウェット液はブレードに保持されたままである。
【0102】
また、このように転写されたウェット液は、連続してワイピング動作を行わない場合にも、グリセリンは揮発性が極めて低いためブレード641に付着したままなので、次回のワイピング動作を待機位置(図7(a))からそのまま実行できる。
【0103】
続いて、APモータから駆動を受けて、キャップ61は、記録ヘッドから予備吐出されるインクを受けるための所定位置に移動する。予備吐出は、記録に寄与しないインクを記録ヘッドの吐出口から吐出させるための回復処理である。
【0104】
その後、ステップS107で予備吐出を行うために、退避位置に移動していたキャリッジ2を回復動作位置へ移動させる。そしてステップS108で、記録ヘッドを搭載したキャリッジ50が回復動作位置へ移動した後、記録ヘッドから、キャップ61内に向かって、記録に寄与しないインクを吐出(予備吐出)させる。この予備吐出により、ワイピングにより記録ヘッドの吐出口内に押し込まれたインクが排出される。この予備吐出終了後に、一連のワイピング動作が終了する(ステップS109)。
【0105】
このように、転写部の周辺、およびウェット液保持部材とウェット液タンクとの間、に毛細管力が発生しない程度の距離の溝を構成する。さらに、通常使用時の記録装置の姿勢において、ウェット液タンク内で転写部よりも上側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を転写部よりも下側に位置するウェット液保持部材の毛細管力を弱くする。
【0106】
これによって、ウェット液タンクとウェット液転写部材の空隙を伝ってタンクケース外へウェット液が流れ出すことが無く、さらに水頭圧の関係から転写時の転写量が著しく変化することない安定かつ十分なウェット液の供給性能を維持することができる。したがって、ウェット液の物性の変化に影響されずに、記録装置や記録媒体の汚染を防ぎ、記録品位の低下も防ぐことができた。
【0107】
なお、図7(a)で示したブレードユニット64の位置でキャリッジ50をワイピング位置から退避させ、図7(c)で示したブレードユニット64の位置まで移動させてウェット液を転写させた後に待機位置に戻すこともできる。これは所謂、空ワイピング動作とよばれるもので、これによってウェット液を転写させることもできる。その後に改めてキャリッジをタイピング位置まで移動させてワイピング動作を行うことも出来る。
【0108】
また、ブレードには適量のウェット液が転写されており、その状態でワイピングを行うことにより、所期のウェットワイプ効果を得ることができる。すなわち、吐出口面812に蓄積されたインク増粘物や増膜物を適切に溶解・除去することができる。また、ワイパーブレード641と吐出口面812との間にウェット液が介在することにより潤滑材の働きをし、ワイパの磨耗を軽減することができる。さらに、吐出口面812にウェット液を付着させることで吐出口面保護のための膜を形成することができる。
【0109】
なお本実施形態は、上述の実施形態にのみ限られるものではない。例えば、ウェット液、ウェット液保持部および転写部材等の材料や、吐出口面の性質(撥水/非撥水/親水性等)の選択、インクの親水性の指標であるインク表面張力や吐出口面に対するインクの接触角等について、様々な変更ないし変形が可能である。それぞれの間の関係を考慮して適宜定めればよい。
【0110】
また、インクに関して、本実施形態では顔料インクを用いるものとして説明した。しかし、高分子化合物が吐出口面に対して吸着されることで生じる問題は、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的でインクに反応液を添加する結果インク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料インク以外でも生じる。従って本発明は、染料インクを用いるような場合にも有効に適用可能である。さらに、用いるインクの種類や濃度についても、上述の実施形態に限られないのは言うまでもない。
【0111】
また、ウェットワイピング動作を実施するタイミングについても適宜定めることが可能である。従来から行われているように、記録ヘッドのキャップオープン状態が所定時間継続ときに吐出口面が乾燥している恐れがあるために行われる、所謂タイマワイピングのタイミングとすることができる。また、吐出ドット数のカウントを行い、所定量以上の記録がなされた場合に吐出口面がインクミストで汚れている恐れがあるために行われる、所謂ドットカウントワイピングのタイミングとすることができる。
【0112】
また、キャップクローズ後の放置に備えるようにするため、キャップクローズ前にウェットワイピングを行うこともできる。さらに、長期放置後など記録ヘッドの吐出口に固着/増粘インクが存在する場合に行われる吸引回復動作後には、吐出口面に吸引残りのインクが比較的大量に付着している。従ってこのインク残りを除去するために、吸引後のタイミングでウェットワイピングを行うことも好ましい。
【0113】
(他の実施形態)
本発明は、記録手段として、1個の記録ヘッドを用いる記録装置、異なる色のインクに対応する複数の記録ヘッドを用いるカラー記録装置、あるいは同系色で異なる濃度のインクに対応する複数の記録ヘッドを用いる階調記録装置、さらには、これらを組み合わせた記録装置に対しても同様に適用して、同様の効果を達成することができる。
【0114】
さらに本発明は、記録ヘッドとインクタンクを一体化した交換可能なインクカートリッジを用いる構成にも適用できる。さらに本発明は、記録ヘッドとインクタンクとを別体にし、それらの間をインク供給用のチューブ等によって接続する構成にも適用できるなど、記録ヘッドとインクタンクの配置構成の如何に拘わらず同様の効果を達成することができる。
【0115】
また、本発明は、例えば、ピエゾ素子等の電気機械変換体等を用いるインクジェット記録ヘッド(記録手段)を使用するインクジェット記録装置に対しても適用することができる。本発明は、特に、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式のインクジェット記録ヘッド(記録手段)を使用するインクジェット記録装置において、優れた効果をもたらすことができる。その理由は、かかるインクジェット方式によれば、記録の高密度化、高精細化が達成できるからである。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の内部を示す斜視模式図である。
【図2】図1の記録装置の内部を示す横断面模式図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置の回復装置の斜視模式図である。
【図4】ポンプに用いられるコロユニットを示した図である。
【図5】図3の回復装置におけるブレードユニットの内部構造を示す側断面模式図である。
【図6】(a)、(b)は、図3の回復装置におけるブレードクリーニング機構を示す斜視模式図である。
【図7】(a)から(e)は、本実施形態におけるブレードクリーニングの様子を示した図である。
【図8】図6のブレードクリーニング機構の内部を示す側面模式図である。
【図9】図9は、本実施形態のブレードクリーニング機構の分解図である。
【図10】(a)、(b)は、図6のブレードクリーニング機構の内部を示した図である。
【図11】(a)は、物流等による放置姿勢によって、ウェット液が移動した場合の模式図であり、(b)は、(a)の状態の後にウェット液タンクが通常の使用時の姿勢に戻された状態を示した図である。
【図12】記録ヘッドのクリーニング動作の一連のシーケンスを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0117】
6 回復機構部
11 シャーシ
34 プラテン
50 キャリッジ
60 ポンプ
63 メインカム
64 ブレードユニット
71 ブレードクリーナ
77 ウェット液転写部材
77A 転写部
641 ワイパーブレード(ワイパ)
642 ブレードホルダ
752 溝
781 下部保持部材
782 上部保持部材
812 吐出口面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持部材によって保持された液体を内部に備えた貯留部と、前記液体を転写部材によって外部へ供給する転写部とを備えた液体タンクにおいて、
前記転写部材と前記液体タンクの壁との間の溝が有する前記液体に対する毛細管力は、前記保持部材が有する、前記液体に対する毛細管力より弱く、
前記保持部材は、第1の保持部材と第2の保持部材とからなり、
記録時の姿勢において、前記転写部材の前記転写部よりも高い位置に設けられた前記第1の保持部材は、前記転写部材の前記転写部よりも低い位置に設けられた前記第2の保持部材よりも、前記液体に対する強い毛細管力を備えている、
ことを特徴とする液体タンク。
【請求項2】
前記転写部材が有する、前記液体に対する毛細管力は、前記保持部材が有する、前記液体に対する毛細管力よりも強いことを特徴とする請求項1に記載の液体タンク。
【請求項3】
前記第1の保持部材からの前記転写部材の前記転写部への前記液体の供給は、前記転写部よりも高い位置から供給され、前記第2の保持部材からの前記転写部材の前記転写部への供給は、前記転写部よりも低い位置から供給されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体タンク。
【請求項4】
前記転写部材と前記保持部材とは、多孔質体からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体タンク。
【請求項5】
前記第2の保持部材から前記転写部材への前記ウェット液の供給は、前記第2の保持部材の底面から行われ、前記第2の保持部材の底面から前記転写部までの高さは、前記転写部材の毛細管力によって前記液体を引き上げることができる高さよりも低いことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の液体タンク。
【請求項6】
前記第2の保持部材から前記転写部材への前記ウェット液の供給は、前記第2の保持部材の側面から行われることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の液体タンク。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の液体タンクを用いることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項1】
保持部材によって保持された液体を内部に備えた貯留部と、前記液体を転写部材によって外部へ供給する転写部とを備えた液体タンクにおいて、
前記転写部材と前記液体タンクの壁との間の溝が有する前記液体に対する毛細管力は、前記保持部材が有する、前記液体に対する毛細管力より弱く、
前記保持部材は、第1の保持部材と第2の保持部材とからなり、
記録時の姿勢において、前記転写部材の前記転写部よりも高い位置に設けられた前記第1の保持部材は、前記転写部材の前記転写部よりも低い位置に設けられた前記第2の保持部材よりも、前記液体に対する強い毛細管力を備えている、
ことを特徴とする液体タンク。
【請求項2】
前記転写部材が有する、前記液体に対する毛細管力は、前記保持部材が有する、前記液体に対する毛細管力よりも強いことを特徴とする請求項1に記載の液体タンク。
【請求項3】
前記第1の保持部材からの前記転写部材の前記転写部への前記液体の供給は、前記転写部よりも高い位置から供給され、前記第2の保持部材からの前記転写部材の前記転写部への供給は、前記転写部よりも低い位置から供給されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体タンク。
【請求項4】
前記転写部材と前記保持部材とは、多孔質体からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体タンク。
【請求項5】
前記第2の保持部材から前記転写部材への前記ウェット液の供給は、前記第2の保持部材の底面から行われ、前記第2の保持部材の底面から前記転写部までの高さは、前記転写部材の毛細管力によって前記液体を引き上げることができる高さよりも低いことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の液体タンク。
【請求項6】
前記第2の保持部材から前記転写部材への前記ウェット液の供給は、前記第2の保持部材の側面から行われることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の液体タンク。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の液体タンクを用いることを特徴とするインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−172839(P2009−172839A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13065(P2008−13065)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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