説明

液体フィルター

【課題】
ノボロイド繊維を前駆体とした半炭化繊維紡績糸に関し、特に高温、耐腐食性の酸性溶液中の固形異物を除去するのに適用するノボロイド繊維を前駆体とした半炭化繊維紡績糸からなる液体フィルターに関するもので、特に高温の酸性液体から異物を取り除く濾過に適した安価で加工し易いフィルターを提供すること。
【解決手段】
ノボイロド繊維を原料とした紡績糸を前駆体とし熱処理により得た炭素元素含有率90%未満、かつ、酸素元素含有率15%以上の半炭化繊維紡績糸をボビンに巻き付けたフィルターは安価で加工性がよく高温の酸性溶液用として長期にわたり持続した性能を持つフィルターとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノボロイド繊維を前駆体とした半炭化繊維紡績糸に関し、特に高温,高腐食性の酸性溶液中の固形異物を除去するのに適用するノボロイド繊維を前駆体とした半炭化繊維紡績糸からなる液体フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
酸性溶液中の固形異物を除去するフィルターとして耐酸性の優れた炭素材料フィルターの
濾過精製作用が利用されている。具体的には、炭素繊維紡績糸の糸巻きフィルターが利用
されている。(特開平7−284618)。これにより、例えば高温テレフタール酸溶液中の異物を効率よく低減することが可能となっている。
【特許文献1】特開平 7−284618公報
【特許文献2】特開昭53−94626公報
【特許文献3】特開昭53−52734公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のフィルターでは以下の問題点があった。すなわち、炭素繊維自
体が高価格であり、かつ紡績・撚糸等の加工工程通過性が悪く高価格になるとともにフィルターとして適切なものが得られないという欠点である。
炭素繊維といえばアクリル系炭素繊維に代表されるが、アクリル系炭素繊維は引っ張り弾性率が高くかつフィラメント状繊維である故、紡績糸への加工が困難であった。また、紡績性を改善するため、耐炎化繊維の適用が検討されたが、耐酸性の点で不十分であった。
又、ピッチ系炭素繊維は炭素元素含有量が95%以上であり、かつ高剛性で脆いため、紡績工程が複雑であり、高価格になるという欠点を有していた。
一方、炭素繊維以外の安価で耐酸性の良好な有機繊維としてノボロイド繊維(商品名:カイノール繊維)が検討されたが、耐熱性の点で不十分であった。
当該ノボロイド繊維の高温での耐酸性を改善するため非酸化性雰囲気下280〜400℃で熱処理する方法が提案されているが、未だ高温での耐酸性が不十分であった(特開昭53−94626)。
更に耐酸性を改善するため、織物状などのノボロイド繊維構造物を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、500℃C〜700℃で熱処理する方法が提案されている(特開昭53−52734)。
しかし、この方法では糸の強℃低下が大きく、フィルターに加工できないほどであった。
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、安価で加工性がよく高温の酸性液体フィ
ルターに適した、ノボロイド繊維を前駆体とした半炭化繊維紡績糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するため、本発明のフィルターはノボロイド繊維を前駆体として用い、特定のガス雰囲気、温℃領域及び時間で熱処理し、炭素元素含有率が90%未満、かつ、酸素元素含有率が15%以上の半炭化繊維紡績糸を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、安価に供給でき加工性がよく耐熱、耐酸性に優れた液体フィルターを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態を製造工程に従って詳細に説明する。
1. ノボロイド繊維及びその紡績糸の製造
ノボロイド繊維(日本カイノール社製,カイノール繊維)はノボラック樹脂を溶融紡糸した後、ホルムアルデヒド雰囲気下で架橋処理した短繊維(繊維径10〜33 Μm,繊維長300 Μm〜70mm)である(例えば特公昭48−11284,特開昭53−52734参照)。
紡績糸は当該ノボロイド繊維を通常の紡績法すなわち綿紡式,梳毛式,毛式,麻紡式等により作成する。使用されるカイノール単繊維は1.1dtex(繊維径約10 Μm)以上5.5dtex(繊維径約23 Μm)以下のものが好ましい。5.5dtexを超えるカイノール短繊維を用いると紡績工程で短繊維が脆いため繊維切断が発生し紡績が困難である。ノボロイド繊維の繊維長は通常の紡績に使用される長さ,すなわち38mm以上70mm以下が適当である。紡績糸の太さはメートル番手Nm1/68以上Nm1/0.1以下が望ましい。紡績糸の太さがメートル番手Nm1/68以下あるいはNm1/0.1以上では下記紡績糸の製造が困難となる。
フィルターの前駆体となる紡績糸は紡績で得られた単糸を2本乃至6本撚り合わせることにより得られる。
【0007】
2.ノボロイド繊維を前駆体とした空気酸化繊維紡績糸の製造
上記ノボロイド繊維紡績糸を、空気ガス雰囲気下、特定の温℃領域で熱処理する。熱処理温℃は200℃以上350℃以下が好ましい。350℃を越えると酸化反応が進み過ぎ、収率が低下する。また、200℃以下では酸化反応が遅く目的とする熱処理繊維が得られない。熱処理時間は10分以上、5時間以下が好ましい。10分以下では熱処理繊維の酸素元素含有率が不足し、5時間以上では強力が低下する。空気酸化処理炉はバッチ式、連続式のいずれでも良いが、経済的合理性より連続式の炉が好ましい。
なお、本工程の空気酸化処理は、原料繊維のフェノール環に酸素分子、酸素原子が導入され、その後の強力低下の少ない炭素化反応の促進を容易にすると推測される。
【0008】
3.半炭化繊維紡績糸の製造
上記空気酸化ノボロイド繊維紡績糸を、好ましくは窒素、水蒸気等の不活性ガス雰囲気下、特定の温℃領域で熱処理する。熱処理温℃は400℃以上700℃以下が好ましく、更に好ましくは450℃以上650℃以下である。700℃を超えて熱処理すると炭素化反応が進み、収率が低下し、高価格となる。又炭素化反応が進行し剛性が大きくなるためである。
400℃未満では炭素化反応の進行が不十分で、耐熱、耐酸性に優れた半炭化繊維紡績糸が得られない。
熱処理時間は30分〜5時間が好ましい。30分以下では昇温速℃が大となり半炭化繊維紡績糸の強力が低下し、5時間以上では経済的合理性に劣る。熱処理炉はバッチ式,連続式のいずれでも良いが、経済的合理性より連続式の炉が好ましい。当該条件で熱処理された繊維の炭素元素含有率は90%未満、かつ、酸素元素含有率が15%以上となる。
上記以外の条件で熱処理した場合、酸素元素含有率が15%未満では、耐酸性で劣り、また、炭素元素含有率が90%以上では、紡績糸の剛性が高くなり、フィルター加工が困難となる。
なお、各元素含有率の測定は、市販のガスクロマトグラフィー法による元素分析装置で測定された。
【0009】
半炭化紡績糸の太さは1mm以上5mm以下が好ましい。太さ5mm以上では太すぎるためフィルター作成が困難であるばかりでなく、濾過性能が劣る。又、太さ1mm以下では、フィルターの圧損が高くなり目詰まりを起こしやすい。
4.フィルターの作り方
内径15mm〜75mm,外径20mm〜85mm,フランジ:外径40mm〜120mm,フランジ間の間隔:500mm〜1000mmの孔をあけたボビンを用意する。
このボビンに上記半炭化繊維紡績糸を綾角10℃から30℃で厚さ10mm〜50mmに巻き上げ、円筒状の液体フィルターを作成する。
[実施例1]
半炭化繊維紡績糸用原料として繊維径14 Μm,繊維長70mmのノボロイド繊維(日本カイノール社製,商品名:カイノールファイバー KF−0270)を用いた。この繊維を紡績・撚糸してNm3/1.8の黄色の紡績糸を得た。
上記紡績糸を横型連続式の熱処理炉で、空気ガス雰囲気下、温℃280℃で1時間熱処理し、収率105%で黒色の空気酸化紡績糸を得た。
次に、上記空気酸化紡績糸を横型連続式の熱処理炉で、窒素ガス50%,水蒸気ガス50%のガス雰囲気下,温℃500℃で1時間熱処理し、収率85%で黒色の半炭化繊維紡績糸(見掛け太さ:2.49mm,重量2.1g/m,嵩密℃0.431g/cc,炭素元素含有率:76.8%、酸素元素含有率21.0%、水素元素含有率:2.2%)を得た。この半炭化繊維紡績糸の引張り強力は65Nであった。
内径25mm,外径30mm,フランジの外径80mm,フランジ間の間隔1000mの孔をあけたボビンを用意し、当該紡績糸を綾角15℃で厚さ15mmに巻上げ、円筒状のフィルターを作成した。
当該フィルターを300℃,5気圧のテレフタール酸30%水溶液に6ヶ月間浸漬した後、取り出したところ形態は安定していた。
[実施例2]
実施例1に用いたNm 3/1.8のノボロイド繊維紡績糸を横型熱処理炉で、空気ガス雰囲気下、250℃で2時間熱処理し、黒色の空気酸化紡績糸を得た。次いで、窒素ガス70%,水蒸気ガス30%のガス雰囲気下、温℃550℃で1時間熱処理し、収率79%で黒色の半炭化繊維紡績糸(見掛け太さ:2.03mm,重量1.7g/m,嵩密℃0.526g/cc,炭素元素含有率:88%、酸素元素含有率:20%、水素元素含有率:2.0%)を得た。この半炭化繊維紡績糸の引張り強力は60Nであった。
実施例1で用いたボビンに当該紡績糸を綾角15℃で厚さ15mmに巻上げ、フィルターを作成した。
当該フィルターを300℃,5気圧のテレフタール酸30%水溶液に6月間浸漬した後、取り出したところ形態は安定していた。
[比較例1]
実施例1に用いたノボロイド繊維紡績糸を用いて実施例1.と同様にフィルターを作成し、300℃,5気圧のテレフタール酸30%水溶液に浸漬した。6ヶ月後に取り出した。紡績糸が破断し、液体フィルターへの適用は困難であった。
[比較例2]
実施例1で用いたノボロイド繊維紡績糸を横型熱処理炉で、窒素ガス50%、水蒸気ガス50%のガス雰囲気下、温℃500℃で1時間熱処理し、半炭化繊維紡績糸(炭素元素含有率:83.2%、酸素元素含有率:13.6%、水素元素含有率:2.3%)を得た。しかし、引っ張り強力が30Nと低く、フィルター化が困難であった。
[比較例3]
実施例1に使用したノボロイド繊維紡績糸を、窒素ガス100%雰囲気下、1000℃で1時間熱処理した。
得られた炭素繊維紡績糸(炭素元素含有率:93%、酸素元素含有率:5%、水素元素含有率:2%)は、収率50%と低く、経済的合理性に劣るものであった。また、引っ張り強力も、10Nと低く、フィルター化が困難であった。
[比較例4]
市販アクリル繊維系耐炎化繊維(炭素元素含有率:64%、酸素元素含有率:12%、窒素元素含有率:20%、水素元素含有率:4%)からの紡績糸を用い、実施例1と同様の円フィルターを作成し、浸漬テストをした。形態が変形し、液体フィルターへの適用は困難であった。
[比較例5]
市販石炭ピッチ系炭素繊維(繊維径:10 Μm,繊維長:20mm,炭素元素含有率:9
6%)を用いNm 1/2の紡績を行ったが、繊維が硬く、紡績収率は50%以下であった。
また撚糸工程での収率も低く、フィルターの経済的合理性は小さかった。
[比較例6]
市販アクリル繊維系炭素繊維(繊維径:10 Μm,炭素元素含有率:95%)フィラメントを撚糸しNm 1/3の紡績糸を作成したが、液体フィルター作成に適した柔軟な紡績糸を得ることは困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明のノボロイド繊維を前駆体とした半炭化繊維紡績糸をボビンに巻き付けて得られるフィルターは各種溶液、特に高温で酸性溶液の濾過に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素元素含有量が90%未満、かつ、酸素元素含有率が15%以上のノボロイド繊維を前駆体とする半炭化繊維紡績糸からなる液体フィルター。
【請求項2】
少なくとも一端が開放された孔を有するボビンの側面に特許請求項1に記載の半炭化繊維紡績糸を巻回被覆してなる液体フィルター。

【公開番号】特開2006−297252(P2006−297252A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120964(P2005−120964)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(395009776)日本カイノール株式会社 (3)
【Fターム(参考)】