説明

液体中分散微粒子の凝集方法

【課題】特別な添加物などを必要とせず、また複雑な構成にすることなく、低コストで実現可能な微粒子の分離・回収技術を提供することであり、特に環境への負担が少なく、様々な場面に共通に使用することのできる微粒子凝集技術を提案することを目的とする。
【解決手段】本発明の微粒子凝集方法は、微粒子が分散した被処理液中に、複数の電極を挿入し、電極間に0.1〜100V/mの電界強度となるように電圧を印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中の微粒子凝集技術に係り、特に超低電場を流体に印加することにより微粒子の沈降速度を増大し、簡易な設備で微粒子を分離・回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃水や生活排水に対する環境浄化や、インク、化粧品、医薬品等の生産工程において水中に分散した微粒子を均一化・分離・精製する技術が求められている。このような被処理水中の微細な粒子を除去する方法として汎用されている技術の一つに、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄などの無機系凝集剤や、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタアクリレートなどの有機系凝集剤を添加して、凝集除去する方法がある。この処理は、水中に浮遊する粒子がその表面に電荷を帯びていることによって互いに反発しあい、長時間沈降しないことに対して、帯電する凝集剤を投入することによって、電荷を中和し、粒子同士の分子間引力を作用させて集合体を形成させ、これがさらに大きな集合体(フロック)を作ることで沈降速度を加速し、濾別等の操作を容易にするものである。
【0003】
凝集剤を使用する技術としては、例えば、浮遊物質濃度が10Kg/m3以下の汚濁水の処理工法においてアニオン性あるいはノニオン性の有機高分子凝集剤を添加してフロックを形成させ布地層を通過させて処理する方法(特許文献1)、汚泥に水溶性有機高分子化合物を混合し、次いで水溶性有機高分子化合物を不溶化させる不溶化剤と高分子凝集剤の混合物で処理することにより汚泥中の固形分を大きく強固で疎水性が高いフロックに取り込む方法(特許文献2)、イオン交換樹脂の表面に顆粒状結合構造を有するものを吸着剤として使用する方法(特許文献3)などがある。これらは、分散状態であった微粒子をそのまま分離するよりも塊にした後に除去することで、ろ過効率などを向上することができるが、場合によっては凝集剤を大量に必要とするためコスト面で、また、沈降させたフロックは除去対象の微粒子だけでなく凝集剤との集合体となるので分離後の処理量が嵩張るなどの操作面で課題が残りうる。
【0004】
前記のような凝集剤を使用しない例としては、塩基性硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの結晶状繊維を集合して構成された吸着剤を使用するもの(特許文献4)、シリコンウエハの研磨・切削排水等の微粒子を含む排水処理として、多段階で限外ろ過膜または精密ろ過膜により微粒子の高濃縮を行うもの(特許文献5)、シリコンインゴットの加工により排出されるシリコン微粒子を含む排水を中空糸型のろ過手段と、遠心分離手段により処理するもの(特許文献6)などがある。いずれも凝集剤の添加を必要としないので、操作が簡略であるが、ろ過膜の目詰まりなどメンテナンスの面での課題がある。
【0005】
その他、化粧品や塗料の原料となる有機シリコーン微粒子の粒径を均一化する方法として高分子メンブランフィルターで分別処理する方法(特許文献7)、液晶ディスプレー用スペーサーやバックライトの光拡散剤として有用な粒径の制御された単分散に近い球状の樹脂微粒子を提供するに際して、製造工程において樹脂溶融物または溶液を液体ジェットヘッドから制御された大きさで液体または気体の不溶性媒体中に吐出させる方法(特許文献8)などがある。これらは廃液処理のように単に微粒子を除去すれば良いわけではないので、微粒子の粒径を均一化するために細心の注意を払う必要がある。
【0006】
このように、水性媒体中に分散している微粒子を、分離したり、凝集させたり、或いは粒径の均一なものを選択しようとする場合に、コストを低減し、操作法の簡略な、そして特別な設備などを必要としない技術が求められているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−117694号公報
【特許文献2】特開平7−999号公報
【特許文献3】特開平3−232528号公報
【特許文献4】特開2001−246386号公報
【特許文献5】特開平10−15357号公報
【特許文献6】特開2010−64197号公報
【特許文献7】特開2006−117867号公報
【特許文献8】特開2004−300436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特別な添加物などを必要とせず、また複雑な構成にすることなく、低コストで実現可能な微粒子の分離・回収技術を提供することであり、特に環境への負担が少なく、様々な場面に共通に使用することのできる微粒子凝集技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、水中に分散した微粒子はその表面に電気二重層を形成し、粒子間の静電的反発力によって均一な分散状態を維持しやすい点に着目し、この状態を崩せば良いことを見いだした。
【0010】
すなわち、本発明は、微粒子が分散した被処理液中に、複数の電極を挿入し、該電極間に0.1〜100V/mの電界強度となるように電圧を印加することによって、電気二重層により保護されて浮遊している分散状態の微粒子を、該電気二重層を破壊して凝集させる作用を働かせるものである。各微粒子は電気二重層によってお互いに反発しながら液体中に浮遊しているが、これが電圧を印加することで変形・縮小し、本来的に働いている分子間引力(ファンデルワールス力)の方が強く作用することによると考えられる。
【0011】
また、前記電圧の印加時間は、凝集させる微粒子の種類、浮遊している溶媒などの条件によって異なるが、大凡0.1〜1000秒の期間が好ましい。なお、本発明により凝集された微粒子は放置することにより自然に沈降していくが、ろ過装置などを通過させることによって、積極的に溶液から除去することも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明による、微粒子の凝集方法は、被処理液の種類や微粒子の種類などによって有る程度の条件設定に幅があるが、溶液に浸漬する電極とそれに対して電気的接続が確保できれば良いので、複雑な設備を必要とすることなく低コストで簡易な方法を提案することができる。しかも、従来の凝集剤を用いた方法は凝集剤の回収が殆ど不可能であるため、連続的に溶液を処理することは困難であったが、本発明では電極への電圧印加という極めて単純な操作であり、繰り返して処理することが容易で、継続的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の微粒子凝集効果を測定する装置を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1に係る結果を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施例2に係る結果を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施例3に係る結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施例4に係る結果を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施例5に係る結果を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施例6に係る結果を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施例6に係る結果を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施例6に係る結果を示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施例6に係る結果を示す図である。
【図11】図11は、本発明の実施例6に係る結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の凝集方法に係る好ましい条件等について説明する。
被処理液体中に分散している微粒子は、その界面で起こる電荷分離によって電気二重層を形成している。プラスまたはマイナスに帯電している微粒子は電気的に中性を保つように表面近傍には微粒子とは逆の電荷をもつイオンが集まってくる。そのようなイオンが微粒子表面を取り巻き、この荷電を持った層を、さらに反対荷電をもつ層が取り巻くようにして、電気二重層が形成されるのである。ただ、液体中のイオンの層はこのように単純・明確に領域を形成しているのではなく、微粒子表面近傍では微粒子と反対の電荷のイオン濃度が高く、遠ざかるにつれて次第に低下していく。粒子表面のイオンは強く引きつけられているので、この層を固定層、両イオンの分布が徐々に均等になりゆく層を拡散層ともよび、微粒子は固定層と拡散層の内側の一部を伴って液中を移動している。この移動が起こる面を滑り面とよび、微粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位をゼロと定義して電位を測定した場合の、滑り面の電位をゼータ電位という。
【0015】
ゼータ電位の絶対値が増加すれば、微粒子間の反発力が強くなるので液体中で安定した分散状態をとり、ゼータ電位がゼロに近くなれば、反発力が弱くなり、本来微粒子の有する分子間引力によって凝集しやすくなる。本発明では微粒子が分散している液中に複数の電極を挿入し、極めて低い電圧を印加するだけで、電気二重層が変位、縮小し、その結果、ゼータ電位の絶対値が低減することを見いだした。そしてこの現象を利用して、液中に分散する微粒子を積極的に凝集させ、液体から微粒子を分離したり、液中に分散して留まる微粒子の大きさを選別、均一化等することに応用するものである。
【0016】
本発明の対象となる微粒子は、ベントナイト、ヘクトライト、カオリン、タルク、ハイドロキシアパタイト、ドロマイト、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの無機粒子、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアクリルスチレン、ポリ塩化ビニル、メラニン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの有機粒子であり、溶液中で電気二重層を形成するような微粒子全般が対象となる。これらの溶液中の濃度は、体積分率(v/v)で表すと0.000001〜0.1、好ましくは0.00001〜0.01程度である。前記範囲より低濃度であると微粒子の分子間引力が働く範囲内に存在する微粒子の数が少ないために凝集に時間がかかる傾向がある。また、前記範囲よりも高濃度であってもよいが、放置しても自然に凝集していくものもあり、敢えて本発明を適用する必要性が低いからである。
【0017】
前記微粒子は、溶媒中に浮遊した状態で本発明の被処理液となる。溶媒としては一般的には水であるが、アルコールなどとの混合液或いはアルコール単独溶媒に微粒子が分散した処理液であっても良い。なお、処理中の溶液の温度は室温で良く、特に温度を管理し制御する必要はない。
【0018】
本発明では、前記被処理液に複数の電極を挿入して使用するが、電極の材料としては特に制限されることなく、金、白金、銀、アルミニウム、パラジウム、銅、亜鉛、酸化錫、炭化珪素、黒鉛など一般に使用される電極材料を使用することができる。複数の電極は必ずしも同一材質のものを使用しなければならないような制限はなく、二種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの電極材料の中でも、溶液のpH変化や各種化合物に対する耐性を考慮して、白金が好ましい。
【0019】
各電極は、例えば被処理液中に2本の電極を相対して0.1〜10mmの間隔で配置することが最も一般的であり、被処理液をその間隙を通過するように流して、連続的に処理することができる。また、3本の電極を三角形の頂点位置を占めるように配置したり、中心電極とその前後に前記と同様の適当な間隔を置いて並列に配置しても良い。特に、好ましい配置形態としては、効率を上げる観点から、櫛形である。
【0020】
前記電極に対して、0.1〜100V/mの電界強度となるように電圧を印加する。電界強度が0.1V/m未満であると、電気二重層に対する作用が充分でないためにゼータ電位の絶対値を低減することができず、微粒子凝集効果の発現が困難となりやすく、電界強度を100V/mより大きくしても凝集効果の向上にはそれほど影響せず、却って余分な電気エネルギーを消費することになり、コストが嵩むため好ましくない。
【0021】
電圧の印加方法は、一定の電圧を連続して印加し続けたり、断続的に電圧をかけたり、電界強度が変化するように強弱をつけて通電することもできる。また直流、交流のいずれの電源を用いてもよい。
【0022】
電圧の印加時間については0.1〜1000秒、好ましくは1.0〜600秒の間で行うことが望ましい。0.1秒よりも短いと電気二重層に与える影響が少なすぎるために目的とする微粒子の凝集効果が得られず、600秒よりも長くしても、微粒子凝集が充分に行われた後にまで通電することになりかねないからである。
【0023】
本発明の微粒子凝集方法による凝集効果は、一つの評価方法として、被処理液の透過光強度の変化により測定することができる。被処理液には微粒子が浮遊しており、これが安定して存続するかぎり、被処理液を透過させる光は散乱されて、透過光強度が低くなり、微粒子が凝集・沈降することで透明になれば、被処理液を透過する光の強度が増大するからである。より具体的には、図1に示す分光吸光光度計の石英セル(1)(縦・横10mmの正方形の底面から、高さが45mm、容量3.5mlの直方体の空間を有する)内に、面積396mm2(縦40mm、横9.9mm)の白金電極(2)を2枚設置する。このとき、セル内の設置場所は、透過光(3)を遮らないようにセルの両側壁に沿うようにして配置する(従って、電極間距離は約10mmである)。そして、セル内に被処理液10を約25mmの高さまで注入し、電極が被処理液に浸漬された状態にする。
【0024】
被処理液を注入後、電界強度が前記所定の範囲内に入るように、電極に対して所定の時間、或いは適当な間隔をおいて電源電圧(4)を印加する。分光吸光光度計によって波長540nmにおけるセルの光透過率を測定し、被処理液の透過光強度の経時変化を検出することにより、被処理液中の微粒子(5)が凝集・沈降していく様子を観察することができるのである。なお、以下の実施例で示す透過光強度は、特にことわりのない限り、セルの底面から約13.75mmの高さを一応の測定位置とした。
【0025】
以下本発明をより具体的に明らかにするために、本発明に係る幾つかの実施例を示す。
【実施例1】
【0026】
被処理液として、粒径2.3μmのベントナイト粒子0.0034gを水2.3mLに分散させた。このときの体積分率は、0.0005である。この被処理液2.45mLを、図1に示すような白金電極を配置した石英セル内に入れ、印加電圧として、0.3V/mmの電界強度で、直流、交流(50Hzまたは1000Hz)の電場をかけた。この場合の被処理液の透過光強度(%)の変化を測定し、その結果を図2に示す。
【0027】
図2より明らかなように、電場をかけない場合には粒子が沈降していくことを観察できなかったのに対して、本発明の方法によれば、直流、交流のいずれであっても極めて短時間で被処理液が透明になることが判る。なお、図2からは、測定開始から有る程度の時間を経て始めて粒子が凝集・沈降し、急激にそれが進行しているかのように見受けられる。しかし、本実施例の透過光強度は前記の通り、セル底から所定の高さで測定しているので、その位置における透明性は図に示す通りであるが、被処理液が全体が徐々に透明になるのではない。むしろ、被処理液の上層部が透明になり始め、その透明領域が中層から下層へと拡がるように変化しているのである。従って、透過光強度の測定位置が上層部であれば、この透過光の変化もより短時間で起こることが観察されることになる。
【実施例2】
【0028】
被処理液としては実施例1と同様であり、透過光強度(%)の測定位置を水面下1mmとした。印加電圧は、0.3V/mmの直流電圧で、測定結果を図3に示す。
【0029】
この試験は、微粒子が沈降開始するまでの時間を測定しようとするもので、微粒子その他の条件によって一概には言えないものの、少なくとも本実施例では120秒(s)程度で開始するということが判る。しかも沈降が始まると急激に透明性が増すことから、微粒子の凝集は次第に大きなものとなり、そのサイズは沈降するレベルまで非可逆的に成長し、凝集と分散を繰り返しつつ成長することは考え難いことを示唆している。
【実施例3】
【0030】
被処理液としては実施例1と同様であり、印加電圧は0.3V/mmの電界強度の直流を印加した。どれくらいの時間で透過光強度が変化(凝集)し始めるのかを詳細に検討した。その結果を、図4に示す。
【0031】
図4からは、電場印加後1秒以内に凝集が始まること、それにより、一旦透過光強度が低下することがわかる。この理由としては微粒子が均一に分散している状態のものが、凝集が始まることによって光の散乱が強くなり、その影響がでていると考えられる。凝集がさらに進行すると粒子の沈降とともに透過光強度が上昇し始めることになる。
【実施例4】
【0032】
被処理液の溶媒としてメタノールを用いた他は、実施例1と同様にして電界強度0.3V/mmの直流電圧を印加した。なお、電極は白金電極に換えて酸化錫を使用した。なお、この理由は白金電極を使用した場合、電圧印加のための導線を接続している銀ペーストがメタノールに溶解してしまうこと、白金以外の電極でも効果を示すことを明らかにするため、当該電極を使用したものである。この場合の被処理液の透過光強度(%)の変化を測定し、その結果を図5に示す。
【0033】
図5に示されるように電場を印加している方が、無電場に比較して透過光強度の上昇が早いことが判る。ベントナイト粒子は、アルコール等の溶媒中で浮遊状態を維持し難いので、無電場であっても次第に沈降するが、本発明の方法によって、凝集・沈降がより促進されるのである。
【実施例5】
【0034】
実施例1と同様の被処理液を用い、電界強度を0.09V/mm、0.1V/mm、0.3V/mm、1.0V/mmの直流電圧を印加した。このときの被処理液の透過光強度の変化を測定し、その結果を図6に示す。
【0035】
図6には、本例の条件においては、電界強度が0.09V/mmでは凝集効果が認められず、0.1V/mm以上にすれば凝集効果が認められること、また少なくとも0.3V/mmの電界強度であれば充分な凝集効果を発現することが判る。
【実施例6】
【0036】
被処理液の微粒子として粒径45μmのヘクトライトを用いた他は実施例1と同様にして電界強度0.3V/mmの直流電圧を印加した。その結果を図7に示す。
【0037】
本例のヘクトライトは体積分率0.0005における水の透過性がもともと高いので、透過光強度は当初より94%程度である。そして、無電場であれば、この状態のまま水中を浮遊することとなるが、0.3V/mmの電界強度を印加すれば、ほぼ100の透過光強度にすることができるのである。
【実施例7】
【0038】
被処理液の微粒子として平均粒径5μmの単分散ポリメチルメタクリレート(以下PMMAと略す)を用いた他は実施例1と同様にして電界強度0.3V/mmの直流電圧を印加した。その結果を図8に示す。
【0039】
図8に示すように無電場であっても、PMMAは次第に沈降する。しかし、電場を印加することによってその凝集・沈降を促進することができることがわかる。本例は、前記に例示した無機微粒子ではなく、有機微粒子を対象としたものであるが、有機・無機に関係なく本発明が適用できるのである。
【実施例8】
【0040】
被処理液の微粒子として平均粒径5μmの多分散ポリメチルメタクリレート(以下PMMAと略す)を用いた他は実施例7と同様にして電界強度0.3V/mmの直流電圧を印加した。その結果を図9に示す。
【0041】
図9には、実施例7とは異なり無電場の場合には微粒子の凝集・沈殿が起こり難いことが示されている。この結果は、先の例で示す単分散と多分散との違いからくるものであるが、粒径5μm程度のPMMAがもともと水中では凝集されやすく、それよりも小さい粒径になると水中では分散して安定に存在していることを示唆している。すなわち多分散のPMMAは粒径5μmよりも小さいものから大きなものまでを総合して平均粒径5μmとなっているので、当然粒径5μmよりも小さいPMMAや大きいPMMAを含み、かつ小さい粒径のPMMAがより多く含まれていることとなる。そして、この粒径5μmよりも小さい粒径のPMMAは水中で安定して浮遊するために、より大きなPMMAが沈降しても容易に被処理液の透明性が上がらないのである。しかし、そのような凝集し難い小さい粒径のPMMAであっても、本発明を適用することによって、容易に沈降させることができることが判る。また単分散の場合よりもさらに早く凝集が進行した。これは、粒径の小さいPMMAが粒径の大きなPMMAに凝集されて沈降速度が促進されることが原因と考えられる。
【実施例9】
【0042】
被処理液の微粒子として粒径2.3μmのベントナイト粒子と平均粒径5μmの多分散ポリメチルメタクリレート(以下PMMAと略す)を用いた他は実施例1と同様にして電界強度0.3V/mmの直流電圧を印加した。その結果を図10に示す。
【0043】
図10には、有機微粒子と無機微粒子が混在している状況であっても、本発明の方法によって凝集効果が発現できることを示している。また、急激に透明になる状況から推測すると、有機微粒子(PMMA)同士、無機微粒子(ベントナイト)同士がそれぞれ選択的に凝集するのではなく、各微粒子が無差別に凝集していることが予測される。仮に選択的凝集であるならば、それぞれ(有機・無機微粒子)の凝集速度は多少なりとも相違するハズであり、そのような場合には、少なくとも急激に透明になるのではなく、有る程度の幅を持って透明になると考えられるからである。
【実施例10】
【0044】
被処理液の微粒子として粒径25μmの酸化チタンを体積分率0.00024で用いた他は、実施例1と同様にして電界強度0.3V/mmの直流電圧を印加した。その結果を図11に示す。
【0045】
図11に示すように、本例の酸化チタンは水中での分散安定性がそれほど高いものではないので、放置しても次第に沈降するようである。しかし、本発明の適用により沈降速度を加速することが判る。酸化チタンは強度、軽さ、耐熱性、耐腐食性、触媒活性など様々な機能を有しているので、非常に広範な分野で活用されている。従って、工業廃水、生活排水に対する浄化の目的で本発明の方法が有用性に富むことが示される。
【0046】
以上の実施例が示しているように、本発明の微粒子凝集方法によって被処理液中に存在する微粒子表面の電気二重層を乱し、ゼータ電位を低下させることにより微粒子相互に本来有する分子間引力が作用することとなる。そして、被処理液中にはサイズの異なる微粒子が存在する事が一般的なので、小さい微粒子と大きな微粒子とが互いに凝集することで、より効果的な分離除去ができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の微粒子凝集方法は、被処理液に複数の電極を挿入するという簡単な構成で実施できるので、工業廃水や生活排水に対する環境浄化や、インク、化粧品、医薬品等の生産工程において水中に分散した微粒子を均一化・分離・精製するなど多くの応用が期待される。
【符号の説明】
【0048】
1 石英セル
2 白金電極
3 透過光
4 電源電圧
5 微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子が分散した被処理液中に、複数の電極を挿入し、
電極間に0.1〜100V/mの電界強度となるように電圧を印加することを特徴とする微粒子凝集方法。
【請求項2】
電圧印加時間が、0.1〜1000秒の間である請求項1記載の微粒子凝集方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−230006(P2011−230006A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99612(P2010−99612)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】