説明

液体処理装置および液体処理方法

【課題】液体中の帯電成分を効率的に処理できる液体処理装置を提供する。
【解決手段】充填槽9内に外力によって分極する圧電素子7を多数充填し、圧電素子7に対して外力を付加した状態で水中のSS成分10を吸着する。また、各圧電素子7に対して付加された外力を除荷することによって、各圧電素子7に吸着されたSS成分10を脱離させる。圧電素子7に対する外力の付加は、充填槽9を構成する通水壁3,5間の間隔を狭めることによって行う。また、圧電素子7に付加された外力を除荷する際には、通水壁3,5間の間隔を復帰させることによって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSS(Suspended Solids)成分等の液体中の帯電成分を処理する液体処理装置および液体処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中に懸濁している例えば直径2mm以下の不溶解性の粒子物質であるSS成分を除去する技術(固液分離技術)に関して、従来より下記の方法が知られている。
(1)比重差を利用した方法
(a)加圧浮上法
微細な泡を発生(加圧した空気の圧力をリリースすることで泡を発生)させ、SS成分に付着させて浮上させ分離する方法
(b)凝集沈殿法
沈殿しにくいSS成分に対して凝集剤を用い、大きなフロックとして沈殿させる方法
(2)ろ過による方法
(a)加圧ろ過
フィルター(膜フィルター含む)に差圧を形成し、物理的にろ過して除去する方法
(b)砂ろ過
砂等が充填された層を時間をかけてゆっくりとろ過する方法
【0003】
しかし、上記の各方法には、次のような問題がある。
凝集沈殿法の場合には、そのメカニズムは有機または無機の凝集剤が必要であり、コストもさることながら、有価物を回収するプロセスでは凝集剤の混入が課題となる。
ろ過による方法では、小さな粒子を捕集するためには、フィルタの目の粗さを小さくする必要があるが、目が小さすぎると差圧が大きくなり、動力費がかかり、また目詰まりが生じやすく安定した運転に支障をきたす。
また、ろ過による方法は、一般的には処理速度が非常に遅いため、ろ過に必要な面積を大きくとる必要がある。
比較的ろ過速度を早くしている加圧ろ過方式では、珪藻土などのろ過助剤を用い、フィルタに粗い剥離しやすい粒子層を設け、そこに微細な粒子を付着させるなどの方法がとられているが、珪藻土などの余分な処理コストと汚泥の発生が課題となる。
また、膜による処理も最近では一般的ではあるが、ろ過速度を大きくとることができないという課題がある。
【0004】
一方、下記特許文献1には、水中のダイオキシン類を分解する所定周波数域の超音波を発生させるための超音波発生源として圧電材料素子を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−176448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の技術は、水中のSS成分を処理するものであるが、ろ材を用いており上述のろ過による方法と同様にろ過速度を上げることができないという問題がある。なお、同特許文献1では、SS成分を分解するために超音波を用いるものであるが、後述する本発明のようにSS成分の帯電性を利用したものではない。
【0007】
一方、凝集沈殿法における凝集剤の働きは浮遊粒子の表面電荷を中和し、凝集しやすくするためのものであるが、この凝集沈殿法に代えて、例えば空気中と同じように水中で電界を形成することで粒子を補足する電気集塵のような動作ができれば、凝集剤を使用せずに凝集や捕集が可能となる。しかし、空気と異なり水は導電性を有するため、水中で電極間に所望の大きさの電界を形成することができない。また、水中では直流を流すと、電極間で電気分解を起こしてしまう。このように水が導電体であるがゆえに電界はせいぜい粒子の極近傍しか形成できず、従って、水中では、電界による効果的な凝集や捕集は実質上困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、液体中の帯電成分を効率的に処理できる液体処理装置および液体処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の液体処理装置および液体処理方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる液体処理装置は、外力によって分極する圧電要素を備え、該圧電要素に対して外力を付加した状態で液体中の帯電成分を吸着することを特徴とする。
【0010】
外力を付加することによって液体(例えば水)中で圧電要素を分極させ、圧電要素の表面上に表れる電荷による静電気力によって液体中の帯電成分(例えば負に帯電したSS(Suspended Solids)成分)を圧電要素に吸着させることとした。したがって、液体中の帯電成分を効率良く捕集することができる。
圧電要素の形状としては、例えば、繊維状、柱状、筒状、球状、粒状等が挙げられる。また、圧電要素の目詰まりが起こらない様に通液性を確保している条件下では、より比表面積を大きくとれる形状が望ましい。例えば、圧電要素をより小さくして比表面積が大きくしても良く、また、圧電要素に細孔を形成することにより比表面積を大きくしても良い。
圧電要素の材料としては、ポリフッ化ビニリデン等の有機材料、チタン酸ジルコン酸鉛、タンタル酸リチウム等のセラミック系材料が好適に用いられる。
圧電要素に付加する外力は、圧電要素が分極すればよく、したがって、圧縮力であってもよく、また引張力であってもよい。
【0011】
さらに、本発明の液体処理装置は、多数の前記圧電要素が収容されるとともに液体が流通する充填槽を備えていることを特徴とする。
【0012】
多数の圧電要素を収容する充填槽を備え、この充填槽中を液体が流通するようにした。これにより、フィルタを用いる場合に比べて圧力損失を小さくすることができる。
【0013】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記充填槽を構成する壁部を変位させることによって前記圧電要素に対して外力を付加することを特徴とする。
【0014】
充填槽を構成する壁部を変位させることによって圧電要素に対して外力を付加することとしたので、簡便な構成により外力を付加することができる。
なお、充填槽を構成する壁部としては、液体を通過させる壁部(スクリーンやパンチングメタル等)でも良く、或いは、液体が通過する壁部ではなく液体流路を形成する壁部(側壁)であっても良い。
【0015】
さらに、本発明の液体処理装置では、前記圧電要素は、液体が透過可能とされたな膜体とされており、該膜体とされた前記圧電要素の一方から他方へと液体を流して帯電成分の吸着を行うことを特徴とする。
【0016】
圧電要素を、液体が透過可能とされた膜体(例えば平面状の平膜)とした。そして、膜体とされた圧電要素の一方から他方へと液体を流すことにより、膜体を構成する圧電要素の一方面に対して他方面よりも大きな圧力を付加する。これにより、圧電要素が分極され、帯電成分の吸着を行う。
【0017】
さらに、本発明の液体処理装置では、前記圧電要素は、液体が透過可能とされた透過壁によって構成された筒形状とされており、該筒形状とされた前記圧電要素の内部または外部の一方から他方へと前記透過壁を介して液体を流して帯電成分の吸着を行うことを特徴とする。
【0018】
圧電要素を、液体が透過可能とされた透過壁によって構成された筒形状(例えば円筒形状)とした。そして、筒形状とされた圧電要素の内部または外部の一方から他方へと透過壁を介して液体を流すことにより、透過壁を構成する圧電要素の上流側の一方の面に対して他方の面よりも大きな圧力を付加する。これにより、圧電要素が分極され、帯電成分の吸着を行う。
【0019】
さらに、本発明の液体処理装置では、前記圧電要素は、液体中に分散されていることを特徴とする。
【0020】
圧電要素が液体中に分散されている場合であっても、各圧電要素に対して外力を付加することにより、帯電成分を吸着することができる。
【0021】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記圧電要素に対して液圧を作用させることによって、該圧電要素に対して外力を付加することを特徴とする。
【0022】
液圧を作用させることによって圧電要素に外力を付加することとしたので、複雑な機構を要することなく外力を付加させることができる。
【0023】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記圧電要素に対して振動を作用させて該圧電要素に対して外力の付加を行う振動発生器を備えていることを特徴とする。
【0024】
振動発生器によって出力した振動を、液体を介して圧電要素に作用させ、圧電要素に対して外力の付加を行うこととした。このように、圧電要素から離間した位置から圧電要素の分極を制御できるので、装置構成の自由度が増す。
特に圧電要素が液体中に分散されている場合には、圧電要素同士を押し付けて外力を付加することが困難となる。本発明のように振動発生器を用いることとすれば、液体中を伝播する振動によって分散された圧電要素に対して外力を付加することができる。
【0025】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷することによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする。
【0026】
圧電要素に対して付加された外力を除荷することによって、圧電要素の表面の電荷を緩和させ、吸着された帯電成分を脱離させることとした。これにより、液体中の帯電成分を効率良く脱離することができる。
【0027】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記圧電要素に対して流体力を作用させることによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする。
【0028】
圧電要素に対して流体力を作用させる(例えば液体をブローする)ことによって、圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることとした。これにより、液体中の帯電成分を効率良く脱離することができる。流体力を作用させる方法としては、液体をブローする方法(液体の流体力を作用させる方法)や、気体をバブリングさせる方法(気体の流体力を作用させる方法)等が挙げられる。
【0029】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記壁部の変位を復帰させることによって、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷することを特徴とする。
【0030】
充填槽を構成する壁部の変位を復帰させるだけで圧電要素に対して付加された外力を除荷できるので、簡便な構成で帯電成分の脱離を実現できる。
【0031】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記膜体とされた前記圧電要素の前記他方から前記一方へと液体を逆に流して帯電成分の脱離を行うことを特徴とする。
【0032】
膜体とされた圧電要素の他方から一方へと液体を逆方向に流すことにより、膜体を構成する圧電要素の他方面に対して一方面よりも大きな圧力を付加する。これにより、圧電要素には逆方向の圧力が加わり分極されるので、帯電成分の脱離または吸着が行われる。このように、液体を逆方向に流すことにより、帯電成分の脱離を行うことができる。
【0033】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記筒形状とされた前記圧電要素の前記他方から前記一方へと前記透過壁を介して液体を流して帯電成分の脱離を行うことを特徴とする。
【0034】
筒形状とされた圧電要素の他方から一方へと透過壁を介して逆に液体を流すことにより、圧電要素には吸着時の逆方向の圧力が加わり分極されるので、帯電成分の脱離が行われる。
【0035】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記振動発生器から出力する振動を停止して、帯電成分の脱離を行うことを特徴とする。
【0036】
振動発生器から出力する振動を停止することにより、圧電要素に対して付加された外力を除荷し、帯電成分を脱離させることとした。このように、圧電要素から離間した位置から圧電要素の分極を制御できるので、装置構成の自由度が増す。
【0037】
さらに、本発明の液体処理装置は、前記圧電要素が配置された液体流路を並列に複数備え、一又は複数の前記液体流路では、前記圧電要素に対して外力を付加して前記帯電成分の吸着を行い、他の前記液体流路では、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷して前記帯電成分の脱離を行うことを特徴とする。
【0038】
一又は複数の液体流路で帯電成分の吸着を行い、他の液体流路で帯電成分の脱離を行うので、連続的に液体処理を行うことができる。
なお、圧電要素を配置する形式としては、多数の圧電要素を充填層に充填して充填槽の壁部を変位させる形式や、圧電要素を膜体として膜前後の差圧を利用する形式、あるいは圧電要素を液体中に分散させて振動を加える形式等が挙げられる。
【0039】
さらに、本発明の液体処理装置では、前記圧電要素が配置された処理体は、その中心軸線を中心として回転可能とされているとともに、該中心軸線から略放射状に区画された複数の処理部を備え、前記処理部が吸着位置に位置した際に、前記圧電要素に対して外力を付加する外力付加部と、前記処理部が脱離位置に位置した際に、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷する外力除荷部とを備えていることを特徴とする。
【0040】
圧電要素が配置された処理体は中心軸線を中心として回転させられ、吸着位置に位置したときに外力付加部によって外力が付加されて帯電成分の吸着が行われ、脱離位置に位置したときに外力除荷部によって帯電成分の脱離が行われる。このように、処理体を中心軸線回りに回転させることによって帯電成分の吸着および除荷が連続的に行われる。
なお、圧電要素を配置する形式としては、多数の圧電要素を充填層に充填して充填槽の壁部を変位させる形式や、圧電要素を膜体として膜前後の差圧を利用する形式、あるいは圧電要素を液体中に分散させて振動を加える形式等が挙げられる。
【0041】
また、本発明の液体処理方法は、外力によって分極する圧電要素に対して外力を付加した状態で液体中の帯電成分を吸着することを特徴とする。
【0042】
外力を付加することによって液体(例えば水)中で圧電要素を分極させ、圧電要素の表面上に表れる電荷による静電気力によって液体中の帯電成分(例えば負に帯電したSS(Suspended Solids)成分)を圧電要素に吸着させることとした。したがって、液体中の帯電成分を効率良く捕集することができる。
圧電要素の形状としては、例えば、繊維状、柱状、筒状、球状、粒状等が挙げられる。また、圧電要素の目詰まりが起こらない様に通液性を確保している条件下では、より比表面積を大きくとれる形状が望ましい。例えば、圧電要素をより小さくして比表面積が大きくしても良く、また、圧電要素に細孔を形成することにより比表面積を大きくしても良い。
圧電要素の材料としては、ポリフッ化ビニリデン等の有機材料、チタン酸ジルコン酸鉛、タンタル酸リチウム等のセラミック系材料が好適に用いられる。
圧電要素に付加する外力は、圧電要素が分極すればよく、したがって、圧縮力であってもよく、また引張力であってもよい。
【0043】
さらに、本発明の液体処理方法は、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷することによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする。
【0044】
圧電要素に対して付加された外力を除荷することにより、圧電要素の表面の電荷を緩和させ、吸着された帯電成分を脱離させることとした。これにより、液体中の帯電成分を効率良く捕集しかつ脱離することができる。
【0045】
さらに、本発明の液体処理方法は、前記圧電要素に対して液体の流体力を作用させることによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする。
【0046】
圧電要素に対して液体の流体力を作用させる(例えばブローさせる)ことによって、圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることとした。これにより、液体中の帯電成分を効率良く捕集しかつ脱離することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明は、外力を付加することによって液体中で圧電要素を分極させ、圧電要素の表面上に表れる電荷による静電気力によって液体中の帯電成分を圧電要素に吸着させることとした。また、圧電要素に対して付加された外力を除荷することにより、圧電要素の表面の電荷を緩和させ、吸着された帯電成分を脱離させることとした。したがって、液体中の帯電成分を効率良く捕集し、また脱離して処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる水処理装置の処理部を示した模式図である。
【図2】図1の処理部を複数備えた水処理装置を示した模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態にかかる水処理装置を示し、(a)は縦断面を示す模式図、(b)は処理部を示した平面図である。
【図4】本発明の第3実施形態にかかる水処理装置を示し、(a)は正面図、(b)は圧電膜の横断面図、(c)は圧電膜に生じる電荷の分布を示した横断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態にかかる水処理装置の動作原理を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1を用いて説明する。
図1には、本実施形態にかかる水処理装置(液体処理装置)の処理部1が示されている。
なお、本実施形態を含む以下の各実施形態では、水中に存在するSS成分を吸着し脱離することを一例として説明するが、本発明はこれにかかわらず、水以外の他の液体にも適用することができ、また帯電成分であればSS成分以外にも適用することができる。
【0050】
水流路を形成する流路壁2内には、水流れの上流側に位置する上流側通水壁3と、水流れの下流側に位置する下流側通水壁5とが設けられている。これら通水壁3,5は、水を通すことができるとともに後述する圧電素子(圧電要素)7を通さずに保持することができる程度の穴が多数形成された壁部であり、例えばスクリーンやパンチングメタル等が好適に用いられる。また、上流側通水壁3と下流側通水壁5とは、図示しない駆動手段によって相対的に接近離間可能とされている。
【0051】
通水壁3,5間に囲まれた領域には、多数の圧電素子7が充填されており、したがって当該領域が充填槽9とされている。圧電素子7は、本実施形態では例えば円柱形とされており、ポリフッ化ビニリデンなどの有機素材や、チタン酸ジルコン酸鉛、タンタル酸リチウムなどのセラミック系素材が好適に用いられる。なお、圧電素子7の形状は円柱形に限らず他の形状であっても良く、例えば角柱状、筒状、球状、粒状等であってもよい。また、圧電要素の目詰まりが起こらない様に通液性を確保している条件下では、より比表面積を大きくとれる形状が望ましい。例えば、圧電要素をより小さくして比表面積が大きくしても良く、また、圧電要素に細孔を形成することにより比表面積を大きくしても良い。
圧電素子7は、外力が付加されると水中で分極し、その表面上に電荷が生じる性質を有している。
【0052】
本実施形態では、SS成分が含まれる処理前の水が下方から充填槽9へと流れ込み、処理された後に充填槽9の下流側(上方側)へと水が流れるようになっている。もちろん、本発明は本実施形態の水流れ方向に限定されるものではなく、上方から下方へと流れる場合にも本発明を適用することができる。
【0053】
次に、水中のSS成分を処理する方法について説明する。
[吸着工程]
先ず、水処理する際には、処理対象となるSS成分を含む水を図1の矢印方向に下方から上方へと流す。そして、図示しない駆動手段によって、上流側通水壁3と下流側通水壁5とを相対的に近づけて、充填槽9の体積を縮小する。これにより、充填槽9内に充填された各圧電素子7に対して外力が付加され、各圧電素子7が分極して表面上に電荷を生じさせる(図1中に示した拡大図Aを参照)。そして、水中のSS成分10は、負に帯電している場合には、各圧電素子7の表面上に表れた正電荷による静電気力によって吸着される。このようにして、水中のSS成分が選択的に吸着される。
[脱離工程]
所定時間経過して各圧電素子7にSS成分10を吸着させた後に、水の流れを上方から下方へと逆方向へと切り替えて逆洗を行う。そして、上流側通水壁3と下流側通水壁5とを相対的に遠ざけ離間させて、充填槽9の体積を拡大する。これにより、充填槽9内に充填された各圧電素子7に対して負荷された外力が除荷され、各圧電素子7の表面上の電荷を緩和させる(図1中に示した拡大図Bを参照)。これにより、各圧電素子7の表面上に帯電されたSS成分10が脱離される。このようにして、吸着したSS成分を脱離さることにより、各圧電素子7の表面上からSS成分を除去し、次の吸着工程に備えることができる。
【0054】
図2には、図1に示した処理部1を複数用いて水処理を行う水処理装置が示されている。
同図では、3つの処理部1a,1b,1cが並列に設けられている。各処理部1a,1b,1cには、それぞれ、同図において下方および上方に開閉弁13a,13b,13c,15a,15b,15cが設けられている。また、各処理部1a,1b,1cには、水を上方から下方へと流す逆洗経路17(逆洗配管および逆洗用開閉弁は図示を省略する)が設けられている。なお、図2では右側の処理部1cのみに逆洗経路17が示されているが、他の処理部1a,1bにも設けられている。また、逆洗経路17の下流側は脱離させたSS成分を排出する汚泥処理系へと接続されている。
【0055】
上記構成の水処理装置は、以下のように吸着工程および脱離工程を同時に行うことができる。すなわち、図2に示した状態では、処理部1a,1bにて吸着工程が行われ、処理部1cにて脱離工程が行われている。吸着工程を行う処理部1a,1bでは、開閉弁13a,13b,15a,15bが開(白色)とされており、処理前のSS成分を含んだ未処理水が下方から上方へと流される。なお、吸着工程では、図1を用いて説明したように充填槽9内の各圧電素子7に外力を付加することによって帯電させ、SS成分を吸着する。
【0056】
一方、脱離工程を行う処理部1cでは、開閉弁13c,15cが閉(黒色)となっており、処理前のSS成分を含んだ未処理水が流されないようになっており、逆洗経路17から逆洗水が上から下へと流されるようになっている。逆洗による脱離工程では、図1を用いて説明したように充填層9内の各圧電素子に加わる外力を除荷することによって帯電を緩和させ、SS成分を脱離させる。
【0057】
脱離工程を行う処理部は、処理部1cから他の処理部1a,1bへと順次切り替えていくことによって所定の吸着工程を終えた処理部のSS成分を脱離させて回収する。また、脱離工程が終了した処理部では再び吸着工程を行う。このように吸着工程と脱離工程を交互に行うことによって、水処理を中断することなく連続的に行うことができる。
【0058】
以上の通り、本実施形態では、充填槽9内に充填した圧電素子7の静電気力によってSS成分を吸着することとしたので、従来のろ過法で用いられるフィルタのように目を細かくする必要がない。したがって、従来のろ過法よりも小さな差圧で水処理することができ、動力費の低減や処理速度の向上を図ることができる。
【0059】
なお、本実施形態では、通水壁3,5間の間隔を変更することによって充填槽9内の圧電素子7に対して外力の付加および除荷を行っていたが、これに代えて、充填槽9内の流路壁2間の間隔を変更することとしてもよい。
また、本実施形態では、充填槽9を備えた複数の処理部1a,1b,1cを切り替える構成としたが、圧電素子が配置された各処理部1a,1b,1cの形式としては、本発明はこれに限定されず、例えば、以下の第3実施形態に示したように圧電要素を膜体として膜前後の差圧を利用する形式であってもよく、あるいは、以下の第4実施形態に示したように圧電要素を液中に分散させて振動を加える形式であってもよい。
【0060】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図3を用いて説明する。
水処理装置30は、図3(a)及び図3(b)に示すように、円筒形の充填槽(処理体)32を備えている。充填槽32内には、第1実施形態と同様の圧電素子7が多数収容されている。
充填槽32の中心には回転軸体35が設けられている。この回転軸体35が図示しないモータ等の回転駆動手段によって回転させられることによって、充填槽32が水平面内で回転させられるようになっている。
【0061】
充填槽32は、図3(b)に示すように、複数(本実施形態では8個)の区画室(処理部)33,…に放射状に分割されている。隣接する区画室33間には圧電素子7の移動を規制する区画壁34が設けられている。また、各区画室33の上下面には、第1実施形態と同様にスクリーンやパンチングメタル等の通水壁37,38が設けられている。
【0062】
通水壁37,38間は、第1実施形態と同様に相対的に接近離間可能とされている。具体的には、回転軸体35の回転によって充填槽32が回転させられると、区画室33が位置する場所に応じて、静止側に設けられた押圧手段(図示せず)によって、通水壁37,38の間隔が縮小されるようになっている。押圧手段としては、例えば、上下の通水壁37,38と接触して挟み込む上下一対のレールを充填槽32が回転する方向に延在するように静止側に複数対固定しておき、各対のレール間の間隔を充填槽32の自然長となる厚さよりも小さく調整することによって通水壁37,38間の距離を縮小するものが利用できる。したがって、押圧手段が設けられた回転位置では区画室33内の圧電素子7に対して外力が付加され、押圧手段が設けられていない回転位置では外力が除荷される。このようにして、各区画室33内の圧電素子7は、通水壁37,38の相対変位によって区画室33ごとに外力が付加され、また除荷される。
【0063】
図3(b)には区画室33内の圧電素子7に対して外力が付加される回転位置と、外力が除荷される回転位置が示されている。すなわち、同図にて網掛け表示された区画室33aの回転位置にのみ押圧手段が設けられておらず、この位置にて外力が除荷され、区画室33a以外の回転位置には押圧手段が設けられており、この位置にて外力が付加されるようになっている。したがって、図3(a)に示すように、区画室33aの回転位置に逆洗経路40を設け、脱離したSS成分を除去するようになっている。
【0064】
次に、本実施形態にかかる水処理装置30の動作について説明する。
処理されるSS成分を含む未処理水は、図3(a)において下方から上方へと流される。充填槽32は、回転軸体35を中心として水平面内で所定の一定回転速度で回転させられる。
区画室33の通水壁37,38間の距離が縮小される回転位置(吸着位置)、すなわち図3(b)の区画室33a以外の回転位置では、区画室33内の各圧電素子7に外力が付加されて各圧電素子7が帯電することによってSS成分を吸着する。
一方、区画室33の通水壁37,38間の距離が区画室33の自然長に復帰する回転位置(脱離位置)、すなわち図3(b)の区画室33aの回転位置では、区画室33内の各圧電素子7に加えられた外力が除荷されて各圧電素子7の帯電が緩和して吸着したSS成分が脱離させられる。この脱離位置では、逆洗経路40を通って逆洗水が供給されるようになっており、脱離したSS成分は逆洗水とともに汚泥処理系へと搬送される。
脱離位置にてSS成分が脱離された区画室33aは充填槽32の回転に伴い吸着位置へと向かい、この吸着位置にて再び外力が付加されることによってSS成分の吸着を行う。
【0065】
このように、本実施形態では、充填槽32を回転させることによって、各区画室33を吸着位置と脱離位置に連続的に位置させてSS成分の吸着および脱離を行わせることで、連続的に水処理を行うことができる。
なお、本実施形態では、充填槽32を回転させる構成としたが、本発明はこれに限定されず、圧電素子が配置された処理部(区画室33に相当)を複数有する処理体(充填槽32に相当)を回転軸回りに回転させて連続的にSS成分の吸着および脱離を行わせるものであればよい。したがって、以下の第3実施形態に示したように圧電要素を膜体として膜前後の差圧を利用する形式であってもよく、あるいは、以下の第4実施形態に示したように圧電要素を液中に分散させて振動を加える形式であってもよい。
【0066】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について、図4を用いて説明する。
水処理装置50は、図4(a)に示されているように、圧電素子による膜を備えた膜ユニットを採用したものである。
水処理装置50は、上下のヘッダ部54,55と、これらヘッダ部54,55間に並列に延在する多数の圧電膜(圧電要素)52とを備えている。圧電膜52は、例えばポリフッ化ビニリデン等の圧電材料で形成されており、水を透過するとともにSS成分よりも十分大きな開口を有する透過壁で構成された膜体とされている。また、圧電膜52は、図4(b)に示すように、円筒形状とされている。したがって、水は円筒外から円筒内、またはその逆方向へと流れるようになっている。なお、圧電膜52の形状は円筒に代えて、角筒等の他の筒形状であってもよい。
【0067】
[吸着工程]
水中のSS成分を吸着する吸着工程では、図4(a)中の白矢印で示すように、圧電膜52の外側から内側へと水が流れるように未処理水を流す。そうすると、図4(c)に示すように、水圧によって圧電膜52の厚さ方向に応力分布が形成されることで圧電膜52が帯電し、例えば外周側が正に帯電し、内周側が負に帯電する。これにより、負に帯電したSS成分が圧電膜52の外周面側に吸着され、SS成分が吸着された後の処理済み水は圧電膜52の内側を通って上下のヘッダ54,55へと導かれる。
[脱離工程]
吸着したSS成分を脱離する際には、図4(a)の黒矢印で示すように、逆方向、すなわち圧電膜52の内側から外側へと逆洗水を流す。これにより、吸着工程とは逆方向に差圧が加わり、図4(c)に示した場合とは逆の帯電が圧電膜52に生じ、吸着したSS成分の脱離が容易に行われる。
【0068】
このように、本実施形態では、膜ユニットを用いた水処理が可能となり、しかも圧電素子の静電気力を用いてSS成分を吸着することとしたので、従来の膜ユニットで用いられるフィルタのように目を細かくする必要がない。したがって、従来の膜ユニットよりも小さな差圧で水処理することができ、動力費の低減や処理速度の向上を図ることができる。
【0069】
なお、本実施形態では筒形状の膜体を用いて水処理を行うこととしたが、例えば平面状の平膜を用いることもできる。すなわち、膜体を透過する処理水の方向によって圧電要素とされた膜体に差圧をかけて電荷を生じさせればSS成分を吸着することができ、また、逆方向に逆洗水を流すことによって吸着したSS成分を脱離させることができるので、膜体の形状にかかわらず本発明を適用することができる。
【0070】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態にかかる水処理装置について説明する。図5には、水処理装置の動作原理が示されている。
図5に示すように、球形状等の粒状とされた圧電素子(圧電要素)60を、SS成分10を含む未処理水中に分散させる。圧電素子60としては、第1実施形態と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの有機素材や、チタン酸ジルコン酸鉛、タンタル酸リチウムなどのセラミック系素材が好適に用いられる。
また、水処理装置は、振動発生装置62を備えている。振動は、圧電素子60に外力を付加して圧電素子60が分極する所定の周波数を発振するようになっている。振動の周波数としては、例えば、機械的振動の場合1Hzから3600Hz,音波振動の場合50Hzから100MHzである。
水中のSS成分を吸着する際には、振動発生装置62から所定周波数の振動を発振し、各圧電要素60に外力を付加して分極・帯電させる。これにより、負に帯電したSS成分10が圧電素子60の正に帯電した表面上に吸着される。
吸着したSS成分を脱離する際には、振動発生装置62からの振動の発振を停止し、圧電素子60の帯電を緩和することによってSS成分を圧電素子60から脱離させる。
【0071】
このように、本実施形態によれば、圧電素子60から離間した位置から圧電要素の分極を制御できるので、装置構成の自由度を増大させることができる。
特に、本実施形態のように圧電素子60が液体中に分散されている場合には、圧電素子60同士を押し付けて外力を付加することが困難となるので、振動発生器によって外力を付加することが有効となる。
【0072】
なお、上述した各本実施形態の脱離工程では、圧電素子に負荷した外力を除荷することによって静電気を緩和させてSS成分を脱離させることとしたが、これに代えて、圧電素子に負荷した外力を除荷せずに(あるいは除荷するとともに)、水をブローして液体の流体力を作用させることによって水流の動圧でSS成分を脱離させることとしてもよい。あるいは、液体中に気体を送り込み、“バブリング”によって気体の流体力を作用させることでSS成分を脱離させることとしてもよい。さらには、圧電素子に付着した液体を取り除いた後に、送風して“ブロワー”によって気体の流体力を作用させることでSS成分を脱離させることとしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1,30,50 水処理装置(液体処理装置)
7 圧電素子(圧電要素)
9,32 充填槽
10 SS成分
52 圧電膜(圧電要素,膜体)
60 圧電素子(圧電要素)
62 振動発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力によって分極する圧電要素を備え、
該圧電要素に対して外力を付加した状態で液体中の帯電成分を吸着することを特徴とする液体処理装置。
【請求項2】
多数の前記圧電要素が収容されるとともに液体が流通する充填槽を備えていることを特徴とする請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項3】
前記充填槽を構成する壁部を変位させることによって前記圧電要素に対して外力を付加することを特徴とする請求項2に記載の液体処理装置。
【請求項4】
前記圧電要素は、液体が透過可能とされた膜体とされており、
該膜体とされた前記圧電要素の一方から他方へと液体を流して帯電成分の吸着を行うことを特徴とする請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項5】
前記圧電要素は、液体が透過可能とされた透過壁によって構成された筒形状とされており、
該筒形状とされた前記圧電要素の内部または外部の一方から他方へと前記透過壁を介して液体を流して帯電成分の吸着を行うことを特徴とする請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項6】
前記圧電要素は、液体中に分散されていることを特徴とする請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項7】
前記圧電要素に対して液圧を作用させることによって、該圧電要素に対して外力を付加することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項8】
前記圧電要素に対して振動を作用させて該圧電要素に対して外力の付加を行う振動発生器を備えていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項9】
前記圧電要素に対して付加された外力を除荷することによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項10】
前記圧電要素に対して流体力を作用させることによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項11】
前記壁部の変位を復帰させることによって、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷することを特徴とする請求項3に記載の液体処理装置。
【請求項12】
前記膜体とされた前記圧電要素の前記他方から前記一方へと液体を逆に流して帯電成分の脱離を行うことを特徴とする請求項4に記載の液体処理装置。
【請求項13】
前記筒形状とされた前記圧電要素の前記他方から前記一方へと前記透過壁を介して液体を流して帯電成分の脱離を行うことを特徴とする請求項5に記載の液体処理装置。
【請求項14】
前記振動発生器から出力する振動を停止して、帯電成分の脱離を行うことを特徴とする請求項7又は8に記載の液体処理装置。
【請求項15】
前記圧電要素が配置された液体流路を並列に複数備え、
一又は複数の前記液体流路では、前記圧電要素に対して外力を付加して前記帯電成分の吸着を行い、
他の前記液体流路では、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷して前記帯電成分の脱離を行うことを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項16】
前記圧電要素が配置された処理体は、その中心軸線を中心として回転可能とされているとともに、該中心軸線から略放射状に区画された複数の処理部を備え、
前記処理部が吸着位置に位置した際に、前記圧電要素に対して外力を付加する外力付加部と、
前記処理部が脱離位置に位置した際に、前記圧電要素に対して付加された外力を除荷する外力除荷部と、
を備えていることを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項17】
外力によって分極する圧電要素に対して外力を付加した状態で液体中の帯電成分を吸着することを特徴とする液体処理方法。
【請求項18】
前記圧電要素に対して付加された外力を除荷することによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする請求項17に記載の液体処理方法。
【請求項19】
前記圧電要素に対して液体の流体力を作用させることによって、該圧電要素に吸着された帯電成分を脱離させることを特徴とする請求項17又は18に記載の液体処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−50960(P2012−50960A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197820(P2010−197820)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(309036221)三菱重工メカトロシステムズ株式会社 (57)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】