説明

液体分離素子、およびそれを用いた逆浸透装置、逆浸透膜処理方法

【課題】逆浸透膜が流路材の溝への陥没することによる透過液流路抵抗の増大や、それに伴う逆浸透膜表面の破断による濾過機能の低減を抑制することのできる液体分離素子を提供する。
【解決手段】原液を受圧する逆浸透膜とその裏面側に該逆浸透膜を支持する流路材を配置して形成された液体分離素子において、前記流路材が賦形されたシート状物であることを特徴とする液体分離素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原液を受圧する逆浸透膜の裏面側を支持する液体分離素子に関する。
【背景技術】
【0002】
水の浄化システムの1つに逆浸透浄水システムがあり、スパイラル型、平膜型、中空糸型等が知られている。スパイラル型は、一定容積の中に大きな膜面積を確保することができ、高効率で処理できるため最も多く使われている。
【0003】
一般的なスパイラル型流体分離膜素子は図3に示すごとく、流路材1を逆浸透膜2で挟み込み、さらに該逆浸透膜2の外側に供給液流路材3を配して一組のユニットとなし、集水孔4を配列した中空の中心管5の周囲に該ユニットを一組または複数組巻回し、この巻回したものをモジュール6に挿入してなるものである。
【0004】
前記流路材1はその表面が凹凸構造を形成する布帛で構成されている。表面が凹凸構造の布帛としては、例えばトリコットの編物が最も一般的である。編目の方向に垂直な断面において、糸が凸部となり逆浸透膜を支持し、糸と糸の間の領域が凹部となり、逆浸透膜を通過した透過液の流路を形成している。よって、図4、図5、図6に示すように、布帛であるため断面毎に流路の断面形状が異なることになる。
【0005】
通常、逆浸透膜を用いた流体分離素子では、供給液側と透過液側に0.5〜7MPaの差圧が負荷されているため、流路材はこの圧力による変形防止を目的として、剛直化処理が施されている。剛直化は、エポキシ樹脂やメラニン樹脂を含浸加工させたり、加熱して繊維を相互に融着固化させる熱融着加工が一般的である。また、流路材の凸部が平坦でない場合には、高圧下において逆浸透膜が局所的、あるいは不均一に変形をする可能性があるため、流路材の布帛にカレンダ加工を施している。
【0006】
流路材の形状を設計するにあたって、透過液の流路抵抗を小さくするために溝幅を大きくして流路を大きくすると、逆浸透膜の陥没が大きくなる。その結果、逆浸透膜の表面に大きな引張力が局所的にはたらき、その引張力が逆浸透膜の破断応力を超えた場合には逆浸透膜が破断し、逆浸透膜の機能が低下することになる。また、逆浸透膜の陥没により流路が閉塞し、流路抵抗は逆に増大することになる。なお、溝幅とは図7で示す距離Hをいう。織物であるため測定する断面により値が異なるが、ランダムに測定した10箇所での平均値のことをいう。
【0007】
溝幅を小さくすると、逆浸透膜の陥没を抑制することはできるが、流路が狭くなり流路抵抗は大きくなる。溝深さ(溝深さとは図7で示す距離Dをいう)を大きくすることで流路を確保し、流路抵抗を低減させる方法が対策として考えられるが、溝深さは布帛を構成する糸の糸径で決まるため自由に設計することができない。
【0008】
このような問題に対して、凹凸構造の布帛の上に平坦な布帛を積層して剛直化させたものを流路材とする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような構成にすれば、逆浸透膜が平面で支持されるため陥没することはない。また、流路材にダブルトリコットを用いて流路材の両面で流路を設けることにより流路を増やし、流路抵抗を小さくする手法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、平坦な布帛を積層する方法は構成材料、生産工程が増えてしまうという問題がある。
【0010】
また、流路材の両面に流路を設ける方法も、全体の厚みが大きくなるため、モジュール内に挿入できるユニットの数が減少し、処理能力が低下するという問題があり、また、溝幅は狭くすることができないため、時間が経過するに連れて逆浸透膜がクリープ変形を起こし陥没してしまうという問題がある。
【特許文献1】特開2000―342941号公報(第2〜6頁)
【特許文献2】特開平9−141060号公報(第2〜6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、かかる従来技術の欠点を改良し、構成材料、生産工程、全体の厚みを増やすことがなく、溝幅を狭くし、溝深さを深くすることで、逆浸透膜の陥没を抑制し、さらに流路抵抗の小さい液体分離素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる。すなわち、
(1)原液を受圧する逆浸透膜とその裏面側に該逆浸透膜を支持する流路材を配置して形成された液体分離素子において、前記流路材が賦形されたシート状物であることを特徴とする液体分離素子。
【0013】
(2)前記流路材となる賦形されたシート状物は、シート状物の表面に凹凸が形成されたものであることを特徴とする(1)に記載の液体分離素子。
【0014】
(3)前記流路材となるシート状物の表面の凹凸が、インプリント加工により施されていることを特徴とする(2)に記載の液体分離素子。
【0015】
(4)前記流路材となる賦形されたシート状物は、シート状物に柱状の突起が形成されたものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の液体分離素子。
【0016】
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の液体分離素子を用いたことを特徴とする逆浸透装置。
【0017】
(6) (1)〜(4)のいずれかに記載の液体分離素子を用いたことを特徴とする逆浸透膜処理方法。
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、流路材が糸で構成されていないため、溝深さや溝幅が糸径に制限されることなく自由に設計することができる。よって、逆浸透膜の流路材凹部への陥没を抑制するために流路材の溝幅を狭くするとともに、流路を確保して流路抵抗を低減させるために溝深さを深くする形状の実現が可能となる。その結果、逆浸透膜の機能を低下させることなく、透過液の流路を確保することができる。
【0019】
さらに、布帛であったために必要となっていた剛直化やカレンダ加工が不要になるため、生産工程が削減される。
【0020】
また、布帛であれば編目の方向に垂直な断面において、切り取る断面毎に流路形状が異なるが、本発明ではどの断面をとっても流路断面が等しくなるような流路形状を成形することができるため、透過液の流路抵抗を小さくすることができる。
【0021】
また、全体の厚みを薄くすることも可能なため、モジュール内に挿入できるユニットの数を増やすことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0023】
本発明は、原液を受圧する逆浸透膜の裏面側を支持する流路材を配置して形成した液体分離素子において、流路材が賦形されたシート状物であることを特徴とする液体分離素子である。ここで、賦形されたとは、シート状物を変形させてその状態で固定する態様や、シート状物に同種または異種の素材からなる物体をその表面に接合させる態様や、シート状物をエッチングする態様など、要すると、該賦形されたシート状物に逆浸透膜のような平らな物を沿わせたならば、その物とその間に空間(流路となる)を与える様な形状を有するようにされることを言う。
【0024】
本発明に用いる流路材を得るためのシート状物は、単一または複数の素材をスリット状の口金から合成樹脂ポリマをシート状に吐出して成形されるのが一般的である。
【0025】
該シート状物の厚みは40μm〜1mmであることが好ましい。厚みの測定は、電磁式、超音波式、磁力式、光透過式等さまざまな方式のフィルム膜厚測定器が市販されているが、非接触のものであればいずれの方式でもよい。ランダムに10ヶ所で測定を行いその平均値で評価する。40μm未満では強度が不足し、少しの引張応力で凹凸形状が潰れてしまったり、破れを起こす可能性がある。また、厚みが1mmを超えると、中心管の周りに巻回し難くなるとともに、モジュール内に挿入できるユニットの数が少なくなるため、処理能力が低下してくる。
【0026】
シート状物の材料であるポリマの材質については、流路材としての形状を保持し、透過液中への成分の溶出が少ないものであるならばどのようなものでも良く、例えば、ナイロン等のポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリフルオロエチレン系等の合成樹脂が挙げられるが、特に高圧化に耐えうる強度や親水性を考慮するとポリエステル系を用いるのが好ましい。
【0027】
該シート状物には透過液の流路が形成されている。該流路は、シート状物自体が波板状、矩形波状、三角波状などに賦形加工されていたり、シート状物の一面が平坦で他の表面が凹凸状に加工されていたり、シート状物表面に他の部材が凹凸形状に積層されることによって形成されたものであってもよい。また、シート状物は2枚以上が積層されたものであってもよい。
【0028】
このような流路を構成するため、シート状物表面に凹凸形状を形作る方法の一つにインプリント加工がある。インプリント加工とは、ポリマのガラス転移温度以上に加熱したポリマに、同じくポリマのガラス転移温度以上に加熱した凹凸形状を持った金型を圧入する。なお、金型は金属製のものが一般的で、切削加工により凹凸形状が施されている。金型に圧力を加えた状態で冷却し、金型をポリマから取り外すことによって、ポリマ表面に金型とは逆の凹凸をシート状物表面に転写する加工方法である。
【0029】
布帛では図2に示すように、溝が一方向に並んでいる形状しか成形できなかったが、フィルムにインプリント加工を施すことにより、図1に示すようなドット状に柱状の突起を成形することが可能である。ドットの配列は千鳥型に配置された場合は、原液を受圧する時の応力が分散され、陥没の抑制に有利である。なお、図1には断面が円である円柱状の突起を記載したが、多角形や楕円等、特に断面形状については限定しない。また、異なる断面の突起が混在していてもよい。また、図2に示すような溝が一方向に並んで連続した溝を有する凹凸形状であってもよい。
【0030】
また、一回的にかかる流路材を得る方法としては、射出成型や圧縮成型などの成型加工により賦形されたシート状物を得ることができる。
【0031】
本発明に用いる逆浸透膜は、公知の方法により製造することができる。そうして得られた逆浸透膜と、賦形されたシート状物は、賦形されたシート状物を逆浸透膜の裏側にあてて、逆浸透膜を支持するように配置し、これをスパイラル型の液体分離素子とする時には巻回をしてケース内に導入し、液体分離素子を得る。
【0032】
このようにして得られた液体分離素子は、逆浸透装置あるいは逆浸透膜処理方法に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0034】
実施例は流路材を厚さ150μmの逆浸透膜2枚の間にはさみユニットとし、径が0.2m、長さ1mのモジュールに組み込む。TDS3.5%重量の海水を液温25℃で5.5MPaの差圧を与えて10日間濾過しつづけ、1日当たりの透過水量および10日後の塩除去率を算出する。
【0035】
<実施例1>
ポリエステルフィルムにインプリント加工を施し、溝幅Hが254μm、溝深さDが120μmおよび溝密度が10mm当たり17本の、厚さ220μmの図2に示すような溝が一方向に並んで連続した溝を有する流路材を作成する。金型は金属製で切削加工により溝を形成し、加工条件は120℃の成形温度で2分間15MPaで保圧する。
【0036】
透過水量は21m/日、塩素除去率は99.75%となる。
【0037】
<比較例1>
ポリエステル繊維のマルチフィラメントをダブルデンビ組織に編成し、それを熱融着した後にカレンダ加工を施して、溝幅Hが254μm、溝深さDが120μmおよび溝密度が10mm当たり17本の、厚さ220μmのシングルトリコットを作成する。なお、溝幅Hは10点測定し、その平均値とする。また、溝密度はトリコット表面を定規とともに顕微鏡で写真撮影し、その写真から目視により確認する。
【0038】
透過水量は20m/日、塩素除去率は99.7%となる。場所により溝幅が異なるため実施例1と比較して透過液の流路抵抗が大きいため透過水量が小さい。また、溝幅が250μm以上のところも存在するため、そこで逆浸透膜が大きく陥没膜する。その結果、逆浸透膜表面に大きな引張応力が発生して局所的に破断が発生し、逆浸透膜の機能が低下するため、塩素除去率が低下している。
【0039】
<実施例2>
本実施例は、ポリエステルフィルムにインプリント加工を施し、溝幅Hが200μm、溝深さDが150μmおよび溝密度が10mm当たり18本の、厚さ220μmの図2に示すような溝が一方向に並んで連続した溝を有する流路材を作成する。
【0040】
透過水量は25m/日、塩素除去率は99.85%となる。実施例1と比較して溝幅は狭くなっているが溝深さが深いために流路抵抗は大きくならない。溝幅が狭くなったことで膜の陥没が抑制されるため塩素除去率は高くなる。
【0041】
<実施例3>
本実施例は、ポリエステルフィルムにインプリント加工を施し、直径300μmで高さ120μmの円柱が、碁盤の目状に中心間ピッチ350μmで厚さ100μmの薄板の上に成形され、全体の厚さを220μmとした図1に示すような流路材を作成する。
【0042】
透過水量は22m/日、塩素除去率は99.8%となった。実施例1と比較して単位面積あたりの流路面積が占める割合はほとんど変わらないが、最も溝幅の広い部分の長さが195μmとなる。よって、比較例1と比べ、逆浸透膜の陥没を抑制することができるため、流路抵抗が小さくなり透過流量が増加すると共に、逆浸透膜表面の破断も抑制できるため塩素除去率が増加している。
【0043】
表1に比較例1および実施例1〜3について形状条件およびテストした結果をまとめて示す。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の液体分離素子は、純水の製造や海水の淡水化、廃水処理、食品産業における有価物回収などに利用できるが、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に適用可能な流路材の一例を示す斜視図である。
【図2】流路が一方向に並んでいる流路材の一例を示す斜視図である。
【図3】一般的なスパイラル型流体分離素子を示す概略斜視図である。
【図4】従来の布帛で構成された流路構成の一例を模式的に示す平面図である。
【図5】図4のA−A’断面を示す図である。
【図6】図4のB−B’断面を示す図である。
【図7】溝幅Hと溝深さDの説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1:流路材
2:逆浸透膜
3:供給液流路材
4:集水孔
5:中心管
6:モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原液を受圧する逆浸透膜とその裏面側に該逆浸透膜を支持する流路材を配置して形成された液体分離素子において、前記流路材が賦形されたシート状物であることを特徴とする液体分離素子。
【請求項2】
前記流路材となる賦形されたシート状物は、シート状物の表面に凹凸が形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の液体分離素子。
【請求項3】
前記流路材となるシート状物の表面の凹凸が、インプリント加工により施されていることを特徴とする請求項2に記載の液体分離素子。
【請求項4】
前記流路材となる賦形されたシート状物は、シート状物に柱状の突起が形成されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体分離素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液体分離素子を用いたことを特徴とする逆浸透装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の液体分離素子を用いたことを特徴とする逆浸透膜処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−247453(P2006−247453A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63665(P2005−63665)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】