説明

液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット、それを用いた液体吐出ヘッドおよび記録装置

【課題】共通電極と共通電極用接続電極との電気的接続の信頼性が高いとともに、反りの少ない液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット、それを用いた液体吐出ヘッドおよび記録装置を提供する。
【解決手段】複数の圧電セラミック層21a、bが積層されている積層体と、該積層体の一方の主面に第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている複数の個別電極35と、前記積層体の内部に形成されている共通電極34と、前記一方の主面の周縁領域に形成されており、共通電極34と電気的に接続されている共通電極用接続電極37とを有する液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット21であって、共通電極用接続電極37は、圧電セラミック層21bに設けられている貫通孔21c貫通孔内の導体を介して共通電極34に接続されているとともに、共通電極用接続電極37の貫通孔21cの周囲の平面形状が十字形状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出させる液体吐出ヘッド用の圧電アクチュエータユニット、それを用いた液体吐出ヘッドおよび記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタやインクジェットプロッタなどの、インクジェット記録方式を利用した印刷装置が、一般消費者向けのプリンタだけでなく、例えば電子回路の形成や液晶ディスプレイ用のカラーフィルタの製造、有機ELディスプレイの製造といった工業用途にも広く利用されている。
【0003】
このようなインクジェット方式の印刷装置には、液体を吐出させるための液体吐出ヘッドが印刷ヘッドとして搭載されている。この種の印刷ヘッドには、インクが充填されたインク流路内に加圧手段としてのヒータを備え、ヒータによりインクを加熱、沸騰させ、インク流路内に発生する気泡によってインクを加圧し、インク吐出孔より、液滴として吐出させるサーマルヘッド方式と、インクが充填されるインク流路の一部の壁を変位素子によって屈曲変位させ、機械的にインク流路内のインクを加圧し、インク吐出孔より液滴として吐出させる圧電方式が一般的に知られている。
【0004】
また、このような液体吐出ヘッドには、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に液体吐出ヘッドを移動させつつ記録を行なうシリアル式、および記録媒体より主走査方向に長い液体吐出ヘッドを固定した状態で、副走査方向に搬送されてくる記録媒体に記録を行なうライン式がある。ライン式は、シリアル式のように液体吐出ヘッドを移動させる必要がないので、高速記録が可能であるという利点を有する。
【0005】
シリアル式、ライン式のいずれの方式の液体吐出ヘッドであっても、液滴を高い密度で印刷するには、液体吐出ヘッドに形成されている、液滴を吐出する液体吐出孔の密度を高くする必要がある。
【0006】
そこで液体吐出ヘッドを、マニホールドおよびマニホールドから複数の液体加圧室をそれぞれ介して繋がる液体吐出孔を有した流路部材と、前記液体加圧室をそれぞれ覆うように設けられた、複数の個別電極と複数の個別電極に対向している共通電極とそれらに挟まれている圧電セラミック層とを含む複数の変位素子を有する圧電アクチュエータユニットとを積層して構成したものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この液体吐出ヘッドでは、複数の液体吐出孔にそれぞれ繋がった液体加圧室がマトリックス状に配置され、それを覆うように設けられたアクチュエータユニットの変位素子を圧電体の変形により変位させることで、各液体吐出孔からインクを吐出させ、主走査方向に600dpiの解像度で印刷が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−305852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているような液体吐出ヘッドの圧電アクチュエータユニットにおいて、圧電アクチュエータユニットの内部の共通電極を、外部の回路と接続しようとする
場合、圧電アクチュエータユニットの表面に共通電極用接続電極を焼成により形成し、圧電セラミック層に設けた貫通孔を通して、共通電極と共通電極用接続電極とを電気的に接続することが考えられる。そのような構造の圧電アクチュエータユニット作成する際、貫通孔と共通電極用接続電極との位置が合うように共通電極用接続電極を大きくすると、圧電アクチュエータユニットの反りが大きくなってしまうという問題があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、共通電極と共通電極用接続電極との電気的接続の信頼性が高いとともに、反りの少ない液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット、それを用いた液体吐出ヘッドおよび記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニットは、複数の圧電セラミック層が積層されている積層体と、該積層体の一方の主面に第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている複数の個別電極と、前記積層体の内部に形成されている前記複数の個別電極に対向している共通電極と、前記一方の主面の周縁領域に形成されており、前記共通電極と電気的に接続されている共通電極用接続電極とを有する液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニットであって、前記共通電極用接続電極は、前記共通電極用接続電極が形成されている前記圧電セラミック層に設けられている貫通孔内の導体を介して前記共通電極に接続されているとともに、前記共通電極用接続電極の前記貫通孔の周囲の平面形状が十字形状であることを特徴とする。
【0011】
前記導体を備える前記貫通孔が3つ以上あるとともに、平面視した場合に、前記貫通孔は一直線上でない位置に配置されており、かつ前記共通電極用接続電極は、前記貫通孔のうちで距離が最も離れている2つの前記貫通孔を結ぶ直線上に、前記共通電極用接続電極が形成されていない領域がある平面形状であることが好ましい。
【0012】
前記共通電極用接続電極は、平面形状の異なる少なくとも2つの電極が重なって形成されており、前記共通電極用接続電極の前記貫通孔の周囲の十字形状の4つの凸部のうち、少なくとも1つの凸部が、前記2つの電極のうち一方のみからなることが好ましい。
【0013】
前記2つの電極のうち一方は、前記個別電極の一つであることが好ましい。
【0014】
本発明の液体吐出ヘッドは、複数の液体加圧室が開口し、該複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった複数の液体吐出孔を備える流路部材に、前記複数の液体加圧室を覆うように前記液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニットを積層してなることを特徴とする。
【0015】
本発明の記録装置は、前記液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記圧電アクチュエータユニットを制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニットによれば、共通電極用接続電極が十字形状をしていることにより、共通電極用接続電極と貫通孔との位置がずれても、共通電極用接続電極と共通電極とが電気的に接続され易い。また、十字形状と同程度の大きさの円形状の共通電極用接続電極を用いる場合と比較して、液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニットに反りが生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録装置であるプリンタの概略構成図である。
【図2】図1の液体吐出ヘッドを構成する第1の流路部材および圧電アクチュエータユニットの平面図である。
【図3】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
【図4】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
【図5】図3のV−V線に沿った縦断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る圧電アクチュエータユニットの平面図である。
【図7】図6の圧電アクチュエータユニットの部分縦断面図である。
【図8】(a)は、図6に示した共通電極用接続電極とその周囲の拡大図であり、(b)〜(d)は、本発明の他の実施形態に係る共通電極用接続電極である。
【図9】(a)〜(c)は、共通電極用接続電極の平面形状を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。
【0019】
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
【0020】
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
【0021】
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
【0022】
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
【0023】
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
【0024】
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
【0025】
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
【0026】
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている液体吐出孔面4aとなっている(図4、5および6参照)。
【0027】
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2には図示しない外部液体タンクから液体が供給される。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は、液体吐出孔面4aに開口しており、一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
【0028】
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
【0029】
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
【0030】
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
【0031】
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かり易いように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かり易くするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。
【0032】
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
【0033】
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
【0034】
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
【0035】
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面に渡って配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
【0036】
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホー
ルド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
【0037】
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
【0038】
つまり、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように液体吐出孔8を投影すると、図3に示した仮想直線のRの範囲に、各副マニホールド5aに繋がっている4つの液体吐出孔8、つまり全部で16個の液体吐出孔8が600dpiの等間隔になっている。また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
【0039】
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10および後述のダミー液体加圧室に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。すなわち、個別電極35は、圧電アクチュエータユニット21の上面に、第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている。個別電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
【0040】
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。これらの液体吐出孔群7は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。液体吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
【0041】
以上の流路は、液滴の吐出に直接関係する流路であるが、流路部材4には、図では省略してあるダミー液体加圧室が設けられている。ダミー液体加圧室は、液体加圧室10が設けられている台形状の領域の周囲に一列形成されている。ダミー液体加圧室により、液体加圧室10のうちの最も外側にある液体加圧室10の周囲の流路部材4の剛性などが、他の液体加圧室10の状態に近くなるので、液体吐出特性のばらつきを少なくできる。ダミー液体加圧室の形状は液体加圧室と同じであるが、それぞれ孤立しており、他の流路に繋がってはいない。ダミー液体加圧室の配置は、液体加圧室10のマトリクス状の配置を延長するように配置される。
【0042】
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31
である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0043】
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
【0044】
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。
【0045】
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
【0046】
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さであり、圧電アクチュエータユニット21の圧電セラミック層21a、21b、と共通電極34の積層体の厚さは41μm程度である。圧電アクチュエータユニット21は、流路部材4の液体加圧室10の開口している平面状の面に積層されており、圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
【0047】
図6は圧電アクチュエータユニット21の平面図であり、図7は、図6の圧電アクチュエータユニット21の部分縦断面図である。また、図8(a)は、図6の圧電アクチュエータユニット21の共通電極用接続電極およびその周囲の拡大図である。
【0048】
圧電アクチュエータユニット本体21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35、個別電極35の上に形成されているAg−Pd系などの金属材料からなる個別電極用接続電極36、圧電アクチュエータユニット本体21の周縁領域の共通電極34上の圧電セラミック層21bに形成されている貫通孔21c、および貫通孔21c内の共通電極34の上に形成されているAg−Pd系などの金属材料からなる共通電極用接続電極本体37bを有している。より詳細には、貫
通孔21cの開口の底面にある共通電極34の上には、個別電極35のうちで液体加圧室10に対向していないダミー個別電極65が形成されており、その上に共通電極用接続電極本体37bが形成されている。なお、貫通孔21には、貫通孔21を充填するように導体が埋め込まれていてもよいが、共通電極用接続電極本体37bと共通電極34との電気的接続は、上述のように、共通電極用接続電極本体37bあるいはダミー個別電極65が貫通孔21に垂れこんでいる導体を介して行なう構成にすることで、製造工程を簡略化できる。
【0049】
共通電極用接続電極本体37bと共通電極用接続電極本体37bに接続されているダミー個別電極65とで共通電極用接続電極37が構成されている。共通電極用接続電極37の貫通孔21cの周囲の平面形状は、十字形状になっているため、共通電極34との接続の確実性が向上するとともに、圧電アクチュエータユニット21の反りを小さくできる。共通電極用接続電極37の平面形状の詳細については後述する。
【0050】
個別電極35のうち、液体加圧室対向領域80内のものは、液体加圧室10に対向して形成されている。液体加圧室対向領域80の外側は、周縁領域85と呼ばれ、周縁領域85に形成されている個別電極35は、ダミー個別電極65である。ダミー個別電極65のうち、列A、B、Cの個別電極は、その直下がダミー液体加圧室となっている。なお、周縁領域85にダミー個別電極を形成しなくてもかまわない。また、個別電極35は、圧電アクチュエータユニット40の上面における液体加圧室10およびダミー液体加圧室と対向する位置に配置されている個別電極本体35aと、個別電極本体35aから液体加圧室10と重ならない位置まで引き出されている引出電極35bとを含んでおり、個別電極用接続電極36は、変位素子50の変位を小さくしないように、引出電極35b上に形成されている。個別電極35の厚さは、0.3〜1μmである。個別電極用接続電極36および共通電極用接続電極本体37bの厚さは1〜10μmである。共通電極34の厚さは、1〜2μmである。
【0051】
共通電極用接続電極本体37bおよび個別電極用接続電極36上には、図示されていないAgを含有した樹脂でバンプが形成され、バンプはFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合される。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。さらに、圧電アクチュエータユニット21には、個別電極35に形成されていない場所に、ダミー個別電極用接続電極68がマトリックス状に形成されている。ダミー個別電極用接続電極68上にもバンプが形成されてFPCと接続される。このようにすることで、個別電極用接続電極36上のバンプとダミー個別電極用接続電極68上のバンプとで、個別電極用接続電極36上のバンプだけの場合と比較して、よりも配置の間隔が狭いマトリクス状の配置となるので、より安定的な接続になる。
【0052】
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータユニット21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
【0053】
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧
電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
【0054】
本実施形態における圧電アクチュエータユニット21の液体吐出時の駆動方法の一例を、個別電極35に供給される駆動電圧(駆動信号)に関して説明する。個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータユニット21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
【0055】
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0056】
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、液体加圧室10内において圧力波がマニホールド5から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、液体加圧室10内部が負圧状態から正
圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
【0057】
続いて共通電極用接続電極本体37bと共通電極用接続電極本体37bに接続されているダミー個別電極65で構成されている共通電極用接続電極37の形状について、詳細に説明する。圧電アクチュエータユニット21の厚さ(より詳細には表面の電極を除いた圧電セラミック層21aの下面から、圧電セラミック層21bの上面まで)が薄い場合、例えば100μm以下である場合、共通電極用接続電極37bは、個別電極35と比較して
長い平面形状であることにより、反りが発生しやすい。反りの原因は、圧電セラミック層21a、bと共通電極用接続電極37を同時焼成する場合、焼成済みの圧電アクチュエータ素体に共通電極用接続電極37を焼き付けたり、スパッタなどで形成する場合など、いずれの場合にも生じる。反りの原因は、圧電セラミック層21a、bと共通電極用接続電極37との焼成収縮挙動の差、圧電セラミック層21a、bと共通電極用接続電極37との熱膨張係数の差などであり、共通電極用接続電極37を形成する工程に高温での処理がある場合には不可避的に生じる。いずれの場合においても、圧電アクチュエータユニット21の厚さが50μm以下であると、反りはより顕著になるため、本発明の構造が特に有用である。また、共通電極用接続電極37の厚さが、圧電アクチュエータユニット21の厚さの2%以上、特に5%以上ある場合に、反りはより顕著になるため、本発明の構造が特に有用である。
【0058】
図7(a)に示すように、共通電極用接続電極本体37bとダミー個別電極65とで構成される共通電極用接続電極37の貫通孔21cの周囲は、37aで示す範囲において、平面形状が十字形状になっている。ここで十字形状とは、中央から4方向に凸部37a−1〜4が伸びて構成されている形状であり、凸部37a−1〜4の成す角度(凸部が伸びる方向と凸部が伸びる方向との成す角度)はほぼ直角であり、具体的な角度の範囲としては75〜105度である。十字形状は、貫通孔21cと共通電極用接続電極37との位置がずれた際にも電気的接続ができるように設けられたもので、凸部37a−1〜4はさらに延長されていてもかまわないが、少なくとも1つが他に接続されていない状態であるのが好ましい。
【0059】
十字形状の詳細について、さらに図9(a)〜(c)を用いて説明する。各図は、貫通孔521c、621c、721cと、共通電極用接続電極537、637、737とが接続されているものであり、図9(a)は、本発明の構造の1つであり、図9(b)、(c)は、本発明の範囲外の構造である。
【0060】
図9(b)では、貫通孔621cと共通電極用接続電極637がずれても、接続が行われるように、貫通孔621cの周囲が円形状になっている。図9(c)では、貫通孔721cと共通電極用接続電極737がずれても、接続が行われるように、共通電極用接続電極737の太さが太くなっている。このような構造は、ずれが生じた際の接続をだけを考えた場合、接続の確実性は高くなる。その一方、図9(b)、(c)のいずれの場合も、共通電極用接続電極637、737として面積の大きい塊(2次元的な広がり)として存在するため、その部分の圧電アクチュエータユニットの反りが大きくなってしまう。なお、圧電アクチュエータユニットを流路部材4と接合して、液体吐出ヘッド2を作製する場合、まず、接合時に圧電アクチュエータユニットが割れるなどの不具合が生じる。さらに、接合する際に、圧電アクチュエータユニットを変形させて接合することになるため、圧電セラミック層は、歪みが加わった状態で接合されてしまうため、吐出特性をばらつかせることになる。したがって、液体吐出ヘッド用の圧電アクチュエータユニットは、特に反りが少ない必要があり、10μm程度以下、特に5μm以下にすることで、吐出ばらつきを少なくさせることができる。
【0061】
前述の焼成収縮挙動差あるいは熱膨張係数差などに起因する反りでは、共通電極用接続電極の形状により、その影響が大きく変わる。共通電極用接続電極の大きさが、圧電アクチュエータユニットの厚さの5倍×5倍程度であった場合、各材料の物性などにもよるが、共通電極用接続電極の形成されている部分の反りは、圧電アクチュエータユニットの厚さの10%程度に納まる。そして、厚さの5倍の幅で長さを長くした場合も同程度の反りになる。これは、厚さの5倍程度の幅であれば、焼成収縮挙動差あるいは熱膨張係数差は幅方向に反ることでほぼ解消され、長さ方向に蓄積しないからであると考えられる。これと比較して、幅が厚さの7倍以上であると、長さが厚さの5倍程度であれば、反りは10
%程度に納まるが、長さを長くしていくと反りは10%を超えてしまう。したがって、反りを少なくしようとする場合、共通電極用接続電極が2次元的に広がった形状にしない方が好ましい。一方、共通電極用接続電極を単に細長い形状にした場合、幅方向に位置ずれが生じた場合に、断線が生じやすくなってしまう。
【0062】
そこで、図9(a)に示すように、貫通孔521cの周囲の共通電極用接続電極537の形状を十字形状する。このような形状にすることにより、図9における左右方向、上下方向の位置ずれに関しては、図9(b)、(c)で示したものと同じ接続性が保たれるとともに、最も太い部分であっても幅をw以下にできる。例えばwを圧電アクチュエータユニットの5倍にすれば、中央部分の共通電極用接続電極537の2次元的な広がりを円形状の直径で表せば、r=7.07・・・であるので、反りは10%程度に納まる。図9(a)では、斜め方向の位置ずれに関して、図9(b)、(c)よりは、接続性が低くなるが、そのような位置ずれは生じ難い。
【0063】
以上を別の観点から見ると、貫通孔521cの周囲の共通電極用接続電極537の平面形状が所定の直径の円形状になるように、共通電極用接続電極537が4方向から切り欠かれており、残部の形状が十字形状になっているということである。上述の点から言えば、貫通孔521cの周囲の共通電極用接続電極537の平面形状は、内部に導体が詰まった状態になっている領域が厚さの7倍の直径の円以下にすることが好ましい。
【0064】
ここで図9(a)の説明に戻る。ここでは、共通電極用接続電極本体37bの形状は、37aの領域で示されてように十字形状をしているため、共通電極34との接続の確実性が高くなる。また、この十字形状はダミー個別電極65と重なることにより構成されている。そして、ダミー個別電極65が共通電極用接続電極本体37bより薄いため、圧電アクチュエータユニット21の反りはより少なくなる。さらに、ダミー個別電極65は、個別電極35と同時に形成することができるので、工数を増やすことなく形成可能である。またさらに、このような構成にすれば、個別電極35を、共通電極用接続電極本体37bが形成される場所を避けることなく、その部分も含めて、圧電アクチュエータユニットの全面に渡って均一に形成することができるので、共通電極用接続電極本体37bが形成される部分を避けるように、個別電極35を形成した場合と比較して、個別電極35の分布が均一になるため、その点でも圧電アクチュエータユニットの反りを少なくできる。
【0065】
このような共通電極用接続電極37は、圧電アクチュエータユニット21の四隅のいずれか、あるいはすべてに設けることにより、反りの影響がおよぶ変位素子50の数を少なくできる。また、共通電極用接続電極37の長さは、その共通電極用接続電極37が形成されている辺の長さの1/5以下、特に1/7以下にすることで反りの影響がおよぶ変位素子50の数を少なくできる。また、十字形状を複数の部位に設ける場合、独立した配線ではそれらの凸部が伸びる方向は同じ方向にすることが好ましく、並列して接続される配線では、それらの凸部が伸びる方向は45度ずれた方向にすることが好ましい。十字形状にした場合、斜めの方向に位置ずれが生じ際に、接続されない可能性がわずかにあるが、独立した配線では、方向がそろっていることで、接続されない場合が、特定の方向に位置ずれした場合に限定されるため、接続不良が生じ難い。並列して接続される配線では、45度ずれた方向にすることで、一つの貫通孔と共通電極用接続電体とが斜めに位置ずれして接続不良になっても、それと並行した配線の他の貫通孔と共通電極用接続電体とは接続されるので、接続不良が生じ難い。
【0066】
また、共通電極34との接続の確実性を増やすために貫通孔21bの側面は、圧電アクチュエータ21の主面の開口が底面よりも大きくなるように、圧電アクチュエータ21の主面に対して斜めになっていることが好ましいく、傾斜の角度は20〜40度であることが好ましい。これにより、ダミー個別電極65あるいは共通電極用接続電極本体37bが
薄い場合でも、貫通孔21cの圧電アクチュエータ21の主面での開口の縁あるいは垂直に近い貫通孔21の側面の途中で断線が起きにくくできる。
【0067】
図9(b)〜(d)は、本発明の他の実施例に係る共通電極用接続電極237、337、437である。これらはいずれも圧電アクチュエータユニット21に、共通電極用接続電極37と同様に設けることができる。いずれの共通電極用接続電極237、337、437においても貫通孔221c、321c、421cの周囲の共通電極用接続電極237、337、437の平面形状が十字形状であることにより、接続の確実性を高くできるとともに、反りを少なくできる。
【0068】
共通電極用接続電極237は、単一の電極により構成されている。この場合、共通電極用接続電極237の周囲のダミー個別電極65は、共通電極用接続電極237と接続しないように切り欠かれた形状にされたり、配置がずらされたりしている。例えば、共通電極用接続電極237とダミー個別電極65とが反応するような組成のである場合は、単一の電極で構成することが好ましい。
【0069】
共通電極用接続電極337は、単一の電極により構成されている。貫通孔321cは3つ形成されているが、それらは一直線上に配置されていない3つ位以上の貫通孔321cを形成する際には、一直線上に配置せず、貫通孔521cのうちで距離が最も離れている2つの前記貫通孔を結ぶ直線L上に共通電極用接続電極337が形成されていない領域を設けることで、共通電極用接続電極337が一方方向に繋がった長い形状ではなくしている。一方方向に連続した電極でなくなることに、圧電アクチュエータユニットの反りを低減できる。
【0070】
共通電極用接続電極437は、共通電極用接続電極本体437bと共通電極用接続電極本体437bに接続されているダミー個別電極465で構成されている。ダミー個別電極465は、個別電極35と同じ組成で、同程度の厚みで形成される。ダミー個別電極465は、形状および配置が、個別電極35、あるいは共通電極用接続電極本体437bに接続されていないダミー個別電極(図示しないが圧電アクチュエータ21と同様に形成される)と異なっているが、共通電極用接続電極本体437bに接続されているダミー個別電極465がない場合と比較して、圧電アクチュエータ21上の個別電極35およびダミー個別電極の分布が平均化されるため、圧電アクチュエータ21の反りを少なくできる。また、ダミー個別電極465は薄く、また凸部437a−2、4の幅を一定した十字形状にしているため、十字形状にすることによる反りの増加をほとんどなくして、共通電極用接続電極437を十字形状にすることができる。
【0071】
以上のような液体吐出ヘッドは、例えば次のように作製することができる。まず、圧電セラミック層に用いる圧電材料をチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)とし、PZT粉末とバインダと溶剤とを混合してスラリーを作成し、このスラリーから、成形方法としてロールコーター法を用いて、圧電セラミック層21a、bとなるグリーンシートを作製する。
【0072】
圧電セラミック層21aとなるグリーンシートに、共通電極34となるAg−Pdペーストを印刷して乾燥する。圧電セラミック層21aとなるグリーンシートを打ち抜いて、貫通孔21を形成する。これらのグリーンシートを加熱加圧などにより積層し、例えば1020℃の温度で焼成する。焼成後、Auペーストを印刷し、焼成して個別電極35を形成する。さらにAg−Pdペーストを印刷し、焼成して、個別電極用接続電極36と共通電極用接続電極本体37bとを同時に形成する。なお、これらは別々に形成してもよいが、同時に行なうことで製造工程を簡略化できる。このようにして圧電アクチュエータユニット21を作製することができる。
【0073】
グリーンシートを積層する際に、平板状の金型等で圧着すれば、貫通孔21cの形状は形成した際の形状とほぼ同じになる。グリーンシートを積層する際に、静水圧プレスで行えば、貫通孔21cの側面を圧電アクチュエータユニット21の主面に対して斜めにすることができる。
【0074】
静水圧プレスは次のように行なう。まず、2枚のグリーンシートを仮積層したあと、樹脂の袋に入れ袋の中に空気を排出して、真空ラミネートする。真空ラミネートされた2枚のグリーンシートを60〜90℃の水中に入れて25〜75MPaの水圧を1〜2分加える。この際、変形可能な樹脂の袋を通じて加圧されたグリーンシートの積層体は、貫通孔21cの周囲の圧電セラミック層21bとなるグリーンシートが変形し、ビアホール21cの側面が斜めの形状に押しつぶされる。積層の際に斜めになる貫通孔21cの側面の角度は、積層の圧力および樹脂の袋の変形のし易さを変えることにより、調整できる。積層の圧力を高くしたり、樹脂の袋を変形のし易いものにすることで、側面は、よりつぶされて、角度が小さくなる。樹脂の袋を変形し易くするためには、材質を柔らかくしたり、厚さを薄くすればよい。なお、これらの形状は、焼成においても大きな変化はなく、そのまま保たれる。
【0075】
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート22〜31を積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
【0076】
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
【0077】
圧電アクチュエータユニット21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電焼結体や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータユニット21と流路部材4とを加熱接合することができる。このようにして、液体吐出ヘッド2を作製することができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・プリンタ
2・・・液体吐出ヘッド
4・・・流路部材
4a・・・液体吐出孔面
5・・・マニホールド
5a・・・副マニホールド
5b・・・マニホールドの開口
6・・・個別供給流路
8・・・液体吐出孔
9・・・液体加圧室群
10・・・液体加圧室
11a、b、c、d・・・液体加圧室列
12・・・しぼり
13・・・液体吐出ヘッド本体
15a、b、c、d・・・液体吐出孔列
16・・・液体吐出孔開口領域
21・・・圧電アクチュエータユニット
21a・・・圧電セラミック層(振動板)
21b・・・圧電セラミック層
21c、221c、321c、421c・・・貫通孔
22〜31・・・プレート
32・・・個別流路
34・・・共通電極
35・・・個別電極
35a・・・個別電極本体
35b・・・引出電極
36・・・個別電極用接続電極
37、237、337、437・・・共通電極用接続電極
37b、437b・・・共通電極用接続電極本体
37a、237a、437a・・・共通電極用接続電極の十字形状
37a−1〜4、437a−1〜4・・・共通電極用接続電極の十字形状の凸部
50・・・変位素子
65・・・ダミー個別電極
65a・・・共通電極用のダミー個別電極
68・・・ダミー個別電極用接続電極
80・・・液体加圧室対向領域
85・・・周縁領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電セラミック層が積層されている積層体と、該積層体の一方の主面に第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている複数の個別電極と、前記積層体の内部に形成されている前記複数の個別電極に対向している共通電極と、前記一方の主面の周縁領域に形成されており、前記共通電極と電気的に接続されている共通電極用接続電極とを有する液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニットであって、前記共通電極用接続電極は、前記共通電極用接続電極が形成されている前記圧電セラミック層に設けられている貫通孔内の導体を介して前記共通電極に接続されているとともに、前記共通電極用接続電極の前記貫通孔の周囲の平面形状が十字形状であることを特徴とする液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット。
【請求項2】
前記導体を備える前記貫通孔が3つ以上あるとともに、平面視した場合に、前記貫通孔は一直線上でない位置に配置されており、かつ前記共通電極用接続電極は、前記貫通孔のうちで距離が最も離れている2つの前記貫通孔を結ぶ直線上に、前記共通電極用接続電極が形成されていない領域がある平面形状であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット。
【請求項3】
前記共通電極用接続電極は、平面形状の異なる少なくとも2つの電極が重なって形成されており、前記共通電極用接続電極の前記貫通孔の周囲の十字形状の4つの凸部のうち、少なくとも1つの凸部が、前記2つの電極のうち一方のみからなることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット。
【請求項4】
前記2つの電極のうち一方は、前記個別電極の一つであることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニット。
【請求項5】
複数の液体加圧室が開口し、該複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった複数の液体吐出孔を備える流路部材に、前記複数の液体加圧室を覆うように請求項1〜4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用圧電アクチュエータユニットを積層してなることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記圧電アクチュエータユニットを制御する制御部とを備えていることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−201009(P2012−201009A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68187(P2011−68187)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】