説明

液体噴霧用の撥水剤組成物、およびエアゾール型撥水剤製品

【課題】優れた撥水性を有すると共に、微粒子化しにくく、付着性が良好であり、かつ皮革製品に使用しても色抜けや脱脂を抑制できる液体噴霧用の撥水剤組成物、およびエアゾール型撥水剤製品の提供。
【解決手段】(A)成分:両末端がアルコキシ基で封鎖されたポリオルガノシロキサンと、(B)成分:金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物と、(C)成分:炭素数8〜14の脂肪族炭化水素とを含有することを特徴とする液体噴霧用の撥水剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴霧用の撥水剤組成物、およびエアゾール型撥水剤製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維製品や皮革製品等に撥水性を付与するものとして、種々のフッ素系基剤を用いた撥水剤組成物が利用されてきた。このようなフッ素系基剤としては、例えば分子内にパーフルオロ基またはフルオロアルキル基を含有するモノマーの重合物、あるいはこれらモノマーと他のモノマーとの共重合物等が用いられている。
しかし、このような(共)重合物を用いた撥水剤組成物には、希釈用の溶剤として、大気のオゾン層破壊の一因として挙げられるなどの理由によりその使用が制限されている溶剤を使用せざるを得ない、という問題があった。
【0003】
そこで、オゾン層破壊を引き起こしにくい溶剤に溶解するシリコーン系基剤を、撥水基剤として用いた撥水剤組成物の検討が行われている。
シリコーン系基剤を用いた撥水剤組成物としては、アルコール系溶剤を用いた組成物が提案されている。
例えば特許文献1には、特定のブロック共重合体と、低級アルコールと、炭素数8〜15である脂肪族炭化水素とを含有する撥水撥油組成物が開示されている。
特許文献2には、アルコキシシランと、加水分解用触媒と、アルコールと、揮発性溶剤として炭化水素系溶剤とを含有する撥水剤が開示されている。
これら特許文献1、2には、撥水剤組成物の使用方法として、エアゾール缶等に充填してスプレー塗布する方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、特定の有機溶剤可溶性固形シリコーン樹脂および/または有機溶剤可溶性シリコーングラフトアクリル樹脂と、金属アルコキシドと、オルガノポリシロキサンとからなる撥水剤成分に、アルコールを主成分とする有機溶剤と噴射ガスとが配合されたエアゾール型撥水処理剤が開示されている。
特許文献4には、ポリオルガノシロキサンおよび/または特定構造を有するラジカル重合性モノマーと、該ラジカル重合性モノマー以外のラジカル重合性モノマーとを共重合した共重合体と、金属アルコキシドと、低級アルコール等の溶剤と、噴射剤とを含有するエアゾール型の撥水剤組成物が開示されている。
特許文献5には、両末端がアルコキシ基で封鎖されたポリオルガノシロキサンと、金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物と、炭素数3〜6のパラフィン系炭化水素と、炭素数2〜4の一価のアルコールと、噴射剤とを含有するエアゾール型の撥水剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−111228号公報
【特許文献2】特開平11−349931号公報
【特許文献3】特開2000−186279号公報
【特許文献4】特開2007−177232号公報
【特許文献5】特開2008−150498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜5に記載の撥水剤組成物は、皮革製品に使用した場合に色抜けや脱脂が起こることがあった。
また、エアゾール型の撥水剤組成物のように噴霧タイプの撥水剤組成物は、手を汚さずに使用できるなど使用方法が簡易である一方で、スプレーする際に撥水剤組成物が微粒子化しやすかった。通常、撥水剤組成物をスプレーすると粒子径が20〜700μm程度の霧状になり、対象物に均一に塗布することができる。しかし、撥水剤組成物がこれよりも細かくなると、すなわち、例えば粒子径が10μm以下程度に微粒子化すると、使用者などが微粒子を吸引することがあった。
加えて、撥水剤組成物が微粒子化すると、空気中に漂いやすくなる傾向にあるため、対象物に何度もスプレーしてしまいやすい。その結果、スプレーにムラができ、撥水基剤が過剰に付着した部分が他の部分に比べて色が濃く変色する、いわゆるシミの原因にもなりやすかった。
【0007】
さらに、撥水剤組成物にはより一層の撥水性が求められているが、噴霧タイプの撥水剤組成物は、刷毛塗りや浸漬等によって塗布するタイプの撥水剤組成物に比べて付着性が不十分である場合が多く、必ずしも撥水性を満足するものではなかった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、優れた撥水性を有すると共に、微粒子化しにくく、付着性が良好であり、かつ皮革製品に使用しても色抜けや脱脂を抑制できる液体噴霧用の撥水剤組成物、およびエアゾール型撥水剤製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、皮革製品の色抜けや脱脂の原因が、撥水剤組成物に含まれるアルコール系溶剤であることを突き止めた。アルコール系溶剤は皮革製品に付着すると皮革製品に処理されている染料や油分を溶出させやすいため、アルコール系溶剤を拭き取る際に、色が抜けたりツヤがなくなったりすることが明らかとなった。
しかし、アルコール系溶剤以外の溶剤をアルコール系溶剤の代替品として単に用いるだけでは、皮革製品の色抜けや脱脂を抑制することはできても、スプレーした際に撥水剤組成物が微粒子化したり、付着率が低下したりする問題を解決するには至らなかった。
本発明者らは、撥水剤組成物の微粒子化や付着率の低下についてさらに検討した結果、溶剤の気化速度や、噴射剤を配合させエアゾール型として使用する場合には噴射剤と溶剤との相溶性が原因であることを突き止めた。
そこで、溶剤として特定の脂肪族炭化水素を用いることで、撥水剤組成物が微粒子化しにくく、付着性が良好であり、かつ皮革製品に使用しても色抜けや脱脂を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の液体噴霧用の撥水剤組成物は、(A)成分:両末端がアルコキシ基で封鎖されたポリオルガノシロキサンと、(B)成分:金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物と、(C)成分:炭素数8〜14の脂肪族炭化水素とを含有することを特徴とする。
また、前記(C)成分が、炭素数8〜12の脂肪族炭化水素であることが好ましい。
また、本発明のエアゾール型撥水剤製品は、前記液体噴霧用の撥水剤組成物をエアゾールスプレー容器に充填してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた撥水性を有すると共に、微粒子化しにくく、付着性が良好であり、かつ皮革製品に使用しても色抜けや脱脂を抑制できる液体噴霧用の撥水剤組成物、およびエアゾール型撥水剤製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の液体噴霧用の撥水剤組成物(以下、単に「撥水剤組成物」という。)は、以下に示す(A)〜(C)成分を含有する。
【0013】
<(A)成分および(B)成分>
(A)成分および(B)成分はシリコーン系の撥水基剤として用いられ、撥水性を発現する成分である。
(A)成分は、両末端がアルコキシ基で封鎖されたポリオルガノシロキサンである。
(A)成分としては、例えば下記一般式(I)で表されるポリオルガノシロキサンを好適に用いることができる。
(3−n)SiO−[SiRO]−SiR(3−n)・・・(I)
【0014】
式(I)中、R〜Rは同一でも異種でもよい1価の炭化水素基または置換炭化水素基であり、Xはアルコキシ基である。また、mは式(I)の化合物の25℃における粘度が5〜1000mPa・sとなる値であり、nは0〜2の整数である。
【0015】
1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等の直鎖状または分岐鎖状アルキル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、β−フェニルエチル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基などが挙げられる。
1価の置換炭化水素基としては、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等のフルオロアルキル基、γ−アミノプロピル基、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基等のアミノアルキル基などが挙げられる。
これらの中でもR〜Rとしては、良好な撥水性を示す撥水剤組成物が得られやすいことから、いずれも直鎖状または分岐鎖状アルキル基、アリール基が好ましく、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0016】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
特に、Xがメトキシ基であると、撥水性皮膜の形成速度が速い撥水剤組成物が得られやすく好ましい。
【0017】
式(I)で表されるポリオルガノシロキサンとしては、具体的に式(I)中のnの値により決定されるアルコキシ基の数により、両末端モノアルコキシ封鎖ポリオルガノシロキサン(n=2)、両末端ジアルコキシ封鎖ポリオルガノシロキサン(n=1)、両末端トリアルコキシ封鎖ポリオルガノシロキサン(n=0)が挙げられる。
これらは一種単独で使用してもよいし、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0018】
また、式(I)中、mの値は、式(I)の化合物の25℃における粘度が5〜1000mPa・sとなる値であるが、後述する(C)成分への溶解性が良好であると共に、撥水剤組成物からなる撥水性皮膜の特性が良好なことから、25℃における粘度は5〜500mPa・sが好ましく、より好ましくは5〜200mPa・sである。
ポリオルガノシロキサンの粘度は、JIS Z 8803に準拠して測定される値であり、例えば単一円筒形回転粘度計を用いて測定できる。
【0019】
(A)成分は、公知の方法により製造することができ、例えばジメチルジクロロシランを水およびメタノール中で加水分解、アルコキシ化する方法、両末端水酸基封鎖ポリオルガノシロキサンを酸またはアルカリの存在下で、メチルトリメトキシランにてジアルコキシ化する方法などが挙げられる。
【0020】
(B)成分は、金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物である。
金属アルコキシドは、金属原子にアルコキシ基が結合した化合物であり、例えばチタンアルコキシド、シリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドなどが挙げられ、これらの部分加水分解縮合物も(B)成分として使用することができる。アルコキシ基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、その炭素数は好ましくは1〜10、より好ましくは3〜8である。
【0021】
このような金属アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ(n−ブトキシ)チタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタン等のチタンアルコキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のシリコンアルコキシド、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム等のアルミニウムアルコキシド、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等のジルコニウムアルコキシドなどが挙げられる。
これらの中でもチタンアルコキシドが好ましく、さらに撥水性皮膜の硬化性、撥水剤組成物の保存安定性が良好なことから、特にテトライソプロポキシチタン、テトラ(n−ブトキシ)チタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタンが好ましい。
これらチタンアルコキシドは、日本曹達株式会社製の「A−1」、「B−1」、「TOT」;三菱ガス化学株式会社製の「テトラn−ブチルチタネート(TBT)」;松本製薬工業株式会社製の「オルガチックスTA−10」、「オルガチックスTA−25」として入手することができる。
【0022】
上述した(A)成分と(B)成分とを撥水基剤として使用すると、特に(A)成分として、ポリオルガノシロキサンのうち両末端がアルコキシ基で封鎖されたものを選択しているために、(B)成分と併用することによる相乗効果が発現し、優れた撥水性が得られると推測される。
すなわち、(B)成分の金属アルコキシドまたはその部分加水分解縮合物は、空気中の水分の影響により加水分解されてアルコールを放出し、対象物上に硬化皮膜を形成するが、同時に、反応性基を有するポリマーに対しては架橋反応触媒として作用する。このため、反応性基であるアルコキシ基を両末端に有するポリオルガノシロキサン(A)が(B)成分とともに存在すると、この両末端の部分が架橋反応に関与する。その結果、形成される撥水性皮膜は対象物に対して、より浸透、固定化されるものとなり、優れた撥水性が得られるものと考えられる。
【0023】
(A)成分の含有量は、撥水剤組成物100質量%中、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜8質量%であり、特に好ましくは1.5〜6質量%である。(A)成分の含有量が0.01質量%以上であれば、十分な厚さの撥水性皮膜を形成でき、撥水性がより向上する。一方、(A)成分の含有量が10質量%以下であれば、対象物、特に皮革製品に使用した場合に、皮革等の製品の風合いが損なわれにくい。
【0024】
(B)成分の含有量は、撥水剤組成物100質量%中、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜8質量%であり、特に好ましくは1.5〜5質量%である。(B)成分の含有量が0.01質量%以上であれば、硬化性が良好な撥水性皮膜を形成でき、撥水性がより向上する。一方、(B)成分の含有量が10質量%以下であれば、撥水剤組成物の保存安定性が向上する。
【0025】
また、(A)成分と(B)成分との質量比には特に制限はないが、好ましくは(A)成分/(B)成分=95/5〜40/60である。(A)成分の比率が95を超える場合、すなわち(B)成分の比率が5未満である場合は、上述した架橋反応触媒としての効果に劣るため、十分な皮膜形成が行われなくなる可能性がある。一方、(A)成分の比率が40未満の場合、すなわち(B)成分の比率が60を超える場合は、架橋反応触媒としての効果は十分ではあるものの、その皮膜は比較的もろいものとなる。よって、いずれの場合も良好な撥水性が得られなくなる可能性がある。
【0026】
<(C)成分>
(C)成分は、炭素数8〜14の脂肪族炭化水素であり、上述した(A)成分と(B)成分を溶解する溶剤として使用される。
脂肪族炭化水素の炭素数が8以上であれば、気化速度が必要以上に速くなりにくく、スプレーした際に付着性に優れる撥水剤組成物が得られる。一方、脂肪族炭化水素の炭素数が14以下であれば、スプレー容器の内圧が必要以上に高くなりにくいため、撥水剤組成物をスプレーした際に微粒子化するのを抑制できると共に、乾燥性にも優れる。
脂肪族炭化水素の炭素数は8〜12が好ましく、微粒子化を効果的に抑制し、付着性にも優れる点で10〜12がより好ましい。特に、炭素数が10以上であれば付着性がより向上し、炭素数が12以下であれば微粒子化がより抑制される。
【0027】
なお、本発明の撥水剤組成物をエアゾール型として使用する場合は、撥水剤組成物に後述する噴射剤を含有させるが、脂肪族炭化水素は炭素数が大きいほど後述する噴射剤(特に液化石油ガス)との相溶性が悪くなる傾向にある。相溶性が悪いと撥水剤組成物の内圧が高くなり、その結果、スプレーボタンの孔に対する力(圧力)が過剰となるため、撥水剤組成物が微粒子化しやすくなる。一方、脂肪族炭化水素は炭素数が小さいほど噴射剤との相溶性に優れる傾向にある。ただし、相溶性がよすぎると撥水剤組成物の内圧が下がりやすくなり、その結果、スプレーボタンの孔に対する力(圧力)が不足するため、スプレーした際に付着率が低下する。脂肪族炭化水素の炭素数が上記範囲内であれば、噴射剤との相溶性を適度に維持でき、微粒子化しにくく、付着性が良好で、エアゾール型として最適な撥水剤組成物が得られる。
【0028】
炭素数8〜14の脂肪族炭化水素は、飽和であってもよく不飽和であってもよいが、飽和が好ましい。このような脂肪族炭化水素としては、例えばn−オクタン、イソオクタン、ノナン、イソノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカンなどが挙げられる。
【0029】
(C)成分の含有量は、撥水剤組成物100質量%中、70〜99.98質量%が好ましく、より好ましくは80〜99.9質量%である。(C)成分の含有量上記範囲内であれば、撥水剤組成物の保存安定性が向上する。
【0030】
また、(C)成分と、上述した(A)成分および(B)成分の質量比は、(C)成分/{(A)成分+(B)成分}=99/1〜85/15が好ましく、より好ましくは97/3〜90/10であり、特に好ましくは95/5〜90/10である。(C)成分の比率が99以下、すなわち(A)成分および(B)成分の合計の比率が1以上であれば、優れた撥水性を発揮できる。一方、(C)成分の比率が85以上、すなわち(A)成分および(B)成分の合計の比率が15以下であれば、対象物、特に皮革製品に使用した場合に、皮革等の製品の風合いが損なわれにくい。
【0031】
<任意成分>
本発明の撥水剤組成物は、上述した(A)〜(C)成分の他に、任意成分を含有してもよい。例えば撥水剤組成物がエアゾール型の撥水剤組成物である場合には、通常、噴射剤(以下、「(D)成分」という。)を配合させる。
なお、本明細書では、(D)成分を含有する撥水剤組成物を「エアゾール型撥水剤組成物」と称する。
【0032】
(D)成分としては、例えば液化石油ガス、ジメチルエーテル、液化炭酸ガス、液化窒素ガス等が挙げられる。これらの中でも、上述した(C)成分との相溶性を調整しやすく、微粒子化しにくく、付着性が良好なエアゾール型撥水剤組成物が得られやすい点で、液化石油ガスが好ましい。
また、これらは一種単独で使用してもよいし、二種以上の混合物として使用することもできる。ただし、(D)成分として液化炭酸ガスを用いた場合、(A)〜(C)成分の組み合わせによっては、エアゾール型撥水剤組成物の保存中に(A)成分や(B)成分が析出し、スプレーする際にエアゾールスプレー容器のバルブが閉塞することがある。よって、(D)成分としては液化石油ガスを単独で使用するのが特に好ましい。
【0033】
エアゾール型撥水剤組成物の場合、(A)〜(C)成分の含有量の合計は、エアゾール型撥水剤組成物100質量%中、80〜90質量%が好ましい。
一方、(D)成分として液化石油ガスを用いる場合、その配合量(含有量)は、エアゾール型撥水剤組成物100質量%中、10〜20質量%が好ましい。液化石油ガスの含有量が10質量%以上であれば、スプレー容器の内圧がスプレーするのに十分な圧力となるため、スプレーした際に付着性に優れるエアゾール型撥水剤組成物が得られる。一方、液化石油ガスの含有量が20質量%以下であれば、スプレー容器の内圧がスプレーボタンの孔にかかる圧力に対して過剰になるのを抑制できるので、エアゾール型撥水剤組成物をスプレーした際に微粒子化するのを抑制できる。
また、液化石油ガスを(A)〜(C)成分に配合する際は、ガス圧が0.2〜0.59MPaとなるように配合するのが好ましく、より好ましくは0.39〜0.49MPaである。ガス圧が0.2MPa以上であれば、容器に充填されたエアゾール型撥水剤組成物が噴射しなくなるまでスプレーしたときに、容器内に残存するエアゾール型撥水剤組成物の量(噴射残量)を低減できる。一方、ガス圧が0.59MPa以下であれば、エアゾール型撥水剤組成物をスプレーした際に微粒子化するのを抑制できる。
液化石油ガスのガス圧は、液化石油ガスの主成分であるプロパンやブタンの量を調節することで制御できる。
【0034】
(D)成分以外の任意成分としては、例えばシリコーン化合物、香料等が挙げられる。
シリコーン化合物としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、環状シリコーン、高級脂肪酸変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、フッ素変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、及びアミノ変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン化合物は、撥水剤組成物の撥水性をより向上させたり、繊維製品や皮革製品など対象物の風合いを改善したりできる。
香料としては、フローラル系香料、シトラス系香料、ムスク系香料、ミント系香料等が挙げられる。
【0035】
<製品形態および対象物>
本発明の撥水剤組成物は、液体噴霧型であり、適当な容器に充填され、対象物に吹き付けて使用される。特に、使用性の点で、エアゾール型撥水剤組成物をエアゾールスプレー容器に充填して、エアゾール型撥水剤製品として使用するのが好ましい。
エアゾール型撥水剤組成物を充填するエアゾールスプレー容器としては、例えば特開平9−3441号公報、特開平9−58765号公報等に記載されているものが挙げられる。
【0036】
また、本発明の撥水剤組成物は、エアゾールスプレー容器以外の容器、例えばトリガースプレー容器(直圧あるいは蓄圧型)、フィンガースプレー容器、ディスペンサータイプのポンプスプレー容器などに充填して使用することもできる。
トリガースプレー容器としては、例えば特開平9−268473号公報、特開平9−256272号公報、特開平10−76196号公報に記載されているものが挙げられる。 ポンプスプレー容器としては、例えば、特開平9−256272号公報等に記載されているものが挙げられる。
【0037】
本発明の撥水剤組成物が使用される対象物としては、衣類、傘、壁紙、カーテンやソファの布製家具の繊維製品、皮革等の軟表面を有する製品等が挙げられる。また、本発明の撥水剤組成物によれば、特に皮革製品に対して使用した際に、色抜けや脱脂を抑制するこができる。
【0038】
以上説明した本発明の撥水剤組成物は、(A)成分と(B)成分とを併用することで、優れた撥水性を有する。
また、本発明の撥水剤組成物は、溶剤として(C)成分を含有するので、アルコール系溶剤を用いる必要がなく、皮革製品に対して使用した際に、色抜けや脱脂を抑制できる。なお、本発明の撥水剤組成物はアルコール系溶剤を含有しないのが好ましいが、任意成分としてアルコール系溶剤を含有してもよい。アルコール系溶剤としては、例えばエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどが挙げられる。アルコール系溶剤を含有する場合、その含有量は、色抜けや脱脂の抑制効果を損なわない程度の量とする。具体的には、撥水剤組成物100質量%中、10質量%以下が好ましい。
【0039】
ところで、上述したように、皮革製品に対して使用した際に、色抜けや脱脂を抑制することだけを考慮すれば、アルコール系溶剤以外の溶剤を用いればよい。しかし、アルコール系溶剤以外の溶剤を代替品として単に用いるだけでは、撥水剤組成物をスプレーした際に微粒子化したり、付着性が低下したりする問題を解決することはできない。
本発明は、溶剤として(C)成分、すなわち炭素数を規定した脂肪族炭化水素を用いるので、スプレーした際に微粒子化しにくく、付着性が良好な撥水剤組成物が得られる。加えて、本発明の撥水剤組成物は微粒子化しにくいので、撥水基剤がスプレーした部分に過剰に存在することなく、均一にスプレーできるので、シミになりにくい。さらに、本発明の撥水剤組成物は付着性が良好であるため、十分な撥水性を発現できる。
また、(C)成分は、噴射剤との相溶性を適度に維持できるので、本発明の撥水剤組成物をエアゾール型として用いる場合に、特に好適である。
【0040】
なお、アルコール系溶剤を含む従来の撥水剤組成物は、ヌメ革のような表面処理(撥水処理)していない皮革製品に対しては撥水性を付与することは可能であるが、革靴のように表面処理された皮革製品に対しては、アルコール系溶剤によって表面処理が失われ、撥水性を低下させる場合があった。
しかし、本発明の撥水剤組成物であれば、表面処理された皮革製品に対しても、優れた撥水性を発現できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、特に断りがない限り「%」は「質量%」を示す。
【0042】
[使用原料]
(A)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・A−1:上記式(I)で示される両末端ジメトキシ基封鎖ポリオルガノシロキサン(式(I)中、R〜Rがいずれもメチル基、Xがメトキシ基、nが1であり、25℃における粘度が84mPa・sである。)
・a−1:メチルポリシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、「TSF451-100A」)
【0043】
A−1は、以下のようにして調製した。
冷却管、温度計、滴下ロート、攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、粘度70mPa・sの両末端水酸基封鎖ポリオルガノシロキサン1600g、およびメチルトリメトキシシラン153gを入れ、攪拌行いながら90℃まで昇温した。ついで、27%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を有効成分で5ppm添加し、90℃で5時間反応を行った。反応終了後、温度を140℃まで上げ、減圧下で未反応のメチルトリメトキシシランおよび反応により生成したメタノールを留去して、粘度84mPa・s(25℃)で無色透明の両末端ジメトキシ基封鎖ポリオルガノシロキサン1700gを得た。
なお、各ポリオルガノシロキサンの粘度は、JIS Z 8803に準拠し、単一円筒形回転粘度計を用いて測定した。
【0044】
(B)成分、および(A)成分と(B)成分の混合物として、以下に示す化合物等を用いた。
・B−1:テトラブトキシチタン(日本曹達株式会社製)
・AB−1:A−1とB−1の混合物(A−1:B−1=6:4(質量比))
・aB−1:a−1とB−1の混合物(a−1:B−1=6:4(質量比))
【0045】
(C)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・C−1:オクタン(東京化成工業株式会社製、炭素数=8)
・C−2:ノナン(東京化成工業株式会社製、炭素数=9)
・C−3:デカン(東京化成工業株式会社製、炭素数=10)
・C−4:ドデカン(東京化成工業株式会社製、炭素数=12)
・C−5:テトラデカン(東京化成工業株式会社製、炭素数=14)
・C−6:ヘプタン(東京化成工業株式会社製、炭素数=7)
・C−7:ヘキサデカン(東京化成工業株式会社製、炭素数=16)
・C−8:イソプロピルアルコール(三洋化成品株式会社製、純度=99.9%)
【0046】
(D)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・D−1:液化石油ガス(ガス圧=0.20MPa)
・D−2:液化石油ガス(ガス圧=0.39MPa)
・D−3:液化石油ガス(ガス圧=0.59MPa)
【0047】
[実施例1〜15および比較例1〜6]
500mLビーカーに、表1、2に示す配合組成に従って(D)成分以外の各成分を入れて混合し、撥水剤組成物原液を調製した。
ついで、得られた撥水剤組成物原液と(D)成分とを表1、2に示す配合組成になるように、常法に準じて下記仕様のエアゾールスプレー容器に50g充填し、エアゾール型撥水剤組成物を得た。
得られたエアゾール型撥水剤組成物について、下記の評価を行った。結果を表1、2に示す。
なお、表1、2中の配合量の単位は%であり、いずれの成分も純分換算量を示す。
【0048】
<エアゾールスプレー容器の仕様>
・缶:AL35φ×110D TPL−419コート(商品名、武内プレス工業株式会社製)
・バルブ:S13−A74HG7183ALPS''26''×69R(商品名、株式会社三谷バルブ製)
・ボタン:D390W03330N''3''−A(商品名、株式会社三谷バルブ製)
【0049】
<評価方法>
(1)撥水性の評価
市販の革靴を5×5cmにカットしたものを試験片として用いた。該試験片の全体に、エアゾール型撥水剤組成物0.3gを均一にスプレーした。1分間後、溶剤の不揮発分をティッシュペーパーで拭き取った後、温度20℃、湿度50RH%の条件下で1日放置して乾燥させたものを撥水処理済み試験片として、次の評価に供した。撥水性の評価は、JIS L−1092 はっ水度試験(スプレー試験)を参考にし、以下のようにして行った。
すなわち、撥水処理済み試験片を水平面に対し45度の角度で保持台に設置し、そこへ撥水処理済み試験片の中心から上方15cmの高さから、ビュレットを用いて水1.5mLを撥水処理済み試験片へ滴下した。このときの撥水処理済み試験片の状態を目視にて観察し、下記基準にて撥水性を評価した。なお、◎、○、△を合格とする。
◎:撥水処理済み試験片へ水滴が全く付着せず、水滴が勢いよく落下した。
○:撥水処理済み試験片へ水滴が全く付着せず、水滴が落下した。
△:撥水処理済み試験片へ水滴が僅かに付着したが、水滴が落下した。
×:撥水処理済み試験片へ水滴がかなり付着し、水滴が落下しにくかった。
【0050】
(2)微粒子化の評価
エアゾール型撥水剤組成物が充填されたエアゾールスプレー容器を25℃の恒温槽中で2時間放置し、これを試験用サンプルとした。その後、試験用サンプルを恒温槽から取り出し、レーザ光散乱方式粒度分布測定装置(Malvern社製、「Mastersizer S」)の直径300mmの検出器レンズから30cmの距離となる位置に静置した。ついで、試験用サンプルを検出器レンズから15cmの距離に移動させ、レーザーを垂直に通過するようにエアゾール型撥水剤組成物をスプレーし、ロジン−ラムラー式に基づき粒度分布を算出し、粒子径が10μm以下の微粒子の存在率を求め、下記基準にて微粒子化を評価した。なお、◎、○、△を合格とする。
◎:微粒子の存在率が0.4%未満。
○:微粒子の存在率が0.4%以上、0.5%未満。
△:微粒子の存在率が0.5%以上、0.6%未満。
×:微粒子の存在率が0.6%以上。
【0051】
(3)付着性の評価
(2)微粒子の存在率の測定にて得た試験用サンプルを水平に置き、該試験用サンプルから20cmの距離となる位置に垂直に立てた濾紙(30×30cm)に向けて、エアゾール型撥水剤組成物を5秒間スプレーし、スプレー前後の濾紙と試験用サンプルの質量を測定し、下記式(1)より付着率(%)を求めた。なお、式(1)中、Pはスプレー前の濾紙の質量(g)、Pはスプレー後の濾紙の質量(g)、Sはスプレー前の試験用サンプルの質量(g)、Sはスプレー後の試験用サンプルの質量(g)である。
付着率(%)=(P−P)/(S−S)×100 ・・・(1)
【0052】
求めた付着率の値より、下記基準にて付着性を評価した。なお、◎、○、△を合格とする。
◎:付着率が80%以上。
○:付着率が70%以上、80%未満。
△:付着率が60%以上、70%未満。
×:付着率が60%未満。
【0053】
(4)色抜け・脱脂の評価
市販の革靴を5×5cmにカットしたものを試験片として用いた。該試験片の全体に、エアゾール型撥水剤組成物0.3gを均一にスプレーした。1分間後、溶剤の不揮発分をティッシュペーパーで拭き取った。このときの試験片の状態を目視にて観察し、下記基準にて色抜け・脱脂を評価した。なお、○、△を合格とする。
○:色抜けおよび脱脂が確認されない。
△:色抜けおよび/または脱脂が僅かに確認された。
×:色抜けおよび/または脱脂が確認された。
【0054】
(5)噴射残量の評価
(2)微粒子の存在率の測定にて得た試験用サンプルを水平な状態で、内容物が噴射しなくなるまで振とうしながらスプレーした。スプレー後の試験用サンプル(容器)の質量を測定した。
ついで、容器を開封し、風乾させた後の容器の質量を測定し、下記式(2)より噴射残量(g)を求めた。なお、式(2)中、Sは開封前の試験用サンプル(容器)の質量(g)、Sは開封し、風乾させた後の試験用サンプル(容器)の質量(g)である。
噴射残量(g)=S−S ・・・(2)
【0055】
求めた噴射残量の値より、下記基準にて評価した。なお、◎、○、△を合格とする。
◎:噴射残量が1g未満。
○:噴射残量が1g以上、2g未満。
△:噴射残量が2g以上、3g未満。
×:噴射残量が3g以上。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1から明らかなように、各実施例で得られたエアゾール型撥水剤組成物は、優れた撥水性を有していた。また、スプレーした際に微粒子化しにくく、かつ付着性が良好であった。さらに、皮革製品にスプレーしたときの色抜けや脱脂を抑制できた。特に、アルコール(C−8)を含有しない実施例1〜14では、色抜けや脱脂の抑制効果が顕著であった。
【0059】
一方、表2から明らかなように、(B)成分を含有しない比較例1、および撥水基剤としてメチルポリシロキサン(a−1)を用いた比較例2では、撥水性が得られなかった。
溶剤としてイソプロピルアルコール(C−8)を用いた比較例3では、撥水性が得られなかった。また、皮革製品にスプレーしたときに色抜けや脱脂が起こった。
溶剤として炭素数7のヘプタン(C−6)とイソプロピルアルコール(C−8)を併用した比較例4では、撥水性が得られず、スプレーした際の付着性に劣っていた。また、皮革製品にスプレーしたときに色抜けや脱脂が起こった。
溶剤として炭素数7のヘプタン(C−6)を用いた比較例5では、スプレーした際の付着性に劣っていた。
溶剤として炭素数16のヘキサデカン(C−7)を用いた比較例6では、スプレーした際に撥水剤組成物が微粒子化しやすかった。
なお、本実施例および比較例においては、スプレー対象物として撥水性の評価では「革靴」を、付着性の評価では「濾紙」を用いており、スプレー対象物の材質がそれぞれ異なる。従って、一概に撥水性の評価結果と付着性の評価結果を関連付けることはできない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:両末端がアルコキシ基で封鎖されたポリオルガノシロキサンと、(B)成分:金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物と、(C)成分:炭素数8〜14の脂肪族炭化水素とを含有することを特徴とする液体噴霧用の撥水剤組成物。
【請求項2】
前記(C)成分が、炭素数8〜12の脂肪族炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴霧用の撥水剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体噴霧用の撥水剤組成物をエアゾールスプレー容器に充填してなることを特徴とするエアゾール型撥水剤製品。