説明

液体型光学素子

【課題】光学性能の変化速度の向上と光学性能の調整精度向上を両立させることができる液体型光学素子を提供すること。
【解決手段】液体型光学素子101は、液体の充填された少なくとも1つの空間106、107を持つ収容部を有し、空間内の液体の量を変化させて空間を画する境界部を形状変化又は移動させることによって、光学性能を変化させる。液体型光学素子101は、空間に連通して空間内の液体108、109の量を変化させるための第1の調整手段と、空間に連通して第1の調整手段よりも小さい変化率で空間内の液体108、109の量を変化させるための第2の調整手段とを含む液量調整部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一のレンズにおいて焦点距離を変化させることが可能な可変焦点レンズや、光の屈折方向を変化させることが可能な可変頂角プリズム等の、光学性能を変化させることが可能な液体型光学素子に関する。特に、光学性能を粗微調するための液量調整機構を備える液体型光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来のガラスや樹脂材料で作製したレンズに代わって、液体収容部の内部を液体で充填し、液量を調整することで光学性能を変化させる液体型光学素子が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、透明弾性体で囲われた空間を液体で充填し、空間内の液量を調整することで透明弾性体の曲率を変化させ、焦点距離を変化させる可変焦点レンズが開示されている。こうした可変焦点レンズをズームレンズシステムに用いると、レンズ自体の焦点距離を変化させられるため、レンズの一部を移動させる必要がなくなり、レンズシステムの全体長を短くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-14909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き液体型光学素子において、光学性能の変化速度を速くするためには、その液体収容部に対して流出入する液体の変化量を短時間に大きく変化させなければならない。他方、液体型光学素子の光学性能を精度良く調整するためには、液体の変化量を小さくしなければならない。そのため、光学性能の変化速度の向上と光学性能の調整精度向上とは相反することであり、両立させることに課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明の液体型光学素子は次の特徴を有する。即ち、液体型光学素子は、液体の充填された少なくとも1つの空間を持つ収容部を有し、空間内の液体の量を変化させて空間を画する境界部を形状変化又は移動させることによって、光学性能を変化させることができる。更に、前記空間に連通して空間内の液体の量を変化させるための第1の調整手段と、前記空間に連通して第1の調整手段よりも小さい変化率で空間内の液体の量を変化させるための第2の調整手段とを少なくとも含む液量調整部を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液体型光学素子によれば、異なる変化率(単位時間あたりの液体の変化量)で空間内の液体の量を変化させることが可能な複数種の調整手段を備えるので、光学性能の変化速度の向上と光学性能の調整精度向上を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の液体型光学素子の実施例1の構成を説明する図。
【図2】実施例1の複数の調整手段を説明する図。
【図3】実施例1の動作を説明する図。
【図4】実施例1の別形態の構成を説明する図。
【図5】本発明の液体型光学素子の実施例2の構成を説明する図。
【図6】実施例2の複数の調整手段を説明する図。
【図7】本発明の液体型光学素子の実施例3の構成を説明する図。
【図8】実施例3の動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の液体型光学素子は、光学性能の変化速度の向上と光学性能の調整精度向上を容易且つ確実に両立させるために、大小の異なる変化率で液体収容部の空間内の液体の量を変化させることが可能な複数種の調整手段を備えることを特徴とする。この考え方に基づいて、本発明の液体型光学素子は、課題を解決するための手段の所で述べた様な基本的な構成を有する。この基本構成に基づいて、種々の実施形態が可能である。
【0009】
液体収容部内には、1つ或いは2つ以上の空間を設け、そこに1種類或いは2種類以上の液体を充填することができる。空間を画する境界部は、収容部の外壁部のみで構成することもできるし、外壁部と収容部内に設けた弾性膜の様な隔壁部とで構成することもできる。また、境界部は、互いに混じり合わない複数種の液体が接する面(ここには弾性膜の如き他の材料部を設けない)で構成することもできる。空間内の液体の量を変化させるとき、空間を画する収容部の外壁部の少なくとも一部又は収容部内の隔壁部の少なくとも一部又は複数種の液体の接触面は、形状変化或いは移動できる様になっていて、光学素子の光学性能を変化させる。液量調整部を構成する後述の第1及び第2の調整手段などの複数種の調整手段は、空間に連通していて、そこの液体の量を大きい或いは小さい変化率で調整できれば、どの様なものでも良い。例えば、複数の空間に複数種の調整手段を夫々繋げる場合、複数の空間に繋げた調整手段は必ずしも連動していなくてもよいが、後述の実施例1の様に収容部全体の容積が不変である場合は、自動的に連動する構造にすると制御が容易且つ確実になって好ましい。空間内に充填する液体は、典型的には透明液体であるが、光学素子の用途(例えば、光減衰量可変なアッテネータなど)によっては、半透明液体などの非透明な液体を用いることも可能である。
【0010】
以下、図を用いて本発明のより具体的な実施例を説明するが、本発明の範囲は以下の構成には限定されない。
(実施例1)
本発明に係る実施例1の構成について図1を用いて説明する。本実施例は、焦点距離を変化可能な液体型光学素子である可変焦点レンズ101に関する。本実施例では、液体を収容する収容部は、枠体102とガラス103、104により構成される。また、円筒形状の枠体102の内部を封止する様に、枠体102の両端にガラス103、104が取付けられている。更に、封止空間を分割する様に、枠体102の内部にシリコーンゴム等で構成される伸縮可能な透明弾性膜105が設けられている。これにより、収容部内は第1空間106と第2空間107とに分割される。第1空間106と第2空間107には、夫々、屈折率等の光学特性が異なる水や油、シリコンオイルなどの透明な液体が充填される。本実施例では、第1空間106には第1透明液体108が充填され、第2空間107には第2透明液体109が充填されている。この様に、第1空間106は、収容部の外壁部である枠体102とガラス103及び収容部内の隔壁部である透明弾性膜105で画され、第2空間107は、枠体102とガラス104及び透明弾性膜105で画される。透明弾性膜105の縁部は必ずしも外壁部である枠体102に固定する必要はないが、変形動作をより安定的にするために固定してもよい。
【0011】
使用する透明弾性膜105と第1透明液体108、第2透明液体109の密度が揃っていないと、可変焦点レンズ101を使用する姿勢差による重力の影響を受け、光軸のずれを生じさせる等の問題が発生する恐れがある。そこで、透明弾性膜105と第1透明液体108、第2透明液体109の密度をほぼ揃えておくことで、重力の影響を抑えることが可能となり好ましい。更には、透明弾性膜105と第1透明液体108、第2透明液体109の熱膨張係数もほぼ揃えておくことで、温度変化による可変焦点レンズ101の体積膨張に伴う密度変化も抑えることができて好ましい。
【0012】
枠体102と透明弾性膜105で形成された第1空間106には、第1透明液体108の量を調整するために流路110が連通して設けられる。同様に、第2空間107には第2透明液体109の量を調整するために流路111が連通して設けられる。流路110、111は、シリンダ112とピストン113、ピストン113を駆動する駆動手段で構成される液量調整部114に互いに反対側から接続される。シリンダ112内をピストン113が移動することにより、収容部内の第1透明液体108、第2透明液体109の液量が調整され、夫々の液量の比率によって、透明弾性膜105の形状が変化することになる。透明弾性膜105が変形しても、第1空間106と第2空間107の容積の和は不変であるため、枠体102内に存在する第1透明液体108と第2透明液体109の容積の和も変わらない。
【0013】
更に詳しく述べると、図1(a)の状態から、シリンダ112内のピストン113が矢印Aの方向に移動することで、第1空間106から第1透明液体108が流出して、第1空間106内の第1透明液体108の量が減少する。それと同時に連動して、第2透明液体109は第2空間107内に流入して、第2空間107内の第2透明液体109の量が増加する。枠体102内の第1透明液体108と第2透明液体109の容積の和は変わらないため、第1空間106から流出した第1透明液体108の量と第2空間107に流入した第2透明液体109の量は等しい。その結果、透明弾性膜105は図1(b)に示す様な曲率を持ち第1空間106側に凸になった形状に変化し、可変焦点レンズ101の焦点距離が変化する。これに対して、図1(a)に示すシリンダ112内のピストン113がB方向に移動すると、第1空間106内の第1透明液体108の量は増加し、同時に第2空間107内の第2透明液体109の量は減少する。この場合も、第1空間106に流入する第1透明液体108の量と第2空間107から流出した第2透明液体109の量は等しい。この結果、透明弾性膜105は、図1(c)に示す様な曲率を持ち第2空間107側に凸になった形状に変化する。
【0014】
以上に説明した様に、シリンダ112内のピストン113を移動させることによって、第1空間106と第2空間107内の液量を逆相で調整し、凸レンズから凹レンズに至るまで、可変焦点レンズ101の焦点距離を変化させることが可能である。
【0015】
次に、液量調整部114内のピストン113について図2(a)を用いて詳細に説明する。本実施例ではピストン113の断面積が変わる構造となっている。具体的には、円筒構造からなる第1ピストン201と、第1ピストン201の内周と同じ直径で形成され第1ピストン201に対してスライド可能な円柱形の第2ピストン202との2段構成となっている。つまり、シリンダ112内で、第1ピストン201と第2ピストン202とで構成されるピストン113がスライド可能であり、第1ピストン201の中空部内で第2ピストン202がスライド可能であるという入れ子構造となっている。本実施例では2段構成としているが、更に複数段の構成としても良い。また、本実施例ではピストン113の断面形状を円形としているが、楕円形状や矩形形状などにしてもよい。第1ピストン201は、図示しない圧電素子や電磁モータなどからなる駆動手段によって駆動される。第2ピストン202は、図示しないボイスコイルモータなどにより非接触で外部から駆動される構成であり、第1ピストン201とは独立して駆動される。本実施例では、第1空間106と第2空間107内の液体の量を変化させるための第1の調整手段は、シリンダ112とピストン113を含んで構成される。一方、第1の調整手段よりも小さい変化率で第1空間106と第2空間107内の液体の量を変化させるための第2の調整手段は、第1ピストン201と第2ピストン202を含んで構成される。
【0016】
第1の調整手段と第2の調整手段について説明する。液体型光学素子である可変焦点レンズ101は、内部の液量によって光学特性を変化させることが可能である。そこで、光学特性を高速に変化させたい場合は、第1の調整手段を働かせ、断面積を大きくするために第1ピストン201と第2ピストン202(即ちピストン113)を一体的に同時にシリンダ112内でスライドさせる。本実施例では、例えば、第1ピストン201の外周半径を2rとし、第2ピストン202の半径(即ち第1ピストン201の内周半径)をrとする。これにより、シリンダ112内の液量を変化させるピストン断面積は、第1ピストン201と第2ピストン202の断面積の和である4πr2となり、液量を大きい変化率で変化させられる。
【0017】
それに対して、光学特性を精度良く変化させたい場合は、図2(b)に示す様に第2の調整手段を働かせ、第2ピストン202のみを第1ピストン201の内周空間内でスライドさせる。この状態では、シリンダ112内の液量を変化させるピストン断面積がπr2と小さくなり、微小に液量を調整することができる。これにより、第1の調整手段よりも小さい変化率で液量を変化させられる。第1ピストン201と第2ピストン202の半径を前述した様な大きさとすることで、第2ピストン202のみを移動させた場合は、第1ピストン201と第2ピストン202を同時に駆動した場合と比して4倍の分解能で液量を調整できる。
【0018】
第1ピストン201と第2ピストン202の半径は、光学性能を変化させたい応答時間、精度に応じて種々の設定が可能である。本実施例では、第1ピストン201と第2のピストン202を一体的に同時に移動させる第1の調整手段の例を説明したが、第1の調整手段又は第2の調整手段として、第1ピストン201だけを移動させても良い。何れにせよ、上記ピストン113の構成において、光学特性を高速に変化させる場合と精度良く変化させる場合とで、第1ピストンと第2ピストンの駆動を別態様で制御して、相反する液量の調整性能(高速性と高精度)を両立させられる。
【0019】
次に、第1ピストン201と第2ピストン202の制御方法の例について説明する。可変焦点レンズ101の光学特性を変化させる際に、高速且つ精度良く変化させることが望まれる。前述したピストン113の構成を用いることで、高速性と精度を両立できるが、第1の調整手段と第2の調整手段の駆動方法によって更に高速性を持たせることも可能となる。以下に説明する。図3のグラフは、第1空間106の第1透明液体108の液体量を増加させる例を示している。縦軸に可変焦点レンズ101内の液体変化量を示し、横軸は時間を表す。グラフ内の実線は第1ピストン201と第2ピストン202の断面積の和を用いる第1の調整手段による液量変化率を表し、破線は第2ピストン202のみによる第2の調整手段による液量変化率を表す。また、破線で示す第2ピストンのみで調整する時間は、目標値に対する同じ過不足分である図3のΔVで示す差分量を変化させるのに要する時間であるため、等しい時間である。グラフ内の傾き(液量変化率)は各ピストンを駆動する駆動手段の推力によって決まる。そのため、駆動手段の推力が大きい場合は傾きが急峻になり、単位液量を変化させる時間が短くなる。ここの駆動方法では、第1の調整手段で変化させる液量は目標値よりも小さくし、不足する液体変化量分を第2の調整手段のみで補う様に駆動する。これによって、駆動を開始してからt1の時間で目標値に達することが可能となる。それに対し、第1の調整手段で変化させる液体変化量を目標値よりも大きくし、目標値に対して変化させ過ぎてしまった量を第2の調整手段で調整する様に駆動すると、駆動を開始してからt2の時間を要することとなる。前者の駆動方法を用いることで、t1とt2の差分であるΔtの時間を短くでき、より光学特性の変化速度の向上を図ることができる。以上の説明では、分かり易くするために第1の調整手段を駆動した後に第2の調整手段を駆動するグラフを示したが、第1の調整手段の駆動中に第2の調整手段を駆動することで、更に光学特性の変化速度の向上が図られる。
【0020】
本実施例では、2液を用いた2層タイプの可変焦点レンズ101の例を示したが、図4に示す様に、3層タイプの可変焦点レンズ401に本発明を適用することも可能である。この別形態では、枠体402内を3つの空間に分割する様に透明弾性膜403、404を配置し、枠体402内を第1空間405、第2空間406、第3空間407の3つの空間に分割する。ここでは、可変焦点レンズ401には2種類の前述した様な透明液体を使用する例を示すが、各空間に夫々異なる透明液体を収容しても良い。分割された各空間の液量を調整することで、夫々の透明弾性膜403、404の曲率を変化させられる。第1空間405と第2空間406は第1液量調整部408を介して流路で接続し、同様に第2空間406と第3空間407は第2液量調整部409を介して流路で接続する。第1液量調整部408、第2液量調整部409は前述した液量調整部114と同じ構造であっても良い。或いは、第1液量調整部408と第2液量調整部409のシリンダ径等を異ならせても良い。複数の液体を使用することで、様々な光学特性に応じた可変焦点レンズを構成できる。
【0021】
以上説明した様に、本実施例によれば、可変焦点レンズ101の収容部内の複数種の透明液体の量を調整する液量調整部のピストンを多段構成とすることで、光学性能の変化速度の向上と光学性能の精度向上を両立させることができる。
【0022】
(実施例2)
本発明に係る実施例2について図5を用いて説明する。本実施例の可変焦点レンズ501では、図5に示す様に、円筒形状の枠体502の両端に、シリコーンゴム等で構成される透明弾性膜503、504が張られている。液体の収容部を成す枠体502と透明弾性膜503、504で形成された空間505には、水や油、シリコンオイルなどの透明液体506が充填されている。また、枠体502の一部には、内部の透明液体506の液体の量を調整するために流路507が設けられている。流路507は、後述する液量調整部601に接続される。
【0023】
図5(a)では、空間505内の圧力と外界の圧力が等しい場合を示している。図5(a)中の矢印Cの方向に透明液体506が流路507を介して空間505内に流入すると、空間505内の液量が増加し、内部圧力が上昇する。このとき、図5(b)に示す様に、透明弾性膜503、504は、破線で示す元の形状から、内部圧力の変化量と透明弾性膜503、504の張力の均衡が保たれる様に外側に膨らみ、いわゆる凸レンズ形状となる。逆に、図5(a)中の矢印Dの方向に透明液体506が流路507を介して流出すると、空間505内の液量が減少し内部圧力が低下する。このときは、図5(c)に示す様に、透明弾性膜503、504は、破線で示す元の形状から内側に変形し、いわゆる凹レンズ形状となる。この様に、空間505内の透明液体506の量を調整することで空間505内の圧力をコントロールし、焦点距離を任意に設定可能な可変焦点レンズ501を構成できる。このレンズ501では、前述した様に、空間505の内部圧力の変化量と透明弾性膜503、504の張力の均衡が保たれる様に形状が変化する。そのため、透明弾性膜503、504を異なる厚みや、異なる弾性率の材質で構成すれば、空間505内の内部圧力に応じて透明弾性膜503、504の曲率が異なる様に変化する可変焦点レンズ501を構成できる。
【0024】
次に、図6を用いて、可変焦点レンズ501の収容部内の液体の量を調整する液量調整部601について説明する。本実施例では、液量調整部601は第1シリンダ602と第2シリンダ603の2つのシリンダを有し、第1シリンダ602には第1ピストン604が、第2シリンダ603には第2ピストン605が密着して嵌め込まれ、夫々、シリンダ内部を移動する。第1ピストン604と第2ピストン605は、シリンダの外側で第3ピストン606と結合している。第3ピストン606が図示しない駆動手段によって駆動されることで、第1シリンダ602内で第1ピストン604が、第2シリンダ603内で第2ピストン605が同時に同じ移動量を移動し、可変焦点レンズ501の収容部内の透明液体506の量が調整される。本実施例では、第1シリンダ602と第2シリンダ603は同径で構成されている。
【0025】
第1シリンダ602には流路607が接続し、第2シリンダ603には流路608が接続されている。流路607と流路608は可変焦点レンズ501に向かう途中で上記流路507に接続されている。第1シリンダ602、第2シリンダ603から流出した透明液体506が流路507で合流する際に第3ピストン606の駆動を妨げない様にするのが好ましい。この様にするため、流路607と流路608の断面積は、夫々、流路507の断面積の半分になっているのが望ましい。更に、流路608が流路507と接続する部位には、電磁弁の様な、流路608を開放状態又は閉鎖状態とすることが可能な弁609が設けられ、流路608と流路507との間での透明液体506の流出入を制御できる構成になっている。また、流路608には、流路507に接続する部位とは異なる部位に、弁609が閉じた状態で第2ピストン605により流出させられた透明液体506が逃げられる部分となるタンク610が設けられる。タンク610には、調整用のための、可変焦点レンズ501の収容部内にある透明液体506と同じ液体が充填されている。
【0026】
タンク610の一部には、上記収容部の透明弾性膜503、504よりも高い弾性率を持つゴムの様な特性を有した弾性膜611が張られている。弾性膜611には、透明弾性膜503、504よりも高い弾性率の材質を用いる。このことで、図6(a)に示す弁609の開放状態で液体506が上記収容部に流入する際に、タンク610の弾性膜611が変形せず、効率良く透明弾性膜503、504の形状を変化させられる。弁609が開放された状態で第3ピストン606を駆動して第1シリンダ602と第2シリンダ603から透明液体506を流出させると、流路607と流路608から透明液体506が可変焦点レンズ501の収容部内に流入する。それに対して、弁609が閉じた状態で、第3ピストン606を駆動して第1シリンダ602と第2シリンダ603から透明液体506を流出させると、流路607のみから透明液体506が可変焦点レンズ501の収容部内に流入する。このとき、図6(b)に示す様に、第2ピストン605により流出させられた流路608内の透明液体506はタンク610側に流入し、弾性膜611を変形させる。このことで第3ピストン606の移動を妨げない様になっている。
【0027】
実施例1で説明した様に、大きく光学特性を変化させたい場合は、第1の調整手段として、弁609を開放した状態で第3ピストン606を移動させ、可変焦点レンズ501の収容部内の液量変化率を大きくする。それに対して、光学特性を精度良く調整したい場合は、第2の調整手段として、弁609を閉じた状態で第3ピストン606を移動させる。これにより、前述した光学特性を大きく変化させる場合と同じ第3ピストン606の移動量でも液量変化率を小さくすることができる。本実施例では流路607と流路608の内径を等しくしているため、弁609を開放した場合と比較して弁609を閉鎖した場合では分解能が2倍となる。
【0028】
しかし、例えば、流路607の内径を流路608の内径に対して半分にすることによって、精度良く調整したいときの分解能を5倍に上げることも可能である。このとき、前述した様に、第3ピストン606の移動を妨げない様に、流路607の断面積と流路608の断面積の和が、流路507の断面積と一致する様にするのが望ましい。この様に流路径を種々の大きさに設定することで、任意の分解能の設定が可能となる。本実施例の弁609は開放状態か閉鎖状態の何れかを選択できる構成であるが、開放状態で、弁609が開放する穴径をアナログ的に調整可能とすることで、流路607と流路608を種々の比率で異径とした構成と同様の作用・効果が得られる。この様に、本実施例では、液量調整部は、第1及び第2のシリンダ、第1から第3のピストン、弁609などで構成され、弁609の状態によって第1の調整手段と第2の調整手段との間で切り換えられる構成となっている。
【0029】
本実施例の可変焦点レンズ501が所望の光学性能に達するまでの時間を短くするには、実施例1で説明した制御方法を用いることも可能である。具体的には、変化させたい液量よりも少ない量を、弁609を開放した第1の調整手段の状態で、第1シリンダ602と第2シリンダ603の両方で調整する。そして、変化させたい量までの不足分を、弁609を閉鎖した第2の調整手段の状態で、第1シリンダ602のみで調整する。この様にすることで、同じ構成でも、可変焦点レンズ501の光学性能を変化させる時間を更に短くすることが可能となる。本実施例では、夫々の流路やシリンダ、ピストン系を円筒形で示したが、矩形等の形状を用いても良い。
【0030】
以上説明した様に、本実施例では、可変焦点レンズ501の収容部内の透明液体506の量を調整する液量調整部を弁付きの複数の流路に繋げて構成することで、光学性能の変化速度の向上と光学性能の調整精度の向上を両立させることができる。
【0031】
(実施例3)
本発明に係る実施例3について図7と図8を用いて説明する。本実施例は、液体型光学素子である可変頂角プリズム801に関する。図7に示す様に、収容部を構成する平板802、803が距離を隔てて配置され、図7の状態では、一定の距離を隔てて平行状態となっている。平板802、803の一端は、同じく収容部を構成する固定部材804に固定され、平板803と固定部材804の結合部は回転軸805を有し、平板803が回転可能な構成となっている。平板802、803の固定部材804と対向する他端は、同じく収容部を構成するシリコーンゴム等の伸縮可能な弾性膜806に結合されている。平板802、803は、光学有効領域がガラス807、808で形成され、ここを光が透過する。本実施例では、平板802、803の一部をガラス807、808で形成しているが、全てを透明材料で形成しても良い。
【0032】
平板802、803と固定部材804と弾性膜806で形成される空間809には、水や油、シリコンオイルなどの透明液体810が充填されている。平板802には、空間809内の透明液体810が流出入するための流路811、812が別個に設けられている。空間809に連通する流路811の他端部には、第1の調整手段である第1液量調整部813が接続され、同じく空間809に連通する流路812の他端部には、第2の調整手段である第2液量調整部814が接続されている。第1液量調整部813は第1シリンダ815と第1ピストン816で構成され、第1ピストン816は不図示の駆動手段によって第1シリンダ内を移動可能である。同様に、第2液量調整部814は第2シリンダ817と第1ピストン818で構成され、第2ピストン818は不図示の駆動手段によって第2シリンダ内を移動可能である。本実施例では、第1シリンダ815の内径は第2シリンダ817の内径の3倍に設定されている。そのため、第1液量調整部813は可変頂角プリズム801の透明液体810の量を大きく変化させられ、第2液量調整部814は可変頂角プリズム801の透明液体810の量を小さく変化させられる。
【0033】
次に、プリズム801の頂角を変化させる動作を説明する。前述した様に、図7は可変頂角プリズム801の初期状態である平板802、803の平行状態を示す。これに対して、図8(a)は、αで示す平板802、803で形成される頂角が平行状態(0°)から5°傾いた状態を示す。図8(b)は、βで示す平板802、803で形成される頂角が図8(a)とは逆方向に5°傾いた状態である。この様に、本実施例の可変頂角プリズム801は、平行状態から、頂角が±5°程度の範囲で変化可能である。そのために、図7に示す平行状態でも、頂角の変化によって弾性膜806が最も縮んだ図8(b)の状態でも、弾性膜806の張力が無くならない様になっている。即ち、弾性膜806は、予め張力が付勢された状態に必ずなる様に、平板802、803に取付けられる。したがって、図7の初期状態は、弾性膜806に張力が発生している状態である。
【0034】
図7の状態から、第1液量調整部813と第2液量調整部814で空間809内に透明液体810を流入させて、空間809内の透明液体810の量を増加させると、空間809の容積を増加させる様に弾性膜806は更に伸びる。その結果、回転軸805を中心として平板803が回転し、図8(a)に示す状態となる。それに対して、第1液量調整部813と第2液量調整部814によって空間809内から透明液体810を流出させると、空間809内の透明液体810の量が減少する。すると、弾性膜806では、張力によって伸びていた状態において張力を減少させる方向に力が働き、空間809の容積を減少させる様に弾性膜806は縮む。その結果、回転軸805を中心として平板803が回転し、図8(b)に示す状態となる。この様に、第1液量調整部813と第2液量調整部814によって空間809内の透明液体810の量を調整することで、回転軸805を中心として平板802、803が形成する頂角を変化させられる。
【0035】
次に、第1液量調整部813と第2液量調整部814の制御方法について説明する。実施例1で説明した様に、第1液量調整部813で変化させる液量は目標値よりも小さくし、不足する液体変化量分を第2液量調整部814のみを駆動させて補う。こうすることで、光学性能を変化させる時間を短くできる。また、目標値よりも小さい値まで液量を変化させる際に、第1液量調整部813のみではなく第2液量調整部814も使用することで、更に変化速度を向上させることも可能である。また、前述した様に、本実施例では、第1液量調整部813の第1シリンダ815の内径は第2液量調整部814の第2シリンダ817の内径の3倍である。そのため、第1液量調整部813と第2液量調整部814を用いて光学性能を大きく変化させる場合に対して、第2液量調整部814のみを用いて透明液体810の量を調整する場合には分解能が10倍となる。第1シリンダ815の内径を第2シリンダ817の内径の3倍としたが、この値には限られず、必要に応じて適宜設定することが可能である。
【0036】
本実施例では頂角の可変範囲を±5°としているが、可変頂角プリズム801を使用する光学システムに応じて、可変範囲を変えることもできる。また、第1液量調整部813と第2液量調整部814が夫々シリンダとピストンで構成される例を示したが、透明液体810を流出入させられれば、この構成に限らない。例を述べると、透明液体810で充填した風船状のタンクの体積を小さく変形させることでタンクから透明液体810を流出させ、可変頂角プリズム801の収容部内に透明液体810が流入する様な構成としても良い。
【0037】
以上説明した様に、本実施例でも、可変頂角プリズム801の収容部内の透明液体810の量を調整する複数種の調整手段を用いることで、光学性能の変化速度の向上と光学性能の精度向上を両立させられる。
【0038】
本発明の液体型光学素子の実施例として可変焦点レンズと可変頂角プリズムを説明したが、本発明の複数種の調整手段を用いる構成はこれら以外の液体型光学素子に適用することもできる。例えば、液体を通過する光の位相を可変に調整する位相調整器、非透明液体を通過する光の強度を可変に変化させるアッテネータなどにも適用することができる。この場合、例えば、図7の構造で、枠体803を図中上下に平行移動する様に取り付け、空間809内に適当な非透明液体を充填すればよい。また、上記実施例の液量調整部は、実施例間で入れ換えて使用することもできる。例えば、実施例1の液量調整部を実施例2や実施例3で用いることもできる。
【符号の説明】
【0039】
101…液体型光学素子(可変焦点レンズ)、102…収容部(枠体)、103、104…収容部(ガラス)、105…隔壁部(弾性膜)、106、107…空間、108、109…液体、110、111…流路、112…シリンダ、113…ピストン、114…液量調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の充填された少なくとも1つの空間を持つ収容部を有し、前記空間内の液体の量を変化させて前記空間を画する境界部を形状変化又は移動させることによって、光学性能を変化させることが可能な液体型光学素子であって、
前記空間に連通して前記空間内の液体の量を変化させるための第1の調整手段と、前記空間に連通して前記第1の調整手段よりも小さい変化率で前記空間内の液体の量を変化させるための第2の調整手段とを少なくとも含む液量調整部を備えることを特徴とする液体型光学素子。
【請求項2】
前記液量調整部は、シリンダと、前記シリンダ内にスライド可能に嵌め込まれた第1ピストンと、前記第1ピストンの中空部内にスライド可能に嵌め込まれた第2ピストンを有し、
前記第1の調整手段は、前記シリンダ、及び前記シリンダ内を一体的にスライドする前記第1ピストンと第2ピストンにより構成され、
前記第2の調整手段は、前記第1ピストン、及び前記第1ピストンの中空部内をスライドする第2ピストンにより構成され、
前記シリンダの内部は流路を介して前記空間に連通されていることを特徴とする請求項1に記載の液体型光学素子。
【請求項3】
前記第1の調整手段は、第1シリンダと、前記第1シリンダ内にスライド可能に嵌め込まれた第1ピストンにより構成され、
前記第2の調整手段は、前記第1シリンダより小さい内径を持つ第2シリンダと、前記第2シリンダ内にスライド可能に嵌め込まれた第2ピストンにより構成され、
前記第1及び第2のシリンダの内部は、夫々、別個の流路を介して前記空間に連通されていることを特徴とする請求項1に記載の液体型光学素子。
【請求項4】
前記液量調整部は、第1シリンダと、前記第1シリンダ内にスライド可能に嵌め込まれた第1ピストンと、第2シリンダと、前記第2シリンダ内にスライド可能に嵌め込まれた第2ピストンと、前記第1シリンダと前記第2シリンダを夫々前記空間に連通させる流路に設けられた弁を有し、
前記液量調整部は、前記弁の状態を変化させることで第1の調整手段と第2の調整手段との間で切り換えられて動作することを特徴とする請求項1に記載の液体型光学素子。
【請求項5】
前記液量調整部は、
前記第1の調整手段が前記空間内の液体を目標の液体変化量より小さな分量のみ変化させた後に、前記第2の調整手段が前記空間内の液体を前記目標の液体変化量と前記分量の差分量のみ変化させる如く動作できる様に構成されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の液体型光学素子。
【請求項6】
前記収容部は複数の空間を有し、
少なくとも2種類の液体が前記複数の空間内に充填され、
前記液量調整部は、前記複数の空間内の液体の量を変化させることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の液体型光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−248109(P2011−248109A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121445(P2010−121445)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】