説明

液体燃料の製造方法、その製造方法により製造された液体燃料およびその液体燃料を含んでなるA重油代替燃料組成物

【課題】廃グリセリンを原料物質として重油と同等レベルの総発熱量を有する液体燃料を製造する方法を提供する。
【解決手段】廃グリセリン、当該廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硝酸、および前記廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硫酸を混合する混合工程と、当該混合工程を経て得られた組成物を中和して液体燃料を得る中和工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料の製造方法に関し、特に、廃グリセリンを原料とし、A重油代替燃料組成物となりうる液体燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素の発生を削減し、資源のリサイクルに繋がるような、従来の化石燃料に替わる燃料の開発が進められており、その一つとして、植物油や廃食油等を原料とするバイオディーゼル燃料が注目されている。バイオディーゼル燃料は、植物油等をアルカリ性アルコール又は酵素によってエステル化して合成されるものであり、この合成反応において、グリセリンを含有する副産物(本明細書において「廃グリセリン」ともいう。)も生成される。
【0003】
この廃グリセリンは純度が低く、工業用グリセリンとして使用できる程度にまで純度を高めるにはかなりのコストが必要とされるため、一部はバイオガス生成用原料や堆肥製造用の原料に混合して処理されているものの、大部分が産業廃棄物として処分されているのが現状である。バイオディーゼル燃料を燃料として普及させるためには生産コストが安価であることが求められており、そのためにはこの廃グリセリンの有効な利用法を確立することが課題となっている。
【0004】
このような状況下、廃グリセリンを燃料として用いるための研究・開発が進められている。廃グリセリンは総発熱量が17〜25MJ/kgであって、重油(おおむね44MJ/kg)に比べると低い。また、廃グリセリンは燃焼中に燃焼液面に不燃性の膜が発生して、廃グリセリンの燃焼がこの膜によって阻害され、燃焼が停止してしまう場合もある。さらに廃グリセリンは強アルカリ性であるため、燃焼助剤として用いても燃焼炉を傷めることが強く懸念される。
【0005】
このような問題を解決する手段として、例えば、特許文献1には、グリセリンを含む産業廃棄物と、鉱物油と、酸化剤および酸を含む酸化剤組成物とを混合する混合工程を備える液体燃料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−140551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される製造方法により得られる液体燃料は、鉱物油を含有している。鉱物油は燃焼により地球温暖化ガスを発生させるため、地球環境保護の観点から好ましいとはいえない。
また、特許文献1の実施例によれば、鉱物油として用いられているものは総発熱量が45.8MJ/kgの灯油であり、得られた液体燃料の総発熱量が43.6MJ/kgよりも高い。したがって、特許文献1に開示される製造方法について鉱物油を含有させずに実施すれば、得られた液体燃料の総発熱量は40MJ/kgに到達していない可能性もある。すなわち、鉱物油を用いない場合に得られる液体燃料の総発熱量は、JIS K2205に規定される重油1種1号(本明細書において「A重油」ともいう。)の総発熱量44MJ/kgよりも10%近く低いと想定される。それゆえ、さらに高い総発熱量を有する液体燃料を廃グリセリンから製造する方法が求められている。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、灯油などの鉱物油を特段必要とせずに、廃グリセリンを原料物質としてA重油と同等レベルの総発熱量を有する液体燃料を製造する方法、その製造方法により製造された液体燃料およびその液体燃料を含んでなるA重油代替燃料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、従来はニトログリセリンが製造される可能性があるため忌避されていた濃硫酸および濃硝酸を廃グリセリンと混合する工程を実施しても、これらの酸の使用量を適切に制御すればニトログリセリンの発生に基づく危険性を回避することができ、この混合工程を経て得られた組成物を中和することによってA重油と同等レベルの総発熱量を有する液体燃料が得られるとの新たな知見が得られた。
【0010】
係る知見に基づき完成された本発明は、第一に、バイオディーゼル燃料の合成において得られるグリセリンを含有する副生成物である廃グリセリン、当該廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硝酸、および前記廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硫酸を混合する混合工程と、当該混合工程を経て得られた組成物を中和して液体燃料を得る中和工程とを備えることを特徴とする、液体燃料の製造方法である(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)における前記混合工程では、濃硝酸と濃硫酸とからなる混酸を前記廃グリセリンに添加してもよい(発明2)。
【0012】
上記発明(発明1、2)の前記混合工程において用いられる濃硝酸の濃硫酸に対する体積比率は、0.1以上2以下であることが好ましい(発明3)。
【0013】
上記発明(発明1から3)において、前記混合工程に供される前記廃グリセリンは、残留水分を除去する工程を経たものであることが好ましい(発明4)。
【0014】
上記発明(発明1から4)の前記混合工程において、前記廃グリセリン、濃硫酸および濃硝酸が混合されてなる混合物の動粘度を0.1mm/S以上20mm/S以下に調整し、当該動粘度が調整された混合物を攪拌することが好ましい(発明5)。
【0015】
上記発明(発明1から5)において、前記混合工程により得られた生成物に含まれる、液体燃料としての不純物を除去する不純物除去工程を備え、当該不純物除去工程により得られた液状の組成物が前記中和工程に供されてもよい(発明6)。
【0016】
上記発明(発明1から6)において、前記中和工程により得られた液体燃料にフェロセン化合物を添加してもよい(発明7)。
【0017】
上記発明(発明1から7)に係る製造方法は鉱物油を配合する工程を含まないことが好ましい(発明8)。
【0018】
本発明は、第二に、上記発明(発明1から8)に係る製造方法により製造された液体燃料である(発明9)。
【0019】
上記発明(発明9)に係る液体燃料は鉱物油を含有しないことが好ましい(発明10)。
【0020】
上記発明(発明9または10)に係る液体燃料は非水溶性組成物であることが好ましい(発明11)。
【0021】
上記発明(発明9から11)に係る液体燃料は比重が0.80kg/L以上0.89kg/Lであることが好ましい(発明12)。
【0022】
上記発明(発明9から12)に係る液体燃料は硫黄分の含有量が0.001質量%以下であることが好ましい(発明13)。
【0023】
本発明は、第三に、上記発明(発明9から13)に係る液体燃料からなるA重油代替燃料組成物である(発明14)。
【0024】
本発明は、第四に、上記発明(発明9から13)に係る液体燃料とA重油とを含有するA重油代替燃料組成物である(発明15)。
【発明の効果】
【0025】
本発明の製造方法によれば、A重油と同等レベルの総発熱量を有する液体燃料を得ることが実現される。かかる液体燃料はA重油の代替燃料組成物として好適に使用されうる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を説明する。
1.廃グリセリン
本発明の一実施形態に係る製造方法における原料物質の一つは、バイオディーゼル燃料の合成において得られるグリセリンを含有する副生成物、すなわち廃グリセリンである。本実施形態に係る製造方法において原料物質となる廃グリセリンを生じるバイオディーゼル燃料の合成方法は特に限定されない。アルカリ触媒法、酸アルカリ触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法、固体触媒法、生体触媒法等により、廃食油および/または油脂とメタノール、エタノールなどのアルコールとをエステル交換する方法が例示される。一種類のバイオディーゼル燃料の合成方法の実施により得られた廃グリセリンを原料物質としてもよいし、異なる合成方法の実施により得られた複数種類の廃グリセリンの混合物を原料物質としてもよい。
【0027】
廃グリセリンに含有されるグリセリン以外の成分は特に限定されないが、通常、アルコール類(本実施形態において「アルコール類」とは、グリセリン以外の水酸基を有する有機物質を意味する。)および脂肪酸が廃グリセリンに含まれる。
【0028】
アルコール類として含有される成分の具体例を挙げれば、上記のバイオディーゼル燃料の合成におけるエステル交換において使用したメタノール、エタノールである。これらの中でもメタノールを含有している場合が多い。
【0029】
廃グリセリンに含有される脂肪酸は上記のエステル交換反応により生成されることから、この脂肪酸の種類はバイオディーゼル燃料の合成における原料として用いた廃食油および/または油脂の種類に依存する。
【0030】
廃グリセリンにおけるグリセリン、アルコール類および脂肪酸の含有量は特に限定されないが、通常、廃グリセリン全体に対して、グリセリンは25質量%以上65質量%以下、アルコール類は2質量%以上15質量%以下、脂肪酸は30質量%以上50質量%以下となる場合が多い。本実施形態に係る製造方法により液体燃料を安定的に得る観点から、グリセリン、アルコール類および脂肪酸の含有量は、それぞれ、廃グリセリン全体に対して、30質量%以上65質量%以下、2質量%以上10質量%以下、および25質量%以上55質量%以下、とすることが好ましい。
【0031】
廃グリセリンにおける上記三成分以外の含有成分として、タンパク質、でんぷん、触媒残差、および水分が挙げられる。このほか、原料となる天然油脂(植物油脂、動物油脂など)や廃油(廃食用油)等に含有される不純物が残留している場合もある。
【0032】
こうした成分は液体燃料に変換する工程において阻害要因となる場合があるため、事前に可能な限り除去しておくことが好ましい。
【0033】
例えば、廃グリセリンが液状である場合には、適当な大きさのメッシュのフィルターによりろ過して、固体状の不純物を除去しておくことが好ましい。なお、廃グリセリンの室温における性状は液体、固体、またはこれらの中間状態(具体的には粘調な流動体)であり、廃グリセリンの組成により変動する。
【0034】
また、後述する混合工程において高濃度の酸と廃グリセリンとを混合するため、廃グリセリンに含有される水分は可能な限り除去しておくことが好ましい。水分を除去する方法は任意であり、ゼオライト、シリカゲル、活性白土および/または活性炭を添加する等の方法が例示される。
【0035】
2.混合工程
混合工程では、上記の廃グリセリン、廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硝酸(好ましい一例を挙げれば67.5%硝酸)、および廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硫酸(好ましい一例を挙げれば98%硫酸)を混合する。
【0036】
通常、グリセリンと濃硝酸と濃硫酸とを混合してこれらを反応させると、その取り扱いに極めて高度な注意を要するニトログリセリンが発生する。しかしながら、本実施形態に係る製造方法によれば、上記の濃度範囲であれば、ニトログリセリン発生に基づく危険を回避しつつ、従来になく総発熱量が高い液体燃料を製造することが実現される。
【0037】
濃硝酸および濃硫酸の混合量が上記の範囲未満の場合には反応が十分に進行せず総発熱量が高い液体燃料を得ることができない。一方、これらの酸の混合量が上記の範囲を超える場合には、ニトログリセリンが形成される可能性が高まり、作業性が著しく低下する。混合工程の作業における危険性を十分に低下させつつ、生産性を確保する観点から、濃硝酸および濃硫酸の混合量は、それぞれ、廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下とすることが好ましい。ニトログリセリンの発生に基づく危険性を十分に低下させる観点から、濃硝酸および濃硫酸の混合量は、それぞれ、廃グリセリンに含まれるグリセリン基準で0.5体積%以上10体積%以下とすることが好ましい。
【0038】
混合される濃硝酸と濃硫酸との体積比率(濃硝酸/濃硫酸)は0.1以上2以下とすることが好ましく、0.3以上1.5以下にすればさらに好ましく、0.3以上1.0未満とすることが特に好ましい。
【0039】
本実施形態に係る製造方法における混合工程の好ましい一例では、濃硝酸と濃硫酸とからなる混酸をあらかじめ調製しておき、この混酸をグリセリンに添加することによって混合工程は実施される。この混酸における各酸の好ましい体積比率は上記のとおりである。
【0040】
混合工程における作業安定性を高める観点から、混合工程を実施中の廃グリセリンを含む組成物の温度が80℃以下となるように冷却することが好ましい。
【0041】
また、混合工程を実施中の廃グリセリンを含む組成物は、攪拌を常時行い、さらに得られた混合物の攪拌を継続して、廃グリセリンの反応の進行を均一化させることが好ましい。この混合物の攪拌時間は特に限定されないが、通常1分間以上30分間以下である。なお、廃グリセリンの反応の完了は、色、液温上昇値などにより判定することができる。
【0042】
攪拌の安定性を考慮すると、攪拌中の混合物の動粘度の狙い値は0.1mm/S以上20mm/S以下とすることが好ましい。混合工程に係る混合物の動粘度が高い場合には、例えば次の方法によって降下させてもよい。
【0043】
動粘度を降下させる方法の第一の例として、蒸留バイオディーゼル燃料および未蒸留バイオディーゼル燃料、ならびにバイオマス由来のメタノール、エタノールおよび炭素数が3以上の高級アルコールからなる群から選ばれる一種または二種以上からなる、燃焼させても地球温暖化ガスを発生させない組成物を混合物中に含有させてもよい。この組成物の混合物に対する添加量は、添加後の混合物の動粘度のねらい値に基づいて適宜設定されるべきものである。
【0044】
動粘度を降下させる方法の他の例として、混合物を蒸留する方法および酵素によって混合物を分解する方法が挙げられる。これらの方法の詳細は特に限定されない。
【0045】
なお、本実施形態に係る製造方法により製造された液体燃料は、上記のような組成物を含有させない場合においても、A重油と同等レベルの総発熱量を有する。したがって、上記の組成物は液体燃料の総発熱量を高める観点からは添加が必要とされない。また、特許文献1に開示される製造方法のように、灯油などの鉱物油を用いることも特に必要とされない。地球温暖化ガスを発生させないという観点から、本実施形態に係る製造方法は鉱物油を原料の一つとしないことが好ましい。
【0046】
3.不純物除去工程
上記の混合工程により得られる生成物は次の中和工程にそのまま供してもよいが、この生成物に含有される、液体燃料としての不純物を除去する不純物除去工程を追加的に実施して液状の組成物を得てもよい。かかる作業を行うことにより、最終的に得られる液体燃料の品質が向上し、液体燃料の燃焼効率も高まる。不純物除去工程の具体的作業は特に限定されない。生成物をフィルターに通過させて固体の物質(例えば灰分)を除去してもよいし、生成物を静置して固体の物質、比重の大きい液体および水溶性液体(例えばアルコール類)を分離させてもよい。
【0047】
4.中和工程
混合工程において廃グリセリンに酸を混合させることから、混合工程により得られた生成物は酸性となっている。このため、この生成物をそのまま液体燃料として燃焼炉に供給すると、燃焼炉を腐食させてしまう。そこで、混合工程を経て得られた組成物、すなわち、混合工程により得られた生成物またはこの生成物から前述の不純物を除去して得られる液状の組成物(以下、これらを総称して「混合後組成物」ともいう。)を中和する中和工程を実施して、液体燃料を得る。
【0048】
この中和工程における中和方法は特に限定されない。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性物質をそのまま、またはアルカリ性物質を含有する水溶液を上記の混合後組成物に添加して中和させてもよい。なお、アルカリ性の水溶液を用いて中和させた場合には、分留などによって水分を除去する作業が必要であり、この作業は中和工程に含まれる。
あるいは、上記の混合後組成物をイオン交換樹脂と接触させることによって中和させてもよい。
【0049】
5.後工程
上記の中和工程により燃焼炉に供給可能な液体燃料を得ることができるが、必要に応じて、次に説明する後工程を実施してもよい。
【0050】
中和工程の一部として行われる場合もあるが、得られた液体燃料から水分を除去するための工程を行ってもよい。その工程の詳細は任意である。本実施形態に係る液体燃料は、水溶性物質を実質的に含有しない、すなわち非水溶性組成物である。このため、液体燃料が長期保管されても、大気中の水分を取りこんで含水量が増加する事態は生じにくい。それゆえ、後工程の一つとして上記のような水分除去を行えば、得られた液体燃料は長期にわたって含水量が低く燃焼特性が安定した液体燃料となる。
【0051】
混合工程や中和工程によって固体の不純物(例えば灰分)が生成する場合などは、適当なメッシュサイズのフィルターを用いて不純物をろ過する工程を実施すればよい。
【0052】
フェロセン、すなわち、ビス(シクロペンタジエニル)鉄、およびフェロセンの誘導体からなる群から選ばれる一種または二種以上の化合物からなるフェロセン化合物を添加剤として、得られた液体燃料に添加してもよい。添加剤として含有されるフェロセン化合物の含有量は任意であり、液体燃料に対して数質量%、具体的には5質量%程度を上限とすればよい。
【0053】
この他、酸化防止剤、識別剤、着色剤などその他の成分を必要に応じ適量含有させる工程を実施してもよい。この場合においても、鉱物油のような地球温暖化ガスを発生させる物質は含有させないことが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る製造方法により製造された液体燃料は、その比重が0.80kg/L以上0.89kg/Lであることが好ましい。この場合には、A重油の比重(0.83kg/L以上0.85kg/L)とほぼ等しい比重を液体燃料は有することになり、かかる液体燃料とA重油とからなる燃料組成物は、長期保管されても液体燃料とA重油とが分離しにくい。かかる分離の発生をさらに安定的に抑制する観点から、液体燃料の比重はA重油の比重の範囲と等しい0.83kg/L以上0.85kg/Lとすることがさらに好ましい。
【0055】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
(廃グリセリンの準備)
アルカリ触媒法により廃食油とメタノールとをエステル交換させてバイオディーゼル燃料を製造した。このとき生成したグリセリンを含む副生成物を廃グリセリンとして回収した。この廃グリセリンの性状は、室温において液体であった。また、その比重は1.23kg/Lであった。
【0057】
この廃グリセリンにゼオライトを廃グリセリン1kgあたり20g添加して水分を除去した。ゼオライトが添加された廃グリセリンは、250メッシュのフィルターを通過させて、ゼオライトおよび固体状の不純物を除去した。
こうして得られた液体燃料の反応物質としての廃グリセリン(以下、「原料廃グリセリン」という。)の組成および物性は次のとおりであった。
【0058】
【表1】

【0059】
(混合工程)
濃硝酸(67.5%)および濃硫酸(98%)を1:3の割合で混合して混酸を得た。
加温冷却機能を有する容量150Lの反応容器に、原料廃グリセリン189kgを投入して原料廃グリセリンを攪拌(120rpm)しながら50℃まで加温した。この状態で、上記の混酸12Lを反応容器中に添加した。混酸の添加にあたり、反応容器中の混合物の温度が80℃を超えないように留意した。混酸を全量添加した後、15分間攪拌を継続した。15分間経過後に得られた生成物は黒色となって、廃グリセリンと混酸との反応が完了したことを確認した。
【0060】
(不純物除去工程)
上記の攪拌が終了して得られた黒色の生成物を静置して、この生成物に含有される固体成分ならびに比重の大きな液体成分および水溶性液体成分を分離させた。これらの成分が分離した上澄みからなる液状組成物を次の中和工程に供するべく回収した。
【0061】
(中和工程)
直径約250mm長さ約800mmの円筒状の容器にイオン交換樹脂(三菱化学社製SA10AOH)を20kg充填してカラムを得た。かかるカラムに、上記の不純物除去工程により回収された液状組成物を通過させることにより混合物の中和を行った。この中和にあたっては、カラム内の混合物の温度が40℃を超えないように、カラム通過速度を2L/分程度とした。カラム通過により得られた液体を若干量サンプリングしてpHを測定したところ、6.9であった。
【0062】
(後工程)
中和工程の実施により得られた液体にフェロセンを5g添加した。続いて、水分除去を目的として、ゼオライトが充填されたフィルターにフェロセン添加後の液体を通過させた。さらに、ゼオライトフィルター通過後の液体を1μmのフィルターによりろ過して、液体燃料を得た。
【0063】
(評価)
上記の後工程の実施により得られた液体燃料について、表2に示されるような項目の評価を行った。評価試験はそれぞれ表2に示すJIS規格に準拠した方法で行った。
また、得られた液体燃料の燃焼ガスの分析を行った。
【0064】
【表2】

【0065】
(結果)
評価結果を表2に示す。表2に示されるように、本実施例に係る液体燃料は、鉱物油を一切使用していないにもかかわらず、総発熱量が43.4MJ/kgと高かった。この数値は軽油とほぼ同等であった。また、引火点等の物性はJIS K2205に規定される重油1種1号(A重油)に求められる物性を満足していた。特に、本実施例に係る液体燃料の硫黄分の含有量は0.001質量%以下であった。したがって、かかる液体燃料は、燃焼時に発生する硫黄酸化物(SOX)を特に抑制することができるものであった。
また、燃焼ガスの成分分析を行った結果、COは26ppm、NOは238ppm、NOXは250ppm、Oは5.4%、COは11.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る製造方法によれば、原料物質として鉱物油を使用しなくとも、A重油に求められる物性を有し、総発熱量もA重油と同等である液体燃料が提供される。
【0067】
かかる液体燃料は単独でA重油の代替燃料として取り扱うことができる。また、液体燃料とA重油とを含有してなる燃料組成物もA重油の代替燃料として使用可能であり、本発明の好ましい一形態においては、この燃料組成物は長期保管しても燃焼特性が変動しにくい。
【0068】
このように、本発明に係る製造方法によれば、バイオディーゼル燃料の製造の副生成物である廃グリセリンを、産業廃棄物ではなく燃料の原料として使用することができるため、バイオディーゼル燃料の普及に大いに貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料の合成において得られるグリセリンを含有する副生成物である廃グリセリン、当該廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硝酸、および前記廃グリセリン基準で1体積%以上20体積%以下の濃硫酸を混合する混合工程と、
当該混合工程を経て得られた組成物を中和して液体燃料を得る中和工程とを備えること
を特徴とする、液体燃料の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程では、濃硝酸と濃硫酸とからなる混酸を前記廃グリセリンに添加する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において用いられる濃硝酸の濃硫酸に対する体積比率は、0.1以上2以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程に供される前記廃グリセリンは、残留水分を除去する工程を経たものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、前記廃グリセリン、濃硫酸および濃硝酸が混合されてなる混合物の動粘度を0.1mm/S以上20mm/S以下に調整し、当該動粘度が調整された混合物を攪拌する、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程により得られた生成物に含まれる、液体燃料としての不純物を除去する不純物除去工程を備え、当該不純物除去工程により得られた液状の組成物が前記中和工程に供される、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記中和工程により得られた液体燃料にフェロセン化合物を添加する、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
鉱物油を配合する工程を含まない、請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載される製造方法により製造された液体燃料。
【請求項10】
鉱物油を含有しない請求項9に記載の液体燃料。
【請求項11】
非水溶性組成物である請求項9または10に記載の液体燃料。
【請求項12】
比重が0.80kg/L以上0.89kg/Lである、請求項9から11のいずれか一項に記載の液体燃料。
【請求項13】
硫黄分の含有量が0.001質量%以下である、9から12のいずれか一項に記載の液体燃料。
【請求項14】
請求項9から13に記載される液体燃料からなるA重油代替燃料組成物。
【請求項15】
請求項9から13に記載される液体燃料とA重油とを含有するA重油代替燃料組成物。

【公開番号】特開2013−87126(P2013−87126A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225934(P2011−225934)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(510238627)バイオ燃料技研工業株式会社 (2)
【出願人】(511247459)株式会社エー・アイ・ディー (1)
【Fターム(参考)】