液体電気化学ガスセンサ
金属缶に水を収容し、ワッシャの開口からセパレータに水蒸気を供給する。セパレータは合成樹脂膜をスルホン化したもののアルカリ金属塩で、電解液にはKOH水溶液を用い、検知極や対極はPt−Cで、電極とセパレータの間に固体のプロトン導電体膜を配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液体電気化学ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体のプロトン導電体膜を用いたガスセンサが知られている(特許文献1,7)。そしてこのガスセンサでは、プロトン導電体膜を一対の電極に挟み込み、水溜から水蒸気を供給する。発明者はその後、固体のプロトン導電体膜を用いたガスセンサの構造を、液体電解質を用いたガスセンサに転用することを検討した。
【0003】
液体電解質を用いたガスセンサでは、電解質をセパレータに保持し、電解質の液溜からウィックを介して電解質を補給する。電解質には硫酸が用いられるため、金属ハウジングを用いることができず、また高湿雰囲気などで硫酸が吸湿して液溜からあふれ出すことがある。
【0004】
特許文献2は、ウィックを用いない液体電気化学ガスセンサを提案している。ここでは硫酸を水溜に蓄え、高湿時に吸湿し、低湿時に放湿するようにして、ガスセンサ内の湿度をほぼ一定にする。この結果、セパレータの電解液が乾燥するのを防止できる。また特許文献3は、LiClなどの潮解性塩を水溜にセットし、ガスセンサ内の湿度をほぼ一定にすることを提案している。しかし硫酸や潮解性塩を用いると、高温多湿の雰囲気などで、水溜から電解液があふれ出すおそれがある。
【0005】
さらに特許文献4は、ペーパー状のガラスフィルターにコロイダルシリカとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とを担持させたセパレータを開示している。ここでは、コロイダルシリカによって電解液を保持するための親水性のチャネルが、PTFEによってガスが拡散するための疎水性のチャネルが得られるとされている。
【0006】
特許文献5は、KOHもしくはH2SO4電解液を用いたO2センサを開示し、KOHでは特性がドリフトするとしている。
【0007】
特許文献6は、MgSO4水溶液を用いたCOセンサを開示している。
【特許文献1】WO 02/097420A1
【特許文献2】WO 01/14864A1
【特許文献3】USP5958200
【特許文献4】USP4587003
【特許文献5】USP5240893
【特許文献6】USP5302274
【特許文献7】USP6200443
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、硫酸を用いない新規な液体電気化学ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の液体電気化学ガスセンサは、電解液を多孔質のセパレータに保持し、該セパレータに少なくとも検知極と対極とを接続し、水溜から水蒸気を前記セパレータに補給するようにしたガスセンサにおいて、前記セパレータが、水もしくはアルカリ金属水酸化物の水溶液あるいは潮解性のない水に可溶な塩の水溶液を支持している、親水性の有機ポリマーであることを特徴とする。
好ましくは、前記セパレータがアルカリ金属水酸化物の水溶液もしくは純水を支持し、かつ検出対象ガスが還元性ガスである。
【0010】
また好ましくは、セパレータと検知極との間に固体電解質膜を配置する。
好ましくは、前記対極が、Mn,Ni,Pb,Znの酸化物もしくは水酸化物である。
【0011】
ガスセンサの構造では好ましくは、開口と底部とを有する金属缶の開口と底部との間にくびれ部を設けて、開口を有する金属ワッシャを前記くびれ部で支持し、かつ該金属ワッシャ上に、少なくとも前記対極とセパレータと検知極とを配置し、金属ワッシャと金属缶の底部との間に水を収容する。
【0012】
検出対象としては、例えば水素中のCOや不活性ガス中の還元性ガスも検出できる。
【0013】
セパレータは特に好ましくは、スルホン酸基のアルカリ金属塩やアルコール性水酸基を含有する有機ポリマーとし、これ以外に、カルボキシル基のアルカリ金属塩、ホスホン酸基のアルカリ金属塩やアルカリ土類塩、フェノール基、アミノ基やイミド基、およびこれらの誘導体で親水化した有機ポリマーなどでも良い。ポリマー中の親水性基の水素イオンは他の陽イオンで置換することが好ましく、このことをケン化と呼び、ケン化にはアルカリ金属イオンが好ましいが、アルカリ土類イオンや、アンモニウムイオンあるいはその誘導体なども用い得る。
【0014】
発明者は、スルホン酸基のアルカリ金属塩やアルコール性水酸基などにより親水化した有機ポリマーからなるセパレータを用いると、電解液をKOH,NaOHなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液としても、あるいは電解液を純水、脱イオン水などの単なる水としても、CO,H2などの還元性ガスを検出できることを見出した。なお親水性の高いセパレータに水を満たすと、セパレータには僅かな導電性が生じる。この導電性は検知極や対極と電解液との間のイオンの移動と関係するものと考えられる。さらに純水と脱イオン水とは異なる用語であるが、この発明で電解質の含有量が重要なので、純水は脱イオン水を含むものとする。
【0015】
セパレータの形状は不織布や微孔を備えた膜、あるいは織布などとし、基礎となる材質はPP(ポリプロピレン)やポリアミド樹脂、PTFE樹脂などの合成樹脂とする。ポリアミド樹脂の場合、耐熱性を増すため、NH基をN−φ(φはフェニル基)に変えた変成ポリアミド樹脂が好ましい。
【0016】
この発明では硫酸無しでCOやH2への感度が得られ、このため金属パッケージを用いることができ、また高湿雰囲気でも硫酸があふれ出さない。さらに電解液にはKOHなどのアルカリ金属水酸化物などのアルカリ性電解液を用いることができ、COなどに安定した感度が得られた。また電解液には、イオン交換水などの単なる水や、MgSO4などの潮解性のない水に可溶な塩の水溶液も用いることができる。電解液のPHは例えば4以上とし、好ましくは6以上で、特に好ましくは7以上とする。
【0017】
電解液に硫酸を用いると、検知極でのCOや水素などの酸化反応が簡単に進行するが、中性やアルカリ性の電解液では、検知極でCOや水素などを酸化して電解液中にプロトンとして移動させるのが難しい。このため低温でのガス感度が小さい。これに対して、検知極とセパレータとの間に、あるいはセパレータの両面と検知極や対極との間に、固体のプロトン導電体膜や水酸イオン導電体膜を配置すると、低温でのガス感度が増す。
【0018】
COなどの還元性ガスを検出する場合、検知極での生成物はプロトンである。水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の場合、検知極から電解質に注入されたプロトンと中和するように、検知極と電解質の界面へ水酸イオンが移動し、対極で(1)の反応が生じていると考えることができる。
2H2O+O2+4e−→4OH− (1)
【0019】
検知極、対極ともにPt,Pt−RuO2,Pd,Au,金属酸化物などの触媒電極でも良いが、対極をMn,Ni,Pb,Znの酸化物もしくは水酸化物とするとコスト的に有利である。また酸化物や水酸化物の対極では、酸素のない雰囲気でも還元性ガスを検出できる。さらにこの発明のガスセンサでは、水素に比べてCOの感度を高くできるので、燃料電池用に水素中のCOの検出を行うことができる。
【0020】
この発明では、ウィックで電解液をセパレータに補給しないでも、水蒸気でセパレータを加湿するだけで、感度が得られる。そこでガスセンサの構造では例えば、開口と底部とを有する金属缶の開口と底部との間にくびれ部を設けて、開口を有する金属ワッシャを前記くびれ部で支持し、かつ該金属ワッシャ上に、少なくとも前記対極とセパレータと検知極とを配置し、金属ワッシャと金属缶の底部との間に水を収容する。水は液体の水でもゲル化した水でも良い。
【0021】
検出対象ガスは例えばCOや水素、アルコール、アルデヒド、硫化水素、アンモ二アなどの還元性ガスとし、水素中のCOや不活性ガス中の還元性ガスなども検出できる。
【発明の効果】
【0022】
この発明では以下の効果が得られる。
(1) 硫酸を電解液に用いないので、金属缶をパッケージに用いることができ、また高湿雰囲気で硫酸があふれ出すことがない。
(2) KOH水溶液などのアルカリ性ないしは純水などの中性の電解液を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例の液体電気化学ガスセンサの断面図である。
【図2】図2は、実施例の液体電気化学ガスセンサのセンサ本体とその周囲を示す断面図である。
【図3】図3は、実施例の液体電気化学ガスセンサのセンサ本体とその周囲を示す断面図である。
【図4】図4は、変形例の液体電気化学ガスセンサのセンサ本体とその周囲を示す断面図である。
【図5】図5は、スルホン化したセパレータを用いた実施例での、CO30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図6】図6は、図5と同じ条件での、H2 30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図7】図7は、親水性の低いセパレータを用いた従来例での、CO30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図8】図8は、親水性の低いセパレータを用いた従来例での、H2 30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図9】図9は、固体プロトン導電性電解質を用いた従来例と、スルホン化したセパレータにKOH水溶液膜を支持させた実施例との、各種ガスへの応答電流を示す特性図である。
【図10】図10は、0.1MKOH水溶液を用いた実施例での、COへの応答を示す特性図である。
【図11】図11は、0.01MKOH水溶液を用いた実施例での、COへの応答を示す特性図である。
【図12】図12は、実施例のガスセンサの22週間の特性を示す特性図である。
【図13】図13は、高温高湿雰囲気(60℃×95%RH)での、実施例ガスセンサの耐久性能を示す特性図である。
【図14】図14は、−10℃での実施例のガスセンサのCOへの応答を示す特性図である。
【図15】図15は、固体プロトン導電性電解質を用いた従来例と実施例との、ガスセンサの周囲温度依存性を示す特性図である。
【図16】図16は、KOH/Pt−MnO2系での20℃での特性図である。
【図17】図17は、MgSO4/Pt−MnO2系での種々のCO濃度への応答を示す特性図である。
【図18】図18は、MgSO4/Pt−Pt系での種々のCO濃度への応答を示す特性図である。
【図19】図19は、MgSO4/Pt−Pt系での20℃での特性図である。
【図20】図20は、MgSO4/Pt−Pt系での60℃での特性図である。
【図21】図21は、MgSO4/Pt−Pt系での−10℃での特性図である。
【図22】図22は、MgSO4/Pt−Pt系ガスセンサを60℃相対湿度95%で保存した際の特性図である。
【図23】図23は、MgSO4/Pt−MnO2系ガスセンサでの、H2中のCOへの応答特性を示す特性図である。
【図24】図24は、水素中のCOを測定する装置のレイアウトを示す図である。
【符号の説明】
【0024】
2 液体電気化学ガスセンサ
4 センサ本体
6 セパレータ
8 検知極
10 対極
12 疎水性導電膜
14 ワッシャ
16 水蒸気導入孔
18 拡散制御板
20 拡散制御孔
22 封孔体
23 底板
24,26 開口
25 フィルタ
28 金属缶
30 水
32 くびれ部
34 粘着性リング
36 シーリング材
38 電子導電性電極
40 固体電解質膜
42 混合導電性電極
50 水素管
51 バルブ
52 試験室
53 吸引ポンプ
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0026】
図1〜図24に、実施例とその変形を示す。実施例ではセパレータをスルホン化するものを示すが、カルボキシル化などでも良く、あるいはアルコール性水酸基を含むセパレータなどでも良い。なおスルホン酸基はスルホン酸のアルカリ金属塩で存在している。図1において、2は液体電気化学ガスセンサで、4はセンサ本体であり、セパレータ6の表裏に検知極8と対極10とを設けてある。セパレータ6は多孔質で電解液を保持し、例えば厚さ0.1mm程度、直径は5〜20mm程度である。セパレータ6は、例えば合成繊維の織布や不織布などからなり、スルホン化やアルコール性水酸基の導入などで親水化してある。以下、スルホン化を例に実施例を説明する。
【0027】
セパレータの有機ポリマーが(A−SO3X)n−(B)mの有機ポリマーとRpの有機ポリマーとからなるものとする。ここにA,B,Rはモノマーを表し、nは1以上の整数を,m,pは0以上の整数を表し、Xは例えばアルカリ金属イオンである。例えば有機ポリマーが−(A−SO3X)−と−B−のコポリマーとすると、pは0で、n/(n+m)を例えば5×10−4〜4×10−2が好ましい。なお(A−SO3X)n−(B)mの表示は、(A−SO3X)がnブロック続き、Bがmブロック続くことを意味するのではなく、ブロック(A−SO3X)とブロックBの比がn:mであることを意味する。セパレータの有機ポリマーが(A−SO3X)n−(B)mと別の有機ポリマーRpとの混合物の場合は、n/(n+m+p)が5×10−4〜4×10−2が好ましい。n/(n+m)(R成分が無い場合)、あるいはn/(n+m+p)(R成分が有る場合)は、5×10−3〜1.5×10−2が特に好ましい。
【0028】
スルホン化の程度は、ポリアミド繊維をスルホン化したSBR(スチレンブタジエンゴム)で結着した不織布では、例えば前記のn/(n+m+p)で約0.01であり、SBRのみに着目するとn/(n+m)は約0.05である。PP(ポリプロピレン)の多孔質膜などの場合、pは例えば0で、n/(n+m+p)は例えば5×10−4〜4×10−2程度となる。ポリアミド系でもPP系でも、n/(n+m+p)は例えば5×10−4〜4×10−2程度、好ましくは5×10−3〜1.5×10−2程度とする。
【0029】
セパレータ6の比較例として、スルホン化していないSBR結着剤を用いたポリアミド樹脂の不織布を、界面活性剤(材質不明)で処理したもの(三菱製紙製の商品名WO−DO)を用いた。実施例として、上記のポリアミド樹脂の不織布で、結着剤をスルホン化したSBRに変えたもの(ポリアミドセパレータ、n/(n+m+p)は0.01、三菱製紙製)を用いた。また他の実施例として、PP(ポリプロピレン)の多孔質膜をn/(n+m)が0.01にスルホン化したもの(PPセパレータ、日本高度紙工業製の商品名SFLD50S)を用いた。この程度のスルホン化ではn/(n+m)の値が低いため、プロトン導電体ということはできず、通常のプロトン導電体ではn/(n+m)の値は、デュポン社のNafion膜(Nafionは登録商標)で0.12、ダウ社のX膜(X膜は登録商標)で0.14〜0.09である。また表1に示すようにセパレータ自体の導電性は低く、通常のプロトン導電体膜の1/1000程度である。
【0030】
PPセパレータとポリアミドセパレータ(直径10mm)に電解液を保持させて、PH試験紙でPHを測定すると共に、表裏の抵抗を測定した。結果を表1に示す。スルホン化してもセパレータは中性であるが、純水でも導電性が生じている。セパレータのスルホン酸基はNa+イオン等のアルカリ金属イオンやアンモニウムイオン、特にアルカリ金属イオンでケン化されているから、純水中にNa+イオン等が溶出していることが考えられるが、その濃度はアルカリ換算で1/100M以下である。またKOHなどを用いる場合でも、その一部がKHCO3やK2CO3に変化していることがある。そこで電解質は、3M以下のアルカリ金属イオンを含むアルカリ性水溶液〜純水が好ましい。
【0031】
表1 セパレータの物性
PH 抵抗
ポリアミドセパレータ PPセパレータ ポリアミドセパレータ
乾燥状態 − − ∞
純水 7 7 6KΩ
0.1M KOH 13 13 500Ω
1M KOH 14 14 50Ω
【0032】
検知極8は、例えばPt担持のカーボンブラックとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)バインダの混合物からなり、Ptに代えてPt−RuO2やPdその他の適宜の電極触媒を用いることができる。対極10は検知極8と同様の組成の電極である。12は疎水性導電膜、14はSUSなどの金属ワッシャ、16は例えば直径1〜3mm程度の水蒸気導入孔、18は厚さ100μm程度のSUSなどの金属の薄板の拡散制御板で、直径0.1mm程度の拡散制御孔20を備えている。薄い拡散制御板18に拡散制御孔20を設けることにより、拡散制御孔20の孔径を一定にし、ガス感度のばらつきを小さくできる。22は金属の封孔体で、23はその底板、24,26はガス導入用の開口で、25は活性炭やシリカゲル、ゼオライトなどを用いたフィルタである。
【0033】
28はSUSなどを用いた金属缶で、その下部に純水などの液体の水30を蓄え、ゲル化した水を蓄えても良い。32はくびれ部で、この上部に前記のワッシャ14を支持する。34は粘着性のウレタンエラストマーなどから成る粘着性のリングで、センサ本体4の周囲をシールして、センサ本体4の側面から水が入り込むのを防止する。36は絶縁性のシーリング材で、シーリングテープなどでも良く、金属缶28と封孔体22との間を絶縁しながらシールし、ここからガスが入り込むのを防止する。金属缶28の上部は封孔体22にかしめられている。この結果、検知極8と封孔体22が導通し、対極10と金属缶28が導通し、水漏れや拡散制御孔20以外からのガスの回り込みを防止する。液体の水が水蒸気導入孔16から疎水性導電膜12へ達すると、疎水性導電膜12でブロックされる。
【0034】
図2に水蒸気と検出対象のCOの供給を示す。
【0035】
室温でCOやH2 への感度を得るには、電極8,10に固体電解質を接触させることが好ましく、図3ではPt−C−PTFEなどの電子導電性電極38とセパレータ6との間に、高分子プロトン導電体や側鎖にピリジンなどの塩基性の基を導入した固体水酸イオン導電体などからなる固体電解質膜40を配置する。実施例では、図3の構造を採用して、高分子プロトン導電体膜を用いた。また図4に示すように、Pt−C−PTFEなどに高分子プロトン導電体や固体水酸イオン導電体を混合して、混合導電性電極42としても良い。電極8,10中に固体電解質を添加し、あるいは固体電解質膜40を設けると、CO等の電極反応が容易になり、硫酸を用いずにかつ−10℃などの低温でも、CO等への感度を得ることができる。実施例では検知極と対極の2極のセンサとしたが、他に参照極を設けても良い。
【0036】
対極10は金属酸化物や金属水酸化物からなる酸化剤(活物質)で構成しても良い。対極10には、MnO2やNiO(OH)あるいはPbO2,ZnOなどを、多孔質のカーボンペーパーにPTFEバインダーなどで支持させたものを用い、
MnO2+2H2O+2e−→Mn(OH)2+2OH− (2)
MnO2+2H++2e−→Mn(OH)2 (3)
NiO(OH)+H++e−→Ni(OH)2 (4)
PbO2+2H++2e−→PbO+H2O (5)
などの反応により、対極10で水酸イオンを生成し、あるいは検知極8で生成したプロトンを消費する。
【0037】
セパレータ6に保持させる電解質は、アルカリ金属水酸化物、特に好ましくはNaOH,KOHや、潮解性が無く水に可溶の塩の水溶液、あるいは純水とする。電解液の濃度は、KOH水溶液等のアルカリ電解質では、例えば0.01〜1M(mol/dm3)、より広くは0.001〜3Mとし、特に断らない場合は0.1Mとした。またMgSO4などの水溶液の場合は、電解液の濃度は例えば5wt%とした。潮解性のない塩としては、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩、硫酸マグネシウムアンモニウムや硫酸マグネシウムカリウムなどの複塩、塩化亜鉛や塩化アンモニウム、あるいはこれらの混合物、酢酸ナトリウムなどがある。
【最適実施例】
【0038】
図5〜図15に最適実施例を示す。測定温度は特に断らない場合は室温で、セパレータはポリアミドセパレータ(n/(n+m+p)=1×10−2)であり、電解液は0.1MのKOHで、センサ本体の構造は図3のものである。ポリアミドセパレータに代えて、PP樹脂のセパレータ(n/(n+m)=1×10−2)を用いると、室温並びに−10℃での特性は同等であったが、60℃×95%RHでの耐久性はポリアミドセパレータに僅かに劣った。水溜の水は純水を用いたが、ゲル化剤にシリカ微粒子(1次粒径5〜50nm)を用いたゲル化水(含水量80wt%)でも同等の特性が得られた。このシリカ微粒子は珪素化合物を気相で分解した乾式法のシリカで、水を加えるとシリカの3次元ネットワークを形成して、ゲル化する。各図には4個〜5個のガスセンサの出力、またはその平均値を示す。ガスセンサの両極間の電流を増幅し、正常空気中で1Vの出力となるようにバイアスを加えたものを、センサ出力とした。なお図9,12,13,15では、両極間の電流を出力とした。
【0039】
比較例として、スルホン化していないポリアミド樹脂のセパレータを用いたもの(図7,図8)、セパレータとその上下の2枚のプロトン導電体膜に代えて、1枚のプロトン導電体膜(ゴアジャパン株式会社会社製の商品名PRIMEA:PRIMEAは登録商標)を用いたものを用いた。
【0040】
スルホン化していない親水性の低いセパレータを用いると、COにもH2にも感度が得られず(図7,図8)、スルホン化したセパレータを用いるとCOやH2への感度が得られた(図5,図6)。この現象はKOH電解液に限らず、MgSO4電解液でも、電解質を加えない純水をセパレータに保持させたときでも、同様であった。またセパレータは、PTFEとビニルアルコールのコポリマーなどの、ポリビニルアルコール系でアルコール性水酸基を多量に含むセパレータでも、同様の特性が得られた。セパレータの親水性を増すことにより、ガス感度が発現するのは、親水性が増して電解液の連続したチャネルが形成されることなどのためと考えられる。
【0041】
図9に、固体電解質膜を用いたガスセンサと、液体電解質を用いたガスセンサとの感度を示す。電解液により固体電解質よりも高い感度が得られた。なお図でEtOH(エタノール)やプロパンへの感度がないのは、フィルタで吸着されるためである。またメタンにはフィルタ無しでも感度がない。
【0042】
図10は0.1MのKOHでのCO感度を、図11は0.01MのKOHでのCO感度を示す。0.1Mで0.01Mよりも感度が僅かに高く、また感度のばらつきが小さい。KOHの好ましい濃度は0.01M〜3Mで、KOHは一部が空気中のCO2と反応して、炭酸水素カリウムなどに変化していることが考えられるが、特性への影響は見られなかった。
【0043】
図12は室温での経時特性を示す。22週間の間、出力は安定である。
【0044】
図13は、60℃95%RHの雰囲気でガスセンサを8週間エージングし、1週間毎にガスセンサをエージング槽から取り出し、室温でCO感度を測定した結果を示す。60℃95%RHでのエージングで、劣化は見られなかった。
【0045】
図14は−10℃でのCO感度を示し、この温度でもCOを検出できた。
【0046】
図15は、プロトン導電体膜を用いた比較例と電解液を用いた実施例での、温度依存性を示す。基準のI0は20℃での出力電流である。実施例の方が温度依存性は小さく、電解液を用いたセパレータは、プロトン導電体膜に比べ高抵抗であるが、イオン種の移動度の温度依存性が小さいものと考えられる。
【ゲル化水を用いた実施例】
【0047】
ゲル化水を用いた実施例を図16〜図23に示す。これらの例では、対極側には疎水性導電膜に変えて、疎水性の低いカーボンペーパーを用いた。また粘着性リングとシーリング材を用いず、ガスケットで金属缶とガスケットとを絶縁した。さらにセパレータはスルホン化したPPセパレータであった。図16〜図23のデータを得る過程で、種々の有機ポリマーをセパレータとしたが、ガス感度の有るセパレータと無いセパレータ(図7,図8)とがあった。当初原因が不明であったが、後にスルホン酸基などのイオン交換基の有無が原因であることが判明した。さらにその後、スルホン酸基に代えて、ポリビニルアルコール系などのアルコール性水酸基を含むセパレータでも同等の特性が得られることが判明し、セパレータの親水性の程度によりガス感度の有無が定まることが判明した。そして界面活性剤で表面処理した程度の親水性では不十分で、ポリマー自体が親水性基を含む必要があることが判明した。
【0048】
シリカの微粒子として、SiCl4などを気相で加水分解して得た、シリカの微粒子を用いた。この微粒子の粒径は5〜50nm程度で球状で、乾燥時の嵩密度は50〜100g/dm3程度で、比表面積は200m2/g程度である。このシリカの微粒子に水を加えながら、みずほ工業(株)製のウルトラミキサーなどで、せん断力を加えながら撹拌した。この間に、せん断力によりシリカ微粒子のネットワークが崩れて、見掛けの粒径は10〜100μmから例えば1μm以下のものを含むように減少し、撹拌を終えて静置すると、チクソトロピーによりゲル化した。静置によりゲル化剤粒子の見掛けの平均粒径は再度10μm以上へと増加した。これはシリカ微粒子のチェーンが撹拌により崩れて、静置により再度チェーンが成長して3次元のネットワークが形成されたことを示している。そして新たに形成されたネットワークの内部に、つまりシリカのチェーンとチェーンとの間を満たすように、液体の水が保持されたものと考えられる。
【0049】
得られたゲルは安定で、放置してもゾル化せず、得られたゲルをそのままの形状で、あるいは円柱状やサイコロ状などの所望の形状にカットして、金属缶28に収容する。ゲルの組成は、例えば乾式シリカ微粒子が20wt%、水が80wt%とする。なおゲルの組成は好ましくはゲル化剤が10〜30wt%とし、より好ましくは18〜25wt%とし、残部は水である。
【0050】
各種のゲル化水を評価した。合成高分子のゲル化剤としてポリアクリル酸を用い、また天然高分子のゲル化剤としてカラギーナン(澱粉系の多糖類)を用い、これらの重量の5倍の水を加えてゲル化させた。また実施例では乾式法のシリカ微粒子を用い、ゲル化剤の4倍重量の水を加えてゲル化させた。これらのゲル化剤を用いたゲルを水溜33にセットし、ガスセンサ2を70℃で1週間保管した。ポリアクリル酸やカラギーナンを用いたゲルでは、1週間経過するとゲルの形状が崩れて水蒸気導入孔30の付近にゲルが付着し、COに対する感度が低下した。これに対して実施例ではゲル34は形崩れせず、ワッシャ28へのゲルの付着も見られず、COに対するガス濃度特性の変化も見られなかった。
【0051】
カラギーナンなどの天然高分子ゲル化剤では、ゲルに指で触って1週間室温に放置すると、雑菌がゲルの全面に拡がっていることが認められた。これに対して微粒子のシリカをゲル化剤とするゲルでは、指で触ってもその位置にのみ雑菌が繁殖し、他の位置まで雑菌が拡がることはなかった。これは無機物の微粒子をゲル化剤とすると、雑菌のエネルギー源がゲルに含まれていないので、増殖できないことを意味する。このように無機物の微粒子を用いたゲル化剤では、防腐剤を添加する必要がない。
【KOH電解質でMnO2対極での特性】
【0052】
図16に、1M濃度のKOH水溶液を電解液とし、検知極をカーボンブラックにPt触媒を担持させ、Nafion溶液(Nafionは固体高分子プロトン導電体へのデュポン社の登録商標)を含浸させたものとし、対極をカーボンペーパーにMnO2を支持させたものとした際の、センサの特性を示す。センサの数nは4で、測定温度は20℃である。
【MgSO4電解質での特性】
【0053】
図17〜図23に、5wt%のMgSO4水溶液を電解質として用いた際の特性を示す。検知極や対極はカーボンブラックにPtを担持させてNafion溶液を含浸させたものとしたが、図17,図23では対極にカーボンペーパーにMnO2を支持させたものを用いた。検知極でのカーボンブラックとPtの合計重量と、Nafionの乾燥重量との比は4:1〜5:1程度であった。センサの数nを図示し、測定温度は図20〜図22以外は20℃で、検知極と対極間の電流を増幅して出力電圧とし、清浄空気中で出力が1Vとなるようにバイアスを加えた。増幅回路のバイアスや増幅率などはどの図でも共通である。測定対象ガスはCO等である。電解質はZnCl2やZnCl2+ NH4Clなどでも良い。
【0054】
図17での対極はMnO2,図18ではPtで、MnO2対極ではPt対極よりも高い感度が得られた。対極にPbO2やNiO(OH)を用いた場合でも、Pt触媒を用いた対極よりも一般に感度が高かった。
【0055】
図19〜図21に、周囲温度への依存性を示す。センサの数nは4で、測定温度は20℃,60℃,−10℃の3種類である。温度依存性は小さく、サーミスタなどで容易に補償できる範囲で、このことは対極にMnO2を用いた場合も同様であった。
【高温耐久特性】
【0056】
図22に、電解質を5wt%濃度のMgSO4とし、検知極,対極共にカーボンブラックにPtを担持させた触媒を用い、Nafion溶液を含浸させた際の高温高湿耐久特性を示す。5個のセンサを60℃,相対湿度95%の雰囲気で保管し、測定時に20℃常湿の雰囲気に戻し、各ガス濃度に対する出力を測定した。60℃,95%の雰囲気で4週間エージングしても、センサ出力の変動は僅かである。図22にはPt対極の例を示したが、MnO2対極の場合も同様であった。
【0057】
図23に、5wt%のMgSO4水溶液を電解質とし、検知極にPtを担持したカーボンブラックにNafion溶液を含浸させたものを用い、対極にMnO2を用いた場合の、水素とCOへの相対感度を示す。なお水素とCO以外のガス成分はN2である。水素に対するCOの相対感度は極めて高く、また対極にMnO2を用いるので、酸素のない雰囲気でも水素中のCOを検出できる。なお水素中のCOを検出する場合、検知極の被毒を防止するため、検知極触媒をPt−RuO2などの酸化ルテニウムを含有する触媒とすることが好ましい。
【水素中のCOの検出】
【0058】
図24に、水素中のCOを検出するための構成を示す。50は水素管で燃料電池などに水素を供給するためのパイプとし、バルブ51で雰囲気を周囲の空気と水素の間で切り換え自在にし、試験室52にガスセンサ2を配置して、吸引ポンプ53で検知対象ガスを吸引する。そして間欠的に水素を吸引して水素中のCO濃度を測定し、測定が終わるとバルブ51から空気あるいは酸素などを導入して、検知極に蓄積したCOを除去する。図23,図24では水素中のCOの測定を示したが、窒素中のCOやその他の可燃性ガスなどの検出も同様に行える。
【技術分野】
【0001】
この発明は液体電気化学ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体のプロトン導電体膜を用いたガスセンサが知られている(特許文献1,7)。そしてこのガスセンサでは、プロトン導電体膜を一対の電極に挟み込み、水溜から水蒸気を供給する。発明者はその後、固体のプロトン導電体膜を用いたガスセンサの構造を、液体電解質を用いたガスセンサに転用することを検討した。
【0003】
液体電解質を用いたガスセンサでは、電解質をセパレータに保持し、電解質の液溜からウィックを介して電解質を補給する。電解質には硫酸が用いられるため、金属ハウジングを用いることができず、また高湿雰囲気などで硫酸が吸湿して液溜からあふれ出すことがある。
【0004】
特許文献2は、ウィックを用いない液体電気化学ガスセンサを提案している。ここでは硫酸を水溜に蓄え、高湿時に吸湿し、低湿時に放湿するようにして、ガスセンサ内の湿度をほぼ一定にする。この結果、セパレータの電解液が乾燥するのを防止できる。また特許文献3は、LiClなどの潮解性塩を水溜にセットし、ガスセンサ内の湿度をほぼ一定にすることを提案している。しかし硫酸や潮解性塩を用いると、高温多湿の雰囲気などで、水溜から電解液があふれ出すおそれがある。
【0005】
さらに特許文献4は、ペーパー状のガラスフィルターにコロイダルシリカとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とを担持させたセパレータを開示している。ここでは、コロイダルシリカによって電解液を保持するための親水性のチャネルが、PTFEによってガスが拡散するための疎水性のチャネルが得られるとされている。
【0006】
特許文献5は、KOHもしくはH2SO4電解液を用いたO2センサを開示し、KOHでは特性がドリフトするとしている。
【0007】
特許文献6は、MgSO4水溶液を用いたCOセンサを開示している。
【特許文献1】WO 02/097420A1
【特許文献2】WO 01/14864A1
【特許文献3】USP5958200
【特許文献4】USP4587003
【特許文献5】USP5240893
【特許文献6】USP5302274
【特許文献7】USP6200443
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、硫酸を用いない新規な液体電気化学ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の液体電気化学ガスセンサは、電解液を多孔質のセパレータに保持し、該セパレータに少なくとも検知極と対極とを接続し、水溜から水蒸気を前記セパレータに補給するようにしたガスセンサにおいて、前記セパレータが、水もしくはアルカリ金属水酸化物の水溶液あるいは潮解性のない水に可溶な塩の水溶液を支持している、親水性の有機ポリマーであることを特徴とする。
好ましくは、前記セパレータがアルカリ金属水酸化物の水溶液もしくは純水を支持し、かつ検出対象ガスが還元性ガスである。
【0010】
また好ましくは、セパレータと検知極との間に固体電解質膜を配置する。
好ましくは、前記対極が、Mn,Ni,Pb,Znの酸化物もしくは水酸化物である。
【0011】
ガスセンサの構造では好ましくは、開口と底部とを有する金属缶の開口と底部との間にくびれ部を設けて、開口を有する金属ワッシャを前記くびれ部で支持し、かつ該金属ワッシャ上に、少なくとも前記対極とセパレータと検知極とを配置し、金属ワッシャと金属缶の底部との間に水を収容する。
【0012】
検出対象としては、例えば水素中のCOや不活性ガス中の還元性ガスも検出できる。
【0013】
セパレータは特に好ましくは、スルホン酸基のアルカリ金属塩やアルコール性水酸基を含有する有機ポリマーとし、これ以外に、カルボキシル基のアルカリ金属塩、ホスホン酸基のアルカリ金属塩やアルカリ土類塩、フェノール基、アミノ基やイミド基、およびこれらの誘導体で親水化した有機ポリマーなどでも良い。ポリマー中の親水性基の水素イオンは他の陽イオンで置換することが好ましく、このことをケン化と呼び、ケン化にはアルカリ金属イオンが好ましいが、アルカリ土類イオンや、アンモニウムイオンあるいはその誘導体なども用い得る。
【0014】
発明者は、スルホン酸基のアルカリ金属塩やアルコール性水酸基などにより親水化した有機ポリマーからなるセパレータを用いると、電解液をKOH,NaOHなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液としても、あるいは電解液を純水、脱イオン水などの単なる水としても、CO,H2などの還元性ガスを検出できることを見出した。なお親水性の高いセパレータに水を満たすと、セパレータには僅かな導電性が生じる。この導電性は検知極や対極と電解液との間のイオンの移動と関係するものと考えられる。さらに純水と脱イオン水とは異なる用語であるが、この発明で電解質の含有量が重要なので、純水は脱イオン水を含むものとする。
【0015】
セパレータの形状は不織布や微孔を備えた膜、あるいは織布などとし、基礎となる材質はPP(ポリプロピレン)やポリアミド樹脂、PTFE樹脂などの合成樹脂とする。ポリアミド樹脂の場合、耐熱性を増すため、NH基をN−φ(φはフェニル基)に変えた変成ポリアミド樹脂が好ましい。
【0016】
この発明では硫酸無しでCOやH2への感度が得られ、このため金属パッケージを用いることができ、また高湿雰囲気でも硫酸があふれ出さない。さらに電解液にはKOHなどのアルカリ金属水酸化物などのアルカリ性電解液を用いることができ、COなどに安定した感度が得られた。また電解液には、イオン交換水などの単なる水や、MgSO4などの潮解性のない水に可溶な塩の水溶液も用いることができる。電解液のPHは例えば4以上とし、好ましくは6以上で、特に好ましくは7以上とする。
【0017】
電解液に硫酸を用いると、検知極でのCOや水素などの酸化反応が簡単に進行するが、中性やアルカリ性の電解液では、検知極でCOや水素などを酸化して電解液中にプロトンとして移動させるのが難しい。このため低温でのガス感度が小さい。これに対して、検知極とセパレータとの間に、あるいはセパレータの両面と検知極や対極との間に、固体のプロトン導電体膜や水酸イオン導電体膜を配置すると、低温でのガス感度が増す。
【0018】
COなどの還元性ガスを検出する場合、検知極での生成物はプロトンである。水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の場合、検知極から電解質に注入されたプロトンと中和するように、検知極と電解質の界面へ水酸イオンが移動し、対極で(1)の反応が生じていると考えることができる。
2H2O+O2+4e−→4OH− (1)
【0019】
検知極、対極ともにPt,Pt−RuO2,Pd,Au,金属酸化物などの触媒電極でも良いが、対極をMn,Ni,Pb,Znの酸化物もしくは水酸化物とするとコスト的に有利である。また酸化物や水酸化物の対極では、酸素のない雰囲気でも還元性ガスを検出できる。さらにこの発明のガスセンサでは、水素に比べてCOの感度を高くできるので、燃料電池用に水素中のCOの検出を行うことができる。
【0020】
この発明では、ウィックで電解液をセパレータに補給しないでも、水蒸気でセパレータを加湿するだけで、感度が得られる。そこでガスセンサの構造では例えば、開口と底部とを有する金属缶の開口と底部との間にくびれ部を設けて、開口を有する金属ワッシャを前記くびれ部で支持し、かつ該金属ワッシャ上に、少なくとも前記対極とセパレータと検知極とを配置し、金属ワッシャと金属缶の底部との間に水を収容する。水は液体の水でもゲル化した水でも良い。
【0021】
検出対象ガスは例えばCOや水素、アルコール、アルデヒド、硫化水素、アンモ二アなどの還元性ガスとし、水素中のCOや不活性ガス中の還元性ガスなども検出できる。
【発明の効果】
【0022】
この発明では以下の効果が得られる。
(1) 硫酸を電解液に用いないので、金属缶をパッケージに用いることができ、また高湿雰囲気で硫酸があふれ出すことがない。
(2) KOH水溶液などのアルカリ性ないしは純水などの中性の電解液を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例の液体電気化学ガスセンサの断面図である。
【図2】図2は、実施例の液体電気化学ガスセンサのセンサ本体とその周囲を示す断面図である。
【図3】図3は、実施例の液体電気化学ガスセンサのセンサ本体とその周囲を示す断面図である。
【図4】図4は、変形例の液体電気化学ガスセンサのセンサ本体とその周囲を示す断面図である。
【図5】図5は、スルホン化したセパレータを用いた実施例での、CO30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図6】図6は、図5と同じ条件での、H2 30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図7】図7は、親水性の低いセパレータを用いた従来例での、CO30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図8】図8は、親水性の低いセパレータを用いた従来例での、H2 30〜1000ppmへの室温での応答を示す特性図である。
【図9】図9は、固体プロトン導電性電解質を用いた従来例と、スルホン化したセパレータにKOH水溶液膜を支持させた実施例との、各種ガスへの応答電流を示す特性図である。
【図10】図10は、0.1MKOH水溶液を用いた実施例での、COへの応答を示す特性図である。
【図11】図11は、0.01MKOH水溶液を用いた実施例での、COへの応答を示す特性図である。
【図12】図12は、実施例のガスセンサの22週間の特性を示す特性図である。
【図13】図13は、高温高湿雰囲気(60℃×95%RH)での、実施例ガスセンサの耐久性能を示す特性図である。
【図14】図14は、−10℃での実施例のガスセンサのCOへの応答を示す特性図である。
【図15】図15は、固体プロトン導電性電解質を用いた従来例と実施例との、ガスセンサの周囲温度依存性を示す特性図である。
【図16】図16は、KOH/Pt−MnO2系での20℃での特性図である。
【図17】図17は、MgSO4/Pt−MnO2系での種々のCO濃度への応答を示す特性図である。
【図18】図18は、MgSO4/Pt−Pt系での種々のCO濃度への応答を示す特性図である。
【図19】図19は、MgSO4/Pt−Pt系での20℃での特性図である。
【図20】図20は、MgSO4/Pt−Pt系での60℃での特性図である。
【図21】図21は、MgSO4/Pt−Pt系での−10℃での特性図である。
【図22】図22は、MgSO4/Pt−Pt系ガスセンサを60℃相対湿度95%で保存した際の特性図である。
【図23】図23は、MgSO4/Pt−MnO2系ガスセンサでの、H2中のCOへの応答特性を示す特性図である。
【図24】図24は、水素中のCOを測定する装置のレイアウトを示す図である。
【符号の説明】
【0024】
2 液体電気化学ガスセンサ
4 センサ本体
6 セパレータ
8 検知極
10 対極
12 疎水性導電膜
14 ワッシャ
16 水蒸気導入孔
18 拡散制御板
20 拡散制御孔
22 封孔体
23 底板
24,26 開口
25 フィルタ
28 金属缶
30 水
32 くびれ部
34 粘着性リング
36 シーリング材
38 電子導電性電極
40 固体電解質膜
42 混合導電性電極
50 水素管
51 バルブ
52 試験室
53 吸引ポンプ
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0026】
図1〜図24に、実施例とその変形を示す。実施例ではセパレータをスルホン化するものを示すが、カルボキシル化などでも良く、あるいはアルコール性水酸基を含むセパレータなどでも良い。なおスルホン酸基はスルホン酸のアルカリ金属塩で存在している。図1において、2は液体電気化学ガスセンサで、4はセンサ本体であり、セパレータ6の表裏に検知極8と対極10とを設けてある。セパレータ6は多孔質で電解液を保持し、例えば厚さ0.1mm程度、直径は5〜20mm程度である。セパレータ6は、例えば合成繊維の織布や不織布などからなり、スルホン化やアルコール性水酸基の導入などで親水化してある。以下、スルホン化を例に実施例を説明する。
【0027】
セパレータの有機ポリマーが(A−SO3X)n−(B)mの有機ポリマーとRpの有機ポリマーとからなるものとする。ここにA,B,Rはモノマーを表し、nは1以上の整数を,m,pは0以上の整数を表し、Xは例えばアルカリ金属イオンである。例えば有機ポリマーが−(A−SO3X)−と−B−のコポリマーとすると、pは0で、n/(n+m)を例えば5×10−4〜4×10−2が好ましい。なお(A−SO3X)n−(B)mの表示は、(A−SO3X)がnブロック続き、Bがmブロック続くことを意味するのではなく、ブロック(A−SO3X)とブロックBの比がn:mであることを意味する。セパレータの有機ポリマーが(A−SO3X)n−(B)mと別の有機ポリマーRpとの混合物の場合は、n/(n+m+p)が5×10−4〜4×10−2が好ましい。n/(n+m)(R成分が無い場合)、あるいはn/(n+m+p)(R成分が有る場合)は、5×10−3〜1.5×10−2が特に好ましい。
【0028】
スルホン化の程度は、ポリアミド繊維をスルホン化したSBR(スチレンブタジエンゴム)で結着した不織布では、例えば前記のn/(n+m+p)で約0.01であり、SBRのみに着目するとn/(n+m)は約0.05である。PP(ポリプロピレン)の多孔質膜などの場合、pは例えば0で、n/(n+m+p)は例えば5×10−4〜4×10−2程度となる。ポリアミド系でもPP系でも、n/(n+m+p)は例えば5×10−4〜4×10−2程度、好ましくは5×10−3〜1.5×10−2程度とする。
【0029】
セパレータ6の比較例として、スルホン化していないSBR結着剤を用いたポリアミド樹脂の不織布を、界面活性剤(材質不明)で処理したもの(三菱製紙製の商品名WO−DO)を用いた。実施例として、上記のポリアミド樹脂の不織布で、結着剤をスルホン化したSBRに変えたもの(ポリアミドセパレータ、n/(n+m+p)は0.01、三菱製紙製)を用いた。また他の実施例として、PP(ポリプロピレン)の多孔質膜をn/(n+m)が0.01にスルホン化したもの(PPセパレータ、日本高度紙工業製の商品名SFLD50S)を用いた。この程度のスルホン化ではn/(n+m)の値が低いため、プロトン導電体ということはできず、通常のプロトン導電体ではn/(n+m)の値は、デュポン社のNafion膜(Nafionは登録商標)で0.12、ダウ社のX膜(X膜は登録商標)で0.14〜0.09である。また表1に示すようにセパレータ自体の導電性は低く、通常のプロトン導電体膜の1/1000程度である。
【0030】
PPセパレータとポリアミドセパレータ(直径10mm)に電解液を保持させて、PH試験紙でPHを測定すると共に、表裏の抵抗を測定した。結果を表1に示す。スルホン化してもセパレータは中性であるが、純水でも導電性が生じている。セパレータのスルホン酸基はNa+イオン等のアルカリ金属イオンやアンモニウムイオン、特にアルカリ金属イオンでケン化されているから、純水中にNa+イオン等が溶出していることが考えられるが、その濃度はアルカリ換算で1/100M以下である。またKOHなどを用いる場合でも、その一部がKHCO3やK2CO3に変化していることがある。そこで電解質は、3M以下のアルカリ金属イオンを含むアルカリ性水溶液〜純水が好ましい。
【0031】
表1 セパレータの物性
PH 抵抗
ポリアミドセパレータ PPセパレータ ポリアミドセパレータ
乾燥状態 − − ∞
純水 7 7 6KΩ
0.1M KOH 13 13 500Ω
1M KOH 14 14 50Ω
【0032】
検知極8は、例えばPt担持のカーボンブラックとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)バインダの混合物からなり、Ptに代えてPt−RuO2やPdその他の適宜の電極触媒を用いることができる。対極10は検知極8と同様の組成の電極である。12は疎水性導電膜、14はSUSなどの金属ワッシャ、16は例えば直径1〜3mm程度の水蒸気導入孔、18は厚さ100μm程度のSUSなどの金属の薄板の拡散制御板で、直径0.1mm程度の拡散制御孔20を備えている。薄い拡散制御板18に拡散制御孔20を設けることにより、拡散制御孔20の孔径を一定にし、ガス感度のばらつきを小さくできる。22は金属の封孔体で、23はその底板、24,26はガス導入用の開口で、25は活性炭やシリカゲル、ゼオライトなどを用いたフィルタである。
【0033】
28はSUSなどを用いた金属缶で、その下部に純水などの液体の水30を蓄え、ゲル化した水を蓄えても良い。32はくびれ部で、この上部に前記のワッシャ14を支持する。34は粘着性のウレタンエラストマーなどから成る粘着性のリングで、センサ本体4の周囲をシールして、センサ本体4の側面から水が入り込むのを防止する。36は絶縁性のシーリング材で、シーリングテープなどでも良く、金属缶28と封孔体22との間を絶縁しながらシールし、ここからガスが入り込むのを防止する。金属缶28の上部は封孔体22にかしめられている。この結果、検知極8と封孔体22が導通し、対極10と金属缶28が導通し、水漏れや拡散制御孔20以外からのガスの回り込みを防止する。液体の水が水蒸気導入孔16から疎水性導電膜12へ達すると、疎水性導電膜12でブロックされる。
【0034】
図2に水蒸気と検出対象のCOの供給を示す。
【0035】
室温でCOやH2 への感度を得るには、電極8,10に固体電解質を接触させることが好ましく、図3ではPt−C−PTFEなどの電子導電性電極38とセパレータ6との間に、高分子プロトン導電体や側鎖にピリジンなどの塩基性の基を導入した固体水酸イオン導電体などからなる固体電解質膜40を配置する。実施例では、図3の構造を採用して、高分子プロトン導電体膜を用いた。また図4に示すように、Pt−C−PTFEなどに高分子プロトン導電体や固体水酸イオン導電体を混合して、混合導電性電極42としても良い。電極8,10中に固体電解質を添加し、あるいは固体電解質膜40を設けると、CO等の電極反応が容易になり、硫酸を用いずにかつ−10℃などの低温でも、CO等への感度を得ることができる。実施例では検知極と対極の2極のセンサとしたが、他に参照極を設けても良い。
【0036】
対極10は金属酸化物や金属水酸化物からなる酸化剤(活物質)で構成しても良い。対極10には、MnO2やNiO(OH)あるいはPbO2,ZnOなどを、多孔質のカーボンペーパーにPTFEバインダーなどで支持させたものを用い、
MnO2+2H2O+2e−→Mn(OH)2+2OH− (2)
MnO2+2H++2e−→Mn(OH)2 (3)
NiO(OH)+H++e−→Ni(OH)2 (4)
PbO2+2H++2e−→PbO+H2O (5)
などの反応により、対極10で水酸イオンを生成し、あるいは検知極8で生成したプロトンを消費する。
【0037】
セパレータ6に保持させる電解質は、アルカリ金属水酸化物、特に好ましくはNaOH,KOHや、潮解性が無く水に可溶の塩の水溶液、あるいは純水とする。電解液の濃度は、KOH水溶液等のアルカリ電解質では、例えば0.01〜1M(mol/dm3)、より広くは0.001〜3Mとし、特に断らない場合は0.1Mとした。またMgSO4などの水溶液の場合は、電解液の濃度は例えば5wt%とした。潮解性のない塩としては、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩、硫酸マグネシウムアンモニウムや硫酸マグネシウムカリウムなどの複塩、塩化亜鉛や塩化アンモニウム、あるいはこれらの混合物、酢酸ナトリウムなどがある。
【最適実施例】
【0038】
図5〜図15に最適実施例を示す。測定温度は特に断らない場合は室温で、セパレータはポリアミドセパレータ(n/(n+m+p)=1×10−2)であり、電解液は0.1MのKOHで、センサ本体の構造は図3のものである。ポリアミドセパレータに代えて、PP樹脂のセパレータ(n/(n+m)=1×10−2)を用いると、室温並びに−10℃での特性は同等であったが、60℃×95%RHでの耐久性はポリアミドセパレータに僅かに劣った。水溜の水は純水を用いたが、ゲル化剤にシリカ微粒子(1次粒径5〜50nm)を用いたゲル化水(含水量80wt%)でも同等の特性が得られた。このシリカ微粒子は珪素化合物を気相で分解した乾式法のシリカで、水を加えるとシリカの3次元ネットワークを形成して、ゲル化する。各図には4個〜5個のガスセンサの出力、またはその平均値を示す。ガスセンサの両極間の電流を増幅し、正常空気中で1Vの出力となるようにバイアスを加えたものを、センサ出力とした。なお図9,12,13,15では、両極間の電流を出力とした。
【0039】
比較例として、スルホン化していないポリアミド樹脂のセパレータを用いたもの(図7,図8)、セパレータとその上下の2枚のプロトン導電体膜に代えて、1枚のプロトン導電体膜(ゴアジャパン株式会社会社製の商品名PRIMEA:PRIMEAは登録商標)を用いたものを用いた。
【0040】
スルホン化していない親水性の低いセパレータを用いると、COにもH2にも感度が得られず(図7,図8)、スルホン化したセパレータを用いるとCOやH2への感度が得られた(図5,図6)。この現象はKOH電解液に限らず、MgSO4電解液でも、電解質を加えない純水をセパレータに保持させたときでも、同様であった。またセパレータは、PTFEとビニルアルコールのコポリマーなどの、ポリビニルアルコール系でアルコール性水酸基を多量に含むセパレータでも、同様の特性が得られた。セパレータの親水性を増すことにより、ガス感度が発現するのは、親水性が増して電解液の連続したチャネルが形成されることなどのためと考えられる。
【0041】
図9に、固体電解質膜を用いたガスセンサと、液体電解質を用いたガスセンサとの感度を示す。電解液により固体電解質よりも高い感度が得られた。なお図でEtOH(エタノール)やプロパンへの感度がないのは、フィルタで吸着されるためである。またメタンにはフィルタ無しでも感度がない。
【0042】
図10は0.1MのKOHでのCO感度を、図11は0.01MのKOHでのCO感度を示す。0.1Mで0.01Mよりも感度が僅かに高く、また感度のばらつきが小さい。KOHの好ましい濃度は0.01M〜3Mで、KOHは一部が空気中のCO2と反応して、炭酸水素カリウムなどに変化していることが考えられるが、特性への影響は見られなかった。
【0043】
図12は室温での経時特性を示す。22週間の間、出力は安定である。
【0044】
図13は、60℃95%RHの雰囲気でガスセンサを8週間エージングし、1週間毎にガスセンサをエージング槽から取り出し、室温でCO感度を測定した結果を示す。60℃95%RHでのエージングで、劣化は見られなかった。
【0045】
図14は−10℃でのCO感度を示し、この温度でもCOを検出できた。
【0046】
図15は、プロトン導電体膜を用いた比較例と電解液を用いた実施例での、温度依存性を示す。基準のI0は20℃での出力電流である。実施例の方が温度依存性は小さく、電解液を用いたセパレータは、プロトン導電体膜に比べ高抵抗であるが、イオン種の移動度の温度依存性が小さいものと考えられる。
【ゲル化水を用いた実施例】
【0047】
ゲル化水を用いた実施例を図16〜図23に示す。これらの例では、対極側には疎水性導電膜に変えて、疎水性の低いカーボンペーパーを用いた。また粘着性リングとシーリング材を用いず、ガスケットで金属缶とガスケットとを絶縁した。さらにセパレータはスルホン化したPPセパレータであった。図16〜図23のデータを得る過程で、種々の有機ポリマーをセパレータとしたが、ガス感度の有るセパレータと無いセパレータ(図7,図8)とがあった。当初原因が不明であったが、後にスルホン酸基などのイオン交換基の有無が原因であることが判明した。さらにその後、スルホン酸基に代えて、ポリビニルアルコール系などのアルコール性水酸基を含むセパレータでも同等の特性が得られることが判明し、セパレータの親水性の程度によりガス感度の有無が定まることが判明した。そして界面活性剤で表面処理した程度の親水性では不十分で、ポリマー自体が親水性基を含む必要があることが判明した。
【0048】
シリカの微粒子として、SiCl4などを気相で加水分解して得た、シリカの微粒子を用いた。この微粒子の粒径は5〜50nm程度で球状で、乾燥時の嵩密度は50〜100g/dm3程度で、比表面積は200m2/g程度である。このシリカの微粒子に水を加えながら、みずほ工業(株)製のウルトラミキサーなどで、せん断力を加えながら撹拌した。この間に、せん断力によりシリカ微粒子のネットワークが崩れて、見掛けの粒径は10〜100μmから例えば1μm以下のものを含むように減少し、撹拌を終えて静置すると、チクソトロピーによりゲル化した。静置によりゲル化剤粒子の見掛けの平均粒径は再度10μm以上へと増加した。これはシリカ微粒子のチェーンが撹拌により崩れて、静置により再度チェーンが成長して3次元のネットワークが形成されたことを示している。そして新たに形成されたネットワークの内部に、つまりシリカのチェーンとチェーンとの間を満たすように、液体の水が保持されたものと考えられる。
【0049】
得られたゲルは安定で、放置してもゾル化せず、得られたゲルをそのままの形状で、あるいは円柱状やサイコロ状などの所望の形状にカットして、金属缶28に収容する。ゲルの組成は、例えば乾式シリカ微粒子が20wt%、水が80wt%とする。なおゲルの組成は好ましくはゲル化剤が10〜30wt%とし、より好ましくは18〜25wt%とし、残部は水である。
【0050】
各種のゲル化水を評価した。合成高分子のゲル化剤としてポリアクリル酸を用い、また天然高分子のゲル化剤としてカラギーナン(澱粉系の多糖類)を用い、これらの重量の5倍の水を加えてゲル化させた。また実施例では乾式法のシリカ微粒子を用い、ゲル化剤の4倍重量の水を加えてゲル化させた。これらのゲル化剤を用いたゲルを水溜33にセットし、ガスセンサ2を70℃で1週間保管した。ポリアクリル酸やカラギーナンを用いたゲルでは、1週間経過するとゲルの形状が崩れて水蒸気導入孔30の付近にゲルが付着し、COに対する感度が低下した。これに対して実施例ではゲル34は形崩れせず、ワッシャ28へのゲルの付着も見られず、COに対するガス濃度特性の変化も見られなかった。
【0051】
カラギーナンなどの天然高分子ゲル化剤では、ゲルに指で触って1週間室温に放置すると、雑菌がゲルの全面に拡がっていることが認められた。これに対して微粒子のシリカをゲル化剤とするゲルでは、指で触ってもその位置にのみ雑菌が繁殖し、他の位置まで雑菌が拡がることはなかった。これは無機物の微粒子をゲル化剤とすると、雑菌のエネルギー源がゲルに含まれていないので、増殖できないことを意味する。このように無機物の微粒子を用いたゲル化剤では、防腐剤を添加する必要がない。
【KOH電解質でMnO2対極での特性】
【0052】
図16に、1M濃度のKOH水溶液を電解液とし、検知極をカーボンブラックにPt触媒を担持させ、Nafion溶液(Nafionは固体高分子プロトン導電体へのデュポン社の登録商標)を含浸させたものとし、対極をカーボンペーパーにMnO2を支持させたものとした際の、センサの特性を示す。センサの数nは4で、測定温度は20℃である。
【MgSO4電解質での特性】
【0053】
図17〜図23に、5wt%のMgSO4水溶液を電解質として用いた際の特性を示す。検知極や対極はカーボンブラックにPtを担持させてNafion溶液を含浸させたものとしたが、図17,図23では対極にカーボンペーパーにMnO2を支持させたものを用いた。検知極でのカーボンブラックとPtの合計重量と、Nafionの乾燥重量との比は4:1〜5:1程度であった。センサの数nを図示し、測定温度は図20〜図22以外は20℃で、検知極と対極間の電流を増幅して出力電圧とし、清浄空気中で出力が1Vとなるようにバイアスを加えた。増幅回路のバイアスや増幅率などはどの図でも共通である。測定対象ガスはCO等である。電解質はZnCl2やZnCl2+ NH4Clなどでも良い。
【0054】
図17での対極はMnO2,図18ではPtで、MnO2対極ではPt対極よりも高い感度が得られた。対極にPbO2やNiO(OH)を用いた場合でも、Pt触媒を用いた対極よりも一般に感度が高かった。
【0055】
図19〜図21に、周囲温度への依存性を示す。センサの数nは4で、測定温度は20℃,60℃,−10℃の3種類である。温度依存性は小さく、サーミスタなどで容易に補償できる範囲で、このことは対極にMnO2を用いた場合も同様であった。
【高温耐久特性】
【0056】
図22に、電解質を5wt%濃度のMgSO4とし、検知極,対極共にカーボンブラックにPtを担持させた触媒を用い、Nafion溶液を含浸させた際の高温高湿耐久特性を示す。5個のセンサを60℃,相対湿度95%の雰囲気で保管し、測定時に20℃常湿の雰囲気に戻し、各ガス濃度に対する出力を測定した。60℃,95%の雰囲気で4週間エージングしても、センサ出力の変動は僅かである。図22にはPt対極の例を示したが、MnO2対極の場合も同様であった。
【0057】
図23に、5wt%のMgSO4水溶液を電解質とし、検知極にPtを担持したカーボンブラックにNafion溶液を含浸させたものを用い、対極にMnO2を用いた場合の、水素とCOへの相対感度を示す。なお水素とCO以外のガス成分はN2である。水素に対するCOの相対感度は極めて高く、また対極にMnO2を用いるので、酸素のない雰囲気でも水素中のCOを検出できる。なお水素中のCOを検出する場合、検知極の被毒を防止するため、検知極触媒をPt−RuO2などの酸化ルテニウムを含有する触媒とすることが好ましい。
【水素中のCOの検出】
【0058】
図24に、水素中のCOを検出するための構成を示す。50は水素管で燃料電池などに水素を供給するためのパイプとし、バルブ51で雰囲気を周囲の空気と水素の間で切り換え自在にし、試験室52にガスセンサ2を配置して、吸引ポンプ53で検知対象ガスを吸引する。そして間欠的に水素を吸引して水素中のCO濃度を測定し、測定が終わるとバルブ51から空気あるいは酸素などを導入して、検知極に蓄積したCOを除去する。図23,図24では水素中のCOの測定を示したが、窒素中のCOやその他の可燃性ガスなどの検出も同様に行える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を多孔質のセパレータに保持し、該セパレータに少なくとも検知極と対極とを接続し、水溜から水蒸気を前記セパレータに補給するようにしたガスセンサにおいて、
前記セパレータが、水もしくはアルカリ金属水酸化物の水溶液あるいは潮解性のない水に可溶な塩の水溶液を支持している、親水性の有機ポリマーであることを特徴とする、液体電気化学ガスセンサ。
【請求項2】
前記セパレータがアルカリ金属水酸化物の水溶液もしくは純水を支持し、かつ検出対象ガスが還元性ガスであることを特徴とする、請求項1の液体電気化学ガスセンサ。
【請求項3】
前記セパレータがアルカリ金属水酸化物の水溶液を支持していることを特徴とする、請求項2の液体電気化学ガスセンサ。
【請求項4】
セパレータと検知極との間に固体電解質膜を配置したことを特徴とする、請求項1の液体電気化学ガスセンサ。
【請求項5】
前記対極が、Mn,Ni,Pb,Znの酸化物もしくは水酸化物であることを特徴とする、請求項1の液体電気化学センサ。
【請求項6】
開口と底部とを有する金属缶の開口と底部との間にくびれ部を設けて、開口を有する金属ワッシャを前記くびれ部で支持し、かつ該金属ワッシャ上に、少なくとも前記対極とセパレータと検知極とを配置し、金属ワッシャと金属缶の底部との間に水を収容したことを特徴とする、請求項1の液体電気化学センサ。
【請求項7】
検出対象ガスが、水素中のCOもしくは不活性ガス中の還元性ガスであることを特徴とする、請求項1の液体電気化学ガスセンサ。
【請求項1】
電解液を多孔質のセパレータに保持し、該セパレータに少なくとも検知極と対極とを接続し、水溜から水蒸気を前記セパレータに補給するようにしたガスセンサにおいて、
前記セパレータが、水もしくはアルカリ金属水酸化物の水溶液あるいは潮解性のない水に可溶な塩の水溶液を支持している、親水性の有機ポリマーであることを特徴とする、液体電気化学ガスセンサ。
【請求項2】
前記セパレータがアルカリ金属水酸化物の水溶液もしくは純水を支持し、かつ検出対象ガスが還元性ガスであることを特徴とする、請求項1の液体電気化学ガスセンサ。
【請求項3】
前記セパレータがアルカリ金属水酸化物の水溶液を支持していることを特徴とする、請求項2の液体電気化学ガスセンサ。
【請求項4】
セパレータと検知極との間に固体電解質膜を配置したことを特徴とする、請求項1の液体電気化学ガスセンサ。
【請求項5】
前記対極が、Mn,Ni,Pb,Znの酸化物もしくは水酸化物であることを特徴とする、請求項1の液体電気化学センサ。
【請求項6】
開口と底部とを有する金属缶の開口と底部との間にくびれ部を設けて、開口を有する金属ワッシャを前記くびれ部で支持し、かつ該金属ワッシャ上に、少なくとも前記対極とセパレータと検知極とを配置し、金属ワッシャと金属缶の底部との間に水を収容したことを特徴とする、請求項1の液体電気化学センサ。
【請求項7】
検出対象ガスが、水素中のCOもしくは不活性ガス中の還元性ガスであることを特徴とする、請求項1の液体電気化学ガスセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【国際公開番号】WO2005/047879
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515396(P2005−515396)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012258
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/012258
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
[ Back to top ]