説明

液化ホスゲン中の水分検出器

【課題】液化ホスゲン中に微量に存在する水の量を、簡便且つ迅速に測定するための水分検出器および水分検出方法を提供する。
【解決手段】音波送信手段と、 前記音波送信手段から信号路有効長Lで隔てて設置された音波受信手段と、 音波送信手段から水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波受信手段までを伝播する音波の伝達時間Tを測定する手段と、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速CをL/Tの計算式で算出する手段と、 予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求める手段と を有する、液化ホスゲン中の水分検出器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ホスゲン中の水分検出器および液化ホスゲン中の水分検出方法に関する。より詳細に、本発明は、液化ホスゲン中に微量に存在する水の量を、簡便且つ迅速に測定するための水分検出器および水分検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスゲンは化学工業分野で重要な化合物であり、ポリカーボネート、ポリウレタンなどの合成樹脂の原料となる。ホスゲンは、例えば、一酸化炭素と塩素とを多孔質炭素からなる触媒の存在下で反応させることによって合成される。
ホスゲンは、沸点8.2℃で、常温気体の物質である。ホスゲンは、冷却によって液化され、ボンベ等に詰められて貯蔵保管される。
ホスゲンは、水分と接触すると塩酸と二酸化炭素に分解される。また、常温、乾燥状態では通常の金属を殆ど腐食しないが、水分が存在すると加水分解して塩酸を生じるため多くの金属を侵すようになる。
【0003】
ホスゲンの液化は、冷凍機等でホスゲンを−30℃前後に冷やすことで行われ、そして、高圧タンク等に移送され貯蔵される。ホスゲンの冷却時、移送時、貯蔵時などにおいて多重管などの配管から水が漏洩すると、ホスゲンが加水分解され、金属を侵し、設備トラブルを引き起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−97921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、液化ホスゲン中に微量に存在する水の量を、簡便且つ迅速に測定するための水分検出器および水分検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、液化ホスゲン中の水含有量wを測定し、水含有量wの液化ホスゲン中における音速C(w)を測定し、水含有量wと音速C(w)との検量線を定め、水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを測定し、音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を、水含有量wと音速C(w)との検量線から求めることによって、液化ホスゲン中に微量に存在する水の量を、簡便且つ迅速に測定することができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討した結果、完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含むものである。
〔1〕 音波送信手段と、 前記音波送信手段から信号路有効長Lで隔てて設置された音波受信手段と、 音波送信手段から水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波受信手段までを伝播する音波の伝達時間Tを測定する手段と、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを算出する手段と、 予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求める手段と を有する、液化ホスゲン中の水分検出器。
【0008】
〔2〕 音波送受信手段Aと、 前記音波送受信手段Aから信号路有効長Lで隔てて設置された音波送受信手段Bと、 音波送受信手段Aから水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波送受信手段Bまでを伝播する音波の伝播時間Tabを測定する手段と、 音波送受信手段Bから水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波送受信手段Aまでを伝播する音波の伝播時間Tbaを測定する手段と、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを算出する手段と、 予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求める手段と を有する、液化ホスゲン中の水分検出器。
【0009】
〔3〕 音波送受信手段と、 前記音波送受信手段から信号路有効長Lとなるような距離で隔てて設置された音波反射手段と、 音波送受信手段から水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波反射手段で反射され水含有量未知の液化ホスゲン中を通り前記音波送受信手段に戻ってくるまでの音波の伝播時間Trを測定する手段と、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを算出する手段と、 予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求める手段と を有する、液化ホスゲン中の水分検出器。
【0010】
〔4〕 液化ホスゲン中の水含有量wを測定し、水含有量wの液化ホスゲン中における音速C(w)を測定し、水含有量wと音速C(w)との検量線を定め、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを測定し、 音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を、水含有量wと音速C(w)との検量線から求めることを含む、液化ホスゲン中の水分検出方法。
〔5〕 水を含有しない液化ホスゲン中における音速C(0)を測定し、それを基準値と定め、水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを測定し、基準値C(0)と測定音速Cと差が、閾値を超えたときに信号を発することを含む、液化ホスゲン中の水分検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水分検出器および水分検出方法によって、液化ホスゲン中に微量に存在する水の量を、簡便且つ迅速に測定することができる。本発明に係る水分検出器および水分検出方法によって配管内を流れる液化ホスゲンの水含有量を測定し、その測定値が所定の閾値を超えたときには、危険を知らせ且つ液化ホスゲンの流れを止め、水を多量に含む液化ホスゲンが、水を含んでいないホスゲンに混入するのを防ぎ、装置等の腐食やガス漏洩を未然に防ぐことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】音速の計測原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第一実施形態)
第一実施形態では、貯蔵タンクの側面の一方に、超音波送信用のトランスデューサーAを取り付け、貯蔵タンク側面のもう一方に、超音波受信用のトランスデューサーBを取り付けている。送信に使用する音波は、その周波数によって特に制限されないが、通常は周波数が38〜2400kHz、好ましくは300〜2000kHzである。
貯蔵タンクには含水量未知の液化ホスゲンが貯留されていて、トランスデューサーAから送信された超音波は液化ホスゲン中を伝播しトランスデューサーBに到達し受信される。超音波は、トランスデューサーAから真直ぐにトランスデューサーBに伝わるようにしても良いし、貯蔵タンク内で数回反射させてトランスデューサーAからトランスデューサーBに伝わるようにしても良い。貯蔵タンク内を反射させて伝播させると、超音波が液化ホスゲン中を伝播する時間Tを長くでき、また信号路有効長Lを増加させることができるので、音速の測定精度が高くなる。トランスデューサーAからトランスデューサーBへ伝播する超音波の伝播時間TはトランスデューサーAとトランスデューサーBとを同期させることによって容易に測定可能である。音速Cは、L/Tの計算式で算出することができる。L/Tの算出は周知の計算機等で行うことができる。
そして、予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求めることができる。
【0014】
(第二実施形態)
第二実施形態では、配管の上流部の側面に、超音波送受信用のトランスデューサーAを取り付け、配管の下流部の側面に、超音波送受信用のトランスデューサーBを取り付けている。
配管には含水量未知の液化ホスゲンが流れている。トランスデューサーAから送信された超音波は液化ホスゲン中を伝播しトランスデューサーBに到達し受信される。逆にトランスデューサーBから送信された超音波は液化ホスゲン中を伝播しトランスデューサーAに到達し受信される。超音波は、トランスデューサーA若しくはBから真直ぐにトランスデューサーB若しくはAに伝わるようにしても良いし、配管内で数回反射させてトランスデューサーA若しくはBからトランスデューサーB若しくはAに伝わるようにしても良い。配管内を反射させて伝播させると、超音波が液化ホスゲン中を伝播する時間を長くでき、また信号路有効長Lを増加させることができるので、音速の測定精度が高くなる。伝播時間はトランスデューサーAとトランスデューサーBとを同期させることによって容易に測定可能である。
【0015】
トランスデューサーAからトランスデューサーBへ伝播する超音波は流れに対して順方向のため、追い風状態となる。従って、流れが無いときに比べて超音波が速く伝播する。
逆にトランスデューサーBからトランスデューサーAへ伝播する超音波は流れに対して逆方向のため、向かい風状態となる。従って、流れが無いときに比べて超音波が遅く伝播する。
トランスデューサーAからトランスデューサーBへ伝播する超音波の伝播時間TabおよびトランスデューサーBからトランスデューサーAへ伝播する超音波の伝播時間Tbaは、図1に示すトランスデューサーAおよびトランスデューサーBの配置において、下記の式で表される。
ab=L/(C+Vcosφ)
ba=L/(C−Vcosφ)
式中のLは信号路有効長であり、Cは液化ホスゲン中における音速、Vは液化ホスゲンの流速、φは配管の軸と超音波伝播軸とがなす角度である。
上記の関係から、流速Vは、(L/Tab−L/Tba)/(2×cosφ)の計算式で求めることができる。音速Cは、(L/Tab+L/Tba)/2の計算式で求めることができる。これらの計算処理は周知の計算機等で行うことができる。
そして、予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求めることができる。
【0016】
(第三実施形態)
第三実施形態では、貯蔵タンクの側面に、超音波送受信用のトランスデューサーAを取り付けている。
貯蔵タンクには含水量未知の液化ホスゲンが貯留されていて、トランスデューサーAから送信された超音波は液化ホスゲン中を伝播し貯蔵タンク内で少なくとも1回反射されてトランスデューサーAに戻り受信される。貯蔵タンク内を反射させて伝播させると、超音波が液化ホスゲン中を伝播する時間Trを長くでき、また信号路有効長Lを増加させることができるので、音速の測定精度が高くなる。音速Cは、L/Trの計算式で算出することができる。L/Trの算出は周知の計算機等で行うことができる。
そして、予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求めることができる。
【0017】
本発明に係る液化ホスゲンの水分検出器によって、液化ホスゲン中に微量に存在する水の量を、簡便且つ迅速に測定することができる。上記の実施形態を組み合わせ、算出された水分量を比較することによって、より水分量の検出精度が高くなるとともに、水以外の異物の検出も可能になる。
本発明に係る液化ホスゲンの水分検出器と、弁制御装置などとを連動させることによって、閾値を超える水分が液化ホスゲンから検出された場合に、弁を閉じて、多量に水を含む液化ホスゲンの流れを止め、水の含まれていない液化ホスゲンへの混入を防ぐことができる。また、脱水処理等を行わなければならない多量に水を含む液化ホスゲンを弁の開閉操作によって効率的に選び出すことができる。
【0018】
(第四実施形態)
第一実施形態〜第三実施形態では、液化ホスゲン中の水含有量を定量したが、第四実施形態では、水を含有しない液化ホスゲン中における音速C(0)を測定し、それを基準値と定め、水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを測定し、基準値C(0)と測定音速Cと差が、閾値を超えたときに信号を発することを含む、液化ホスゲン中の水分検出方法である。
音速の測定は、第一実施形態〜第三実施形態と同じ方法で行うことができる。
第四実施形態では、水含有量を定量化するための検量線の代わりに、水を含有しない液化ホスゲン中における音速C(0)を基準値として使用している。そして、水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cの測定値が、この基準値からの偏差で、閾値を超えたときに信号を発し、その信号に応じて、警報を鳴らしたり、弁を閉じたりなどの、操作を行うようにすることができる。信号に応じて行う上記のような操作は手動で行ってもよいし、シーケンス等で自動で行ってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波送信手段と、 前記音波送信手段から信号路有効長Lで隔てて設置された音波受信手段と、 音波送信手段から水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波受信手段までを伝播する音波の伝達時間Tを測定する手段と、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを算出する手段と、 予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求める手段と を有する、液化ホスゲン中の水分検出器。
【請求項2】
音波送受信手段Aと、
前記音波送受信手段Aから信号路有効長Lで隔てて設置された音波送受信手段Bと、
音波送受信手段Aから水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波送受信手段Bまでを伝播する音波の伝播時間Tabを測定する手段と、
音波送受信手段Bから水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波送受信手段Aまでを伝播する音波の伝播時間Tbaを測定する手段と、
水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを算出する手段と、
予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求める手段と を有する、液化ホスゲン中の水分検出器。
【請求項3】
音波送受信手段と、
前記音波送受信手段から信号路有効長Lとなるような距離で隔てて設置された音波反射手段と、
音波送受信手段から水含有量未知の液化ホスゲン中を通り音波反射手段で反射され水含有量未知の液化ホスゲン中を通り前記音波送受信手段に戻ってくるまでの音波の伝播時間Trを測定する手段と、
水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを算出する手段と、
予めに定めておいた液化ホスゲン中の水含有量wと該液化ホスゲン中における音速C(w)との検量線から音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を求める手段と を有する、液化ホスゲン中の水分検出器。
【請求項4】
液化ホスゲン中の水含有量wを測定し、水含有量wの液化ホスゲン中における音速C(w)を測定し、水含有量wと音速C(w)との検量線を定め、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを測定し、 音速Cに対応する液化ホスゲン中の水含有量を、水含有量wと音速C(w)との検量線から求めることを含む、液化ホスゲン中の水分検出方法。
【請求項5】
水を含有しない液化ホスゲン中における音速C(0)を測定し、それを基準値と定め、 水含有量未知の液化ホスゲン中における音速Cを測定し、 基準値C(0)と測定音速Cと差が、閾値を超えたときに信号を発することを含む、液化ホスゲン中の水分検出方法。

【図1】
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