液圧転写印刷用ベースフィルム及びそれを用いた転写方法
【課題】転写特性に優れるうえ、ベースフィルムの脱膜性にも優れ、必ずしも高圧シャワーなどを用いた洗浄工程を必要としない液圧転写印刷用ベースフィルム及び転写方法を提供すること。
【解決手段】ポリビニルアルコール系フィルムからなる液圧転写印刷用ベースフィルムであって、前記ポリビニルアルコール系フィルムを30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【解決手段】ポリビニルアルコール系フィルムからなる液圧転写印刷用ベースフィルムであって、前記ポリビニルアルコール系フィルムを30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面、とりわけ水面に浮かべて使用し、フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルム及びそれを用いた転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水圧転写印刷用ベースフィルムとしては、ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とするポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。そして、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、つぎのようにして水圧転写方法に供されている。すなわち、上記ポリビニルアルコール系フィルム面に所望の意匠を印刷し、上記意匠印刷面を上方にして水面に浮かべ、フィルム上方から被転写体を意匠印刷面に押し当てて被転写体に意匠を転写させることが行われている。被着体に意匠が転写された後は水面より引き上げられ、洗浄工程においてポリビニルアルコール系フィルムが溶解除去されている。
【0003】
一般的にこのような液圧転写方法においては、ベースフィルムが水溶性良好であるため、転写時に被転写体に纏わり付いたベースフィルムを、シャワーなどを使い被転写体に吹き付けて除去するのが一般的であった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−297194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1をはじめとする従来のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いた水圧転写方法では、拡散時間が速いために転写を重ねるにつれ転写槽中のポリビニルアルコール系樹脂濃度が除々に上がり転写槽の管理が必要となり、さらに、転写後の被転写体に纏わりついたフィルムを高圧シャワーで除去する必要があるなど、作業性の点でまだまだ改善の余地が残るものであった。
また、場合によっては転写されたインキが脱膜のための高圧シャワーで脱落するなど、転写後の意匠性の低下を招くことがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、転写特性に優れるうえ、ベースフィルムの脱膜性にも優れ、必ずしも高圧シャワーなどを用いた洗浄工程を必要としない液圧転写印刷用ベースフィルム及び転写方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、ベースフィルムの溶解性や伸展性が大きく関与することを突き止め、ベースフィルムを形成するポリビニルアルコール系フィルムが、これまでの良好な水溶性を示すフィルムと異なり、30℃の水面に90秒間浮かべても拡散や溶解をすることなくフィルム形状が維持され、しかも特定の伸展挙動を示すポリビニルアルコール系フィルムであることが液圧転写後の脱膜性に優れ、高圧シャワーなどで水洗除去する工程を必ずしも必要ではなく、更に、従来のベースフィルムと同様、印刷特性、転写特性(付き廻り性、等)にも優れることを見出し、本発明に完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、ポリビニルアルコール系フィルムからなる液圧転写印刷用ベースフィルムであって、前記ポリビニルアルコール系フィルムを30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルムに関するものである。
また、本発明においては、前記液圧転写印刷用ベースフィルムを用いた転写方法についても提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、転写後のフィルムの脱膜性に優れ、高圧シャワーなどで水洗除去する工程は必ずしも必要ではなく、転写品の製造作業性の点でも良好であり、更に、従来のベースフィルムと同様、印刷特性、転写特性(付き廻り性、等)にも優れた効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルム(以下「ベースフィルム」と称す)は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下「PVA系樹脂」という)を30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%フィルムである。
【0011】
なお、上記PVA系フィルムを30℃の水に浮かべてから90秒後という設定条件に関しては、以下の理由から設定するものである。
【0012】
即ち、フィルムを水面に浮かべると、着水と同時に、フィルムの厚み方向への吸水が始まるため、フィルム全体に皺が発生するが、この皺は吸水がフィルムの上面に達するまで続き、その後、水分が厚み方向に均一に浸透するとフィルムは安定化し、皺は消失する。この皺が消失し、フィルムの面方向の膨潤を安定して計測できるまでに通常約60秒程度を要する。さらに90秒後においてはこれまでのベースフィルムでは拡散状態となってフィルム状態を維持できなくなるところ、本発明においては、転写後の膜除去性を効果的に行えるベースフィルムとして、フィルムを着水してからフィルム状態を維持する必要時間として90秒を設定したものである。
【0013】
そして、上記PVA系フィルムの伸展倍率は、例えば、つぎのようにして測定・算出される。即ち、PVA系フィルムを23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下で100×100mmサイズに切り出し、その中央部分に直径40mmの円を水性ペンで描く。次に、このフィルムを30℃の水を満たした直径430mmの水槽の中央付近に円を描いた面を上にして浮かべる。着水以降、フィルムは膨潤し徐々に伸展し、先にフィルムに描かれた円がフィルムの伸展と共に伸びる。なお、フィルムによっては90秒までに拡散状態となり、水性ペンの線がボケてしまうものもある。次に、水面に浮かべてから90秒後の円の直径を測定し、伸展前の円の直径に対する伸展後の円の直径の割合より伸展倍率を算出する。なお、円の直径はデジタルカメラで撮影し、円の直径を測定する。ただし、円の縦と横の倍率が異なる場合はその平均とする。
【0014】
上記PVA系フィルムの伸展倍率が低過ぎると、転写時にフィルムに皺が入り、高過ぎると、転写後の脱膜性に劣ることとなる。
【0015】
上記PVA系フィルムの伸展倍率の調整に関しては、各種調整方法があげられるが、例えば、使用するPVA系樹脂として比較的高いケン化度のものを用いる方法やPVA系フィルム製膜後に70〜130℃の温度条件にて熱処理を行なう方法、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0016】
次に、本発明のベースフィルムについて述べる。
本発明のベースフィルムは、水溶性のPVA系樹脂から形成されたものであり、具体的にはPVA系樹脂を主成分とするフィルム形成材料を用いてフィルム状に形成されてなる。なお、本発明において、上記「主成分とする」とは、具体的には、フィルム形成材料全体の50重量%以上、特には70重量%以上をPVA系樹脂で占める場合をいい、フィルム形成材料が主成分(PVA系樹脂)のみからなる場合も含める趣旨である。
【0017】
上記PVA系樹脂は、常法に従って、ビニルエステル系化合物を重合し、次いでこれをケン化することにより得られるものである。本発明では、PVA系樹脂は単独のみならず必要に応じて2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
上記ビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられるが、実用上、酢酸ビニルが好適に用いられる。
【0019】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂としては、通常未変性のPVA樹脂を用いることが好ましいが、部分的に変性された変性PVA系樹脂を用いてもよい。変性PVA系樹脂としては、ビニルエステル系化合物に他の単量体を少量共重合させたものが挙げられ、この場合の単量体の割合は本発明の効果を阻害しない範囲であり、例えば10モル%以下、好ましくは7モル%以下である。
【0020】
上記他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、ジアクリルアセトンアミド、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等があげられる。これらの他の単量体は、単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。なお、本発明において、(メタ)アリルとはアリルあるいはメタリル、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味する。
【0021】
そして、上記ビニルエステル系化合物を用いて重合(あるいは共重合)を行うに際しては、特に制限はなく公知の重合方法が用いられるが、通常は、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が行なわれる。また、溶液重合以外に、乳化重合、懸濁重合も可能である。
【0022】
また、重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われ、反応温度は35℃〜沸点、より好ましくは50〜80℃程度の範囲から選択される。
【0023】
つぎに、得られたビニルエステル系重合体をケン化するにあたっては、上記ビニルエステル系重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下にて行なわれる。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等があげられ、上記アルコール中のビニルエステル系共重合体の濃度は、20〜50重量%の範囲内にて適宜選択される。
【0024】
上記ケン化時のアルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートのようなアルカリ触媒を用いることができる。上記アルカリ触媒の使用量は、ビニルエステル系重合体に対して1〜100ミリモル当量の範囲内にて適宜選択すればよい。なお、場合によっては、酸触媒によりケン化することも可能である。
このようにしてPVA系樹脂が得られる。
【0025】
また、PVA系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂を用いることも好ましく、上記側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂は、例えば、(ア)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(イ)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(ウ)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(エ)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0026】
本発明において、PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液の平均粘度は、10〜70mPa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは15〜60mPa・sの範囲である。4重量%水溶液の平均粘度が低すぎるとベースフィルムに意匠(パターン,柄
等)を印刷する際のフィルム強度が不足するため、印刷斑が発生したりする傾向があり、また、ベースフィルムの溶解が促進されて転写時間が短くなるという問題が生じたり、水に浮かべた際のフィルムに印刷された意匠が安定せず、付き廻り性が低下したりする傾向がある。一方、4重量%水溶液の平均粘度が高すぎると印刷された意匠の被転写体への転写時に被転写体と本発明のベースフィルム(意匠が印刷されたベースフィルム)との密着性が低下して、皺や剥離が発生したり、また、水面での膜の伸展を抑制することはできるが、転写時間が遅延したり粘度が高く製膜が困難となる傾向がある。なお、上記4重量%水溶液の20℃における平均粘度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0027】
さらに、上記PVA系樹脂の平均ケン化度が、90モル%以上あることが好ましく。特には93〜99.9モル%、更には95〜99.5モル%、殊には96〜99であることが好ましい。PVA系樹脂の平均ケン化度が低すぎると転写においては問題なくとも、転写後の脱膜性に劣り、転写後に高圧シャワーによる皮膜除去が必要となる傾向がある。なお、平均ケン化度が高すぎると転写時の膨潤が遅くベースフィルムの溶解時間が遅延したり、転写時の膜強度が高いために転写時に折れ皺が発生したり、水面上でカールが大きく発生する等のおそれも若干生じる傾向がある。なお、上記平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0028】
そして、PVA系フィルムのフィルム形成材料としては、先に述べたように、上記PVA系樹脂を主成分とするものであるが、このPVA系樹脂のみからなる場合以外に、このPVA系樹脂に、フィラー、可塑剤、架橋剤を適宜配合してなるものも好ましく用いられる。
【0029】
上記フィラーとしては、例えば、澱粉(各種未加工品だけでなく、エーテル化、酸化、変性品でも良い)やポリメチルメタクリレート等の有機粉末、タルク、雲母、シリカ等の無機粉末等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、澱粉が好適に用いられる。
【0030】
上記PVA系樹脂に配合されるフィラーの配合量は、PVA系樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましく、より好ましくは0.3〜15重量部、特に好ましくは0.5〜10重量部である。フィラーの配合量が少な過ぎると、高精細印刷とりわけグラビア印刷において、ロール状のフィルムが巻き出されるときに滑り性が悪くなり引っかかったり、酷くなるとブロッキングにより印刷時に断紙する傾向があり、逆に多過ぎると、印刷時にフィルム強度が弱くなり断紙したり、PVA系フィルムのヘイズが高くなり色合わせが困難になる傾向がある。
【0031】
上記可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパン等があげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0032】
上記PVA系樹脂に配合される可塑剤の配合量は、PVA系樹脂100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05〜4重量部である。上記可塑剤の配合量が少なすぎると、可塑効果が低く、得られるベースフィルムの破断の原因となる傾向があり、配合量が多すぎると、フィルム面に意匠を印刷する際の寸法安定性が悪く、高精細な印刷が困難となる傾向がある。
【0033】
上記架橋剤としては、PVA系樹脂と架橋反応を起こすものであれば特に限定されず、例えば、ホウ素化合物、無機塩類等をあげることができる。上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)等の他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物等があげられる。
【0034】
また、上記無機塩類としては、(NH4 )2 SO4 、Na2 SO4 、K2 SO4 、ZuSO4 、CuSO4 、FeSO4 、MgSO4 、Al2 (SO4 )3 、KAl(SO4 )2 、NH4 NO3 、NaNO3 、KNO3 、Al(NO3 )3 、NH4 Cl、NaCl、KCl、MgCl2 、CaCl2 、Na3 PO4 、K2 CrO4 、K3 C6 H5 O7 等があげられる。
上記架橋剤の中でも、ホウ砂が好適に用いられる。
【0035】
上記PVA系樹脂に配合される架橋剤の配合量は、PVA系樹脂100重量部に対して、0.05〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部、特には好ましくは0.3〜3重量部である。架橋剤の配合量が少な過ぎると、転写時の付き廻り性が低く、転写時の意匠の歪みが大きくなる傾向にある。逆に多過ぎると、被着体への転写時に皺が発生したり、ベースフィルム製造時の溶液粘度が高くなりすぎる傾向がある。
【0036】
さらに、上記フィルム形成材料には、主成分である上記PVA系樹脂、フィラー、可塑剤及び架橋剤以外に、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0037】
例えば、PVA系フィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として、界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては、特に限定するものではなく、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。
【0038】
上記界面活性剤の含有量については、PVA系樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部であることが好ましく、0.03〜4.5重量部であることがより好ましい。上記界面活性剤の含有量が少なすぎると、製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向があり、逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がある。
【0039】
さらに、本発明の効果を妨げない範囲で、抗酸化剤(フェノール系、アミン系等)、安定剤(リン酸エステル類等)、着色料、香料、増量剤、消泡剤、防錆剤、紫外線吸収剤、さらには他の水溶性高分子化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等の他の添加剤を添加しても差し支えない。
【0040】
本発明のベースフィルムは、例えば、つぎのようにして製造される。
まず、上記特定のPVA系樹脂、フィラー、可塑剤、架橋剤、さらには必要に応じて他の添加剤を所定の配合量にて配合しフィルム形成材料を調製する。つぎに、Tダイからフィルム形成材料を製膜ベルト上または製膜ドラム上に流延させ、乾燥させることによりフィルム状化させ、必要に応じてさらに熱処理することにより製造される。
【0041】
ここで、上記製膜ベルトとは、一対のロール間に架け渡されて走行する無端ベルトを有し、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を無端ベルト上に流延させるとともに乾燥させるものである。上記無端ベルトは、例えば、ステンレススチールからなり、その外周表面は鏡面仕上げが施されているものが好ましい。
【0042】
また、上記製膜ドラムとは、回転するドラム型ロールのことであり、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を1個以上の回転ドラム型ロール上に流延し乾燥させるものである。
乾燥温度について、製膜ベルトを用いる場合は、通常、80〜160℃であることが好ましく、特には90〜150℃が好ましい。乾燥温度が低すぎると乾燥不足となり製品外観を悪化させる傾向があり、高すぎると熱処理が高く水分率が低くなりすぎる傾向がある。
【0043】
また、製膜ドラムを用いる場合は、製膜第一ドラムが通常、80〜100℃であることが好ましく、特には82〜99℃であることが好ましい。乾燥温度が低すぎると乾燥不足となり製品外観を悪化させる傾向があり、高すぎると熱処理が高く水分率が低くなりすぎる傾向がある。ここで、上記製膜第一ドラムとは、Tダイから流れ出たフィルム形成材料が流延される最上流側に位置するドラム型ロールのことである。
【0044】
上記乾燥の後、必要に応じて熱処理が行われるが、かかる熱処理の方法としては、例えば、熱ロール(カレンダーロールを含む)、熱風、遠赤外線、誘電加熱等の方法があげられる。また、熱処理される面は、製膜ベルトまたは製膜ドラムに接する面と反対側となる面が好ましいが、ニップしても問題はない。また、熱処理を施すフィルムの水分含有量は、通常、4〜8重量%程度であることが好ましい。さらに、熱処理された後のフィルムの水分含有量は通常、2〜6重量%であることが好ましい。
【0045】
上記熱処理機による熱処理は、50〜130℃で行うことが好ましく、より好ましくは60〜120℃である。すなわち、上記熱処理の温度が低すぎると、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムに接する面のカールが生じることがあり、印刷および転写工程で不具合となる傾向がみられ、熱処理の温度が高すぎると、フィルムが柔らかくなるため、皺が入らぬように巻き取ろうと引っ張ると長手方向への配向が強まり、印刷は問題なくとも転写の際に意匠が歪んでしまう傾向がみられる。さらに、上記熱処理に要する時間は、熱処理ロールの場合、その表面温度にもよるが、通常0.2〜15秒間、好ましくは0.5〜12秒間とすることが好ましい。上記熱処理は、通常、フィルム乾燥のための乾燥ロール処理に引き続き、別体の熱処理ロールにして通常行われる。
【0046】
上記方法によりPVA系フィルムが得られるが、得られたPVA系フィルムの水分率としては、2〜6重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2.3〜5.5重量%である。水分率が低過ぎると、印刷時に断紙が発生する傾向があり、逆に水分率が高過ぎると、印刷時の見当ズレが生じる傾向がある。なお、PVA系フィルムの水分率は、例えば、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKS−210」)を用いて測定することができる。
【0047】
上記PVA系フィルムの水分率の調整方法としては、例えば、下記に示す方法があげられる。すなわち、下記に示す水分率の調整方法に従い、上記範囲内のPVA系フィルムの水分率に設定することが可能となる。
【0048】
(1)PVA系樹脂を溶解したドープを乾燥して製膜する際の乾燥機温度を上下させてPVA系フィルムの加湿・除湿を行う方法により水分率の調整を行う。ドープの温度は、その温度により乾燥効率に対して影響を及ぼすため、70〜98℃の範囲内にて調整する。また、乾燥に際しては、好ましくは150〜50℃の間で、より好ましくは145〜60℃の間で温度勾配を有する少なくとも2つ以上の熱風乾燥機中にて行うことが好ましく、さらに1〜12分間、より好ましくは1〜11分間乾燥を行うことが水分調整という観点から好ましい。
【0049】
上記乾燥温度の勾配範囲が大きすぎたり、乾燥時間が長すぎたりすると、乾燥過多となる傾向があり、逆に乾燥温度の勾配範囲が小さすぎたり、乾燥時間が短すぎたりすると、乾燥不足となる傾向がある。
【0050】
上記温度勾配は、150〜50℃の間で段階的に乾燥温度を変えていくものであり、通常は、乾燥開始時から温度を徐々に上げていき、所定の含水率になるまで一旦設定した乾燥温度範囲の、最高の乾燥温度に至らせ、つぎに徐々に乾燥温度を低くすることにより最終的に目的とする含水率とすることが効果的である。これは結晶性や剥離性、生産性等を制御するために行われるものであり、例えば、120℃−130℃−115℃−100℃、130℃−120℃−110℃、115℃−120℃−110℃−90℃等の温度勾配設定があげられ、適宜選択され実施される。
【0051】
(2)PVA系フィルムの巻き取り前に調湿槽に通過させることによりPVA系フィルムの加湿・除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0052】
(3)PVA系フィルムの巻き取り前、もしくは巻き取り後に、熱処理を行うことによりPVA系フィルムの除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0053】
つぎに、上記PVA系フィルムのヘイズとしては、3〜40%の範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜35%である。ヘイズが低過ぎると、例えば、フィルム形成材料として前記フィラーを用い含有させてのベルトによる製膜においてブロッキング性が上昇する傾向があり、逆にヘイズが高過ぎると、PVA系フィルムの強度が低下したり、このPVA系フィルムを通して意匠を確認するため、印刷時の意匠の色合わせが困難となる傾向がある。なお、PVA系フィルムのヘイズは、例えば、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定することができる。
【0054】
また、上記PVA系フィルムの全光線透過率としては、85〜93%の範囲であることが好ましい。全光線透過率が低過ぎると、印刷時の色合わせが困難となる傾向があり、逆に全光線透過率が高過ぎると、例えば、フィルム形成材料として前記フィラーを用いてのベルトによる製膜においてブロッキング性が上昇する傾向がある。なお、ベースフィルムの全光線透過率は、例えば、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定することができる。
【0055】
そして、上記PVA系フィルムのレターデーション値としては、40nm以下であることが好ましく、さらには35nm以下が好ましい。このレターデーション値は、PVA系フィルムの複屈折率と膜厚の積(複屈折率×膜厚)にて示されるものであり、上記複屈折率は、フィルムの製造工程等で付与されたフィルムの分子配向の度合いによって決定される。上記レターデーション値が高過ぎると、PVA系フィルム表面に皺が形成され、印刷層の形成が阻害されたり、PVA系フィルムを水面に浮かべた際に不均一な状態で伸展して印刷パターンが変形するという傾向がある。このように、レターデーション値を40nm以下とする方法としては、例えば、ドラム上あるいはベルト上にてPVA系フィルムを充分乾燥させて、その後の工程において張力をかけないようにして巻き取ることにより調整する方法があげられる。なお、レターデーション値の下限値としては通常3nmである。
【0056】
また、上記PVA系フィルムの破断伸度としては、23℃、50%RH調湿条件下において、150%以上であることが好ましく、さらには180%以上が好ましい。破断伸度が低過ぎると、印刷時に断紙が発生したり、転写時の付き廻り性が低下する傾向がある。なお、破断伸度の上限としては通常、350%である。ここで、ベースフィルムの破断伸度は、JIS K 7127(1999年)に準拠して測定される。
【0057】
このようにして製膜し得られるPVA系フィルムは、液圧転写印刷用のベースフィルムとして非常に有用であり、かかる用途を考慮した場合、厚み15〜30μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは20〜30μmである。
【0058】
そして、製膜し得られたPVA系フィルム(原反フィルム)は、例えば、従来公知の防湿包装の処理を行い、10〜25℃の雰囲気下、宙づり状態にて保存することが好ましい。
【0059】
また、本発明のPVA系フィルムからなるベースフィルムを用いた液圧転写方法としては、従来からの各種液圧転写方法に供される。例えば、連続方式による液圧転写方法、バッチ方式による液圧転写方法等があげられる。
【0060】
まず、上記連続方式による液圧転写方法について述べる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムの流れ方向に対し幅方向に、例えば、1.3倍以下の規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべるとともに移動させる。移動する上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写し固着することにより液圧転写印刷が行われる。そして、固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0061】
一方、上記バッチ方式による液圧転写方法について述べる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、上記連続方式と同様、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムに対して縦横それぞれの方向に、例えば、1.3倍以下の縦横規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべる。そして、静止状態にて上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体に転写し充分に固着することにより液圧転写印刷が行われる。固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0062】
上記意匠印刷面に塗工する活性剤としては、例えば、ベースフィルム面に印刷された意匠を再活性化しうる溶剤に樹脂を添加したもの等が用いられ、さらに顔料、可塑剤、硬化剤等を適宜に添加することができる。例えば、ブチルメタクリレートに、顔料、可塑剤、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテートを混合したものが用いられる。また、上記活性剤の塗工方法としては、グラビアロールやスプレーを用いた塗布方法があげられる。
【0063】
なお、上記意匠印刷面に活性剤を塗布する工程は、ベースフィルムを液面に浮かべる前であっても、液面に浮かべた後であってもいずれでもよく、意匠が印刷されたベースフィルム上方から被転写体を押し当てる前であれば特に制限されることはない。
【0064】
また、上記連続方式およびバッチ方式による液圧転写方法以外に、つぎのような液圧転写方法があげられる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に、乾燥状態となる所定の意匠を印刷した後、光重合性モノマーを含む無溶剤タイプの紫外線または電子線硬化性樹脂組成物を塗布して、上記乾燥状態の意匠を湿潤させる。その後、湿潤した意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを水面に浮かべ、上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写する。ついで、意匠を転写した被転写体に、紫外線または電子線を照射することにより硬化性樹脂組成物を硬化することにより、被転写体に転写した意匠を固着するという液圧転写方法があげられる。
【0065】
さらに、他の液圧転写方法として、つぎのような液圧転写方法があげられる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に有機溶剤に溶解可能な疎水性の転写層(意匠)を形成し、さらに、この転写層上に剥離可能な剥離フィルムを積層してなる転写用フィルムを準備する。ついで、上記剥離フィルムを剥離した後、ベースフィルムを下にして水面に浮かべ、有機溶剤を用いて上記転写層を活性化する。つぎに、上記転写層に被転写体を押し当て、転写層を被転写体表面に転写した後、ベースフィルムを除去する。そして、上記転写層(意匠)を転写した被転写体に対して、紫外線や電子線の照射および加熱の少なくとも一方を施すことにより転写層(意匠)を硬化させ、被転写体に転写した意匠を固着するという液圧転写方法があげられる。
【0066】
また、本発明においては、上記の転写方法とは別の観点から以下の如き転写方法を提供するものである。
【0067】
即ち、
[I]本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムに意匠を印刷し、印刷面に再活性しうる活性剤を塗布する工程、
[II]前記活性剤を塗布した液圧転写印刷用ベースフィルムの印刷面を上方にして水面に浮かべ、該ベースフィルム上方より被転写体を押し当てて液圧転写する工程、
[III]液圧転写された被転写体を水面より引き上げたあと、水中に残存する未溶解物を除去する工程を含む転写方法であり、水中に残存する未溶解物としては、例えば、PVA系フィルム由来のPVA系樹脂等を挙げることができる。
【0068】
本発明のベースフィルムを用いて液圧転写を行った場合、転写後に被転写体を水面から引き上げると、高圧シャワーによる洗浄を行うまでもなく被転写体から膨潤したベースフィルムが容易に脱落し除去することができ、転写品を製造するための作業性が向上することとなる。一方、脱落した膨潤したベースフィルムは水中に残留することになってしまうが、かかる未溶解残留物は、以下のようにして容易に除去することができ、これにより、転写槽の濃度変化が少なく、安定した転写が可能となる。例えば、(ア)転写槽の底より網で未溶解物をすくい取る。(イ)深さの異なる連続した転写槽を用意し、転写自体を深い槽で実施した後、引き上げるときに隣接する底の浅い槽に水中で移動させ被転写体を引き上げ、浅い槽のほうから未溶解物をすくい取る、等の方法が挙げられる。
【0069】
上記の液圧転写方法により、ベースフィルム面に印刷された意匠を、被転写体に転写することができる。なお、上記ベースフィルム面に印刷される意匠としては、特に限定するものではなく、木目調,各種柄,画像等、印刷可能なものであればいかなるものであってもよい。
【0070】
本発明のベースフィルムを用いた液圧転写方法における被転写体の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、プラスチック成形体、金属成形体、木質成形体、ガラス等の無機質成形体等を用いることができる。さらに、その形状に関しても特に限定するものではなく、平面であっても各種立体形状を有していてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」および「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0072】
〔実施例1〜8、比較例1〜4〕
下記の表1に示すPVA系樹脂100部および下記の表1に示す各成分、ならびに、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1部を水に溶解して18%濃度の水溶液を調製した。そして、上記水溶液を用い、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により流延製膜法に従い製膜し、温度95℃の条件で乾燥させた後、表1に示す熱処理温度にて処理時間3秒間接触させることによりPVA系フィルム(ベースフィルム)を作製した。そして、作製したPVA系フィルム(ベースフィルム)の平均厚み(膜厚)をPEACOK社製 UPRIGHT DIAL GAUGEを用いて測定し、下記の表1に併せて示した。
【0073】
【表1】
【0074】
このようにして得られたPVA系フィルム(ベースフィルム)を用いて、下記に示す方法に従いフィルム物性・特性を測定評価した。これらの結果を下記の表2に示す。
【0075】
〔伸展倍率〕
得られたPVA系フィルムを、23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下で100×100mmサイズに切り出し、その中央部分に直径40mmの円を水性ペンで描き、次に、このフィルムを30℃の水を満たした直径430mmの水槽の中央付近に円を描いた面を上にして浮かべた。その後、水面に浮かべてから90秒後の円の直径を測定し、伸展前の円の直径に対する伸展後の円の直径の割合より算出した。なお、円の直径はデジタルカメラで撮影し、円の直径を測定した。ただし、円の縦と横の倍率が異なる場合はその平均とした。
【0076】
〔転写性〕
得られたPVA系フィルム(ベースフィルム)に意匠を多色印刷したのち、得られたPVA系フィルムを150×150mmに切断して試料を作製し、その上に活性剤〔ブチルメタクリレート/顔料/可塑剤/ブチルセロソルブアセテート/ブチルカルビトールアセテート(混合重量比)=8/20/20/26/26〕をバーコーター(#10)で塗工し、液圧転写用の印刷フィルムを作製した。
活性剤が塗工された上記印刷フィルムを、30℃の水温に調整した水槽に浮かべた前記記載の1.3倍枠の枠内に活性剤塗工面を上にして静かに浮かべた。その後、印刷フィルムが伸展し、枠に完全に到達するが、浮かべてから90秒後に印刷フィルムの上方より垂直の角度にて、200mm/minの速度で50×100mmのABS製の平板を押し込み、上記平板表面に印刷フィルム上の意匠を転写させた。なお、平板を押し込む時に皺が入ったり、押し込んでいる過程でフィルムが切れたりするかを目視確認し、以下の通り評価した。
○・・・皺もなく、フィルムも切れなかった。
×・・・折れ皺が発生したり、フィルムが切れたりした。
【0077】
[転写印刷適性]
上記と同様にして、ベースフィルム上に意匠及びインク活性剤を塗布し、インク活性剤塗布面側を上向きにして印刷フィルムを水面に浮かべて、90秒後に上記と同様のABS製の平板への水圧転写印刷を行い、以下の通り5段階にて評価した。
5・・・柄が鮮明で歪みなし。
4・・・若干柄の歪みは認められるが、意匠は鮮明。
3・・・歪みは認められ、意匠がぼやける傾向。
2・・・柄の歪みが大きかった。
1・・・転写印刷ができなかった。
【0078】
〔脱膜性〕
上記転写後において、意匠転写された平板を垂直に引き上げ、膨潤したベースフィルムが20秒以内に重力によりずり落ちるかを確認した。その後、水洗の処理をすることなく50℃の乾燥機に1時間放置し重量を測定した。次に、温水にて意匠面を十分に水洗し、表面に残っているベースフィルムの残膜を完全除去し、乾燥後に重量を測定し、洗浄前後の重量減少分を測定し、脱膜性を評価した。
なお、転写後に転写物を引き上げた際、膜が転写物に引っかかるなど落ちにくい部分は、問題ない範囲で転写後引き上げる前に転写水槽内で軽く被転写体を揺する等して除去するものとする。また、裏面に付き廻ったPVAフィルムについては残膜重量として計算に入れないこととした。
【0079】
【表2】
【0080】
上記結果から、30℃の水面に浮かべたときの伸展性において、90秒後でもフィルムの状態を維持しており、且つ、その時のフィルム伸展倍率が120〜260%であるベースフィルムを用いた液圧転写による実施例品は、高精細な転写品が得られるだけでなく転写後のフィルム脱膜性にも優れたものであり、かつ付き廻り性に関しても良好な結果が得られ、優れた転写適性を持つものであった。
【0081】
これに対して、30℃の水面に浮かべたときの伸展性において、90秒未満で拡散するベースフィルムを用いた液圧転写では優れた転写性を有するものの、転写後の脱膜性が悪く高圧スプレー等で膨潤したベースフィルムを除去しなければならないものであった。また、90秒後でもフィルムの状態を維持しているものであっても、所定の伸展倍率を満足しないフィルムでは転写印刷用ベースフィルムとしては不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のベースフィルムは、自動車の内外装品をはじめとして、携帯電話機の外装、各種電化製品、建材、家庭・生活用品等への液圧転写印刷用途に、幅広く適用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面、とりわけ水面に浮かべて使用し、フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルム及びそれを用いた転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水圧転写印刷用ベースフィルムとしては、ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とするポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。そして、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、つぎのようにして水圧転写方法に供されている。すなわち、上記ポリビニルアルコール系フィルム面に所望の意匠を印刷し、上記意匠印刷面を上方にして水面に浮かべ、フィルム上方から被転写体を意匠印刷面に押し当てて被転写体に意匠を転写させることが行われている。被着体に意匠が転写された後は水面より引き上げられ、洗浄工程においてポリビニルアルコール系フィルムが溶解除去されている。
【0003】
一般的にこのような液圧転写方法においては、ベースフィルムが水溶性良好であるため、転写時に被転写体に纏わり付いたベースフィルムを、シャワーなどを使い被転写体に吹き付けて除去するのが一般的であった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−297194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1をはじめとする従来のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いた水圧転写方法では、拡散時間が速いために転写を重ねるにつれ転写槽中のポリビニルアルコール系樹脂濃度が除々に上がり転写槽の管理が必要となり、さらに、転写後の被転写体に纏わりついたフィルムを高圧シャワーで除去する必要があるなど、作業性の点でまだまだ改善の余地が残るものであった。
また、場合によっては転写されたインキが脱膜のための高圧シャワーで脱落するなど、転写後の意匠性の低下を招くことがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、転写特性に優れるうえ、ベースフィルムの脱膜性にも優れ、必ずしも高圧シャワーなどを用いた洗浄工程を必要としない液圧転写印刷用ベースフィルム及び転写方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、ベースフィルムの溶解性や伸展性が大きく関与することを突き止め、ベースフィルムを形成するポリビニルアルコール系フィルムが、これまでの良好な水溶性を示すフィルムと異なり、30℃の水面に90秒間浮かべても拡散や溶解をすることなくフィルム形状が維持され、しかも特定の伸展挙動を示すポリビニルアルコール系フィルムであることが液圧転写後の脱膜性に優れ、高圧シャワーなどで水洗除去する工程を必ずしも必要ではなく、更に、従来のベースフィルムと同様、印刷特性、転写特性(付き廻り性、等)にも優れることを見出し、本発明に完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、ポリビニルアルコール系フィルムからなる液圧転写印刷用ベースフィルムであって、前記ポリビニルアルコール系フィルムを30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルムに関するものである。
また、本発明においては、前記液圧転写印刷用ベースフィルムを用いた転写方法についても提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、転写後のフィルムの脱膜性に優れ、高圧シャワーなどで水洗除去する工程は必ずしも必要ではなく、転写品の製造作業性の点でも良好であり、更に、従来のベースフィルムと同様、印刷特性、転写特性(付き廻り性、等)にも優れた効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルム(以下「ベースフィルム」と称す)は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下「PVA系樹脂」という)を30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%フィルムである。
【0011】
なお、上記PVA系フィルムを30℃の水に浮かべてから90秒後という設定条件に関しては、以下の理由から設定するものである。
【0012】
即ち、フィルムを水面に浮かべると、着水と同時に、フィルムの厚み方向への吸水が始まるため、フィルム全体に皺が発生するが、この皺は吸水がフィルムの上面に達するまで続き、その後、水分が厚み方向に均一に浸透するとフィルムは安定化し、皺は消失する。この皺が消失し、フィルムの面方向の膨潤を安定して計測できるまでに通常約60秒程度を要する。さらに90秒後においてはこれまでのベースフィルムでは拡散状態となってフィルム状態を維持できなくなるところ、本発明においては、転写後の膜除去性を効果的に行えるベースフィルムとして、フィルムを着水してからフィルム状態を維持する必要時間として90秒を設定したものである。
【0013】
そして、上記PVA系フィルムの伸展倍率は、例えば、つぎのようにして測定・算出される。即ち、PVA系フィルムを23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下で100×100mmサイズに切り出し、その中央部分に直径40mmの円を水性ペンで描く。次に、このフィルムを30℃の水を満たした直径430mmの水槽の中央付近に円を描いた面を上にして浮かべる。着水以降、フィルムは膨潤し徐々に伸展し、先にフィルムに描かれた円がフィルムの伸展と共に伸びる。なお、フィルムによっては90秒までに拡散状態となり、水性ペンの線がボケてしまうものもある。次に、水面に浮かべてから90秒後の円の直径を測定し、伸展前の円の直径に対する伸展後の円の直径の割合より伸展倍率を算出する。なお、円の直径はデジタルカメラで撮影し、円の直径を測定する。ただし、円の縦と横の倍率が異なる場合はその平均とする。
【0014】
上記PVA系フィルムの伸展倍率が低過ぎると、転写時にフィルムに皺が入り、高過ぎると、転写後の脱膜性に劣ることとなる。
【0015】
上記PVA系フィルムの伸展倍率の調整に関しては、各種調整方法があげられるが、例えば、使用するPVA系樹脂として比較的高いケン化度のものを用いる方法やPVA系フィルム製膜後に70〜130℃の温度条件にて熱処理を行なう方法、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0016】
次に、本発明のベースフィルムについて述べる。
本発明のベースフィルムは、水溶性のPVA系樹脂から形成されたものであり、具体的にはPVA系樹脂を主成分とするフィルム形成材料を用いてフィルム状に形成されてなる。なお、本発明において、上記「主成分とする」とは、具体的には、フィルム形成材料全体の50重量%以上、特には70重量%以上をPVA系樹脂で占める場合をいい、フィルム形成材料が主成分(PVA系樹脂)のみからなる場合も含める趣旨である。
【0017】
上記PVA系樹脂は、常法に従って、ビニルエステル系化合物を重合し、次いでこれをケン化することにより得られるものである。本発明では、PVA系樹脂は単独のみならず必要に応じて2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
上記ビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられるが、実用上、酢酸ビニルが好適に用いられる。
【0019】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂としては、通常未変性のPVA樹脂を用いることが好ましいが、部分的に変性された変性PVA系樹脂を用いてもよい。変性PVA系樹脂としては、ビニルエステル系化合物に他の単量体を少量共重合させたものが挙げられ、この場合の単量体の割合は本発明の効果を阻害しない範囲であり、例えば10モル%以下、好ましくは7モル%以下である。
【0020】
上記他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、ジアクリルアセトンアミド、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等があげられる。これらの他の単量体は、単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。なお、本発明において、(メタ)アリルとはアリルあるいはメタリル、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味する。
【0021】
そして、上記ビニルエステル系化合物を用いて重合(あるいは共重合)を行うに際しては、特に制限はなく公知の重合方法が用いられるが、通常は、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が行なわれる。また、溶液重合以外に、乳化重合、懸濁重合も可能である。
【0022】
また、重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われ、反応温度は35℃〜沸点、より好ましくは50〜80℃程度の範囲から選択される。
【0023】
つぎに、得られたビニルエステル系重合体をケン化するにあたっては、上記ビニルエステル系重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下にて行なわれる。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等があげられ、上記アルコール中のビニルエステル系共重合体の濃度は、20〜50重量%の範囲内にて適宜選択される。
【0024】
上記ケン化時のアルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートのようなアルカリ触媒を用いることができる。上記アルカリ触媒の使用量は、ビニルエステル系重合体に対して1〜100ミリモル当量の範囲内にて適宜選択すればよい。なお、場合によっては、酸触媒によりケン化することも可能である。
このようにしてPVA系樹脂が得られる。
【0025】
また、PVA系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂を用いることも好ましく、上記側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂は、例えば、(ア)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(イ)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(ウ)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(エ)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0026】
本発明において、PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液の平均粘度は、10〜70mPa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは15〜60mPa・sの範囲である。4重量%水溶液の平均粘度が低すぎるとベースフィルムに意匠(パターン,柄
等)を印刷する際のフィルム強度が不足するため、印刷斑が発生したりする傾向があり、また、ベースフィルムの溶解が促進されて転写時間が短くなるという問題が生じたり、水に浮かべた際のフィルムに印刷された意匠が安定せず、付き廻り性が低下したりする傾向がある。一方、4重量%水溶液の平均粘度が高すぎると印刷された意匠の被転写体への転写時に被転写体と本発明のベースフィルム(意匠が印刷されたベースフィルム)との密着性が低下して、皺や剥離が発生したり、また、水面での膜の伸展を抑制することはできるが、転写時間が遅延したり粘度が高く製膜が困難となる傾向がある。なお、上記4重量%水溶液の20℃における平均粘度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0027】
さらに、上記PVA系樹脂の平均ケン化度が、90モル%以上あることが好ましく。特には93〜99.9モル%、更には95〜99.5モル%、殊には96〜99であることが好ましい。PVA系樹脂の平均ケン化度が低すぎると転写においては問題なくとも、転写後の脱膜性に劣り、転写後に高圧シャワーによる皮膜除去が必要となる傾向がある。なお、平均ケン化度が高すぎると転写時の膨潤が遅くベースフィルムの溶解時間が遅延したり、転写時の膜強度が高いために転写時に折れ皺が発生したり、水面上でカールが大きく発生する等のおそれも若干生じる傾向がある。なお、上記平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0028】
そして、PVA系フィルムのフィルム形成材料としては、先に述べたように、上記PVA系樹脂を主成分とするものであるが、このPVA系樹脂のみからなる場合以外に、このPVA系樹脂に、フィラー、可塑剤、架橋剤を適宜配合してなるものも好ましく用いられる。
【0029】
上記フィラーとしては、例えば、澱粉(各種未加工品だけでなく、エーテル化、酸化、変性品でも良い)やポリメチルメタクリレート等の有機粉末、タルク、雲母、シリカ等の無機粉末等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、澱粉が好適に用いられる。
【0030】
上記PVA系樹脂に配合されるフィラーの配合量は、PVA系樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましく、より好ましくは0.3〜15重量部、特に好ましくは0.5〜10重量部である。フィラーの配合量が少な過ぎると、高精細印刷とりわけグラビア印刷において、ロール状のフィルムが巻き出されるときに滑り性が悪くなり引っかかったり、酷くなるとブロッキングにより印刷時に断紙する傾向があり、逆に多過ぎると、印刷時にフィルム強度が弱くなり断紙したり、PVA系フィルムのヘイズが高くなり色合わせが困難になる傾向がある。
【0031】
上記可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパン等があげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0032】
上記PVA系樹脂に配合される可塑剤の配合量は、PVA系樹脂100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05〜4重量部である。上記可塑剤の配合量が少なすぎると、可塑効果が低く、得られるベースフィルムの破断の原因となる傾向があり、配合量が多すぎると、フィルム面に意匠を印刷する際の寸法安定性が悪く、高精細な印刷が困難となる傾向がある。
【0033】
上記架橋剤としては、PVA系樹脂と架橋反応を起こすものであれば特に限定されず、例えば、ホウ素化合物、無機塩類等をあげることができる。上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)等の他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物等があげられる。
【0034】
また、上記無機塩類としては、(NH4 )2 SO4 、Na2 SO4 、K2 SO4 、ZuSO4 、CuSO4 、FeSO4 、MgSO4 、Al2 (SO4 )3 、KAl(SO4 )2 、NH4 NO3 、NaNO3 、KNO3 、Al(NO3 )3 、NH4 Cl、NaCl、KCl、MgCl2 、CaCl2 、Na3 PO4 、K2 CrO4 、K3 C6 H5 O7 等があげられる。
上記架橋剤の中でも、ホウ砂が好適に用いられる。
【0035】
上記PVA系樹脂に配合される架橋剤の配合量は、PVA系樹脂100重量部に対して、0.05〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部、特には好ましくは0.3〜3重量部である。架橋剤の配合量が少な過ぎると、転写時の付き廻り性が低く、転写時の意匠の歪みが大きくなる傾向にある。逆に多過ぎると、被着体への転写時に皺が発生したり、ベースフィルム製造時の溶液粘度が高くなりすぎる傾向がある。
【0036】
さらに、上記フィルム形成材料には、主成分である上記PVA系樹脂、フィラー、可塑剤及び架橋剤以外に、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0037】
例えば、PVA系フィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として、界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては、特に限定するものではなく、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。
【0038】
上記界面活性剤の含有量については、PVA系樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部であることが好ましく、0.03〜4.5重量部であることがより好ましい。上記界面活性剤の含有量が少なすぎると、製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向があり、逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がある。
【0039】
さらに、本発明の効果を妨げない範囲で、抗酸化剤(フェノール系、アミン系等)、安定剤(リン酸エステル類等)、着色料、香料、増量剤、消泡剤、防錆剤、紫外線吸収剤、さらには他の水溶性高分子化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等の他の添加剤を添加しても差し支えない。
【0040】
本発明のベースフィルムは、例えば、つぎのようにして製造される。
まず、上記特定のPVA系樹脂、フィラー、可塑剤、架橋剤、さらには必要に応じて他の添加剤を所定の配合量にて配合しフィルム形成材料を調製する。つぎに、Tダイからフィルム形成材料を製膜ベルト上または製膜ドラム上に流延させ、乾燥させることによりフィルム状化させ、必要に応じてさらに熱処理することにより製造される。
【0041】
ここで、上記製膜ベルトとは、一対のロール間に架け渡されて走行する無端ベルトを有し、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を無端ベルト上に流延させるとともに乾燥させるものである。上記無端ベルトは、例えば、ステンレススチールからなり、その外周表面は鏡面仕上げが施されているものが好ましい。
【0042】
また、上記製膜ドラムとは、回転するドラム型ロールのことであり、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を1個以上の回転ドラム型ロール上に流延し乾燥させるものである。
乾燥温度について、製膜ベルトを用いる場合は、通常、80〜160℃であることが好ましく、特には90〜150℃が好ましい。乾燥温度が低すぎると乾燥不足となり製品外観を悪化させる傾向があり、高すぎると熱処理が高く水分率が低くなりすぎる傾向がある。
【0043】
また、製膜ドラムを用いる場合は、製膜第一ドラムが通常、80〜100℃であることが好ましく、特には82〜99℃であることが好ましい。乾燥温度が低すぎると乾燥不足となり製品外観を悪化させる傾向があり、高すぎると熱処理が高く水分率が低くなりすぎる傾向がある。ここで、上記製膜第一ドラムとは、Tダイから流れ出たフィルム形成材料が流延される最上流側に位置するドラム型ロールのことである。
【0044】
上記乾燥の後、必要に応じて熱処理が行われるが、かかる熱処理の方法としては、例えば、熱ロール(カレンダーロールを含む)、熱風、遠赤外線、誘電加熱等の方法があげられる。また、熱処理される面は、製膜ベルトまたは製膜ドラムに接する面と反対側となる面が好ましいが、ニップしても問題はない。また、熱処理を施すフィルムの水分含有量は、通常、4〜8重量%程度であることが好ましい。さらに、熱処理された後のフィルムの水分含有量は通常、2〜6重量%であることが好ましい。
【0045】
上記熱処理機による熱処理は、50〜130℃で行うことが好ましく、より好ましくは60〜120℃である。すなわち、上記熱処理の温度が低すぎると、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムに接する面のカールが生じることがあり、印刷および転写工程で不具合となる傾向がみられ、熱処理の温度が高すぎると、フィルムが柔らかくなるため、皺が入らぬように巻き取ろうと引っ張ると長手方向への配向が強まり、印刷は問題なくとも転写の際に意匠が歪んでしまう傾向がみられる。さらに、上記熱処理に要する時間は、熱処理ロールの場合、その表面温度にもよるが、通常0.2〜15秒間、好ましくは0.5〜12秒間とすることが好ましい。上記熱処理は、通常、フィルム乾燥のための乾燥ロール処理に引き続き、別体の熱処理ロールにして通常行われる。
【0046】
上記方法によりPVA系フィルムが得られるが、得られたPVA系フィルムの水分率としては、2〜6重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2.3〜5.5重量%である。水分率が低過ぎると、印刷時に断紙が発生する傾向があり、逆に水分率が高過ぎると、印刷時の見当ズレが生じる傾向がある。なお、PVA系フィルムの水分率は、例えば、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKS−210」)を用いて測定することができる。
【0047】
上記PVA系フィルムの水分率の調整方法としては、例えば、下記に示す方法があげられる。すなわち、下記に示す水分率の調整方法に従い、上記範囲内のPVA系フィルムの水分率に設定することが可能となる。
【0048】
(1)PVA系樹脂を溶解したドープを乾燥して製膜する際の乾燥機温度を上下させてPVA系フィルムの加湿・除湿を行う方法により水分率の調整を行う。ドープの温度は、その温度により乾燥効率に対して影響を及ぼすため、70〜98℃の範囲内にて調整する。また、乾燥に際しては、好ましくは150〜50℃の間で、より好ましくは145〜60℃の間で温度勾配を有する少なくとも2つ以上の熱風乾燥機中にて行うことが好ましく、さらに1〜12分間、より好ましくは1〜11分間乾燥を行うことが水分調整という観点から好ましい。
【0049】
上記乾燥温度の勾配範囲が大きすぎたり、乾燥時間が長すぎたりすると、乾燥過多となる傾向があり、逆に乾燥温度の勾配範囲が小さすぎたり、乾燥時間が短すぎたりすると、乾燥不足となる傾向がある。
【0050】
上記温度勾配は、150〜50℃の間で段階的に乾燥温度を変えていくものであり、通常は、乾燥開始時から温度を徐々に上げていき、所定の含水率になるまで一旦設定した乾燥温度範囲の、最高の乾燥温度に至らせ、つぎに徐々に乾燥温度を低くすることにより最終的に目的とする含水率とすることが効果的である。これは結晶性や剥離性、生産性等を制御するために行われるものであり、例えば、120℃−130℃−115℃−100℃、130℃−120℃−110℃、115℃−120℃−110℃−90℃等の温度勾配設定があげられ、適宜選択され実施される。
【0051】
(2)PVA系フィルムの巻き取り前に調湿槽に通過させることによりPVA系フィルムの加湿・除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0052】
(3)PVA系フィルムの巻き取り前、もしくは巻き取り後に、熱処理を行うことによりPVA系フィルムの除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0053】
つぎに、上記PVA系フィルムのヘイズとしては、3〜40%の範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜35%である。ヘイズが低過ぎると、例えば、フィルム形成材料として前記フィラーを用い含有させてのベルトによる製膜においてブロッキング性が上昇する傾向があり、逆にヘイズが高過ぎると、PVA系フィルムの強度が低下したり、このPVA系フィルムを通して意匠を確認するため、印刷時の意匠の色合わせが困難となる傾向がある。なお、PVA系フィルムのヘイズは、例えば、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定することができる。
【0054】
また、上記PVA系フィルムの全光線透過率としては、85〜93%の範囲であることが好ましい。全光線透過率が低過ぎると、印刷時の色合わせが困難となる傾向があり、逆に全光線透過率が高過ぎると、例えば、フィルム形成材料として前記フィラーを用いてのベルトによる製膜においてブロッキング性が上昇する傾向がある。なお、ベースフィルムの全光線透過率は、例えば、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定することができる。
【0055】
そして、上記PVA系フィルムのレターデーション値としては、40nm以下であることが好ましく、さらには35nm以下が好ましい。このレターデーション値は、PVA系フィルムの複屈折率と膜厚の積(複屈折率×膜厚)にて示されるものであり、上記複屈折率は、フィルムの製造工程等で付与されたフィルムの分子配向の度合いによって決定される。上記レターデーション値が高過ぎると、PVA系フィルム表面に皺が形成され、印刷層の形成が阻害されたり、PVA系フィルムを水面に浮かべた際に不均一な状態で伸展して印刷パターンが変形するという傾向がある。このように、レターデーション値を40nm以下とする方法としては、例えば、ドラム上あるいはベルト上にてPVA系フィルムを充分乾燥させて、その後の工程において張力をかけないようにして巻き取ることにより調整する方法があげられる。なお、レターデーション値の下限値としては通常3nmである。
【0056】
また、上記PVA系フィルムの破断伸度としては、23℃、50%RH調湿条件下において、150%以上であることが好ましく、さらには180%以上が好ましい。破断伸度が低過ぎると、印刷時に断紙が発生したり、転写時の付き廻り性が低下する傾向がある。なお、破断伸度の上限としては通常、350%である。ここで、ベースフィルムの破断伸度は、JIS K 7127(1999年)に準拠して測定される。
【0057】
このようにして製膜し得られるPVA系フィルムは、液圧転写印刷用のベースフィルムとして非常に有用であり、かかる用途を考慮した場合、厚み15〜30μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは20〜30μmである。
【0058】
そして、製膜し得られたPVA系フィルム(原反フィルム)は、例えば、従来公知の防湿包装の処理を行い、10〜25℃の雰囲気下、宙づり状態にて保存することが好ましい。
【0059】
また、本発明のPVA系フィルムからなるベースフィルムを用いた液圧転写方法としては、従来からの各種液圧転写方法に供される。例えば、連続方式による液圧転写方法、バッチ方式による液圧転写方法等があげられる。
【0060】
まず、上記連続方式による液圧転写方法について述べる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムの流れ方向に対し幅方向に、例えば、1.3倍以下の規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべるとともに移動させる。移動する上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写し固着することにより液圧転写印刷が行われる。そして、固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0061】
一方、上記バッチ方式による液圧転写方法について述べる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、上記連続方式と同様、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムに対して縦横それぞれの方向に、例えば、1.3倍以下の縦横規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべる。そして、静止状態にて上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体に転写し充分に固着することにより液圧転写印刷が行われる。固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0062】
上記意匠印刷面に塗工する活性剤としては、例えば、ベースフィルム面に印刷された意匠を再活性化しうる溶剤に樹脂を添加したもの等が用いられ、さらに顔料、可塑剤、硬化剤等を適宜に添加することができる。例えば、ブチルメタクリレートに、顔料、可塑剤、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテートを混合したものが用いられる。また、上記活性剤の塗工方法としては、グラビアロールやスプレーを用いた塗布方法があげられる。
【0063】
なお、上記意匠印刷面に活性剤を塗布する工程は、ベースフィルムを液面に浮かべる前であっても、液面に浮かべた後であってもいずれでもよく、意匠が印刷されたベースフィルム上方から被転写体を押し当てる前であれば特に制限されることはない。
【0064】
また、上記連続方式およびバッチ方式による液圧転写方法以外に、つぎのような液圧転写方法があげられる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に、乾燥状態となる所定の意匠を印刷した後、光重合性モノマーを含む無溶剤タイプの紫外線または電子線硬化性樹脂組成物を塗布して、上記乾燥状態の意匠を湿潤させる。その後、湿潤した意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを水面に浮かべ、上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写する。ついで、意匠を転写した被転写体に、紫外線または電子線を照射することにより硬化性樹脂組成物を硬化することにより、被転写体に転写した意匠を固着するという液圧転写方法があげられる。
【0065】
さらに、他の液圧転写方法として、つぎのような液圧転写方法があげられる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に有機溶剤に溶解可能な疎水性の転写層(意匠)を形成し、さらに、この転写層上に剥離可能な剥離フィルムを積層してなる転写用フィルムを準備する。ついで、上記剥離フィルムを剥離した後、ベースフィルムを下にして水面に浮かべ、有機溶剤を用いて上記転写層を活性化する。つぎに、上記転写層に被転写体を押し当て、転写層を被転写体表面に転写した後、ベースフィルムを除去する。そして、上記転写層(意匠)を転写した被転写体に対して、紫外線や電子線の照射および加熱の少なくとも一方を施すことにより転写層(意匠)を硬化させ、被転写体に転写した意匠を固着するという液圧転写方法があげられる。
【0066】
また、本発明においては、上記の転写方法とは別の観点から以下の如き転写方法を提供するものである。
【0067】
即ち、
[I]本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムに意匠を印刷し、印刷面に再活性しうる活性剤を塗布する工程、
[II]前記活性剤を塗布した液圧転写印刷用ベースフィルムの印刷面を上方にして水面に浮かべ、該ベースフィルム上方より被転写体を押し当てて液圧転写する工程、
[III]液圧転写された被転写体を水面より引き上げたあと、水中に残存する未溶解物を除去する工程を含む転写方法であり、水中に残存する未溶解物としては、例えば、PVA系フィルム由来のPVA系樹脂等を挙げることができる。
【0068】
本発明のベースフィルムを用いて液圧転写を行った場合、転写後に被転写体を水面から引き上げると、高圧シャワーによる洗浄を行うまでもなく被転写体から膨潤したベースフィルムが容易に脱落し除去することができ、転写品を製造するための作業性が向上することとなる。一方、脱落した膨潤したベースフィルムは水中に残留することになってしまうが、かかる未溶解残留物は、以下のようにして容易に除去することができ、これにより、転写槽の濃度変化が少なく、安定した転写が可能となる。例えば、(ア)転写槽の底より網で未溶解物をすくい取る。(イ)深さの異なる連続した転写槽を用意し、転写自体を深い槽で実施した後、引き上げるときに隣接する底の浅い槽に水中で移動させ被転写体を引き上げ、浅い槽のほうから未溶解物をすくい取る、等の方法が挙げられる。
【0069】
上記の液圧転写方法により、ベースフィルム面に印刷された意匠を、被転写体に転写することができる。なお、上記ベースフィルム面に印刷される意匠としては、特に限定するものではなく、木目調,各種柄,画像等、印刷可能なものであればいかなるものであってもよい。
【0070】
本発明のベースフィルムを用いた液圧転写方法における被転写体の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、プラスチック成形体、金属成形体、木質成形体、ガラス等の無機質成形体等を用いることができる。さらに、その形状に関しても特に限定するものではなく、平面であっても各種立体形状を有していてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」および「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0072】
〔実施例1〜8、比較例1〜4〕
下記の表1に示すPVA系樹脂100部および下記の表1に示す各成分、ならびに、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1部を水に溶解して18%濃度の水溶液を調製した。そして、上記水溶液を用い、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により流延製膜法に従い製膜し、温度95℃の条件で乾燥させた後、表1に示す熱処理温度にて処理時間3秒間接触させることによりPVA系フィルム(ベースフィルム)を作製した。そして、作製したPVA系フィルム(ベースフィルム)の平均厚み(膜厚)をPEACOK社製 UPRIGHT DIAL GAUGEを用いて測定し、下記の表1に併せて示した。
【0073】
【表1】
【0074】
このようにして得られたPVA系フィルム(ベースフィルム)を用いて、下記に示す方法に従いフィルム物性・特性を測定評価した。これらの結果を下記の表2に示す。
【0075】
〔伸展倍率〕
得られたPVA系フィルムを、23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下で100×100mmサイズに切り出し、その中央部分に直径40mmの円を水性ペンで描き、次に、このフィルムを30℃の水を満たした直径430mmの水槽の中央付近に円を描いた面を上にして浮かべた。その後、水面に浮かべてから90秒後の円の直径を測定し、伸展前の円の直径に対する伸展後の円の直径の割合より算出した。なお、円の直径はデジタルカメラで撮影し、円の直径を測定した。ただし、円の縦と横の倍率が異なる場合はその平均とした。
【0076】
〔転写性〕
得られたPVA系フィルム(ベースフィルム)に意匠を多色印刷したのち、得られたPVA系フィルムを150×150mmに切断して試料を作製し、その上に活性剤〔ブチルメタクリレート/顔料/可塑剤/ブチルセロソルブアセテート/ブチルカルビトールアセテート(混合重量比)=8/20/20/26/26〕をバーコーター(#10)で塗工し、液圧転写用の印刷フィルムを作製した。
活性剤が塗工された上記印刷フィルムを、30℃の水温に調整した水槽に浮かべた前記記載の1.3倍枠の枠内に活性剤塗工面を上にして静かに浮かべた。その後、印刷フィルムが伸展し、枠に完全に到達するが、浮かべてから90秒後に印刷フィルムの上方より垂直の角度にて、200mm/minの速度で50×100mmのABS製の平板を押し込み、上記平板表面に印刷フィルム上の意匠を転写させた。なお、平板を押し込む時に皺が入ったり、押し込んでいる過程でフィルムが切れたりするかを目視確認し、以下の通り評価した。
○・・・皺もなく、フィルムも切れなかった。
×・・・折れ皺が発生したり、フィルムが切れたりした。
【0077】
[転写印刷適性]
上記と同様にして、ベースフィルム上に意匠及びインク活性剤を塗布し、インク活性剤塗布面側を上向きにして印刷フィルムを水面に浮かべて、90秒後に上記と同様のABS製の平板への水圧転写印刷を行い、以下の通り5段階にて評価した。
5・・・柄が鮮明で歪みなし。
4・・・若干柄の歪みは認められるが、意匠は鮮明。
3・・・歪みは認められ、意匠がぼやける傾向。
2・・・柄の歪みが大きかった。
1・・・転写印刷ができなかった。
【0078】
〔脱膜性〕
上記転写後において、意匠転写された平板を垂直に引き上げ、膨潤したベースフィルムが20秒以内に重力によりずり落ちるかを確認した。その後、水洗の処理をすることなく50℃の乾燥機に1時間放置し重量を測定した。次に、温水にて意匠面を十分に水洗し、表面に残っているベースフィルムの残膜を完全除去し、乾燥後に重量を測定し、洗浄前後の重量減少分を測定し、脱膜性を評価した。
なお、転写後に転写物を引き上げた際、膜が転写物に引っかかるなど落ちにくい部分は、問題ない範囲で転写後引き上げる前に転写水槽内で軽く被転写体を揺する等して除去するものとする。また、裏面に付き廻ったPVAフィルムについては残膜重量として計算に入れないこととした。
【0079】
【表2】
【0080】
上記結果から、30℃の水面に浮かべたときの伸展性において、90秒後でもフィルムの状態を維持しており、且つ、その時のフィルム伸展倍率が120〜260%であるベースフィルムを用いた液圧転写による実施例品は、高精細な転写品が得られるだけでなく転写後のフィルム脱膜性にも優れたものであり、かつ付き廻り性に関しても良好な結果が得られ、優れた転写適性を持つものであった。
【0081】
これに対して、30℃の水面に浮かべたときの伸展性において、90秒未満で拡散するベースフィルムを用いた液圧転写では優れた転写性を有するものの、転写後の脱膜性が悪く高圧スプレー等で膨潤したベースフィルムを除去しなければならないものであった。また、90秒後でもフィルムの状態を維持しているものであっても、所定の伸展倍率を満足しないフィルムでは転写印刷用ベースフィルムとしては不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のベースフィルムは、自動車の内外装品をはじめとして、携帯電話機の外装、各種電化製品、建材、家庭・生活用品等への液圧転写印刷用途に、幅広く適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系フィルムからなる液圧転写印刷用ベースフィルムであって、前記ポリビニルアルコール系フィルムを30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系フィルムが、平均ケン化度が90モル%以上のポリビニルアルコール系樹脂から構成されることを特徴とする請求項1記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系フィルムが、20℃における4重量%水溶液の平均粘度が10〜70mPa・sのポリビニルアルコール系樹脂から構成されることを特徴とする請求項1または2記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系フィルムの膜厚が、15〜30μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項5】
[I]請求項1〜4いずれか記載の液圧転写印刷用ベースフィルムに意匠を印刷し、印刷面に再活性しうる活性剤を塗布する工程、
[II]前記活性剤を塗布した液圧転写印刷用ベースフィルムの印刷面を上方にして水面に浮かべ、該ベースフィルム上方より被転写体を押し当てて液圧転写する工程、
[III]液圧転写された被転写体を水面より引き上げたあと、水中に残存する未溶解物を除去する工程を含むことを特徴とする転写方法。
【請求項6】
水中に残存する未溶解物が、ポリビニルアルコール系フィルム由来のポリビニルアルコール系樹脂を含むことを特徴とする請求項5記載の転写方法。
【請求項1】
ポリビニルアルコール系フィルムからなる液圧転写印刷用ベースフィルムであって、前記ポリビニルアルコール系フィルムを30℃の水面に90秒間浮かべたときに、フィルムの状態を維持しており、かつ、フィルム伸展倍率が120〜260%であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系フィルムが、平均ケン化度が90モル%以上のポリビニルアルコール系樹脂から構成されることを特徴とする請求項1記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系フィルムが、20℃における4重量%水溶液の平均粘度が10〜70mPa・sのポリビニルアルコール系樹脂から構成されることを特徴とする請求項1または2記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系フィルムの膜厚が、15〜30μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項5】
[I]請求項1〜4いずれか記載の液圧転写印刷用ベースフィルムに意匠を印刷し、印刷面に再活性しうる活性剤を塗布する工程、
[II]前記活性剤を塗布した液圧転写印刷用ベースフィルムの印刷面を上方にして水面に浮かべ、該ベースフィルム上方より被転写体を押し当てて液圧転写する工程、
[III]液圧転写された被転写体を水面より引き上げたあと、水中に残存する未溶解物を除去する工程を含むことを特徴とする転写方法。
【請求項6】
水中に残存する未溶解物が、ポリビニルアルコール系フィルム由来のポリビニルアルコール系樹脂を含むことを特徴とする請求項5記載の転写方法。
【公開番号】特開2011−46188(P2011−46188A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125574(P2010−125574)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】
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