説明

液晶を用いた刺激変形体

【課題】空気中で、迅速に大きな変位で動かすことのできる刺激変形体を提供する。
【解決手段】空隙を有する高分子材料に、該空隙以外の骨格中に変形源となる液晶が含まれることを特徴とする刺激変形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、モーターや油圧式、空気圧式アクチュエータのように、電気やその他の入力エネルギーを機械的エネルギーに変換して変形することのできる成分を含み、その変形の結果、クッション体から液体などの溶媒流出を伴わず、すばやく見かけ上の体積変化をもたらすことができる刺激変形体、およびこのような刺激変形体を用いた車両用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に用いられている機械式の駆動源としては、モーター、油圧・空気圧式アクチュエータなどがあるが、これらは概ね金属からなるものが多く、質量、スペースを大きくとり、また必要な動力源としても多大なエネルギーを必要とするものが多い。
【0003】
また、は、軽量・省スペースで得られる有機材料を用いたアクチュエータを開示している。ここで用いられている導電性高分子は、電気化学的な酸化還元反応を利用し、有機材料の伸縮を上記課題に適用しようとしてなされたものである。しかしながら、得られた形状の具体例は、フィルム状で伸縮方向も長手方向の一例しか示されていなくて、体積変化を伴わないものである。
【0004】
さらに、WO2004054082は、体積変化するものの例として、ゲルと溶媒との組合せを挙げている。しかしならが、ゲルからなる骨格内から電気刺激により溶媒を絞り出すことによって、骨格材料の変形を導き出すため、変形速度は非常に緩やかである。そもそも溶媒中で駆動していたゲルアクチュエータを空気中で駆動させるため、溶媒槽ごとシステムとして抱えることになり、電解液の漏れや、電気分解による性能低下が起こる可能性を十分に秘めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1550689号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/54082号パンフレット
【発明の概要】
【0006】
本発明では、上記の問題点を鑑み、これらの材料をクッション形状として得る工夫をすることにより、空気中で、迅速に大きな変位で動かすことのできる刺激変形体を得ることを課題とする。
【0007】
本発明は、従来の有機アクチュエータにおける上記課題に着目してなされたものであって、軽量化、省スペース化が可能であると共に、入力エネルギーを機械的な出力に変換して変形させる機能を、自動車などの内装材部品に新機能を付加して提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、空隙を有する高分子材料に、該空隙以外の骨格中に駆動源となる液晶が含まれることを特徴とする刺激変形体、に関する。
【0009】
また、本発明は、空隙を有する高分子材料に、該空隙以外の骨格を成す材料の高分子鎖中に、駆動源となる液晶性をしめす成分が直鎖および/または側鎖として含まれることを特徴とする刺激変形体、に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来の多孔質材料の形状例を示す斜視図と断面図である。
【図2】従来の多孔質材料の形状例を示す断面図である。
【図3】従来の多孔質材料の形状例を示す断面図である。
【図4】従来の多孔質材料の形状例を示す断面図である。
【図5】従来の多孔質材料の形状例を示す断面図である。
【図6】従来の多孔質材料の形状例を示す断面図である。
【図7】本発明に係る刺激変形体の骨格内における液晶、高分子鎖の状態の一例を示す模式図である。
【図8】本発明に係る刺激変形体の骨格内における液晶、高分子鎖の状態の一例を示す模式図である。
【図9】本発明に係る刺激変形体の骨格内における液晶、高分子鎖の状態の一例を示す模式図である。
【図10a】本発明に係る刺激変形体の駆動原理を示す一断面模式図である。
【図10b】本発明に係る刺激変形体の駆動原理を示す別の一断面模式図である。
【図10c】本発明に係る刺激変形体の駆動原理を示すその他の一断面模式図である。
【図11】本発明に係る刺激変形体の製造装置の一例を示す模式図である。
【図12】本発明に係る電極を設置した刺激変形体の一例を示す斜視図及び断面である。
【図13】本発明に係る電極を設置した刺激変形体であらかじめ液晶分子を配向させた一例を示す断面模式図である。
【図14】本発明に係る刺激変形体の骨格内における液晶分子、高分子鎖の状態の一例を示す模式図である。
【図15】本発明に係る刺激変形体を用いた車両用部品の一例を示す模式図である。
【図16】本発明に係る刺激変形体を用いた車両用部品のその他の例を示す模式図である。
【図17】本発明に係る評価方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(刺激変形体)
本発明に係る刺激変形体は、高分子からなり、空隙を有する多孔質材料において、その多孔質材料の空隙以外の骨格中に変形源となる液晶が含まれることを特徴とする。
【0012】
一般的な多孔質クッション材料としては、図面に示されるように、独立気泡でできているもの(図1,a:斜視図、b:aのI−I線に沿って切断した断面図)や、気泡が連続に繋がったもの(図2)、気泡が周期的に並んでいるもの(図3、4)、気泡の大きさが不均一なもの(図5)、気泡断面が球形ではない変形断面形状(図6)などがある。これらは、クッションの硬さや、ばね定数をチューニングする手段として用いられる。なお、本発明における図面において、気泡を円または楕円で表すが、代表例であって、これらに限定されるものではない。
【0013】
この多孔質クッション材料を構成する高分子材料としては、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルホルマール、エポキシ、フェノール、ユリア、及びシリコンなどが例示できる。この材料は、単独でまたは2以上を組み合わせて用いられる。
【0014】
本発明の意図するところは、このようなクッションの静的特性の変化もさることながら、アクチュエーションなどの動的な特性をも狙って、多孔質クッションに関する構造の工夫と材料の工夫を組合せることによって、上記機能を実現したところにある。
【0015】
本発明で用いられる多孔質材料とは、外形寸法から得られる見かけ体積よりも、材料の使用量が小さいものをいい、多孔質化したことによる空隙により、その材料単体からなる同寸法のものより見かけの密度が小さいものをいう。一般的には、発泡スチロール、発泡ポリプロピレン、及び発泡ウレタンなどの発泡材が挙げられる。これらの材料は、空隙が独立しているもの、連続しているものに関わらず、外形寸法から得られるものより密度が小さくなっている。本発明では、これらの他にも、高分子ゲルや、エラストマーなどからなるものも好適である。
【0016】
これらの多孔質材料の空隙とは、連続気泡のものでは空気、独立気泡のものでは発泡したガス成分、またはそれが置換された空気が含まれる部分をいう。骨格とは、空隙以外の高分子からなるものをいう。
【0017】
これらの空隙の大きさは、特に制限されるものではないが、数百nm程度から数mm程度の範囲で作ったものが、骨格の変形を容易に得られる点で好適である。空隙の大きさとは、連続、単独どちらの気泡においても、その発泡1単位毎の大きさのことをいう。空隙の大きさや、その量が小さくなると、相対的に骨格が太く、大きくなる傾向があり、変形量は、概ね小さくなる。空隙の大きさや、量が大きくなると、骨格が小さくなるため、クッション体としての形状が維持しにくくなる傾向にある。発泡倍率で言うと、数倍から50倍程度のものが容易に得られ、また、クッション体、変形量を共に満足する傾向が見られるが、ここでは特に限定は行わない。
【0018】
次に、本発明の刺激変形体では、その多孔質材料中の空隙が連続した空隙であることがより好ましい。これは、独立気泡であると、その空隙中の内包物(蒸発した発泡材や空気)が変形により圧縮を受ける。つまり、圧縮のための力が余計に必要になるため、変形量が小さくなる傾向にあるからである。連続気泡であれば、気泡部分が小さくなったとしても、その部分の空気は、外部に流出することができ、また、大きくなった場合にも、すばやく吸入することができる。これにより、変形量も大きくなり、且つ、変形速度も大幅に速くなる。
【0019】
本発明に用いられる多孔質材料は、高分子ゲルからなることが好ましい。
【0020】
高分子ゲルの例としては、ポリアクリル酸系、ポリメタクリル酸系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリアクリロニトリル系、ポリメチルメタクリレート系、ポリウレタン系、ポリスルホン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリシロキサン系などを挙げることができる。さらに具体的には、ポリアクリル酸ゲル、ポリメタクリル酸ゲル、ポリアクリルアミドゲル、ポリ(アクリルアミド−アクリル酸)共重合体ゲル、ポリ(アクリルアミド−メタクリル酸)共重合体ゲル、ポリ(アクリルアミド−トリメチル(N−アクリロイル−3−アミノプロピル)アンモニウムアイオダイド)共重合体ゲルの4級化ゲル、ポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ゲル、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸の複合体ゲル、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−メタクリル酸−2−ヒドロキシルエチル)共重合体ゲル、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−アクリロニトリル)共重合体ゲル、アルギン酸塩ゲル、及びコラーゲンゲルなどが挙げられる。かかるゲルは、単独でまたは2以上を組み合わせて用いられる。その他、天然物を素にするものでは、タンパク質や多糖類などの天然高分子を素にする角膜、水晶体、卵白、豆腐、こんにゃく、及びゼラチンの様なゲルも挙げられる。
【0021】
本発明に適する(液晶)エラストマーは、基本的に、高分子鎖に液晶分子の中心骨格であるメソゲン基が側鎖(本明細書では、直鎖の末端も側鎖に含む。)として結合し、エラストマーの液晶相状態を生じるものが挙げられる。適当なエラストマーとしては、ポリシロキサン類を用いることが、大きな変形を得る上でより好適である。この他に、室温においてガラス状態で存在するポリメタクリレート、ポリクロロアクリレートまたはポリスチレン誘導体や、室温において液晶状態で存在する好ましいエラストマーは、ポリアクリレート、ポリシロキサンまたはポリホスファゼンを含むもの、およびこれらからなるコポリマーが挙げられる。また、好ましいメソゲン基は、メソゲンユニットの長軸に、例えば、15個までの鎖構成員を有するアルキル、アルコキシおよび/またはオキサアルキル基を含むものが挙げられる。
【0022】
エラストマーは、通常の高分子の合成と同様に、例えば、単純なランダム共重合、あるいは多官能性架橋剤分子とのランダムポリマー類似付加反応により合成される。また、別の方法では、メソゲンモノマーを官能性コモノマーと共重合して液晶コポリマーを形成し、それを第二反応工程で架橋剤によりネットワーク構造に変える方法もある。
【0023】
エラストマーに側鎖、直鎖で液晶骨格(メソゲン基)を含ませる量は、モル比で、骨格となる(エラストマー):(液晶骨格)=約1:1程度が、形状維持、変形量を大きくできる点で好ましい。実際に変形ができる範囲としては、10:1程度から1:10程度でも可能であるが、変形できる量が小さくなったり、形状維持が難しくなったりする傾向にはある。
【0024】
本発明の刺激変形体において、高分子が発泡体からなることが好ましい。
【0025】
本発明の刺激変形体は、高分子からなり、空隙を有する材料において、その空隙を有する材料の空隙以外の骨格または骨格中に変形源となる液晶が含まれることを特徴とし、好ましくは、その空隙を有する材料が多孔質であること、より好適には、その骨格中に液晶が含浸されていることを特徴とし、さらに好適には、その多孔質材料が高分子ゲルからなることを特徴とする。
【0026】
本発明の刺激変形体は、高分子からなり、空隙を有する多孔質材料において、その多孔質材料の空隙部分以外の骨格を成す材料の高分子鎖中に、変形源となる液晶性をしめす成分が直鎖および/または側鎖として含まれることを特徴とする。より好適には、その多孔質材料が高分子ゲルからなり、そのゲルを形成する高分子鎖中に、変形源となる液晶性をしめす成分が直鎖および/または側鎖として含まれることを特徴とする。さらに、空隙を有する多孔質材料において、その骨格または骨格中に液晶が含浸されていてもよい。
【0027】
この骨格中に液晶を含むことにより、温度刺激や電気刺激を与えることで、本刺激変形体は変形、例えば、伸縮する。
【0028】
本発明で用いられる液晶としては、特に限定されるものではないが、ネマチック−アイソトロピック転移温度(NI点)が常温域に来るように選定されることが好ましい。この温度域とすることで、温度変化によって、体積変化などの機能を発現することが可能である。
【0029】
また、液晶の具体例としては、一般にベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環などの他、ピリミジン環、ジオキサン環、ピリジン環などのヘテロ環などの環状化合物を2〜4つを結んだもの、また、その結合部には、メソゲン基と呼ばれるエステル結合、アセチレン結合(エチニレン基)、エタン結合(エチレン基)、エチレン結合(エテニレン基)、アゾ結合などを用いたもの、末端基、側方置換基としては、シアノ基、フルオロ基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基などを用いて結合したアゾキシ系、ビフェニル系、フェニルシクロヘキサン系、フェニルエステル系、シクロヘキサンカルボンサンフェニルエステル系、フェニルピリミジン系、メトキシフェニルエステル系、及びフェニルジオキサン系などが挙げられる。これらの液晶は、単体でも用いられるが、実用上、数種類を混合したものを用いることが好ましい。電気刺激での変形の場合には、これらの液晶を用いることが好適である。
【0030】
温度変形を考えた場合には、これらの液晶単体、あるいは混合液晶は、常温で等方相を持つように調整する。単体で等方相を持つ例としては、4−ペンチル−4'−シアノビフェニル(5CB)、4−ヘキシル−4'−シアノビフェニル(6CB)、4−ヘキシル−4'−シアノフェニルピリジン、4−ヘキシル−4'−プロピルフェニルシクロヘキサン、4−メチル−4'−プロピルジシクロヘキサン、及び4−ヘキシル−4'−メトキシジシクロヘキサンなどが挙げられる。本発明では、これらの単体、又は混合物を液晶という。
【0031】
本発明の刺激変形体において、その両面に少なくとも一対の電極が設置されることが好ましい。次に、刺激変形体の両面に少なくとも一対の電極を設置することは、電気刺激で変形させる場合に特に有効である。低分子液晶が含まれる場合、骨格中に直鎖、又は側鎖で含まれる場合のどちらにも有効である。
【0032】
本発明によれば、常温、空気中で即時の変形が可能な刺激変形体を得ることができる。
【0033】
(製法)
高分子材料の骨格中に液晶を含ませる方法としては、あらかじめ発泡体を形成する前のモノマー中に液晶を混合、分散させておき、発泡、ポリマー化させる際に骨格中に取り込ませる方法や、発泡させた後、含浸により、液晶を骨格中に含ませる方法などが挙げられる。液晶は、一般的に不揮発性なので、これらの骨格中に留まる。ここで、骨格に含ませる液晶の量は、骨格材料の質量の数%から50%程度が、実際に変形が起きる骨格強度を維持するなどの点で好ましいが、ここでは特に限定を行わない。
【0034】
これらの刺激変形体の骨格への液晶の含ませ方は、含浸による方法も好適である。
【0035】
本発明の刺激変形体を構成する高分子は、空隙を有することはもちろんであるが、発泡体から形成することが、製法上から好ましい。これまでに記述している各種の材料を、公知の気泡発生手段、例えば、熱分解型発泡剤を用いた気泡発生手段、揮発性溶剤を用いた気泡発生手段、あるいは高圧下で不活性ガスを高分子中に吸収させ、常圧で発泡させる気泡発生手段などの方法で発泡成形することができる。
【0036】
独立気泡は、あらかじめ内包物として揮発成分を含ませたマイクロカプセルを用いる方法や、連続気泡を形成させる材料でもって発泡成分の量を少なくする方法などで作製できる。
【0037】
あらかじめ発泡させた多孔質材料を、液晶溶媒中に浸漬し、概ね1〜10日程度液晶分子を含浸させたのち、空隙部に入った液晶を流し出すことで、液晶を含浸させることができる。このとき、空隙が完全に埋まらない程度、好ましくは空隙の最大90%程度までが許容できる。完全に空隙が充填されると、必要な変形が阻害されてしまうためである。これらの形態でも、刺激変形体として機能する。このとき、含浸させたことによる質量の増加は、先述のあらかじめ混合しておく方法と同様に、もとの骨格材料の質量に対して数%から50%程度であることが好ましいが、特に限定は行わない。
【0038】
本発明に用いられる多孔質材料は、高分子ゲルからなることが好ましい。高分子ゲルは、骨格中に官能基を持つため、液晶の官能基との水素結合や静電反発などの相互作用で変形でき、且つ、液晶分子をゲルの網目構造中に保持できる。上記の高分子ゲルには、架橋点を持たない物理ゲルも含まれるが、より好ましくは、化学結合による架橋点を持つ化学ゲルが形状維持の観点から好ましい。
【0039】
次に、別の実施の形態として、高分子からなり、空隙を有する多孔質材料でも、その多孔質材料の空隙以外の骨格を成す材料の高分子鎖中に、変形源となる液晶性をしめす成分を直鎖および/または側鎖として含む方法も挙げられる。これは、多孔質材料中に液晶分子を構造的に取り込むことになるので、混合や含浸の工程が不要となるばかりか、変形に必要な液晶分子を無駄なく取り込める点で、大変好適な方法である。上記のように、各種の材料を公知の気泡発生手段によって発泡する前の材料に液晶を添加し、その後、発泡することによって、液晶を含む骨格を形成することができる。液晶などの添加量は、特に制限されることなく、例えば、骨格材料の質量に対し、数%から50%程度の範囲にある。また、液晶性を示す骨格が直鎖および/または側鎖を含む場合には、例えば、上記のように、骨格材料と直鎖および/または側鎖を含む液晶性を示す材料に、公知の気泡発生手段によって発泡を起こさせることができる。また、温度刺激や電気刺激により、骨格自体の変形も誘起することができるため、変形量を非常に大きく取ることができる。ここで、高分子鎖中に液晶性を示す骨格が直鎖(バックボーンを形成する成分として含まれる)及び/又は側鎖に含まれているものを、液晶エラストマーという。(図7〜9:空隙は省略)
液晶エラストマーを用いる場合でも、その多孔質材料が高分子ゲルであることが好ましい。上述の高分子ゲルを、構成するポリマーの直鎖及び/又は側鎖に含むことで、適当なクッション性を有しながら、容易に変形させることができることからより好適である。
【0040】
次に、先述の様に刺激変形体の両面に少なくとも一対の電極を設置することは、電気刺激で変形させる場合には特に有効である。低分子の液晶が含まれる場合、骨格中に直鎖又は側鎖に含まれる場合のどちらにも有効である。電極を設置する方法としては、一般的に用いられる導電体を塗布する方法や、導電体を蒸着する方法などを適宜用いることができる。
【0041】
(作用)
本発明は、これらの多孔質材料と液晶とを組み合わせることで、従来の材料では成し得なかった溶媒の放出を伴わない体積変化のくり返しを可逆的に行うことが可能となる。以下、この原理を説明する。
【0042】
空隙を有する高分子材料の骨格中に液晶を含ませることにより、温度刺激または電気刺激を与えることによって、本発明の刺激変形体は変形する。
【0043】
温度刺激の場合、液晶の等方相転移温度を境に、見かけ上の体積変化が起こる。
【0044】
骨格内において液晶分子が異方的配列している状態では、刺激を受けた場合、それに伴って骨格も異方的な延伸を受けることになり、骨格自体の体積は変化しないものの、見かけ体積は大きくなる(図10、a:断面模式図、b:破線部の拡大図(液晶ランダム配向時)、c:破線部の拡大図(液晶規則配向時))。
【0045】
等方相温度以上では、液晶分子はランダムな配向状態になるので、骨格を張る力が働かず、相対的に縮んだ状態となり、結果として骨格が太く、短くなって、空隙が小さくなり、見かけ体積が小さくなる。例えば、あらかじめ電界中で液晶を配列した状態でポリマー化した刺激変形体では、等方相転移温度以下では、その初期の形状を留め、その温度以上では小さくなる。もちろん温度を元に戻せば、見かけ体積も戻ることになる。この時の変形量は、液晶分子の配列方向に依存し、液晶分子の長手方向に対してより大きく変形する傾向が見られる。
【0046】
これらの製造には、例えば、発泡工程に同時に電界をかける装置を設けた図11の装置を用いる。図11において、発泡成形用型20を一対の電界印加用電極21で挟んで構成し、かかる電界印加用電極21は、それぞれ、電圧発生装置22と結線されている。
【0047】
あらかじめ配向していない液晶でももちろん同様の効果は得られるが、概ね変形量が小さくなる傾向にある。
【0048】
電気刺激の場合にも、同様に見かけ体積の変化を引き起こせる。
【0049】
この場合には、刺激変形体の両面に少なくとも一対の電極を設置する(図12、a:斜視図、b:XII−XII線に沿って切断した断面図)ことが好適である。この様に、電極をクッションに対し、向かい合わせて設置し、電圧を印加することによって、その電極間の液晶が配列する。これに伴い、先述の温度刺激の場合と同様に、クッションの変形が起こる。あらかじめ、液晶を配向させた状態でクッション化したものでは、配向軸に対して垂直方向の両面に電極を設置すること(図13)で、より液晶分子を大きく動かすことができるので、大きな変位を取り出すことができる。
【0050】
このとき印加する電圧は、通常、1〜100V程度が好適ではあるが、クッション体として薄い形状で用いる場合には、数mVから数百mVでも変形できる。また、逆に厚い場合には、数kVでも変形させることは可能であるが、ここでは特に限定は行わない。
【0051】
このように、高分子ゲルを、骨格を成す材料として用いた刺激変形体に液晶を含ませることにより、刺激変形体をより大きく動かすことができる。(図14:空隙は省略)これによって、骨格自体の駆動と、液晶分子の駆動とが相まって、より大きな変形を得ることができる。すなわち、骨格自体に含まれる液晶と液晶分子とを合算することとなり、より優れた効果を奏することができる。
【0052】
(用途)
本発明の刺激変形体は、車両用部品として用いることが好ましい。得られた刺激変形体を、車両の内装材に用いられるクッション材料と置換することで、乗員の座り心地や、クッションの動きによる乗り心地の改善、車両から乗員へ信号を伝達する手段などに用いることが可能である。先述の課題を解決する手段の中では、本発明の刺激変形体は、従来にない機能を付与する技術であるため、新たなスペースや質量の増加を伴わず、大変好適である。
【0053】
例えば、車両のシートクッションに使用した場合の様子を図15、16に示す。図15(a:シート座面の低い場合を示す模式図、b:シート座面の高い場合を示す模式図)では、乗員1名ごとのシート30の場合、乗員の体格などに合わせて、シート座面31の上昇や下降を、メカニカルな機構を持たずに行うことができる。同様に図16(a:二人掛けの場合を示す模式図、b:三人掛けの場合を示す模式図)では、多人数用のシート、例えば、ベンチシート32の場合、乗員33の人数に合わせて、適度なホールド感を得るために、座面の必要な部分だけ凹ませたり、膨らませたりさせることができる。両例ともにメカニカルな機構を持たないため、本発明による機構を追加しても、大きな質量の増加を招かず、燃費の悪化を防ぐことができる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0055】
(実施例1)
架橋材としてのN,N'−メチレンビスアクリルアミドと、モノマーとしてアクリルアミド、開始材として過硫酸カリウムを含む水溶液に、発泡材として、熱分解型の炭酸水素ナトリウムを用い、50℃環境下で緩やかに発泡させつつ架橋を行い、多孔質材料(高分子ゲル)を得た。空隙の大きさは概ね500μm、発泡倍率は20倍程度になった。
【0056】
次に、この多孔質材料を乾燥し、水分を取り除いた後、1cm角のサイコロ状に切り出し、4−ペンチル−4'−シアノビフェニル(5CB)中に10日間浸漬した。取り出した後、5日間放置し、空隙部中の5CBを取り除き、刺激変形体を得た。含浸前に0.060gであった質量は、0.071gとなった。
【0057】
この刺激変形体は、液晶の等方相転移温度である35℃付近を境に、低温側で伸びた状態を、高温側で縮んだ状態を示した。このとき低温側を基準にすると、0.2mm程度縮んだ。
【0058】
環境を変化させることによるくり返しの伸縮が1分以内に観察された。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様に1cm角の刺激変形体を得て、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。
【0060】
この刺激変形体に25℃の環境下で10Vの直流電圧を印加すると、電極間の距離が0.2mm程度伸びる様子が観察された。
【0061】
電圧の印加、未印加の変化をさせることによるくり返しの伸縮が、10Hz程度でも観察された。
【0062】
(実施例3)
30倍発泡のウレタンクッションを1cm角のサイコロ状に切り出し、4−ペンチル−4'−シアノビフェニル(5CB)中に10日間浸漬した。含浸前に0.040gであった質量は、0.049gとなった。
【0063】
この刺激変形体は、液晶の等方相転移温度である35℃付近を境に、低温側で伸びた状態、高温側で縮んだ状態を示した。このとき低温側を基準にすると、0.1mm程度縮んだ。
【0064】
環境を変化させることによるくり返しの伸縮が1分以内に観察された。
【0065】
(実施例4)
実施例3と同様に1cm角の刺激変形体を得て、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。
【0066】
この刺激変形体に25℃の環境下で10Vの直流電圧を印加すると、電極間の距離が0.1mm程度伸びる様子が観察された。
【0067】
電圧の印加、未印加の変化させることによるくり返しの伸縮が10Hz程度でも観察された。
【0068】
(実施例5)
実施例1と同様の発泡前の材料に、5CBを質量比で10%混合し、50℃で発泡、架橋を行った。次に、この多孔質材料を乾燥し、水分を取り除いた後、1cm角のサイコロ状に切り出した。
【0069】
この刺激変形体は、液晶の等方相転移温度である35℃付近を境に、低温側で伸びた状態、高温側で縮んだ状態を示した。このとき低温側を基準にすると、0.2mm程度縮んだ。
【0070】
環境を変化させることによるくり返しの伸縮が1分以内に観察された。
【0071】
(実施例6)
ウレタン樹脂の発泡前に、5CBを質量比で10%混合し、10kVの電界をかけながら型内で発泡させた。得られたウレタンは25倍程度の発泡倍率で、1cm角に切り出すと質量は0.048gであった。
【0072】
この刺激変形体は、液晶の等方相転移温度である35℃付近を境に、低温側で伸びた状態、高温側で縮んだ状態を示した。このとき低温側を基準にすると、0.1mm程度縮んだ。
【0073】
環境を変化させることによるくり返しの伸縮が1分以内に観察された。
【0074】
(実施例7)
エラストマーの骨格材料として、ポリ(メチルヒドロゲンシロキサン)[poly(methylhydrogensiloxane)]、側鎖の液晶分子として、4−ブテ−3−ニルオキシ安息香酸4−メトキシフェニルエステル[4−but−3−enyloxybenzoic acid 4−methoxyphenyl ester]、直鎖成分として、1−(4−ヒドロキシ−4'−ビフェニル)−2−[4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル]ブタン[1−(4−hydroxy−4'−biphenyl)−2−[4−(10−undecenyloxy)phenyl]butane]を用い、発泡材として、熱分解型の炭酸水素ナトリウムを用い、50℃の環境下で緩やかに発泡させつつ架橋を行い、多孔質材料を得た。得られた多孔質材料の、骨格材料は80質量%、側鎖は10質量%、直鎖は10質量%であった。
【0075】
これを切り出し1cm角の刺激変形体を得て、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。
【0076】
この刺激変形体に25℃の環境下で10Vの直流電圧を印加すると、電極間の距離が0.3mm程度伸びる様子が観察された。
【0077】
電圧の印加、未印加の変化をさせることによるくり返しの伸縮が、10Hz程度でも観察された。
【0078】
(実施例8)
架橋材としてのN,N'−メチレンビスアクリルアミドと、モノマーとしてアクリルアミド、開始材として過硫酸カリウムを含む水溶液に、独立気泡を得るためのマイクロカプセル(松本油脂製マイクロスフィアーF−80ED)を体積比で1900%、5CBを質量比で10%混合し、50℃の環境下で架橋を行い、多孔質材料(高分子ゲル)を得た。得られた多孔質材料の骨格材料は90質量%、液晶は10質量%であった。
【0079】
この刺激変形体は、液晶の等方相転移温度である35℃付近を境に、低温側で伸びた状態、高温側で縮んだ状態を示した。このとき低温側を基準にすると、0.1mm程度縮んだ。
【0080】
環境を変化させることによるくり返しの伸縮が1分以内に観察された。
【0081】
(比較例1)
30倍発泡のウレタンを1cm角に切り出し、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。
【0082】
この刺激変形体に25℃の環境下で10Vの直流電圧を印加したが、電極間の距離の変化は見られなかった。また、このサンプルを環境温度5℃〜80℃まで変化させ、変位を測定したが変化は見られなかった。
【0083】
(比較例2)
架橋材としてのN,N'−メチレンビスアクリルアミドと、モノマーとしてアクリルアミド、開始材として過硫酸カリウムを含む水溶液に、発泡材として、熱分解型の炭酸水素ナトリウムを用い、50℃の環境下で緩やかに発泡させつつ架橋を行い、多孔質材料を得た。
【0084】
1cm角に切り出し、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。
【0085】
この刺激変形体に25℃の環境下で10Vの直流電圧を印加したが、電極間の距離の変化は見られなかった。また、このサンプルを環境温度5℃〜80℃まで変化させ、変位を測定したところ、高温側で1時間程度の経過後、体積が収縮している様子が観察されたが、低温に戻しても数時間の間は変化が見られなかった。
【0086】
(評価試験)変位量試験
実施例1〜8、および比較例1〜3によって得られた刺激変形体、従来品に対して、レーザー変位計(キーエンス製LB−5000)を用い、恒温槽中で温度条件を適宜設定して評価した。(図17)
図17において、恒温槽40内に、一対の測定ヘッド42の間にサンプルである多孔質材料1を設置して、該サンプルの伸縮を測定用レーザー43で測定し、恒温槽40外に設けられたレーザー変位計41でその変位を決定する。
【0087】
前記した内容は発明の好ましい実施態様であり、種々の変更及び修正は本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明の範囲内においてなされると理解すべきである。
【0088】
この出願は、日本国特許庁に2005年6月16日付けで出願された出願番号2005−176763号の利益を請求するものであり、ここにその開示の全てが参照により含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の刺激変形体は車両用部品、例えば、クッション材として利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 多孔質材料、
2 高分子材料からなる骨格、
3 気泡、
10 液晶分子、
11 電極、
12 高分子鎖、
13 側鎖の液晶、
14 直鎖の液晶、
20 発泡成形用型、
21 電界印加用電極、
22 電圧発生装置、
30 乗員1名用シート、
31 シート座面、
32 ベンチシート、
33 乗員、
40 恒温槽、
41 レーザー変位計、
42 測定ヘッド、
43 測定用レーザー、
44 サンプルの変位測定方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子からなる骨格と空隙とを有する多孔質材料の前記骨格中に、変形源となる液晶単体またはその混合物を含み、刺激の印加に応じて体積変化のくり返しを可逆的に行うことができることを特徴とする刺激変形体。
【請求項2】
前記多孔質材料の前記骨格中に、液晶単体またはその混合物が含浸されてなることを特徴とする請求項1に記載の刺激変形体。
【請求項3】
前記多孔質材料は、高分子ゲルであることを特徴とする請求項1または2に記載の刺激変形体。
【請求項4】
前記空隙は、連続した空隙であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の刺激変形体。
【請求項5】
両面に、少なくとも一対の電極が設置されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の刺激変形体。
【請求項6】
前記多孔質材料は、発泡体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の刺激変形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10a】
image rotate

【図10b】
image rotate

【図10c】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−17469(P2012−17469A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208708(P2011−208708)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2007−521146(P2007−521146)の分割
【原出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】