説明

液晶ポリエステル樹脂組成物、成形体

【課題】従来の液晶ポリエステル樹脂組成物に比べ、加工時の収縮率が低く所望の形状の成形体を得ることができる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】液晶ポリエステル樹脂とガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維の形成材料は、全組成のうちSiOを60質量%以上70質量%以下、Alを20質量%以上30質量%、MgOを9質量%以上11質量%以下含むガラスであることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂とガラス繊維とを含む液晶ポリエステル樹脂組成物、および該組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融時に液晶性を発現する液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性及び加工性に優れることから、各種用途分野で使用されている。特に、電気電子分野を始めとする精密成形が要求される分野において、成形用材料として広く採用されている。
【0003】
しかしながら、液晶ポリエステル樹脂は剛直な分子構造を有することから、成形体の機械的強度や収縮率といった物性について異方性が大きく、良質な成形体を得ることが困難であることが知られている。このような問題に対し、液晶ポリエステル樹脂に対してガラス繊維(特許文献1)や、チタン酸カリウム繊維(特許文献2)などの充填材を添加した組成物とし、該組成物を用いて成形体を成形することで、成形体の異方性を低減するといった手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−78455号公報
【特許文献2】特開昭62−81448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2ともに収縮率に対する効果は言及されていない。また、特許文献2に関しては、良好な成形体を得るためには、チタン酸カリウムに含まれる結晶水の量の管理が必要であり、成形体の品質管理が煩雑となるという課題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、従来の液晶ポリエステル樹脂組成物に比べ収縮率が低く所望の形状の成形体を得ることができる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。また、このような液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料に用いることで所望の形状とした成形体を提供することを合わせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂とガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維の形成材料は、全組成のうちSiOを60質量%以上70質量%以下、Alを20質量%以上30質量%、MgOを9質量%以上11質量%以下含むガラスであることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、前記ガラスが、全組成のうちCaOを0質量%以上1質量%以下含むことが望ましい。
【0009】
本発明においては、前記ガラスが、全組成のうちBを0質量%以上0.1質量%以下含むことが望ましい。
【0010】
本発明においては、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対し、ガラス繊維を10質量部以上100質量部含むことが望ましい。
【0011】
また、本発明の成形体は、上述の液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とし、前記液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融し成形して得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、従来の液晶ポリエステル樹脂組成物に比べ、収縮率が低く所望の形状の成形体を得ることができる。また、本発明の成形体は、このような液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料に用いることで所望の形状とすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る液晶ポリエステル樹脂組成物、および該樹脂組成物を用いて成形される成形体について説明する。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルと、所定の組成のガラスを形成材料とするガラス繊維と、を含む。
【0014】
(液晶ポリエステル)
まず、本実施形態の樹脂組成物で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0016】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
【0017】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0018】
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0019】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(上記式(1)において、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。また、上記式(2)(3)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0020】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個以下である。
【0021】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は好ましくは1〜10である。
【0022】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0024】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0025】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30%以上80モル%以下、さらに好ましくは40%以上70モル%以下、よりさらに好ましくは45%以上65モル%以下である。
【0026】
繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10%以上35モル%以下、さらに好ましくは15%以上30モル%以下、よりさらに好ましくは17.5%以上27.5モル%以下である。
【0027】
繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10%以上35モル%以下、さらに好ましくは15%以上30モル%以下、よりさらに好ましくは17.5%以上27.5モル%以下である。
【0028】
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0029】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0030】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0031】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0032】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0033】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が270℃以上、好ましくは270℃以上400℃以下、より好ましくは280℃以上380℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0034】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0035】
本明細書においては、流動開始温度を測定する装置として、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。
【0036】
(ガラス繊維)
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物には、ガラス繊維が含まれている。該ガラス繊維は、全組成のうちSiOを60質量%以上70質量%以下、Alを20質量%以上30質量%、MgOを9質量%以上11質量%以下含むガラスを形成材料としている。また、ガラス繊維の形成材料であるガラスは、任意成分として、全組成のうちCaOを0質量%以上1質量%以下含むこととしてもよく、また、全組成のうちBを0質量%以上0.1質量%以下含むこととしても構わない。
【0037】
なお、本明細書においてガラスの組成比は、以下の方法で求めた数値を採用した。
まず、用いるガラス繊維を粉末状にした上でアルカリ溶解し、次いで、得られる溶液についてICP発光分析機(セイコーインスツル社製、SPS3000)を用いて測定することでガラスに含まれる各種元素の定量を行い、各元素を酸化物換算することで、ガラスの組成比を求めた。
【0038】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に適用可能なガラス繊維としては、上記組成のガラスを溶融させ、目的の繊維径となるようなダイスを通じて繊維状に加工処理した後、適切な長さにカットしたもの(チョップドストランド)を挙げることができる。また、これに限らず、本発明の目的を阻害しない範囲内で、種々の繊維径および繊維長のガラス繊維を用いることができる。
【0039】
ガラス繊維の繊維長は、取り扱いの観点から1mm以上10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがさらに好ましい。また、ガラス繊維の単繊維径は、5μm以上25μm以下であることが好ましい。
【0040】
このようなガラス繊維は、紡糸する際に、液晶ポリエステルとの接着性を改善するとともに、ガラス繊維の取り扱いを容易にするための集束剤を使用することとしてもよい。このような集束剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂等の表面処理剤を使用することが出来る。
【0041】
(液晶ポリエステル樹脂組成物)
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物において、ガラス繊維の使用量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して10質量部以上100質量部以下の範囲であるのが好ましく、より好ましくは20質量部以上80質量部以下であり、特に好ましくは30質量部以上70質量部以下である。ガラス繊維の使用量が、この範囲であると、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融押出成形してペレット状に組成物を調製する際、押出成形機のスクリューへの噛み込み性が良好となり、ペレット加工時の可塑化が十分に安定となることから好ましい。さらには、このようにペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて成形体を得ると、得られる成形体の外観が良好になるといった利点がある。
【0042】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を得るための配合手段としては、液晶ポリエステル樹脂と、ガラス繊維とを公知の方法で混合すればよい。
【0043】
また、液晶ポリエステル樹脂と、ガラス繊維とに加え、必要に応じガラス繊維以外の無機充填剤や添加剤などを用いることもできる。このような無機充填剤としては、シリカアルミナ繊維、ウォラストナイト、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化チタンウィスカー等の繊維状あるいは針状の補強剤;炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、マイカ、クレイ、ガラスビーズなどの無機充填剤等が挙げられ、これらの無機充填剤は二種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
添加剤としては、染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤;離型安定剤などが挙げられる。
【0045】
また、少量であれば、液晶ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレ
ンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドが挙げられる。
このような、無機充填剤、添加剤等を用いるときには、液晶ポリエステル樹脂の成形加工性を著しく損なわない範囲で、また、得られる成形体の必要とする特性を損なわない範
囲で決定される。
【0046】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造するには、ストランド状に押出成形し、ペレタイザーなどを用いてペレット化する方法が特に好ましく、ヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練するといった溶融混練法が特に好ましい。該溶融混練法としては、全ての原材料を一括して混合した後で押出機へフィードしてもかまわないし、必要に応じて、異形断面ガラス繊維や、必要に応じて用いられる無機充填剤又は添加剤を、液晶ポリエステル樹脂を主体とする原材料とは別にフィードしてもかまわない。
【0047】
本実施形態の成形体は、上述の液晶ポリエステル樹脂組成物を公知の方法で溶融して成形することにより得ることができる。加工方法としては、特に射出成形法が好ましい。
【0048】
以上のような液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、従来の液晶ポリエステル樹脂組成物に比べ、収縮率が低く所望の形状の成形体を得ることができる。
【0049】
また、以上のような成形体は、上述の液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料に用いることで所望の形状とすることができ、高品質な成形体とすることが可能となる。
【0050】
本実施形態の成形体は、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、回路基板,半導体パッケージ,コンピュータ関連部品等の電気・電子部品、特に比較的形状が複雑な電気・電子部品に特に好適に用いることができる。
【0051】
なお、当該成形体は電気・電子部品以外にも、ICトレー、ウエハーキャリヤー等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、
冷蔵庫、炊飯器、照明器具等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等の照明器具部品;CDやDVDのプレーヤー、レーザーディスク(登録商標)プレーヤー、スピーカー等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー等の複写機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品;マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材等の建築資材または土木建築用材料;航空機部品、宇宙機部品、原子炉などの放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品等にも使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例中の各種物性は以下の方法により測定した。
【0054】
(1)成形収縮率:射出成形機(日精樹脂工業(株) PS40E5ASE)を用いてシリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度100mm/秒で1辺64mm、厚さ3.0mmの平板試験片を成形した。得られた成形体について、マイクロメーターを用いて樹脂の「流動方向」および「直交方向」の寸法を測定し、予め測定していた金型内の「流動方向」および「直交方向」の寸法と比較して、以下の式により、各方向の成形収縮率を算出し評価した。
【0055】
[数1]
成形収縮率(%)=100×(1−[成形体の寸法]/[金型の内寸])
【0056】
なお、射出成形においては、平板の1辺全てをゲートとした金型を使用し、評価に際しては、金型のゲートに対し垂直な方向を「流動方向」、それに直行する方向を「直行方向」とした。
【0057】
(2)引張強度:射出成形機(日精樹脂工業(株) PS40E5ASE)を用いてシリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度100mm/秒でASTM4号ダンベル試験片(厚さ2.5mm)を成形し、ASTM D638に準拠して測定した。
【0058】
(3)曲げ弾性率:射出成形機(日精樹脂工業(株) PS40E5ASE)を用いてシ
リンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度100mm/秒で幅12.7mm、
長さ127mm、厚さ6.4mmの棒状試験片を成形し、ASTM D790に準拠して
測定した。
【0059】
(4)比重:射出成形機(日精樹脂工業(株) PS40E5ASE)を用いてシリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度100mm/秒でASTM4号ダンベル試験片(厚さ2.5mm)に成形し、ASTM D792に準拠して測定した。
【0060】
(5)誘電率:射出成形機(日精樹脂工業(株) PS40E5ASE)を用いてシリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度100mm/秒でJIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)に成形し、ASTM D150に準拠して1GHzにおける誘電率を測定した。
【0061】
<製造例>
トルクメーターを有する攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、1−メチルイミダゾールを0.2g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で1時間還流させた。
【0062】
その後、1−メチルイミダゾールを0.9g添加し、副生する酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温した。トルクの上昇が認められる時点を反応終了とし、室温まで冷却してプレポリマーを得た。
【0063】
得られたプレポリマーを粗粉砕機で粉砕後、得られた粉末を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温した後、285℃で3時間保持することで、固相重合を行った。冷却して得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。
【0064】
<実施例>
製造例によって作成した液晶ポリエステル70質量部に、後述の表1(実施例)に記載した組成を有するガラス繊維(繊維径:6μm,カット長:6.4mm)30質量部を配合した後、2軸押出機(池貝鉄工(株)PCM−30)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用い、射出成形機を使用して試験片を成形し、上述の方法で収縮率、機械的強度および誘電率を測定した。
【0065】
<比較例>
ガラス繊維として、後述の表1(比較例)に記載した組成を有するガラス繊維(オーウェンスコーニングジャパン(株)製、CS03JAPx−1、繊維径:10μm,カット長3mm)を用いた以外は、実施例と同様に評価を行った。
【0066】
実施例および比較例で用いたガラス繊維の組成を、表1に示す。また、実施例および比較例について、結果を表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
測定の結果、実施例の成形体は比較例の成形体と比べて収縮率が小さく、所望の形状の成形体となっていることが分かった。合わせて、実施例の成形体は、比較例の成形体よりも機械的強度が高く、比重が小さく、誘電率が低いことが分かった。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂とガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維の形成材料は、全組成のうちSiOを60質量%以上70質量%以下、Alを20質量%以上30質量%、MgOを9質量%以上11質量%以下含むガラスであることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ガラスが、全組成のうちCaOを0質量%以上1質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ガラスが、全組成のうちBを0質量%以上0.1質量%以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
液晶ポリエステル樹脂100質量部に対し、ガラス繊維を10質量部以上100質量部含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とし、前記液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融し成形して得られることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2012−193304(P2012−193304A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59475(P2011−59475)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】