説明

液晶光学変調素子

【課題】対向電極4の膜厚構造を赤外光波長透過可能にすることは、前記対向電極4の抵抗値は高抵抗となり、前記対向電極4へ電圧印加時に発熱が生じるため、液晶への温度特性変化が生じる。液晶への温度特性変化は、液晶の僅かな屈折率変化を発生し、波長選択する波長が目的の波長と異なり、目的を達成しなくなってしまう。
【解決手段】複数の画素電極を有する第1電極基板と該第1電極基板に相対する対向電極を有する第2電極基板を備え、前記第1電極基板と前記第2電極基板をシール材を介し所定の位置及び間隔で貼りあわせた後に前記所定の間隔に液晶を封入してなる液晶光学変調素子において、前記対向電極の前記画素電極に対向する領域外に金属膜を形成することにより、放熱性を良くし、前記金属膜に温度制御素子を接続することにより、温度変化による液晶の温度特性変化を抑える液晶光学変調素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶光学変調素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶光学変調素子は、複数の画素電極を有する第1電極基板と、該第1電極基板に相対する対向電極を有する第2電極基板を備え、前記第1電極基板と前記第2電極基板をシール材を介し所定の位置及び間隔で貼りあわせた後に前記所定の間隔に液晶を封入し、前記画素電極と前記対向電極間に電位差を与え、液晶の配向を制御することにより各種光学変調を得るものである。
【0003】
図6は従来技術による液晶光学変調素子を示す図であり、(A)は上面図、(B)はa−a断面図である。1は複数の画素電極3を有する第1電極基板1で、例えばシリコン基板である。2は前記第1電極基板1に相対する対向電極4(例えばITO)を有する第2電極基板2で、例えばガラス基板である。第1電極基板1と第2電極基板2はシール材5により所定の位置および間隔を有して貼り合わされており、前記所定の間隔に液晶8を封入してなる液晶光学変調素子を構成している。
【0004】
一般的な液晶光学変調素子に使用される前記対向電極4は可視光領域の透過に重点を置いており、低消費電力化を行うためには、前記対向電極4の抵抗値は低いことが好ましい。(例えばITOの場合の抵抗値は200〜300Ω程度になる膜厚にして用いられている。)また、前記対向電極4が低抵抗であることは前記液晶光学変調素子への電圧印加時の発熱を抑制することも出来る。
【0005】
赤外光波長領域を使用する際は、前記対向電極4の膜厚では前記赤外光波長領域の吸収は避けられない。前記赤外光波長領域を使用する際は、前記赤外光波長領域を透過可能とする膜厚(例えばITOの場合、抵抗値が1kΩ程度になる膜厚が用いられている。)にしている。即ち、前記対向電極4の厚みを薄くし、赤外光波長領域の吸収を少なくしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記対向電極4の膜厚を前記赤外光波長が透過可能にすることは、前記対向電極4の抵抗値は高抵抗となり、前記対向電極4への電圧印加時に発熱が生じるため、前記液晶光学変調素子内の前記液晶の温度が上昇し、前記液晶光学変調素子の温度特性が変化する。
【0007】
前記液晶の温度変化は、液晶光学変調素子をレーザー光の波長変換・選択素子として使用する場合に、液晶の僅かな屈折率変化により、特に常光(no)と異常光(ne)との差である屈折率差(Δn)が変化し、波長選択する波長が目的の波長と異なり、レーザー光の波長変換・選択素子としての目的を達成しなくなってしまう。そのため、液晶の温度を均一に保つことが非常に重要である。
【0008】
また、レーザーとして高出力を簡単に達成できるレーザーは、赤外線レーザーであるため、また、すでに光ファイバー通信には、赤外線が利用されているため、赤外線レーザーの光ファイバーシステムに、液晶光学変調素子を利用することは有効であるが、前記対向電極の赤外線透過率が低いと液晶光学変調素子により、エネルギー損失が発生し、レーザー光の光を減衰し、長距離通信ができなくなり、アンプを設けなくてはいけない等の弊害が発生してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
複数の画素電極を有する第1電極基板と該第1電極基板に相対する対向電極を有する第2電極基板を備え、前記第1電極基板と前記第2電極基板をシール材を介し所定の位置及び間隔で貼りあわせた後に前記所定の間隔に液晶を封入してなる液晶光学変調素子において、前記対向電極の前記画素電極に対向する領域外に金属膜を形成した液晶光学変調素子とする。
【0010】
前記金属膜に温度制御素子を接続した液晶光学変調素子とする。
【0011】
前記対向電極の前記画素電極に対向する領域を赤外光波長領域が透過する厚みまで薄くした液晶光学変調素子とする。
【0012】
前記金属膜の前記シール材接着領域の少なくとも一部はアンカー効果を有する表面形状とした液晶光学変調素子とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、赤外光波長領域で使用時の、対向電極の膜厚を前記赤外光波長領域が透過可能にすること、対向電極を高抵抗化すること、周囲に金属膜を設けることより、前記液晶の温度変化を低下させると同時に、制御することが可能となり、液晶の屈折率変化を大きく低減することが可能となる。
【0014】
前記対向電極の前記画素電極に対向する領域外に金属膜を形成することにより、前記対向する領域外での放熱性を高め、対向電極の発熱により液晶温度が上昇するのを抑制できる。また、前記金属膜に温度制御素子を接続することにより、温度制御素子の温度制御で、金属膜を介して対向電極の光変調部の温度を短時間で、確実に制御できるため、前記液晶部の温度変化を抑制することが可能となる。よって、液晶の屈折率変化の微弱変化を低減し、安定化でき、高性能な液晶光学変調素子の提供が可能となる。
【0015】
前記対向電極の前記画素電極に対向する領域の膜厚を赤外光波長領域が透過する厚みまで薄くにすることで、赤外光波長領域での使用が可能となる。
【0016】
一般に金属膜とシール材は密着強度が低く、シール部でのトラブルが発生し易いが、前記金属膜の前記シール材領域の少なくとも一部はアンカー効果を有する表面形状にすることで、前記金属膜と前記シール材の密着強度を保つことが可能となり、信頼性の高い液晶光学変調素子の提供が可能となる。
【0017】
本発明を利用することにより、安定で、長寿命の液晶光学変調素子の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による液晶光学変調素子の実施例1を示す図で(A)は上面図、(B)はa−a断面図
【図2】本発明による液晶光学変調素子の実施例2を示す図で(A)は上面図、(B)はa−a断面図
【図3】本発明による液晶光学変調素子の実施例3を示す断面図
【図4】本発明の製膜工程を示した断面図
【図5】本発明の別の製膜工程を示した断面図
【図6】従来技術による液晶光学変調素子を示す図で(A)は上面図、(B)はa−a断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
複数の画素電極を有する第1電極基板と該第1電極基板に相対する対向電極を有する第2電極基板を備え、前記第1電極基板と前記第2電極基板をシール材を介し所定の位置及び間隔で貼りあわせた後に前記所定の間隔に液晶を封入してなる液晶光学変調素子において、前記対向電極の前記画素電極に対向する領域外に金属膜を形成した液晶光学変調素子とする。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明による液晶光学変調素子の実施例1を示す図であり、(A)は上面図、(B)はa−a断面図である。なお従来技術との重複部分に関して符号は同一とする。1は複数の画素電極3を有する第1電極基板で、例えばシリコン基板(以下同様)である。2は前記シリコン基板1に相対する対向電極(例えばITO)4を有する第2電極基板で、例えばガラス基板(以下同様)である。5はシール材で、例えば協立化学社製のWorldLock798Lである。6は金属膜で、例えばCr−Ni−Auである。シリコン基板1とガラス基板2はシール材5により所定の位置および間隔を有して貼り合わされており、前記所定の間隔に液晶8を封入してなる液晶光学変調素子を構成している。
【0021】
前記対向電極4には、前記画素電極3に対向する領域外に金属膜6を形成されている。金属膜6の膜厚は200nm(ナノメーター)を使用する。Cr:20nm以上、Ni:30nm以上、Au:50nm以上(合計で200nm)が密着力、低抵抗化、パターニング性、熱伝導性の観点から良い。前記金属膜6は前記液晶光学変調素子駆動時に前記シリコン基板1と対向電極4に電圧印加時の発熱を放熱する役割を果たしている。金属膜6の膜厚分は、液晶層の厚さが厚くなるため、シール材5に入れるスペーサー(図示せず)の大きさを金属膜6の膜厚分小さくしている。
【実施例2】
【0022】
図2は本発明による液晶光学変調素子の実施例2を示す図であり、(A)は上面図、(B)はa−a断面図である。7は温度制御素子で例えばペルチェ素子である。
前記対向電極4へ電圧印加時に発熱が生じ、前記液晶光学変調素子内の前記液晶8の温度変化が生じる。そのため前記金属膜6と温度制御素子7を接続することにより、前記対向電極4への駆動電圧印加時の発熱による前記液晶光学素子の前記液晶部の温度変化を抑制する役割を果たしている。
【実施例3】
【0023】
図3は本発明による液晶光学変調素子の実施例3を示す断面図である。シール材5と金属膜6との密着強度が弱くなる為、前記シール材領域の少なくとも一部にアンカー効果を有する凹凸のある表面形状にすることで、シール材5の密着強度を保つ役割を果たしている。
【0024】
図4は本発明の製膜工程を示した断面図であり、(a)は対向電極4を酸化インジウムスズ(ITO)膜を赤外線をなるべく透過し、金属膜のエッチング除去の際に、ITO膜が劣化、ピンホールが発生することがなく、さらにITO膜を均一に膜厚方向にエッチングを行い、ITOの抵抗値を低くするのに適する膜厚にするためITO膜を30nm(ナノメートル)の膜厚に形成した基板状態を示す断面図、(b)は金属膜6をCr:40nm、Ni:60nm、Au:100nmを同一真空槽内で連続スパッタ蒸着法にて積層形成した基板状態を示す断面図、(c)は金属膜6の画素電極3に対向する領域の金属膜6を全て除去し、赤外線の透過率を大きくする為に対向電極4のITO膜をもとの30nmから残り10nmまで除去した基板状態を示す断面図、(d)は第1電極基板1と第2電極基板2とを貼り合せ時の断面図である。説明の都合上(b)から説明を行う。
(b)はガラス基板2の対向電極4にCr−Ni−Auの積層金属膜6を膜厚200nm(ナノメーター)に形成する
(c)は(b)で形成した金属膜6の画素電極3に対向する領域をサムコ社製RIE10NRで除去する。またその際に対向電極4の膜厚を赤外光波長領域が透過する厚みまで薄くする。
(d)はシリコン基板1とガラス基板2をシール材5により所定の位置および間隔で貼り合わせる。
【0025】
図5は金属膜6形成時の別の製膜工程を示した断面図であり、(a)は対向電極4形成時、(b)は対向電極4除去時、(c)は金属膜6の形成時(d)画素電極3に対向する領域の金属膜6除去時、(e)は貼り合せ時の図である。説明の都合上(b)から説明を行う。
(b)は対向電極4の膜厚を赤外光波長領域が透過する厚みまで薄くする。
(c)は対向電極4に金属膜6を形成する。
(d)は金属膜6を画素電極2に対向する領域をサムコ社製RIE10NRで除去する。
(e)はシリコン基板1とガラス基板2をシール材5により所定の位置および間隔で貼り合わせる。
なお金属膜Cr−Ni−Auは一例であり、他にCr−AuやAlがある。対向電極のITOは一例であり、他にIn(酸化インジウム)にZnO(酸化亜鉛)、ZrO(酸化ジルコニア)、TiO(酸化チタン)を添加する透明導電膜がある。シール材の協立化学社製のWorldLock798Lは一例であり、同等のシール材を使用することが出来る。
【符号の説明】
【0026】
1 第1電極基板
2 第2電極基板
3 画素電極
4 対向電極
5 シール材
6 金属膜
7 温度制御素子
8 液晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素電極を有する第1電極基板と該第1電極基板に相対する対向電極を有する第2電極基板を備え、前記第1電極基板と前記第2電極基板をシール材を介し所定の位置及び間隔で貼りあわせた後に前記所定の間隔に液晶を封入してなる液晶光学変調素子において、
前記対向電極の前記画素電極に対向する領域外に金属膜を形成することを特徴とした液晶光学変調素子。
【請求項2】
前記金属膜に温度制御素子を接続することを特徴とした請求項1記載の液晶光学変調素子。
【請求項3】
前記対向電極の前記画素電極に対向する領域を赤外光波長領域が透過する厚みまで薄くする事を特徴とした請求項1または請求項2記載の液晶光学変調素子。
【請求項4】
前記金属膜の前記シール材接着領域の少なくとも一部はアンカー効果を有する表面形状とした事を特徴とした請求項1〜3のいずれかに記載の液晶光学変調素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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