説明

液晶流動を利用した発電機構

【課題】液晶におけるフレクソエレクトリック効果を利用して、外部に電力を供給することができる液晶流動を利用した発電機構を提供する。
【解決手段】強誘電性を有する液晶LCと、液晶LCを挟むように位置する一対の壁SP,MPを備えた液晶収容部材と、液晶収容部材における一対の壁SP,MPに接続された出力端子Aとからなり、液晶収容部材の一対の壁SP,MPは、一対の壁SP,MPにおける液晶LCを挟む表面に沿って相対的に移動可能に設けられており、液晶収容部材における一対の壁SP,MPにおいて互いに対向する面には、一方の面に、面近傍に位置する液晶分子mの移動を固定する液晶固定処理が行われており、他方の面に、面近傍に位置する液晶分子mを回転可能かつ、面が設けられている壁MPとともに壁MPの移動方向に沿って移動するように拘束する液晶拘束処理が行われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶流動を利用した発電機構に関する。水晶等のある種の結晶性物質は、ひずみを加えて弾性的な変形を発生させると、その変形に応じた電荷が表面に表われるという性質を有している。液晶においてもひずみを生じさせると、その液晶を挟む壁面間に電位差が生じるという現象(フレクソエレクトリック効果)が知られている。
本発明は、かかる液晶のフレクソエレクトリック効果を利用した発電機構に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、液晶分子の形は、くさび形のもの(図7(A))と、バナナ形のもの(図7(B))に類型化できる。
図7(A)に示すように、くさび形の分子の場合には広がり変形をさせることによって自発分極が発生し両壁面間に電位差が生じる。また、図7(B)に示すように、バナナ形の分子の場合には曲がり変形を生じさせることによって自発分極が発生し両壁面間に電位差が生じる。
そして、両壁面間に発生する電位差は、くさび形分子の場合には両壁面のなす角度θに比例し、バナナ形分子の場合には壁面の曲率半径に反比例する(非特許文献1)。
【0003】
しかるに、上記のごとき変形によって両壁面間に電位差が発生することは知られているものの、この電位差を利用して液晶から外部に電力を供給する技術は現在のところ開発されていない。
【0004】
【非特許文献1】岡野光治・小林駿介共編,液晶・基礎編,培風館,1985,P130−135
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、液晶におけるフレクソエレクトリック効果を利用して、外部に電力を供給することができる液晶流動を利用した発電機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の液晶流動を利用した発電機構は、液晶と、互いに対向する対向面を有する一対の壁を備え、該一対の壁が一対の対向面間に前記液晶を挟むように配置された液晶収容部材と、該液晶収容部材における一対の壁に接続された出力端子と、前記液晶の液晶分子を回転させる液晶分子回転手段と、前記一対の対向面近傍に位置する液晶分子の運動を拘束する液晶拘束手段とからなり、該液晶拘束手段は、該液晶分子回転手段によって液晶分子が回転されたときに、各面近傍に位置する液晶分子同士が相対的に異なる回転速度で回転するように液晶分子を拘束するものであることを特徴とする。
なお、「相対的に異なる回転速度」とは、回転速度の絶対値の相違だけでなく、回転方向の相違をも含む概念である。
第2発明の液晶流動を利用した発電機構は、第1発明において、前記液晶分子回転手段は、前記一対の対向面のうち、一の対向面に沿った方向に相対的に移動可能に設けられた前記液晶収容部材の一対の壁と、該一対の壁を、前記一対の対向面間に前記液晶を挟んだ状態を保持しつつ、該一対の対向面に沿った方向における相対的な移動速度が異なるように移動させる移動機構とからなることを特徴とする。
なお、「相対的な移動速度が異なる」とは、移動速度の絶対値の相違だけでなく、移動方向の相違をも含む概念である。
第3発明の液晶流動を利用した発電機構は、第2発明において、前記一対の対向面において、一方の面には、該面近傍に位置する液晶分子の回転を固定する回転固定処理が行われており、他方の面には、該面近傍に位置する液晶分子を回転可能に拘束する拘束処理が行われていることを特徴とする。
第4発明の液晶流動を利用した発電機構は、第2発明において、前記液晶収容部材における一対の壁は、一方の壁が、その移動が固定された固定壁であり、他方の壁が、一方向に連続移動可能に設けられた移動壁であることを特徴とする。
第5発明の液晶流動を利用した発電機構は、第2発明において、前記液晶収容部材における一対の壁は、一方の壁が、その移動が固定された固定壁であり、他方の壁が、往復移動可能に設けられた移動壁であることを特徴とする。
第6発明の液晶流動を利用した発電機構は、第1発明において、前記液晶分子回転手段が、前記一対の対向面間に、該一対の対向面に沿った方向の速度成分を有する液晶流動を発生させるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、液晶回転手段によって液晶分子を回転させれば、一の対向面近傍の液晶分子の軸方向と他の対向面近傍の液晶分子の軸方向とのなす角を変化させることができる。すると、一対の壁間に、なす角度の変化量および変化速度に応じた電位差を間欠的に発生させることができるから、その電位差に応じた電力を出力端子から取り出すことができる。
第2発明によれば、液晶収容部材の一対の壁を、一の対向面に沿った方向における移動速度が異なるように相対的に移動させれば、速い移動速度で移動する壁の対向面近傍に位置する液晶分子を、他方の壁の対向面近傍に位置する液晶分子よりも速い速度で回転させることができるので、一の対向面近傍の液晶分子の軸方向と他の対向面近傍の液晶分子の軸方向とのなす角を変化させることができる。
第3発明によれば、一の対向面近傍の液晶分子はその回転が固定されているから、両壁の相対的な移動速度差を調整するだけで、一対の壁間に発生する電位差の変動を調整できるから、発生する電位差の制御が容易になる。
第4発明によれば、固定壁に沿って移動壁を連続して一方向に移動させれば、固定壁と移動壁の間に位置する液晶分子が連続して回転している状況となるから、一対の壁間に間欠的に所定の電位差を生じさせることができる。しかも、移動壁の移動を調整するだけで、一対の壁間に発生する電位差の変動を調整できるから、発生する電位差の制御が容易になる。
第5発明によれば、固定壁に沿って移動壁を連続して往復移動させれば、固定壁と移動壁の間に位置する液晶分子が連続して揺動している状況となるから、一対の壁間に間欠的に所定の電位差を生じさせることができる。しかも、移動壁の移動を調整するだけで、一対の壁間に発生する電位差の変動を調整できるから、発生する電位差の制御が容易になる。
第6発明によれば、一対の対向面間に液晶流動を生じさせれば、壁面近傍を流れる液晶分子は対向面との干渉により回転するので、一の対向面近傍の液晶分子の軸方向と他の対向面近傍の液晶分子の軸方向とのなす角を変化させることができ、一対の壁間に電位差を間欠的に発生させることができる。しかも、液晶流動の流速に応じて液晶分子の回転速度を変化させることができる。よって、液晶流動の流速を調整するだけで一対の壁間に発生する電位差の変動を調整できるから、発生する電位差の制御が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本実施形態の液晶流動を利用した発電機構10の概略説明図である。同図において、符号LC、mはそれぞれ液晶および液晶分子を示している。この液晶LCは、発電機構10の固定壁SPと移動壁MPに挟まれている。
固定壁SPは、その移動が固定された壁である。
一方、移動壁MPは固定壁SPと対向する位置に設けられており、固定壁SPに対して固定壁SPとの距離を一定に保った状態で、固定壁SPの表面(図1では上面)に沿って移動可能に設けられている。図1では、移動壁MPは、固定壁SPに対して左右方向に移動可能に設けられている。
上記の移動壁MPと固定壁SPとが特許請求の範囲にいう液晶収容部材であり、固定壁SPおよび移動壁MPの互いに対向する面が特許請求の範囲にいう対向面である。
【0009】
なお、移動壁MPは、固定壁SPの対向面と平行に移動する必要はなく、固定壁SPの対向面に沿った方向の速度成分、言い換えれば、固定壁SPの対向面と平行な速度成分を有するように移動できればよい。
さらになお、固定壁SPは必ずしも完全に移動が固定されている必要は無く、移動壁MPに対して相対的に移動が固定されている状況であってもよい。つまり、移動壁MPの移動速度と固定壁SPの移動速度とを比較したときに、固定壁SPの対向面と平行な速度成分が異なっていればよい。「速度成分が異なる」とは、速度成分の絶対値の相違だけでなく、方向の相違をも含む概念である。
【0010】
図1に示すように、固定壁SPおよび移動壁MPの対向面には、導電性材料からなる一対の電極E,Eがそれぞれ設けられており、この電極E,Eには、出力端子Aが接続されている。
【0011】
また、この一対の電極E,Eの表面には、ポリイミド等からなる一対の配向膜F,Fが設けられている。
固定壁SPの対向面に設けられている配向膜Fには、この配向膜F近傍に位置する液晶分子mの回転を固定する回転固定処理が行われている。この回転固定処理とは通常のラビング処理であり、この回転固定処理によって固定壁SPの対向面近傍の液晶分子mは配向膜Fにアンカリングされる。
【0012】
一方、移動壁MPに設けられている配向膜Fには、液晶分子mを回転可能に拘束する拘束処理が行われている。この拘束処理とは、配向膜Fと接する液晶分子mがその重心まわりの回転や揺動は可能であるが、移動壁MPが移動すると移動壁MPとともに移動するように拘束する処理である。この拘束処理によって移動壁MPの対向面近傍の液晶分子mは配向膜Fにウィークアンカリングされるのである。この拘束処理は、例えば、ローラなどを利用してラビング処理を行う場合であれば配向膜Fへのローラの押し付け力やローラの回転速度を調整することにより行うことができる。具体的には、配向膜Fへのローラの押し付け力を弱くしたり、ローラの回転速度を通常よりも遅くする等すれば、液晶分子mを配向膜Fにウィークアンカリングする拘束処理を行うことができる。
【0013】
なお、固定壁SPと移動壁MPとの間に位置する液晶LCの液晶分子mが回転する方向は、一対の配向膜F,Fによって固定壁SPと垂直かつ移動壁MPの移動方向と平行な面内(図1では紙面と平行な面内)に拘束されている。
さらになお、一対の配向膜F,Fに行う処理は、液晶分子mをアンカリング(拘束)する強さ(アンカリング強度)が両配向膜F間で異なるように処理が行われていればよく、必ずしも固定壁SP側の配向膜Fのアンカリング強度がその配向膜F近傍に位置する液晶分子mの回転を完全に固定する強さとなるようにラビング処理を行わなくてもよい。具体的には、固定壁SP側の対向面に設けられる配向膜Fのアンカリング強度が、移動壁MP側の対向面に設けられる配向膜Fのアンカリング強度よりも強くなるように両配向膜Fにラビング処理をしておけばよい。
さらになお、配向膜Fは、移動壁MP側の対向面には設けず、固定壁SP側の対向面、つまり、液晶分子mの回転を固定したり強く拘束したりする側の対向面だけに設けてもよい。すると、移動壁MP側の対向面近傍の液晶分子mは自由に移動できるので、当然にその重心まわりの回転や揺動は可能である。
【0014】
以上のごとき構成であるから、移動壁MPを固定壁SPに対し左右方向に移動させれば、両壁MP,SP間の液晶分子mは回転または揺動する。このとき、固定壁SPに接触している液晶分子mだけは回転も揺動もしないので、移動壁MPに接している液晶分子mと固定壁SPに接している液晶分子mの軸方向のなす角θ(図3,図5参照)が変化する。すると、そのなす角θに応じた電位差が固定壁SPと移動壁MP間に発生するので、出力端子Aから、その電位差に対応する電力を取り出すことができるのである。
【0015】
また、固定壁SP近傍の液晶分子mが回転可能となっている場合でも、一対の配向膜F,Fのアンカリング強度が異なっていれば各対向面近傍に位置する液晶分子m同士が相対的に異なる回転速度で回転する。すると、移動壁MPに接している液晶分子mと固定壁SPに接している液晶分子mの軸方向のなす角θが変化するから、なす角θの変化量および変化速度に応じた電位差を固定壁SPと移動壁MP間に発生させることができる。
【0016】
本発明の発電機機構において使用する液晶LCとしては、タンブリング液晶又はアライニング液晶が適しており、以下、タンブリング液晶LCTとアライニング液晶LCAを利用した発電機構について説明する。
【0017】
まず、タンブリング液晶LCTを利用した発電機構について説明する。
図2はタンブリング液晶LCTを使用する場合において、発電時における液晶分子mの動きを説明した図である。同図において移動壁MPは固定壁SPに対して連続して同一方向、例えば、図2では右方に移動可能に設けられた壁である。この移動壁MPは、固定壁SPに対して同一方向に連続して移動しつつも、固定壁SPとの間にはタンブリング液晶LCTを挟んだ状態を維持できるように構成されている。
【0018】
そして、移動壁MPを連続して移動させると連続して発電させることができるのであるが、発電中の液晶分子mの動きを図2に基づいて説明する。
なお、固定壁SPに接している液晶分子m以外の液晶分子mは移動壁MPとともに右方に移動しながら回転しており、領域Bで同一の液晶分子mが回転しているのではないが、図2には、視点を固定壁SPにおける領域Bの位置に固定し、この領域B内に液晶分子mが一列に並んだときにおける液晶分子mの状態だけを示している。
【0019】
図2(A)に示すように、移動壁MPが移動を開始する前は、全ての液晶分子mの軸方向が固定壁SPの表面と平行かつ移動壁Mの移動方向と平行に配置されているとする。この状態から移動壁MPを右方に移動させると、固定壁SPに接している液晶分子m1は移動しないが、その他の液晶分子m2は移動壁MPとともに移動する。
【0020】
このとき、液晶LCがタンブリング液晶であるから、液晶分子mは移動壁MPの移動方向に向かって回転(図2では時計回り)しながら移動する(図2(B))。この回転速度は、移動壁MPの移動速度が大きいほど速くなり、移動壁MPに近いほど速くなる。
【0021】
すると、図2に示すように、固定壁SPに接している液晶分子m1は回転しないので、固定壁SPの軸方向と、移動壁MP近傍で回転しながら移動する液晶分子m2の軸方向とがなす角θは、液晶分子m2の回転にともなって連続的に変化する(図3(A))。このため、図3(B)に示すように、一対の壁SP,MP間には、液晶分子m1と液晶分子m2とのなす角θの時間変動に応じた電位差が発生する。
【0022】
よって、移動壁MPを連続して移動させれば、一対の壁SP,MP間では、図3(C)に示すような電位差の変動が発生するのである。
そして、一対の壁SP,MP間の電位差を端子Aから取り出せば、外部に連続して電力を供給できるのである。
【0023】
なお、一対の壁SP,MP間に発生する最大の電位差は、例えば、一対の壁SP,MP移動速度や液晶の種類、一対の壁SP,MPの対向面間の間隔等によって決定される。具体的には、一対の壁SP,MPの相対的な移動速度差が大きくなると液晶分子mの回転が速くなるので、図3であれば単位時間当たりにおける液晶分子m1と液晶分子m2とのなす角θの変化量が大きくなり一対の壁SP,MP間に発生する最大の電位差も大きくなる。また、一対の壁SP,MPの相対的な移動速度差が同じでも、一対の壁SP,MPの対向面間隔が狭くなると単位時間当たりにおける液晶分子m1と液晶分子m2とのなす角θの変化量が大きくなるので最大の電位差も大きくなる。
【0024】
上記のごとく、移動壁MPを固定壁SPに対して同一方向に連続して移動させつつ、固定壁SPとの間にはタンブリング液晶LCTを挟んだ状態を維持できる構成としては、例えば、図6(A)や図6(B)のような構成が挙げられる。
図6(A)に示すように、円筒状の空間を有する外部部材OPの内部に、この外部部材OPの円筒状の空間の中心軸(以下、単に中心軸という)周りに回転可能な軸部材APを設け、両者の間に液晶LCを配置する。そして、外部部材OPの内面および軸部材APの外面に配向膜F、電極Eを設け、配向膜Fには、液晶分子mの軸方向が、中心軸を中心とする円周の接線方向を向くように配向処理を行う。すると、外部部材OP、軸部材APのいずれか一方、例えば外部部材OPを固定し、軸部材APを中心軸周りに同一方向に連続的に回転させれば、この軸部材APの外面は、外部部材OPに対して同一方向に連続して移動しつつも、外部部材OPの内面との間には液晶LCを挟んだ状態を維持できる。
また、図6(B)に示すように、互いに対向し同じ軸(以下、単に中心軸という)上に中心を有する一対の円盤部材UP,LPを、その一対の円盤部材UP,LPが互いに対向する面同士を平行に維持したままその軸周りに回転できるように配置し、両者の間に液晶LCを配置する。そして、一対の円盤部材の互いにおける対向する面に配向膜F、電極Eを設け、配向膜Fには、液晶分子mの軸方向が、中心軸を中心とする円周の接線方向を向くように配向処理を行う。すると、いずれか一方の円盤部材(例えば、円盤部材LP)を固定し、他方の円盤部材(例えば、円盤部材UP)を中心軸周りに同一方向に連続的に回転させれば、一対の円盤部材UP,LPにおける対向する面の間に液晶LCを挟んだ状態を維持できる。
なお、図6(A)や図6(B)のような構成の発電機構であっても、配向膜Fを対向する一方の面だけに設けてもよいのは、いうまでもない。
【0025】
つぎに、アライニング液晶LCAを利用した発電機構について説明する。
図4はアライニング液晶LCAを使用する場合において、発電時における液晶分子mの動きを説明した図である。同図において移動壁MPは固定壁SPに対して連続して往復移動、例えば、図4(A)では左右方向に沿って往復移動可能に設けられた壁である。この移動壁MPは、固定壁SPに対して往復移動しつつも、固定壁SPとの間には液晶LCを挟んだ状態を維持できるように構成されている。
例えば、図6(A)のような構成を有する発電機構であれば、軸部材APまたは外部部材OPを中心軸周りに正転逆転させれば、上記のごとき状態を実現することができる。また、図6(B)のような構成を有する発電機構でも、一対の円盤部材UP,LPを中心軸周りに正転逆転させれば、上記のごとき状態を実現することができる。
【0026】
図4(A)に示すように、この移動壁MPと固定壁SPの間には、アライニング液晶LCAが配置されており、移動壁MPを移動させると、連続して発電させることができる。
以下、発電中の液晶分子mの動きを図4に基づいて説明する。
なお、固定壁SPに接している液晶分子m以外の液晶分子mは移動壁MPとともに右方に移動しながら揺動しており、領域Bで同一の液晶分子mが揺動しているのではないが、図4には、視点を固定壁SPにおける領域Bの位置に固定し、この領域B内に液晶分子mが一列に並んだときにおける液晶分子mの状態だけを示している。
【0027】
図4(A)に示すように、移動壁MPが移動を開始する前は、全ての液晶分子mの軸方向が固定壁SPの表面と平行かつ移動壁Mの移動方向と平行に配置されているとする。この状態から移動壁MPを右方に移動させると、固定壁SPに接している液晶分子m1は移動しないが、その他の液晶分子m2は移動壁MPとともに移動する。
【0028】
このとき、液晶LCがアライニング液晶LCAであるから、液晶分子mは移動壁MPの移動方向に向かって回転(図4(B)では時計回り)しながら移動する。この回転速度は、移動壁MPの移動速度が大きいほど速くなり、移動壁MPに移動壁MPに近いほど速くなる。
【0029】
すると、図4(B)に示すように、固定壁SPに接している液晶分子m1は回転しないので、固定壁SPの軸方向と、移動壁MP近傍で回転しながら移動する液晶分子m2の軸方向とがなす角θは、液晶分子m2の回転にともなって連続的に変化する(図5(A))。
【0030】
ここで、アライニング液晶LCAの場合、タンブリング液晶LCTと異なり、液晶分子m2が90度以上回転できない。このため、移動壁MPに最も近い液晶分子m2が90度となるまで移動すると、移動壁MPの右方への移動を停止し、左方への移動に移動方向を転換させる。すると、液晶分子mは、今度は、左方に移動しながら反時計周りに回転する。そして、移動壁MPが元の位置まで戻ると、液晶分子mは元の状態、つまり、その軸方向が固定壁SPの表面と平行な状態になる(図4(C))。
【0031】
移動壁MPが元の位置まで戻ってからもさらに移動壁MPが左方に移動すると、液晶分子mの反時計周りの回転は継続する。そして、移動壁MPに最も近い液晶分子m2が90度となるまで移動壁MPが移動すると(図4(D))、移動壁MPの左方への移動を停止し、右方への移動に移動方向が転換させる。すると、液晶分子mは、再び、右方に移動しながら時計周りに回転する。
【0032】
上記のごとく、移動壁MPが左右に往復移動を繰り返すと、固定壁SPの軸方向と、移動壁MP近傍で回転しながら移動する液晶分子m2の軸方向とがなす角θが、液晶分子m1の回転にともなって連続的に変化する(図5(A))。このため、タンブリング液晶LCTの場合と同様に、一対の壁SP,MP間には、液晶分子m1と液晶分子m2とのなす角θに応じた電位差が発生する(図5(B))。
よって、移動壁MPを連続して往復移動させれば、一対の壁SP,MP間では、図5(C)に示すような電位差の変動が発生するのである。
そして、一対の壁SP,MP間の電位差を端子Aから取り出せば、外部に連続して電力を供給できるのである。
【0033】
なお、一対の壁SP,MP間に発生する最大の電位差は、タンブリング液晶の場合と同様に、一対の壁SP,MPの移動速度や液晶の種類、一対の壁SP,MPの対向面間隔等によって、決定される。具体的には、一対の壁SPの振動数が大きくなると液晶分子mの回転が速くなるので、図3であれば単位時間当たりにおける液晶分子m1と液晶分子m2とのなす角θの変化量が大きくなるので最大の電位差も大きくなる。また、一対の壁SPの振動数が同じでも、一対の壁SP,MPの対向面間隔が狭くなると単位時間当たりにおける液晶分子m1と液晶分子m2とのなす角θの変化量が大きくなるので最大の電位差も大きくなる。
【0034】
また、発電機構は、以下のごとき構成としてもよい。
図8に示すように、一対の壁SP,SPをいずれも移動が固定された固定壁とし、両者の間に液晶LCを流す、つまり、一対の壁P,P間に液晶流動を発生させた場合でも、流動する液晶と一対の壁P,Pとの干渉によって液晶分子mが回転する。すると、一対の配向膜F,Fのアンカリング強度が異なっていれば、一対の壁P,P近傍に位置する液晶分子mの回転速度に差ができるから、一対の壁P,P間に電位差を発生させることができる。この場合、液晶流動の速度を変化させれば発生する電位差を変化させることができ、流速が速くなると発生する電位差が大きくなり、流速が遅くなると発生する電位差が小さくなる。
なお、液晶流動を発生させる方法はとくに限定されず、どのような手段を用いてもよい。例えば、ポンプ等の使用して流動を発生させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
液晶流動を利用した発電機構は、回転運動や往復運動を行う機構を利用して電力を発生させる発電機、とくに、非常に微小な機構から微小な電力を発生させる発電機等に適している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態の液晶流動を利用した発電機構10の概略説明図である。
【図2】タンブリング液晶LCTを使用する場合において、発電時における液晶分子mの動きを説明した図である。
【図3】(A)は発電時のタンブリング液晶LCTの動きと発電電圧の関係を示した図であり、(B)は発電電圧と両壁近傍の液晶分子mがなす角度の関係を示した図であり、(C)は発電電圧の時間変動を示した図である。
【図4】アライニング液晶LCAを使用する場合において、発電時における液晶分子mの動きを説明した図である。
【図5】(A)は発電時のアライニング液晶LCAの動きと発電電圧の関係を示した図であり、(B)は発電電圧と両壁近傍の液晶分子mがなす角度の関係を示した図であり、(C)は発電電圧の時間変動を示した図である。
【図6】移動壁MPと固定壁SPを備えた発電機構の実施例の概略説明図である。
【図7】フレクソエレクトリック効果の説明図であり、(A)はくさび形分子の場合であり、(B)はバナナ形分子の場合である。
【図8】別の実施形態の液晶流動を利用した発電機構10の概略説明図である。
【符号の説明】
【0037】
LC 液晶
LCA アライニング液晶
LCT タンブリング液晶
m 液晶分子
MP 移動壁
SP 固定壁
A 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶と、
互いに対向する対向面を有する一対の壁を備え、該一対の壁が一対の対向面間に前記液晶を挟むように配置された液晶収容部材と、
該液晶収容部材における一対の壁に接続された出力端子と、
前記液晶の液晶分子を回転させる液晶分子回転手段と、
前記一対の対向面近傍に位置する液晶分子の運動を拘束する液晶拘束手段とからなり、
該液晶拘束手段は、
該液晶分子回転手段によって液晶分子が回転されたときに、各面近傍に位置する液晶分子同士が相対的に異なる回転速度で回転するように液晶分子を拘束するものである
ことを特徴とする液晶流動を利用した発電機構。
【請求項2】
前記液晶分子回転手段は、
前記一対の対向面のうち、一の対向面に沿った方向に相対的に移動可能に設けられた前記液晶収容部材の一対の壁と、
該一対の壁を、前記一対の対向面間に前記液晶を挟んだ状態を保持しつつ、該一対の対向面に沿った方向における相対的な移動速度が異なるように移動させる移動機構とからなる
ことを特徴とする請求項1記載の液晶流動を利用した発電機構。
【請求項3】
前記一対の対向面において、
一方の面には、該面近傍に位置する液晶分子の回転を固定する回転固定処理が行われており、
他方の面には、該面近傍に位置する液晶分子を回転可能に拘束する拘束処理が行われている
ことを特徴とする請求項2記載の液晶流動を利用した発電機構。
【請求項4】
前記液晶収容部材における一対の壁は、
一方の壁が、その移動が固定された固定壁であり、
他方の壁が、一方向に連続移動可能に設けられた移動壁である
ことを特徴とする請求項2記載の液晶流動を利用した発電機構。
【請求項5】
前記液晶収容部材における一対の壁は、
一方の壁が、その移動が固定された固定壁であり、
他方の壁が、往復移動可能に設けられた移動壁である
ことを特徴とする請求項2記載の液晶流動を利用した発電機構。
【請求項6】
前記液晶分子回転手段が、
前記一対の対向面間に、該一対の対向面に沿った方向の速度成分を有する液晶流動を発生させるものである
ことを特徴とする請求項1記載の液晶流動を利用した発電機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate