説明

液晶用配向膜の形成方法

【課題】基板上に液晶用配向膜としてポリマーブラシを必要な箇所のみに選択的に且つ簡便に形成する方法を提供すること。
【解決手段】基板上のポリマーブラシの形成が不要な部分にマスクを形成する工程と、該マスクが形成された基板を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板の露出部分に固定化膜を形成する工程と、該固定化膜が形成された基板をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により該固定化膜上にポリマーブラシを形成する工程と、該ポリマーブラシが形成された基板から該マスクを除去する工程とを含む液晶用配向膜の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶用配向膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基材表面に多数のグラフトポリマー鎖を結合させてなるポリマーブラシと呼ばれる技術についての研究がなされ、いくつかの分野で応用されている。例えば、特許文献1には、電子デバイスの絶縁膜としてポリマーブラシを適用する方法が記載されており、特許文献2では、中空部とそれを内包するポリマーブラシ層とからなる中空微粒子が提案されており、また、特許文献3には、少なくとも一方の電極の表面に半導体ポリマーブラシを付着させた有機電子素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−60540号公報
【特許文献2】国際公開第2006/087839号公報
【特許文献3】特表2007−527605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3には、ポリマーブラシを液晶用配向膜として用いることは何ら記載も示唆もされていない。当然のことながら、上記特許文献1〜3には、基板上に液晶用配向膜としてポリマーブラシを形成する方法についても一切記載がない。
従って、本発明の目的は、基板上に液晶用配向膜としてポリマーブラシを必要な箇所のみに選択的に且つ簡便に形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための第一の発明は、基板上のポリマーブラシの形成が不要な部分にマスクを形成する工程と、該マスクが形成された基板を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板の露出部分に固定化膜を形成する工程と、該固定化膜が形成された基板をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により該固定化膜上にポリマーブラシを形成する工程と、該ポリマーブラシが形成された基板から該マスクを除去する工程とを含む液晶用配向膜の形成方法である。
【0006】
第二の発明は、基板を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板上に固定化膜を形成する工程と、該固定化膜上のポリマーブラシの形成が不要な部分にマスクを形成する工程と、
該マスクが形成された基板をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により該固定化膜の露出部分にポリマーブラシを形成する工程と、該ポリマーブラシが形成された基板からマスクを除去する工程とを含む液晶用配向膜の形成方法である。
【0007】
第三の発明は、基板を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板上に固定化膜を形成する工程と、該固定化膜上のポリマーブラシの形成が不要な部分に紫外線を照射し、紫外線が照射された部分の固定化膜を不活性化する工程と、該固定化膜が部分的に不活性化された基板をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により活性な固定化膜上にポリマーブラシを形成する工程とを含む液晶用配向膜の形成方法である。
第四の発明は、基板上のポリマーブラシの形成が必要な部分に固定化膜形成用溶液を印刷法により塗布し、基板上に固定化膜を形成する工程と、該固定化膜上にポリマーブラシ形成用溶液を印刷法により塗布し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により固定化膜上にポリマーブラシを形成する工程とを含む液晶用配向膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基板上に液晶用配向膜としてポリマーブラシを必要な箇所のみに選択的に且つ簡便に形成する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】本発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。
【図5】実施例1で得られた液晶用配向膜を備えた液晶表示装置の回転角度と透過率との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2で得られた液晶用配向膜を備えた液晶表示装置の回転角度と透過率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の液晶用配向膜の形成方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1の(a)〜(d)は、第一の発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。図1(d)において、基板10の一方の表面上に、固定化膜11が形成され、その固定化膜11上に液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成されている。ポリマーブラシの形成が不要な部分12、すなわち、液晶表示装置におけるシール部又は端子部のような液晶用配向膜が不要な部分には、固定化膜11及びポリマーブラシ13のどちらも形成されておらず、基板10が露出した状態となっている。このような構成の液晶用配向膜を備えた基板10は、液晶表示装置のアレイ基板及び対向基板として用いることができる。このようなアレイ基板及び対向基板を備えた液晶表示装置は、ポリマーブラシ13を液晶用配向膜として用いる点以外は、原則として公知の液晶表示装置と同じ構成であり、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)からなる櫛歯電極が配設されたアレイ基板に対向させて対向基板を配置し、アレイ基板と対向基板との間に液晶分子を注入して液晶層を形成するという公知の方法に準じて製造することができる。
【0011】
一般に、一端が基板表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、グラフト密度が高くなると、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。本発明において「ポリマーブラシ13」とは、後者の構造、すなわち、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板10表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものを意味する。本発明において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、基板10表面1nm2当たり、通常、0.1本鎖以上であり、好ましくは0.1〜1.2本鎖の密度である。
【0012】
高密度で基板10表面上に形成されたポリマーブラシ13は、基板10表面上でポリマーブラシ13の層(以下、「ポリマーブラシ層」という)を構成する。このポリマーブラシ層の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示装置の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできないため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしたとしても、下地から液晶層への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶分子の配向制御能力が良好である。
【0013】
ポリマーブラシ13は、液晶分子の配向安定性を高める観点から、UV硬化性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、UV硬化が可能な官能基(例えば、(メタ)アクリル基)を有することが好ましい。
また、ポリマーブラシ13は、種々の特性を付与する観点から、共重合体、特にブロック共重合体であることが好ましい。かかる共重合体であれば、単独重合体では得られない種々の効果が期待できる。
さらに、ポリマーブラシ13は、液晶層との適合性の観点から、液晶性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、液晶性を示す官能基(例えば、メソゲン基)を有することが好ましい。
【0014】
図1(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13を形成するには、まず、図1(a)に示すように、基板10上のポリマーブラシの形成が不要な部分12にマスク14を形成する。マスク14に用いる材料としては、後に続く工程において固定化膜11が形成されないように基板10上を覆うことができるものであれば特に限定されず、例えば、樹脂フィルム、フォトレジスト、ソルダーレジスト、ドライフィルムレジスト、UV硬化樹脂等が挙げられる。
【0015】
次に、図1(b)に示すように、マスク14が形成された側の基板10表面を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板10の露出部分に固定化膜11を形成する。なお、基板10全体を固定化膜形成用溶液に浸漬させる場合には、必要に応じて基板10の裏面にもマスク14を形成してもよい。また、固定化膜11を形成した後、必要に応じて、基板10を洗浄してもよい。固定化膜11に用いる材料としては、アレイ基板、対向基板、電極、ポリマーブラシ13等との接着性に優れたものであれば特に限定されず、例えば、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。固定化膜11の例としては、下記の一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物から形成される膜が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
一般式(1)中、R1はそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基であり;R2はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり;Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり;nは3〜10の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0018】
次に、図1(c)に示すように、固定化膜11が形成された側の基板10表面を、ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅、リガンド化合物等を含有するポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、ラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により固定化膜11上にポリマーブラシ13を形成する。なお、表裏両面に固定化膜11が形成されている基板10全体をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させる場合には、裏面にポリマーブラシ13が形成されないように、基板10の裏面にマスク14を形成することが好ましい。ポリマーブラシ形成用溶液の不活性化を極力防ぐという点で、ポリマーブラシ形成用溶液への基板の浸漬及びリビングラジカル重合反応を、酸素遮断条件下、例えば、窒素(N2)雰囲気下、アルゴン(Ar)雰囲気下で行うことが好ましい。また、ポリマーブラシ13を形成した後、必要に応じて、基板10を洗浄し、乾燥させてもよい。ここで、「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いといった特徴がある。
【0019】
本発明に用いられるリビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。例えば、重合開始剤の存在下で、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動リビングラジカル重合を行う。高分子末端ハロゲンをハロゲン化銅/リガンド錯体が引き抜くことにより可逆的に成長する成長ラジカルにラジカル重合性モノマーが付加して進行し、十分な頻度での可逆的活性化・不活性化により分子量分布が規制される。
【0020】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するものであり、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート等のメタクリレート系モノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレン等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル等)、ビニルケトン類(ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等)、N−ビニル化合物(N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール等)、(メタ)アクリル酸誘導体(アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド等)、ハロゲン化ビニル類(塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニル等)等のビニルモノマーが挙げられる。これらのラジカル重合性モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
重合開始剤としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。重合開始剤の例としては、p−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α,α−ジクロロキシレン、α,α−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタン等のベンジルハロゲン化物;プロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBIB)等のα位がハロゲン化されたカルボン酸;p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)等のトシルハロゲン化物;テトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリド、1−ビニルエチルブロミド等のアルキルハロゲン化物;ジメチルリン酸クロリド等のリン酸エステルのハロゲン誘導体が挙げられる。
【0022】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuI等が挙げられる。
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4'−ジノニル−2,2'−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N',N'N"−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン等が挙げられる。
【0023】
ポリマーブラシ形成用溶液におけるラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅及びリガンド化合物の配合量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的に、重合開始剤1モルに対して、ラジカル重合性モノマーが5〜10,000モル、好ましくは50〜5,000モル、ハロゲン化銅が0.1〜100モル、好ましくは0.5〜100モル、リガンド化合物が0.2〜200モル、好ましくは1.0〜200モルである。
【0024】
なお、リビングラジカル重合は、通常、無溶媒で行うが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン等の有機溶媒;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等の水性溶媒が挙げられる。溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的にラジカル重合性モノマー1gに対して、溶媒が0.01〜100mL、好ましくは0.05〜10mLである。
【0025】
リビングラジカル重合により形成されるポリマーブラシ13の分子量は、反応温度、反応時間や使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000である。また、ポリマーブラシ13の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.60の間に制御することができる。このような特徴を有するポリマーブラシ13は、液晶層中の液晶分子をアレイ基板及び対向基板に対して平行に配向させることができる。
【0026】
また、ポリマーブラシ13の剥がれを十分に防止し、液晶表示装置の特性が低下する可能性を低減して液晶表示装置の信頼性を向上させる点で、ポリマーブラシ13と固定化膜11とが結合力の強い共有結合で結ばれるようにポリマーブラシ13及び固定化膜11の材料を選択することが望ましい。
【0027】
最後に、ポリマーブラシ13が形成された基板10からマスク14を除去することで、図1(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成された基板10を得ることができる。なお、マスク14は、ポリマーブラシ13を形成する前に除去してもよい。
【0028】
図2の(a)〜(d)は、第二の発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。図2(d)において、基板10の一方の表面上に、固定化膜11が形成され、その固定化膜11上に液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成されている。ポリマーブラシの形成が不要な部分12、すなわち、液晶表示装置におけるシール部又は端子部のような液晶用配向膜が不要な部分には、ポリマーブラシ13が形成されておらず、固定化膜11が露出した状態となっている。このような構成の液晶用配向膜を備えた基板10は、液晶表示装置のアレイ基板及び対向基板として用いることができる。このようなアレイ基板及び対向基板を備えた液晶表示装置は、ポリマーブラシ13を液晶用配向膜として用いる点以外は、原則として公知の液晶表示装置と同じ構成であり、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)からなる櫛歯電極が配設されたアレイ基板に対向させて対向基板を配置し、アレイ基板と対向基板との間に液晶分子を注入して液晶層を形成するという公知の方法に準じて製造することができる。
【0029】
一般に、一端が基板表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、グラフト密度が高くなると、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。本発明において「ポリマーブラシ13」とは、後者の構造、すなわち、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板10表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものを意味する。本発明において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、基板10表面1nm2当たり、通常、0.1本鎖以上であり、好ましくは0.1〜1.2本鎖の密度である。
【0030】
高密度で基板10表面上に形成されたポリマーブラシ13は、基板10表面上でポリマーブラシ13の層(以下、「ポリマーブラシ層」という)を構成する。このポリマーブラシ層の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示装置の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできないため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしたとしても、下地から液晶層への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶分子の配向制御能力が良好である。
【0031】
ポリマーブラシ13は、液晶分子の配向安定性を高める観点から、UV硬化性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、UV硬化が可能な官能基(例えば、(メタ)アクリル基)を有することが好ましい。
また、ポリマーブラシ13は、種々の特性を付与する観点から、共重合体、特にブロック共重合体であることが好ましい。かかる共重合体であれば、単独重合体では得られない種々の効果が期待できる。
さらに、ポリマーブラシ13は、液晶層との適合性の観点から、液晶性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、液晶性を示す官能基(例えば、メソゲン基)を有することが好ましい。
【0032】
図2(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13を形成するには、まず、図2(a)に示すように、基板10の一方の表面を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板10の一方の表面上に固定化膜11を形成する。なお、基板10全体を固定化膜形成用溶液に浸漬させる場合には、必要に応じて基板10の裏面にマスク14を形成してもよい。また、固定化膜11を形成した後、必要に応じて、基板10を洗浄してもよい。固定化膜11の材料や形成方法は、第一の発明と同様であるので、その説明を省略する。
【0033】
次に、図2(b)に示すように、固定化膜11上のポリマーブラシの形成が不要な部分12にマスク14を形成する。なお、前工程で基板10全体を固定化膜形成用溶液に浸漬させ、基板10の表裏両面に固定化膜11を形成した場合には、基板10の裏面にもマスク14を形成することが好ましい。マスク14に用いる材料としては、後に続く工程においてポリマーブラシ13が形成されないように固定化膜11上を覆うことができるものであれば特に限定されず、例えば、樹脂フィルム、フォトレジスト、ソルダーレジスト、ドライフィルムレジスト、UV硬化樹脂等が挙げられる。
【0034】
次に、図2(c)に示すように、マスク14が形成された側の基板10表面を、ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅、リガンド化合物等を含有するポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、ラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により固定化膜11の露出部分にポリマーブラシ13を形成する。また、ポリマーブラシ13を形成した後、必要に応じて、基板10を洗浄し、乾燥させてもよい。ポリマーブラシの材料や形成方法は、第一の発明と同様であるので、その説明を省略する。
【0035】
最後に、ポリマーブラシ13が形成された基板10からマスク14を除去することで、図2(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成された基板10を得ることができる。
【0036】
図3の(a)〜(d)は、第三の発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。図3(d)において、基板10の一方の表面上に、固定化膜11が形成され、その固定化膜11上に液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成されている。ポリマーブラシの形成が不要な部分12、すなわち、液晶表示装置におけるシール部又は端子部のような液晶用配向膜が不要な部分には、ポリマーブラシ13が形成されておらず、不活性化された固定化膜16が露出した状態となっている。このような構成の液晶用配向膜を備えた基板10は、液晶表示装置のアレイ基板及び対向基板として用いることができる。このようなアレイ基板及び対向基板を備えた液晶表示装置は、ポリマーブラシ13を液晶用配向膜として用いる点以外は、原則として公知の液晶表示装置と同じ構成であり、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)からなる櫛歯電極が配設されたアレイ基板に対向させて対向基板を配置し、アレイ基板と対向基板との間に液晶分子を注入して液晶層を形成するという公知の方法に準じて製造することができる。
【0037】
一般に、一端が基板表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、グラフト密度が高くなると、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。本発明において「ポリマーブラシ13」とは、後者の構造、すなわち、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板10表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものを意味する。本発明において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、基板10表面1nm2当たり、通常、0.1本鎖以上であり、好ましくは0.1〜1.2本鎖の密度である。
【0038】
高密度で基板10表面上に形成されたポリマーブラシ13は、基板10表面上でポリマーブラシ13の層(以下、「ポリマーブラシ層」という)を構成する。このポリマーブラシ層の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示装置の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできないため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしたとしても、下地から液晶層への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶分子の配向制御能力が良好である。
【0039】
ポリマーブラシ13は、液晶分子の配向安定性を高める観点から、UV硬化性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、UV硬化が可能な官能基(例えば、(メタ)アクリル基)を有することが好ましい。
また、ポリマーブラシ13は、種々の特性を付与する観点から、共重合体、特にブロック共重合体であることが好ましい。かかる共重合体であれば、単独重合体では得られない種々の効果が期待できる。
さらに、ポリマーブラシ13は、液晶層との適合性の観点から、液晶性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、液晶性を示す官能基(例えば、メソゲン基)を有することが好ましい。
【0040】
図3(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13を形成するには、まず、図3(a)に示すように、基板10の一方の表面を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板10の一方の表面上に固定化膜11を形成する。なお、基板10全体を固定化膜形成用溶液に浸漬させる場合には、必要に応じて基板10の裏面にマスク14を形成してもよい。また、固定化膜11を形成した後、必要に応じて、基板10を洗浄してもよい。固定化膜11の材料や形成方法は、第一の発明と同様であるので、その説明を省略する。
【0041】
次に、図3(b)に示すように、固定化膜11上のポリマーブラシの形成が必要な部分に紫外線遮蔽性マスク15を配置し、固定化膜11上のポリマーブラシの形成が不要な部分12に紫外線を照射し、紫外線が照射された部分の固定化膜11を不活性化する。なお、前工程で基板10全体を固定化膜形成用溶液に浸漬させ、基板10の表裏両面に固定化膜11を形成した場合には、基板10の裏面にも紫外線を照射し、固定化膜11を不活性化させることが好ましい。このように不活性化された固定化膜16上には、後に続く工程においてポリマーブラシ13が形成されることがない。紫外線の照射は、使用する材料の種類に応じて適宜調節すればよいが、通常、数百〜数万mJ/cm2である。
【0042】
最後に、図3(c)に示すように、固定化膜11及び不活性化された固定化膜16が形成された側の基板10表面を、ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅、リガンド化合物等を含有するポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、ラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により固定化膜11上にポリマーブラシ13を形成することで、図3(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成された基板10を得ることができる。また、ポリマーブラシ13を形成した後、必要に応じて、基板10を洗浄し、乾燥させてもよい。ポリマーブラシの材料や形成方法は、第一の発明と同様であるので、その説明を省略する。
【0043】
図4の(a)〜(d)は、第四の発明の方法により形成される液晶用配向膜の一実施形態を示す模式断面図である。図4(d)において、基板10の一方の表面上に、固定化膜11が形成され、その固定化膜11上に液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成されている。ポリマーブラシの形成が不要な部分12、すなわち、液晶表示装置におけるシール部又は端子部のような液晶用配向膜が不要な部分には、固定化膜11及びポリマーブラシ13のどちらも形成されておらず、基板10が露出した状態となっている。このような構成の液晶用配向膜を備えた基板10は、液晶表示装置のアレイ基板及び対向基板として用いることができる。このようなアレイ基板及び対向基板を備えた液晶表示装置は、ポリマーブラシ13を液晶用配向膜として用いる点以外は、原則として公知の液晶表示装置と同じ構成であり、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)からなる櫛歯電極が配設されたアレイ基板に対向させて対向基板を配置し、アレイ基板と対向基板との間に液晶分子を注入して液晶層を形成するという公知の方法に準じて製造することができる。
【0044】
一般に、一端が基板表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、グラフト密度が高くなると、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。本発明において「ポリマーブラシ13」とは、後者の構造、すなわち、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板10表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものを意味する。本発明において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、基板10表面1nm2当たり、通常、0.1本鎖以上であり、好ましくは0.1〜1.2本鎖の密度である。
【0045】
高密度で基板10表面上に形成されたポリマーブラシ13は、基板10表面上でポリマーブラシ13の層(以下、「ポリマーブラシ層」という)を構成する。このポリマーブラシ層の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示装置の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできないため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしたとしても、下地から液晶層への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶分子の配向制御能力が良好である。
【0046】
ポリマーブラシ13は、液晶分子の配向安定性を高める観点から、UV硬化性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、UV硬化が可能な官能基(例えば、(メタ)アクリル基)を有することが好ましい。
また、ポリマーブラシ13は、種々の特性を付与する観点から、共重合体、特にブロック共重合体であることが好ましい。かかる共重合体であれば、単独重合体では得られない種々の効果が期待できる。
さらに、ポリマーブラシ13は、液晶層との適合性の観点から、液晶性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ13は、液晶性を示す官能基(例えば、メソゲン基)を有することが好ましい。
【0047】
図4(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13を形成するには、まず、図4(a)に示すように、基板10の一方の表面上のポリマーブラシの形成が必要な部分に固定化膜形成用溶液17を印刷法により塗布した後、必要に応じて、乾燥させ、基板10上に固定化膜11を形成する。固定化膜形成用溶液17を塗布するための印刷法としては、フレキソ印刷法、インクジェット法等が挙げられる。固定化膜11の材料は、第一の発明と同様のものを用いることができるが、印刷法に適した形態のものを用いる必要がある。
【0048】
次に、図4(b)に示すように、固定化膜11上に、ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅、リガンド化合物等を含有するポリマーブラシ形成用溶液18を印刷法により塗布し、必要に応じて、乾燥させ、ラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により固定化膜11上にポリマーブラシ13を形成することで、図4(d)に示される液晶用配向膜としてのポリマーブラシ13が形成された基板10を得ることができる。ポリマーブラシ形成用溶液18を塗布するための印刷法としては、フレキソ印刷法、インクジェット法等が挙げられる。ポリマーブラシ形成用溶液の不活性化を極力防ぐという点で、基板へのポリマーブラシ形成用溶液の塗布及びリビングラジカル重合反応を、酸素遮断条件下、例えば、窒素(N2)雰囲気下、アルゴン(Ar)雰囲気下で行うことが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板を用意し、ポリマーブラシの形成が必要な部分にカプトンテープでマスクを形成した。次に、エタノール38g、アンモニア水(28%)2g、2−ブロモ−2−メチルプロピオニロキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)0.4gを含む固定化膜形成用溶液に、2つのガラス基板のマスクが形成された側の表面を、常温(25℃)で一晩浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜を形成した。次に、固定化膜が形成された2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、窒素雰囲気下で、2つのガラス基板の固定化膜が形成された側の表面を、スチレン(ラジカル重合性モノマー)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤)、CuBr(ハロゲン化銅)及び4,4'−ジオニル−2,2'−ビピリジン(リガンド化合物)を1900:1:19:38のモル比で含有するポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、110℃で3時間加熱してリビングラジカル重合させることにより、ポリマーブラシ(以下、PSブラシという)を形成した。次に、PSブラシが形成された2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、ガラス基板からマスクを除去した。
【0050】
形成されたPSブラシの分子量を、GPC測定装置(日本分光株式会社製)を用いて測定した。標準試料にはポリスチレンを用い、検出器にはUV検出器を用いた。その結果、PSブラシの数平均分子量(Mn)は1.34×105であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.51であった。
また、PSブラシの層(PSブラシ層)の厚さを、X線反射率測定装置(パナリティカル(PANalytical社製X'Pert−Pro−MAD)を用いて測定した。その結果、PSブラシ層の厚さは50.6nmであった。
さらに、PSブラシのグラフト密度について評価した結果、ガラス基板表面1nm2当たり、0.23本鎖であった。
【0051】
次に、PSブラシが形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、2つのガラス基板の間にP型液晶を毛細管現象により注入し、注入が終了したら注入口を閉じて封止した。次に、所定の方向に1Tの磁場を印加しながら80℃の温度で20分間加熱した後、磁場を印加しつつ常温まで10℃/分の降温速度で除冷することによって液晶表示装置を作製した。
【0052】
この液晶表示装置の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、その偏光板の間で液晶表示装置を回転させた場合において、その液晶表示装置の回転角度と透過率との関係を調べた。結果を図5に示す。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(磁場の印加方向)に一致するようにパネルを測定器にセットして測定を開始した。図5から分かるように、この液晶表示装置では、90°ごとに周期的な消光が見られ、液晶がガラス基板に対して水平方向に一軸配向しており、PSブラシ層が液晶用配向膜として機能していることが確認された。
【0053】
(実施例2)
2つのガラス基板の固定化膜が形成された側の表面を、メチルメタクリレート(ラジカル重合性モノマー)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤)、CuBr(ハロゲン化銅)及び4,4'−ジオニル−2,2'−ビピリジン(リガンド化合物)を2000:1:20:40のモル比で含有するポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、90℃で1.5時間加熱してリビングラジカル重合させたこと以外は実施例1と同様にして、ポリマーブラシ(以下、PMMAブラシという)が形成された2つのガラス基板を得た。
【0054】
形成されたPMMAブラシの分子量を、GPC測定装置(日本分光株式会社製)を用いて測定した。標準試料にはポリメチルメタクリレートを用い、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いた。その結果、PMMAブラシの数平均分子量(Mn)は1.67×105であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.43であった。
また、PMMAブラシの層(PMMAブラシ層)の厚さを、X線反射率測定装置(パナリティカル(PANalytical社製X'Pert−Pro−MAD)を用いて測定した。その結果、PMMAブラシ層の厚さは50.2nmであった。
さらに、PMMAブラシブラシのグラフト密度について評価した結果、ガラス基板表面1nm2当たり、0.21本鎖であった。
【0055】
次に、PMMAブラシが形成されたガラス基板を用いて、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、その偏光板の間で液晶表示装置を回転させた場合において、その液晶表示装置の回転角度と透過率との関係を調べた。結果を図6に示す。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(磁場の印加方向)に一致するようにパネルを測定器にセットして測定を開始した。図6から分かるように、この液晶表示装置では、90°ごとに周期的な消光が見られ、液晶がガラス基板に対して水平方向に一軸配向しており、PMMAブラシ層が液晶用配向膜として機能していることが確認された。
【符号の説明】
【0056】
10 基板、11 固定化膜、12 ポリマーブラシの形成が不要な部分、13 ポリマーブラシ、14 マスク、15 紫外線遮蔽性マスク、16 不活性化された固定化膜、17 固定化膜形成用溶液、18 ポリマーブラシ形成用溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のポリマーブラシの形成が不要な部分にマスクを形成する工程と、
該マスクが形成された基板を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板の露出部分に固定化膜を形成する工程と、
該固定化膜が形成された基板をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により該固定化膜上にポリマーブラシを形成する工程と、
該ポリマーブラシが形成された基板から該マスクを除去する工程と
を含む液晶用配向膜の形成方法。
【請求項2】
基板を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板上に固定化膜を形成する工程と、
該固定化膜上のポリマーブラシの形成が不要な部分にマスクを形成する工程と、
該マスクが形成された基板をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により該固定化膜の露出部分にポリマーブラシを形成する工程と、
該ポリマーブラシが形成された基板からマスクを除去する工程と
を含む液晶用配向膜の形成方法。
【請求項3】
基板を固定化膜形成用溶液に浸漬し、基板上に固定化膜を形成する工程と、
該固定化膜上のポリマーブラシの形成が不要な部分に紫外線を照射し、紫外線が照射された部分の固定化膜を不活性化する工程と、
該固定化膜が部分的に不活性化された基板をポリマーブラシ形成用溶液に浸漬し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により活性な固定化膜上にポリマーブラシを形成する工程と
を含む液晶用配向膜の形成方法。
【請求項4】
前記ポリマーブラシ形成用溶液への浸漬及び前記リビングラジカル重合反応は、酸素遮断条件下で行われる請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶用配向膜の形成方法。
【請求項5】
基板上のポリマーブラシの形成が必要な部分に固定化膜形成用溶液を印刷法により塗布し、基板上に固定化膜を形成する工程と、
該固定化膜上にポリマーブラシ形成用溶液を印刷法により塗布し、該ポリマーブラシ形成用溶液に含まれるラジカル重合性モノマーのリビングラジカル重合反応により固定化膜上にポリマーブラシを形成する工程と
を含む液晶用配向膜の形成方法。
【請求項6】
前記ポリマーブラシ形成用溶液の塗布及び前記リビングラジカル重合反応は、酸素遮断条件下で行われる請求項5に記載の液晶用配向膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−81179(P2011−81179A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233243(P2009−233243)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】