説明

液晶表示素子の製造方法

【課題】電極構造が簡単でありながら広視野角と高輝度とが両立され、特に液晶配向性と電気特性に優れる液晶表示素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、基板の2枚、ただしこれら基板のうちの少なくとも1枚はその片面に透明電極が形成されてなるものである、からなる基板対を、光重合可能な反応性メソゲンと液晶とを含有する液晶組成物の層を介して前記基板対が相対し、ただし片面に透明電極が形成された基板は該透明電極が形成された面が前記液晶組成物の層の方向を向くように対向配置した構成の液晶セルを形成し、そして前記液晶セルに偏光放射線を照射する工程を経ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型、IPS(In−Plane Switching)型、OCB(Optical Compensated Bend:光学補償ベンド)型などの各種液晶表示素子が知られている。
これらのうちVA型液晶表示素子においては、基板上または透明電極上にスリット構造、線状の突起物などの配向制御用構造物を設けることにより、電圧印加時の液晶配向方向を画素内で相異なる方向に制御し、これにより広い視野角を実現するMVA(Multi−domain Vertical Alignment)方式の液晶表示素子が知られている(特許文献1)。このMVA方式の液晶表示素子は、視野角特性に優れるとの長所を有してはいるものの、配向制御用構造物の存在のために白輝度が低く、表示が暗いという短所を有している。
【0003】
広い視野角でありながら高輝度であり、さらに高速応答が可能なVA型液晶表示素子を実現するべく、ポリマーを用いて液晶のプレチルト角および電圧印加時の傾斜方向を規定する方法が提案されている(特許文献2および3)。これらの特許文献に記載された方法は、複雑な形状に加工された電極を有する2枚の基板間に、光重合または熱重合が可能なモノマーおよび液晶を含有する液晶組成物からなる層を挟持し、前記電極間に電圧を印加して液晶を傾斜させた状態で該液晶組成物層に光または熱を印加してモノマーを重合してポリマーとし、このポリマーによって液晶の配向方向およびプレチルト角を固定する技術である。この技術は、明暗の応答速度が早くなっており、液晶の倒れ込み方向も電極の形状によって多方向に制御されているため広い視野角も実現されており、さらに輝度の問題も解消された優れた技術である。しかしながら、この技術によると、液晶の配向制御のために、基板上に複雑な形状の電極を形成する必要があり、電極加工工程が複雑となって液晶表示素子の製造コストが増加することとなるうえ、モノマーの重合に大露光量の光照射または高温を必要とするため、液晶表示素子の製造過程で素子の電気特性が損なわれるとの問題がある。
このような事情により、VA型液晶表示素子において、複雑な形状の電極を使用することなく、特許文献2および3における有利な効果を発現しうる液晶表示素子が求められている。すなわち、複雑な形状の電極を使用せずに、光照射によって配向方向が制御された良好な液晶配向性が発現されて広い視野角と高い輝度とが両立しており、しかも前記光照射によっても電気特性が損なわれない液晶表示素子が求められている。
【0004】
一方、TN型、STN型、IPS型、OCB型など、VA型以外の液晶表示素子においては、液晶配向膜に液晶配向能を付与するためにラビングを施す方法が一般に採用されており、液晶表示素子製造の工程数が多くなり、製造コスト上の問題がある。
液晶表示素子の製造におけるラビング工程を省略すべく、光配向法が検討されてはいるが、光配向法をTN型などに適用しようとする検討例はさほど多くはなく、数例を数えるのみである(例えば特許文献4)。そして現在提案されている技術による光配向TN型液晶表示素子は液晶の配向規制力が十分ではなく、未だ実用化されていない。
このため、VA型以外の液晶表示素子においては、ラビングを行わない簡易な工程によって強い液晶配向規制力を発現する液晶表示素子を得ることのできる製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−43825号公報
【特許文献2】特開2003−307720号公報
【特許文献3】特開2002−23199号公報
【特許文献4】特開平9−297313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、
VA型液晶表示素子においては、電極構造が簡単でありながら広視野角と高輝度とが両立され、特に液晶配向性と電気特性に優れる液晶表示素子を製造するための方法を、
VA型以外の液晶表示素子においては、ラビングを行わない簡易な工程によって強い液晶配向規制力を発現する液晶表示素子を製造するための方法を、
それぞれ提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、本発明の上記目的および利点は、
基板の2枚、ただしこれら基板のうちの少なくとも1枚はその片面に透明電極が形成されてなるものである、からなる基板対を、
光重合可能な反応性メソゲンと液晶とを含有する液晶組成物の層を介して前記基板対が相対し、ただし片面に透明電極が形成された基板は該透明電極が形成された面が前記液晶組成物の層の方向を向くように対向配置した構成の液晶セルを形成し、そして
前記液晶セルに偏光放射線を照射する工程を経る、液晶表示素子の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、電極構造が簡単でありながら広視野角と高輝度とが両立され、特に液晶配向性と電気特性に優れるVA型液晶表示素子、および
ラビングを行わない簡易な工程によって強い液晶配向規制力を発現するTN型、STN型、IPS型、OCB型などの液晶表示素子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<基板>
本発明の方法においては、基板の2枚、ただしこれら基板のうちの少なくとも1枚はその片面に透明電極が形成されてなるものである、を一対として用いる。基板対を構成する基板のうちの1枚のみがその片面に透明電極が形成されてなるものであり、もう1枚が透明電極を有さないものであってもよく、
基板対を構成する基板の2枚ともがその片面に透明電極が形成されてなるものであってもよい。
上記基板を構成する材料としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスの如きガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、環状オレフィンの開環重合体およびその水素添加物、環状オレフィンの付加重合体、芳香族ポリエーテル、ポリイミドの如きプラスチックからなる透明基板などを用いることができる。この基板には、液晶の配向方向を規制するためのスリット状のパターンなどを有することを要せず、製造コストの観点からかかる特定のパターンを有さないものであることが好ましい。
【0010】
上記透明電極としては、例えばIn−SnOからなるITO膜、SnOからなるNESA(登録商標)膜などを用いることができる。基板対を構成する基板の2枚ともがその片面に透明電極が形成されてなるものである場合には、これらの透明電極はパターンを有さないものであってもよく、あるいは必要に応じてパターニングされてもよい。基板対を構成する基板のうちの1枚のみがその片面に透明電極が形成されてなるものであり、もう1枚が透明電極を有さないものである場合には、1枚の基板の片面上に、櫛歯状の形状を有する電極の一対を互いに非接触に組み合わせて形成することが好ましい。透明電極のパターニングには、例えばパターンなし透明電極を形成した後にフォト・エッチング法、スパッタ法などによりパターンを形成する方法、透明電極を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。しかしながら本発明においては、特許文献2および3に記載された如き複雑な形状のパターンは必要ではない。
本発明で用いられる基板の有する透明電極上には、液晶の配向方向を規制するための突起状などの構造物は必要とせず、輝度および製造コストの観点からかかる構造物を有さないものであることが好ましい。
【0011】
上記の如き基板対は、これをそのまま本発明の方法に供することができるが、本発明の方法においては、基板対を構成する前記片面に透明電極が形成されてなる基板のうちの少なくとも1枚は、該透明電極上にさらに膜が形成されてなるものであることが好ましい。また、基板のうちの1枚が透明電極を有さないものである場合には、該透明電極を有さない基板がその片面に膜が形成されてなるものであることが好ましい。
基板の双方が片面に透明電極が形成されてなるものである場合には、そのうちの1枚の基板の透明電極上にのみ膜が形成されてなるものであってもよく、あるいは双方の基板の透明電極上に膜が形成されてなるものであってもよい。基板の双方が、片面に透明電極および膜がこの順で形成されてなるものであることが最も好ましい。
上記透明電極上に形成される膜としては、有機膜および無機膜のいずれであってもよい。しかしながら本発明の方法によりVA型の液晶表示素子を製造する場合には、垂直配向性を発現する膜であることが好ましく、垂直配向性を発現する有機膜であることがより好ましい。VA型以外の液晶表示素子を製造する場合には、有機膜であることが好ましく、垂直配向性を発現しない有機膜であることがより好ましい。
上記有機膜としては、例えばポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオルガノシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどの重合体、またはこれらの混合物を主成分とする膜などを挙げることができる。これらのうち、ポリアミック酸、ポリイミドおよびポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される1種以上の重合体を主成分とする膜が好ましい。なお、上記においてポリイミドとは、ポリアミック酸の部分イミド化物をも包含する概念である。
上記有機膜は、任意的に光増感性成分を含有していてもよい。上記有機膜が光増感性成分を含有することにより、有機膜の近傍における反応性メソゲンの光反応が促進されるため、本願が所期する効果を発現させるために必要な偏光放射線の照射量を少なくすることができ、好ましい。
この光増感性成分は、光増感性構造を有する成分である。光増感性成分の有する光増感性構造としては、例えば例えばアセトフェノン構造、ベンゾフェノン構造、アントラキノン構造、ビフェニル構造、カルバゾール構造、ニトロアリール構造、フルオレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、アクリジン構造、インドール構造などを挙げることができる。
有機膜中における光増感性構造の存在割合としては、有機膜の全重量に対して、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。光増感性構造は、有機膜の全重量に対して、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上存在することにより、その所期する効果を発現することができる。
光増感性成分は、有機膜中に遊離の化合物として存在していてもよく、あるいは有機膜の主成分である重合体の主鎖または側鎖に結合した状態で存在していてもよい。
【0012】
本発明における基板上に、上記の如き有機膜を形成するには、所望の重合体および任意的に光増感性構造を有する化合物(光増感性化合物)を含有する重合体組成物を、公知の方法で塗布し、次いでこれを加熱する方法によることが好ましい。上記の重合体組成物としては、例えば液晶配向剤として市販されているものをそのまま用いるか、あるいは市販の液晶配向剤に光増感性構造を有する化合物を配合したうえで用いることができる。
重合体組成物に任意的に配合される光増感性化合物としては、例えば下記式(1)〜(3)
【0013】
【化3】

【0014】
のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
基板上または基板の透明電極上への重合体組成物の塗布は、例えばロールコーター法、スピンナー法、印刷法などの適宜の方法によって行うことができる。引き続いて行われる加熱は重合体組成物の組成などによって適宜に設定されるべきである。好ましくはプレベークによって塗膜中の溶媒を除去した後、ポストベークを行う。プレベーク条件は、例えば40〜120℃において0.1〜5分である。ポストベークは、例えば80〜300℃、好ましくは120〜250℃において、例えば5〜200分、好ましくは10〜100分行うことができる。
形成される膜の膜厚は、10〜2,000Åとすることが好ましく、50〜1,000Ånmとすることがより好ましく、さらに50〜700Åとすることが好ましい。
【0015】
<液晶組成物>
本発明の方法に使用される液晶組成物は、光重合可能な反応性メソゲンと液晶とを含有する。
上記液晶としては、ネマチック液晶であることが好ましい。
本発明の方法によりVA型の液晶表示素子を製造する場合には、誘電異方性が負のネマチック液晶を使用することが好ましく、
VA型以外の液晶表示素子を製造する場合には、誘電異方性が正のネマチック液晶を使用することが好ましい。
上記のネマチック液晶としては、棒状ネマチック液晶および円盤状ネマチック液晶を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。本発明におけるネマチック液晶としては、偏光放射線の照射によって面内レターデーションが効率的に発生するとの観点から、棒状ネマチック液晶の1種以上を使用することが好ましい。
【0016】
誘電率異方性が負のネマチック液晶の市販品としては、例えばMLC−6608、MLC−6609、MLC−6610、MLC−2037、MLC−2038、MLC−2039(以上、メルク社製)などを;
誘電率異方性が正のネマチック液晶の市販品としては、例えばZLI−3086,ZLI−4792,ZLI−5080,ZLI−5081,MLC−2001,MLC−2002,MLC−2003,MLC−2004,MLC−2016,MLC−2017,MLC−2018,MLC−2019、MLC−6221(以上、メルク社製):LIXON5035XX,LIXON5036XX,LIXON5037XX,LIXON5038XX,LIXON5039XX,LIXON5040XX,LIXON5041XX,LIXON5043XX,LIXON5044XX,LIXON5046XX,LIXON5047XX,LIXON5049XX,LIXON5050XX,LIXON5051XX,LIXON5052XX(以上、チッソ(株)製)などを、それぞれ挙げることができる。
【0017】
上記光重合可能な反応性メソゲンとしては、光の照射によって重合可能であり、且つ分子内に液晶類似構造を有する化合物であれば限定なく使用することができる。このような化合物としては、重合性炭素−炭素二重結合を有する基およびエポキシ構造を有する基からなる群から選択される少なくとも1種の基(重合性基)と液晶類似構造とを、分子内に各1個以上ずつ有する化合物であることができる。上記エポキシ構造としては、1,2−エポキシ構造および1,3−エポキシ構造から選択される少なくとも1種であることが好ましく、1,2−エポキシ構造であることがより好ましい。かかる重合性基は、分子内に1〜4個存在することが好ましく、良好な液晶配向性を発現する観点から分子内に2個存在することがより好ましい。
このような光重合可能な反応性メソゲンとしては、例えば下記式(M)
−A−(Z−A−P (M)
(式(M)中、PおよびPは、それぞれ独立に、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、ビニル基もしくはビニロキシ基であるか、またはエポキシ構造を有する基であり、
およびAは、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基またはナフタレン−2,6−ジイル基であり、
Zは単結合、−COO−または−OCO−(以上において「*」を付した結合手がAと結合する)であり、
nは0〜2の整数であり、ただしnが2であるとき、複数存在するAおよびZは、それぞれ同一であっても相違していてもよい。)
で表される化合物を挙げることができる。
上記式(M)におけるPおよびPのエポキシ構造を有する基としては、例えばグリシジル基、3−グリシジロキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシロキシ)エチル基などを挙げることができる。
上記式(M)におけるZは単結合であることが;
nは0または1であることが、それぞれ好ましい。
上記式(M)で表される化合物として、好ましくは下記式(M−1)〜(M−3)
【0018】
【化1】

【0019】
(式(M−1)〜(M−3)中、PおよびPは、それぞれ、上記式(M)におけるのと同義である。)
のそれぞれで表される化合物を挙げることができ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
上記式(M)における、PおよびPとしては、それぞれ、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基であることが好ましい。
さらに好ましい化合物として、下記式(M−1−1)および(M−1−2)
【0020】
【化2】

【0021】
のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
このような光重合可能な反応性メソゲンは、液晶組成物の全量に対して、0.01〜1重量%の範囲で使用することが好ましく、0.01〜0.5重量%の範囲で使用することがより好ましい。
光重合可能な反応性メソゲンは、液晶組成物中に溶解されて含有されることが好ましい。
【0022】
<液晶表示素子の製造方法>
本発明の液晶表示素子の製造方法は、
上記の如き基板の2枚からなる基板対を、
上記の如き液晶組成物の層を介して前記基板対が相対し、ただし片面に透明電極が形成された基板は該透明電極が形成された面が前記液晶組成物の層の方向を向くように対向配置した構成の液晶セルを形成し、そして
前記液晶セルに偏光放射線を照射する工程を経ることを特徴とする。
このような構成の液晶セルを形成するには、例えば以下の2つの方法を挙げることができる。
第一の方法としては、間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶組成物を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造することができる。
あるいは第二の方法として、2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば硬化性のシール剤を塗布し、さらに基板上の数箇所に液晶を滴下した後、他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げ、次いでシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造することができる。
上記いずれの場合も、2枚の基板を対向配置する際に、片面に透明電極が形成された基板は該透明電極が形成された面が他の基板の方向を向くように配置する。透明電極を有さず、片面に膜が形成されてなる基板は、該膜が形成された面が他の基板の方向を向くように配置する。また上記いずれの場合もシール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
液晶組成物の層の厚さとしては、2〜8μmとすることが好ましく、3〜6μmとすることがより好ましい。
【0023】
次いで、液晶セルに偏光放射線を照射する。ここで、液晶セルに電圧を印加しない状態で前記液晶セルに偏光放射線を照射することが好ましい。
ここで「液晶セルに電圧を印加しない状態」とは、液晶セルの透明電極間(基板対を構成する基板の2枚ともがその片面に透明電極が形成されてなるものである場合には該2枚の透明電極の間をいい、基板対を構成する基板のうちの1枚のみがその片面に透明電極が形成されてなるものである場合には、該基板の片面上に形成された一対の櫛歯状透明電極の間をいう。)に実質的に電圧がかかっていない状態であれば足り、ごくわずかの電圧の印加も禁止されるとの趣旨ではない。両透明電極間に直流または交流の例えば500mV以下、好ましくは100mV以下、より好ましくは10mV以下、特に好ましくは1mV以下の電圧が印加されている場合であっても、「液晶セルに電圧を印加しない状態」に該当するものと理解されるべきである。
上記偏光放射線としては、例えば偏光された可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線などを挙げることができるが、波長が150〜800nmの範囲にある偏光放射線が好ましく、波長が240〜500nmの範囲にある偏光放射線がより好ましく、特に波長280〜350nmの輝線を含む偏光紫外線であることが好ましい。偏光放射線の偏光としては、例えば直線偏光、円偏光などを挙げることができるが、直線偏光であることが好ましい。上記偏光放射線を放射する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザーなどを使用することができる。
【0024】
液晶セルに偏光放射線を照射する方向としては、基板面に対して斜めに照射することが好ましく、基板面に対して30〜60°の角度をなす方向から照射することが好ましい。
偏光放射線の照射量は、0.01〜50J/cmとすることが好ましく、0.1〜20J/cmとすることがより好ましい。ここで、液晶セルにおける有機膜が光増感性成分を含有するものである場合には、偏光照射線の照射量を15J/cm以下、さらには12J/cm以下としても本願が所期する効果を十分に発現することができる。
液晶セルに対する偏光放射線の照射は、液晶組成物に含有される液晶の等方化温度未満の温度において行うことが好ましい。照射温度としては、20〜60℃であることが好ましく、より好ましくは25〜50℃である。
そして、放射線照射後の液晶セルの両面に偏光板を配置することにより、液晶表示素子を得ることができる。本発明の液晶表示素子には、偏光板の他に、波長板、光散乱フィルム、駆動回路などがさらに実装されてもよい。
【0025】
<液晶表示素子>
上記のようにして製造された液晶表示素子は、後述の実施例から明らかなように電気特性に優れ、簡単な電極構造をとった場合であっても液晶配向性に優れ、広い視野角と高い輝度とが両立されたものである。
本発明の方法によって製造された液晶表示素子が液晶配向規制力を発現する機構は未だ詳らかではないが、本発明者らはこれを以下のように推察している。すなわち、本発明の方法に用いる反応性メソゲンは光の吸収に異方性を有しているため、偏光紫外線を照射することによってこの反応性メソゲンが異方的に重合し、該反応性メソゲンの重合体のうちの基板の近傍にあるものが液晶配向規制力を発現するのであろう。
かかる本発明の液晶表示素子は、各種の装置、例えば液晶テレビに代表される動画表示装置などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0026】
<液晶表示素子の製造および評価>
実施例1
[液晶組成物の調製]
ネガ型液晶(メルク社製、品名「MLC−6608」)99.7重量部に上記式(M−1−1)で表される化合物0.3重量部を混合して溶解することにより、液晶組成物を調製した。
[液晶表示素子の製造]
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、液晶配向剤として市販の「AL60101」(JSR(株)製)をスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換したオーブン中で200℃で1時間ポストベークして膜厚0.1μmの有機膜を形成した。同じ操作を繰り返して、片面に透明電極および有機膜をこの順で有する基板を一対(2枚)得た。
上記基板のうちの1枚の有機膜を有する面の外周に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の各有機膜面が対向するように両基板を配置して圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化した。次いで、液晶注入口より両基板の間隙に、上記で調製した液晶組成物を注入し、エポキシ系接着剤で注入口を封止した後、液晶組成物注入時の流動配向を除くためこれを150℃で加熱してから室温まで徐冷して液晶セルを形成した。
次いで上記で得た液晶セルに、高圧水銀ランプを光源とする直線偏光の紫外線を、基板面に対して45°の方向から、直線偏光の偏光面が紫外線の入反射面(入射方向のベクトルと反射方向のベクトルとによって規定される面)と一致するように、且つ波長313nmにおける照射量が20J/cmとなるように照射し、さらに液晶セルの外側両面に、2枚の偏光板を、それらの偏光方向が互いに直交し、且つ照射した紫外線の入射方向を基板面に投影した方向といずれも45°の角度をなすように貼り合わせることにより、液晶表示素子を製造した。
この液晶表示素子につき、以下のようにして評価を行った。
【0027】
[液晶表示素子の評価]
(1)液晶配向性の評価
上記で製造した液晶表示素子に、5Vの電圧をON・OFF(印加・解除)したときの明暗の変化における異常ドメインの有無を目視により観察した。
電圧OFF時にセルから光漏れが観察されず、且つ電圧印加時にセル駆動領域が白表示、それ以外の領域から光漏れがない場合を液晶配向性「良」とし、電圧OFF時にセルから光漏れが観察されるかまたは電圧ON時にセル駆動領域以外の領域から光漏れが観察された場合を液晶配向性「不良」として評価したところ、この液晶表示素子の液晶配向性は「良」であった。
(2)電圧保持率の評価
上記で製造した液晶表示素子に、60℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。電圧保持率の測定装置は(株)東陽テクニカ製、型式「VHR−1」を使用した。
電圧保持率が98%以上の場合を電圧保持率「良」、98%未満の場合を「不良」として評価したところ、この液晶表示素子の電圧保持率は「良」であった。
【0028】
実施例2
ネガ型液晶(メルク社製、品名「MLC−6608」)99.7重量部に上記式(M−1−2)で表される化合物0.3重量部を混合することにより、液晶組成物を調製した。
この液晶組成物を用いたほかは、実施例1と同様にして液晶表示素子を製造して評価したところ、この液晶表示素子の液晶配向性は「良」、電圧保持率は「良」であった。
上記実施例1および2で製造した液晶表示素子は、それぞれ良好な液晶配向性を示しており、視野角特性も良好であった。この液晶表示素子は、液晶の配向方向を決定するために複雑な形状の電極の使用を要しないから、特許文献2および3に記載された液晶表示素子に比べて極めて安価に製造できる。また、基板上または透明電極上に突起物の形成を要しないから、MVA方式の液晶表示素子と比較して輝度が高くなっている。さらに、製造工程における紫外線の照射によっても液晶表示素子の電気特性が損なわれていないことが確認された。
【0029】
実施例3
上記実施例1において、液晶配向剤として市販の「AL60101」に上記式(1)で表される化合物を固形分対比で0.1重量%添加したものを使用し、偏光照射線の照射量を10J/cmとした以外は実施例1と同様に実施して、液晶表示素子を製造して評価したところ、この液晶表示素子の液晶配向性は「良」、電圧保持率は「良」であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の2枚、ただしこれら基板のうちの少なくとも1枚はその片面に透明電極が形成されてなるものである、からなる基板対を、
光重合可能な反応性メソゲンと液晶とを含有する液晶組成物の層を介して前記基板対が相対し、ただし片面に透明電極が形成された基板は該透明電極が形成された面が前記液晶組成物の層の方向を向くように対向配置した構成の液晶セルを形成し、そして
前記液晶セルに偏光放射線を照射する工程を経ることを特徴とする、液晶表示素子の製造方法。
【請求項2】
前記片面に透明電極が形成されてなる基板のうちの少なくとも1枚が、該透明電極上にさらに膜が形成されてなるものである、請求項1に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項3】
前記基板の双方が、片面に透明電極および膜がこの順で形成されてなるものである、請求項2に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項4】
前記基板のうちの1枚が透明電極を有さないものであり、該透明電極を有さない基板がその片面に膜が形成されてなるものである、請求項1に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項5】
前記膜が有機膜である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項6】
前記偏光放射線を照射する工程が、液晶セルに電圧を印加しない状態で行われるものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項7】
前記液晶組成物に含有される液晶が、誘電異方性が負のネマチック液晶である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項8】
片面に透明電極および有機膜がこの順で形成された基板の2枚からなる基板対を、
誘電率異方性が負のネマチック液晶と光重合可能な反応性メソゲンとを含有する液晶組成物の層を介して前記基板対の有する各有機膜が相対するように対向配置した構成の液晶セルを形成し、
液晶セルに電圧を印加しない状態で前記液晶セルに偏光放射線を照射する工程を経ることを特徴とする、液晶表示素子の製造方法。
【請求項9】
前記光重合可能な反応性メソゲンが、下記式(M)
−A−(Z−A−P (M)
(式(M)中、PおよびPは、それぞれ独立に、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、ビニル基もしくはビニロキシ基であるか、またはエポキシ構造を有する基であり、
およびAは、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基またはナフタレン−2,6−ジイル基であり、
Zは単結合、−COO−または−OCO−(以上において「*」を付した結合手がAと結合する)であり、
nは0〜2の整数であり、ただしnが2であるとき、複数存在するAおよびZは、それぞれ同一であっても相違していてもよい。)
で表される化合物である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項10】
前記重合可能な反応性メソゲンが、下記式(M−1)〜(M−3)
【化1】

(式(M−1)〜(M−3)中、PおよびPは、それぞれ、上記式(M)におけるのと同義である。)
のそれぞれで表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の液晶表示素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする、液晶表示素子。

【公開番号】特開2012−42923(P2012−42923A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104277(P2011−104277)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】