説明

液晶表示素子

【課題】 良好な表示を実現する。
【解決手段】 第1の基板と、第1の基板に対向配置された第2の基板と、第1及び第2の基板間に挟持された、垂直配向する液晶層と、第1の基板の、液晶層と反対側の面に配置された第1の偏光板と、第2の基板の、液晶層と反対側の面に、第1の偏光板とクロスニコルに配置された第2の偏光板とを有し、液晶層は、ホスト液晶と、ホスト液晶中に均一に分散された、青色を呈する二色性色素を含み、液晶層における二色性色素の含有量は、ホスト液晶に対し、0.001wt%以上0.5wt%未満である液晶表示素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子(Liquid Crystal Display; LCD)に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶層に二色性色素を含有する液晶表示素子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1には、垂直配向を利用した、安定性の高いノーマリホワイトモードの反射型ゲストホスト液晶表示素子の発明が記載されている。この液晶表示素子によれば、明るい表示を実現することが可能である。
【0003】
透過型の液晶表示素子においては、表示のコントラスト向上に偏光板が用いられる。垂直配向を利用した透過型液晶表示素子の場合、平行ニコル配置では十分な黒表示を得ることが困難であるため、通常はクロスニコルの偏光板配置が採用される。偏光板がクロスニコル配置された垂直配向型液晶表示素子においては、電圧無印加時に黒表示、電圧印加時に白表示が得られる。液晶分子は、電圧無印加時には垂直配向、電圧印加時には水平配向となるためである。
【0004】
ここで、液晶表示素子において電圧無印加の条件を満たすのは、電極の対向していない、いわゆる画素以外の部分である。画素部分に関しては、OFF電圧とON電圧とにより液晶の配向を制御し、透過率の制御を行う。デューティ駆動を行う液晶表示素子では、OFF部にOFF電圧が印加されるため、透過率に大きな影響を及ぼさない程度に液晶分子が応答する。このため、画素部分のOFF状態と電圧無印加状態とでは、透過率において微少な差異が生じる。この差異により、OFF部が視認される現象はOFFセグ見えと呼ばれる。OFFセグ見えにより、OFF電圧印加時にOFF部が背景に対して異なった見映えとなり観察されてしまう。
【0005】
ところで二色性色素は液晶分子に類似した分子構造を有しており、液晶の動きと同期させて配向状態を変化させることができる。このため、二色性色素を添加した垂直配向型の液晶セルを、偏光板を貼付しない状態で観察すると、電圧OFF時には白(無色透明)表示、電圧ON時にはカラー(着色)表示が見られる。したがって、この液晶セルに偏光板をクロスニコル配置した液晶表示素子においては、電圧OFF時には、二色性色素を含まない素子と同等の黒表示が得られるが、電圧ON時には、二色性色素を含まない素子と比べ、表示の明るさが低下する。結果として、暗い表示になるとともに、コントラストが低下する。
【0006】
また、二色性色素を添加すると、素子の駆動電圧の増大などが問題となる。このような理由から、クロスニコルに偏光板が配置された垂直配向型液晶表示素子に二色性色素を加えることは、表示性能の低下につながる、好ましくない処理と考えられていた。
【0007】
二色性色素を添加していない一般的な垂直配向型液晶表示素子(たとえば、特許文献2参照)においても、黄変と呼ばれる表示上の問題が生じることが知られている。黄変は白表示が黄色味を帯びる現象で、視角を変えて液晶表示素子を観察する場合に顕著に認められる。高デューティ駆動において、特に観察されやすい。
【0008】
黄変を抑制するために、液晶層に色補償用の二色性色素を添加した垂直配向型液晶表示素子の発明が開示されている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−31216号公報
【特許文献2】特開2005−234254号公報
【特許文献3】特開平10−282498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、良好な表示が可能な液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、第1の基板と、前記第1の基板に対向配置された第2の基板と、前記第1及び第2の基板間に挟持された、垂直配向する液晶層と、前記第1の基板の、前記液晶層と反対側の面に配置された第1の偏光板と、前記第2の基板の、前記液晶層と反対側の面に、前記第1の偏光板とクロスニコルに配置された第2の偏光板とを有し、前記液晶層は、ホスト液晶と、該ホスト液晶中に均一に分散された、青色を呈する二色性色素を含み、前記液晶層における前記二色性色素の含有量は、前記ホスト液晶に対し、0.001wt%以上0.5wt%未満である液晶表示素子が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透過率、特に正面ON透過率を損なうことなく、黄変とOFFセグ見えの問題を低減し、良好な表示が可能な垂直配向型の液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例による液晶表示素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】実施例による液晶表示素子の概略図である。
【図3(A)】と、
【図3(B)】図3(A)及び(B)は、駆動電圧とコントラスト比との関係を示すグラフである。
【図4(A)】と、
【図4(B)】と、
【図4(C)】と、
【図4(D)】図4(A)〜(D)は、ON表示(明表示)について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図5(A)】と、
【図5(B)】と、
【図5(C)】と、
【図5(D)】図5(A)〜(D)は、OFF表示(黒表示)について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図6(A)】と、
【図6(B)】と、
【図6(C)】と、
【図6(D)】図6(A)〜(D)は、背景表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図7(A)】と、
【図7(B)】と、
【図7(C)】と、
【図7(D)】図7(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角30°方向から観察した比較サンプル、第1〜第3サンプルについての比較結果を示すグラフである。
【図8(A)】と、
【図8(B)】と、
【図8(C)】と、
【図8(D)】図8(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角50°方向から観察した比較サンプル、第1〜第3サンプルについての比較結果を示すグラフである。
【図9】駆動電圧とコントラスト比との関係を示すグラフである。
【図10(A)】と、
【図10(B)】と、
【図10(C)】と、
【図10(D)】図10(A)〜(D)は、ON表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図11(A)】と、
【図11(B)】と、
【図11(C)】と、
【図11(D)】図11(A)〜(D)は、OFF表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図12(A)】と、
【図12(B)】と、
【図12(C)】と、
【図12(D)】図12(A)〜(D)は、背景表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図13(A)】と、
【図13(B)】と、
【図13(C)】と、
【図13(D)】図13(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角30°方向から観察した比較サンプル、第4〜第6サンプルについての比較結果を示すグラフである。
【図14(A)】と、
【図14(B)】と、
【図14(C)】と、
【図14(D)】図14(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角50°方向から観察した比較サンプル、第4〜第6サンプルについての比較結果を示すグラフである。
【図15】比較サンプル及び第4〜第6サンプルに関する色度図を示す。
【図16】駆動電圧とコントラスト比との関係を示すグラフである。
【図17(A)】と、
【図17(B)】と、
【図17(C)】と、
【図17(D)】図17(A)〜(D)は、ON表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図18(A)】と、
【図18(B)】と、
【図18(C)】と、
【図18(D)】図18(A)〜(D)は、OFF表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図19(A)】と、
【図19(B)】と、
【図19(C)】と、
【図19(D)】図19(A)〜(D)は、背景表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図20(A)】と、
【図20(B)】と、
【図20(C)】と、
【図20(D)】図20(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角30°方向から観察した第2比較サンプル、第7〜第9サンプルについての比較結果を示すグラフである。
【図21(A)】と、
【図21(B)】と、
【図21(C)】と、
【図21(D)】図21(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角50°方向から観察した第2比較サンプル、第7〜第9サンプルについての比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、実施例による液晶表示素子の製造方法を示すフローチャートである。
【0015】
まず、ステップS101において、2枚の透明基板、たとえばガラス基板を準備し、ガラス基板上に、たとえばITO(Indium Tin Oxide)で透明電極を形成する。透明電極は、ガラス基板上に蒸着またはスパッタで形成したITO膜を、フォトリソ工程で所望のITOパターンにエッチングすることで形成する。
【0016】
ステップS102において、ITOパターンの形成されたそれぞれのガラス基板上に、たとえばフレキソ印刷で絶縁膜を形成する。絶縁膜は完成した液晶表示素子の表示部に対応する部分に形成される。絶縁膜は印刷に限らず、メタルマスクを用いた蒸着法やスパッタで形成することもできる。なお、絶縁膜の形成は必須ではないが、液晶表示素子の上下基板間のショートを防止するため、形成することが望ましい。
【0017】
ステップS103において、絶縁膜上に、絶縁膜とほぼ同じパターンの垂直配向膜を形成する。配向膜は、たとえば(株)日産化学製の垂直配向膜材料、SE−1211を使用して形成する。均一なモノドメイン配向が実現されるように、公知技術、たとえば、特許文献2に記載の方法を利用する。
【0018】
次に、ステップS104において、配向膜にラビングによる配向処理を施す。ラビング処理工程は、布を巻いた円筒状のロールを高速で回転させ、配向膜上を擦る工程であり、配向膜にラビング処理を施すことで、液晶表示素子の液晶分子を一軸に(一方向に沿って)配向させることができる。たとえば、上下基板間の配向状態がアンチパラレル(反平行)となるように、ラビング処理を行う。
【0019】
なお、上下基板に施す配向処理は、ラビングの代わりに、光配向法、イオンビーム配向法、プラズマビーム配向法、斜め蒸着法等を用いて行ってもよい。
【0020】
ステップS101〜S104の工程によって、パターニングされたITO電極、絶縁膜、配向処理の施された配向膜が、この順に形成された2枚のガラス基板(上側基板及び下側基板)を得る。
【0021】
ステップS105において、シール剤の印刷等を行う。たとえば熱硬化性のシール剤である(株)三井化学製のES−7500を、一方の基板上に、スクリーン印刷法で印刷する。このシール剤は、大きさ3.9μmのグラスファイバーを数%含んでいる。なお、ディスペンサを用いて、シール剤を塗布することもできる。また、熱硬化性ではなく、光硬化性のシール剤や、光・熱併用硬化型のシール剤を使ってもよい。
【0022】
シール剤は、液晶層の形成を、真空注入法を用いて行う場合は、注入口を有する所定パターン、液晶滴下注入方式(One Drop Filling; ODF)を用いて行う場合は、注入口のない閉じられた所定パターンに印刷される。
【0023】
シール剤の印刷された基板に、更に、導通剤を所定パターンに印刷する。たとえば前出のシール剤ES−7500に、4.5μm径の、たとえば(株)積水化学工業製ミクロパールAUなどの金メッキを施したプラスチックボールを数%含ませたものを導通剤として、基板上にスクリーン印刷する。
【0024】
また、シール剤及び導通剤パターンが印刷されていない他方の基板上に、たとえば4μm径のプラスチックボールを、ギャップコントロール剤として、乾式散布法にて散布する。プラスチックボールに代えて真し球を散布してもよい。液晶分子の配向を乱さないための表面処理が施されているギャップコントロール剤を用いることが好ましい。
【0025】
ステップS106において、上側及び下側基板を貼り合わせる。上下基板を位置合わせして重ね合わせ、プレスした状態で、熱処理によりシール剤を硬化させる。
【0026】
ステップS107は分割工程である。スクライバー装置でガラス基板に傷をつけ、ブレイキングにより、所定形状、大きさの空セルを分割形成する。
【0027】
ステップS108においては、分割形成された空セルに液晶を真空注入する。本願発明者らは、以下の4種類の液晶材料を注入し、4種類の液晶表示素子のサンプルを作製した。
【0028】
(a)誘電率異方性が負の液晶材料((株)メルク製)。
【0029】
(b)上記(株)メルク製の液晶材料に、青色を呈する二色性色素((株)林原生物化学研究所製のG−472)を0.15wt%添加し、攪拌しながら液晶の相転位温度以上に加熱し、色素を液晶中に溶かし込んだ液晶材料。
【0030】
(c)上記(株)メルク製の液晶材料に、G−472を0.30wt%添加し、(b)と同じ方法で溶かし込んだ液晶材料。
【0031】
(d)上記(株)メルク製の液晶材料に、G−472を0.45wt%添加し、(b)と同じ方法で溶かし込んだ液晶材料。
【0032】
以下、上記(a)、(b)、(c)、(d)の液晶材料を注入した液晶表示素子を、それぞれ比較サンプル、第1サンプル、第2サンプル、第3サンプルと呼ぶ。
【0033】
なお、G−472は、吸収ピーク波長が620nm、二色比が7.992(約8)の二色性色素である。通常の二色性色素においては、二色比は10以上であることが多いため、G−472は二色比が比較的低い色素であるといえる。
【0034】
ステップS109においては、液晶注入口をエンドシール剤で封止する。
【0035】
ステップS110において、面取りと洗浄を行う。面取りとは、端子の切断面の角にC面をつける作業である。また、液晶セルにはガラスごみが付着するため洗浄を実施する。
【0036】
最後に、ステップS111において、2枚のガラス基板の、液晶層と反対側の面に偏光板を貼付する。2枚の偏光板は、透過軸が相互に直交するように(クロスニコルに)、かつ、透過軸がラビング方向に対し45°の角度をなすように配置した。また、両基板の透明電極間に、電源を接続する。
【0037】
図2は、実施例による液晶表示素子の製造方法で製造された液晶表示素子(実施例による液晶表示素子)の概略図である。
【0038】
実施例による液晶表示素子は、相互に平行に対向配置された上側基板10、下側基板20、及び両基板10、20間に挟持された垂直配向液晶層30を含んで構成される。
【0039】
上側基板10は、上側ガラス基板(透明基板)11、上側ガラス基板11上に形成された上側透明電極12、上側透明電極12上に形成された上側絶縁膜13、及び上側絶縁膜13上に形成された上側配向膜14を含む。同様に、下側基板20は、下側ガラス基板(透明基板)21、下側ガラス基板21上に形成された下側透明電極22、下側透明電極22上に形成された下側絶縁膜23、及び下側絶縁膜23上に形成された下側配向膜24を含む。
【0040】
上側及び下側透明電極12、22はたとえばITOで形成される。両電極12、22間に接続された電源40により、液晶表示素子が駆動される。
【0041】
上側及び下側配向膜14、24には、たとえばラビングにより、アンチパラレルに配向処理が施されている。
【0042】
液晶層30は、垂直配向する液晶層である。液晶分子30aは一軸に(上側及び下側基板10、20のラビング方向と平行な方向に沿って)、均一にモノドメイン配向する。また、液晶層30には、青色を呈する(黄色の波長を吸収する)二色性色素が均一に分散されている。
【0043】
電源40によって、上側及び下側透明電極12、22間に電圧が印加されることにより、その間に存する液晶分子30a、及び二色性色素の配向状態が変化する。本図の液晶層30には、図面左側に電圧が印加されないときの液晶分子30a、及び二色性色素の配向状態を示し、図面右側に電圧が印加されたときのそれらの配向状態を示した。
【0044】
上側基板10、下側基板20の液晶層30と反対側の面には、それぞれ上側偏光板15、下側偏光板25が配置される。両偏光板15、25は、上側偏光板15の光透過軸と、下側偏光板25のそれとが相互に直交するように(クロスニコルに)、かつ、光透過軸が、上側及び下側基板10、20のラビング方向に対し45°の角度をなすように配置される。このため、実施例による液晶表示素子は、ノーマリブラックタイプの液晶表示素子である。
【0045】
本願発明者らは、実施例による液晶表示素子(第1〜第3サンプル)及び比較サンプルの電気光学特性を評価した。評価には、(株)大塚電子製の液晶表示素子評価装置、LCD−5200を用いた。
【0046】
まず、比較サンプル及び第1〜第3サンプルについて、駆動電圧とコントラストとの関係を調べた。各サンプルは、150Hz、1/4デューティ、1/3バイアスで駆動し、コントラストは、各サンプルの上側及び下側基板10、20の法線方向から測定した。
【0047】
図3(A)及び(B)は、駆動電圧とコントラスト比との関係を示すグラフである。各図において、グラフの横軸は、駆動電圧を単位「ボルト(V)」で表し、縦軸はコントラスト比を表す。図3(A)のバツ印を結んだ曲線は、比較サンプルについての両者の関係を示す。また、図3(B)の黒四角、黒菱形、黒三角を結んだ曲線は、それぞれ第1サンプル、第2サンプル、第3サンプルに関する両者の関係を示す。
【0048】
二色性色素無添加の比較サンプルと比べ、色素を添加した第1〜第3サンプルのコントラストが高いことがわかる。特に、二色性色素添加量が0.15wt%の第1サンプル、0.30wt%の第2サンプルのコントラスト特性が優れている。この結果は、本願発明者らの予期の範囲外であったが、色素の添加により効果的にOFF表示時(OFF電圧印加時)の黒レベルが改善されたため、及び、色素添加量の少ないサンプル(第1及び第2サンプル)では、前述した、色素添加によるON表示時の白レベルの低下現象が顕著には現れなかったためと考えられる。青色を呈する二色性色素が、ホスト液晶に対し、0.001wt%以上、より好ましくは、0.01wt%以上の添加量で添加されていれば、コントラスト向上の効果を奏することが可能であろう。
【0049】
次に、本願発明者らは、比較サンプル及び第1〜第3サンプルのON表示(明表示)について、様々に視角方向(観察角度、極角)を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向(観察角度、極角)は、黄変が最も目立ちやすい方位である最適視認方位において変化させた。
【0050】
図4(A)〜(D)は、ON表示(明表示)について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。比較サンプル及び第1〜第3サンプルの表示方法は、図3(A)及び(B)におけるそれらと等しく、たとえばバツ印を結んだ曲線は、比較サンプルについての光の波長と透過率との関係を示す。図4(A)は、極角0°方向(基板法線方向)からの観察結果である。図4(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0051】
図4(A)を参照する。極角0°方向からの観察においては、比較サンプルと第1サンプルとで、ほぼ等しい波長−透過率特性が得られている。色素分子は液晶分子とともに垂直配向から傾いているものの、0.15wt%の添加量では、ほとんど色として観察されないことがわかる。色素添加量が0.30wt%の第2サンプルでは、光透過率の低下が認められ、特に色素で吸収される550nm〜600nmの波長の光の透過率が低い。色素添加量が0.45wt%の第3サンプルでは、すべての波長領域において光透過率が低下している。明るい表示を実現するためには、色素添加量を0.5wt%未満とすることが好ましく、0.45wt%以下とすることがより好ましいであろう。0.5wt%以上の色素添加は望ましくないと考えられる。
【0052】
図4(B)を参照する。極角15°方向からの観察においては、極角0°方向からの観察(図4(A))に比べ、比較サンプルにつき、光透過率の波長依存性が現れはじめ、他色よりも青色の透過率が低めとなる傾向、すなわち黄変のはじまりが認められる。
【0053】
第1サンプルの光透過率は、比較サンプルのそれよりも低くなる。特に、色素で吸収される550nm〜600nmの波長の光透過率において差が生じる。しかしカラーバランスの観点からは、第1サンプルが比較サンプルよりも良好であると考えることも可能である。
【0054】
第2及び第3サンプルはいずれも良好なカラーバランスを実現していると考えることができるが、光透過率は図4(A)に示す極角0°方向からの測定結果とほぼ同じ比率で低下している。
【0055】
図4(C)及び(D)を参照する。極角30°方向及び50°方向からの観察においては、比較サンプルにつき、図4(A)及び(B)に示す場合に比べ、光透過率の波長依存性が顕著となり、他色よりも青色の透過率が低くなる傾向、すなわち黄変が明瞭に認められる。前述のように、黄変は表示品質を低下させる現象であり、特に、比較的明るい方位である最適視認方位においては、明るさの低下よりも好ましくないとされている。
【0056】
第1サンプルの光透過率は、比較サンプルのそれよりも一層低くなる。光透過率の低下が著しいのは、特に550nm以上の波長領域においてである。しかしカラーバランスの観点からは、第1サンプルが比較サンプルよりも極めて良好であると考えられる。
【0057】
第2及び第3サンプルはいずれも極めて良好なカラーバランスを実現していると考えられるが、光透過率は図4(A)及び(B)に示す測定結果とほぼ同じ比率で低下している。
【0058】
続いて、本願発明者らは、比較サンプル及び第1〜第3サンプルのOFF表示(黒表示)について、様々に視角方向を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向は最適視認方位において変化させた。
【0059】
図5(A)〜(D)は、OFF表示(黒表示)について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。比較サンプル及び第1〜第3サンプルの表示方法は、図3(A)、(B)及び図4(A)〜(D)におけるそれらと等しい。図5(A)は、極角0°方向からの観察結果である。図5(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0060】
図5(A)及び(B)を参照する。極角0°方向、及び15°方向からの観察においては、比較サンプル、及び第1〜第3サンプルの波長−透過率特性にほとんど差はない。垂直配向型の液晶表示素子であるため、基板法線方向及びそれに近い方向からの観察では、有意差がないものと考えられる。
【0061】
図5(C)及び(D)を参照する。極角が30°以上である方向からの観察においては、色素の添加による相違が明瞭に認められ、添加量が多いほど光透過率が低くなることがわかる。
【0062】
更に、本願発明者らは、比較サンプル及び第1〜第3サンプルの背景表示(透明電極12、22が形成されていない領域の表示)について、様々に視角方向を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向は最適視認方位において変化させた。
【0063】
図6(A)〜(D)は、背景表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。比較サンプル及び第1〜第3サンプルの表示方法は、図3(A)、(B)、図4(A)〜(D)、及び図5(A)〜(D)におけるそれらと等しい。図6(A)は、極角0°方向からの観察結果である。図6(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0064】
図6(A)及び(B)を参照する。極角0°方向、及び15°方向からの観察においては、OFF表示の場合と同様に、比較サンプル、及び第1〜第3サンプルの波長−透過率特性にほとんど差はない。
【0065】
図6(C)及び(D)を参照する。極角が30°以上である方向からの観察においては、色素の添加による相違が認められ、添加量が多いほど光透過率が低くなることがわかる。
【0066】
最後に、本願発明者らは、比較サンプル及び第1〜第3サンプルについて、背景表示とOFF電圧印加時の表示(OFF表示)の波長−透過率特性を比較した。
【0067】
図7(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角30°方向から観察した比較サンプル、第1〜第3サンプルについての比較結果を示すグラフである。また、図8(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角50°方向から観察したそれらを示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。黒四角を結んだ曲線は、背景表示についての光の波長と透過率との関係を示す。黒菱形を結んだ曲線は、OFF表示に関する両者の関係を示す。
【0068】
図7(A)〜(D)を比較参照する。色素の添加量が多いサンプルの方が、僅かながら背景表示とOFF表示との間の、光透過率(明るさ)の差が小さいことがわかる。
【0069】
図8(A)〜(D)を比較参照する。色素の添加されたサンプル(第1〜第3サンプル)の方が色素無添加のサンプル(比較サンプル)よりも、明らかに両表示間の光透過率(明るさ)の差が小さい。特に、第3サンプルにおいてその差が小さく、OFFセグ見えの抑制された優れた表示を実現可能であることがわかる。
【0070】
これらのことより、液晶表示素子を斜め方向、殊に深い極角角度方向から観察したときのOFFセグ見えが、色素の添加により軽減されることが理解される。なお、色素の添加量を増すとOFFセグ見えを、より低減することが可能である。
【0071】
次に本願発明者らは、液晶材料に添加する二色性色素を異ならせて、新たに3種類の液晶表示素子のサンプルを作製した。添加したのは、(株)林原生物化学研究所製の青色を呈する、吸収ピーク波長が550nm、二色比が14.8(約15)の二色性色素である。二色比が中程度の材料であるといえる。
【0072】
この二色性色素を、比較サンプルの液晶層を構成する液晶材料に、0.15wt%添加し、攪拌しながら液晶の相転位温度以上に加熱して溶かし込み、第4サンプルを作製した。同様に、0.30wt%、0.45wt%を添加した第5、第6サンプルを作製した。そして第4〜第6サンプルについても、(株)大塚電子製の液晶表示素子評価装置、LCD−5200を用いて、電気光学特性を評価した。
【0073】
まず、駆動電圧とコントラストとの関係を調べた。各サンプルは、150Hz、1/4デューティ、1/3バイアスで駆動し、コントラストは、各サンプルの上側及び下側基板10、20の法線方向から測定した。
【0074】
図9は、駆動電圧とコントラスト比との関係を示すグラフである。グラフの横軸は、駆動電圧を単位「ボルト(V)」で表し、縦軸はコントラスト比を表す。黒四角、黒菱形、黒三角を結んだ曲線は、それぞれ第4サンプル、第5サンプル、第6サンプルに関する両者の関係を示す。
【0075】
図3(A)に関係を示した、二色性色素無添加の比較サンプルと比べ、色素を添加した第4〜第6サンプルのコントラストが高いことがわかる。特に、二色性色素添加量が0.15wt%の第4サンプル、0.30wt%の第5サンプルのコントラスト特性が優れている。この結果は、本願発明者らの予期の範囲外であったが、色素の添加により効果的にOFF表示時の黒レベルが改善されたため、及び、色素添加量の少ない第4及び第5サンプルでは、色素添加によるON表示時の白レベルの低下現象が顕著には現れなかったためと考えられる。青色を呈する二色性色素が、ホスト液晶に対し、0.001wt%以上、より好ましくは、0.01wt%以上の添加量で添加されていれば、コントラスト向上の効果を奏することが可能であろう。
【0076】
次に、本願発明者らは、比較サンプル及び第4〜第6サンプルのON表示について、様々に視角方向(観察角度、極角)を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向(観察角度、極角)は、黄変が最も目立ちやすい方位である最適視認方位において変化させた。
【0077】
図10(A)〜(D)は、ON表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。比較サンプル及び第4〜第6サンプルの表示方法は、図3(A)及び図9におけるそれらと等しい。図10(A)は、極角0°方向(基板法線方向)からの観察結果である。図10(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0078】
図10(A)を参照する。前述したように、極角0°方向から観察した場合、比較サンプルと第1サンプルとでは、ほぼ等しい波長−透過率特性が得られたが、比較サンプルと第4サンプルとでは、波長−透過率特性に差が見られ、第4サンプルにおいては、0.15wt%の添加量であっても、光透過率が低下している。これは添加した二色性色素の二色比の影響であろう。第4サンプルに添加した二色性色素の二色比は、第1サンプルに添加した色素のそれより大きいため、電圧がONされ、液晶分子及び色素分子が傾いたときに、法線方向からでも色素の吸収が見られ、透過率が低下したものと考えられる。色素添加量が0.30wt%の第5サンプル、0.45wt%の第6サンプルにおいては、一層光透過率が低下し、特に色素で吸収される550nm〜600nmの波長の光の透過率が低い。
【0079】
図10(B)〜(D)を参照する。傾いた角度から観察した場合でも、第4サンプルの光透過率は、比較サンプルのそれよりも低くなる。しかしそれは主として550nm以上の波長範囲においてであり、カラーバランスの観点からは、第4サンプルが比較サンプルよりも良好であると考えることができる。第5及び第6サンプルはいずれも更に良好なカラーバランスを実現していると考えることができるが、光透過率は極角0°方向からの測定結果とほぼ同じ比率で低下している。
【0080】
続いて、本願発明者らは、第4〜第6サンプルのOFF表示について、様々に視角方向を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向は最適視認方位において変化させた。
【0081】
図11(A)〜(D)は、OFF表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。比較サンプル及び第4〜第6サンプルの表示方法は、図10(A)〜(D)におけるそれらと等しい。図11(A)は、極角0°方向からの観察結果である。図11(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0082】
図11(A)及び(B)を参照する。極角0°方向、及び15°方向からの観察においては、比較サンプル、及び第4〜第6サンプルの波長−透過率特性にほとんど差はない。垂直配向型の液晶表示素子であるため、基板法線方向及びそれに近い方向からの観察では、有意差がないものと考えられる。
【0083】
図11(C)及び(D)を参照する。極角が30°以上である方向からの観察においては、色素の添加による相違が認められ、添加量が多いほどOFF表示の光透過率が低くなる傾向がわずかにあるが、色素が添加されていれば、光透過率は一様に低いことがわかる。
【0084】
更に、本願発明者らは、第4〜第6サンプルの背景表示について、様々に視角方向を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向は最適視認方位において変化させた。
【0085】
図12(A)〜(D)は、背景表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。比較サンプル及び第4〜第6サンプルの表示方法は、図10(A)〜(D)におけるそれらと等しい。図12(A)は、極角0°方向からの観察結果である。図12(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0086】
図12(A)及び(B)を参照する。極角0°方向、及び15°方向からの観察においては、OFF表示の場合と同様に、比較サンプル、及び第4〜第6サンプルの波長−透過率特性にほとんど差はない。
【0087】
図12(C)及び(D)を参照する。極角が30°以上である方向からの観察においては、色素の添加による相違が認められ、添加量が多いほど光透過率が低くなる傾向がわずかにあるが、色素が添加されていれば一様に透過率は低いことがわかる。
【0088】
最後に、本願発明者らは、比較サンプル及び第4〜第6サンプルについて、背景表示とOFF表示の波長−透過率特性を比較した。
【0089】
図13(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角30°方向から観察した比較サンプル、第4〜第6サンプルについての比較結果を示すグラフである。また、図14(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角50°方向から観察したそれらを示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。黒四角を結んだ曲線は、背景表示についての光の波長と透過率との関係を示す。黒菱形を結んだ曲線は、OFF表示に関する両者の関係を示す。
【0090】
図13(A)〜(D)を比較参照する。色素の添加量が多いサンプルの方が、背景表示とOFF表示との間の、光透過率(明るさ)の差が小さいことがわかる。ただし、第1〜第3のサンプルと比べた場合、その差は大きい。
【0091】
図14(A)〜(D)を比較参照する。色素の添加されたサンプル(第4〜第6サンプル)の方が色素無添加のサンプル(比較サンプル)よりも、明らかに両表示間の光透過率(明るさ)の差が小さい。なお、色素添加による両表示間の光透過率の差の縮小効果は、色素の添加量に大きくは依存せず、添加量0.15wt%の第4サンプルと添加量0.45wt%の第6サンプルとの間で、ほぼ同等の効果が認められる。
【0092】
第4〜第6サンプルに関する測定結果からも、液晶表示素子を斜め方向、殊に深い極角角度方向から観察したときのOFFセグ見えが、色素の添加により軽減されることが理解される。
【0093】
なお、図15に、比較サンプル及び第4〜第6サンプルに関する色度図を示す。比較サンプル及び第4〜第6サンプルの表示方法は、図10(A)〜(D)におけるそれらと等しい。比較サンプルと比べ、第5及び第6サンプルは、視認角度による色度の変化が明らかに小さい。第4のサンプルも、比較サンプルよりは、色度変化の視認角度依存性が小さい。
【0094】
また、第4〜第6サンプルに添加した二色性色素は、カラーシフトを発現させる。これを利用すれば、色素の添加により、液晶表示素子の白表示の色調を制御することができる。この色素材料の場合、色調が紫(赤)側に変化しており、液晶表示素子のユーザに嫌われがちな黄色っぽい色味が変化している。色素の選択により、色味についてユーザの好みに合わせることが可能である。
【0095】
続いて本願発明者らは、液晶層を構成する液晶材料、及び、液晶材料に添加する二色性色素を異ならせて、更に4種類の液晶表示素子のサンプル(第2比較サンプル、及び第7〜第9サンプル)を作製した。
【0096】
用いた液晶材料が、(株)メルク製の誘電率異方性が負の液晶材料であるという点は、比較サンプル、及び第1〜第6サンプルと同じである。また、(株)林原生物化学研究所製の青色を呈する、吸収ピーク波長が600nm、二色比が15.1(約15)の二色性色素を液晶材料に添加した。この二色性色素の二色比は中程度である。
【0097】
液晶層に二色性色素を添加しないサンプルを、第2比較サンプルとした。また、二色性色素を、第2比較サンプルの液晶層を構成する液晶材料に、0.15wt%添加し、攪拌しながら液晶の相転位温度以上に加熱して溶かし込み、第7サンプルを作製した。同様に、0.30wt%、0.45wt%を添加した第8、第9サンプルを作製した。
【0098】
なお、第2比較サンプル、及び第7〜第9サンプルの作製に当たっては、比較サンプル、及び第1〜第6サンプルとは異なる垂直配向膜を用いた。用いたのは、ラビングを行っても、90°近いプレティルト角を得やすい垂直配向膜である。また、液晶セルの形成に際して、大きさ4.2μmのグラスファイバーを数%含んだシール剤を使用し、かつ、4.25μm径のプラスチックボールを、ギャップコントロール剤として散布することで、セル厚を比較サンプル、及び第1〜第6サンプルよりも厚くした。更に、視角補償板(光学補償板)付きの偏光板を液晶セルに貼付した。
【0099】
本願発明者らは、第2比較サンプル、及び第7〜第9サンプルについても、(株)大塚電子製の液晶表示素子評価装置、LCD−5200を用いて、電気光学特性を評価した。
【0100】
まず、第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルについて、駆動電圧とコントラストとの関係を調べた。各サンプルは、150Hz、1/64デューティ、1/9バイアスで駆動し、コントラストは、各サンプルの上側及び下側基板10、20の法線方向から測定した。
【0101】
図16は、駆動電圧とコントラスト比との関係を示すグラフである。グラフの横軸は、駆動電圧を単位「ボルト(V)」で表し、縦軸はコントラスト比を表す。バツ印を結んだ曲線は、第2比較サンプルについての両者の関係を示す。また、黒四角、黒菱形、黒三角を結んだ曲線は、それぞれ第7サンプル、第8サンプル、第9サンプルに関する両者の関係を示す。
【0102】
色素を添加した第7〜第9サンプルのコントラストは、二色性色素無添加の第2比較サンプルと比べて高い。特に、二色性色素添加量が0.15wt%の第7サンプル、0.30wt%の第8サンプルのコントラスト特性が優れている。この結果は、本願発明者らの予期の範囲外であったが、色素の添加により効果的にOFF表示時(OFF電圧印加時)の黒レベルが改善されたため、及び、色素添加量の少ないサンプル(第7及び第8サンプル)では、前述した、色素添加によるON表示時の白レベルの低下現象が顕著には現れなかったためと考えられる。青色を呈する二色性色素が、ホスト液晶に対し、0.001wt%以上、より好ましくは、0.01wt%以上の添加量で添加されていれば、コントラスト向上の効果を奏することが可能であろう。
【0103】
次に、本願発明者らは、第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルのON表示(明表示)について、様々に視角方向(観察角度、極角)を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向(観察角度、極角)は、黄変が最も目立ちやすい方位である最適視認方位において変化させた。
【0104】
図17(A)〜(D)は、ON表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルの表示方法は、図16におけるそれらと等しく、たとえばバツ印を結んだ曲線は、第2比較サンプルについての光の波長と透過率との関係を示す。図17(A)は、極角0°方向(基板法線方向)からの観察結果である。図17(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0105】
図17(A)を参照する。極角0°方向からの観察においては、色素無添加の第2比較サンプルと、色素を添加した第7〜第9サンプルとで、ほぼ等しい波長−透過率特性が得られている。
【0106】
図17(B)〜(D)を参照する。極角15°方向、30°方向、50°方向のいずれの方向からの観察においても、第2比較サンプルと第7サンプルとで、波長−透過率特性に大きな差はない。一方、第8及び第9サンプルにおいては、第2比較サンプルに比べ、若干透過率が低下している。しかし、短波長(青色)領域ではほとんど差がなく、長波長(赤色)領域側でわずかな透過率の低下が見られるため、第8及び第9サンプルは黄変の抑制された好ましい表示(良好なカラーバランス)を実現可能であることがわかる。色素添加量を0.45wt%以下とした液晶表示素子においては、良好な表示が実現されることが理解される。
【0107】
続いて、本願発明者らは、第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルのOFF表示(黒表示)について、様々に視角方向を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向は最適視認方位において変化させた。
【0108】
図18(A)〜(D)は、OFF表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルの表示方法は、図16におけるそれらと等しい。図18(A)は、極角0°方向からの観察結果である。図18(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0109】
図18(A)及び(B)を参照する。極角0°方向、及び15°方向からの観察においては、第2比較サンプル、及び第7〜第9サンプルの波長−透過率特性にほとんど差はない。垂直配向型の液晶表示素子であるため、基板法線方向及びそれに近い方向からの観察では、有意差がないものと考えられる。
【0110】
図18(C)及び(D)を参照する。極角が30°以上である方向からの観察においても、色素添加の有無、及びその添加量による波長−透過率特性の有意差は、比較サンプル、及び第1〜第6サンプルの場合ほど大きくはない。
【0111】
更に、本願発明者らは、第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルの背景表示について、様々に視角方向を変化させ、光の波長と透過率との関係を調べた。視角方向は最適視認方位において変化させた。
【0112】
図19(A)〜(D)は、背景表示について、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルの表示方法は、図16におけるそれらと等しい。図19(A)は、極角0°方向からの観察結果である。図19(B)、(C)、(D)はそれぞれ極角15°方向、30°方向、50°方向からの観察結果を示す。
【0113】
図19(A)及び(B)を参照する。極角0°方向、及び15°方向からの観察においては、OFF表示の場合と同様に、第2比較サンプル、及び第7〜第9サンプルの波長−透過率特性にほとんど差はない。
【0114】
図19(C)及び(D)を参照する。極角が30°以上である方向からの観察においても、色素添加の有無、及びその添加量による波長−透過率特性の有意差は、比較サンプル、及び第1〜第6サンプルの場合ほど大きくはない。
【0115】
最後に、本願発明者らは、第2比較サンプル及び第7〜第9サンプルについて、背景表示とOFF表示の波長−透過率特性を比較した。
【0116】
図20(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角30°方向から観察した第2比較サンプル、第7〜第9サンプルについての比較結果を示すグラフである。また、図21(A)〜(D)は、それぞれ最適視認方位の極角50°方向から観察したそれらを示すグラフである。各グラフの横軸は、光の波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を単位「%」で表す。黒四角を結んだ曲線は、背景表示についての光の波長と透過率との関係を示す。黒菱形を結んだ曲線は、OFF表示に関する両者の関係を示す。
【0117】
図20(A)〜(D)を参照する。第2比較サンプルと第7サンプルにおいて、背景表示とOFF表示との間で、光透過率(明るさ)の差はほとんどない。第8及び第9サンプルにおいては、第2比較サンプル及び第7サンプルよりも、一層その差は小さくなる。
【0118】
図21(A)〜(D)を比較参照する。まず、図21(A)に示されるように、色素無添加の第2比較サンプルにおいては、背景表示の光透過率の平均値とOFF表示のそれとの間にあまり差はない。しかし、背景表示とOFF表示とでは、波長による光透過率の依存性が異なっているため、両者間で色味の違いがあることがわかる。一方、図21(B)〜(D)に示されるように、色素を添加した第7〜第9サンプルにおいては、第2比較サンプルにおいてよりも、波長による光透過率の依存性の相違が小さい。このため、背景表示とOFF表示とで色味の違いが少なくなる。特に、第7サンプルにおいて、OFFセグ見えの改善された、良好な表示を実現できることが理解される。第7〜第9サンプルにおいても、第4〜第6サンプルの場合と同様に、色素添加による背景表示とOFF表示との間の光透過率の差の縮小効果は、色素の添加量に大きくは依存せず、添加量0.15wt%の第7サンプルには、添加量0.45wt%の第9サンプルと比較し、同等以上の効果を認めうるといえる。
【0119】
第7〜第9サンプルに関する測定結果からも、液晶表示素子を斜め方向、殊に深い極角角度方向から観察したときのOFFセグ見えが、色素の添加により軽減されることがわかった。なお、色素添加量の増加とともに、OFFセグ見え軽減の効果が大きくなるとはいえないこともわかった。
【0120】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0121】
たとえば、液晶材料に添加する二色性色素は、吸収波長のピークが500nm以上650nm以下のものであれば、実施例と同様の効果を得ることができるであろう。
【0122】
また、実施例においては二色比が約8及び15の色素を用いたが、二色比20以下の二色性色素を好ましく使用することができるであろう。
【0123】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0124】
車載用ディスプレイ、遊戯用表示、携帯電話・DSC用表示、オーディオ表示、パソコンモニタ表示、液晶テレビ表示、モバイルテレビ表示など液晶ディスプレイ関連全般に利用可能である。殊に、車載用のオーディオ表示、車載用のヒートコントロール表示などのキャラクタ表示、及びキャラクタ・ドットマトリクス混在表示に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0125】
10 上側基板
11 上側ガラス基板
12 上側透明電極
13 上側絶縁膜
14 上側配向膜
15 上側偏光板
20 下側基板
21 下側ガラス基板
22 下側透明電極
23 下側絶縁膜
24 下側配向膜
25 下側偏光板
30 液晶層
30a 液晶分子
40 電源
50 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板に対向配置された第2の基板と、
前記第1及び第2の基板間に挟持された、垂直配向する液晶層と、
前記第1の基板の、前記液晶層と反対側の面に配置された第1の偏光板と、
前記第2の基板の、前記液晶層と反対側の面に、前記第1の偏光板とクロスニコルに配置された第2の偏光板と
を有し、
前記液晶層は、ホスト液晶と、該ホスト液晶中に均一に分散された、青色を呈する二色性色素を含み、
前記液晶層における前記二色性色素の含有量は、前記ホスト液晶に対し、0.001wt%以上0.5wt%未満である液晶表示素子。
【請求項2】
前記液晶層における前記二色性色素の含有量は、前記ホスト液晶に対し、0.01wt%以上0.45wt%以下である請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記液晶層はモノドメイン配向する請求項1または2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記二色性色素の吸収波長のピークが500nm以上650nm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記二色性色素の二色比が20以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【図4(C)】
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【図4(D)】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図5(C)】
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【図5(D)】
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【図6(A)】
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【図6(B)】
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【図6(C)】
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【図6(D)】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図7(C)】
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【図7(D)】
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【図8(A)】
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【図8(B)】
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【図8(C)】
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【図8(D)】
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【図9】
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【図10(A)】
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【図10(B)】
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【図10(C)】
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【図10(D)】
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【図11(A)】
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【図11(B)】
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【図11(C)】
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【図11(D)】
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【図12(A)】
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【図12(B)】
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【図12(C)】
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【図12(D)】
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【図13(A)】
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【図13(B)】
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【図13(C)】
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【図13(D)】
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【図14(A)】
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【図14(B)】
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【図14(C)】
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【図14(D)】
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【図15】
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【図16】
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【図17(A)】
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【図17(B)】
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【図17(C)】
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【図17(D)】
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【図18(A)】
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【図18(B)】
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【図18(C)】
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【図18(D)】
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【図19(A)】
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【図19(B)】
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【図19(C)】
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【図19(D)】
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【図20(A)】
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【図20(B)】
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【図20(C)】
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【図20(D)】
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【図21(A)】
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【図21(B)】
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【図21(C)】
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【図21(D)】
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【公開番号】特開2010−224031(P2010−224031A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68642(P2009−68642)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】