説明

液晶表示装置及びその製造方法

【課題】ラビング処理に起因する様々な問題を防止しつつ、液晶分子の配向制御性に優れ、且つ低電圧駆動が可能な液晶表示装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリマーブラシを配向膜として用いたことを特徴とする液晶表示装置である。また、本発明は、基板上にポリマーブラシを形成する工程と、前記ポリマーブラシを形成した前記基板間に液晶を注入する工程と、非接触配向法によって前記液晶を配向させる工程とを含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置及びその製造方法に関し、特に、各種機器の表示パネルなどに使用される液晶表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低駆動電圧、低消費電力及び軽量などの特性を有していることから、時計の表示パネルや、携帯電話、コンピュータ及びテレビのディスプレイなどにおける用途が拡大している。
このような液晶表示装置では、液晶分子を基板面に対して所定の方向に並べる(すなわち、配向させる)ことが一般的に必要とされているが、従来の配向技術としては、基板上にポリイミドなどから成る配向膜を形成した後にラビング処理を施すこと(ラビング法)により液晶分子を配向させる方法が知られている。ラビング処理は、レーヨンや綿などの布を巻いたローラーを、回転数及びローラーと基板との距離を一定に保った状態で回転させ、配向膜の表面を一方向に擦ることにより行われる。
【0003】
しかしながら、ラビング処理による配向技術には、以下に挙げるように様々な問題がある。
(1)ラビング処理は、配向膜に大きなキズを生じさせることがあり、そのキズが液晶表示装置の黒表示時において光漏れの原因となり、液晶表示装置のコントラストを低下させる。
(2)ラビング処理によって、配向膜が剥がれたり、ローラーに巻いた布から毛が脱落したりする結果、液晶表示装置の表示品位や歩留まりが低下する。
(3)基板上に形成したTFT素子などによる段差により、ラビングされない部分が生じ、液晶表示装置の表示品位や歩留まりが低下する。
(4)基板とローラーとの間の摩擦によって生じる静電気により、基板上に形成したTFT素子が破壊し、歩留まりが低下する。
【0004】
(5)液晶セルを形成する際の基板の貼り合わせ位置の微妙なズレにより、上下基板の配向方向がずれてしまい(すなわち、配向軸のずれが生じ)、液晶表示装置のコントラストが低下する。
(6)ラビング処理は、ラビングの定量化が難しく、管理が難しい。
(7)基板サイズが大きくなると、基板やローラーのたわみの影響が大きくなり、均一なラビング処理が困難になると共に、ラビング処理のための装置を大きくする必要があるため、投資コストが増大する。
【0005】
そこで、ラビング処理を必要としない(ラビングレス)配向技術として、磁場による配向技術(例えば、特許文献1)、配向膜として液晶性高分子を用いる技術(例えば、特許文献2)、液晶層中にポリマーを含有させて液晶分子の配向を制御する技術(例えば、特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−13168号公報
【特許文献2】特公平7−54381号公報
【特許文献3】特開2004−286984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のラビングレス配向技術は、依然としてその効果が充分ではないという問題がある。
また、液晶表示装置には、省エネルギーの観点から低電圧駆動(低消費電力化)が要求されるが、低電圧駆動のためには配向膜の厚さを薄くすることが有効である。ところが、配向膜にポリイミド膜を使用する場合においては、ポリイミド膜は多孔質膜であるため、ポリイミド膜の下地から液晶層への不純物の侵入を防ぐ観点から、ポリイミド膜を一般的に100nm程度の厚さにする必要があり、配向膜の厚さを薄くすることができないという問題がある。加えて、ポリイミド膜の厚さを薄くした場合、液晶分子の配向制御能力が低下してしまうという問題もある。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、ラビング処理に起因する様々な問題を防止しつつ、液晶分子の配向制御性に優れ、且つ低電圧駆動が可能な液晶表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するポリマーブラシが、液晶分子の配向制御性に優れると共に、不純物の侵入を防止する効果が高いという知見に基づき、このポリマーブラシを配向膜として用いることで、上記のような問題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、ポリマーブラシを配向膜として用いたことを特徴とする液晶表示装置である。
また、本発明は、基板上にポリマーブラシを形成する工程と、前記ポリマーブラシを形成した前記基板間に液晶を注入する工程と、非接触配向法によって前記液晶を配向させる工程とを含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法である。
さらに、本発明は、基板上にポリマーブラシを形成する工程と、前記ポリマーブラシをラビング処理する工程と、前記ポリマーブラシを形成した前記基板間に液晶を注入する工程とを含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラビング処理に起因する様々な問題を防止しつつ、液晶分子の配向制御性に優れ、且つ低電圧駆動が可能な液晶表示装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の液晶表示装置の断面図である。
【図2】本発明の液晶表示装置の製造フロー図である。
【図3】実施例1の液晶表示装置の回転角度と透過率との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2の液晶表示装置の回転角度と透過率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1、2及び比較例1の液晶表示装置のV−T曲線を示すグラフである。
【図6】実施例1の液晶表示装置における電圧印加後の輝度を示すグラフである。
【図7】実施例2の液晶表示装置における電圧印加後の輝度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の液晶表示装置及びその製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、以下では、横電界方式の液晶表示装置を例に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されず、縦電界方式の液晶表示装置にも用いることも可能である。
図1は、本発明の液晶表示装置の断面図である。図1において、液晶表示装置は、アレイ基板1と、アレイ基板1に対向して配置された対向基板2と、アレイ基板1と対向基板2との間に狭持された液晶層3とを有している。そして、アレイ基板1には、電極4、固定化膜5及びポリマーブラシ6が順次形成されている。また、対向基板2には、固定化膜5及びポリマーブラシ6が順次形成されている。
このような構成を有する本発明の液晶表示装置は、ポリマーブラシ6を配向膜として用いている点以外は、原則として公知の液晶表示装置と同じ構成であり、配向膜以外の部分は公知の製造方法に準じて製造することが可能である。
【0013】
一般的に、一端が基板表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、グラフト密度が高くなると、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。本明細書において「ポリマーブラシ6」とは、後者の構造、すなわち、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものを意味する。
【0014】
本明細書において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、一般的に0.1本鎖/nm2以上、好ましくは0.1〜1.2本鎖/nm2の密度である。ここで、グラフトポリマー鎖の「密度」とは、単位面積(nm2)あたりの基板表面上に形成されたグラフトポリマー鎖の本数を意味する。
【0015】
高密度で基板表面上に形成されたポリマーブラシ6は、基板表面上でポリマーブラシ6の層(以下、「ポリマーブラシ層」という)を構成する。このポリマーブラシ層の厚さは、数十nm、具体的には10nm以上100nm未満、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示装置の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできないため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしたとしても、下地から液晶層3への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶分子7の配向制御能力が良好である。
【0016】
ポリマーブラシ6は、液晶分子7の配向安定性を高める観点から、UV硬化性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ6は、UV硬化が可能な官能基(例えば、(メタ)アクリル基)を有することが好ましい。
また、ポリマーブラシ6は、種々の特性を付与する観点から、共重合体、特にブロック共重合体であることが好ましい。かかる共重合体であれば、単独重合体では得られない種々の効果が期待できる。
さらに、ポリマーブラシ6は、液晶層3との適合性の観点から、液晶性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ6は、液晶性を示す官能基(例えば、メソゲン基)を有することが好ましい。
【0017】
ポリマーブラシ6は、ラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させることにより形成することができる。ここで、「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0018】
本発明に用いられるリビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。例えば、重合開始剤の存在下で、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動リビングラジカル重合を行う。高分子末端ハロゲンをハロゲン化銅/リガンド錯体が引き抜くことにより可逆的に成長する成長ラジカルにラジカル重合性モノマーが付加して進行し、十分な頻度での可逆的活性化・不活性化により分子量分布が規制される。
【0019】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するものであり、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどのアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレンなど)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニルなど)、ビニルケトン類(ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンなど)、N−ビニル化合物(N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドールなど)、(メタ)アクリル酸誘導体(アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ハロゲン化ビニル類(塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなど)などのビニルモノマーが挙げられる。ラジカル重合性モノマーは、単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0020】
重合開始剤としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。重合開始剤の例としては、p−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α,α−ジクロロキシレン、α,α−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタンなどのベンジルハロゲン化物;プロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBIB)などのα位がハロゲン化されたカルボン酸;p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)などのトシルハロゲン化物;テトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリド、1−ビニルエチルブロミドなどのアルキルハロゲン化物;ジメチルリン酸クロリドなどのリン酸エステルのハロゲン誘導体が挙げられる。
【0021】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4'−ジノニル−2,2'−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N',N'N"−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。
【0022】
ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅、リガンド化合物の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的に、重合開始剤1molに対して、ラジカル重合性モノマーが5〜10,000mol、好ましくは50〜5,000mol、ハロゲン化銅が0.1〜100mol、好ましくは0.5〜100mol、リガンド化合物が0.2〜200mol、好ましくは1.0〜200molである。
【0023】
なお、リビングラジカル重合は、通常、無溶媒で行うが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼンなどの有機溶媒;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノールなどの水性溶媒が挙げられる。溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的にラジカル重合性モノマー1gに対して、溶媒が0.01〜100mL、好ましくは0.05〜10mLである。
【0024】
リビングラジカル重合により形成されるポリマーブラシ6の分子量は、反応温度、反応時間や使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000のポリマーブラシ6を得ることができる。また、ポリマーブラシ6の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.60の間に制御することができる。
このような特徴を有するポリマーブラシ6は、液晶層3中の液晶分子7をアレイ基板1及び対向基板2に対して平行に配向させることができる。
【0025】
ポリマーブラシ6は、必要に応じて、電極4が設けられたアレイ基板1や対向基板2上に固定化膜5を介して形成される。
固定化膜5としては、アレイ基板1、対向基板2、電極4、及びポリマーブラシ6との接着性に優れたものであれば特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。固定化膜5の例としては、下記の一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物から形成される膜が挙げられる。
【0026】
【化1】

【0027】
一般式(1)中、R1はそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基であり;R2はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり;Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり;nは3〜10の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0028】
固定化膜5には、ポリマーブラシ6が共有結合していることが好ましい。固定化膜5とポリマーブラシ6とが結合力の強い共有結合で結ばれていれば、ポリマーブラシ6の剥がれを十分に防止することができ、液晶表示装置の特性が低下する可能性が低くなり、液晶表示装置の信頼性が向上する。
【0029】
固定化膜5が形成されるアレイ基板1としては、特に限定されることはなく、液晶表示装置で一般的に公知のものを使用することができる。アレイ基板1の例としては、アクティブマトリックスアレイ基板が挙げられる。このアクティブマトリックスアレイ基板は、一般的に、ガラス基板上にゲート配線及びソース配線がマトリックス状に配置されており、その交点部分に、薄層トランジスタ(TFT)などのアクティブ素子が形成され、このアクティブ素子に画素電極が接続されたものである。
【0030】
固定化膜5が形成される対向基板2もまた、特に限定されることはなく、液晶表示装置で一般的に公知のものを使用することができる。対向基板2の例としては、カラーフィルタ基板が挙げられる。このカラーフィルタ基板は、一般的に、ガラス基板上に、不要な光の漏れを防止するためにブラックマトリックスを形成した後、R(赤)、G(緑)、B(青)の着色層をパターン形成し、必要に応じて保護膜を形成し、そして画素電極に対向する対向電極を形成したものである。
【0031】
固定化膜5が形成される電極4としては、特に限定されることはなく、液晶表示装置に一般的に公知のものを使用することができる。電極4の例としては、ITO(酸化インジウムスズ)からなる櫛歯電極が挙げられる。
液晶層3に用いられる液晶としては、特に限定されることはなく、液晶表示装置で一般的に公知のものを使用することができる。
【0032】
次に、本発明の液晶表示装置の製造方法について説明する。図2は、本発明の液晶表示装置の製造フロー図である。なお、以下では、毛細管現象を利用した液晶注入を行う方法を例に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されず、液晶滴下注入(ODF)による方法を用いることも可能である。
まず、アレイ基板1上に電極4を形成する。電極4の形成方法としては、特に限定されることはなく、公知の方法に準じて形成することができる。なお、アレイ基板1は、必要に応じて、電極4の形成前に洗浄を行ってもよい。
次に、電極4を形成したアレイ基板1、及び対向基板2上に固定化膜5を形成する。ただし、電極4を形成したアレイ基板1、及び対向基板2とポリマーブラシ6との接着性が良好であれば、固定化膜5を形成する必要はない。固定化膜5の形成方法は、特に限定されることはなく、使用する材料にあわせて適宜設定すればよい。例えば、固定化膜形成用溶液に、電極4が設けられたアレイ基板1及び対向基板2を浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜5を形成することができる。ここで、所定の部分に固定化膜5を形成させるために、固定化膜5を形成させない部分にマスキングを施してもよい。また、対向基板2は、必要に応じて、固定化膜5の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0033】
次に、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2上にポリマーブラシ6を形成する。ポリマーブラシ6の形成は、リビングラジカル重合(例えば、ATRP)により行われる。例えば、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を、ラジカル重合性ポリマー、重合開始剤、及びハロゲン化銅/リガンド錯体を含むポリマーブラシ形成用溶液中に浸漬させ、加熱することによってポリマーブラシ6を形成することができる。加熱条件は、特に限定されることはなく、使用する原料などに応じて適宜調節すればよいが、一般的に、加熱温度は60〜150℃、加熱時間は0.5〜10時間である。この時、圧力は、一般的に常圧で行われるが、加圧又は減圧しても構わない。なお、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2は、必要に応じて、ポリマーブラシ6の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0034】
次に、ポリマーブラシ6が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を貼り合わせる。例えば、シール剤を塗布し、スペーサーを散布した後、アレイ基板1と対向基板2とを重ねあわせ、シール剤を硬化させることによってアレイ基板1と対向基板2とを貼り合わせることができる。
次に、毛細管現象を利用して液晶をアレイ基板1と対向基板2との間に注入し、注入が終了したら、注入口を閉じて封止する。
【0035】
次に、磁場配向法やテンプレート配向法などの非接触配向法によって液晶分子を一軸配向させる。磁場配向法を用いる場合、例えば、ポリマーブラシ6のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱しつつ、液晶分子7を配向させたい方向に、永久磁石や超伝導磁石を用いて磁場を印加しながら常温まで除冷する。このような加熱・磁場配向処理を行うことで、非接触の一軸配向が可能となる。加熱条件は、形成したポリマーブラシ6のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に加熱温度は60〜150℃、加熱時間は10分〜1時間である。同様に、磁場の印加条件も、使用した液晶の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に磁束密度が0.5T〜5Tである。また、常温までの降温速度は1℃/分〜20℃/分であることが好ましい。降温速度が1℃/分未満であると、工程時間が長くなり、実用的でない場合がある。一方、降温速度が20℃/分を超えると、液晶分子7の配向制御が十分でない場合がある。
【0036】
次に、必要に応じてUV(紫外線)を照射することにより、ポリマーブラシ6の配向性を固定し、液晶分子7の配向安定性を高める。UVの強さは、形成したポリマーブラシ6の種類に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、一般的に数百〜数万mJである。なお、UV照射は、磁場を印加しない状態で行って良いが、磁場を印加したままの状態で行っても良い。
なお、テンプレート配向法は、本出願人が2009年7月15日に出願した特願2009−166497号に記載されており、参照により本明細書中に援用される。
このようにして製造される本発明の液晶表示装置は、ラビング処理に起因する様々な問題を防止し、液晶分子の配向制御性に優れている。また、磁場による配向を行っているので、磁場の印加条件を調整することで配向制御の定量化が可能となり、管理が容易になる。さらに、液晶を注入した後に配向処理を行っているので、ラビング処理で生じる配向軸のずれ(ラビング方向のずれ、重ねずれ)がなく、液晶表示装置のコントラストを向上させることができる。
【0037】
なお、上記では磁場による配向処理を説明したが、ポリマーブラシ6を配向膜として用いた場合には、ラビング処理による配向処理を行うことも可能である。なお、ポリマーブラシ6はラビング処理によって配向させたとしても、ポリイミド膜などの従来の配向膜に比べてキズがつき難いため、ラビング処理に起因する従来の問題を概ね防止することができる。
ラビング処理による配向処理を行う場合、ポリマーブラシ6を形成した後に、ラビング処理し、UV照射によって硬化させればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、ラジカル重合性モノマーとしてスチレンを用いて形成した配向膜を有する液晶表示装置を作製した。
ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板を用意し、ポリマーブラシを形成させる必要がない部分をマスキングした。次に、エタノール38g、アンモニア水(28%)2g、2−ブロモ−2−メチルプロピオニロキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)0.4gを含む固定化膜形成用溶液に、マスキングを施した2つのガラス基板を常温(25℃)で一晩浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜を形成した。次に、固定化膜を形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、スチレン(ラジカル重合性モノマー)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤)、CuBr(ハロゲン化銅)及び4,4'−ジオニル−2,2'−ビピリジン(リガンド化合物)を1900:1:19:38のモル比で含むポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、110℃で3時間加熱してリビングラジカル重合させることにより、ポリマーブラシ(以下、PSブラシという)を形成した。次に、PSブラシを形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた。
【0039】
形成されたPSブラシの分子量について、GPC測定装置(日本分光株式会社製)を用いて評価した。標準試料にはポリスチレンを用い、検出器にはUV検出器を用いた。その結果、PSブラシの数平均分子量(Mn)は1.34×105であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.51であった。
また、PSブラシの層(PSブラシ層)の厚さについて、X線反射率測定装置(パナリティカル(PANalytical社製X'Pert−Pro−MAD)を用いて評価した。その結果、PSブラシ層の厚さは50.6nmであった。
さらに、PSブラシのグラフト密度について評価した結果、0.23本鎖/nm2であった。
【0040】
次に、PSブラシが形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、2つのガラス基板の間にP型液晶を毛細管現象により注入し、注入が終了したら注入口を閉じて封止した。次に、所定の方向に1Tの磁場を印加しながら80℃の温度で20分間加熱した後、磁場を印加しつつ常温まで10℃/分の降温速度で除冷することによって液晶表示装置を得た。
【0041】
(実施例2)
実施例2では、ラジカル重合性モノマーとしてメチルメタクリレートを用いて形成した配向膜を有する液晶表示装置を作製した。
ここで、メチルメタクリレート(ラジカル重合性モノマー)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤)、CuBr(ハロゲン化銅)及び4,4'−ジオニル−2,2'−ビピリジン(リガンド化合物)を2000:1:20:40のモル比で含むポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、90℃で1.5時間加熱してリビングラジカル重合させたこと以外は実施例1と同様にしてポリマーブラシ(以下、PMMAブラシという)を形成し、液晶表示装置を得た。
【0042】
形成されたPMMAブラシの分子量について、GPC測定装置(日本分光株式会社製)を用いて評価した。標準試料にはポリメチルメタクリレートを用い、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いた。その結果、PMMAブラシの数平均分子量(Mn)は1.67×105であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.43であった。
また、PMMAブラシの層(PMMAブラシ層)の厚さについて、X線反射率測定装置(パナリティカル(PANalytical社製X'Pert−Pro−MAD)を用いて評価した。その結果、PMMAブラシ層の厚さは50.2nmであった。
さらに、PMMAブラシのグラフト密度について評価した結果、0.21本鎖/nm2であった。
【0043】
(比較例1)
比較例1では、ラビング配向膜を有する従来の液晶表示装置を作製した。
ここで、ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板に、ポリイミド膜を形成した後、ラビング処理を施してラビング配向膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。なお、ラビング配向膜の厚さは約100nmであった。
【0044】
(配向制御性の評価)
実施例1及び2で得られた液晶表示装置の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、その偏光板の間で液晶表示装置を回転させた場合において、その液晶表示装置の回転角度と透過率との関係を調べた。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(磁場の印加方向)に一致するようにパネルを測定器にセットして測定を開始した。実施例1における液晶表示装置の結果を図3、実施例2における液晶表示装置の結果を図4に示す。
これらの図からわかるように、実施例1及び2の液晶表示装置では、90°ごとに周期的な消光が見られ、液晶がガラス基板に対して水平方向に一軸配向し、その配向状態が良好であることがわかった。
【0045】
(V−T曲線の評価)
実施例1及び2、比較例1で得られた液晶表示装置の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、電圧を変化させて液晶表示装置に印加し、透過率を測定した。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(実施例1及び2では磁場の印加方向、比較例1ではラビング方向)に一致するように配置した。結果を図5に示す。
この図からわかるように、実施例1及び2の液晶表示装置は、比較例1の液晶表示装置に比べて、V−T曲線が低電圧側にシフトしており、駆動電圧を低下させることが可能であることがわかった。
【0046】
(アンカリング能力の評価)
実施例1及び2で得られた液晶表示装置の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、最大輝度を示す電圧を15秒間印加した(常温、60Hz交流駆動)。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(磁場の印加方向)に一致するように配置した。ここで、実施例1の液晶表示装置には6.5Vの電圧を印加し、実施例2の液晶表示装置には7.5Vの電圧を印加した。その後、電圧をOFFにし、輝度の測定を5秒間隔で行った。ここで、輝度の測定は、輝度計(株式会社トプコン製BM5)を用いて行った。実施例1における液晶表示装置の結果を図6、実施例2における液晶表示装置の結果を図7に示す。
これらの図からわかるように、実施例1及び2の液晶表示装置は、電圧をOFFにした後すぐに輝度が電圧印加前の輝度に戻り、アンカリング能力が高いことがわかった。
【0047】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、ラビング処理に起因する様々な問題を防止しつつ、液晶分子の配向制御性に優れ、且つ低電圧駆動が可能な液晶表示装置及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 アレイ基板、2 対向基板、3 液晶層、4 電極、5 固定化膜、6 ポリマーブラシ、7 液晶分子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーブラシを配向膜として用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記ポリマーブラシの下地層として固定化膜が形成されており、前記ポリマーブラシが前記固定化膜と共有結合していることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記ポリマーブラシはUV硬化性であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記ポリマーブラシは共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記ポリマーブラシはブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記ポリマーブラシは液晶性を示すことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記ポリマーブラシのポリマー鎖密度は、0.1本/nm2以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
基板上にポリマーブラシを形成する工程と、
前記ポリマーブラシを形成した前記基板間に液晶を注入する工程と、
非接触配向法によって前記液晶を配向させる工程と
を含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項9】
前記非接触配向法が、磁場配向法又はテンプレート配向法であることを特徴とする請求項8に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
基板上にポリマーブラシを形成する工程と、
前記ポリマーブラシをラビング処理する工程と、
前記ラビング処理したポリマーブラシを有する前記基板間に液晶を注入する工程と
を含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−81187(P2011−81187A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233348(P2009−233348)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】