説明

液晶表示装置及びその製造方法

【課題】画像表示の立ち上がり速度の向上だけでなく、立ち下がり速度の向上を図ることができる液晶表示装置を提供する。
【解決手段】液晶表示装置は、一対の基板の対向面側に設けられた第1配向膜22及び第2配向膜32、並びに、第1配向膜22と第2配向膜32との間に配され、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含む液晶層40を有する液晶表示素子を備え、少なくとも第1配向膜22は、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物を含み、液晶分子41Aは、第1配向膜22によってプレチルトが付与されており、第2配向膜32の厚さは第1配向膜22の厚さよりも薄い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対向面に配向膜を有する一対の基板の間に液晶層が封止された液晶表示素子を備えた液晶表示装置、及び、液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビジョン受像機やノート型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置等の表示モニタとして、液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)が多く用いられている。この液晶ディスプレイは、基板間に挟持された液晶層中に含まれる液晶分子の分子配列(配向)によって様々な表示モード(方式)に分類される。表示モードとして、例えば、電圧をかけない状態で液晶分子がねじれて配向しているTN(Twisted Nematic;ねじれネマティック)モードがよく知られている。TNモードでは、液晶分子は、正の誘電率異方性、即ち、液晶分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて大きい性質を有している。このため、液晶分子は、基板面に対して平行な面内において、液晶分子の配向方位を順次回転させつつ、基板面に垂直な方向に整列させた構造となっている。
【0003】
この一方で、電圧をかけない状態で液晶分子が基板面に対して垂直に配向しているVA(Vertical Alignment)モードに対する注目が高まっている。VAモードでは、液晶分子は、負の誘電率異方性、即ち、液晶分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて小さい性質を有しており、TNモードに比べて広視野角を実現できる。
【0004】
このようなVAモードの液晶ディスプレイでは、電圧が印加されると、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子が、負の誘電率異方性により、基板に対して平行方向に倒れるように応答することによって、光を透過させる構成となっている。ところが、基板に対して垂直方向に配向した液晶分子の倒れる方向は任意であるため、電圧印加により液晶分子の配向が乱れ、よって、電圧に対する応答特性を悪化させる要因となっていた。
【0005】
そこで、電圧印加に応答して液晶分子の倒れる方向を規制する手段として、基板の対向面に所定の構造を有するポリマー層を形成し、液晶分子を基板に対して垂直な方向から特定の方向に傾けて配向させる(所謂プレチルトを付与する)技術が開発されている(例えば、特開2002−357830参照)。このような技術により、電圧印加時の液晶分子の倒れる方向を予め定めておくことができ、電圧印加に対する応答特性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−357830
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなプレチルトを付与する技術により、液晶表示装置における画像表示の立ち上がり速度の向上を図ることはできるが、電圧の印加を中断したときの応答速度の向上を図ることができない。即ち、液晶表示装置における画像表示の立ち下がり速度の向上を図ることはできない。一方、液晶表示装置における表示フレーム数の増加に対処するためには、画像表示の立ち上がり速度の向上だけでなく、立ち下がり速度の向上を図ることが必要とされる。
【0008】
従って、本開示の目的は、画像表示の立ち上がり速度の向上だけでなく、立ち下がり速度の向上を図ることができる液晶表示装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る液晶表示装置は、
一対の基板の対向面側に設けられた第1配向膜及び第2配向膜、並びに、
第1配向膜と第2配向膜との間に配され、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層、
を有する液晶表示素子を備えており、
少なくとも第1配向膜は、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物(便宜上、『配向処理後・化合物』と呼ぶ)を含み、
液晶分子は、第1配向膜によって(即ち、配向処理後・化合物によって)プレチルトが付与されており、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い。ここで、『架橋性官能基』とは、架橋構造(橋かけ構造)を形成することが可能な基を意味し、より具体的には、二量化を意味する。また、『重合性官能基』とは、2つ以上の官能基が逐次重合を行うような官能基を意味する。
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る液晶表示装置は、
一対の基板の対向面側に設けられた第1配向膜及び第2配向膜、並びに、
第1配向膜と第2配向膜との間に配され、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層、
を有する液晶表示素子を備えており、
少なくとも第1配向膜は、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物が変形した化合物(便宜上、『配向処理後・化合物』と呼ぶ)を含み、
液晶分子は、第1配向膜によって(即ち、配向処理後・化合物によって)プレチルトが付与されており、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い。ここで、『感光性官能基』とは、エネルギー線を吸収することが可能な基を意味する。また、エネルギー線として、紫外線、X線、電子線を挙げることができる。以下においても同様である。
【0011】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)は、
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物(便宜上、『配向処理前・化合物』と呼ぶ)から成る第1配向膜を形成し、一対の基板の他方に、第2配向膜を形成した後、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋又は重合させて、液晶分子にプレチルトを付与する(即ち、配向処理後・化合物によって液晶分子にプレチルトを付与する)、
工程を含み、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い。
【0012】
本開示の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)にあっては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線を照射して、あるいは又、加熱することで、高分子化合物(配向処理前・化合物)の側鎖を架橋又は重合させる形態とすることができる。
【0013】
そして、この場合、液晶分子を一対の基板の少なくとも一方の基板の表面に対して斜め方向に配列させるように、液晶層に対して電場を印加しながらエネルギー線を照射することが好ましく、更には、一対の基板は、画素電極を有する基板、及び、対向電極を有する基板から構成されており、画素電極を有する基板側からエネルギー線を照射することがより好ましい。一般に、対向電極を有する基板側にはカラーフィルタが形成されており、このカラーフィルタによってエネルギー線が吸収され、配向膜材料の架橋性官能基又は重合性官能基の反応が生じ難くなる可能性があるが故に、上述したとおり、カラーフィルタが形成されていない画素電極を有する基板側からエネルギー線を照射することが一層好ましい。画素電極を有する基板側にカラーフィルタが形成されている場合、対向電極を有する基板側からエネルギー線を照射することが好ましい。尚、基本的に、プレチルトが付与されるときの液晶分子の方位角(偏角)は、電場の強さと方向、及び、配向膜材料の分子構造によって規定され、極角(天頂角)は、電場の強さ、及び、配向膜材料の分子構造によって規定される。後述する本開示の第2の態様〜第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法においても、同様である。
【0014】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)は、
一対の基板の一方に、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物(便宜上、『配向処理前・化合物』と呼ぶ)から成る第1配向膜を形成し、一対の基板の他方に、第2配向膜を形成した後、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることで、液晶分子にプレチルトを付与する(即ち、配向処理後・化合物によって液晶分子にプレチルトを付与する)、
工程を含み、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い。
【0015】
本開示の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)にあっては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線を照射して高分子化合物(配向処理前・化合物)の側鎖を変形させる形態とすることができる。
【0016】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)は、
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基又は感光性官能基を有する高分子化合物(便宜上、『配向処理前・化合物』と呼ぶ)から成る第1配向膜を形成し、一対の基板の他方に、第2配向膜を形成した後、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することで、液晶分子にプレチルトを付与する(即ち、配向処理後・化合物によって液晶分子にプレチルトを付与する)、
工程を含み、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い。
【0017】
本開示の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法にあっては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、高分子化合物にエネルギー線として紫外線を照射する形態とすることができる。
【0018】
本開示の第1の態様に係る液晶表示装置、上記の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法、本開示の第2の態様に係る液晶表示装置、上記の好ましい形態を含む本開示の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法、あるいは、上記の好ましい形態を含む本開示の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法において、第1配向膜の厚さをt1、第2配向膜の厚さをt2としたとき、
1−t2≧10nm
好ましくは、
1−t2≧30nm
を満足することが望ましい。また、
40nm≦t2≦90nm
好ましくは、
50nm≦t2≦70nm
を満足することが望ましい。配向膜の厚さ(膜厚)は、電極上での厚さ(膜厚)である。
【0019】
また、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る液晶表示装置、本開示の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法、本開示の第2の態様に係る液晶表示装置、本開示の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法、あるいは、本開示の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法において、第1配向膜が形成された基板(第1基板)の法線と液晶分子の成す角度(第1プレチルト角:単位は度)をθ1、第2配向膜が形成された基板(第2基板)の法線と液晶分子の成す角度(第2プレチルト角:単位は度)をθ2としたとき、
θ1>θ2
好ましくは、
θ1−θ2≧0.5
より好ましくは、
θ1−θ2≧1.0
を満足することが望ましいし、
0≦θ2≦0.5
であることが望ましい。あるいは又、第1配向膜の厚さt1、第2配向膜の厚さt2のそれぞれの値を、
θ1−θ2≧0.5
より好ましくは、
θ1−θ2≧1.0
を満足し、且つ、
0≦θ2≦0.5
を満足するような値に、各種の試験を行い決定、設定することが望ましい。
【0020】
また、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る液晶表示装置、本開示の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法、本開示の第2の態様に係る液晶表示装置、本開示の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法、あるいは、本開示の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法においては、第1配向膜を構成する材料と、第2配向膜を構成する材料は同じである構成とすることが好ましい。このように、第1配向膜を構成する材料と第2配向膜を構成する材料とを同じにすることで、第1配向膜の経時変化と第2配向膜の経時変化(例えば、配向膜の物性変化に依存したリーク電流の変化)を等しくすることができ、液晶表示装置の長期信頼性の向上を図ることができる。また、液晶表示装置の製造プロセスの簡素化を図ることができる。
【0021】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様に係る液晶表示装置あるいは本開示の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本開示の第1の態様』と呼ぶ場合があるし、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第2の態様に係る液晶表示装置あるいは本開示の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本開示の第2の態様』と呼ぶ場合があるし、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本開示の第3の態様』と呼ぶ場合がある。また、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る液晶表示装置を、以下、総称して、単に、『本開示の液晶表示装置』と呼ぶ場合があるし、上記の好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本開示の液晶表示装置の製造方法』と呼ぶ場合があるし、本開示の液晶表示装置及び本開示の液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本開示』と呼ぶ場合がある。
【0022】
本開示の第1の態様、第2の態様あるいは第3の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)あるいは第1配向膜を構成する化合物(配向処理後・化合物)は、更に、式(1)で表される基を側鎖として有する化合物から成る構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本開示の第1Aの構成、本開示の第2Aの構成、本開示の第3Aの構成』と呼ぶ。
【0023】
−R1−R2−R3 (1)
ここで、R1は、炭素数1以上の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、あるいは又、R1は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタール及びヘミケータールから成る群から選択された少なくとも1種の結合基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、R2は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、環構造を構成する原子のうちの1つはR1に結合しており、R3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【0024】
あるいは又、本開示の第1の態様、第2の態様あるいは第3の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)あるいは第1配向膜を構成する化合物(配向処理後・化合物)は、式(2)で表される基を側鎖として有する化合物から成る構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本開示の第1Bの構成、本開示の第2Bの構成、本開示の第3Bの構成』と呼ぶ。尚、高分子化合物(配向処理前・化合物)あるいは第1配向膜を構成する化合物(配向処理後・化合物)は、式(2)で表される基だけでなく、上述した式(1)で表される基及び式(2)で表される基を側鎖として有する化合物から成る構成とすることもできる。
【0025】
−R11−R12−R13−R14 (2)
ここで、R11は、炭素数1以上、20以下、好ましくは、炭素数3以上、12以下の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、あるいは又、R11は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタール及びヘミケータールから成る群から選択された少なくとも1種の結合基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、R12は、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、キトサン、アクリロイル、メタクリロイル、ビニル、エポキシ及びオキセタンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基であり、R13は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、R14は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。場合によっては、式(2)を、以下の式(2’)のとおり、変形することができる。即ち、式(2)は式(2’)を包含する。
−R11−R12−R14 (2’)
【0026】
あるいは又、本開示の第1の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、第1基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される構成とすることができる。あるいは又、本開示の第2の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、第1基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される構成とすることができる。あるいは又、本開示の第3の態様において、高分子化合物にエネルギー線を照射することにより得られた化合物は、側鎖、及び、第1基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本開示の第1Cの構成、本開示の第2Cの構成、本開示の第3Cの構成』と呼ぶ。本開示の第1Cの構成、本開示の第2Cの構成、本開示の第3Cの構成にあっては、末端構造部はメソゲン基を有する形態とすることができる。尚、上述した式(1)にあっては、「R2+R3」が末端構造部に該当し、上述した式(2)にあっては、「R13+R14」が末端構造部に該当する。
【0027】
あるいは又、本開示の第1の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、第1基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本開示の第1Dの構成』と呼ぶ。更には、本開示の第1Dの構成にあっては、主鎖と架橋部とは共有結合によって結合しており、架橋部と末端構造部とは共有結合によって結合している形態とすることができる。あるいは又、本開示の第2の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、第1基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本開示の第2Dの構成』と呼ぶ。あるいは又、本開示の第3の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、第1基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本開示の第3Dの構成』と呼ぶ。
【0028】
本開示の第1Aの構成〜本開示の第1Dの構成を含む本開示の第1の態様にあっては、側鎖(より具体的には、架橋部)は光二量化感光基を有する形態とすることができる。
【0029】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本開示において、第1配向膜の表面粗さRaは1nm以下である構成とすることができる。ここで、表面粗さRaは、JIS B 0601:2001に規定されている。
【0030】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本開示において、液晶表示装置は、更に、
第2基板と対向する第1基板の対向面に形成された第1電極、及び、
第1電極に設けられた第1配向規制部、
を備えており、
第1配向膜は、第1電極、第1配向規制部及び第1基板の対向面を覆い、
第1配向規制部は、第1電極に形成された第1スリット部から成り、
第1スリット部の幅は、2μm以上10μm未満であり、
第1スリット部のピッチは、10μm乃至180μm、好ましくは30μm乃至180μm、より好ましくは60μm乃至180μmである構成とすることができる。
【0031】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本開示において、液晶表示装置は、更に、
第1基板と対向する第2基板の対向面に形成された第2電極、及び、
第2電極に設けられた第2配向規制部、
を備えており、
第2配向膜は、第2電極、第2配向規制部及び第2基板の対向面を覆い、
第2配向規制部は、第2電極に形成された第2スリット部から成り、
第2スリット部の幅は、2μm以上10μm未満であり、
第2スリット部のピッチは、10μm乃至180μm、好ましくは30μm乃至180μm、より好ましくは60μm乃至180μmである構成とすることができる。
【0032】
あるいは又、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本開示において、液晶表示装置は、更に、
第2基板と対向する第1基板の対向面に形成された第1電極、及び、
第1電極に設けられた第1配向規制部、
を備えており、
第1配向膜は、第1電極、第1配向規制部及び第1基板の対向面を覆い、
第1配向規制部は、基板に設けられた突起から成る構成とすることができる。
【0033】
あるいは又、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本開示において、液晶表示装置は、更に、
第1基板と対向する第2基板の対向面に形成された第2電極、及び、
第2電極に設けられた第2配向規制部、
を備えており、
第2配向膜は、第2電極、第2配向規制部及び第2基板の対向面を覆い、
第2配向規制部は、基板に設けられた突起から成る構成とすることができる。
【0034】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本開示において、上述したとおり、第2配向膜は、第1配向膜を構成する高分子化合物(配向処理前・化合物)から成り、あるいは又、第1配向膜と同じ組成を有する形態とすることができる。但し、本開示の第1の態様〜第3の態様において規定される高分子化合物(配向処理前・化合物)から構成される限り、第2配向膜は、第1配向膜を構成する高分子化合物(配向処理前・化合物)とは異なる高分子化合物(配向処理前・化合物)から成る構成としてもよい。
【0035】
以上に説明した好ましい構成、形態を含む本開示において、主鎖は繰り返し単位中にイミド結合を含む構成とすることができる。また、高分子化合物(配向処理後・化合物)は、液晶分子を一対の基板に対して、即ち、第1基板のみならず、第2基板に対しても、所定の方向に配列させる構造を含む形態とすることができる。更には、一対の基板は、画素電極を有する基板、及び、対向電極を有する基板から構成されている形態、即ち、第1基板を画素電極を有する基板とし、第2基板を対向電極を有する基板とする形態、あるいは又、第2基板を画素電極を有する基板とし、第1基板を対向電極を有する基板とする形態とすることができる。
【発明の効果】
【0036】
本開示の第1の態様に係る液晶表示装置にあっては、第1配向膜が、即ち、一対の配向膜のうちの少なくとも一方が、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物を含み、架橋又は重合した化合物により液晶分子にプレチルトが付与される。このため、画素電極と対向電極との間に電界が印加されると、液晶分子は、その長軸方向が基板面に対して所定の方向に応答し、良好な表示特性が確保される。その上、架橋又は重合した化合物によって液晶分子にプレチルトが付与されているため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して電極間の電界に応じた応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が早くなり、架橋又は重合した化合物を用いずにプレチルトを付与した場合と比較して、良好な表示特性が維持され易くなる。
【0037】
本開示の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法にあっては、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物を含む第1配向膜を形成した後、第1配向膜及び第2配向膜の間に、液晶層を封止する。ここで、液晶層中の液晶分子は、第1配向膜及び第2配向膜により、全体として第1配向膜及び第2配向膜表面に対して所定の方向(例えば、水平方向、垂直方向あるいは斜め方向)に配列した状態となる。次いで、電場を印加しながら、架橋性官能基又は重合性官能基を反応させることにより高分子化合物を架橋又は重合させる。これにより、架橋又は重合した化合物近傍の液晶分子に対してプレチルトを付与することが可能となる。このため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して、応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が向上する。しかも、液晶分子が配列した状態で高分子化合物を架橋又は重合させることにより、液晶層を封止する前に配向膜に対して直線偏光の光や斜め方向の光を照射しなくても、また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子に対してプレチルトを付与することができる。
【0038】
本開示の第2の態様に係る液晶表示装置にあっては、第1配向膜が、即ち、一対の配向膜のうちの少なくとも一方が、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物が変形した化合物を含み、変形した化合物により液晶分子にプレチルトが付与される。このため、画素電極と対向電極との間に電界が印加されると、液晶分子は、その長軸方向が基板面に対して所定の方向に応答し、良好な表示特性が確保され、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して電極間の電界に応じた応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が早くなり、変形した化合物を用いずにプレチルトを付与した場合と比較して、良好な表示特性が維持され易くなる。
【0039】
本開示の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法にあっては、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物を含む第1配向膜を形成した後、第1配向膜及び第2配向膜の間に、液晶層を封止する。ここで、液晶層中の液晶分子は、第1配向膜及び第2配向膜により、全体として第1配向膜及び第2配向膜表面に対して所定の方向(例えば、水平方向、垂直方向あるいは斜め方向)に配列した状態となる。次いで、電場を印加しながら、高分子化合物を変形させる。これにより、変形した化合物近傍の液晶分子に対してプレチルトを付与することが可能となる。このため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して、応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が向上する。しかも、液晶分子が配列した状態で高分子化合物を変形させることにより、液晶層を封止する前に配向膜に対して直線偏光の光や斜め方向の光を照射しなくても、また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子に対してプレチルトを付与することができる。
【0040】
本開示の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法にあっては、高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することで、液晶分子にプレチルトを付与する。即ち、液晶分子が配列した状態で高分子化合物の側鎖を架橋、重合あるいは変形させることにより、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して、応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が向上する。しかも、液晶層を封止する前に配向膜に対して直線偏光の光や斜め方向の光を照射しなくても、また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子に対してプレチルトを付与することができる。
【0041】
しかも、本開示にあっては、液晶分子は第2配向膜によっても配向されるが、第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い。従って、第2配向膜が、その近傍に位置する液晶分子を取り込みあるいは吸着する量は、第1配向膜が、その近傍に位置する液晶分子を取り込みあるいは吸着する量よりも少ない。それ故、第2配向膜によって付与されるプレチルト角が結果として小さくなり、第2配向膜の近傍に位置する液晶分子は、電圧の印加を中断したとき、基板に対して、より一層、早く垂直方向に配向することが可能となる。従って、画像表示の立ち下がり速度の向上を図ることができる。また、液晶分子は、第2配向膜によって、垂直配向され、あるいは又、小さなプレチルト角にて配向されるので、黒表示の際の光の透過量を低減することができ、コントラストを向上させることができる。更に、第1配向膜の膜厚及び第2配向膜の膜厚を非対称化することにより、イオン性不純物等により引き起こされるフリッカ、保持率、残留DCの最適化も可能となる。即ち、配向膜表面に吸着されると考えられるイオン性の不純物量を第1配向膜及び第2配向膜に対して膜厚を非対称とすることができ、結果として信頼性の改善も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本開示の液晶表示装置の模式的な一部断面図である。
【図2】図2は、本開示の液晶表示装置の変形例の模式的な一部断面図である。
【図3】図3の(A)及び(B)は、1つの画素を上方から眺めたときの第1電極及び第1スリット部の模式図である。
【図4】図4は、液晶分子のプレチルトを説明するための模式図である。
【図5】図5は、図1に示した液晶表示装置の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】図6は、図1に示した液晶表示装置の製造方法を説明するための配向膜中における高分子化合物(配向処理前・化合物)の状態を表す模式図である。
【図7】図7は、図1に示した液晶表示装置の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図8】図8は、図7に続く工程を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図9】図9は、図8に続く工程を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図10】図10は、配向膜中における高分子化合物(配向処理後・化合物)の状態を表す模式図である。
【図11】図11は、図1に示した液晶表示装置の回路構成図である。
【図12】図12は、オーダーパラメータを説明するための断面模式図である。
【図13】図13は、架橋した高分子化合物と液晶分子との関係を説明する概念図である。
【図14】図14は、変形した高分子化合物と液晶分子との関係を説明する概念図である。
【図15】図15は、図1に示した本開示の液晶表示装置の変形例の模式的な一部断面図である。
【図16】図16は、図2に示した本開示の液晶表示装置の変形例の模式的な一部断面図である。
【図17】図17の(A)は、1つの画素を上方から眺めたときの第1電極及び第1スリット部、並びに、第2電極及び第2スリット部の模式図であり、図17の(B)は、1つの画素を上方から眺めたときの第2電極及び第2スリット部の模式図である。
【図18】図18の(A)は、1つの画素を上方から眺めたときの第1電極及び第1スリット部、並びに、第2電極及び第2スリット部の変形例の模式図であり、図18の(B)は、1つの画素を上方から眺めたときの第2電極及び第2スリット部の変形例の模式図である。
【図19】図19の(A)は、1つの画素を上方から眺めたときの第1電極及び第1スリット部、並びに、第2電極及び第2スリット部の別の変形例の模式図であり、図19の(B)は、1つの画素を上方から眺めたときの第2電極及び第2スリット部の別の変形例の模式図である。
【図20】図20の(A)及び(B)は、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)の状態を模式的に示す図である。
【図21】図21の(A)及び(B)は、実施例1及び比較例1の液晶表示装置において、応答時間(画像表示の立ち上がり時間Ton及び立ち下がり時間Toff)を測定した結果を示すグラフである。
【図22】図22は、配向膜の膜厚とプレチルト角θの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して、発明の実施の形態、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は発明の実施の形態、実施例に限定されるものではなく、発明の実施の形態、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の液晶表示装置における共通の構成、構造に関する説明
2.発明の実施の形態に基づく、本開示の液晶表示装置及びその製造方法の説明
3.実施例に基づく、本開示の液晶表示装置及びその製造方法の説明、その他
【0044】
[本開示の液晶表示装置(液晶表示素子)における共通の構成、構造に関する説明]
本開示の液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)の模式的な一部断面図を、図1に示す。この液晶表示装置は、複数の画素10(10A,10B,10C・・・)を有している。そして、この液晶表示装置(液晶表示素子)においては、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)基板20とCF(Color Filter;カラーフィルタ)基板30との間に、配向膜22,32を介して液晶分子41を含む液晶層40が設けられている。この液晶表示装置(液晶表示素子)は、所謂透過型であり、表示モードは垂直配向(VA)モードである。図1では、駆動電圧が印加されていない非駆動状態を表している。尚、画素10は、実際には、例えば、赤色の画像を表示する副画素、緑色の画像を表示する副画素、青色の画像を表示する副画素等の副画素から構成されている。
【0045】
ここで、TFT基板20が第1基板に相当し、CF基板30が第2基板に相当する。また、第1基板(TFT基板)20に設けられた画素電極20B及び配向膜22が、第1電極及び第1配向膜に相当し、第2基板(CF基板)30に設けられた対向電極30B及び配向膜32が、第2電極及び第2配向膜に相当する。
【0046】
即ち、この液晶表示装置は、
一対の基板20,30の対向面側に設けられた第1配向膜22及び第2配向膜32、並びに、
第1配向膜22と第2配向膜32との間に配され、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含む液晶層40、
を有する液晶表示素子を備えている。
【0047】
そして、少なくとも第1配向膜(具体的には、第1配向膜22及び第2配向膜32)は、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物を含み、
液晶分子は、第1配向膜22によってプレチルトが付与されており、更には、第2配向膜32によってもプレチルトが付与されており、
第2配向膜32の厚さt2は、第1配向膜22の厚さt1よりも薄い。尚、(t1,t2)の関係は、上述したとおりである。
【0048】
具体的には、第1配向膜22は、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物(配向処理後・化合物)を含む。また、第2配向膜32も、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物(配向処理後・化合物)を含む。ここで、第1配向膜22を構成するための高分子化合物と第2配向膜32を構成するための高分子化合物とは、好ましくは、同じ高分子化合物であるし、第1配向膜22を構成する配向処理後・化合物と第2配向膜32を構成する配向処理後・化合物とは、同じ配向処理後・化合物である。そして、液晶分子には、上述したとおり、第1配向膜22によって(配向処理後・化合物によって)プレチルトが付与され(第1プレチルト角θ1)、且つ、液晶分子は、第2配向膜32によって(配向処理後・化合物によって)プレチルトが付与される(第2プレチルト角θ2)。尚、以下の説明において、「第2プレチルト角θ2」との表現には0度が含まれる。
【0049】
より具体的には、この液晶表示装置は、
第1基板(TFT基板)20及び第2基板(CF基板)30、
第2基板30と対向する第1基板20の対向面に形成された第1電極(画素電極)20B、
第1電極(画素電極)20Bに設けられた第1配向規制部21、
第1電極(画素電極)20B、第1配向規制部21及び第1基板(TFT基板)20の対向面を覆う第1配向膜22、
第1基板(TFT基板)20と対向する第2基板(CF基板)30の対向面に形成された第2電極(対向電極)30B、
第2電極(対向電極)30B及び第2基板(CF基板)30の対向面を覆う第2配向膜32、並びに、
第1配向膜22及び第2配向膜32の間に設けられ、液晶分子41を含む液晶層40、
を有する画素10が、複数、配列されて成る。
【0050】
ガラス基板から成るTFT基板20には、ガラス基板から成るCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極20Bが配置されている。更に、複数の画素電極20Bをそれぞれ駆動するゲート・ソース・ドレイン等を備えたTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線及びソース線等(図示せず)が設けられている。画素電極20Bは、画素分離部によって電気的に分離された画素毎に設けられ、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明性を有する材料により構成されている。画素電極20Bには、各画素内において、例えば、ストライプ状やV字状のパターンを有する第1スリット部21(電極の形成されない部分)が設けられている。尚、1つの画素(副画素)を上方から眺めたときの第1電極(画素電極)20B及び第1スリット部21の配置図を、図3の(A)あるいは図3の(B)に示す。これにより、駆動電圧が印加されると、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素内に配向方向の異なる領域が形成されるため(配向分割)、視野角特性が向上する。即ち、第1スリット部21は、良好な表示特性を確保するために、液晶層40中の液晶分子41全体の配向を規制するための第1配向規制部であり、ここでは、この第1スリット部21によって駆動電圧印加時の液晶分子41の配向方向を規制している。上述したとおり、基本的に、プレチルトが付与されたときの液晶分子の方位角は、電場の強さと方向、及び、配向膜材料の分子構造によって規定され、電場の方向は配向規制部によって決定される。
【0051】
CF基板30には、TFT基板20との対向面に、有効表示領域のほぼ全面に亙って、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)のストライプ状フィルタにより構成されたカラーフィルタ(図示せず)と、対向電極30Bとが配置されている。対向電極30Bは、画素電極20Bと同様に、例えばITO等の透明性を有する材料により構成されている。対向電極30Bは、パターニングされていない、所謂ベタ電極である。
【0052】
第1配向膜22は、TFT基板20の液晶層40側の表面に画素電極20B及び第1スリット部21を覆うように設けられている。第2配向膜32は、CF基板30の液晶層40側の表面に対向電極30Bを覆うように設けられている。第1配向膜22及び第2配向膜32は、液晶分子41の配向を規制するものであり、ここでは、基板から離れて位置する液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配向させると共に、基板近傍の液晶分子41(41A,41B)に対してプレチルトを付与する機能を有している。尚、具体的には、第1スリット部21の幅は5μmであり、第1スリット部21のピッチは113μmである。
【0053】
図11は、図1に示した液晶表示装置の回路構成を表している。
【0054】
図11に示すように、液晶表示装置は、表示領域60内に設けられた複数の画素10を有する液晶表示素子を含んで構成されている。この液晶表示装置では、表示領域60の周囲には、ソースドライバ61及びゲートドライバ62と、ソースドライバ61及びゲートドライバ62を制御するタイミングコントローラ63と、ソースドライバ61及びゲートドライバ62に電力を供給する電源回路64とが設けられている。
【0055】
表示領域60は、画像が表示される領域であり、複数の画素10がマトリックス状に配列されることにより画像を表示可能に構成された領域である。尚、図11では、複数の画素10を含む表示領域60を示しているほか、4つの画素10に対応する領域を別途拡大して示している。
【0056】
表示領域60では、行方向に複数のソース線71が配列されていると共に、列方向に複数のゲート線72が配列されており、ソース線71及びゲート線72が互いに交差する位置に画素10がそれぞれ配置されている。各画素10は、画素電極20B及び液晶層40と共に、トランジスタ121及びキャパシタ122を含んで構成されている。各トランジスタ121では、ソース電極がソース線71に接続され、ゲート電極がゲート線72に接続され、ドレイン電極がキャパシタ122及び画素電極20Bに接続されている。各ソース線71は、ソースドライバ61に接続されており、ソースドライバ61から画像信号が供給される。各ゲート線72は、ゲートドライバ62に接続されており、ゲートドライバ62から走査信号が順次供給される。
【0057】
ソースドライバ61及びゲートドライバ62は、複数の画素10の中から特定の画素10を選択する。
【0058】
タイミングコントローラ63は、例えば、画像信号(例えば、赤、緑、青に対応するRGBの各映像信号)と、ソースドライバ61の動作を制御するためのソースドライバ制御信号とを、ソースドライバ61に出力する。また、タイミングコントローラ63は、例えば、ゲートドライバ62の動作を制御するためのゲートドライバ制御信号をゲートドライバ62に出力する。ソースドライバ制御信号として、例えば、水平同期信号、スタートパルス信号あるいはソースドライバ用のクロック信号等が挙げられる。ゲートドライバ制御信号として、例えば、垂直同期信号や、ゲートドライバ用のクロック信号等が挙げられる。
【0059】
この液晶表示装置では、以下の要領で第1電極(画素電極)20Bと第2電極(対向電極)30Bとの間に駆動電圧を印加することにより、画像が表示される。具体的には、ソースドライバ61が、タイミングコントローラ63からのソースドライバ制御信号の入力により、同じくタイミングコントローラ63から入力された画像信号に基づいて所定のソース線71に個別の画像信号を供給する。これと共に、ゲートドライバ62が、タイミングコントローラ63からのゲートドライバ制御信号の入力により所定のタイミングでゲート線72に走査信号を順次供給する。これにより、画像信号が供給されたソース線71と走査信号が供給されたゲート線72との交差部に位置する画素10が選択され、画素10に駆動電圧が印加される。
【0060】
以下、発明の実施の形態(『実施の形態』と略称する)及び実施例に基づき、本開示を説明する。
【0061】
[実施の形態1]
実施の形態1は、本開示の第1の態様に係るVAモードの液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)、並びに、本開示の第1の態様、第3の態様に係る液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)の製造方法に関する。実施の形態1において、第1配向膜及び第2配向膜(配向膜22,32)は、側鎖に架橋構造を有する高分子化合物(配向処理後・化合物)の1種あるいは2種以上を含んで構成されている。そして、液晶分子は、架橋又は重合した化合物によってプレチルトが付与される。ここで、配向処理後・化合物は、主鎖及び側鎖を有する高分子化合物(配向処理前・化合物)の1種あるいは2種以上を含む状態で配向膜22,32を形成した後、液晶層40を設け、次いで、高分子化合物を架橋又は重合させることで、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、より具体的には、電場又は磁場を印加しながら側鎖に含まれる架橋性官能基又は重合性官能基を反応させることにより生成される。そして、配向処理後・化合物は、液晶分子を一対の基板(具体的には、TFT基板20及びCF基板30)に対して所定の方向(具体的には、斜め方向及び例えば垂直方向)に配列させる構造を含んでいる。このように、高分子化合物を架橋又は重合させて、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、配向処理後・化合物が配向膜22,32中に含まれることにより、配向膜22,32近傍の液晶分子41に対してプレチルト及び例えば垂直配向を付与できるため、応答速度(画像表示の立ち上がり速度及び画像表示の立ち下がり速度)が早くなり、表示特性が向上する。
【0062】
ここで、第2配向膜32の厚さt2は、第1配向膜22の厚さt1よりも薄い。従って、第2配向膜32が、その近傍に位置する液晶分子を取り込みあるいは吸着する量は、第1配向膜22が、その近傍に位置する液晶分子を取り込みあるいは吸着する量よりも少ない。それ故、第2配向膜32の近傍に位置する液晶分子は、電圧の印加を中断したとき、基板に対して、より一層、早く垂直方向に配向することが可能となる。従って、画像表示の立ち下がり速度の向上を図ることができる。また、液晶分子は、第2配向膜32によって、垂直配向され、あるいは又、小さなプレチルト角にて配向されるので、黒表示の際の光の透過量を低減することができ、コントラストを一層向上させることができる。
【0063】
配向処理前・化合物は、主鎖として耐熱性が高い構造を含むことが好ましい。これにより、液晶表示装置(液晶表示素子)では、高温環境下に曝されても、配向膜22,32中の配向処理後・化合物が液晶分子41に対する配向規制能を維持するため、応答特性と共にコントラスト等の表示特性が良好に維持され、信頼性が確保される。ここで、主鎖は、繰り返し単位中にイミド結合を含むことが好ましい。主鎖中にイミド結合を含む配向処理前・化合物として、例えば、式(3)で表されるポリイミド構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(3)に示すポリイミド構造を含む高分子化合物は、式(3)に示すポリイミド構造のうちの1種から構成されていてもよいし、複数種がランダムに連結して含まれていてもよいし、式(3)に示す構造の他に、他の構造を含んでいてもよい。
【0064】

ここで、R1は4価の有機基であり、R2は2価の有機基であり、n1は1以上の整数である。
【0065】
式(3)におけるR1及びR2は、炭素を含んで構成された4価あるいは2価の基であれば任意であるが、R1及びR2のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基又は重合性官能基を含んでいることが好ましい。配向処理後・化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。
【0066】
また、配向処理前・化合物では、側鎖は主鎖に複数結合しており、複数の側鎖のうちの少なくとも1つが架橋性官能基又は重合性官能基を含んでいればよい。即ち、配向処理前・化合物は、架橋性を有する側鎖の他に、架橋性を示さない側鎖を含んでいてもよい。架橋性官能基又は重合性官能基を含む側鎖は、1種であってもよいし、複数種であってもよい。架橋性官能基又は重合性官能基は、液晶層40を形成した後に架橋反応可能な官能基であれば任意であり、光反応によって架橋構造を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造を形成する基であってもよいが、中でも、光反応によって架橋構造を形成する、光反応性の架橋性官能基又は重合性官能基(感光性を有する感光基)が好ましい。液晶分子41の配向を所定の方向に規制し易く、応答特性が向上すると共に良好な表示特性を有する液晶表示装置(液晶表示素子)の製造を容易にするからである。
【0067】
光反応性の架橋性官能基(感光性を有する感光基であり、例えば、光二量化感光基)として、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む基が挙げられる。これらのうち、カルコン、シンナメートあるいはシンナモイルの構造を含む基として、例えば、式(41)で表される基が挙げられる。式(41)に示す基を含む側鎖を有する配向処理前・化合物が架橋すると、例えば、式(42)に示す構造が形成される。即ち、式(41)に示す基を含む高分子化合物から生成された配向処理後・化合物は、シクロブタン骨格を有する式(42)に示す構造を含む。尚、例えば、マレイミドといった光反応性の架橋性官能基は、場合によっては、光二量化反応だけでなく、重合反応も示す。従って、架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物といった表現としている。
【0068】

ここで、R3は芳香族環を含む2価の基であり、R4は1又は2以上の環構造を含む1価の基であり、R5は水素原子、又は、アルキル基あるいはその誘導体である。
【0069】
式(41)におけるR3は、ベンゼン環等の芳香族環を含む2価の基であれば任意であり、芳香族環の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合あるいは炭化水素基を含んでいてもよい。また、式(41)におけるR4は、1又は2以上の環構造を含む1価の基であれば任意であり、環構造の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、炭化水素基あるいはハロゲン原子等を含んでいてもよい。R4が有する環構造として、骨格を構成する元素として炭素を含む環であれば任意であり、その環構造として、例えば、芳香族環、複素環あるいは脂肪族環、又は、それらの連結あるいは縮合した環構造等が挙げられる。式(41)におけるR5は、水素原子、又は、アルキル基あるいはその誘導体であれば任意である。ここで、「誘導体」とは、アルキル基が有する水素原子の一部あるいは全部がハロゲン原子等の置換基により置換された基のことを云う。また、R5として導入されるアルキル基の炭素数は任意である。R5として、水素原子あるいはメチル基が好ましい。良好な架橋反応性が得られるからである。
【0070】
式(42)におけるR3同士は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。このことは、式(41)におけるR4同士及びR5同士についても同様である。式(42)におけるR3、R4及びR5として、例えば、上記した式(41)におけるR3、R4及びR5と同様のものが挙げられる。
【0071】
式(41)に示した基として、例えば、式(41−1)〜式(41−33)で表される基が挙げられる。但し、式(41)に示した構造を有する基であれば、式(41−1)〜式(41−33)に示す基に限定されない。
【0072】

【0073】

【0074】

【0075】

【0076】
配向処理前・化合物は、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配向させるための構造(以下、『垂直配向誘起構造部』と呼ぶ)を含んでいることが好ましい。配向膜22,32が配向処理後・化合物とは別に垂直配向誘起構造部を有する化合物(所謂、通常の垂直配向剤)を含まなくても、液晶分子41全体の配向規制が可能になるからである。その上、垂直配向誘起構造部を有する化合物を別に含む場合よりも、液晶層40に対する配向規制機能をより均一に発揮可能な配向膜22,32が形成され易いからである。垂直配向誘起構造部は、配向処理前・化合物においては、主鎖に含まれていてもよいし、側鎖に含まれていてもよいし、双方に含まれていてもよい。また、配向処理前・化合物が上記した式(3)に示したポリイミド構造を含む場合、R2として垂直配向誘起構造部を含む構造(繰り返し単位)と、R2として架橋性官能基又は重合性官能基を含む構造(繰り返し単位)との2種の構造を含んでいることが好ましい。容易に入手可能であるからである。尚、垂直配向誘起構造部は、配向処理前・化合物に含まれていれば、配向処理後・化合物においても含まれる。
【0077】
垂直配向誘起構造部として、例えば、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のハロゲン化アルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基、炭素数10以上のハロゲン化アルコキシ基あるいは環構造を含む有機基等が挙げられる。具体的には、垂直配向誘起構造部を含む構造として、例えば、式(5−1)〜式(5−6)で表される構造等が挙げられる。
【0078】

ここで、Y1は炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。また、Y2〜Y15は水素原子、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基であり、Y2及びY3のうちの少なくとも一方、Y4〜Y6のうちの少なくとも1つ、Y7及びY8のうちの少なくとも一方、Y9〜Y12のうちの少なくとも1つ、及び、Y13〜Y15のうちの少なくとも1つは、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。但し、Y11及びY12は結合して環構造を形成してもよい。
【0079】
また、垂直配向誘起構造部としての環構造を含む1価の有機基として、例えば、式(6−1)〜式(6−23)で表される基等が挙げられる。垂直配向誘起構造部としての環構造を含む2価の有機基として、例えば、式(7−1)〜式(7−7)で表される基等が挙げられる。
【0080】

ここで、a1〜a3は0以上、21以下の整数である。
【0081】

【0082】

ここで、a1は0以上、21以下の整数である。
【0083】

【0084】
尚、垂直配向誘起構造部は、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配列させるように機能する構造を含んでいれば、上記した基に限定されない。
【0085】
また、本開示の第1Aの構成、第2Aの構成(後述する実施の形態2を参照)あるいは第3Aの構成に則って表現すれば、架橋前の高分子化合物(配向処理前・化合物)は、架橋性官能基又は重合性官能基の他に、式(1)で表される基を側鎖として有する化合物から成る。式(1)に示した基は液晶分子41に対して沿うように動くことができるため、配向処理前・化合物が架橋する際に、式(1)に示した基が液晶分子41の配向方向に沿った状態で架橋性官能基又は重合性官能基と一緒に固定される。そして、この固定された式(1)に示した基により、液晶分子41の配向を所定の方向により規制し易くなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0086】
−R1−R2−R3 (1)
ここで、R1は、炭素数1以上の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、あるいは又、R1は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタール及びヘミケータールから成る群から選択された少なくとも1種の結合基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合している。R2は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、環構造を構成する原子のうちの1つはR1に結合している。R3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【0087】
式(1)中のR1は、R2及びR3を主鎖に固定すると共に、長いR1を選択すれば液晶分子に対して大きなプレチルトを付与するための、また、短いR1を選択すればプレチルト角を容易に一定にするための、スペーサ部分として機能するための部位であり、R1として、例えば、アルキレン基等が挙げられる。このアルキレン基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R1は、カルボニル基又はカーボネート基を有していてもよい。R1の炭素数は、6以上であることがより好ましい。式(1)に示した基が液晶分子41と相互作用するため、液晶分子41に対して沿い易くなるからである。この炭素数は、R1の長さが液晶分子41の末端鎖の長さとほぼ同等となるように決定されることが好ましい。
【0088】
式(1)中のR2は、一般的なネマティック液晶分子に含まれる環構造(コア部位)に沿う部分である。R2として、例えば、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、ピリミジン−2,5−ジイル基、1,6−ナフタレン基、ステロイド骨格を有する2価の基又はそれらの誘導体等のように、液晶分子に含まれる環構造と同様の基あるいは骨格が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、上記した一連の基に1又は2以上の置換基が導入された基である。
【0089】
式(1)中のR3は、液晶分子の末端鎖に沿う部分であり、R3として、例えば、アルキル基又はハロゲン化アルキル基等が挙げられる。但し、ハロゲン化アルキル基では、アルキル基のうちの少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されていればよく、そのハロゲン原子の種類は任意である。アルキル基又はハロゲン化アルキル基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R3は、カルボニル基又はカーボネート基を有していてもよい。R3の炭素数は、R1と同様の理由により、6以上であることがより好ましい。
【0090】
具体的には、式(1)に示した基として、例えば、式(1−1)〜式(1−12)で表される1価の基等が挙げられる。
【0091】

【0092】

【0093】
尚、式(1)に示した基は、液晶分子41に対して沿うように動くことができれば、上記した基に限定されない。
【0094】
あるいは又、本開示の第1Bの構成、第2Bの構成(後述する実施の形態2を参照)あるいは第3Bの構成に則って表現すれば、架橋前の高分子化合物(配向処理前・化合物)は、式(2)で表される基を側鎖として有する化合物から成る。架橋する部位の他に、液晶分子41に沿う部位とチルト角を規定する部位とを有するため、液晶分子41に対して沿う側鎖の部位が液晶分子41により沿った状態で固定可能である。そして、これにより、液晶分子41の配向を所定の方向により規制し易くなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0095】
−R11−R12−R13−R14 (2)
ここで、R11は、炭素数1以上、20以下、好ましくは、炭素数3以上、12以下の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、あるいは又、R11は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタール及びヘミケータールから成る群から選択された少なくとも1種の結合基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合している。R12は、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、キトサン、アクリロイル、メタクリロイル、ビニル、エポキシ及びオキセタンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基である。R13は、複数の環構造を含む2価の有機基である。R14は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【0096】
式(2)中のR11は、配向処理前・化合物においてはチルト角を規定する部位であり、配向処理前・化合物においては可撓性を有することが好ましい。R11として、例えば、式(1)中のR1について説明した基が挙げられる。式(2)に示した基では、R11を軸としてR12〜R14が動き易いため、R13及びR14が液晶分子41に対して沿い易くなっている。R11の炭素数は、6以上、10以下であることがより好ましい。
【0097】
式(2)中のR12は、架橋性官能基又は重合性官能基を有する部位である。この架橋性官能基又は重合性官能基は、上記したように、光反応によって架橋構造を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造を形成する基であってもよい。具体的には、R12として、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、キトサン、アクリロイル、メタクリロイル、ビニル、エポキシ及びオキセタンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基を挙げることができる。
【0098】
式(2)中のR13は、液晶分子41のコア部位に対して沿うことができる部位であり、R13として、例えば、式(1)中のR2について説明した基等が挙げられる。
【0099】
式(2)中のR14は、液晶分子41の末端鎖に沿う部位であり、R14として、例えば、式(1)中のR3について説明した基等が挙げられる。
【0100】
具体的には、式(2)に示した基として、例えば、式(2−1)〜式(2−11)で表される1価の基等が挙げられる。
【0101】

ここで、nは3以上、20以下の整数である。
【0102】

【0103】
尚、式(2)に示した基は、上記した4つの部位(R11〜R14)を有していれば、上記した基に限定されない。
【0104】
あるいは又、本開示の第1Cの構成に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される。また、本開示の第2Cの構成(後述する実施の形態2を参照)に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される。また、本開示の第3Cの構成に則って表現すれば、高分子化合物にエネルギー線を照射することにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される。
【0105】
ここで、本開示の第1Cの構成において、側鎖の一部が架橋した架橋部は、式(2)におけるR12(但し、架橋後)が相当する。また、末端構造部は、式(2)におけるR13及びR14が相当する。ここで、配向処理後・化合物にあっては、例えば、主鎖から延びた2つの側鎖における架橋部が相互に架橋し、一方の架橋部から延びた末端構造部と、他方の架橋部から延びた末端構造部との間に、恰も、液晶分子の一部が挟まれた状態となり、しかも、末端構造部は、基板に対して所定の角度を成した状態で固定されるが故に、液晶分子はプレチルトが付与される。尚、このような状態を、図13の概念図に示す。
【0106】
あるいは又、本開示の第1Dの構成に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている。ここで、側鎖は光二量化感光基を有する形態とすることができる。また、主鎖と架橋部とは共有結合によって結合しており、架橋部と末端構造部とは共有結合によって結合している形態とすることができる。また、本開示の第2Dの構成(後述する実施の形態2を参照)に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている。また、本開示の第3Dの構成に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている。
【0107】
ここで、本開示の第1Dの構成にあっては、架橋性官能基又は重合性官能基(感光性官能基)である光二量化感光基として、前述したとおり、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む基を挙げることができる。重合性官能基として、例えば、アクリロイル、メタクリロイル 、ビニル、エポキシ、オキセタンのうちのいずれか1種の構造を含む基を挙げることができる。また、末端構造部を構成する剛直なメソゲン基は、側鎖として液晶性を発現するものでも、液晶性を発現しないものでもよく、具体的な構造として、ステロイド誘導体、コレステロール誘導体、ビフェニル、トリフェニル、ナフタレン等を挙げることができる。更には、末端構造部として、式(2)におけるR13及びR14を挙げることができる。
【0108】
また、配向膜22,32は、上記した配向処理後・化合物の他に、他の垂直配向剤を含んでいてもよい。他の垂直配向剤として、垂直配向誘起構造部を有するポリイミドや、垂直配向誘起構造部を有するポリシロキサン等が挙げられる。
【0109】
液晶層40は、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含んでいる。液晶分子41は、例えば、互いに直交する長軸及び短軸をそれぞれ中心軸として回転対称な形状をなし、負の誘電率異方性を有している。
【0110】
液晶分子41は、第1配向膜22との界面近傍において、第1配向膜22に保持された液晶分子41Aと、第2配向膜32との界面近傍において第2配向膜32に保持された液晶分子41Bと、それら以外の液晶分子41Cとに分類することができる。液晶分子41Cは、液晶層40の厚み方向における中間領域に位置し、駆動電圧がオフの状態において液晶分子41Cの長軸方向(ダイレクタ)が第1基板20及び第2基板30に対してほぼ垂直になるように配列されている。また、液晶分子41Bは、第2配向膜32の近傍に位置し、駆動電圧がオフの状態において液晶分子41Bの長軸方向(ダイレクタ)が第2基板30に対して第2プレチルト角θ2にて配向されている。更には、液晶分子41Aは、第1配向膜22の近傍に位置し、駆動電圧がオフの状態において液晶分子41Aの長軸方向(ダイレクタ)が第1基板20に対して第1プレチルト角θ1(>θ2)を成して傾いて配列されている。
【0111】
ここで、駆動電圧がオンになると、液晶分子41Aのダイレクタが第1基板20及び第2基板30に対して平行になるように傾いて配向する。このような挙動は、液晶分子41Aにおいて、長軸方向の誘電率が短軸方向よりも小さいという性質を有することに起因している。液晶分子41B,41Cも同様の性質を有することから、駆動電圧のオン・オフの状態変化に応じて、基本的には、液晶分子41Aと同様の挙動を示す。但し、駆動電圧がオフの状態において、液晶分子41Aは第1配向膜22によって第1プレチルト角θ1が付与され、そのダイレクタが第1基板20及び第2基板30の法線方向から傾斜した姿勢となる。一方、液晶分子41Bは第2配向膜32によって第2プレチルト角θ2が付与されるが、そのダイレクタは、例えば、第2基板30の法線方向と平行であり、あるいは又、第1基板20及び第2基板30の法線方向から傾斜した姿勢となる。尚、ここで、「保持される」とは、配向膜22,32と液晶分子41A,41Bとが固着せずに、液晶分子41の配向を規制していることを表している。また、「プレチルト角θ(θ1,θ2)」とは、図4に示すように、第1基板20及び第2基板30の表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A,41B)のダイレクタDの傾斜角度を指す。
【0112】
次に、上記の液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法について、図5に示すフローチャートと共に、図6に示す配向膜22,32中の状態を説明するための模式図、並びに、図7、図8及び図9に示す液晶表示装置等の模式的な一部断面図を参照して説明するが、この製造方法は、
一対の基板20,30の一方(具体的には、基板20)に、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜22を形成し、一対の基板20,30の他方(具体的には、基板30)に、第2配向膜32を形成した後、
一対の基板20,30を、第1配向膜22と第2配向膜32とが対向するように配置し、第1配向膜22と第2配向膜32との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含む液晶層40を封止し、次いで、
高分子化合物を架橋又は重合させて、液晶分子にプレチルトを付与する、
工程を含む。あるいは又、
一対の基板20,30の一方(具体的には、基板20)に、側鎖として架橋性官能基又は感光性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜22を形成し、一対の基板20,30の他方(具体的には、基板30)に、第2配向膜32を形成した後、
一対の基板20,30を、第1配向膜22と第2配向膜32とが対向するように配置し、第1配向膜22と第2配向膜32との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含む液晶層40を封止し、次いで、
高分子化合物にエネルギー線を照射することで、液晶分子にプレチルトを付与する、
工程を含む。尚、図7、図8及び図9では、簡略化のため、一画素分についてのみ示す。
【0113】
最初に、第1基板(TFT基板)20の表面に第1配向膜22を形成すると共に、第2基板(CF基板)30の表面に第2配向膜32を形成する(ステップS101)。
【0114】
具体的には、先ず、第1基板20の表面に、所定の第1スリット部21を有する画素電極20Bを例えばマトリクス状に設けることによりTFT基板20を作製する。また、カラーフィルタが形成された第2基板30のカラーフィルタ上に対向電極30Bを設けることによりCF基板30を作製する。
【0115】
一方、例えば、配向処理前・化合物あるいは配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体と、溶剤と、必要に応じて垂直配向剤とを混合することにより液状の第1配向膜用及び第2配向膜用の配向膜材料を調製する。
【0116】
配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体として、例えば、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が式(3)に示したポリイミド構造を含む場合、架橋性官能基又は重合性官能基を有するポリアミック酸が挙げられる。高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸は、例えば、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて合成される。ここで用いるジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方が、架橋性官能基又は重合性官能基を有している。ジアミン化合物として、例えば、式(A−1)〜式(A−21)で表される架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物が挙げられ、テトラカルボン酸二無水物として、式(a−1)〜式(a−10)で表される架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物が挙げられる。尚、式(A−9)〜式(A−21)で表される化合物は、本開示の第1Cの構成における架橋した高分子化合物の架橋部及び末端構造部を構成する化合物である。あるいは又、本開示の第1Cの構成における架橋した高分子化合物の架橋部及び末端構造部を構成する化合物として、式(F−1)〜式(F−22)で表される化合物を挙げることもできる。尚、式(F−1)〜式(F−18)で表される化合物にあっては、式(F−1)〜式(F−3)、式(F−7)〜式(F−9)及び式(F−13)〜式(F−15)で表される化合物の末端構造部に沿って液晶分子にはプレチルトが付与されると考えられ、一方、式(F−4)〜式(F−6)、式(F−10)〜式(F−12)及び式(F−16)〜式(F−18)で表される化合物の末端構造部に挟まれて液晶分子にはプレチルトが付与されると考えられる。また、式(F−19)〜式(F−22)で表される化合物の末端構造部に沿って液晶分子にはプレチルトが付与され、あるいは又、式(F−19)〜式(F−22)で表される化合物の末端構造部に挟まれて液晶分子にはプレチルトが付与されると推定される。
【0117】

【0118】

ここで、X1〜X4は単結合あるいは2価の有機基である。
【0119】

ここで、X5〜X7は単結合あるいは2価の有機基である。
【0120】

【0121】

【0122】

【0123】

【0124】

【0125】

【0126】

【0127】

【0128】
また、配向処理前・化合物が垂直配向誘起構造部を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、上記の架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として式(B−1)〜式(B−36)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物や、テトラカルボン酸二無水物として式(b−1)〜式(b−3)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物を用いてもよい。
【0129】

【0130】

【0131】

ここで、a4〜a6は0以上、21以下の整数である。
【0132】

ここで、a4は0以上、21以下の整数である。
【0133】

ここで、a4は0以上、21以下の整数である。
【0134】

【0135】

【0136】
また、配向処理前・化合物が架橋性官能基又は重合性官能基と一緒に式(1)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、上記の架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として、式(C−1)〜式(C−24)で表される液晶分子41に対して沿うことができる基を有する化合物を用いてもよい。
【0137】

【0138】

【0139】

【0140】

【0141】
また、配向処理前・化合物が式(2)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、上記の架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として、式(D−1)〜式(D−11)で表される液晶分子41に対して沿うことができる基を有する化合物を用いてもよい。
【0142】

ここで、nは3以上、20以下の整数である。
【0143】

【0144】
更に、配向処理前・化合物が式(3)におけるR2として垂直配向誘起構造部を含む構造と、架橋性官能基又は重合性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、例えば、次のように、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を選択する。即ち、式(A−1)〜式(A−21)に示した架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(B−1)〜式(B−36)、式(b−1)〜式(b−3)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。尚、式(E−23)におけるR1及びR2は、同一又は異なるアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子であり、ハロゲン原子の種類は任意である。
【0145】

【0146】

【0147】

ここで、R1,R2はアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子である。
【0148】
また、配向処理前・化合物が式(3)におけるR2として式(1)に示した基を含む構造と架橋性官能基又は重合性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、例えば、次のように、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を選択する。即ち、式(A−1)〜式(A−21)に示した架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(C−1)〜式(C−24)に示した化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)に示したテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0149】
また、配向処理前・化合物が式(3)におけるR2として式(2)に示した基を含む構造と架橋性官能基又は重合性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、例えば、次のように、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を選択する。即ち、式(A−1)〜式(A−21)に示した架橋性官能基又は重合性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(D−1)〜式(D−11)に示した化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0150】
配向膜材料中における配向処理前・化合物あるいは配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体の含有量を、1重量%以上、30重量%以下とすることが好ましく、3重量%以上、10重量%以下とすることがより好ましい。また、配向膜材料には、必要に応じて、光重合開始剤等を混合してもよい。
【0151】
そして、調製した配向膜材料を、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、画素電極20B及び第1スリット部21、並びに、対向電極30Bを覆うように塗布あるいは印刷した後、加熱処理をする。加熱処理の温度は80゜C以上が好ましく、150゜C以上、200゜C以下とすることがより好ましい。また、加熱処理は、加熱温度を段階的に変化させてもよい。これにより、塗布あるいは印刷された配向膜材料に含まれる溶剤が蒸発し、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物(配向処理前・化合物)を含む配向膜22,32が形成される。その後、必要に応じて、ラビング等の処理を施してもよい。
【0152】
ここで、配向膜22,32中における配向処理前・化合物は、図6に示す状態となっていると考えられる。即ち、配向処理前・化合物は、主鎖Mc(Mc1〜Mc3)と、主鎖Mcに側鎖として導入された架橋性官能基A又は重合性官能基Aとを含んで構成され、主鎖Mc1〜Mc3が連結していない状態で存在している。この状態における架橋性官能基A又は重合性官能基Aは、熱運動によりランダムな方向を向いている。
【0153】
次に、TFT基板20とCF基板30とを第1配向膜22と第2配向膜32とが対向するように配置し、第1配向膜22と第2配向膜32との間に、液晶分子41を含む液晶層40を封止する(ステップS102)。具体的には、TFT基板20あるいはCF基板30のどちらか一方の、配向膜22,32の形成されている面に対して、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物、例えば、プラスチックビーズ等を散布すると共に、例えば、スクリーン印刷法によりエポキシ接着剤等を用いてシール部を印刷する。その後、図7に示すように、TFT基板20とCF基板30とを、配向膜22,32が対向するように、スペーサ突起物及びシール部を介して貼り合わせ、液晶分子41を含む液晶材料を注入する。次いで、加熱するなどしてシール部の硬化を行うことにより、液晶材料をTFT基板20とCF基板30との間に封止する。図7は、第1配向膜22及び第2配向膜32の間に封止された液晶層40の断面構成を表している。
【0154】
次に、図8に示すように、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、電圧印加手段を用いて、電圧V1を印加する(ステップS103)。電圧V1は、例えば、3ボルト〜30ボルトである。これにより、第1基板20及び第2基板30の表面に対して所定の角度をなす方向の電場(電界)が生じ、液晶分子41Aが、第1基板20の垂直方向から所定方向に傾いて配向される。また、液晶分子41Bが、第2基板30の垂直方向と例えば平行な方向に配向され、あるいは又、第2基板30の垂直方向から所定方向に傾いて配向される。即ち、このときの液晶分子41の方位角(偏角)は、電場の強さと方向、及び、配向膜材料の分子構造によって規定され、極角(天頂角)は、電場の強さ、及び、配向膜材料の分子構造によって規定される。そして、液晶分子41の傾斜角と、後述する工程で、第1配向膜22との界面近傍において第1配向膜22に保持された液晶分子41A及び第2配向膜32との界面近傍において第2配向膜32に保持された液晶分子41Bに付与される第1プレチルト角θ1、第2プレチルト角θ2は、第1配向膜22と第2配向膜32の膜厚の違いに起因して、
θ1>θ2
となる。そして、電圧V1の値を適宜調節することにより、液晶分子41A,41Bの第1プレチルト角θ1、第2プレチルト角θ2の値を制御することが可能である。
【0155】
更に、図9に示すように、電圧V1を印加した状態のまま、エネルギー線(具体的には紫外線UV)を、例えば、TFT基板20の外側から配向膜22,32に対して照射する。即ち、液晶分子41Aを基板20の表面に対して斜め方向に配列させるように、液晶層に対して電場又は磁場を印加しながら紫外線を照射する。これによって、配向膜22,32中の配向処理前・化合物が有する架橋性官能基又は重合性官能基を反応させ、配向処理前・化合物を架橋させる(ステップS104)。こうして、配向処理後・化合物により液晶分子41の応答すべき方向が記憶され、配向膜22近傍の液晶分子41Aにプレチルトが付与され、第2配向膜32近傍の液晶分子41Bは、垂直配向され、あるいは又、小さなプレチルト角にて配向される。そして、その結果、配向膜22,32中において配向処理後・化合物が形成され、非駆動状態において、液晶層40における第1配向膜22との界面近傍に位置する液晶分子41Aに第1プレチルト角θ1が付与され、第2配向膜32との界面近傍に位置する液晶分子41Bに第2プレチルト角θ2が付与される。紫外線UVとして、波長295nmから波長365nm程度程度の光成分を多く含む紫外線が好ましい。これよりも短波長域の光成分を多く含む紫外線を用いると、液晶分子41が光分解し、劣化する虞があるからである。尚、ここでは、紫外線UVをTFT基板20の外側から照射したが、CF基板30の外側から照射してもよく、TFT基板20及びCF基板30の双方の基板の外側から照射してもよい。この場合、透過率が高い方の基板側から紫外線UVを照射することが好ましい。また、CF基板30の外側から紫外線UVを照射した場合、紫外線UVの波長域に依っては、カラーフィルタに吸収されて架橋反応し難くなる虞がある。このため、TFT基板20の外側(画素電極を有する基板側)から照射することが好ましい。
【0156】
ここで、配向膜22,32中の配向処理後・化合物は、図10に示す状態となっている。即ち、配向処理前・化合物の主鎖Mcに導入された架橋性官能基A又は重合性官能基Aの向きが、液晶分子41の配向方向に従って変化し、物理的な距離が近い架橋性官能基A又は重合性官能基A同士が反応して、連結部Crが形成される。このように生成された配向処理後・化合物によって配向膜22,32が液晶分子41A,41Bに対して第1プレチルト角θ1、第2プレチルト角θ2を付与するものと考えられる。尚、連結部Crは、配向処理前・化合物間で形成されてもよいし、配向処理前・化合物内で形成されてもよい。即ち、図10に示すように、連結部Crは、例えば、主鎖Mc1を有する配向処理前・化合物の架橋性官能基A又は重合性官能基Aと、主鎖Mc2を有する配向処理前・化合物の架橋性官能基A又は重合性官能基Aとの間で反応して形成されてもよい。また、連結部Crは、例えば、主鎖Mc3を有する高分子化合物のように、同じ主鎖Mc3に導入された架橋性官能基A又は重合性官能基A同士が反応して形成されてもよい。尚、重合性官能基の場合、重合性官能基Aが複数個結合する。
【0157】
以上の工程により、図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。
【0158】
液晶表示装置(液晶表示素子)の動作にあっては、選択された画素10では、駆動電圧が印加されると、液晶層40に含まれる液晶分子41の配向状態が、画素電極20Bと対向電極30Bとの間の電位差に応じて変化する。具体的には、液晶層40では、図1に示した駆動電圧の印加前の状態から、駆動電圧が印加されることにより、配向膜22,32の近傍に位置する液晶分子41A,41Bが自らの傾き方向に倒れ、且つ、その動作がその他の液晶分子41Cに伝播する。その結果、液晶分子41は、TFT基板20及びCF基板30に対してほぼ水平(平行)となる姿勢をとるように応答する。これにより、液晶層40の光学的特性が変化し、液晶表示素子への入射光が変調された出射光となり、この出射光に基づいて階調表現されることで、画像が表示される。
【0159】
ここで、プレチルト処理が全く施されていない液晶表示素子及びそれを備えた液晶表示装置では、液晶分子の配向を規制するためのスリット部等の配向規制部が基板に設けられていても、駆動電圧が印加されると、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子は、そのダイレクタが基板の面内方向において任意の方位を向くように倒れる。このように駆動電圧に応答した液晶分子では、各液晶分子のダイレクタの方位がぶれた状態となり、全体としての配向に乱れが生じる。これにより、応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が遅くなり、応答特性が劣化し、その結果、表示特性を悪化させるという問題がある。また、初期の駆動電圧を表示状態の駆動電圧よりも高く設定して駆動(オーバードライブ駆動)させると、初期駆動電圧印加時において、応答した液晶分子と、殆ど応答していない液晶分子とが存在し、それらの間でダイレクタの傾きに大きな差が生じる。その後に表示状態の駆動電圧が印加されると、初期駆動電圧印加時に応答した液晶分子は、その動作が他の液晶分子に対して殆ど伝播しないうちに、表示状態の駆動電圧に応じたダイレクタの傾きとなり、この傾きが他の液晶分子に伝播する。その結果、画素全体として、初期駆動電圧印加時に表示状態の輝度に達するが、その後、輝度が低下し、再度、表示状態の輝度に達する。即ち、オーバードライブ駆動すれば、オーバードライブ駆動しない場合よりも見かけの応答速度は早くなるが、十分な表示品位が得られ難いという問題がある。尚、これらの問題は、IPSモードやFFSモードの液晶表示素子では生じ難く、VAモードの液晶表示素子において特有の問題と考えられる。
【0160】
これに対して、実施の形態1の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法では、上記した第1配向膜22、第2配向膜32が液晶分子41A,41Bに対して所定の第1プレチルト角θ1、第2プレチルト角θ2を付与する。これにより、プレチルト処理が全く施されていない場合の問題が生じ難くなり、駆動電圧に対する応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が大幅に向上し、オーバードライブ駆動時における表示品位も向上する。その上、TFT基板20には、液晶分子41の配向を規制するための配向規制部として第1スリット部21が設けられているので、視野角特性等の表示特性が確保されるため、良好な表示特性を維持した状態で応答特性が向上する。しかも、第2配向膜32は第1配向膜22よりも薄い。従って、画像表示の立ち上がり速度だけでなく、立ち下がり速度の向上も図ることができる。また、液晶分子は第2配向膜32によって第2プレチルト角θ2とされているので、黒表示の際の光の透過量を低減することができ、コントラストを一層向上させることができる。
【0161】
また、従来の液晶表示装置の製造方法(光配向技術)では、配向膜は、基板面上に設けられた所定の高分子材料を含む前駆体膜に対して直線偏光の光や基板面に対する斜め方向の光(以下、『斜め光』と呼ぶ)を照射して形成され、これによりプレチルト処理が施される。このため、配向膜を形成する際に、直線偏光の平行光を斜めから照射する装置といった大がかりな光照射装置が必要とされるという問題がある。また、より広い視野角を実現するためのマルチドメインを有する画素の形成には、マスクが必要とされる上、製造工程が複雑になるという問題もある。特に、斜め光を用いて配向膜を形成する場合、基板上にスペーサ等の構造物あるいは凹凸があると、構造物等の陰になり、斜め光が届かない領域が生じ、この領域において液晶分子に対する所望の配向規制が難しくなる。この場合、例えば、画素内にマルチドメインを設けるためにフォトマスクを用いて斜め光を照射するには、光の回り込みを考慮した画素設計が必要となる。即ち、斜め光を用いて配向膜を形成する場合、高精細な画素形成が難しいという問題もある。
【0162】
更に、従来の光配向技術の中でも、高分子材料として架橋性高分子化合物を用いる場合、前駆体膜中において架橋性高分子化合物に含まれる架橋性官能基又は重合性官能基は、熱運動によりランダムな方位(方向)を向いているため、架橋性官能基又は重合性官能基同士の物理的距離が近づく確率が低くなる。その上、ランダム光(非偏光)を照射した場合、架橋性官能基又は重合性官能基同士の物理的距離が近づくことにより反応するが、直線偏光の光を照射して反応する架橋性官能基又は重合性官能基は、偏光方向と反応部位の方向とが所定の方向に揃う必要がある。また、斜め光は、垂直光と比較して、照射面積が広がる分だけ、単位面積当たりの照射量が低下する。即ち、直線偏光の光あるいは斜め光に反応する架橋性官能基又は重合性官能基の割合は、ランダム光(非偏光)を基板面に対して垂直方向から照射した場合と比較して低くなる。よって、形成された配向膜中における架橋密度(架橋度合い)が低くなり易い。
【0163】
これに対して、実施の形態1では、配向処理前・化合物を含む配向膜22,32を形成した後、第1配向膜22と第2配向膜32の間に液晶層40を封止する。次いで、液晶層40に電圧を印加することにより、液晶分子41が所定の配向をとると共に、液晶分子41によって基板あるいは電極に対する側鎖の末端構造部の方向が規定されながら、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を架橋又は重合させる。これにより、液晶分子41A,41Bに第1プレチルト角θ1、第2プレチルト角θ2を付与する第1配向膜22、第2配向膜32を形成することができる。即ち、実施の形態1の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法によれば、大がかりな装置を用いなくても、容易に応答特性を向上させることができる。その上、配向処理前・化合物を架橋又は重合させる際に、紫外線の照射方向に依存することなく液晶分子41に対して第1プレチルト角θ1を付与することができるため、高精細な画素を形成することができる。更に、配向処理前・化合物において側鎖の末端構造部の向きが整った状態で配向処理後・化合物が生成されるため、配向処理後・化合物の架橋度合いは、上記の従来の製造方法による配向膜よりも高くなっていると考えられる。よって、長時間駆動しても、駆動中に架橋構造が新たに形成され難いため、液晶分子41A,41Bのプレチルト角θ1,θ2が製造時の状態に維持され、信頼性を向上させることもできる。
【0164】
この場合において、実施の形態1では、配向膜22,32の間に液晶層40を封止した後、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を架橋又は重合させているため、液晶表示素子の駆動時の透過率を連続的に増加するように変化させることができる。
【0165】
液晶層40を封止した後に配向処理前・化合物の架橋反応によりプレチルト処理が施される実施の形態1では、第1配向膜22近傍における液晶分子41の配向を規制するための第1スリット部21によって、駆動時の液晶分子41の配向方向に応じて、プレチルトが付与される。よって、図12に示すように、液晶分子41のプレチルトの方向が揃い易いため、オーダーパラメータが大きくなる(1に近づく)。これにより、液晶表示素子の駆動時において、液晶分子41が均一な挙動を示すため、透過率が連続的に増加する。
【0166】
この場合、特に、配向処理前・化合物が架橋性官能基又は重合性官能基と一緒に式(1)に示した基を有しており、又は、配向処理前・化合物が架橋性官能基又は重合性官能基として式(2)に示した基を有していれば、第1配向膜22、第2配向膜32にプレチルト角θ1,θ2をより付与し易くなる。このため、応答速度(画像表示の立ち上がり速度)をより向上させることができる。
【0167】
実施の形態1では、主にポリイミド構造を含む主鎖を有する配向処理前・化合物を含有する配向膜22,32を用いた場合について説明したが、配向処理前・化合物が有する主鎖は、ポリイミド構造を含むものに限定されない。例えば、主鎖が、ポリシロキサン構造、ポリアクリレート構造、ポリメタクリレート構造、マレインイミド重合体構造、スチレン重合体構造、スチレン/マレインイミド重合体構造、ポリサッカライド構造又はポリビニルアルコール構造等を含んでいてもよく、中でも、ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前・化合物が好ましい。上記したポリイミド構造を含む高分子化合物と同様の効果が得られるからである。ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前・化合物として、例えば、式(9)で表されるポリシラン構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(9)におけるR10及びR11は、炭素を含んで構成された1価の基であれば任意であるが、R10及びR11のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基又は重合性官能基、及び、式(1)から成る側鎖を含んでいることが好ましい。配向処理後・化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。この場合における架橋性官能基又は重合性官能基として、上記した式(41)に示した基等が挙げられる。
【0168】

ここで、R10及びR11は1価の有機基であり、m1は1以上の整数である。
【0169】
更に、実施の形態1では、第1スリット部21を設けることにより、配向分割させて視野角特性を向上させるようにしたが、それに限定されるものではない。例えば、第1スリット部21の代わりに、画素電極20B上に配向規制部としての突起を設けてもよい。このように突起を設けることによっても、第1スリット部21を設けた場合と同様の効果を得ることができる。
【0170】
尚、図1に示す例にあっては、第1基板20であるTFT基板を覆う第1配向膜22が、配向処理後・化合物を含み、液晶層40のうちの第1基板(TFT基板)20の側に位置する液晶分子41Aに第1プレチルト角θ1を付与する構成としたが、これに限定されない。即ち、図2に示すように、第1基板20をCF基板とし、第2基板30をTFT基板とすることもでき、この場合においても、図1に示した液晶表示装置と同様の効果を得ることができる。但し、TFT基板では、駆動時には種々の横電場が生じていることから、第2基板30をTFT基板とする図2の液晶表示装置の変形例を採用することが望ましい。これにより、横電場による液晶分子41の配向乱れを、効果的に低減することができる。
【0171】
次に、他の実施の形態について説明するが、実施の形態1と共通の構成要素については、同一の符号を付して説明は省略する。また、実施の形態1と同様の作用及び効果についても、適宜省略する。更には、実施の形態1において説明した以上の各種の技術的事項は、適宜、以下の実施の形態にも適用される。
【0172】
[実施の形態2]
実施の形態2は、本開示の第2の態様に係る液晶表示装置、並びに、本開示の第2の態様及び第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法に関する。
【0173】
実施の形態1にあっては、配向処理後・化合物は、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する配向処理前・化合物における架橋性官能基又は重合性官能基が架橋又は重合することで得られる。一方、実施の形態2にあっては、配向処理後・化合物は、エネルギー線の照射による変形を伴う感光性官能基を側鎖として有する配向処理前・化合物に基づき得られる。
【0174】
ここで、実施の形態2においても、配向膜22,32は、側鎖に架橋構造を有する高分子化合物(配向処理後・化合物)の1種あるいは2種以上、若しくは、架橋性官能基あるいは重合性官能基と共に、式(1)に示す液晶に沿う末端基を有する側鎖をそれぞれ1種あるいは2種以上を含んで構成されている。そして、液晶分子は、変形した化合物によってプレチルトが付与される。ここで、配向処理後・化合物は、主鎖及び側鎖を有する高分子化合物(配向処理前・化合物)の1種あるいは2種以上を含む状態で配向膜22,32を形成した後、液晶層40を設け、次いで、高分子化合物を変形させることで、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、より具体的には、電場又は磁場を印加しながら側鎖に含まれる感光性官能基を変形させることにより生成される。尚、このような状態を、図14の概念図に示す。尚、図14において、「UV」が付された矢印の方向、「電圧」が付された矢印の方向は、紫外線が照射される方向、加えられる電界の方向を示すものではない。そして、配向処理後・化合物は、液晶分子を一対の基板の一方(TFT基板20あるいはCF基板30)に対して所定の方向(具体的には、斜め方向)に配列させる構造を含んでいる。このように、高分子化合物を変形させて、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、配向処理後・化合物が配向膜22,32中に含まれることにより、配向膜22,32近傍の液晶分子41に対してプレチルトを付与できるため、応答速度(画像表示の立ち上がり速度)が早くなり、表示特性が向上する。
【0175】
感光性官能基として、アゾ基を有するアゾベンゼン系化合物、イミンとアルジミンとを骨格に有する化合物(便宜上、『アルジミンベンゼン』と呼ぶ)、スチレン骨格を有する化合物(便宜上、『スチルベン』と呼ぶ)を例示することができる。これらの化合物は、エネルギー線(例えば、紫外線)に応答して変形する結果、即ち、トランス状態からシス状態へ遷移する結果、液晶分子にプレチルトを付与することができる。
【0176】


【0177】
式(AZ−0)で表されるアゾベンゼン系化合物における「X」として、具体的には、例えば、以下の式(AZ−1)〜式(AZ−9)を例示することができる。
【0178】

【0179】


ここで、R,R”のいずれか一方は、ジアミンを含むベンゼン環と、直接、若しくは、エーテル、エステル等を介して結合し、他方は末端基となり、R,R’,R”は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体であり、末端基は、その間に、式(1)のR2、式(2)のR13を含んでもよい。このようにすることで、チルトの付与をより容易にすることができる。R”はジアミンを含むベンゼン環と、直接、若しくは、エーテル、エステル等を介して直接結合する。
【0180】
実施の形態2の液晶表示装置及びその製造方法は、エネルギー線(具体的には、紫外線)の照射による変形を伴う感光性官能基を有する配向処理前・化合物を用いることを除き、基本的、実質的には、実施の形態1において説明した液晶表示装置及びその製造方法と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0181】
実施例1は、本開示の第1の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法、並びに、本開示の第3の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法に関する。実施例1にあっては、以下の手順により、後述する図15に示す液晶表示装置(液晶表示素子)を作製した。
【0182】
先ず、TFT基板20及びCF基板30を準備した。TFT基板20として、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリットパターン(第1スリット部21の幅及びピッチは、それぞれ、5μm及び65μmであり、第1スリット部21が形成された第1電極20Bの部分の幅は60μm、第1電極20Bと第1電極20Bとの間の隙間は5μm)を有するITOから成る画素電極20Bが形成された基板を用いた。また、CF基板30として、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、スリットパターン(第2スリット部31の幅及びピッチは、それぞれ、5μm及び65μmであり、第2スリット部31が形成された第3電極30Bの部分の幅は60μm、第2電極30Bと第2電極30Bとの間の隙間は5μm)を有するITOから成る対向電極30Bが形成された基板を用いた。この画素電極20B及び対向電極30Bに形成されたスリットパターンによって、TFT基板20とCF基板30との間に斜め電界が加わる。続いて、TFT基板20の上に3.5μmのスペーサ突起物を形成した。尚、第1スリット部21及び第2スリット部31のスリットパターンとして、図18の(A)及び(B)に示すスリットパターンを用いた。
【0183】
一方、第1配向膜及び第2配向膜のための配向膜材料を調製した。この場合、例えば、先ず、ジアミン化合物である、式(A−6)に示した架橋性官能基を有する化合物と、式(B−4)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物と、式(G−1)で表される化合物とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させた。次いで、この溶液を60゜Cで6時間反応させた後、反応後の溶液に対して、大過剰の純水を注いで反応生成物を沈殿させた。その後、沈殿した固形物を分離した後、純水で洗浄し、減圧下、40゜Cで15時間乾燥させ、これにより、配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体であるポリアミック酸が合成された。最後に、得られたポリアミック酸3.0グラムをNMPに溶解させることにより、固形分濃度3重量%の溶液とした後、0.2μmのフィルタで濾過した。こうして、配向膜22,32を形成するための配向膜材料を得た。
【0184】

【0185】
次いで、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、調製した配向膜材料(表1参照)をスピンコーターを用いて塗布した後、塗布膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。その後、TFT基板20及びCF基板30を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した。これにより、画素電極20B上における厚さがt1)(nm)の第1配向膜22を形成した。また、対向電極30B上における第2配向膜32の厚さがt2(nm)のCF基板30を作製した。
【0186】
[表1]

【0187】
次に、CF基板30上の画素部周縁に、粒径3.5μmのシリカ粒子を含む紫外線硬化型樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製)から成る液晶材料を滴下注入した。その後、画素電極20Bのライン部分の中央と、対向電極30Bの第2スリット部31とが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シール部を硬化させた。次いで、120゜Cのオーブンで1時間加熱し、シール部を完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止された液晶セルを備えた各種の液晶表示装置を完成させることができた。尚、以下に、実施例及び比較例の液晶表示装置における第1配向膜22及び第2配向膜32の膜厚を、以下の表2に示す。
【0188】
[表2]
第1配向膜(t1) 第2配向膜(t2
実施例1A 90 55
実施例1B 90 75
比較例1A 90 90
比較例1B 75 75
比較例1C 55 55
【0189】
その後、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧10ボルト及び20ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を反応させた。これにより、TFT基板20及びCF基板30に、配向処理後・化合物を含む配向膜22,32を形成した。以上により、TFT基板20及びCF基板30側の液晶分子41A,41Bが種々のプレチルト角をなす液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた(図15参照)。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0190】
これらの配向膜材料を用いた液晶表示装置(液晶表示素子)について、応答時間(画像表示の立ち上がり時間Ton、及び、立ち下がり時間Toff)、並びに、プレチルト角θ1,θ2を測定した。その結果を表3及び図21の(A)、(B)に示す。更には、配向膜の膜厚とプレチルト角θの関係を図22に示す。尚、比較例1Cの立ち上がり時間Tonの値が大き過ぎたため、図21の(A)には示していない。また、図21の(A)において、実施例1Aと実施例1Bの値は重なっている。更には、図21の(B)において、実施例1Aと比較例1Cの値は重なっているし、実施例1Bと比較例1Bの値は重なっている。
【0191】
応答時間を測定する際には、測定装置としてLCD5200(大塚電子株式会社製)を用いて、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、駆動電圧(7.5ボルト)を印加し、輝度10%からその駆動電圧に応じた階調の90%の輝度となるまでの時間(画像表示の立ち上がり時間Ton)、及び、輝度90%からその駆動電圧に応じた階調の10%の輝度となるまでの時間(画像表示の立ち下がり時間Toff)を測定した。また、液晶分子41のプレチルト角θを調べる際には、公知の方法(T.J.Scheffer等,J.Appl.Phys.,vol.19,2013頁,1980年に記載されている方法)に準拠し、He−Neレーザ光を用いた結晶回転法により測定した。尚、プレチルト角θは、上述し、図4に示したように、ガラス基板20A,30Aの表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A,41B)のダイレクタDの傾斜角度である。また、配向膜の膜厚は、作製されたTFT基板20及びCF基板30において、触針式膜厚計(ケーエルエー・テンコール株式会社製)を用いて測定したが、段差計の他にもエリプソメータ等の膜厚測定装置によって測定することもできる。
【0192】
[表3]

【0193】
図22から、配向膜の膜厚とプレチルト角θとの間には一定の関係があることが判る。即ち、配向膜の膜厚が55nmのとき、プレチルト角θは0度であり、垂直配向となる。また、配向膜の膜厚が90nmのとき、プレチルト角θは1.5度前後となる。
【0194】
また、実施例1Aと比較例1Cとを比較すると、実施例1Aの方が格段に立ち上がり時間Tonの向上が認められるが、これは、実施例1Aには、0度ではない第1プレチルト角θ1が付与されているためである。一方、実施例1A、比較例1C共に、第2プレチルト角θ2=0度であり、立ち下がり時間Toffに差は認められない。
【0195】
同様に、実施例1Bと比較例1Bとを比較すると、実施例1Bの方が格段に立ち上がり時間Tonの向上が認められるが、これは、実施例1Bには、大きな値の第1プレチルト角θ1が付与されているためである。一方、実施例1B、比較例1B共に、第2プレチルト角θ2は同じ値であり、立ち下がり時間Toffに差は認められない。
【0196】
次に、実施例1Aと比較例1Aとを比較すると、実施例1Aの方が立ち下がり時間Toffの向上が認められるが、これは、実施例1Aには、0度の第2プレチルト角θ2が付与されているためである。同様に、実施例1Bと比較例1Bをと比較すると、同じ値の第2プレチルト角θ2が付与されているので、立ち下がり時間Toffに差は認められない。
【0197】
また、実施例1Aと実施例1Bとを比較すると、実施例1Aの方が小さな値の第2プレチルト角θ2が付与されているので、立ち下がり時間Toffは、実施例1Aの方が一層短い。一方、実施例1A、実施例1B共に同じ値の第1プレチルト角θ1が付与されているので、立ち上がり時間Tonに差は認められない。
【0198】
以上に説明したように、実施例1あるいは後述する実施例2にあっては、液晶層40を設けた状態で、第1配向膜22がその近傍の液晶分子41Aに対して第1プレチルト角θ1を付与するように、また、第2配向膜32がその近傍の液晶分子41Bに対して第2プレチルト角θ2を付与するように、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を架橋又は重合させる。これにより、応答速度(画像表示の立ち上がり速度及び立ち下がり速度)を大幅に向上させることができる。
【0199】
しかも、後述するように、重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置していた。云い換えれば、液晶層40における液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内にあった。即ち、重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にはなかった。それ故、一対の電極20B,30Bに電圧を印加したとき、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)が解けるのに時間が不要であり、応答特性の一層の改善が図ることができた。
【実施例2】
【0200】
実施例2は、本開示の第2の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法、並びに、本開示の第3の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法に関する。実施例2にあっては、液晶層を封止した後、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることで、液晶分子にプレチルトを付与する。具体的には、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、紫外線を照射して高分子化合物(配向処理前・化合物)の側鎖を変形させる。実施例2にあっては、感光性官能基を有する配向処理前・化合物/配向処理後・化合物を用いた。具体的には、以下の式(H−1)及び(H−2)に示すアゾベンゼン系化合物及びスチレン骨格を有する化合物を、感光性官能基を有する配向処理前・化合物として用いて、実施例1において説明した、図15に示したと同様の構成、構造を有する液晶表示装置を作製し、応答特性を調べた。
【0201】

【0202】
実施例2にあっては、実質的に実施例1と同様にして、表4に示す配向膜材料2A〜配向膜材料2Dを得た。そして、実施例1と同様にして、画素電極20B及び対向電極30B上における厚さが90nm及び55nmの配向膜22,32を形成した。その後、実施例1と同様に、CF基板30上の画素部周縁に、粒径3.5μmのシリカ粒子を含む紫外線硬化型樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製)から成る液晶材料を滴下注入した。次いで、画素電極20Bのライン部分の中央と、対向電極30Bの第2スリット部31とが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シール部を硬化させた。次いで、120゜Cのオーブンで1時間加熱し、シール部を完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルを完成させることができた。
【0203】
[表4]

【0204】
その後、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧20ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を変形させた。これにより、TFT基板20及びCF基板30に、配向処理後・化合物(変形した高分子化合物)を含む配向膜22,32を形成した。以上により図15に示す液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0205】
これらの配向膜材料2A〜配向膜材料2Dを用いた液晶表示装置(液晶表示素子)について、応答時間を測定したところ、実施例1と同様の結果を得ることができた。
【0206】
以上、好ましい実施の形態及び実施例を挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、実施の形態及び実施例ではVAモードの液晶表示装置(液晶表示素子)について説明したが、本開示は必ずしもこれに限定されず、ECBモード(水平配向でポジ液晶のモード;ツイスト無し)、IPS(In Plane Switching )モード、FFS(Fringe Field Switching)モードあるいはOCB(Optically Compensated Bend)モード等の、他の表示モードにも適用可能である。この場合においても同様の効果が得られる。但し、本開示では、プレチルト処理が施されていないものと比較すると、VAモードにおいて、IPSモードやFFSモードよりも、特に高い応答特性の改善効果を発揮することができる。
【0207】
また、実施の形態及び実施例では、専ら透過型の液晶表示装置(液晶表示素子)について説明したが、本開示では必ずしも透過型に限られず、例えば、反射型としてもよい。反射型とした場合には、画素電極がアルミニウム等の光反射性を有する電極材料により構成される。
【0208】
以上に説明した液晶表示装置にあっては、第1基板側にのみ配向規制部を設けたが、第1基板に第1配向規制部(第1スリット部)を設け、第2基板に第2配向規制部(第2スリット部)を設けてもよい。このような液晶表示装置の一例として、以下に説明する液晶表示装置を挙げることができる。即ち、
第1基板及び第2基板、
第2基板と対向する第1基板の対向面に形成された第1電極、
第1電極に設けられた第1配向規制部、
第1電極、第1配向規制部及び第1基板の対向面を覆う第1配向膜、
第1基板と対向する第2基板の対向面に形成された第2電極、
第2電極に設けられた第2配向規制部、
第2電極、第2配向規制部及び第2基板の対向面を覆う第2配向膜、並びに、
第1配向膜及び第2配向膜の間に設けられ、液晶分子を含む液晶層、
を有する画素が、複数、配列されて成る液晶表示装置であって、
各画素において、第1電極の縁部と第1配向規制部とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極の縁部と第2配向規制部とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域の中心領域において、液晶層における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置しており、
液晶分子は、第1配向膜によってプレチルトが付与される構成とすることができる。ここで、第2基板の法線方向から重複領域の中心領域を眺めたとき、第2基板の法線方向に沿って重複領域の中心領域を占める液晶分子群(より具体的には、第1基板から第2基板までの微小な柱状領域を占める液晶分子群)の長軸は、略、同一仮想垂直面内に位置している。
【0209】
尚、第2配向規制部は、第2電極に形成された第2スリット部から成り、
第2スリット部の幅は、2μm以上10μm未満であり、
第2スリット部のピッチは、10μm乃至180μm、好ましくは30μm乃至180μm、より好ましくは60μm乃至180μmである構成とすることができる。
【0210】
ここで、『重複領域の中心領域』とは、重複領域の中心と一致する中心を有し、重複領域と相似の形状であって、重複領域の面積の25%の面積を有する領域を意味する。また、『液晶層における液晶分子群の長軸は、略、一仮想平面内に位置する』とは、仮想平面と液晶分子群の長軸との成す角度が±5度以内であることを意味する。云い換えれば、液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内であることを意味する。更には、画素が複数の副画素から構成される場合、画素を副画素と読み替えればよい。また、仮想平面と液晶分子群の長軸との成す角度、あるいは又、液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキの測定方法として、全反射減衰振動法(全反射減衰法とも呼ばれる)あるいは位相差測定法を挙げることができる。ここで、全反射減衰振動法とは、試料表面の吸収スペクトルを測定する方法であり、高屈折率媒質(プリズム)に試料を密着させ、プリズムから僅かに浸み出し、反射する全反射光を測定する。そして、このサンプルの方位を回転させることで、100nm付近(液晶/配向膜)の分子の吸収の情報(配向方向)を求める方法である。また、位相差測定法は、RETS100(大塚電子株式会社製)を用いて、液晶セルを所望の角度だけ傾けた状態での位相差を測定し、プレチルトが付与された状態での理想の配向状態での位相差を予め算出しておき、フィッティングをかけることでプレチルトを算出する方法である。また、このサンプルをサンプル面内で回転させることで、プレチルトの付与された方位角を求めることができる。
【0211】
このような構造を有する液晶表示装置の模式的な一部断面図を、図15及び図16に示す。尚、図15及び図16に示す液晶表示装置は、図1及び図2に示した液晶表示装置の変形例である。
【0212】
ガラス基板から成るTFT基板20には、ガラス基板から成るCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極20Bが配置されている。更に、複数の画素電極20Bをそれぞれ駆動するゲート・ソース・ドレイン等を備えたTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線及びソース線等(図示せず)が設けられている。画素電極20Bは、画素分離部52によって電気的に分離された画素毎に設けられ、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明性を有する材料により構成されている。画素電極20Bには、各画素内において、例えば、ストライプ状やV字状のパターンを有する第1スリット部21(電極の形成されない部分)が設けられている。これにより、駆動電圧が印加されると、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素内に配向方向の異なる領域が形成されるため(配向分割)、視野角特性が向上する。即ち、第1スリット部21は、良好な表示特性を確保するために、液晶層40中の液晶分子41全体の配向を規制するための第1配向規制部であり、ここでは、この第1スリット部21によって駆動電圧印加時の液晶分子41の配向方向を規制している。上述したとおり、基本的に、プレチルトが付与されたときの液晶分子の方位角は、電場の強さと方向、及び、配向膜材料の分子構造によって規定され、電場の方向は配向規制部によって決定される。
【0213】
CF基板30には、TFT基板20との対向面に、有効表示領域のほぼ全面に亙って、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)のストライプ状フィルタにより構成されたカラーフィルタ(図示せず)と、対向電極30Bとが配置されている。対向電極30Bは、画素電極20Bと同様に、例えばITO等の透明性を有する材料により構成されている。対向電極30Bには、各画素内において、例えば、ストライプ状やV字状のパターンを有する第2スリット部31(電極の形成されない部分)が設けられている。これによっても、駆動電圧が印加されると、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素内に配向方向の異なる領域が形成されるため(配向分割)、視野角特性が向上する。即ち、第2スリット部31は、良好な表示特性を確保するために、液晶層40中の液晶分子41全体の配向を規制するための第2配向規制部であり、ここでは、この第2スリット部31によっても駆動電圧印加時の液晶分子41の配向方向を規制している。上述したとおり、基本的に、プレチルトが付与されたときの液晶分子の方位角は、電場の強さと方向、及び、配向膜材料の分子構造によって規定され、電場の方向は配向規制部によって決定される。
【0214】
第2スリット部31は、第1スリット部21と基板間で対向しないように配置されている。より具体的には、複数の第1スリット部21は互いに平行に設けられており、複数の第2スリット部31も互いに平行に設けられている。また、1つの画素において、互いに直交する2つの方向に複数の第1スリット部21は延びており、同様に、互いに直交する2つの方向に複数の第2スリット部31は延びている。そして、第1スリット部21は、これらの第1スリット部21に対向する第2スリット部31と平行に設けられており、第1スリット部21の射影像は、2つの第2スリット部31の対称線の射影像上に位置し、第2スリット部31の射影像は、2つの第1スリット部21の対称線の射影像上に位置する。1つの画素(副画素)を上方から眺めたときの第1電極(画素電極)20B及び第1スリット部21、並びに、第2電極(対向電極)30B及び第2スリット部31の配置図を、図17の(A)に示し、第2電極(対向電極)30B及び第2スリット部31の配置図を、図17の(B)に示す。また、第1スリット部21及び第2スリット部31の外形形状の変形例を図18の(A)及び(B)、並びに、図19の(A)及び(B)に示す。尚、図17の(A)、図18の(A)、図19の(A)においては、第1電極(画素電極)20Bの縁部と第1配向規制部(第1スリット部21)を実線で示し、これらの上方に位置する第2配向規制部(第2スリット部31)を点線で示した。また、第1電極(画素電極)20Bの縁部と第1配向規制部(第1スリット部21)とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極(対向電極)30Bの縁部と第2配向規制部(第2スリット部31)とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域50に斜線を付し、更には、中心領域51を一点鎖線で囲み、且つ、斜線を付した。重複領域50及び中心領域51は、便宜上、1箇所のみを図示した。また、図17の(B)、図18の(B)、図19の(B)においては、画素における第2電極(対向電極)30Bの縁部を点線で示し、第2配向規制部(第2スリット部31)を実線で示した。尚、第1配向規制部(第1スリット部21)の形状を第2配向規制部(第2スリット部31)の形状と置き換え、第2配向規制部(第2スリット部31)の形状を第1配向規制部(第1スリット部21)の形状と置き換えてもよい。
【0215】
そして、各画素(副画素)において、第1電極(画素電極)20Bの縁部と第1配向規制部(第1スリット部21)とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極(対向電極)30Bの縁部と第2配向規制部(第2スリット部31)とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置している。即ち、液晶層40における液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内である。
【0216】
このような液晶表示装置にあっては、TFT基板20及びCF基板30には、液晶分子41の配向を規制するための配向規制部として第1スリット部21及び第2スリット部31が設けられているので、視野角特性等の表示特性が確保されるため、良好な表示特性を維持した状態で応答特性が向上する。しかも、重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にはない。それ故、一対の電極20B,30Bに電圧を印加したとき、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)が解けるのに時間が不要であり、応答特性の一層の改善が図ることができる。尚、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)の状態を図20の(A)及び(B)に模式的に示す。ここで、図20の(A)及び(B)の最上段に示す液晶分子41Bは、第2基板の近傍に位置する液晶分子を示し、図20の(A)及び(B)の最下段に示す液晶分子41Aは、第1基板の近傍に位置する液晶分子を示し、図20の(A)及び(B)の中段に示す液晶分子41Cは、第1基板と第2基板の中間に位置する液晶分子を示す。また、液晶分子を横切る点線は液晶分子の長軸を示す。図20の(A)に示す状態にあっては、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にはない。一方、図20の(B)に示す状態にあっては、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にある。
【0217】
このように、各画素において、第1電極の縁部と第1配向規制部とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極の縁部と第2配向規制部とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域の中心領域において、液晶層における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置している。云い換えれば、液晶層における液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内である。このように、重複領域の中心領域において、液晶層における液晶分子群は、それらの液晶分子群の長軸が一方の電極側から他方の電極側に向かって捩れた状態(ツイストした状態)にはない。それ故、一対の電極に電圧を印加したとき、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)が解けるのに時間が不要であり、同一面内での応答ができるため、応答特性の一層の改善が図ることができる。
【符号の説明】
【0218】
10,10A,10B,10C・・・画素、20・・・第1基板(TFT基板)、20A,30A・・・ガラス基板、20B・・・第1電極(画素電極)、21・・・第1配向規制部(第1スリット部)、22・・・第1配向膜、30・・・第2基板(CF基板)、30B・・・第2電極(対向電極)、31・・・第2配向規制部(第2スリット部)、32・・・第2配向膜、40・・・液晶層、41,41A,41B,41C・・・液晶分子、50・・・重複領域、51・・・中心領域、52・・・画素分離部、60・・・表示領域、61・・・ソースドライバ、62・・・ゲートドライバ、63・・・タイミングコントローラ、64・・・電源回路、71・・・ソース線、72・・・ゲート線、121・・・トランジスタ、122・・・キャパシタ、A・・・架橋性官能基又は重合性官能基、Cr・・・連結部、Mc(Mc1,Mc2,Mc3)・・・主鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板の対向面側に設けられた第1配向膜及び第2配向膜、並びに、
第1配向膜と第2配向膜との間に配され、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層、
を有する液晶表示素子を備え、
少なくとも第1配向膜は、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物が架橋又は重合した化合物を含み、
液晶分子は、第1配向膜によってプレチルトが付与されており、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い液晶表示装置。
【請求項2】
一対の基板の対向面側に設けられた第1配向膜及び第2配向膜、並びに、
第1配向膜と第2配向膜との間に配され、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層、
を有する液晶表示素子を備え、
少なくとも第1配向膜は、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物が変形した化合物を含み、
液晶分子は、第1配向膜によってプレチルトが付与されており、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い液晶表示装置。
【請求項3】
第1配向膜の厚さをt1、第2配向膜の厚さをt2としたとき、
1−t2≧10nm
を満足する請求項1又は請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
第1配向膜が形成された基板の法線と液晶分子の成す角度をθ1(度)、第2配向膜が形成された基板の法線と液晶分子の成す角度をθ2(度)としたとき、
θ1>θ2
を満足する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
θ1−θ2≧0.5(度)
を満足する請求項4に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
第1配向膜を構成する材料と、第2配向膜を構成する材料は同じである請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基又は重合性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜を形成し、一対の基板の他方に、第2配向膜を形成した後、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
高分子化合物を架橋又は重合させて、液晶分子にプレチルトを付与する、
工程を含み、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い液晶表示装置の製造方法。
【請求項8】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線を照射して高分子化合物の側鎖を架橋又は重合させる請求項7に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項9】
一対の基板の一方に、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜を形成し、一対の基板の他方に、第2配向膜を形成した後、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
高分子化合物を変形させることで、液晶分子にプレチルトを付与する、
工程を含み、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線を照射して高分子化合物の側鎖を変形させる請求項9に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項11】
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基又は感光性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜を形成し、一対の基板の他方に、第2配向膜を形成した後、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
高分子化合物にエネルギー線を照射することで、液晶分子にプレチルトを付与する、
工程を含み、
第2配向膜の厚さは第1配向膜の厚さよりも薄い液晶表示装置の製造方法。
【請求項12】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、高分子化合物にエネルギー線として紫外線を照射する請求項11に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項13】
第1配向膜の厚さをt1、第2配向膜の厚さをt2としたとき、
1−t2≧10nm
を満足する請求項7乃至請求項12のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項14】
第1配向膜が形成された基板の法線と液晶分子の成す角度をθ1(度)、第2配向膜が形成された基板の法線と液晶分子の成す角度をθ2(度)としたとき、
θ1>θ2
を満足する請求項7乃至請求項13のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項15】
θ1−θ2≧0.5(度)
を満足する請求項14に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項16】
第1配向膜を構成する材料と、第2配向膜を構成する材料は同じである請求項7乃至請求項15のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−173601(P2012−173601A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36832(P2011−36832)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】