液状エポキシ樹脂組成物、絶縁性高分子材料組成物、及びその製造方法
【課題】再生可能資源を原料とした液状エポキシ樹脂組成物であり、金型注型が可能な粘度を有する液状エポキシ樹脂組成物、及び該液状エポキシ樹脂組成物を硬化した絶縁性高分子材料組成物を得る。
【解決手段】植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合し、得られた混合物を加熱処理することにより、植物油由来エポキシ樹脂−植物由来ポリフェノールの相溶物である液状エポキシ樹脂組成物を得る。液状エポキシ樹脂組成物を冷却し、硬化促進剤等の添加物を加え、金型注型後、加熱処理することにより絶縁性高分子材料組成物を得る。液状エポキシ樹脂組成物を得る際の加熱処理は、植物由来ポリフェノールの融点以下で行うと、植物由来ポリフェノールの気化を抑制できる。
【解決手段】植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合し、得られた混合物を加熱処理することにより、植物油由来エポキシ樹脂−植物由来ポリフェノールの相溶物である液状エポキシ樹脂組成物を得る。液状エポキシ樹脂組成物を冷却し、硬化促進剤等の添加物を加え、金型注型後、加熱処理することにより絶縁性高分子材料組成物を得る。液状エポキシ樹脂組成物を得る際の加熱処理は、植物由来ポリフェノールの融点以下で行うと、植物由来ポリフェノールの気化を抑制できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性高分子材料組成物に関するものであって、特に高電圧かつ高温になる電力系統の絶縁に適応するものに関する。従来の絶縁材料において、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の代替となる液状エポキシ樹脂組成物、該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られる絶縁性高分子材料組成物、前記液状エポキシ樹脂組成物の製造方法、及び前記絶縁性高分子材料組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、優れた電気的性能と接着力を有するため、電気・電子分野の種々の用途に使用されている。液状エポキシ樹脂は流動性に優れ、塗料、接着剤、成形材料等に使用する際には扱いやすく作業性も良いだけでなく、溶剤を使用しなくてもよいために環境性や衛生性にも優れる(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
高電圧機器の絶縁材料及び構造材料として、石油を出発物質とした石油由来のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂をマトリックスとした高分子複合硬化物、いわゆるモールド注型品が広く用いられている。また、近年の社会の高度化、集中化に伴い機器の大容量・小型・高信頼性化が強く求められており、モールド注型品はますます重要となってきている。
【0004】
しかし、これらのモールド注型品に使用されている熱硬化樹脂は石油由来の原料を使用しており、石油資源の枯渇といった地球規模の問題から、将来的に再生可能資源を使用することが求められている。そこで、エポキシ樹脂、及び硬化剤として植物由来の原料を用いることに関する技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献4には、高電圧用電気絶縁材料としてポリ乳酸を用いることが提案されている。また、特許文献5には、植物由来物質をエポキシ樹脂の硬化剤に使用する技術と植物由来物質をフェノール樹脂化する技術が提案されている。そして、特許文献6には、植物由来エポキシ樹脂からなる絶縁組成物に関する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−128360号公報
【特許文献2】特開2006−137825号公報
【特許文献3】特開2004−137425号公報
【特許文献4】特開2002−358829号公報
【特許文献5】特開2002−53699号公報
【特許文献6】特開2007−35337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜3、5に記載の技術では、エポキシ樹脂が石油由来物質であるため、植物由来の物質をエポキシ樹脂の硬化剤として使用しても植物性が低く、非石油原料を出発物質とした絶縁硬化物を実現しているとはいえなかった。
【0008】
また、特許文献1に記載の混合物は、粘度が低く、硬化剤としてピロガロール以外のものを添加することにより粘度を低下させているが、得られた粘度では、変圧器などの大型モールド製品の金型注型は困難である。
【0009】
また、特許文献5に記載の絶縁硬化物は、常温での機械物性は高いものの、高温物性に対し配慮がされていない組成となっているためモールド製品への適用は困難である。特許文献5の実施例をみても、印刷配線ボードとなっており、高電圧機器絶縁のための構成とはなっていない。また、植物由来物質をフェノール樹脂化する技術内容が実施例に明確に記述されていない。
【0010】
また、特許文献6に記載の技術では、エポキシ化亜麻仁油の硬化剤に石油由来のフェノール樹脂を使用しているので植物度が低く、既存の熱硬化樹脂の代替品となる非石油原料を出発物質とした絶縁硬化物とは言い難い。
【0011】
そこで、天然原料を出発物質とするエポキシ樹脂としてエポキシ化亜麻仁油に着目し、硬化剤としては、植物由来ポリフェノールに着目した。具体的には、硬化剤として没食子酸誘導体に着目した。
【0012】
しかし、没食子酸誘導体は、エポキシ化亜麻仁油との相溶性が悪いため硬化促進剤や充填剤、シランカップリング剤などの混合・分散が困難であり、不均一な硬化物となりやすく、硬化物の物性にバラつきが生じるおそれがあった。
【0013】
例えば、図12に示すように、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤として没食子酸プロピルを用いた場合の従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、没食子酸プロピルは、エポキシ化亜麻仁油との相溶性が低いだけでなく、融点も高いため、エポキシ化亜麻仁油と相溶させるためには高温での予熱が必要であった。つまり、没食子酸プロピルの融点は150℃であり、エポキシ化亜麻仁油と相溶させるにはこの温度以上で融解させた後、同じ温度以上に予熱させたエポキシ化亜麻仁油と混合させる必要があった。また、硬化剤の析出を防ぐため相溶物の温度を常に硬化剤の融点以上に保つ必要があった。
【0014】
さらに、図13に例示するように、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤としてピロガロールを用いた場合の従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、ピロガロールは、エポキシ化亜麻仁油との相溶性が低いだけでなく、融点も高いため、エポキシ化亜麻仁油と相溶させるには、ピロガロールを融解させた後、同じ温度以上に予熱したエポキシ化亜麻仁油と混合させる必要があった。しかし、ピロガロールを融解させると、一部が有害な蒸気となるため、ピロガロールの気化を抑制する必要があった。また、気化による材料のロスを防止するためにもピロガロールの気化の抑制が必要である。さらに、ピロガロールの析出を防ぐため相溶物の温度を常にピロガロールの融点以上に保つ必要があった。
【0015】
したがって、図12、13を参照して説明したように、従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、高温で主剤と硬化剤とを混合するのでポットライフが短くなり、金型注型作業が困難となる。さらに、主剤と硬化剤の温度が高いため、主剤と硬化剤の相溶物に硬化促進剤を添加するとすぐに硬化反応が起こってしまい、混合が不完全となり得られた硬化物の物性にばらつきが生じるおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、上記課題を解決する本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体からなることを特徴としている。
【0017】
そして、前記液状エポキシ樹脂組成物において、前記植物由来ポリフェノール誘導体として、没食子酸誘導体が挙げられる。
【0018】
また、前記液状エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を混合し、得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させてなるものであることを特徴としている。
【0019】
さらに、前記没食子酸誘導体は、ピロガロール、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸ペンチル、没食子酸イソペンチル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシルのいずれか1種類以上を含有するものであればよい。
【0020】
そして、前記エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油が挙げられる。
【0021】
なお、上記液状エポキシ樹脂組成物を熱処理により3次元架橋して絶縁性高分子材料組成物としてもよい。
【0022】
また、上記課題を解決する本発明の液状エポキシ樹脂組成物製造方法は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させる相溶工程とを備えたことを特徴としている。
【0023】
なお、前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度が、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点より低い温度であると、前記植物由来ポリフェノールの気化を抑制することができる。
【0024】
さらに、前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させることにより得られた相溶物を冷却することにより、前記相溶物における架橋反応速度を低下させることができる。
【0025】
また、上記課題を解決する本発明の絶縁性高分子材料組成物製造方法は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させる相溶工程と、前記相溶工程で得られた前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体の相溶物を冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された相溶物に、硬化促進剤を添加し、前記相溶物を熱処理し、前記相溶物を3次元架橋させる硬化工程とを備えたことを特徴としている。
【0026】
前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度を、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度とすると、前記植物由来ポリフェノール誘導体の気化を抑制することができる。
【0027】
また、前記硬化工程において、前記硬化促進剤を添加したのち、前記相溶物の温度を70℃から90℃に保持し、金型注型すると、金型注型作業を容易に行うことができる。
【0028】
さらに、前記硬化工程において、前記相溶物を3次元架橋させる温度を、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度とすることにより、前記相溶物を3次元架橋させている際の前記植物由来ポリフェノール誘導体の気化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上の発明によれば、非石油由来の原料からなり、金型注型可能な粘度を備えた液状エポキシ樹脂組成物を得ることができる。そして、該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、物性のバラつきが小さい絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図。
【図2】エポキシ化亜麻仁油及びエポキシ化亜麻仁油+没食子酸プロピル相溶物の赤外線吸収スペクトル(波数700−950cm-1)。
【図3】エポキシ化亜麻仁油及びエポキシ化亜麻仁油+没食子酸プロピル相溶物の赤外線吸収スペクトル(波数500−4000cm-1)。
【図4】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−没食子酸プロピル(25重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図5】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−没食子酸プロピル(50重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図6】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−没食子酸プロピル(75重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図7】エポキシ化亜麻仁油、ピロガロール、エポキシ化亜麻仁油+ピロガロールの予熱前後の重量変化を示す図。
【図8】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−ピロガロール(25重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図9】本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図。
【図10】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−ピロガロール(50重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図11】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−ピロガロール(75重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図12】従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図(主剤がエポキシ化亜麻仁油、硬化剤が没食子酸プロピルの場合)。
【図13】従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図(主剤がエポキシ化亜麻仁油、硬化剤がピロガロールの場合)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、エポキシ樹脂、及び硬化剤ともに植物由来の原料を用いた液状エポキシ樹脂組成物、該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られる絶縁性高分子材料組成物、前記液状エポキシ樹脂組成物の製造方法、及び前記絶縁性高分子材料組成物の製造方法に関するものである。
【0032】
すなわち、本発明は、植物由来の原料を用いた液状エポキシ樹脂組成物に粘度を低下させるための添加物を加えることなく、該液状エポキシ樹脂組成物の粘度を金型注型が可能な粘度にし、さらに、該エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる絶縁性高分子材料組成物の物性のバラつきが小さくなる(均一になる)ようにするための方法に関するものである。
【0033】
本発明の実施形態1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法は、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合した後(混合工程)、所定の温度で予熱して前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した第1の液状の相溶物(液状エポキシ樹脂組成物)を得る工程(相溶工程)と、前記第1の液状の相溶物の温度を前記予熱温度より低くすることで前記架橋構造の形成速度を低下させた第2の液状の相溶物を得る工程(冷却工程)と、前記第2の液状の相溶物に添加剤を添加した後、加熱処理することにより前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとを架橋させる工程(硬化工程)からなることを特徴とするものである。
【0034】
具体的には、主剤である植物油由来エポキシ樹脂(液体)と硬化剤である植物由来ポリフェノール(固体)を常温下で混合させる(混合工程)。なお、混合工程において、植物由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールの混合温度は、特に限定するものではないが、常温であればよい。
【0035】
次に、得られた混合物を予熱し、相溶させる(相溶工程)。本発明でいう相溶とは、主剤と硬化剤の混合物がクリアな外観を有するものを意味する。相溶させると、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した液状の相溶物(すなわち、液状エポキシ樹脂組成物)が得られる。この液状エポキシ樹脂組成物の架橋の範囲は、1〜80%、好ましくは1〜50%、より好ましくは1〜20%である。液状エポキシ樹脂組成物の架橋の範囲は、該液状エポキシ樹脂組成物の加熱温度、及び加熱時間により制御することができる。
【0036】
そして、この液状エポキシ樹脂組成物に固体の硬化剤がなくなったら、液状エポキシ樹脂組成物を予熱温度以下に冷却させ、反応速度を低下させる。
【0037】
この反応速度が低い状態で、該液状エポキシ樹脂組成物を保存してもよい。また、この反応速度が低い状態で、該液状エポキシ樹脂組成物に硬化促進剤や充填剤を添加し金型注型作業を行う。金型注型作業を行う際、液状エポキシ樹脂組成物のゲル化が始まらない温度に昇温してもよい。最後に、加熱処理することで植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとが完全に架橋され絶縁硬化物(絶縁性高分子材料組成物)が得られる。
【0038】
相溶工程では、植物由来のポリフェノールの融点以上で予熱することが好ましく、温度条件によって相溶時間を調整する必要がある。また、攪拌することによって相溶時間を短縮することができる。しかし、相溶時間が長すぎると前記液状エポキシ樹脂が硬化してしまうので、前記液状エポキシ樹脂に添加する硬化剤等の種類ごとに最適相溶条件(予熱時間、予熱温度)を決定することが好ましい。
【0039】
ここで、本発明の実施形態1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法の植物油由来エポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類等について説明する。なお、植物油由来エポキシ樹脂、及び硬化剤の種類等は、本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法においても同様である。
【0040】
前記植物油由来のエポキシ樹脂としては、エポキシ化できるものであればよく、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油等が例示される。
【0041】
前記植物油由来のエポキシ樹脂と反応する硬化剤として、これも天然原料である没食子酸誘導体に着目した。没食子酸誘導体としては、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸ブチル、没食子酸ペンチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸イソペンチル、没食子酸オクチル、没食子酸デシル、没食子酸ドデシル、没食子酸トリデシル、没食子酸テトラデシル、没食子酸ペンタデシル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシル、ピロガロール等が挙げられる。これら没食子酸誘導体のなかでも、低分子で融点が低い没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピルまたはピロガロールが好ましい。
【0042】
植物油由来のエポキシ樹脂と植物由来フェノール類の配合比は特に限定されない。また、硬化促進剤や充填剤の添加量についても特に限定せず、最終的に得られる硬化物の物性を鑑みて添加量を決定することが好ましい。硬化促進剤には、イミダゾール系、三級アミン、芳香族アミンなどが使用できる。充填剤には、シリカやアルミナを使用することができるが、充填剤と樹脂の界面を調整するため、シランカップリング剤を添加してもよい。
【0043】
以下、具体的に実施例1〜6を挙げて実施形態1に係る液状エポキシ樹脂組成物、絶縁性高分子材料組成物、及びそれらの製造方法について説明する。なお、本発明の実施形態1に係る発明は、下記実施例に限定されるものではない。また、実施例でいう常温とは、5℃以上35℃以下を指すものとする。
【0044】
(実施例1)
図1に本発明の実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフローを示す。実施例1では、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤として没食子酸プロピルを用いた。
【0045】
図1に示すように、主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル25重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0046】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、130、150、170℃で16時間加熱処理を行った。なお、冷却温度は、常温に限定されるものではなく、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物の硬化反応を抑制できる温度(例えば、50〜90℃)であればよい。
【0047】
硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0048】
エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルを相溶後、硬化促進剤を添加し、該相溶物を一定の温度に保ったときのゲル化反応が開始される時間を観察した。表1に各温度での、相溶物のゲル化開始時間を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、100℃以上では、前記相溶物は数時間でゲル化することが確認された。一方、70℃以上90℃以下では、6時間はゲル化が始まらず、金型注型を行うことができる流動性を有していた。
【0051】
したがって、実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルを相溶後、得られた液状の相溶物を70℃〜90℃に保つことで、ポットライフ(金型注型作業時間)を6時間以上確保できるので、作業性が向上する。また、硬化促進剤を添加した後のポットライフを確保できることで相溶物に添加される添加物を該相溶物中に均一に分散させることが可能となるため、得られる硬化物の物性に対する信頼性が向上する。
【0052】
表2に各温度での、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物の粘度を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
一般的に粘度が10000mPa・sであれば、金型注型が可能である。特に、変圧器などの大型モールド製品においては、粘度が3000mPa・s以下でないと金型注型が困難となる。本発明に係る液状エポキシ樹脂組成物の粘度は、70〜90℃で600〜1500mPa・sであり、低粘度液状樹脂であるので、充填剤の添加が可能かつ、金型注型が可能である。
【0055】
また、この相溶物の粘度は、硬化剤の添加量によっても異なり、硬化物の添加量が少なければ相溶物の粘度は低くなる。さらに、充填剤の種類や添加量によっても粘度が変化する。
【0056】
表2に示すように、相溶物の温度を70℃にすることで相溶物の粘度が低下し、金型注型作業を行うことができることがわかる。
【0057】
図2に、エポキシ化亜麻仁油、及びエポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物の常温保存状態での赤外線吸収スペクトルを示す。波数が820−850cm-1付近の吸収は、エポキシ基の吸収を示す。
【0058】
エポキシ化亜麻仁油と相溶直後の相溶物におけるエポキシ基の吸収スペクトル強度を比較すると、相溶物のエポキシ基の吸収ピークの減少が確認された。つまり、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルに熱を加えて相溶物とすることにより、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの一部が架橋構造を形成されたことがわかる。
【0059】
また、常温で60日保存した相溶物(図2に60dで示す吸収スペクトル)と相溶直後の相溶物(図2に0dで示す吸収スペクトル)を比較すると、エポキシ基の吸収ピークの減少を確認できなかった。つまり、常温まで温度を低下させることにより、架橋反応(硬化反応)速度を低下できることがわかる。架橋反応速度が低いと、相溶物の保存、硬化促進剤等の添加、及びポットライフの確保が可能となる。
【0060】
図2、図3において、常温で60日保存した相溶物と相溶直後の相溶物において、その他の吸収スペクトルを比較すると、ピーク強度に顕著な変化が確認されなかった。すなわち、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物は、常温では安定性に優れることが確認された。
【0061】
また、図4にエポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルを相溶して得られる相溶物を80℃に保持し、硬化促進剤2E4MZを添加した後の相溶物の粘度変化を示す。図4より、相溶物を80℃に保持すれば、1時間は相溶物の粘度が変化しないので、相溶物への充填剤の添加混合、金型注型作業が可能である。
【0062】
次に、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物を硬化することにより得られた硬化物の物性評価を行った。硬化物の評価方法は、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率で行った(以下、Tg及び体積抵抗率の評価方法、評価条件は、断りがない限りすべての実施例において同様である)。Tgは加熱処理によって得られた硬化物を4mmφ×15mmの円柱状に切り出し、TMA法によって線膨張率の変曲点から求めた。体積抵抗率はJIS K 6911に準拠し、1000Vの直流電圧印加で求めた。表3にTgの測定結果、表4に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
(実施例2)
本発明の実施例2に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0066】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル25重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0067】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、130、150、170℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0068】
表5にTgの測定結果、表6に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
(実施例3)
本発明の実施例3に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0072】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル25重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0073】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、130、150、170℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)を用いた。
【0074】
表7にTgの測定結果、表8に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
以上、表3〜表8より、本発明の実施例1〜3に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法によれば、硬化剤の融点(没食子酸プロピルの融点:150℃)より低い温度で硬化物を得ることができる。また、絶縁性高分子材料組成物の硬化時間が16時間の場合、硬化温度によってTg、及び体積抵抗率に顕著な変化がなく、物性の安定した硬化物を得ることができる。なお、絶縁性高分子材料組成物の硬化時間は、本実施例に限定されるものではなく、主剤や硬化剤等の種類や混合比及び硬化温度により、適宜最適な時間を設定すればよい。
【0078】
(実施例4)
本発明の実施例4に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0079】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル50重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0080】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0081】
表9に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0082】
【表9】
【0083】
表9より、硬化剤の添加量が50重量部の場合、相溶物の温度を70℃にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0084】
図5に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図5からわかるように、相溶物の温度を80℃に保持すれば、徐々に相溶物の粘度が上昇するが、相溶物への添加物混合、及び金型注型作業を行うことができる。
【0085】
表10、11に得られた硬化物の物性を示す。表10にTgの測定結果、表11に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0086】
【表10】
【0087】
【表11】
【0088】
(実施例5)
本発明の実施例5に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法では、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0089】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル75重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0090】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0091】
表12に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0092】
【表12】
【0093】
表12に示すように、硬化剤の添加量が75重量部の場合、相溶物の温度を常温より高い温度、例えば70℃、にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0094】
図6に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図6からわかるように、硬化促進剤を添加し攪拌混合すると、相溶物の粘度が急激に上昇した。
【0095】
表13、14に得られた硬化物の物性を示す。表13にTgの測定結果、表14に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0096】
【表13】
【0097】
【表14】
【0098】
(実施例6)
エポキシ樹脂とフェノール樹脂を反応させる場合、エポキシ当量と水酸基当量から配合量を求めるが、エポキシ化亜麻仁油におけるエポキシ基は分子鎖中にあり、反応性に乏しいため最適な配合量は必ずしも化学量論的には決まらない。そこで、エポキシ化亜麻仁油100重量部に、没食子酸プロピルを10、25、50、100重量部添加して液状の相溶物を得た。
【0099】
この相溶物に対して硬化促進剤を添加し、加熱硬化させ、硬化物を得た。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0100】
また、エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油((株)ADEKA、エポキシ化アマニ油(品名アデカサイザー O−180A))、硬化剤(フェノール樹脂)として没食子酸プロピルを用いた。
【0101】
エポキシ化亜麻仁油に対し、没食子酸プロピルを混合し、液状の相溶物を得た。没食子酸プロピルの混合量は、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して10、25、50、100重量部であった。そして、硬化促進剤を3重量部添加して、150℃で16時間加熱処理を行った。
【0102】
評価方法は、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率の測定により行った。表15にTgの測定結果、表16に体積抵抗率の測定結果を示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0103】
【表15】
【0104】
【表16】
【0105】
表15、16に示すように、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、没食子酸プロピルを25〜100重量部添加して得られた絶縁性高分子材料組成物は、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物である。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール、三級アミン、芳香族アミンいずれを用いた場合においても、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物を得ることができた。
【0106】
以上のことから、本発明に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法において、相溶後の温度管理が重要であることがわかる。そして、低温で硬化促進剤等を添加・混合することができるので十分な混合作業時間を確保できる。したがって、硬化物の物性のバラつきが小さい絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。また、金型注型する際、液状エポキシ樹脂組成物の温度を金型注型に適した粘度となる温度で、かつ該液状エポキシ樹脂組成物の硬化反応速度が遅い温度に設定することで金型注型作業が良好になる。
【0107】
次に、本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法について説明する。本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法は、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合した(混合工程)後、植物由来ポリフェノールの融点以下の温度で予熱して前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した第1の液状の相溶物(液状エポキシ樹脂組成物)を得る工程(相溶工程)と、前記第1の液状の相溶物の温度を前記予熱温度より低くすることで前記架橋構造の形成速度を低下させた第2の液状の相溶物を得る工程(冷却工程)と、前記第2の液状の相溶物に添加剤を添加した後、加熱処理することで前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとを架橋させる工程(硬化工程)からなることを特徴とする絶縁性高分子材料組成物の製造方法に関するものである。
【0108】
具体的には、主剤である植物油由来エポキシ樹脂(液体)と硬化剤である植物由来ポリフェノール(固体)を常温下で混合させる(混合工程)。なお、混合工程において、植物由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールの混合温度は、特に限定するものではないが、常温であればよい。
【0109】
次に、得られた混合物を前記硬化剤の融点以下の温度で予熱し、相溶させる。ここでは、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した液状半硬化物が得られる。そして、この液状半硬化物に固体の硬化剤がなくなったら相溶物を予熱温度以下に冷却させ、反応速度を低下させる。この反応速度が低い状態で、硬化促進剤や充填剤を添加し、金型注型作業を行う。金型注型作業を行う際、液状エポキシ樹脂組成物のゲル化が始まらない温度に昇温してもよい。最後に、加熱処理を行うことで植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとが完全に架橋され絶縁硬化物(絶縁性高分子材料組成物)が得られる。
【0110】
以下、具体的に実施例7〜12を挙げて実施形態2に係る液状エポキシ樹脂組成物、絶縁性高分子材料組成物、及びそれらの製造方法について説明する。なお、本発明の実施形態2に係る発明は、下記実施例に限定されるものではない。また、実施例でいう常温とは、5℃以上35℃以下を指すものとする。
【0111】
(実施例7)
硬化剤の気化抑制効果を確認するために、エポキシ化亜麻仁油100重量部、ピロガロール25重量部、エポキシ化亜麻仁油100重量部とピロガロール25重量部の混合物をそれぞれ、110℃で30分予熱して、予熱前後の重量変化を比較した。図7に、各樹脂原料及び混合物の予熱前後の重量変化を示す。
【0112】
図7からわかるように、エポキシ化亜麻仁油において、わずかに重量減少が確認された。なお、ここでは図示しないが、予熱60分後のエポキシ化亜麻仁油の重量変化率は、予熱30分後の重量変化率と同様であった。つまり、エポキシ化亜麻仁油の重量減少は、エポキシ化亜麻仁油に溶解した空気中の水分が揮発したことに起因するものと考えられる。一方、ピロガロールは、10%の重量減少が確認された。
【0113】
ところが、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの混合物の場合は、重量減少率がエポキシ化亜麻仁油のみの場合よりも少ない。すなわち、ピロガロールの気化が抑制されていることがわかる。
【0114】
すなわち、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの混合物をピロガロールの融点より低い温度で相溶させることにより、ピロガロールが気化する前にピロガロールとエポキシ化亜麻仁油が反応するため、ピロガロールの気化する量が激減する。
【0115】
なお、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの混合物を常温で混合し、加熱して昇温させる場合、130℃で3分、140℃で5分程度処理すれば、ピロガロールの気化を抑え、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールを相溶させることができることが実験で確認されている。しかし、ピロガロールの気化による材料のロス等を考慮すると、相溶させる温度はピロガロールの融点以下で行うことが好ましい。
【0116】
表17に各温度での、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの相溶物の粘度を示す。一般的に粘度が10000mPa・sであれば、金型注型が可能である。また、該相溶物の粘度は、硬化剤の添加量によっても異なり、硬化物の添加量が少なければ相溶物の粘度は低くなる。表17に示すように、相溶物の温度を常温より高い温度、例えば70℃、にすることで粘度が低下し、金型注型作業を行うことができることがわかる。
【0117】
【表17】
【0118】
また、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールを相溶した後の相溶物を80℃に保持し、硬化促進剤2E4MZを添加し、相溶物の粘度の時間変化を測定した。図8に該相溶物の粘度の経時変化を示す。図8より、相溶物を80℃に保持すれば、1時間は相溶物の粘度が変化しないので、相溶物への充填剤の添加混合、金型注型作業が可能である。
【0119】
図9に実施例7に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図を示す。実施例7では、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤としてピロガロールを用いた。
【0120】
図9に示すように、主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール25重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0121】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、120、130、150℃で16時間加熱処理を行った。なお、冷却温度は、常温に限定されるものではなく、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの相溶物の硬化反応を抑制できる温度(例えば、50〜70℃)であればよい。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0122】
表18にTgの測定結果、表19に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0123】
【表18】
【0124】
【表19】
【0125】
(実施例8)
本発明の実施例8に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0126】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール25重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0127】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、120、130、150℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0128】
表20にTgの測定結果、表21に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0129】
【表20】
【0130】
【表21】
【0131】
(実施例9)
本発明の実施例9に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0132】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール25重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0133】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、120、130、150℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)を用いた。
【0134】
表22にTgの測定結果、表23に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0135】
【表22】
【0136】
【表23】
【0137】
以上、表18〜表23に示したように、本発明の実施例7〜9に係る絶縁性高分子材料組成物製造の方法によれば、硬化剤の融点(ピロガロールの融点:132℃)より低い温度で硬化物を得ることができる。また、絶縁性高分子材料組成物の硬化時間が16時間の場合、硬化温度によってTg、及び体積抵抗率に顕著な変化がなく、物性の安定した硬化物を得ることができる。
【0138】
(実施例10)
本発明の実施例10に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0139】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール50重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0140】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0141】
表24に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0142】
【表24】
【0143】
表24に示すように、硬化剤の添加量が50重量部の場合、相溶物の温度を70℃にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0144】
図10に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図10からわかるように、相溶物の温度を80℃に保持すれば、徐々に相溶物の粘度が上昇するが、相溶物への添加物混合、及び金型注型作業を行うことができる。
【0145】
表25、26に得られた硬化物の物性を示す。表25にTgの測定結果、表26に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0146】
【表25】
【0147】
【表26】
【0148】
(実施例11)
本発明の実施例11に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0149】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール75重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0150】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0151】
表27に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0152】
【表27】
【0153】
表27に示すように、硬化剤の添加量が75重量部の場合、相溶物の温度を70℃にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0154】
図11に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図11からわかるように、硬化促進剤を添加し攪拌混合した場合、50分間、相溶物の粘度は金型注型可能な粘度であることがわかる。
【0155】
表28、29に得られた硬化物の物性を示す。表28にTgの測定結果、表29に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0156】
【表28】
【0157】
【表29】
【0158】
(実施例12)
エポキシ樹脂とフェノール樹脂を反応させる場合、エポキシ当量と水酸基当量から配合量を求めるが、エポキシ化亜麻仁油におけるエポキシ基は分子鎖中にあり、反応性に乏しいため最適な配合量は必ずしも化学量論的には決まらない。そこで、エポキシ化亜麻仁油100重量部に、ピロガロールを10、25、50、100重量部添加して液状の相溶物を得た。
【0159】
この相溶物に対して硬化促進剤を添加し、加熱硬化させ、硬化物を得た。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0160】
また、エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油((株)ADEKA、エポキシ化アマニ油(品名アデカサイザー O−180A))、硬化剤(フェノール樹脂)としてピロガロール(富士化学工業株式会社製)を用いた。
【0161】
エポキシ化亜麻仁油に対し、ピロガロールを混合し、液状の相溶物を得た。ピロガロールの混合量は、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して10、25、50、100重量部であった。そして、硬化促進剤を3重量部添加して、150℃で16時間加熱処理を行った。
【0162】
評価方法は、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率の測定により行った。表30にTgの測定結果、表31に体積抵抗率の測定結果を示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0163】
【表30】
【0164】
【表31】
【0165】
表30、31に示すように、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、ピロガロールを25〜100重量部添加して得られた絶縁性高分子材料組成物は、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物である。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール、三級アミン、芳香族アミンいずれを用いた場合においても、Tgが常温以上であり、絶縁性能に優れた硬化物を得ることができた。
【0166】
以上の実施例1〜12で説明したように、本発明の液状エポキシ樹脂組成物の製造方法によれば、常温での安定性に優れた液状エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0167】
また、本発明に係る液状エポキシ樹脂組成物によれば、粘度が常温で10000mPa・s以下であることが実現し、さらに70〜90℃では、粘度が600〜1500mPa・sとなる。そして、該液状エポキシ樹脂組成物は、70〜90℃ではゲル化が始まらないので、充填剤の添加、及び金型注型が可能である。
【0168】
したがって、前記液状エポキシ樹脂組成物に常温で硬化促進剤等の添加物を加え、前記液状エポキシ樹脂組成物が硬化しない温度に昇温して金型注型することで、前記液状エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の物性を均一にすることができる。
【0169】
さらに、植物油由来エポキシ樹脂とその硬化剤を相溶させて、液状エポキシ樹脂組成物を得る場合、前記硬化剤の融点以下の温度で相溶させることで、該硬化剤の気化を抑制することができる。
【0170】
また、本発明の絶縁性高分子材料組成物の製造方法によれば、非石油原料である植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノール誘導体を原料としてTgが常温以上であり、絶縁性能に優れた硬化物(絶縁性高分子材料組成物)を得ることができる。すなわち、原料が非石油原料であるため、カーボンニュートラルな絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。
【0171】
さらに、該絶縁性高分子材料組成物得る場合、前記液状エポキシ樹脂組成物を前記硬化剤の融点よりも低い温度で硬化させることで、硬化剤の気化を抑制し、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物を得ることができる。
【0172】
本発明に係る液状エポキシ樹脂組成物、及び該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる絶縁性高分子材料組成物は、電力機器用絶縁材料等に適用することができる。例えば、絶縁スペーサーや支持碍子、絶縁フレーム、絶縁シート、固体絶縁開閉装置(ミニクラッド)やガス絶縁機器に使われるモールド機器、変圧器などのモールド樹脂等のエポキシモールド製品全般に使用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性高分子材料組成物に関するものであって、特に高電圧かつ高温になる電力系統の絶縁に適応するものに関する。従来の絶縁材料において、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の代替となる液状エポキシ樹脂組成物、該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られる絶縁性高分子材料組成物、前記液状エポキシ樹脂組成物の製造方法、及び前記絶縁性高分子材料組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、優れた電気的性能と接着力を有するため、電気・電子分野の種々の用途に使用されている。液状エポキシ樹脂は流動性に優れ、塗料、接着剤、成形材料等に使用する際には扱いやすく作業性も良いだけでなく、溶剤を使用しなくてもよいために環境性や衛生性にも優れる(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
高電圧機器の絶縁材料及び構造材料として、石油を出発物質とした石油由来のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂をマトリックスとした高分子複合硬化物、いわゆるモールド注型品が広く用いられている。また、近年の社会の高度化、集中化に伴い機器の大容量・小型・高信頼性化が強く求められており、モールド注型品はますます重要となってきている。
【0004】
しかし、これらのモールド注型品に使用されている熱硬化樹脂は石油由来の原料を使用しており、石油資源の枯渇といった地球規模の問題から、将来的に再生可能資源を使用することが求められている。そこで、エポキシ樹脂、及び硬化剤として植物由来の原料を用いることに関する技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献4には、高電圧用電気絶縁材料としてポリ乳酸を用いることが提案されている。また、特許文献5には、植物由来物質をエポキシ樹脂の硬化剤に使用する技術と植物由来物質をフェノール樹脂化する技術が提案されている。そして、特許文献6には、植物由来エポキシ樹脂からなる絶縁組成物に関する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−128360号公報
【特許文献2】特開2006−137825号公報
【特許文献3】特開2004−137425号公報
【特許文献4】特開2002−358829号公報
【特許文献5】特開2002−53699号公報
【特許文献6】特開2007−35337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜3、5に記載の技術では、エポキシ樹脂が石油由来物質であるため、植物由来の物質をエポキシ樹脂の硬化剤として使用しても植物性が低く、非石油原料を出発物質とした絶縁硬化物を実現しているとはいえなかった。
【0008】
また、特許文献1に記載の混合物は、粘度が低く、硬化剤としてピロガロール以外のものを添加することにより粘度を低下させているが、得られた粘度では、変圧器などの大型モールド製品の金型注型は困難である。
【0009】
また、特許文献5に記載の絶縁硬化物は、常温での機械物性は高いものの、高温物性に対し配慮がされていない組成となっているためモールド製品への適用は困難である。特許文献5の実施例をみても、印刷配線ボードとなっており、高電圧機器絶縁のための構成とはなっていない。また、植物由来物質をフェノール樹脂化する技術内容が実施例に明確に記述されていない。
【0010】
また、特許文献6に記載の技術では、エポキシ化亜麻仁油の硬化剤に石油由来のフェノール樹脂を使用しているので植物度が低く、既存の熱硬化樹脂の代替品となる非石油原料を出発物質とした絶縁硬化物とは言い難い。
【0011】
そこで、天然原料を出発物質とするエポキシ樹脂としてエポキシ化亜麻仁油に着目し、硬化剤としては、植物由来ポリフェノールに着目した。具体的には、硬化剤として没食子酸誘導体に着目した。
【0012】
しかし、没食子酸誘導体は、エポキシ化亜麻仁油との相溶性が悪いため硬化促進剤や充填剤、シランカップリング剤などの混合・分散が困難であり、不均一な硬化物となりやすく、硬化物の物性にバラつきが生じるおそれがあった。
【0013】
例えば、図12に示すように、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤として没食子酸プロピルを用いた場合の従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、没食子酸プロピルは、エポキシ化亜麻仁油との相溶性が低いだけでなく、融点も高いため、エポキシ化亜麻仁油と相溶させるためには高温での予熱が必要であった。つまり、没食子酸プロピルの融点は150℃であり、エポキシ化亜麻仁油と相溶させるにはこの温度以上で融解させた後、同じ温度以上に予熱させたエポキシ化亜麻仁油と混合させる必要があった。また、硬化剤の析出を防ぐため相溶物の温度を常に硬化剤の融点以上に保つ必要があった。
【0014】
さらに、図13に例示するように、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤としてピロガロールを用いた場合の従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、ピロガロールは、エポキシ化亜麻仁油との相溶性が低いだけでなく、融点も高いため、エポキシ化亜麻仁油と相溶させるには、ピロガロールを融解させた後、同じ温度以上に予熱したエポキシ化亜麻仁油と混合させる必要があった。しかし、ピロガロールを融解させると、一部が有害な蒸気となるため、ピロガロールの気化を抑制する必要があった。また、気化による材料のロスを防止するためにもピロガロールの気化の抑制が必要である。さらに、ピロガロールの析出を防ぐため相溶物の温度を常にピロガロールの融点以上に保つ必要があった。
【0015】
したがって、図12、13を参照して説明したように、従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、高温で主剤と硬化剤とを混合するのでポットライフが短くなり、金型注型作業が困難となる。さらに、主剤と硬化剤の温度が高いため、主剤と硬化剤の相溶物に硬化促進剤を添加するとすぐに硬化反応が起こってしまい、混合が不完全となり得られた硬化物の物性にばらつきが生じるおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、上記課題を解決する本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体からなることを特徴としている。
【0017】
そして、前記液状エポキシ樹脂組成物において、前記植物由来ポリフェノール誘導体として、没食子酸誘導体が挙げられる。
【0018】
また、前記液状エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を混合し、得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させてなるものであることを特徴としている。
【0019】
さらに、前記没食子酸誘導体は、ピロガロール、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸ペンチル、没食子酸イソペンチル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシルのいずれか1種類以上を含有するものであればよい。
【0020】
そして、前記エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油が挙げられる。
【0021】
なお、上記液状エポキシ樹脂組成物を熱処理により3次元架橋して絶縁性高分子材料組成物としてもよい。
【0022】
また、上記課題を解決する本発明の液状エポキシ樹脂組成物製造方法は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させる相溶工程とを備えたことを特徴としている。
【0023】
なお、前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度が、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点より低い温度であると、前記植物由来ポリフェノールの気化を抑制することができる。
【0024】
さらに、前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させることにより得られた相溶物を冷却することにより、前記相溶物における架橋反応速度を低下させることができる。
【0025】
また、上記課題を解決する本発明の絶縁性高分子材料組成物製造方法は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させる相溶工程と、前記相溶工程で得られた前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体の相溶物を冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された相溶物に、硬化促進剤を添加し、前記相溶物を熱処理し、前記相溶物を3次元架橋させる硬化工程とを備えたことを特徴としている。
【0026】
前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度を、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度とすると、前記植物由来ポリフェノール誘導体の気化を抑制することができる。
【0027】
また、前記硬化工程において、前記硬化促進剤を添加したのち、前記相溶物の温度を70℃から90℃に保持し、金型注型すると、金型注型作業を容易に行うことができる。
【0028】
さらに、前記硬化工程において、前記相溶物を3次元架橋させる温度を、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度とすることにより、前記相溶物を3次元架橋させている際の前記植物由来ポリフェノール誘導体の気化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上の発明によれば、非石油由来の原料からなり、金型注型可能な粘度を備えた液状エポキシ樹脂組成物を得ることができる。そして、該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、物性のバラつきが小さい絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図。
【図2】エポキシ化亜麻仁油及びエポキシ化亜麻仁油+没食子酸プロピル相溶物の赤外線吸収スペクトル(波数700−950cm-1)。
【図3】エポキシ化亜麻仁油及びエポキシ化亜麻仁油+没食子酸プロピル相溶物の赤外線吸収スペクトル(波数500−4000cm-1)。
【図4】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−没食子酸プロピル(25重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図5】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−没食子酸プロピル(50重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図6】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−没食子酸プロピル(75重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図7】エポキシ化亜麻仁油、ピロガロール、エポキシ化亜麻仁油+ピロガロールの予熱前後の重量変化を示す図。
【図8】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−ピロガロール(25重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図9】本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図。
【図10】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−ピロガロール(50重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図11】エポキシ化亜麻仁油(100重量部)−ピロガロール(75重量部)相溶物に硬化促進剤(2E4MZ)を添加後の粘度変化を示す図。
【図12】従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図(主剤がエポキシ化亜麻仁油、硬化剤が没食子酸プロピルの場合)。
【図13】従来技術に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図(主剤がエポキシ化亜麻仁油、硬化剤がピロガロールの場合)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、エポキシ樹脂、及び硬化剤ともに植物由来の原料を用いた液状エポキシ樹脂組成物、該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られる絶縁性高分子材料組成物、前記液状エポキシ樹脂組成物の製造方法、及び前記絶縁性高分子材料組成物の製造方法に関するものである。
【0032】
すなわち、本発明は、植物由来の原料を用いた液状エポキシ樹脂組成物に粘度を低下させるための添加物を加えることなく、該液状エポキシ樹脂組成物の粘度を金型注型が可能な粘度にし、さらに、該エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる絶縁性高分子材料組成物の物性のバラつきが小さくなる(均一になる)ようにするための方法に関するものである。
【0033】
本発明の実施形態1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法は、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合した後(混合工程)、所定の温度で予熱して前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した第1の液状の相溶物(液状エポキシ樹脂組成物)を得る工程(相溶工程)と、前記第1の液状の相溶物の温度を前記予熱温度より低くすることで前記架橋構造の形成速度を低下させた第2の液状の相溶物を得る工程(冷却工程)と、前記第2の液状の相溶物に添加剤を添加した後、加熱処理することにより前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとを架橋させる工程(硬化工程)からなることを特徴とするものである。
【0034】
具体的には、主剤である植物油由来エポキシ樹脂(液体)と硬化剤である植物由来ポリフェノール(固体)を常温下で混合させる(混合工程)。なお、混合工程において、植物由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールの混合温度は、特に限定するものではないが、常温であればよい。
【0035】
次に、得られた混合物を予熱し、相溶させる(相溶工程)。本発明でいう相溶とは、主剤と硬化剤の混合物がクリアな外観を有するものを意味する。相溶させると、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した液状の相溶物(すなわち、液状エポキシ樹脂組成物)が得られる。この液状エポキシ樹脂組成物の架橋の範囲は、1〜80%、好ましくは1〜50%、より好ましくは1〜20%である。液状エポキシ樹脂組成物の架橋の範囲は、該液状エポキシ樹脂組成物の加熱温度、及び加熱時間により制御することができる。
【0036】
そして、この液状エポキシ樹脂組成物に固体の硬化剤がなくなったら、液状エポキシ樹脂組成物を予熱温度以下に冷却させ、反応速度を低下させる。
【0037】
この反応速度が低い状態で、該液状エポキシ樹脂組成物を保存してもよい。また、この反応速度が低い状態で、該液状エポキシ樹脂組成物に硬化促進剤や充填剤を添加し金型注型作業を行う。金型注型作業を行う際、液状エポキシ樹脂組成物のゲル化が始まらない温度に昇温してもよい。最後に、加熱処理することで植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとが完全に架橋され絶縁硬化物(絶縁性高分子材料組成物)が得られる。
【0038】
相溶工程では、植物由来のポリフェノールの融点以上で予熱することが好ましく、温度条件によって相溶時間を調整する必要がある。また、攪拌することによって相溶時間を短縮することができる。しかし、相溶時間が長すぎると前記液状エポキシ樹脂が硬化してしまうので、前記液状エポキシ樹脂に添加する硬化剤等の種類ごとに最適相溶条件(予熱時間、予熱温度)を決定することが好ましい。
【0039】
ここで、本発明の実施形態1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法の植物油由来エポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類等について説明する。なお、植物油由来エポキシ樹脂、及び硬化剤の種類等は、本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法においても同様である。
【0040】
前記植物油由来のエポキシ樹脂としては、エポキシ化できるものであればよく、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油等が例示される。
【0041】
前記植物油由来のエポキシ樹脂と反応する硬化剤として、これも天然原料である没食子酸誘導体に着目した。没食子酸誘導体としては、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸ブチル、没食子酸ペンチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸イソペンチル、没食子酸オクチル、没食子酸デシル、没食子酸ドデシル、没食子酸トリデシル、没食子酸テトラデシル、没食子酸ペンタデシル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシル、ピロガロール等が挙げられる。これら没食子酸誘導体のなかでも、低分子で融点が低い没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピルまたはピロガロールが好ましい。
【0042】
植物油由来のエポキシ樹脂と植物由来フェノール類の配合比は特に限定されない。また、硬化促進剤や充填剤の添加量についても特に限定せず、最終的に得られる硬化物の物性を鑑みて添加量を決定することが好ましい。硬化促進剤には、イミダゾール系、三級アミン、芳香族アミンなどが使用できる。充填剤には、シリカやアルミナを使用することができるが、充填剤と樹脂の界面を調整するため、シランカップリング剤を添加してもよい。
【0043】
以下、具体的に実施例1〜6を挙げて実施形態1に係る液状エポキシ樹脂組成物、絶縁性高分子材料組成物、及びそれらの製造方法について説明する。なお、本発明の実施形態1に係る発明は、下記実施例に限定されるものではない。また、実施例でいう常温とは、5℃以上35℃以下を指すものとする。
【0044】
(実施例1)
図1に本発明の実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフローを示す。実施例1では、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤として没食子酸プロピルを用いた。
【0045】
図1に示すように、主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル25重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0046】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、130、150、170℃で16時間加熱処理を行った。なお、冷却温度は、常温に限定されるものではなく、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物の硬化反応を抑制できる温度(例えば、50〜90℃)であればよい。
【0047】
硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0048】
エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルを相溶後、硬化促進剤を添加し、該相溶物を一定の温度に保ったときのゲル化反応が開始される時間を観察した。表1に各温度での、相溶物のゲル化開始時間を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、100℃以上では、前記相溶物は数時間でゲル化することが確認された。一方、70℃以上90℃以下では、6時間はゲル化が始まらず、金型注型を行うことができる流動性を有していた。
【0051】
したがって、実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法では、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルを相溶後、得られた液状の相溶物を70℃〜90℃に保つことで、ポットライフ(金型注型作業時間)を6時間以上確保できるので、作業性が向上する。また、硬化促進剤を添加した後のポットライフを確保できることで相溶物に添加される添加物を該相溶物中に均一に分散させることが可能となるため、得られる硬化物の物性に対する信頼性が向上する。
【0052】
表2に各温度での、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物の粘度を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
一般的に粘度が10000mPa・sであれば、金型注型が可能である。特に、変圧器などの大型モールド製品においては、粘度が3000mPa・s以下でないと金型注型が困難となる。本発明に係る液状エポキシ樹脂組成物の粘度は、70〜90℃で600〜1500mPa・sであり、低粘度液状樹脂であるので、充填剤の添加が可能かつ、金型注型が可能である。
【0055】
また、この相溶物の粘度は、硬化剤の添加量によっても異なり、硬化物の添加量が少なければ相溶物の粘度は低くなる。さらに、充填剤の種類や添加量によっても粘度が変化する。
【0056】
表2に示すように、相溶物の温度を70℃にすることで相溶物の粘度が低下し、金型注型作業を行うことができることがわかる。
【0057】
図2に、エポキシ化亜麻仁油、及びエポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物の常温保存状態での赤外線吸収スペクトルを示す。波数が820−850cm-1付近の吸収は、エポキシ基の吸収を示す。
【0058】
エポキシ化亜麻仁油と相溶直後の相溶物におけるエポキシ基の吸収スペクトル強度を比較すると、相溶物のエポキシ基の吸収ピークの減少が確認された。つまり、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルに熱を加えて相溶物とすることにより、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの一部が架橋構造を形成されたことがわかる。
【0059】
また、常温で60日保存した相溶物(図2に60dで示す吸収スペクトル)と相溶直後の相溶物(図2に0dで示す吸収スペクトル)を比較すると、エポキシ基の吸収ピークの減少を確認できなかった。つまり、常温まで温度を低下させることにより、架橋反応(硬化反応)速度を低下できることがわかる。架橋反応速度が低いと、相溶物の保存、硬化促進剤等の添加、及びポットライフの確保が可能となる。
【0060】
図2、図3において、常温で60日保存した相溶物と相溶直後の相溶物において、その他の吸収スペクトルを比較すると、ピーク強度に顕著な変化が確認されなかった。すなわち、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物は、常温では安定性に優れることが確認された。
【0061】
また、図4にエポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルを相溶して得られる相溶物を80℃に保持し、硬化促進剤2E4MZを添加した後の相溶物の粘度変化を示す。図4より、相溶物を80℃に保持すれば、1時間は相溶物の粘度が変化しないので、相溶物への充填剤の添加混合、金型注型作業が可能である。
【0062】
次に、エポキシ化亜麻仁油と没食子酸プロピルの相溶物を硬化することにより得られた硬化物の物性評価を行った。硬化物の評価方法は、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率で行った(以下、Tg及び体積抵抗率の評価方法、評価条件は、断りがない限りすべての実施例において同様である)。Tgは加熱処理によって得られた硬化物を4mmφ×15mmの円柱状に切り出し、TMA法によって線膨張率の変曲点から求めた。体積抵抗率はJIS K 6911に準拠し、1000Vの直流電圧印加で求めた。表3にTgの測定結果、表4に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
(実施例2)
本発明の実施例2に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0066】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル25重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0067】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、130、150、170℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0068】
表5にTgの測定結果、表6に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
(実施例3)
本発明の実施例3に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0072】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル25重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0073】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、130、150、170℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)を用いた。
【0074】
表7にTgの測定結果、表8に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
以上、表3〜表8より、本発明の実施例1〜3に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法によれば、硬化剤の融点(没食子酸プロピルの融点:150℃)より低い温度で硬化物を得ることができる。また、絶縁性高分子材料組成物の硬化時間が16時間の場合、硬化温度によってTg、及び体積抵抗率に顕著な変化がなく、物性の安定した硬化物を得ることができる。なお、絶縁性高分子材料組成物の硬化時間は、本実施例に限定されるものではなく、主剤や硬化剤等の種類や混合比及び硬化温度により、適宜最適な時間を設定すればよい。
【0078】
(実施例4)
本発明の実施例4に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0079】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル50重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0080】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0081】
表9に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0082】
【表9】
【0083】
表9より、硬化剤の添加量が50重量部の場合、相溶物の温度を70℃にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0084】
図5に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図5からわかるように、相溶物の温度を80℃に保持すれば、徐々に相溶物の粘度が上昇するが、相溶物への添加物混合、及び金型注型作業を行うことができる。
【0085】
表10、11に得られた硬化物の物性を示す。表10にTgの測定結果、表11に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0086】
【表10】
【0087】
【表11】
【0088】
(実施例5)
本発明の実施例5に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法では、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例1で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0089】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤として没食子酸プロピル75重量部を常温下で加え、混合させた後、170℃で25分間予熱して相溶させた。
【0090】
相溶後、常温まで放冷し、没食子酸プロピルの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0091】
表12に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0092】
【表12】
【0093】
表12に示すように、硬化剤の添加量が75重量部の場合、相溶物の温度を常温より高い温度、例えば70℃、にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0094】
図6に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図6からわかるように、硬化促進剤を添加し攪拌混合すると、相溶物の粘度が急激に上昇した。
【0095】
表13、14に得られた硬化物の物性を示す。表13にTgの測定結果、表14に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0096】
【表13】
【0097】
【表14】
【0098】
(実施例6)
エポキシ樹脂とフェノール樹脂を反応させる場合、エポキシ当量と水酸基当量から配合量を求めるが、エポキシ化亜麻仁油におけるエポキシ基は分子鎖中にあり、反応性に乏しいため最適な配合量は必ずしも化学量論的には決まらない。そこで、エポキシ化亜麻仁油100重量部に、没食子酸プロピルを10、25、50、100重量部添加して液状の相溶物を得た。
【0099】
この相溶物に対して硬化促進剤を添加し、加熱硬化させ、硬化物を得た。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0100】
また、エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油((株)ADEKA、エポキシ化アマニ油(品名アデカサイザー O−180A))、硬化剤(フェノール樹脂)として没食子酸プロピルを用いた。
【0101】
エポキシ化亜麻仁油に対し、没食子酸プロピルを混合し、液状の相溶物を得た。没食子酸プロピルの混合量は、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して10、25、50、100重量部であった。そして、硬化促進剤を3重量部添加して、150℃で16時間加熱処理を行った。
【0102】
評価方法は、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率の測定により行った。表15にTgの測定結果、表16に体積抵抗率の測定結果を示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0103】
【表15】
【0104】
【表16】
【0105】
表15、16に示すように、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、没食子酸プロピルを25〜100重量部添加して得られた絶縁性高分子材料組成物は、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物である。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール、三級アミン、芳香族アミンいずれを用いた場合においても、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物を得ることができた。
【0106】
以上のことから、本発明に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法において、相溶後の温度管理が重要であることがわかる。そして、低温で硬化促進剤等を添加・混合することができるので十分な混合作業時間を確保できる。したがって、硬化物の物性のバラつきが小さい絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。また、金型注型する際、液状エポキシ樹脂組成物の温度を金型注型に適した粘度となる温度で、かつ該液状エポキシ樹脂組成物の硬化反応速度が遅い温度に設定することで金型注型作業が良好になる。
【0107】
次に、本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法について説明する。本発明の実施形態2に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法は、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合した(混合工程)後、植物由来ポリフェノールの融点以下の温度で予熱して前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した第1の液状の相溶物(液状エポキシ樹脂組成物)を得る工程(相溶工程)と、前記第1の液状の相溶物の温度を前記予熱温度より低くすることで前記架橋構造の形成速度を低下させた第2の液状の相溶物を得る工程(冷却工程)と、前記第2の液状の相溶物に添加剤を添加した後、加熱処理することで前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとを架橋させる工程(硬化工程)からなることを特徴とする絶縁性高分子材料組成物の製造方法に関するものである。
【0108】
具体的には、主剤である植物油由来エポキシ樹脂(液体)と硬化剤である植物由来ポリフェノール(固体)を常温下で混合させる(混合工程)。なお、混合工程において、植物由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールの混合温度は、特に限定するものではないが、常温であればよい。
【0109】
次に、得られた混合物を前記硬化剤の融点以下の温度で予熱し、相溶させる。ここでは、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した液状半硬化物が得られる。そして、この液状半硬化物に固体の硬化剤がなくなったら相溶物を予熱温度以下に冷却させ、反応速度を低下させる。この反応速度が低い状態で、硬化促進剤や充填剤を添加し、金型注型作業を行う。金型注型作業を行う際、液状エポキシ樹脂組成物のゲル化が始まらない温度に昇温してもよい。最後に、加熱処理を行うことで植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとが完全に架橋され絶縁硬化物(絶縁性高分子材料組成物)が得られる。
【0110】
以下、具体的に実施例7〜12を挙げて実施形態2に係る液状エポキシ樹脂組成物、絶縁性高分子材料組成物、及びそれらの製造方法について説明する。なお、本発明の実施形態2に係る発明は、下記実施例に限定されるものではない。また、実施例でいう常温とは、5℃以上35℃以下を指すものとする。
【0111】
(実施例7)
硬化剤の気化抑制効果を確認するために、エポキシ化亜麻仁油100重量部、ピロガロール25重量部、エポキシ化亜麻仁油100重量部とピロガロール25重量部の混合物をそれぞれ、110℃で30分予熱して、予熱前後の重量変化を比較した。図7に、各樹脂原料及び混合物の予熱前後の重量変化を示す。
【0112】
図7からわかるように、エポキシ化亜麻仁油において、わずかに重量減少が確認された。なお、ここでは図示しないが、予熱60分後のエポキシ化亜麻仁油の重量変化率は、予熱30分後の重量変化率と同様であった。つまり、エポキシ化亜麻仁油の重量減少は、エポキシ化亜麻仁油に溶解した空気中の水分が揮発したことに起因するものと考えられる。一方、ピロガロールは、10%の重量減少が確認された。
【0113】
ところが、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの混合物の場合は、重量減少率がエポキシ化亜麻仁油のみの場合よりも少ない。すなわち、ピロガロールの気化が抑制されていることがわかる。
【0114】
すなわち、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの混合物をピロガロールの融点より低い温度で相溶させることにより、ピロガロールが気化する前にピロガロールとエポキシ化亜麻仁油が反応するため、ピロガロールの気化する量が激減する。
【0115】
なお、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの混合物を常温で混合し、加熱して昇温させる場合、130℃で3分、140℃で5分程度処理すれば、ピロガロールの気化を抑え、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールを相溶させることができることが実験で確認されている。しかし、ピロガロールの気化による材料のロス等を考慮すると、相溶させる温度はピロガロールの融点以下で行うことが好ましい。
【0116】
表17に各温度での、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの相溶物の粘度を示す。一般的に粘度が10000mPa・sであれば、金型注型が可能である。また、該相溶物の粘度は、硬化剤の添加量によっても異なり、硬化物の添加量が少なければ相溶物の粘度は低くなる。表17に示すように、相溶物の温度を常温より高い温度、例えば70℃、にすることで粘度が低下し、金型注型作業を行うことができることがわかる。
【0117】
【表17】
【0118】
また、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールを相溶した後の相溶物を80℃に保持し、硬化促進剤2E4MZを添加し、相溶物の粘度の時間変化を測定した。図8に該相溶物の粘度の経時変化を示す。図8より、相溶物を80℃に保持すれば、1時間は相溶物の粘度が変化しないので、相溶物への充填剤の添加混合、金型注型作業が可能である。
【0119】
図9に実施例7に係る絶縁性高分子材料組成物の製造方法のフロー図を示す。実施例7では、主剤としてエポキシ化亜麻仁油を用い、硬化剤としてピロガロールを用いた。
【0120】
図9に示すように、主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール25重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0121】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、120、130、150℃で16時間加熱処理を行った。なお、冷却温度は、常温に限定されるものではなく、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールの相溶物の硬化反応を抑制できる温度(例えば、50〜70℃)であればよい。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0122】
表18にTgの測定結果、表19に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0123】
【表18】
【0124】
【表19】
【0125】
(実施例8)
本発明の実施例8に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0126】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール25重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0127】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、120、130、150℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0128】
表20にTgの測定結果、表21に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0129】
【表20】
【0130】
【表21】
【0131】
(実施例9)
本発明の実施例9に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化促進剤の種類が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0132】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール25重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0133】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、90、110、120、130、150℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)を用いた。
【0134】
表22にTgの測定結果、表23に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0135】
【表22】
【0136】
【表23】
【0137】
以上、表18〜表23に示したように、本発明の実施例7〜9に係る絶縁性高分子材料組成物製造の方法によれば、硬化剤の融点(ピロガロールの融点:132℃)より低い温度で硬化物を得ることができる。また、絶縁性高分子材料組成物の硬化時間が16時間の場合、硬化温度によってTg、及び体積抵抗率に顕著な変化がなく、物性の安定した硬化物を得ることができる。
【0138】
(実施例10)
本発明の実施例10に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0139】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール50重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0140】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0141】
表24に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0142】
【表24】
【0143】
表24に示すように、硬化剤の添加量が50重量部の場合、相溶物の温度を70℃にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0144】
図10に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図10からわかるように、相溶物の温度を80℃に保持すれば、徐々に相溶物の粘度が上昇するが、相溶物への添加物混合、及び金型注型作業を行うことができる。
【0145】
表25、26に得られた硬化物の物性を示す。表25にTgの測定結果、表26に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0146】
【表25】
【0147】
【表26】
【0148】
(実施例11)
本発明の実施例11に係る絶縁性高分子材料組成物製造方法は、添加する硬化剤の量が異なること以外は実施例7で示した製造方法と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。
【0149】
主剤であるエポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、硬化剤としてピロガロール75重量部を常温下で加え、混合させた後、120℃で30分間予熱して相溶させた。
【0150】
相溶後、常温まで放冷し、ピロガロールの析出がないことを確認した。確認後、硬化促進剤を1重量部加え、130℃で16時間加熱処理を行った。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0151】
表27に、種々の温度における相溶物の粘度を示す。
【0152】
【表27】
【0153】
表27に示すように、硬化剤の添加量が75重量部の場合、相溶物の温度を70℃にすることで粘度が低下し、金型注型作業が可能となる。なお、常温下では、粘度が30000mPa・s以上となり、金型注型作業は困難である。
【0154】
図11に相溶後の相溶物の温度を80℃に保持し、硬化促進剤(2E4MZ)を添加した後の粘度変化を示す。図11からわかるように、硬化促進剤を添加し攪拌混合した場合、50分間、相溶物の粘度は金型注型可能な粘度であることがわかる。
【0155】
表28、29に得られた硬化物の物性を示す。表28にTgの測定結果、表29に体積抵抗率の測定結果をそれぞれ示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0156】
【表28】
【0157】
【表29】
【0158】
(実施例12)
エポキシ樹脂とフェノール樹脂を反応させる場合、エポキシ当量と水酸基当量から配合量を求めるが、エポキシ化亜麻仁油におけるエポキシ基は分子鎖中にあり、反応性に乏しいため最適な配合量は必ずしも化学量論的には決まらない。そこで、エポキシ化亜麻仁油100重量部に、ピロガロールを10、25、50、100重量部添加して液状の相溶物を得た。
【0159】
この相溶物に対して硬化促進剤を添加し、加熱硬化させ、硬化物を得た。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)、三級アミン(明電ケミカル(株) L−86)、芳香族アミン(明電ケミカル(株) K−61B)を用いた。
【0160】
また、エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油((株)ADEKA、エポキシ化アマニ油(品名アデカサイザー O−180A))、硬化剤(フェノール樹脂)としてピロガロール(富士化学工業株式会社製)を用いた。
【0161】
エポキシ化亜麻仁油に対し、ピロガロールを混合し、液状の相溶物を得た。ピロガロールの混合量は、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して10、25、50、100重量部であった。そして、硬化促進剤を3重量部添加して、150℃で16時間加熱処理を行った。
【0162】
評価方法は、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率の測定により行った。表30にTgの測定結果、表31に体積抵抗率の測定結果を示す。なお、Tg、及び体積抵抗率の測定方法は、実施例1の測定方法と同様である。
【0163】
【表30】
【0164】
【表31】
【0165】
表30、31に示すように、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対し、ピロガロールを25〜100重量部添加して得られた絶縁性高分子材料組成物は、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物である。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール、三級アミン、芳香族アミンいずれを用いた場合においても、Tgが常温以上であり、絶縁性能に優れた硬化物を得ることができた。
【0166】
以上の実施例1〜12で説明したように、本発明の液状エポキシ樹脂組成物の製造方法によれば、常温での安定性に優れた液状エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0167】
また、本発明に係る液状エポキシ樹脂組成物によれば、粘度が常温で10000mPa・s以下であることが実現し、さらに70〜90℃では、粘度が600〜1500mPa・sとなる。そして、該液状エポキシ樹脂組成物は、70〜90℃ではゲル化が始まらないので、充填剤の添加、及び金型注型が可能である。
【0168】
したがって、前記液状エポキシ樹脂組成物に常温で硬化促進剤等の添加物を加え、前記液状エポキシ樹脂組成物が硬化しない温度に昇温して金型注型することで、前記液状エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の物性を均一にすることができる。
【0169】
さらに、植物油由来エポキシ樹脂とその硬化剤を相溶させて、液状エポキシ樹脂組成物を得る場合、前記硬化剤の融点以下の温度で相溶させることで、該硬化剤の気化を抑制することができる。
【0170】
また、本発明の絶縁性高分子材料組成物の製造方法によれば、非石油原料である植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノール誘導体を原料としてTgが常温以上であり、絶縁性能に優れた硬化物(絶縁性高分子材料組成物)を得ることができる。すなわち、原料が非石油原料であるため、カーボンニュートラルな絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。
【0171】
さらに、該絶縁性高分子材料組成物得る場合、前記液状エポキシ樹脂組成物を前記硬化剤の融点よりも低い温度で硬化させることで、硬化剤の気化を抑制し、Tgが常温以上であり絶縁性能に優れた硬化物を得ることができる。
【0172】
本発明に係る液状エポキシ樹脂組成物、及び該液状エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる絶縁性高分子材料組成物は、電力機器用絶縁材料等に適用することができる。例えば、絶縁スペーサーや支持碍子、絶縁フレーム、絶縁シート、固体絶縁開閉装置(ミニクラッド)やガス絶縁機器に使われるモールド機器、変圧器などのモールド樹脂等のエポキシモールド製品全般に使用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体からなる
ことを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記植物由来ポリフェノール誘導体は、没食子酸誘導体である
ことを特徴とする請求項1に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を混合し、
得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させてなる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記没食子酸誘導体は、ピロガロール、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸ペンチル、没食子酸イソペンチル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシルのいずれか1種類以上を含有する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ化植物油は、エポキシ化亜麻仁油である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させ液状エポキシ樹脂組成物とし、
該液状エポキシ樹脂組成物を熱処理し、3次元架橋してなる
ことを特徴とする絶縁性高分子材料組成物。
【請求項7】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる相溶工程と、
を備えた
ことを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物製造方法。
【請求項8】
前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度は、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点より低い温度とする
ことを特徴とする請求項7に記載の液状エポキシ樹脂組成物製造方法。
【請求項9】
前記相溶工程で得られた、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体の相溶物を冷却する冷却工程、
を備えた
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の液状エポキシ樹脂組成物製造方法。
【請求項10】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させる相溶工程と、
前記相溶工程で得られた、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体の相溶物を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された相溶物に、硬化促進剤を添加し、前記相溶物を熱処理し、前記相溶物を3次元架橋させる硬化工程と、
を備えた
ことを特徴とする絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【請求項11】
前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度は、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度とする
ことを特徴とする請求項10に記載の絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【請求項12】
前記硬化工程において、前記硬化促進剤を添加したのち、
前記相溶物の温度を70℃から90℃に保持し、金型注型する
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【請求項13】
前記硬化工程において、前記相溶物を3次元架橋させる温度は、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度である
ことを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【請求項1】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体からなる
ことを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記植物由来ポリフェノール誘導体は、没食子酸誘導体である
ことを特徴とする請求項1に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を混合し、
得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させてなる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記没食子酸誘導体は、ピロガロール、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸ペンチル、没食子酸イソペンチル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシルのいずれか1種類以上を含有する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ化植物油は、エポキシ化亜麻仁油である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させ液状エポキシ樹脂組成物とし、
該液状エポキシ樹脂組成物を熱処理し、3次元架橋してなる
ことを特徴とする絶縁性高分子材料組成物。
【請求項7】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる相溶工程と、
を備えた
ことを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物製造方法。
【請求項8】
前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度は、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点より低い温度とする
ことを特徴とする請求項7に記載の液状エポキシ樹脂組成物製造方法。
【請求項9】
前記相溶工程で得られた、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体の相溶物を冷却する冷却工程、
を備えた
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の液状エポキシ樹脂組成物製造方法。
【請求項10】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加熱して、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノールを相溶させる相溶工程と、
前記相溶工程で得られた、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体の相溶物を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された相溶物に、硬化促進剤を添加し、前記相溶物を熱処理し、前記相溶物を3次元架橋させる硬化工程と、
を備えた
ことを特徴とする絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【請求項11】
前記相溶工程において、前記エポキシ化植物油と前記植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる温度は、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度とする
ことを特徴とする請求項10に記載の絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【請求項12】
前記硬化工程において、前記硬化促進剤を添加したのち、
前記相溶物の温度を70℃から90℃に保持し、金型注型する
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【請求項13】
前記硬化工程において、前記相溶物を3次元架橋させる温度は、前記植物由来ポリフェノール誘導体の融点よりも低い温度である
ことを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の絶縁性高分子材料組成物製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−63682(P2011−63682A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214340(P2009−214340)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
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