説明

液状レオロジー改質剤

【課題】それ自体は取り扱い性の良い粘度を有し、スラリー等に添加した場合に、低温から高温までの幅広い温度域での増粘効果等、改質効果を維持でき、特に高温での増粘効果に優れた、液状で1剤の形態のレオロジー改質剤を提供する。
【解決手段】カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)、アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)、ジカルボン酸(C)、及びモノカルボン酸(D)を含有する液状レオロジー改質剤であって、ジカルボン酸(C)として、炭素数4〜6のジカルボン酸(C1)から選ばれる1種以上と、炭素数8〜10のジカルボン酸(C2)から選ばれる1種以上とを含有し、(C1)/(C2)重量比及び(C)/(D)重量比が、それぞれ特定範囲にある液状レオロジー改質剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状レオロジー改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水と粉体からなるスラリーにおいて粘性等のレオロジー物性を制御するには、水と粉体の比率を調節したり、pH調整剤などにより粒子の分散状態を変えたり、あるいは、吸水性ポリマーを添加して余剰水量を制御したりする等の技術や、水溶性高分子化合物をスラリー系に添加して高分子の絡み合いによる増粘作用を利用する技術が使われてきた。
【0003】
更に、スラリーを製造する際に短時間の混練で十分な粘性を示し、更には材料分離抵抗性が安定で、水粉体比が高い場合や水相と接触しても性状ないしは組成が安定であり、水硬性粉体に対しては凝結遅延がなく硬化物性も優れるスラリーを得ることを目的とした、化合物(A)及び化合物(B)の組み合わせが、(1)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)及びアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)の組み合わせ、(2)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)及び臭化化合物から選ばれる化合物(B)の組み合わせ、から選択される組み合わせのスラリーレオロジー改質剤が開発されている(特許文献1)。また、特許文献2は2種の界面活性剤とカチオン性ポリマーを含む界面活性剤組成物を開示している。更に、特許文献3には、液状で1剤の形態のレオロジー改質剤を提供するために、特定2種の化合物とジカルボン酸とを併用すること、更にモノカルボン酸を使用することが開示されている。しかしながら、低温から高温まですべての温度領域にわたって、増粘効果を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−313536号
【特許文献2】特開2005−133075号
【特許文献3】特開2008−280502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、それ自体は取り扱い性の良い粘度を有し、且つスラリー等に添加した場合に、低温から高温までの幅広い温度域での増粘効果等、改質効果を維持でき、特に高温での増粘効果に優れた、液状で1剤の形態のレオロジー改質剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)、アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)、ジカルボン酸(C)、及びモノカルボン酸(D)を含有する液状レオロジー改質剤であって、
ジカルボン酸(C)として、炭素数4〜6のジカルボン酸(C1)から選ばれる1種以上と、炭素数8〜10のジカルボン酸(C2)から選ばれる1種以上とを含有し、
ジカルボン酸(C1)とジカルボン酸(C2)の重量比が、(C1)/(C2)=0.1〜9.5であり、且つ、
ジカルボン酸(C)とモノカルボン酸(D)の重量比が、(C)/(D)=1〜50である、
液状レオロジー改質剤に関する。
【0007】
また、本発明は、水硬性粉体と水と上記本発明の液状レオロジー改質剤とを含有するスラリーに関する。
【0008】
また、本発明は、水と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)〔以下、化合物(B)ともいう〕と、ジカルボン酸(C)と、モノカルボン酸(D)とを混合する工程と、該工程で得られた混合物とカチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)〔以下、化合物(A)ともいう〕とを混合する工程とを有する、請求項1又は2記載の液状レオロジー改質剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液状で1剤の形態のレオロジー改質剤であって、スラリー等に添加した場合に、低温から高温までの幅広い温度域、特に高温での増粘効果に優れる液状レオロジー改質剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)は、4級塩型カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物が好ましく、4級塩型のカチオン性界面活性剤としては、構造中に、10〜26個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖炭化水素基(好ましくはアルキル基)を、少なくとも1つ有しているものが好ましい。例えば、アルキル(炭素数10〜26)トリメチルアンモニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ピリジニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)イミダゾリニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、タロートリメチルアンモニウムクロライド、タロートリメチルアンモニウムブロマイド、水素化タロートリメチルアンモニウムクロライド、水素化タロートリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルプロピルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。水溶性と増粘効果の観点から、具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド及びヘキサデシルピリジニウムクロライドが好ましい。また、増粘効果の温度安定性の観点から、化合物(A)として、上記のアルキル基の炭素数の異なるカチオン性界面活性剤を2種類以上用いることが好ましい。カチオン性界面活性剤を2種類以上用いる場合の組み合わせとして、(i)アルキル(炭素数10〜26、好ましくは14〜18)トリメチルアンモニウム塩のうち、炭素数10〜26のアルキル基の炭素数の異なる化合物を2種以上用いる、(ii)アルキル(炭素数10〜26、好ましくは14〜18)ピリジニウム塩のうち、炭素数10〜26のアルキル基の炭素数の異なる化合物を2種以上用いる、(iii)アルキル(炭素数10〜26、好ましくは14〜18)トリメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上の化合物と、アルキル(炭素数10〜26、好ましくは14〜18)ピリジニウム塩から選ばれる1種以上の化合物とを用いる、態様が挙げられ、上記(i)の態様が好ましい。(i)の態様では、炭素数10〜26のアルキル基の炭素数の異なる化合物を2種又は3種を用いることが好ましく、2種用いることがより好ましい。
【0011】
特に、本発明のレオロジー改質剤をコンクリート等に適用する場合、塩害による鉄筋の腐食やコンクリート劣化を防止する観点から、塩素等のハロゲンを含まない4級アンモニウム塩を用いることが好ましい。
【0012】
塩素等のハロゲンを含まない4級塩として、アンモニウム塩やイミダゾリニウム塩等が挙げられ、具体的にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、オクタデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オクタデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、タロートリメチルアンモニウムメトサルフェート、タロージメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、オクタデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、ヘキサデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、オクタデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、等が挙げられる。塩素等のハロゲンを含まない4級アンモニウム塩は、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸で3級アミンを4級化することで得ることができる。
【0013】
アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)として、芳香環を有するカルボン酸及びその塩、芳香環を有するホスホン酸及びその塩、芳香環を有するスルホン酸及びその塩が挙げられ、具体的には、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m−スルホ安息香酸、p−スルホ安息香酸、4−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸、p−フェノールスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸等であり、これらは塩を形成していていも良く、これらを2種以上併用してもよい。ただし、重合体である場合は、重量平均分子量(例えば、ゲルーパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレンオキシド換算)500未満であることが好ましい。化合物(B)は、p−トルエンスルホン酸等の芳香環を有するスルホン酸及びその塩が好ましい。
【0014】
本発明においては、化合物(A)と化合物(B)のそれぞれは濃厚な水溶液でも粘性が低いが、混合すると会合体を形成し易いものが、水相中のレオロジー改質剤の有効分濃度が低くても優れたレオロジー改質効果を発現する観点及びレオロジー改質剤をスラリーへ添加する際の作業性の観点からも好ましい。本発明では、化合物(A)と化合物(B)が水硬性粉体等の微粉体100重量部に対して1重量部以下の極めて低い添加量での増粘を達成することができる。更に、イオン強度の高いスラリー系においても、同様の効果を発現することができ、スラリー系によっては、特に水相と接触した場合の材料分離抵抗性が非常に安定するという、セルロース系等の従来の増粘剤の使用では得ることのできなかったレオロジー特性を発現する。これは特に、水硬性粉体を含有するスラリーで有用である。
【0015】
また、化合物(A)がアルキル(炭素数10〜26)トリメチルアンモニウム塩であり、化合物(B)が芳香環を有するスルホン酸塩である組み合わせが好ましく、スラリーの水相中の有効分濃度が5重量%以下でも効果を発現する。水硬性粉体のスラリーに用いる場合は、これらの中でも硬化遅延を起こさない観点から、化合物(B)としてはトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸又はこれらの塩が好ましく、p−トルエンスルホン酸又はその塩がより好ましい。
【0016】
本発明の液状レオロジー改質剤は、ジカルボン酸(C)として、炭素数4〜6のジカルボン酸(C1)から選ばれる1種以上と、炭素数8〜10のジカルボン酸から選ばれる1種以上のジカルボン酸(C2)とを含有することに特徴を有する。これらのジカルボン酸は、無水物を使用することもできる。このような、特定のジカルボン酸の組み合わせにより、1液製品の本発明レオロジー改質剤の粘度低下と、スラリーでの紐状ミセル再形成によって、温度に依存せずに効率よく粘度が発現しやすくなる。
【0017】
炭素数4〜6のジカルボン酸(C1)としては、イタコン酸、マレイン酸、グルタル酸、メチルグルタル酸、シトラコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸及びクエン酸が挙げられ、液状レオロジー改質剤の低粘度化の効果とスラリー系での紐状ミセル再形成の観点から、イタコン酸が好ましい。ジカルボン酸(C1)は、1液製品である本発明のレオロジー改質剤の粘度低下と、スラリーでの紐状ミセル再形成による粘性発現に寄与する成分であると考えられる。
【0018】
また、炭素数8〜10のジカルボン酸(C2)としては、スペリン酸、アゼライン酸、ブタンテトラカルボン酸、2,4−ジエチルグルタル酸、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びセバシン酸が挙げられ、液状レオロジー改質剤の低粘度化の効果とスラリー系での紐状ミセル再形成の観点から、アゼライン酸が好ましい。ジカルボン酸(C2)は、ジカルボン酸(C1)では低下しきれない1液製品の粘度を下げるために、少量で効率良く残りの高次構造を破壊し、1液製品の粘度を所定範囲に調整する働きをするものと考えられる。従って、ジカルボン酸(C2)の含有量を適切な範囲とすることで、製品安定性の維持と高温でのスラリー物性の改善のバランスをとることができ、また、ジカルボン酸の総量を減らす事ができるため、スラリーの硬化物性に与える影響も緩和される。
【0019】
ジカルボン酸(C)中、炭素数4〜6のジカルボン酸(C1)から選ばれる1種以上と炭素数8〜10のジカルボン酸(C2)から選ばれる1種以上との合計は、30〜100重量%、更に70〜100重量%、より更に実質上100重量%であることが好ましい。
【0020】
また、本発明のレオロジー改質剤は、モノカルボン酸(D)を含有する。モノカルボン酸(D)を含有するレオロジー改質剤は、希釈した時のスラリーの粘性、特に低温での粘性が早く発現する。モノカルボン酸(D)を含有するレオロジー改質剤では、ジカルボン酸とモノカルボン酸の親水性の差により、時間差で会合体構造の中からスラリーの水系溶媒中へ移動することで、より均一に早くスラリーの高粘度を発現するものと考えられる。
【0021】
モノカルボン酸(D)は炭素数1〜26ものが好ましく、より高いスラリー粘度を発現する点から炭素数6〜18が更に好ましく、製品安定性の点から炭素数6〜12がより好ましい。また、直鎖で飽和のものが好ましい。具体的には、(D1)酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンコサン酸、ベヘン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、セロチン酸などの直鎖飽和モノカルボン酸、(D2)ウンデセン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、エライジン酸などの直鎖不飽和モノカルボン酸、(D3)イソ吉草酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸などの分岐飽和モノカルボン酸、(D4)分岐不飽和モノカルボン酸、(D5)コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸などの胆汁酸、フェノキシ酢酸、マンデル酸などからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。これらの中でも(D1)で挙げた化合物群が好ましく、更にヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、より更にはデカン酸が好ましい。これらのモノカルボン酸は一部が中和された塩として使用することもできる。
【0022】
本発明のレオロジー改質剤は1液の形態でありながら粘度は低いものであって、水溶液中にレオロジー改質剤を添加した場合と同様に、例えば水やスラリーに加えた際でもレオロジー改質剤と水とを含む混合物の粘度が高くなるものである。
【0023】
本発明のレオロジー改質剤に用いられる化合物(A)と化合物(B)は、レオロジー改質対象物の組成物中で紐状ミセル等の会合体構造を形成し、その構造形成によりレオロジー改質効果を発現するものである。
【0024】
本発明のレオロジー改質剤に用いられるジカルボン酸(C)は、化合物(A)と化合物(B)の濃度が高い水系媒体溶液中では、化合物(A)と(B)の構造形成体の中に入り込み、化合物(A)と(B)による粘度の増加を阻害するものであり、その結果、水系媒体希釈前のレオロジー改質剤は低粘度であると考えられる。水を含む溶液(水溶液)により希釈すると、ジカルボン酸(C)は、化合物(A)と(B)の会合体構造の中から水系媒体中へ移動し、その結果、希釈後のレオロジー改質剤は化合物(A)と(B)の構造形成により高粘度を発現すると考えられる。しかしながら、一般に紐状ミセルは、温度が高くなるにつれて紐状ミセルが形成される相転移濃度は高くなる、つまり紐状ミセルは形成されにくくなる。これは高温により、化合物(A)や化合物(B)の溶解性が変化することで化合物(A)と化合物(B)を主体に構成されている紐状ミセル構造が不安定になることに起因する。本発明では、ジカルボン酸(C1)、ジカルボン酸(C2)、モノカルボン酸(D)という、特定の3種類のカルボン酸の組合せと特定の重量比にすることで、高温での粘度発現性に優れる液状レオロジー改質剤が得られる。ジカルボン酸(C1)及び(C2)は該紐状ミセル構造中に組み込まれた形態をとっているものと考えられる。本発明で選定した特定の重量比でジカルボン酸(C1)及び(C2)を紐状ミセル中に組み込ませることで、温度と共に紐状ミセル中のジカルボン酸(C1)及び(C2)の存在位置が変化し、紐状ミセルの親水疎水バランスが制御されるために、結果的に高温でも粘性低下が起こらないと考えられる。また、モノカルボン酸(D)は、一般に低温での粘性発現速度に寄与するが、含有量が多くなりすぎると、紐状ミセル構造中に多く残存してしまうため、常温から高温までの粘度発現を阻害する働きが強くなってしまう。ところが、ジカルボン酸(C1)及び(C2)に対してモノカルボン酸(D)を特定量配合することで、スラリー等に添加した際に、低温から高温までの粘度発現が良好となることを見出した。
【0025】
本発明のレオロジー改質剤が、水系媒体による希釈の有無によって、粘度発現の状況が変わる理由は不明であるが、ジカルボン酸(C1)及び(C2)の水と会合体構造の分配に影響していると考えられる。更にジカルボン酸(C1)及び(C2)は2個のカルボキシル基を有することで、ジカルボン酸(C1)及び(C2)が会合体構造中に進入した際に構造形成を阻害し、希釈時には水に溶解しやすいと考えられる。
【0026】
希釈水溶液中で化合物(A)と化合物(B)とが会合体構造を形成することが好ましく、会合体構造は紐状ミセルであることが好ましい。会合体構造の存在は、偏光板による流動複屈折や動的粘弾性測定等により確認できる。
【0027】
特許文献1などでも、紐状ミセルを形成するとされているが、それらで用いられているアニオン性化合物とカチオン性化合物との組み合わせにおいて、ハンドリング性を改善しつつ、使用時の再増粘効果といった改質効果を維持できる手法は見いだされていなかった。本発明では、特定の2種のジカルボン酸とモノカルボン酸を特定の比率で用いることで、2つの化合物を含有する組成物(水溶液等)の低粘度化と、使用時の性能の維持との両立が可能となった。更に、pHが高い場合、ジカルボン酸の溶解が促進され、より高い粘弾性を得ることが可能となる。また、得られるレオロジー改質剤が危険物(消防法で定める危険物)とはならない点からも、親水性で高沸点であるジカルボン酸を用いることは好ましい。すなわち、本発明は、有機溶剤を使用せずに、1剤型組成物の粘性低下、低温安定性確保、性能維持、非危険物化を達成できる。
【0028】
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせは、紐状ミセル等の会合体構造を形成するものであれば良く、化合物(A)の粘度100mPa・s以下の水溶液と化合物(B)の粘度100mPa・s以下の水溶液とを混合すると、その粘度が混合前のいずれの水溶液の粘度よりも少なくとも2倍高くすることができる性質を有することが好ましい。更に好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、更に好ましくは少なくとも100倍、特に好ましくは少なくとも500倍高くすることができることである。ここで、粘度は、20℃の条件でB型粘度計(Cローター[No.表記の場合はNo.3ローター]、1.5r.p.mから12r.p.m)で測定されたものをいう。この場合、前記の粘度挙動は、1.5r.p.m.から12r.p.m.の回転数の何れかで発現されればよい。また、混合はそれぞれの水溶液を50/50の重量比で混合する。化合物(A)の水溶液及び化合物(B)の水溶液の濃度は、共に0.01〜50重量%であることが好ましい。
【0029】
ここで、水溶性低分子化合物とは、室温において、水中に、単分子又は会合体・ミセル・液晶等の構造体を形成した状態又はそれらの混在した状態で、水と相分離を生じない化合物である。相とは、マクロな大きさを持ち、温度、圧力等統計的な物理量が明確に定められる領域をいう(コロイド化学、第1巻、第1版、89〜90頁、1995年10月12日発行、東京化学同人)。水溶性低分子化合物は、水100gに対して25℃で0.001mg以上の溶解度を有することが好ましい。また、2000以下の分子量を有することが好ましい。
【0030】
本発明のレオロジー改質剤は、下記標準試験(I)において、攪拌停止時に溶液に巻き返しが観察されるものが好ましい。また、本発明のレオロジー改質剤は、下記標準試験(II)において、攪拌停止時に溶液に巻き返しが観察されるものが好ましい。更に、下記標準試験(I)及び(II)の両方において、攪拌停止時に溶液に巻き返しが観察されるものが好ましい。ここでいう巻き返しとは、溶液内の会合体が絡み合いを生じ、弾性的性質を有することを意味しており、溶液に巻き込まれた気泡が攪拌停止時に回転方向と逆向きに移動する状態のことを言う。巻き返しが生じることによって、水酸化カリウム水溶液とレオロジー改質剤の混合溶液中に、化合物(A)と化合物(B)により紐状ミセル等の会合体構造が形成されたと推定される。
標準試験(I):200mLビーカーに0.1N−水酸化カリウム水溶液90mL、レオロジー改質剤10mLを加え、直径6mmのガラス棒で4回転/秒で180秒間攪拌する。
標準試験(II):200mLビーカーに0.1N−水酸化カリウム水溶液95mL、レオロジー改質剤5mLを加え、直径6mmのガラス棒で4回転/秒で180秒間攪拌する。
【0031】
上記標準試験(I)、(II)の何れも、撹拌でのガラス棒は底まで入れ、回転は壁面に沿って行う。攪拌停止後に目視観察を行い、回転方向と逆向き方向に気泡の移動が観察された場合、気泡の巻き返し有りと判断する。
【0032】
本発明に係るレオロジー改質剤には、本改質剤の性能に支障がなければ他の成分、例えば、分散剤、AE剤、遅延剤、早強剤、促進剤、気泡剤、発泡剤、消泡剤、防錆剤、着色剤、防黴剤、ひび割れ低減剤、膨張剤、染料、顔料等を含有していてよい。
【0033】
本発明のレオロジー改質剤においては、化合物(A)と化合物(B)のモル比(有効分モル比)は、化合物(A)と化合物(B)の組み合わせによって増粘効果の高い領域が異なり、目的とする増粘の程度に応じて適宜決めればよいが、得られる粘度と会合体の形状の観点から、化合物(A)/化合物(B)=1/20〜20/1、好ましくは1/20〜4/1、より好ましくは1/3〜2/1、特に好ましくは1/1〜2/3が適している。
【0034】
化合物(A)のレオロジー改質剤中の含有量は、析出を生じる濃度未満で含有することが好ましく、レオロジー改質剤の粘度を低くする観点から、レオロジー改質剤中2.5〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましく、10〜20重量%が更に好ましい。
【0035】
化合物(B)のレオロジー改質剤中の含有量は、析出を生じる濃度未満で含有することが好ましく、レオロジー改質剤の粘度を低くする観点から、レオロジー改質剤中1.5〜30重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、5〜15重量%が更に好ましい。
【0036】
ジカルボン酸(C)レオロジー改質剤中の含有量は、析出を生じる濃度未満で含有することが好ましく、レオロジー改質剤の粘度を低くする観点から、レオロジー改質剤中0.1〜30重量%が好ましく、0.3〜15重量%がより好ましく、0.5〜10重量%が更に好ましい。
【0037】
本発明の液状レオロジー改質剤では、高温時のスラリー粘度の観点から、ジカルボン酸(C1)とジカルボン酸(C2)の重量比が、(C1)/(C2)=0.1〜9.5であり、好ましくは1〜9、より好ましくは4〜8である。該重量比が0.1よりも小さくなる〔相対的にジカルボン酸(C2)が多くなる〕と1液安定性が低下すると共に、高温での粘度発現が低下し、9.5よりも大きくなる〔相対的にジカルボン酸(C1)が多くなる〕と製品粘度が増大すると共に、十分な高温粘度発現が得られない。
【0038】
モノカルボン酸(D)のレオロジー改質剤中の含有量は、析出を生じる濃度未満で含有することが好ましく、レオロジー改質効果を短時間で発現させる観点、及び常温ないし高温でのレオロジー改質効果を維持する観点から、レオロジー改質剤中0.1〜5重量%が好ましく、0.3〜3重量%がより好ましく、0.5〜2重量%が更に好ましい。
【0039】
また、本発明の液状レオロジー改質剤では、低温から高温までの粘性発現バランスおよび低温時の粘性発現速度の観点から、ジカルボン酸(C)、好ましくはジカルボン酸(C1)とジカルボン酸(C2)の合計と、モノカルボン酸(D)の重量比が、(C)/(D)=1〜50であり、好ましくは2〜20、より好ましくは3〜15、より更に好ましくは5〜8である。該重量比が1よりも小さくなる〔相対的にモノカルボン酸(D)が多くなる〕と粘性発現性が弱まり、50よりも大きく〔相対的にモノカルボン酸(D)が少なくなる〕と低温時の粘性速度が遅くなる。
【0040】
また、本発明のレオロジー改質剤におけるジカルボン酸(C)、好ましくはジカルボン酸(C1)とジカルボン酸(C2)の合計と、化合物(A)と化合物(B)の合計との重量比は、粘度発現性の観点から(C)/〔(A)+(B)〕=0.001〜1.2、更に0.01〜0.8、更に0.04〜0.6であることが好ましい。
【0041】
モノカルボン酸(D)の含有量は、化合物(A)100重量部に対し3〜25重量部が好ましく、更に4〜20重量部が好ましく、5〜15重量部が最も好ましい。3重量部以上であれば低温時の粘性発現改善効果が十分となり、25重量部以下であれば紐状ミセル中での残存量が少なくなり、スラリー粘性の低下が抑制される。
【0042】
本発明のレオロジー改質剤は液状であり、水溶液であることが好ましい。液状であるための観点から、レオロジー改質剤中の水の含有量は50重量%以上であることが好ましく、50〜80重量%がより好ましく、60〜70重量%が更に好ましい。化合物(A)と、化合物(B)と、ジカルボン酸(C)と、モノカルボン酸(D)との合計の含有量は、レオロジー改質剤中、50重量%以下であることが好ましく、50〜20重量%がより好ましく、40〜25重量%が更に好ましい。レオロジー改質対象への添加量を均一する観点から、化合物(A)と化合物(B)とジカルボン酸(C)とモノカルボン酸(D)の何れもが、レオロジー改質剤中で析出しないことが好ましい。
【0043】
本発明のレオロジー改質剤においては、ジカルボン酸(C)の拡散が促進され、より高い粘弾性を得ることが可能な点で、スラリーのpHは0℃から60℃の少なくとも何れかの温度において7以上であることが好ましい。
【0044】
また、本発明のレオロジー改質剤の粘度は、作業性の観点から20℃で10000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、3000mPa・s以下、2000mPa・s以下がより好ましい。また、本発明のレオロジー改質剤のうち、20℃での粘度が5000mPs・s以下、更に3000mPa・s以下、更に2000mPa・s以下ものは、普通ポルトランドセメント400gと水400gとから調製したスラリーに、該レオロジー改質剤を16g添加し、混合した直後、好ましくは混合60秒以内のスラリー粘度が、20℃で、3000mPa・s以上、好ましくは3500mPa・s以上、より好ましくは4000mPa・s以上であることが好ましい。
【0045】
更に、本発明のレオロジー改質剤は、イオン強度の高いスラリー系でも良好なレオロジー特性を付与できることから、水相の電導度が、0.01〜80mS/cmの範囲、好ましくは0.1〜60mS/cm、より好ましくは1〜40mS/cmであるスラリーに使用することが好ましい。更に、セメント等の水硬性組成物を含有する水相の電導度の高いスラリー系に適用することが好ましい。
【0046】
本発明によれば、上記本発明のレオロジー改質剤を含有するスラリー、例えば、上記本発明のレオロジー改質剤と、水硬性粉体と、水とを含有するスラリーを得ることができる。
【0047】
本発明のレオロジー改質剤は、水粉体比30〜600%のスラリーに好ましく適用でき、更に好ましくは水粉体比30〜300%のスラリーに適用できる。このスラリーを製造する際の粉体としては、水和反応により硬化する物性を有する水硬性粉体を用いることができる。例えばセメントや石膏が挙げられる。また、フィラーも用いることができ、例えば炭酸カルシウム、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、ベントナイト、クレー(含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱物:カオリナイト、ハロサイト等)が挙げられる。これらの粉体は単独でも、混合されたものでもよい。更に、必要に応じてこれらの粉体に骨材として砂や砂利、及びこれらの混合物が添加されてもよい。また、酸化チタン等の上記以外の無機酸化物系粉体のスラリーや土に適用することもできる。
【0048】
また、本発明のレオロジー改質剤においては、スラリー中の有効分濃度は、目的とする増粘の程度に応じて適宜決めればよいが、本発明のレオロジー改質剤を、予め調製されたスラリーに添加する、スラリー製造時に添加する、等の方法により、本発明の改質剤を含有するスラリーが得られる。化合物(A)と化合物(B)との有効分の合計は、スラリーの水相中の有効分濃度で0.01〜20重量%、更に0.1〜15重量%、更に0.1〜10重量%、より更に0.3〜10重量%であることが好ましい。
【0049】
本発明のレオロジー改質剤を含有するスラリー、特に水硬性粉体を含有する水硬性スラリーの粘度は、レオロジー改質効果の観点から、20℃で、1000mPs・s以上が好ましく、2000mPs・s以上がより好ましい。
【0050】
本発明のレオロジー改質剤を含有する水硬性スラリーは分散剤を含有しても良い。分散剤は、減水剤としてリグニンスルホン酸塩及びその誘導体、オキシカルボン酸塩、ポリオール誘導体、高性能減水剤及び高性能AE減水剤として、ナフタレン系〔花王(株)製:マイテイ150〕、メラミン系〔花王(株)製:マイテイ150V−2〕、ポリカルボン酸系〔花王(株)製:マイテイ3000、NMB社製:レオビルドSP、(株)日本触媒製:アクアロックFC600、アクアロックFC900〕、リン酸エステル系共重合体(特開2006−52381号)、アニオン界面活性剤として、ポリカルボン酸型界面活性剤〔花王(株)製:ポイズシリーズ〕等が挙げられる。その中でも、ポリカルボン酸系高性能減水剤及びポリカルボン酸型界面活性剤がスラリーの流動性と粘性を両立出来るという意味で、好適である。
【0051】
本発明のレオロジー改質剤を含有する水硬性スラリーにおける分散剤の含有量は、一般に水硬性粉体に対して有効成分で0.01〜5重量%、更に0.05〜3重量%が好ましい。
【0052】
本発明のレオロジー改質剤では、本発明に係る化合物(A)、化合物(B)、ジカルボン酸(C)及びモノカルボン酸(D)の他に、他の既存の水溶性高分子を用いることができる。他の既存の水溶性高分子としては、例えばセルロース誘導体、ポリアクリル系ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニールアルコール、ガム系多糖類、微生物発酵多糖類、カチオン性ポリマー(E)等が挙げられる。
【0053】
カチオン性ポリマー(E)としては、カチオン性窒素を含むものが好ましく、更に当該カチオン性ポリマー(E)のカチオン性窒素に、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜8のオキシアルキレン基を含んでなるポリオキシアルキレン基、水素原子及びアクリロイルオキシアルキル基から選ばれる基が結合しているものが好ましい。カチオン性ポリマー(E)の具体例としては、ポリアリルトリメチルアンモニウム塩等のポリアリルトリアルキルアンモニウム塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩)、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、カチオン化でん粉、カチオン化セルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。これらの中でも、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリメタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体、及びメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体から選ばれるカチオン性ポリマーが好ましい。また、レオロジー改質効果の観点から、対イオンがアルキル硫酸イオンであるもの、中でもエチル硫酸塩、メチル硫酸塩がより好ましい。カチオン性ポリマー(E)の分子量は、1000以上が好ましく、1000〜300万が更に好ましい。この分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、以下の条件で測定された重量平均分子量である。
カラム:α−M〔東ソー(株)製〕 2本連結
溶離液:0.15mol/L硫酸Na、1%酢酸水溶液
流速 :1.0mL/min
温度 :40℃
検出器:RI
分子量標準はプルランを使用
【0054】
カチオン性ポリマー(E)の含有量は、本発明のレオロジー改質剤中0.1〜30重量%、更に1〜20重量%が好ましい。また、化合物(A)とカチオン性ポリマー(E)の重量比は、カチオン性ポリマー(E)/化合物(A)=0.01〜2、更に0.05〜1.3が好ましい。
【0055】
本発明のレオロジー改質剤を含有する水硬性スラリーは、本剤の性能に支障がなければ他の成分、例えば、AE剤、遅延剤、早強剤、促進剤、気泡剤、発泡剤、消泡剤、ひび割れ低減剤、膨張剤等を含有していてよい。
【0056】
本発明のレオロジー改質剤と水硬性粉体を含有するスラリーを硬化してなる硬化組成物は、水溶性高分子を用いた場合に比べ初期硬化物性に優れる。更に、本発明のレオロジー改質剤を含有する水硬性スラリーに骨材を混合して水硬性組成物を調製することができる。この水硬性組成物が硬化されてなる硬化組成物は水溶性高分子を用いた場合に比べ初期硬化物性に優れ、特に構造物等に好適に使用される。
【0057】
本発明のレオロジー改質剤を含有する水硬性スラリーに混合する骨材には細骨材や粗骨材が使用でき、特に限定されるものではないが、吸水率が低くて骨材強度が高いものが好ましい。粗骨材としては、川、陸、山、海、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材としては、川、陸、山、海、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。
【0058】
本発明の液状レオロジー改質剤を含有するスラリーは、水硬性粉体を含有することができ、該レオロジー改質剤を含有するスラリーは、水硬性粉体の水和反応を妨げられることなく硬化する。この点から、土木・建築用途に好適に用いることができる。
【0059】
本発明の液状レオロジー改質剤は、水に化合物(B)を添加した後、化合物(A)を添加して製造することが、増粘と泡立ちを抑制して良好な製造効率を達成するために好ましい。この場合、ジカルボン酸(C)及びモノカルボン酸(D)の添加順序は問わない。具体的には、水と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)と、ジカルボン酸(C)と、モノカルボン酸(D)とを混合する工程と、該工程で得られた混合物とカチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とを混合する工程とを経て製造するのが製造効率の点で好ましい。水と、化合物(B)と、ジカルボン酸(C)と、モノカルボン酸(D)とを混合する場合の各成分の添加順序は限定されないが、水に、化合物(B)、次いでジカルボン酸(C)、次いでモノカルボン酸(D)の順で添加する、あるいは、化合物(B)とジカルボン酸(C)とを実質的に同時に添加し、次いでモノカルボン酸(D)を添加することが製造効率の点で好ましい。ジカルボン酸(C1)と(C2)の添加は、同時でも別々でもよいが、炭素数4〜6のジカルボン酸(C1)を先に添加してから炭素数8〜10のジカルボン酸(C2)を添加することが好ましい。
【0060】
具体的には、まず、水に、化合物(B)を投入する。次に、ジカルボン酸(C)(好ましくは、ジカルボン酸(C1)、ジカルボン酸(C2)の順)を投入し、0.5〜2.0時間で50〜70℃まで昇温し、溶解させる。次に、モノカルボン酸(D)を投入して溶解させる。カチオン性ポリマーを配合する場合は、モノカルボン酸(D)の投入、溶解後に、添加して混合する。攪拌時の起泡と製造中の増粘を抑制し、均一な製品を効率良く製造させるために、化合物(A)は最後に投入し均一に混合する。各成分、中でも、化合物(A)、カチオン性ポリマーは、所定濃度(例えば化合物(A)は濃度20〜40重量%、カチオン性ポリマーは濃度20〜50重量%)の水溶液として用いることができる。
【実施例】
【0061】
<実施例1及び比較例1>
表1に示す組成で、液状のレオロジー改質剤を調製した。その際、一定量の仕込水に、化合物(B)を投入し、次いでジカルボン酸(C1)、次いで、ジカルボン酸(C2)を投入し、60℃(1時間)に昇温し、溶解させる。次に、モノカルボン酸(D)を溶解させる。その後、35重量%濃度でカチオンポリマー(E)を含有する水溶液を仕込み、混合して〔カチオンポリマー(E)を配合しない場合は省略〕混合物を得た。最後に29重量%濃度で化合物(A)を含有する水溶液を該混合物に投入し、均一に混合して液状レオロジー改質剤を調製した。
【0062】
(1)水硬性スラリーのレオロジー改質評価
普通ポルトランドセメント400g、水400gをケーキ用ハンドミキサーで30秒攪拌混合後、表1の液状レオロジー改質剤16gを加え60秒間攪拌混合した。この攪拌混合中のスラリーを目視で観察し、粘度上昇がなくなり飽和に到達するまでの時間を到達時間として記録した。混合後、ビスコテスター(リオン製 VT−04E)でスラリーの粘度を測定した。60秒間攪拌混合しても粘度上昇が一定に到達しない場合でも、攪拌混合を60秒で打ち切った。スラリー温度は10℃、20℃又は30℃になるように、材料の温度を調整した。結果を表2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表中の成分は以下のものである。また、液状レオロジー改質剤の残部は、全体を100重量%とする量の水である。
・A−1:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド/オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド=50/50(重量比)
・A−2:ヘキサデシルピリジニウムクロライド/オクタデシルピリジニウムクロライド=50/50(重量比)
・A−3:ヘキサデシルピリジニウムクロライド/オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド=50/50(重量比)
・A−4:テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド/ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド/オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド=10/45/45(重量比)
・B−1:パラトルエンスルホン酸ナトリウム
・E−1:ポリ(メタクロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート)(重量平均分子量12万)
【0065】
【表2】

【0066】
実施例1−1〜1−13では、20℃から30℃にスラリー温度を上げても、殆ど粘性低下を起こさずに20℃の粘度を維持している。
【0067】
これに対し、(C1)/(C2)重量比が10を超える比較例1−1、1−2では、スラリー温度30℃での粘度が実施例の半分程度まで低下した。また、(C1)/(C2)重量比が0.1未満の比較例1−10では、スラリー温度20℃、30℃での粘度発現効果が劣っている。更に、(C1)/(C2)重量比が10を超える比較例1−1において、モノカルボン酸(D)の含有量を増やして(C)/(D)重量比を実施例1−1と同じにしても、比較例1−12に示されるように、スラリー温度30℃での粘度発現効果は得られない。
【0068】
また、(C)/(D)重量比が50を超える比較例1−3では、スラリー温度10℃での粘度発現効果に劣っている。また、(C)/(D)重量比が1未満の比較例1−11では、全温度での粘度発現効果に劣っており、中でもスラリー温度30℃での粘度発現効果は極めて低い。
【0069】
また、ジカルボン酸(C1)のみを2種あるいはジカルボン酸(C2)のみを2種用いた比較例1−4〜1−9では、併用比率を種々変更しても、スラリー温度30℃での粘度が実施例の半分以下まで低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)、アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)、ジカルボン酸(C)、及びモノカルボン酸(D)を含有する液状レオロジー改質剤であって、
ジカルボン酸(C)として、炭素数4〜6のジカルボン酸(C1)から選ばれる1種以上と、炭素数8〜10のジカルボン酸(C2)から選ばれる1種以上とを含有し、
ジカルボン酸(C1)とジカルボン酸(C2)の重量比が、(C1)/(C2)=0.1〜9.5であり、且つ、
ジカルボン酸(C)とモノカルボン酸(D)の重量比が、(C)/(D)=1〜50である、
液状レオロジー改質剤。
【請求項2】
更に、カチオン性ポリマー(E)を含有する請求項1記載の液状レオロジー改質剤。
【請求項3】
水硬性粉体と水と請求項1又は2記載の液状レオロジー改質剤とを含有するスラリー。
【請求項4】
水と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)と、ジカルボン酸(C)と、モノカルボン酸(D)とを混合する工程と、該工程で得られた混合物とカチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とを混合する工程とを有する、請求項1又は2記載の液状レオロジー改質剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−74182(P2011−74182A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226358(P2009−226358)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】