説明

液状栄養組成物の製造方法

【課題】調合液を50℃以上で4時間以上保持しても調合液の品質が低下しない液状栄養組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(i)原材料を調合して調合液を得る工程、及び(ii)該調合液を50℃以上で保持する工程を備える液状栄養組成物の製造方法であって、前記(i)調合液を得る工程が、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はトリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程を含むことを特徴とする液状栄養組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状栄養組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では、増加する高齢者の咀嚼障害や嚥下障害による栄養の摂取不良へ対応すべく、流動食等の液状栄養組成物の需要が増大してきた。液状栄養組成物には、例えば、熱量0.5kcal/ml以上に栄養価を高めた濃厚流動食と呼ばれるタイプのものがあり、これには糖質、脂質、タンパク質等の栄養素を含む原材料が比較的多く配合されている。
【0003】
このように特定の原材料の配合量を高めた液状栄養組成物としては、例えば、a)均質化処理された少なくとも水及び脂肪からなり、固形分含量が少なくとも18%(重量)であること、b)120℃で10分間加熱処理し、遠心加速度5,000gで30分間遠沈処理した後の沈殿量が100ml当たり0.3ml以下であること、c)120℃で10分間加熱処理し、遠心加速度5,000gで30分間遠沈処理した後の浮上脂肪量が100ml当たり0.3ml以下であること、及びd)高さ1mからの垂直自然落下時における5Fr.チューブ(内径1mm)の1分当りの通過量が少なくとも1.5mlであること、の理化学的性質を有する流動性栄養組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
このような液状栄養組成物の製造ラインでは、例えば、原材料の調合を行う調合工程の後、加熱・殺菌工程、均質化工程等が行われ、最後に充填包装して製品化されている。そして、前記調合工程では、例えば、次の工程に供されるまでの間、調合液の分散性及び流動性等を維持するため、調合タンクや配管内の調合液を50〜65℃程度で数時間以上保持することが行われている。
【0005】
また、液状栄養組成物の製造ラインには、粉体原料を調合するための粉体溶解機やポンプのメカニカルシール部分等のいわゆるデットスペース部が存在し、そこに調合液が50〜65℃で長時間滞留する場合がある。
【0006】
しかし、このように調合液を高温下で長時間保持又は滞留させると、耐熱性フラットサワー菌芽胞等の発芽・増殖による変敗等が発生して該調合液のpHが低下し、得られる液状栄養組成物が香味異常、タンパク質の凝集等を起こし、品質低下につながる恐れがあった。
【0007】
このため、調合液が高温下(例えば、50℃以上)で長時間(例えば、4時間以上)滞留しても調合液の品質が低下しない液状栄養組成物の製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−332528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、調合液を50℃以上で4時間以上保持しても調合液の品質が低下しない液状栄養組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、調合液に特定の乳化剤を添加する工程を有する製造方法を採ることにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、(i)原材料を調合して調合液を得る工程、及び(ii)該調合液を50℃以上で保持する工程を備える液状栄養組成物の製造方法であって、前記(i)調合液を得る工程が、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はトリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程を含むことを特徴とする液状栄養組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によると、調合液を高温下(例えば、50℃以上)で長時間(例えば、4時間以上)保持しても、pHが一定に保たれるとともに臭気及び凝集等の品質低下が生じないため、より安全な液状栄養組成物を提供することが可能となる。また、製造工程において、調合液が高温下で長時間滞留等しても、品質不良による廃棄の必要性が著しく低減されるため、コストの面でも非常に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の液状栄養組成物の製造方法は、(i)原材料を調合して調合液を得る工程、及び(ii)該調合液を50℃以上で保持する工程を備える液状栄養組成物の製造方法であって、前記(i)調合液を得る工程が、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はトリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明における液状栄養組成物は、例えば、経口又は経管的に投与される流動食として用いられる。該流動食としては、例えば、治療、介護が必要な患者及び高齢者等における食事の代替、補助として、必要なエネルギー及び栄養素等をバランスよく摂取するための流動性を付与した加工食品等が挙げられる。
【0015】
本発明の液状栄養組成物は、1種以上の栄養素を含む原材料1種以上並びにジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はトリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。
【0016】
前記ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、液状栄養組成物のpH保持等の点から、モノエステル体の含有量が70%以上であるものが好ましい。また、液状組成物の香味に与える影響等の点から、構成脂肪酸の炭素数が12〜18程度のものが好ましく、14〜18程度のものがより好ましい。そのような脂肪酸の好ましい具体例としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸等が挙げられる。前記ジグリセリン脂肪酸エステルは公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。市販のジグリセリン脂肪酸エステルのうち、本発明に好ましく用いられるものとしては、例えば、ポエムDM−100(商品名;ジグリセリンミリスチン酸エステル;モノエステル体含有量80%;理研ビタミン社製)、ポエムDP−95RF(商品名;ジグリセリンパルミチン酸エステル;モノエステル体含有量80%;理研ビタミン社製)、ポエムDS−100A(商品名;ジグリセリンステアリン酸エステル;モノエステル体含有量80%;理研ビタミン社製)、ポエムDO−100V(商品名;ジグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル体含有量80%;理研ビタミン社製)等があげられる。
【0017】
前記ジグリセリン脂肪酸エステルにおけるモノエステル体の含有量は、ジグリセリン脂肪酸エステルをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて分析することにより求められる。具体的には、ジグリセリン脂肪酸エステルを下記HPLC分析条件で分析後、データ処理装置によりクロマトグラム上に記録されたジグリセリン脂肪酸エステルの各成分に対応するピークについて、積分系を用いてピーク面積を測定し、測定されたピーク面積に基づいて、面積百分率としてモノエステル体の含有量を求めることができる。
(HPLC分析条件)
装置:高速液体クロマトグラフ(型式:LC−10AS;島津製作所社製)
検出器:RI検出器(型式:RID−6A;島津製作所社製)
カラム:GPCカラム(型式:SHODEX KF−802;昭和電工社製)2本連結
カラム温度:40℃
移動相:THF
流量:1.0mL/min
検液注入量:15μL
【0018】
以下、前記ジグリセリン脂肪酸エステルの製造方法の一例について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前記ジグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられるジグリセリンとしては本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、グリセリンに少量の酸又はアルカリを触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4、好ましくは平均重合度が約2.0のジグリセリン混合物等が挙げられる。また、ジグリセリンはグリシドール又はエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであっても良い。反応終了後、必要であれば中和、脱塩、脱色等の処理を行ってよい。
【0019】
本発明においては、上記ジグリセリン混合物を、例えば蒸留又はカラムクロマトグラフィー等自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン2分子からなるジグリセリンを約50質量%以上、好ましくは約85質量%以上に高濃度化した高純度ジグリセリンが好ましく用いられる。
【0020】
前記ジグリセリン及び脂肪酸から前記ジグリセリン脂肪酸エステルを生成する方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の反応容器に、ジグリセリンと脂肪酸(例えば、パルミチン酸)を約1:1のモル比で仕込み、通常触媒として水酸化ナトリウムを加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下又は常圧下が好ましい。反応時間は通常約0.5〜15時間、好ましくは約1〜3時間である。反応の終点は、通常、反応混合物の酸価を測定し、約12以下を目安に決められる。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンジ脂肪酸エステル、ジグリセリントリ脂肪酸エステル及びジグリセリンテトラ脂肪酸エステル等を含む混合物である。
【0021】
エステル化反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和してもよい。その際、エステル化反応の温度が約200℃以上の場合は液温を約180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が約200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってよい。中和後、前記反応混合物を、必要なら冷却して、約100℃〜180℃、好ましくは約130℃〜150℃に保ち、好ましくは約0.5時間以上、更に好ましくは約1〜10時間放置する。未反応のジグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0022】
前記処理により得られたジグリセリン脂肪酸エステルを、好ましくは、更に減圧下で蒸留して残存する未反応のジグリセリンを留去し、続いて、例えば流下薄膜式分子蒸留装置又は遠心式分子蒸留装置等を用いて分子蒸留するか、又はカラムクロマトグラフィーもしくは液液抽出等自体公知の方法を用いて精製することにより、モノエステル体を約70%以上含むジグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0023】
前記トリグリセリン脂肪酸エステルとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、液状栄養組成物のpH保持等の点から、モノエステル体の含有量が70%以上であるものが好ましい。また、液状組成物の香味に与える影響等の点から、構成脂肪酸の炭素数が12〜18程度のものが好ましい。そのような脂肪酸の好ましい具体例としては、ミリスチン酸及びパルミチン酸等が挙げられる。前記トリグリセリン脂肪酸エステルは公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。市販のトリグリセリン脂肪酸エステルのうち、本発明に好ましく用いられるものとしては、例えば、ポエムTRP−97RF(商品名;トリグリセリンパルミチン酸エステル;モノエステル体含有量80%;理研ビタミン社製)等が挙げられる。
【0024】
前記トリグリセリン脂肪酸エステルにおけるモノエステル体の含有量は、トリグリセリン脂肪酸エステルをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて分析することにより求められる。具体的には、トリグリセリン脂肪酸エステルを下記HPLC分析条件で分析後、データ処理装置によりクロマトグラム上に記録されたトリグリセリン脂肪酸エステルの各成分に対応するピークについて、積分系を用いてピーク面積を測定し、測定されたピーク面積に基づいて、面積百分率としてモノエステル体の含有量を求めることができる。
(HPLC分析条件)
装置:高速液体クロマトグラフ(型式:LC−10AS;島津製作所社製)
検出器:RI検出器(型式:RID−6A;島津製作所社製)
カラム:GPCカラム(型式:SHODEX KF−802;昭和電工社製)2本連結
カラム温度:40℃
移動相:THF
流量:1.0mL/min
検液注入量:15μL
【0025】
以下、前記トリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法の一例について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前記トリグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられるトリグリセリンとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、グリセリンに少量の酸又はアルカリを触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が約2.5〜3.4、好ましくは平均重合度が約3.0のトリグリセリン混合物等が挙げられる。また、トリグリセリンはグリシドール又はエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであっても良い。反応終了後、必要であれば中和、脱塩、脱色等の処理を行ってよい。
【0026】
本発明においては、上記トリグリセリン混合物を、例えば蒸留又はカラムクロマトグラフィー等自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン3分子からなるトリグリセリンを約50質量%以上、好ましくは約85質量%以上に高濃度化した高純度トリグリセリンが好ましく用いられる。
【0027】
前記トリグリセリン及び脂肪酸から前記トリグリセリン脂肪酸エステルを生成する方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の反応容器に、トリグリセリンと脂肪酸(例えば、パルミチン酸)を約1:1のモル比で仕込み、通常触媒として水酸化ナトリウムを加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下又は常圧下が好ましい。反応時間は通常約0.5〜15時間、好ましくは約1〜3時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、約12以下を目安に決められる。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のトリグリセリン、トリグリセリンモノ脂肪酸エステル、トリグリセリンジ脂肪酸エステル、トリグリセリントリ脂肪酸エステル、トリグリセリンテトラ脂肪酸エステル及びトリグリセリンペンタ脂肪酸等を含む混合物である。
【0028】
エステル化反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和してもよい。その際、エステル化反応の温度が約200℃以上の場合は液温を約180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が約200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってよい。中和後、上記反応混合物を、必要なら冷却して、約100℃〜180℃、好ましくは約130℃〜150℃に保ち、好ましくは約0.5時間以上、更に好ましくは約1〜10時間放置する。未反応のトリグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0029】
上記処理により得られたトリグリセリン脂肪酸エステルを、好ましくは、更に減圧下で
蒸留して残存する未反応のトリグリセリンを留去し、続いて、例えば流下薄膜式分子蒸留
装置又は遠心式分子蒸留装置等を用いて分子蒸留するか、又はカラムクロマトグラフィーもしくは液液抽出等自体公知の方法を用いて精製することにより、モノエステル体を約70%以上含むトリグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0030】
本発明の液状栄養組成物に含まれるジグリセリン脂肪酸エステル及びトリグリセリン脂肪酸エステルの添加量は、液状栄養組成物中の成分及び濃度等により異なるが、液状栄養組成物の質量に対し、総量として0.01〜0.5質量%程度が好ましく、0.025〜0.2質量%程度がより好ましい。添加量が少なすぎると十分なpH抑制効果が得られず、多すぎると食味及びコスト等の面で好ましくない。
【0031】
本発明の液状栄養組成物が含有する栄養素としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質、ビタミン類、ミネラル類が好ましく挙げられる。特に、前記液状栄養組成物としては、タンパク質を含むものが好ましい。
【0032】
前記タンパク質としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、乳タンパク質、鶏卵タンパク質、各種食肉由来のタンパク質等の動物性タンパク質;とうもろこしタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、えんどう豆タンパク質、その他各種豆タンパク質、菜種タンパク質等の植物性タンパク質;鶏卵タンパク質分解物、魚タンパク質分解物、肉タンパク質分解物、コラーゲンペプチド、食肉ペプチド等の動物性タンパク質分解物;及び砂糖大根分解物等の植物性タンパク質分解物等が好ましく挙げられ、原料の供給が容易かつ安価である点から、乳タンパク質及び大豆タンパク質等がさらに好ましく挙げられる。なお、前記タンパク質分解物は、常法によりタンパク質を酵素又は酸等を用い加水分解して製造されたものであってよい。前記タンパク質は、所望により単独あるいは任意の組合せで用いることができる。
【0033】
前記タンパク質は、タンパク質含有物の形態で前記液状栄養組成物に含有されていてもよい。該タンパク質含有物は、タンパク質を含有するものであれば本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、公知の方法により乳、卵、動物又は植物等から水分及び他の成分を除去してタンパク質成分を濃縮及び/又は乾燥したもの、並びに公知の方法により乳、卵、動物又は植物等に含まれるタンパク質成分を分離し分解処理をした後、水分を除去して濃縮及び/又は乾燥したもの等が挙げられる。また、前記タンパク質含有物としては、広く市販のものを用いても良い。前記タンパク質含有物は、例えば、乳タンパク質濃縮物、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、ホエイタンパク質濃縮物、カゼインナトリウム、粉末豆乳、粉末状大豆タンパク質、脱脂大豆等であってもよい。
【0034】
前記タンパク質含有物に対するタンパク質の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、液状栄養組成物に満足なエネルギー等を提供できる等の点から、液状栄養組成物の質量に対し約30質量%以上が好ましく、約70質量%以上がさらに好ましい。また、本発明の液状栄養組成物に対する前記タンパク質含有物の含有量は、液状栄養組成物の生産性が高く、経口投与時に飲みやすく、経管投与時にチューブ内で適切な流動性が保たれる等の点から、液状栄養組成物の質量に対し2〜12質量%が好ましく、3.5〜12質量%がより好ましく、3.5〜10質量%がさらに好ましい。
【0035】
前記脂質としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、一般に食用として利用されている脂質を用いることができる。例えば、大豆油、コーン油、綿実油、シソ油、ヤシ油、菜種油、米油、ゴマ油、アマニ油等の植物油;イワシ油、タラ油、タラ肝油等の魚油;長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等の必須脂肪酸源;牛脂及び豚脂等を、所望により単独あるいは任意の組合せで用いることができる。本発明の液状栄養組成物が脂質を含有する場合、その含有量は求められる栄養素により適宜調節することが可能であるが、液状栄養組成物の質量に対し0.5〜25質量%程度が好ましく、1〜5質量%程度がより好ましい。なお、脂質含有量が高すぎると流動状態において粘度が上昇し易くなり、経口投与時に飲みにくい、経管投与時にチューブ内で流動性が悪い等の不具合が生じる場合がある。
【0036】
前記炭水化物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、一般に食用として利用されている糖質等の炭水化物を用いることができる。例えば、澱粉類;食物繊維類;結晶セルロース類;グルコース、フラクトース等の単糖類;マルトース、蔗糖等の二糖類;キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトール等の糖アルコール類;デキストリン、難消化性デキストリン、シクロデキストリン等の多糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトスクロース等のオリゴ糖類等を、所望により単独あるいは任意の組合せで用いることができる。本発明の液状栄養組成物が炭水化物を含有する場合、その含有量は、求められる栄養素により適宜調節することが可能であるが、液状栄養組成物の質量に対し0.5〜35質量%程度が好ましく、10〜35質量%程度がより好ましい。
【0037】
前記ミネラルとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、カルシウム、リン、硫黄、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウム、鉄、フッ素、ケイ素、亜鉛、マンガン、銅、セレン、ヨウ素、モリブデン、クロム、コバルト等が挙げられ、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄等が好ましく挙げられる。前記ミネラルは、塩の形態で添加してもよい。
【0038】
前記ビタミンとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、ニコチン酸アミド、パントテン酸、及び葉酸等が挙げられる。
【0039】
前記ミネラル及びビタミンの量は、「日本人の食事摂取基準 2010年度版(厚生労働省)」に記載の推奨量、目安量、目標量及び上限量等に従い適宜設定することが可能である。前記ミネラル及びビタミンは、所望により単独あるいは任意の組合せで用いることができるが、求められる効果に応じ複数を組み合わせて用いることが好ましい。
【0040】
本発明の液状栄養組成物は、油脂の乳化安定性、流動性及び物性等を適正化する等目的で増粘剤を含有していてもよい。前記増粘剤としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、カラギナン(κ、ι、λ、又はそれらのハイブリッド等)、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸アンモニウム等)、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ガラクトマンナン(ローカストビーンガム、タラガム、グア−ガム等)、タマリンドシードガム(側鎖を除去したものを含む)、カシアガム、サイリウムシードガム、大豆多糖類、キサンタンガム、カロブビーンガム、ペクチン(ローメトキシ型、ハイメトキシ型、ローメトキシアミド型、シュガービート由来ペクチン等)、アラビアガム、ガッティーガム、トラガントガム、カラヤガム、寒天、プルラン、カードラン、マクロホモプシスガム、ゼラチン、セルロース、セルロース誘導体(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、微小繊維状セルロース、水溶性ヘミセルロース、ジェランガム、グア−ガム酵素分解物、デンプンリン酸エステルナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム等の加工・化工でん粉類、ポリアクリル酸ナトリウム、未加工でん粉(生でん粉)、デキストリン(DE)、デキストラン等が挙げられる。前記増粘剤は、所望により単独あるいは任意の組合せで用いることができる。本発明の液状栄養組成物が増粘剤を含有する場合、その含有量は、求められる物性等により適宜調節することが可能であるが、液状栄養組成物の質量に対し0.001〜30質量%程度が好ましく、0.005〜5質量%程度がより好ましい。
【0041】
本発明の液状栄養組成物は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有していてもよい。前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル等が挙げられ、溶解性及び乳化安定性等の面から、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等が好ましく挙げられる。前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、所望により単独あるいは任意の組合せで用いることができる。本発明の液状栄養組成物にグリセリン有機酸脂肪酸エステルが含まれる場合、その含有量は、油脂類の配合量等により適宜調節することが可能であるが、液状栄養組成物の質量に対し0.01〜2質量%程度が好ましく、0.05〜0.5質量%程度がより好ましい。
【0042】
さらに、本発明における液状栄養組成物は、長期的な品質の維持及び良好なチューブ流動性を確保する等の目的により、その他の乳化剤を含んでいてもよい。該乳化剤としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル(本発明のジグリセリン脂肪酸エステル及びトリグリセリン脂肪酸エステルを除く)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、大豆レシチン及び卵黄レシチン等の油分を含む液状レシチン、液状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン、レシチンを酵素で処理した酵素分解レシチン及び酵素処理レシチン、ステアロイル乳酸塩(ナトリウム、カルシウム等)並びに既存添加物に分類される乳化剤(例えば、ユッカ抽出物等)が挙げられる。前記乳化剤は、所望により単独あるいは任意の組合せで用いることができる。
【0043】
本発明の製造方法は、(i)原材料を調合して調合液を得る工程(以下、調合工程ともいう)、及び(ii)該調合液を50℃以上で保持する工程(以下、保持工程ともいう)を備える。
【0044】
前記調合工程では、原材料を同時に混合しても良く、何度かに分けて混合しても良い。調合時間は、原材料により異なるが、通常1〜180分程度であり、10〜120分程度が好ましい。また、調合工程における温度は、原材料により異なるが、通常40〜90℃程度であり、50〜65℃程度が好ましい。温度が低すぎると十分に混合されない等の恐れがあり、温度が高すぎると変質等の恐れがあるため、好ましくない。
【0045】
前記調合工程においては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、原材料を調合するためにプロペラ型の攪拌翼を装備した汎用の攪拌機、連続式分散機(プライミクス社製 T.K.ホモミクサー等)、及び連続高速混合ポンプ(オサム工業社製 パウ・ブレンダー等)等が好ましく用いられる。また、前記調合工程では、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、タンパク質含有物や乳化剤の分散、溶解性及び液状栄養組成物の流動性等を高めるため、例えば、イオン交換水、水道水及び蒸留水等の溶媒を添加してもよい。前記溶媒としては、所望に応じて炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウム等の無機酸のアルカリ金属塩;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等を用いて、pH7以上のアルカリ性に調整したものであってもよい。前記溶媒を用いる場合、前記溶媒は、本発明の液状栄養組成物全体に対し、50〜99質量%程度であることが好ましく、65〜98質量%であることがより好ましい。
【0046】
前記保持工程は、前記調合工程で得られた調合液を高温で保持する工程である。前記高温とは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常約40℃以上であり、約50℃以上が好ましく、約55℃以上がより好ましい。前記高温の上限としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常約80℃以下であり、約70℃以下が好ましく、約65℃以下がより好ましい。温度が高すぎると、pHの低下、臭気又は凝集等の発生の恐れがあり、温度が低すぎると、分散性又は流動性等の性質が好ましく維持されない。また、前記保持工程では、5rpm〜5000rpm程度で撹拌を行うことが好ましい。前記保持工程によって、例えば次の工程に供されるまでの間等の時間も、分散性及び流動性等の好ましい性質を維持することができる。
【0047】
本発明の製造方法によると、前記保持工程が長時間にわたる場合でも液状栄養組成物のpHが一定に保たれるとともに臭気及び凝集等の品質低下が生じない。前記長時間とは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、約4時間以上であってもよく、好ましくは約6時間以上であってもよく、さらに好ましくは約12時間以上であってもよく、最も好ましくは約18時間以上であってもよい。また、前記長時間の上限としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常約48時間であり、好ましくは約36時間である。
【0048】
本発明の液状栄養組成物の製造方法は、調合工程の後、所望により予備乳化工程、均質化工程及び加熱・殺菌工程等を備えていてもよい。前記均質化工程とは、例えば、前記調合液が、高圧式均質化処理機等を用いて均質化される工程である。該高圧式均質化処理機としては、例えば、APVゴーリンホモジナイザー(APV社製)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイデックス社製)、高圧均質機(HV−OH−3.7SS型;イズミフードマシナリ社製)、アルティマイザー(スギノマシン社製)及びナノマイザー(大和製罐社製)、等が挙げられる。前記均質化は、例えば温度約60〜70℃、圧力約15〜150MPaの条件で約1〜3回処理することにより行われ得る。
【0049】
前記加熱・殺菌工程における加熱・殺菌方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、レトルト殺菌処理、UHT(Ultra High Temperature)殺菌処理等が挙げられる。前記レトルト殺菌は、例えば、本発明の液状栄養組成物を金属容器、耐熱性パウチ袋等に充填して密封し、レトルト殺菌機により、通常約121〜124℃、約20〜40分間の加熱条件で行われ得る。前記UHT殺菌は、例えば、本発明の液状栄養組成物に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式、及び本発明の液状栄養組成物を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式等の直接加熱方式、プレートやチューブ等表面熱交換器を用いる間接加熱方式等が挙げられ、好ましくはスチームインジェクション式又はスチームインフュージョン式殺菌装置を用いる方法である。これらの殺菌装置を用いるUHT殺菌は、通常約130〜155℃で行われる。また、殺菌時間は通常約2〜60秒程度で行われる。UHT殺菌された本発明の液状栄養組成物は、無菌的にPETボトル並びに紙、アルミ箔及びポリエチレン等のラミネート材で形成された容器等に充填され、密栓されるのが好ましい。
【0050】
また、本発明の液状栄養組成物の製造方法は、前記調合工程中、又は前記調合工程の後、前記加熱・殺菌工程を有する場合は、該加熱・殺菌工程より前に、pH調節工程を有していてもよい。該pH調節工程を有することで、より品質の安定した液状栄養食品組成物を得ることができる。前記pH調節工程において、液状栄養組成物のpHは約6.5〜7
.5に調節されることが好ましく、約6.8〜7.2に調節されることがより好ましい。pHの調節方法としては、本発明の効果を妨げない限り、広く公知の方法を用いることができる。例えば、酸性溶液及び/又はアルカリ性溶液を適宜添加すること等によってpHを調節してもよい。前記酸性溶液としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、食品添加物等として人体に安全であるものが好ましく、例えば、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウム等の無機酸のアルカリ金属塩;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。無水クエン酸水溶液、乳酸水溶液及びグルコン酸水溶液等が挙げられる。前記アルカリ性溶液としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、食品添加物等として人体に安全であるものが好ましく、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、及び炭酸水素ナトリウム水溶液等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
実施例に記載の試験における方法及び評価基準等は以下の通りである。
(1)pH測定
試料を室温(20〜25℃)まで冷却後、コンパクトpHメーター(B−212型;堀場製作所社製)を用いて行った。
【0053】
(2)官能試験I(臭気)
試料を容量100mlのビーカーに25ml秤取り、パネラー3名で下記判定基準の官能検査をおこなった。なお、判定はパネラーがビーカー内の香気に異臭が感じられるか否かを回答し、3名全員が「異臭が感じられない」と回答した場合は下記判定基準の○評価、3名全員が「異臭が感じられる」と回答した場合は下記判定基準の×評価、回答が分散した場合は下記判定基準の△評価とした。
○・・・まったく異臭は感じられない。
△・・・わずかに異臭を感じる。
×・・・酸臭等の異臭を強く感じる。
【0054】
(3)官能試験II(凝集)
試料を80mL耐圧瓶に分け取り123℃で20分のレトルト殺菌処理(高温高圧調理殺菌装置RCS−40RTG;日阪製作所製)を行った後、パネラー3名で目視確認し、凝集物の発生が認められるか否かを回答し、3名中3名が同一回答の場合はその回答を選択、回答が分散した場合は下記判定基準の△評価とした。
○・・・溶液調整直後と大差なし。
△・・・わずかに凝集物が生じ品質の変化が認められる。
×・・・明らかに凝集物が発生。
【0055】
(4)高温菌数の測定
液状栄養食品組成物もしくは従来の方法で調合されたタンパク質含有物の調合液中で増殖した高温菌の定量分析は塗抹平板培養法(衛生試験法・注解2000;2000年2月金原出版社発行)に準じた方法でおこなった。該塗抹平板培養法とは、試料を寒天平板培地上に塗抹し、培養後発生した集落数から試料中の静菌数を算出する方法である。但し、細菌検査試料液を塗抹した寒天平板は55℃で48時間培養し、定法により試料1ml中の菌数を算出した。
【0056】
(実施例1)
水酸化カリウム(食品添加物:和光純薬工業社製)1.4g、イオン交換水3674.6gを5Lステンレス製ジョッキに分け取りT.K.ホモミクサー(MARKII型 3500rpm;プライミクス社製)を用いて乳タンパク質濃縮物(商品名:TMP タンパク質含有量78質量%;森永乳業社製)320g及びジグリセリンラウリン酸エステル(商品名:ポエムDL−100 モノエステル体含有量75%;理研ビタミン社製)4gを同時に少量ずつ添加していき分散させた。その後ウォーターバス(サーマックス TM−1;アズワン社製)を用いて該分散液を60℃に昇温させ、その温度を維持した状態で10分間分散、攪拌処理を行い4000gの混合液を得た。
【0057】
水酸化カリウム(食品添加物;和光純薬工業社製)の5質量%水溶液及び無水クエン酸(食品添加物;扶桑化学工業社製)の5質量%水溶液を用いて、前記混合液のpHが7.0程度になるよう調節し、60℃で10分間分散、攪拌処理を行って調合液を得た。前記T.K.ホモミクサーをスリーワンモーター(HEIDON BL600 500rpm;新東科学社製)に変更し、前記調合液を撹拌しながら60℃で12時間保持し、本発明の液状栄養組成物を得た。該液状栄養組成物に関し、前記pH測定及び官能試験を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2〜6、比較例1〜4)
実施例1においてジグリセリンラウリン酸エステルを、それぞれ表1に記載の乳化剤に変更(比較例1は乳化剤無添加)した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜6及び比較例1〜4の液状栄養組成物を得、各液状栄養組成物に関しpH測定及び官能試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

・ジグリセリンラウリン酸エステル…商品名 ポエムDL-100;理研ビタミン社製;モノエステル体75%
・ジグリセリンミリスチン酸エステル…商品名 ポエムDM-100;理研ビタミン社製;モノエステル体80%
・ジグリセリンパルミチン酸エステル…商品名 ポエムDP-95RF;理研ビタミン社製;モノエステル体80%
・ジグリセリンステアリン酸エステル…商品名 ポエムDS-100A;理研ビタミン社製;モノエステル体80%;
・ジグリセリンオレイン酸エステル…商品名 ポエムDO-100V;理研ビタミン社製;モノエステル体80%;
・トリグリセリンパルミチン酸エステル…商品名 ポエムTRP-97R;理研ビタミン社製;モノエステル体80%
・グリセリンパルミチン酸エステル…商品名 エマルジーP-100;理研ビタミン社製;モノエステル体95%以上
・テトラグリセリンステアリン酸エステル…商品名 ポエムJ-4081V;理研ビタミン社製;モノエステル体50%以下
・デカグリセリンステアリン酸エステル…商品名 ポエムJ-0081HV;理研ビタミン社製;モノエステル体50%以下
【0060】
比較例1〜4では、12時間経過した段階でpHが5.7〜5.9まで低下し、臭気及び凝集等、品質の劣化が認められた。それに対し、ジグリセリン脂肪酸エステル又はトリグリセリン脂肪酸エステルを添加した本発明の液状栄養組成物である実施例1〜6では、12時間保持後もpHの大幅な低下は認められず、また調合液に不快な臭気や凝集も認められなかった。
【0061】
(実施例7〜13)
実施例6において乳タンパク質濃縮物を表2に記載のタンパク質含有物に変更し、該タンパク質含有物が混合液4000gに対し表2に記載の濃度(含有量)となるよう、イオン交換水及び該タンパク質含有物の使用量を変更したこと、並びに乳化剤の使用量を8gに変更したこと以外は実施例6の調合液と同様にして、実施例7〜13の調合液を得た。該調合液を50℃で18時間保持したもの、60℃で12時間保持したもの、65℃で6時間保持したもの及び65℃で12時間保持したものに関し、それぞれpH測定及び官能試験を行った。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

・乳タンパク質濃縮物…商品名 TMP;森永乳業社製;タンパク質78質量%
・脱脂粉乳…商品名 全酪脱脂粉乳;全国酪農業協同組合連合会社製 タンパク質36質量%
・ホエイタンパク質濃縮物…商品名 W.P.C-34;Saputo Cheese USA社製;タンパク質34質量%
・粉末状大豆タンパク質…商品名 フジプロCLE;不二製油社製;タンパク質91質量%
・カゼインナトリウム…商品名 Sodium Caseinate 180;Fonterra LTD社製;タンパク質91質量%
・粉末豆乳…商品名 豆乳パウダーIM-100;井村屋製菓社製;タンパク質48質量%
【0063】
表2の結果から、実施例7〜13における本発明品は、50〜65℃の温度で最大18時間保持しても、そのpHが低下することはなく高温菌の増殖による不快な臭気及び凝集の発生等は認められず良好な品質を維持していた。また、タンパク質含有物の種類及び濃度を変更しても本発明の効果が発揮されることが確認された。
【0064】
(実施例14〜20)
実施例6において乳化剤(トリグリセリンパルミチン酸エステル)及び乳タンパク質濃縮物(商品名:TMP タンパク質含有量78質量%;森永乳業社製)が混合液4000gに対し表3に記載の濃度(含有量)となるよう、乳化剤、乳タンパク質濃縮物及びイオン交換水の使用量を変更した以外は実施例6の調合液と同様にして実施例14〜20の調合液を得た。該調合液を50℃で24時間保持したもの、60℃で24時間保持したもの、65℃で12時間保持したもの及び65℃で24時間保持したものに関し、それぞれpH測定及び官能試験を行った。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3記載の保持条件において、実施例14〜20では、pHは全て6.5以上を維持しており、また官能的にも不快な臭気や凝集等は発生せず品質の劣化は認められなかった。これらの結果から、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はトリグリセリン脂肪酸エステルは、本発明の液状栄養組成物全体に対し0.01〜0.5質量%程度存在することが好ましいと確認された。
【0067】
(実施例21)
乳タンパク質濃縮物(商品名:TMP タンパク質含有量78質量%;森永乳業社製)0.8kg、ジグリセリンパルミチン酸エステル(乳化剤1;商品名:ポエムDP−95RF モノエステル体80%;理研ビタミン社製)15g、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(乳化剤3;商品名:ポエムB−30;理研ビタミン社製)1g、グラニュー糖(商品名:グラニュー糖MG;大日本明治製糖社製)0.6kg、及びデキストリン(商品名:シルバースイートK.D.L.−A75C;日本コーンスターチ社製)1.4kgをイオン交換水に分散させ60℃まで加温し各成分を分散、溶解し、混合液を得た。
【0068】
該混合液に大豆白絞油(日清オイリオグループ社製)0.4kg、ビタミンミックス(商品名:ビタミンエースミックスMA−11;理研ビタミン社製)15gを混合した後、得られた混合液のpHを水酸化カリウム(食品添加物;和光純薬工業社製)と無水クエン酸(食品添加物;扶桑化学工業社製)を用いてpH7.0に調整し10kgの調合液を得た。該調合液をプロペラ攪拌機で攪拌しながら60℃で14時間保持した後、T.K.ホモミクサー(MARKII型 10000RPM;旧特殊機化工業社製)で予備乳化処理を行い、次いで高圧均質機(HV−OH−3.7SS型;イズミフードマシナリ社製)を用いて1段目55Mpaで、2段目5Mpaでの条件で均質化処理を行い、液状栄養組成物を得た。該液状栄養組成物に関し、前記pH測定及び官能試験を行った。結果を表4に示す。
【0069】
前記液状栄養食品組成物のうち4kgを200mlずつ耐熱性パウチ袋に充填、密封後、123℃で5分間レトルト殺菌処理(RSC−40RTG;日阪製作所社製)した。残りの液状栄養食品組成物は152℃で6秒間UHT殺菌処理(小型連続UHT装置;パワーポイント社製)した後、無菌処理済みの350ml容量のPETボトルに150mlずつ無菌充填した。作製した流動食に関し、前記pH測定及び官能試験を行った。結果を表4に示す。
【0070】
(実施例22〜24)
実施例21において前記乳化剤1及び3を表4に記載の乳化剤に変更した以外は実施例21と同様にして、作製した各試料に関し、官能試験を行った。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

乳化剤1:ジグリセリンパルミチン酸エステル
(商品名 ポエムDP-95RF;理研ビタミン社製;モノエステル体80%)
乳化剤2:トリグリセリンパルミチン酸エステル
(商品名 ポエムTRP-97R;理研ビタミン社製;モノエステル体80%)
乳化剤3:ジグリセリンミリスチン酸エステル
(商品名 ポエムDM-100;理研ビタミン社製;モノエステル体80%)
乳化剤4:グリセリンコハク酸脂肪酸エステル
(商品名 ポエムB-30;理研ビタミン社製)
乳化剤5:グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル
(商品名 ポエムW-60;理研ビタミン社製)
【0072】
実施例21〜24では60℃で14時間保持しても、調合液のpHの著しい低下や不快な臭気、凝集は認められなかった。また、実施例21〜24の液状栄養食品組成物をレトルト加熱殺菌やUHT加熱殺菌処理して最終製品である流動食製品に加工しても、殺菌後の流動食はpH6.5以上を維持しており、なおかつ不快な臭気や凝集の発生は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法によると、調合液を高温下で長時間(例えば、50℃以上で4時間以上)保持しても、pHが一定に保たれるとともに臭気及び凝集等の品質低下が生じないため、より安全な液状栄養組成物を提供することが可能となる。また、製造工程において、調合液が高温下で長時間滞留等しても、品質不良による廃棄の必要性が著しく低減されるため、コストの面でも非常に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)原材料を調合して調合液を得る工程、及び(ii)該調合液を50℃以上で保持する工程を備える液状栄養組成物の製造方法であって、前記(i)調合液を得る工程が、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はトリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程を含むことを特徴とする液状栄養組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−66419(P2013−66419A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207061(P2011−207061)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】