説明

液相/固相金属接触界面観察装置

【課題】大規模な装置を用いることなく、液相金属と固相金属との関与する種々の組織形成反応における素過程や律速過程などの観察を与える装置の提供を目的とする。
【解決手段】筒状試料ホルダー(10)は、その一方の端部を閉塞するように固相金属(21)を配した該端部を下側に鉛直に配置される。加熱手段(11)は、液相金属(22)を固相金属(21)から隔離しながらこれらをともに加熱する。搬送手段(16)は、加熱された液相金属(22)を固相金属(21)上に搬送する。ここで試料ホルダー(10)の端部近傍の筒状内面に粗面(10’)が与えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相金属及び固相金属の間の種々の組織形成反応を観察するための装置に関し、特にその組織形成反応における素過程や律速過程などの観察を与えるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Sn、Zn、Al等からなる熔融金属をFe基合金の表面に被覆して耐食性を高めた表面処理鋼板が製缶産業や自動車産業において広く使用されている。また、最新の環境対応型の電子機器では、Sn基無鉛はんだ合金を用いてCu基導電性合金を熔融はんだ接合している。更に、自動車の軽量化と高強度化を目指してAl基合金とFe基合金を異材接合する技術が開発されている。このような表面処理過程や接合過程では、異材接触界面における低融点液相金属と高融点固相金属の反応拡散に起因する組織形成反応が進行する。また各製品の材料特性は、このような組織形成反応の形態に依存して変化する。このため、使用目的に沿った最適な特性を発揮する表面処理鋼板、はんだ接合部、異材接合材等を開発するには組織形成反応の挙動に関する知見が重要である。
【0003】
例えば、非特許文献1では、熔融した純Alの液体金属槽の中に純Fe試片を浸漬させて等温加熱処理した際の組織形成反応の挙動について観察した結果を述べている。熔融した液相Al及び固相Feの界面にはAl及びFeの2種類の金属からなる化合物FeAlが観察される。一方、他の化合物、例えば、FeAl、FeAl及びFeAlなどは明確には認められていない。
【0004】
一方、非特許文献2においても、熔融した純Alの液体金属槽の中にFe試片を浸漬させて等温加熱処理した際の組織形成反応の挙動について観察した結果を述べている。熔融した液相Al及び固相Feの界面には、非特許文献1と同様にFeAlが観察されるが、更にAl側にはFeAlが薄く層状に観察されている。
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・マテリアルズ・サイエンス誌、第16巻、1981年、第1748頁〜第1756頁
【非特許文献2】マテリアルズ・サイエンス・アンド・エンジニアリングA誌、第249巻、1998年、第167頁〜第175頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1及び2で述べられている液相金属及び固相金属間での組織形成反応の挙動の観察結果では、観察される化合物が異なっている。これは液相金属と固相金属の間において各種の過程が同時に生じ、また液相金属中では重力や表面張力などの影響が大きく、その組織形成反応の挙動が変化し易いためでもある。
【0006】
そこで液相金属及び固相金属の間での組織形成反応における素過程や律速過程などの観察を与える装置として、例えば、高融点金属の周囲を低融点金属で覆って磁場中にこれを浮遊させ、レーザー照射して加熱する装置が提案される。同心球状の異種金属層間に反応化合物層が観察できる。しかしながら、このような装置は非常に大規模であって、組織形成反応の解析は煩雑な三次元計算で行う必要がある。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、大規模な装置を用いることなく、液相金属及び固相金属の間での種々の組織形成反応における素過程や律速過程などの観察を与えるための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による固相金属に液相金属を接触させてその接触界面近傍の観察を行うための装置は、前記固相金属を配した端部を下側にして鉛直に配置される筒状の試料ホルダーと、前記液相金属を前記固相金属から隔離しながら前記液相金属及び前記固相金属をともに加熱する加熱手段と、加熱された前記液相金属を前記固相金属上に搬送する搬送手段と、を含み、前記試料ホルダーの前記端部近傍の筒状内面に粗面を与えたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、大規模な装置を用いることなく、液相金属中のマランゴニ対流及び熱対流の形成を抑止することができ、液相金属及び固相金属の間における種々の組織形成反応の素過程や律速過程を観察できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による1つの態様の固相金属に液相金属を接触させてその接触界面近傍の観察を行うための装置は、固相金属を配した端部を下側にして鉛直に配置される筒状の試料ホルダーと、液相金属を固相金属から隔離しながら液相金属及び固相金属をともに加熱する加熱手段と、加熱された液相金属を固相金属上に搬送する搬送手段と、を含み、固相金属を配した試料ホルダーの端部近傍の筒状内面に粗面を与えたことを特徴としている。かかる態様において、加熱手段によって低融点液相金属を高融点固相金属から隔離しながら両金属を加熱でき、その後、搬送手段によってこれらを接合できる。つまり温度の等しい液相金属と固相金属とを接合できるので、液相金属中における熱対流を抑制できる。一方、低融点液相金属の表面に濃度勾配が存在すれば、これによって生じる密度の不均一性に起因するマランゴニ対流が生成する。しかしながら、試料ホルダーの固相金属の配置される端部近傍において、液相金属の搬送される筒状内面に粗面が与えられているので、ピン留め効果によりマランゴニ対流が抑制される。このようにして得られた接合試料によれば、純粋な拡散による物質移動に支配された液相金属と固相金属との間の組織形成反応における素過程や律速過程を抽出評価できる。しかも評価を一次元の計算で行うことができ、その解析精度も非常に高い。
【0011】
上記態様において、試料ホルダーはセラミックスの如き焼結体からなる。焼結体の表面粗度は、マランゴニ対流を抑制するように液相金属の種類に応じて焼結される粒子の大きさ等で容易に調整され得る。
【0012】
また上記態様において、試料ホルダーはその軸線方向と垂直な断面において対称性を有した形状、例えば、円筒状であることが好ましい。
【0013】
また上記した1つの態様において、液相金属は試料ホルダーの固相金属を配される端部と反対側の端部近傍に配置されて溶融する。また搬送手段は液相金属を固相金属に接触しないように試料ホルダーを鉛直方向から傾斜せしめた状態に保持した後にこれを鉛直となるように移動せしめ得る。かかる態様において、試料ホルダーの内面に沿って液相金属が流れないようにするストッパを試料ホルダーの内面に突出形成することが好ましい。
【0014】
また他の1つの態様において、試料ホルダーは封止されたカプセルであって、搬送手段は固相金属よりも液相金属を下方に配置するように試料ホルダーを鉛直方向から傾斜せしめた状態に保持し得る。液相金属は、試料ホルダーの内面に沿って固相金属側へは流れないので、上記したストッパが不要となる。かかる態様において、試料ホルダーの内面に沿って固相金属が落下しないようにする突起を試料ホルダーの内面に突出形成することが好ましい。固相金属が試料ホルダーの内面に沿って落下して液相金属に接触することを確実に防止できる。また、カプセル状の試料ホルダーの内部を真空若しくは特定のガスで充填して液相金属及び固相金属の酸化を確実に防止できる。
【0015】
また上記態様において、試料ホルダーの向きを鉛直に維持したまま水中に焼き入れる焼き入れ手段を更に有する。所定の等温加熱処理後の組織を凍結させて、より詳細な観察を可能とする。
【0016】
次に本発明による1つの実施例の装置について図1乃至図8を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、筒状の試料ホルダー10は、その開口端部の一方に高融点金属試料21を取り付けられるとともに、他方に低融点金属試料22を配置される。試料ホルダー10は、その内部をアルゴンなどの不活性ガスによって置換された加熱炉11の内部に設置される。
【0018】
加熱炉11はマッフル炉などの外部加熱炉である。加熱炉11の底部には貫通穴14aが設けられており、シャッター14がこれを開閉自在に閉塞している。貫通穴14aの直下には、水を蓄えた焼き入れ用の水槽12が設置されている。後述するように、試料ホルダー10は、加熱炉11の内部から貫通穴14aを通過して水槽12内の水で急速冷却される。すなわち、試料ホルダー10内の試料(21、22’)を焼き入れることが出来る。
【0019】
試料ホルダー10は、筒状、好ましくは円筒状の管体であって、セラミックスの粉体を焼結した焼結体からなる。試料ホルダー10の内面全体、少なくとも高融点金属試料21を配される端部近傍内面には粗面10’が与えられる。粗面10’は、後述するように、熔融した低融点金属試料22(液相金属試料22’)におけるマランゴニ対流をピン留めする。セラミックスの粉体は、かかる効果を得られるよう低融点金属22の種類、熔融温度などに応じてその粒度などを選択することが好ましい。試料ホルダー10の材質は、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア、ムライトなどからなり、特に熔融した低融点金属試料22(液相金属試料22’)と反応をしない材料であることが好ましい。
【0020】
試料ホルダー10の開口端部の一方には、テーパー付けされた高融点金属試料21が取り付けられる。一方、低融点金属試料22は、カプセル30内に入る大きさであればどのような形状であっても良く、もう一方の開口端部近傍に配される。試料ホルダー10は、回転治具16に着脱自在に保持されており、回転治具16は試料ホルダー10を鉛直に配置する位置(等温加熱処理位置)及びこれから傾斜した位置(予加熱位置)の間で試料ホルダー10を移動せしめ得る。
【0021】
次に上記した装置の使用例について図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0022】
試料ホルダー10の開口端部の一方には、これを閉塞するようにテーパー付けされた高融点金属試料21が取り付けられる。かかる試料ホルダー10を水平になるように回転治具16にこれをセットする。試料ホルダー10のもう一方の開口端部には、低融点金属試料22が配される。この状態で加熱炉11の内部をアルゴンなどの不活性ガスで置換する。
【0023】
加熱炉11の図示しない温度コントローラにより、加熱炉11を所定の温度、すなわち低融点金属試料22の融点以上の温度まで加熱する。高融点金属試料21及び低融点金属試料22は試料ホルダー10の離間した位置に配置されているから、互いに接触することなく同じ温度まで加熱される。やがて低融点金属試料22は熔融して液相金属22’となる。このとき液相金属22’は表面張力により液滴となって一般に試料ホルダー10の内面に沿って移動することはない。
【0024】
なお、図4に示すように、試料ホルダー10の内面に沿って液相金属22’が流れないようにするストッパ18を設けた試料ホルダー10を使用してもよい。かかる場合、液相金属22’が端部A(図4参照)から外部へ流出しないよう、あらかじめ試料ホルダー10の端部Bを端部Aよりも下方に位置するように試料ホルダー10を回転治具16によって保持しておく。
【0025】
高融点金属試料21及び液相金属22’が完全に同じ温度となるように加熱炉11内でこのまま十分な時間だけ予加熱を行う。
【0026】
図1及び図3に示すように、予加熱終了後、回転治具16を操作して高融点金属試料21が液相金属22’の下方に位置するように試料ホルダー10を鉛直に配置する。液相金属22’は高融点金属試料21の上に落下して拡散対23を形成する。このように温度の等しい高融点金属試料21と液相金属22’とを接触させているので、液相金属22’中における熱対流は生じない。
【0027】
このまま等温加熱処理を行うと、高融点金属試料21及び液相金属22’との間の反応拡散現象により、その界面近傍では化合物の形成や液相金属22’への化合物の熔解などが生じる。かかる反応拡散現象により、液相金属22’中には濃度勾配が生じて、その表面の密度の不均一性に起因するマランゴニ対流が生じようとする。しかしながら試料ホルダー10の高融点金属試料21の配された端部近傍の筒状内面には粗面10’が与えられているので、マランゴニ対流を粗面10’がピン留めして抑制する。
【0028】
所定時間の経過後、加熱炉11のシャッター14を開くとともに、回転治具16から試料ホルダー10を開放する。試料ホルダー10は、鉛直を維持したまま貫通穴14aを通過して水槽12内へと導かれる。拡散対23は試料ホルダー10の外周及び内部に侵入した水によって急激に冷却される。すなわち、液相金属22’は再び固相の凝固金属試料22’’となって高融点金属試料21に接合した一体の拡散対23となる。
【0029】
図5に示すように、拡散対23を試料ホルダー10から取り出して高融点金属試料21及び凝固金属試料22’’の界面24に垂直に回転軸を含む面でこれを切断する。切断面を研磨して、高融点金属試料21及び凝固金属試料22’’の界面24の観察を行うと、液相金属及び固相金属の間における種々の組織形成反応の素過程や律速過程を観察できる。また、必要に応じて各種の観察ができる。
【0030】
なお、上記した実施例において、図6又は図7に示すように、高融点金属試料21及び低融点金属試料22を円筒形のカプセル30内に封入しても良い。カプセル30の内部は真空引きするか、若しくは、加熱時の気体の膨張を考慮した量のアルゴンなどの不活性ガスを導入する。
【0031】
高融点金属試料21は、カプセル30の内径よりもわずかに小さい直径を有する円柱状の試料である。一方、低融点金属試料22は、カプセル30内に入る大きさであればどのような形状であっても良い。高融点金属試料21及び低融点金属試料22は、カプセル30の両端部近傍に互いに接触しないようにそれぞれ配置される。つまり、カプセル30の内面に沿って高融点金属試料21が滑り落ちて低融点金属試料22に接触しないようにするために突起31をカプセル30の内面に突出形成する。突起31は、例えば、カプセル30の一部を内側へ向けてつぶして得ても良い。
【0032】
試料ホルダー10は、高融点金属試料21の配された端部Bを低融点金属試料22の配された端部Aよりも上方に位置するように回転治具16によって保持される。このとき高融点金属試料21は突起31によって低融点金属試料22側に向けて落下しない。
【0033】
かかる実施例では、加熱炉11の内部をアルゴンなどの不活性ガスで置換する必要がない。上記した実施例と同様に予加熱後、回転治具16を操作して高融点金属試料21が液相金属22’の下方に位置するようカプセル30を回転して、鉛直に配置する。すなわち、図8に示すように、液相金属22’は、カプセル30の内部において突起31を越えて高融点金属試料21の上に落下して、拡散対23を形成する。拡散対23の焼き入れ及び観察については、上記した実施例と同じであるので省略する。
【0034】
以上のように、上記した実施例によれば、液相金属中のマランゴニ対流及び熱対流の形成を抑止することができるので、純粋な拡散による物質移動に支配された液相金属及び固相金属の間における種々の組織形成反応の素過程や律速過程を観察できる。
【0035】
次に、カプセル30を用いた上記した実施例において、Cu及びAlを高融点金属試料21及び低融点金属試料22にそれぞれ選択して行った実験結果について説明する。
【0036】
直径8mm及び長さ150mmの純Cu(純度99.9%)からなる丸棒をシリカチューブに真空封入して900℃で2時間焼鈍加熱処理した。この純Cu丸棒試片を5mmの長さに切断して、切断面を600〜4000番の湿式エメリー紙で機械研磨して高融点金属試料21を得た。一方、直径6mmの純Al(純度99.9%以上)の丸棒を長さ9.6mmに切断して質量0.73gの丸棒の低融点金属試料22を得た。
【0037】
図6に示すように、高融点金属試料21及び低融点金属試料22は、内面全体に粗面10’を有する内径8.5mmの焼結ままのシリカからなるカプセル30に真空封入した。なお、カプセル30は、高融点金属試料(Cu)21及び低融点金属試料(Al)22をその両端部にそれぞれ寄せた後、中央部よりも高融点金属試料(Cu)21の配置された端部側においてその径の一部収縮させ、若しくは、つぶして突起31を形成した。
【0038】
図7に示すように、カプセル30は、加熱炉11(図1参照)の内部において高融点金属試料(Cu)21側の端部Bを上に、低融点金属試料(Al)22側の端部Aを下にして垂直に配置して回転治具16に取り付けた。このままカプセル30を所定温度まで加熱して30分間保持した。
【0039】
図8に示すように、回転治具16を操作して高融点金属試料(Cu)21が低融点金属試料(Al)の熔融した液相金属(Al)22’の下方にくるように、カプセル30を180°回転させて、鉛直に配置する。液相金属(Al)22’は高融点金属試料(Cu)21の上に落下して拡散対23を形成する。このまま所定時間等温加熱処理を行う。
【0040】
図1を参照して、加熱炉11のシャッター14を開くとともに、回転治具16から試料ホルダー10を開放する。試料ホルダー10は、図示しない保持具によってその鉛直を維持したまま加熱炉11の貫通穴14aを介して水槽12内へと導かれる。カプセル30は急速に冷却されると割れてその内部に水が侵入し、拡散対23を急速に冷却する。
【0041】
図5を参照して、拡散対23を水槽12から取り出して、接合界面24に垂直で回転軸を含む面でこれを切断する。切断面は鏡面に研磨し、金属組織を走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子組成象(BEI)により観察し、各成分の濃度をX線マイクロアナライザー(EPMA)により定量分析した。
【0042】
図9は、高融点金属試料(Cu)21及び凝固金属(Al)22’’による拡散対23の断面の代表的な金属組織の反射電子組成像(BEI)である。なお、図9は、800℃で5分間の等温加熱処理をした拡散対23のものである。下側は、高融点金属試料(Cu)21であり、上側は凝固金属(Al)22’’である。一方、これらの間には、コントラストの異なる複数の層状領域が認められる。そこで、これらの層状領域を横切る各成分の濃度分布をEPMAにより点分析し、次の図に示した。
【0043】
図10において、縦軸はAlのモル分率を表し、横軸は距離xを表している。また、α及びLは、それぞれ固相Cu及び液相A1を示している。同図の結果によると、図9の層状領域はAl−Cu系化合物であるβ、γ及びε相(ASMインターナショナル社刊、バイナリー・アロイ・フェーズ・ダイアグラムズ、1990年、第1巻、第142頁を参照。)から構成されている。また、γ相とε相の間には(γ+ε)二相組織が認められる。図9のようなBEI写真を用い、各化合物層の平均層厚さlを測定して次の図に示した。
【0044】
図11乃至13は、それぞれ700、750及び800℃において等温加熱処理したときの結果を表している。図中の三角印、四角印及び丸印は、それぞれβ層、γ層及び全化合物層の層厚さl、l及びlを示している。また、縦軸は層厚さlの対数を示し、横軸は加熱時間tの対数を示している。これによると、各プロット点は対応する直線によく乗っている。このことは、層厚さlと加熱時間tの間に次式のべき乗則が成立することを意味している。
=k(t/t (式1)
ここで、tは単位時間l秒である。図11乃至13のプロット点を用いて、式1の比例係数kとべき指数nの値を最小自乗法により求めた。その結果は各図中に示した。この結果から知られるように、多くの化合物層においてべき指数nの値は0.5よりも小さくなっている。このことは、化合物層の成長に対して体積拡散と粒界拡散の両方が寄与し、化合物層において粒成長が進行することを意味している。
【0045】
図9及び10に示すε/L界面の移動距離wを次式より求めた。
w=z+l−l (式2)
ここで、zはβ/γ界面の移動距離である。ここで、β/γ界面の移動距離よりε/L界面の移動距離を算出したのは、図9のようなBEI写真ではε/L界面よりもβ/γ界面の方が観察しやすいからである。その結果を次の図に示す。
【0046】
図14において、縦軸は移動距離wを表し、横軸は加熱時間tの平方根を表している。また、三角印、四角印及び丸印は、それぞれ700、750及び800℃での等温加熱処理した結果を示している。各プロット点は対応する直線によく乗っている。このことは、次式の関係が成立することを意味している。
=Kt (式3)
式3の関係式を放物線則と呼ぶ。図14のプロット点を用い、式3の放物線係数Kの値を求めた。その結果を図14の図中に示した。
【0047】
図15において、丸印はAl/Cu拡散対のε/L界面に平行な液相Alの表面におけるAlのモル分率yと加熱時間tの関係に対する800℃の実測結果を表している。加熱時間が10分を越えると液相Al表面におけるAlの濃度はy=lよりも小さくなる。このことは、Al/Cu拡散対の液相Alを通過する物質移動が進行することを意味している。ここで、液相Alを横切る体積拡散に起因する液相Alの表面組成yと加熱時間tの関係を数値解析法により計算した(マテリアルズ・サイエンス・アンド・エンジニアリングA誌、第459巻、2007年、第101頁参照)。
【0048】
図15において、点線、破線及び実線は、700、750及び800℃における計算結果である。800℃に対する実線の計算結果は、丸印の実測結果をよく再現している。つまり、上記実施例によれば、熱対流やマランゴニ対流による物質移動を抑制できるともに、液相Alを横切る物質移動について体積拡散の寄与のみを抽出評価できることが実証された。
【0049】
ところで、液相Alの表面組成が初期組成であるy=1よりも小さくなると、Al/Cu拡散対はもはや半無限長の拡散対とは見なせなくなる。そのような場合には、式3の放物線則は成立たなくなるものと従来より信じられてきた。そこで次に図15の曲線による液相Alの表面組成の時間依存性に基づき、ε/L界面の移動距離wと加熱時間tの関係を数値解析法により計算し、図14に太い点線で示した(マテリアルズ・サイエンス・アンド・エンジニアリングA誌、第459巻、2007年、第101頁参照)。図14の細い実線は、式3の放物線則を表している。Al/Cu拡散対が半無限長の拡散対とは見なせない加熱時間範囲であっても、加熱時間が比較的短ければ放物線則は実験誤差の範囲で成立する。このような特異な界面移動の挙動は、従来ほとんど知られておらず、本発明による実験装置を用いることにより、初めて明確に観察することが可能となった。
【0050】
以上、本発明では、大規模な装置を用いることなく、純粋な拡散による物質移動に支配された液相金属及び固相金属の間における種々の組織形成反応の素過程や律速過程を抽出評価できる。つまり、熔融めっき法、はんだ接合法、蝋付法、異材接合法等の液相金属と固相金属との間の種々の組織形成反応における素過程や律速過程を容易に観察できる。
【0051】
本発明による代表的実施例を述べてきたが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による装置の断面図である。
【図2】本発明による装置の要部の断面図である。
【図3】本発明による装置の要部の断面図である。
【図4】本発明による装置の要部の断面図である。
【図5】本発明による装置で得られる拡散対の正面図である。
【図6】本発明による装置の要部の断面図である。
【図7】本発明による装置の要部の断面図である。
【図8】本発明による装置の要部の断面図である。
【図9】本発明による装置で得られた拡散対の断面のSEMのBEI写真である。
【図10】本発明による装置で得られた拡散対の断面のEPMA測定の図である。
【図11】本発明による装置で得られた拡散対の化合物層の厚さを示すグラフである。
【図12】本発明による装置で得られた拡散対の化合物層の厚さを示すグラフである。
【図13】本発明による装置で得られた拡散対の化合物層の厚さを示すグラフである。
【図14】本発明による装置で得られた拡散対の界面移動距離を示すグラフである。
【図15】本発明による装置で得られた拡散対の界面近傍のAl濃度と理論計算値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10 試料ホルダー
10’ 粗面
11 加熱炉
12 水槽
14 シャッター
16 回転治具
18 ストッパ
21 高融点金属試料
22 低融点金属試料
23 拡散対
30 カプセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相金属に液相金属を接触させてその接触界面近傍の観察を行うための装置であって、前記固相金属を配した端部を下側にして鉛直に配置される筒状の試料ホルダーと、前記液相金属を前記固相金属から隔離しながら前記液相金属及び前記固相金属をともに加熱する加熱手段と、加熱された前記液相金属を前記固相金属上に搬送する搬送手段と、を含み、前記試料ホルダーの前記端部近傍の筒状内面に粗面を与えたことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記試料ホルダーは、焼結体からなることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記試料ホルダーは、円筒状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記液相金属は前記試料ホルダーの前記端部と反対側の端部近傍に配置され、前記搬送手段は前記液相金属を前記固相金属に接触しないように前記試料ホルダーを鉛直方向から傾斜せしめた状態に保持した後にこれを前記鉛直に配置した状態に移動せしめ得ることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の装置。
【請求項5】
前記試料ホルダーの内面に沿った前記液相金属の流れを止めるストッパを前記試料ホルダーの内面に突出形成したことを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記試料ホルダーは封止されたカプセルであって、前記搬送手段は前記固相金属よりも前記液相金属を下方に位置するように前記試料ホルダーを鉛直方向から傾斜せしめた状態に保持し得ることを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項7】
前記試料ホルダーの内面に沿って前記固相金属が落下しないようにする突起を前記試料ホルダーの内面に突出形成したことを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記試料ホルダーの向きを鉛直に維持したまま水中に焼き入れる焼き入れ手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至7のうちの1つに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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