説明

混合できない複数液体の水系への比例注入方法

【課題】簡易かつ安価で、信頼性が高い、混合できない複数液体の水系への比例注入方法を提供する。
【解決手段】混合できない複数液体を所定の比率で水系に注入する方法であって、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量は、前記混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプに、水系に前記混合できない複数液体の1の液体を必要量注入するための外部運転信号を外部から送り、前記外部運転信号に基づく前記定量ポンプの運転により制御されるとともに、前記混合できない複数液体の他の液体の注入量は、前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量に比例するパルス信号を外部から送り、該パルス信号に基づく前記パルス信号入力型定量ポンプの運転により制御されることを特徴とする混合できない複数液体の水系への比例注入方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合できない複数液体を所定の比率で水系に注入(比例注入)する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用や空調用に用いられる開放循環冷却水系などの冷却水系(以下、単に「水系」ともいう。)では、腐蝕、スケール、スライムなどの水に起因する障害を防ぐために各種の水処理薬剤が使用されている。一般に、水系で使用される水処理薬剤には、腐蝕抑制剤、スケール抑制剤、スライムコントロール剤などがある。
【0003】
これ等腐蝕抑制剤、スケール抑制剤、スライムコントロール剤は、一液混合が可能なものばかりとは限らず、成分によっては混合すると、分離、沈殿等をおこしてしまい、一液製剤化できないものもある。この様な混合できない薬剤であっても、水系において、それぞれの効果を発揮させるためには、各薬剤成分を所定の比率で水系に注入する必要がある。
【0004】
また、水系において、これら水処理薬剤の添加による効果を十分に発揮させるためには、水系内に注入された水処理薬剤の濃度を正確に把握し、適正な水処理薬剤濃度となるように管理することが重要である。
【0005】
ところが、水処理薬剤の種類によっては、水中における濃度の測定が不可能あるいは困難なものがある。そのような場合、水処理薬剤の既知量と共に簡単に濃度測定できる物質(トレーサ物質)を、水処理薬剤に対して所定の比率で添加し、水系中のトレーサ物質の濃度を測定することによって、水処理薬剤とトレーサ物質との比率から、水系中に存在する水処理薬剤の濃度を推定することが行われている。
【0006】
このように、トレーサ物質により水処理薬剤の濃度測定を行う方法をトレーサ法という。トレーサ法を用いることにより、水中における濃度の測定が不可能あるいは困難な水処理薬剤であっても、簡単に水処理薬剤の濃度を推定することが可能になる。
【0007】
より具体的なトレーサ法での水処理薬剤の濃度推定手法は、前もって水処理薬剤の添加量と簡単に濃度測定のできるトレーサ物質の添加量との比率を既知の係数(トレーサ物質による水処理薬剤濃度換算係数)として把握しておけば、必要な時に水系のトレーサ物質の濃度を測定して、その値に係数を乗ずることにより、水処理薬剤の濃度を算出することができるというものである。その算出結果を水処理薬剤の水系における濃度とみなすことにより、水処理薬剤の水系での濃度管理を行うことが可能となる。
【0008】
簡単に水処理薬剤の濃度測定ができるトレーサ物質として蛍光物質を用いる方法、所謂蛍光トレーサ法が知られており、特許文献1、2にそれが開示されている。
【0009】
水処理薬剤の既知量に対して所定の比率でトレーサ物質を水系に添加する方法としては、水処理薬剤に対して所定比率のトレーサ物質を予め配合して一液化しておき、トレーサ物質を含んだ水処理薬剤を水系に添加するのが一般的である。
【0010】
しかし、水処理薬剤の成分、濃度、配合比率、pH、反応性等の様々な要因により、水処理薬剤に対して、トレーサ物質を予め配合することが不可能な場合がある。この様な場合、トレーサ物質を単独で、又はトレーサ物質と混合可能な水処理薬剤成分とのみ混合、液剤化して、トレーサ物質と混合できない水処理薬剤成分を液剤化した液体と、別々に、しかしながら所定比率で水系に添加する必要が生じる。
【0011】
この様に、混合できない複数液体を所定の比率で水系に注入する場合、例えば図3、図4に示す方法が一般的に知られている。しかしながら、それらにも種々問題があった。
【0012】
図3に、水処理薬剤4aの注入量に比例してトレーサ物質(例えば蛍光物質)を溶解、希釈して液剤化したもの(以下、「トレーサ薬剤5a」という。)を冷却塔2の受水槽2aの冷却水2bに所定の比率で注入する、従来の水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aの開放循環冷却水系への比例注入方法を示した。図3中の直線状の実線矢印は各液体の流れ方向を示す。なお、それら各液体を注入する各配管の図示は省略した。図4においても同じ。
【0013】
冷却塔2では、受水槽2a中の冷却水2bを熱交換器(図示せず、図4においても同じ)に送り、熱交換器で熱を得た冷却水2bを冷却塔2の散水槽(図示せず、図4においても同じ)に戻し、散水して蒸発熱により冷却する。従って、冷却水2bは、循環使用されることにより濃縮が進むとともに、冷却水2bの水位も低下する。そのため受水槽2aで冷却水2bの水位を一定に保つため、水位低下に伴い自動的に補給水3aが供給されている。また、補給水3aが通る配管には、補給水3aの供給量を計測するために流量計3が設置されている。図4においても同じ。
【0014】
図3中の符号1は、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aとを所定の比率で冷却水2bに注入する混合装置である。水処理薬剤4aは、所定の濃度で第1貯留タンク4に貯留され、第1定量ポンプ4bの運転により冷却水2bに注入される。トレーサ薬剤5aは、別途第2貯留タンク5に貯留され、第2定量ポンプ5bの運転により冷却水2bに注入される。
【0015】
なお、図3では、水処理薬剤4aを注入する配管にトレーサ薬剤5aを比例注入し、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aを混合液7として、冷却水2bに注入するように記載されているが、冷却塔2の受水槽2aに水処理薬剤4a、トレーサ薬剤5aを別配管で、別々に所定の比率で注入してもよく、混合後短時間で、反応、沈殿等を生じる薬剤同士を注入する場合には、別配管による注入が望ましい。図4においても同じ。
【0016】
次に、図3における水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aの開放循環冷却水系への比例注入方法について説明する。水処理薬剤4aは、水処理薬剤4a注入用の第1定量ポンプ4bによって冷却水2bに注入される。一方、トレーサ薬剤5aは、トレーサ薬剤5a注入用の第2定量ポンプ5bによって冷却水2bに注入される。
【0017】
第1定量ポンプ4bと第2定量ポンプ5bは、ともに外部から送信されてくる同一の外部運転信号6を受け、外部運転信号6に基づき同期して駆動し、水処理薬剤4aおよびトレーサ薬剤5aそれぞれの必要量を冷却水2bに自動注入する。
【0018】
それ故、水処理薬剤4aの注入量とトレーサ薬剤5aの注入量を所定の比率にしたい場合は、第1定量ポンプ4bと第2定量ポンプ5bの吐出容量を、水処理薬剤4aの注入量とトレーサ薬剤5aの注入量との比率に対応した比率になるよう予め選定、設定しておくことが必要になる。
【0019】
なお、外部運転信号6としては、(a)補給水3aの供給量に比例した第1定量ポンプ4b、第2定量ポンプ5bの運転のON/OFFを決定する信号(通常は、補給水3aの供給量を計測するための流量計3からパルス信号として送信されてくるのが一般的である)、(b)週間タイマーで設定された第1定量ポンプ4b、第2定量ポンプ5bを運転させる信号、(c)冷却塔2の受水槽2aで測定されるトレーサ薬剤5aの濃度により決定された第1定量ポンプ4b、第2定量ポンプ5bを運転させる信号などがある。但し、外部運転信号6はそれに限定されることなく、開放循環冷却水系に必要な水処理薬剤4aを注入できるように第1定量ポンプ4bの運転を制御できる信号であればよい。
【0020】
図4に、水処理薬剤4aの注入量に比例してトレーサ薬剤5aを冷却塔2の受水槽2aの冷却水2bに所定の比率で注入する水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aの開放循環冷却水系への従来の他の比例注入方法を示した。
【0021】
図4中の符号1aは、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aとを所定の比率で冷却水2bに注入する混合装置である。水処理薬剤4aは、所定の濃度で第1貯留タンク4に貯留され、第1定量ポンプ4bの運転により冷却水2bに注入される。トレーサ薬剤5aは、別途第2貯留タンク5に貯留され、制御装置10の運転制御指令に基づき駆動する第2定量ポンプ5bの運転により冷却水2bに注入される。
【0022】
さらに、混合装置1aは、水処理薬剤4aを注入する配管に第1パルス発信式流量計8と、トレーサ薬剤5aを注入する配管に第2パルス発信式流量計9とを備える。なお、図3と同一の名称、符号は、機能、作用が同一であるためその説明を省略する。
【0023】
次に、図4における水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aの開放循環冷却水系への比例注入方法について説明する。第1定量ポンプ4bは、外部から送信されてくる外部運転信号6を受け、外部運転信号6に基づき駆動し、冷却水2bに必要量の水処理薬剤4aを自動注入する。
【0024】
冷却水2bに水処理薬剤4aが注入されるとともに、注入された水処理薬剤4aの流量を第1パルス発信式流量計8で計測し、第1パルス発信式流量計8は水処理薬剤4aの注入量に比例したパルス信号8aを生成して制御装置10に送信する。パルス信号8aは、水処理薬剤4aの所定の流量毎に生成される所定数のパルスである。
【0025】
制御装置10は、パルス信号8aの受信とともに、トレーサ薬剤5aの注入用の第2定量ポンプ5bの運転を開始させる運転信号10aを第2定量ポンプ5bに送信する。併せて、水処理薬剤4aの注入量を算出し、その算出された注入量を基に水処理薬剤4aの注入量に対する所定の比率となるトレーサ薬剤5aの注入すべき量を算出する。
【0026】
定量ポンプ5bの運転を開始することにより、冷却水2bにトレーサ薬剤5aが注入される。併せて、トレーサ薬剤5aの注入量を第2パルス発信式流量計9で計測し、計測したトレーサ薬剤5aの注入量に比例したパルス信号9aを制御装置10に送信する。パルス信号9aは、トレーサ薬剤5aの所定の流量毎に生成される所定数のパルスである。
【0027】
制御装置10は、第2パルス発信式流量計9から送信されてきたパルス信号9aを基に、トレーサ薬剤5aの注入量を算出する。
【0028】
そして、制御装置10は、第2パルス発信式流量計9から送信されてくるパルス信号9aを基に算出されたトレーサ薬剤5aの注入量が、水処理薬剤4aの注入量に対して所定の比率のトレーサ薬剤5aの注入すべき量に到達したと判断したとき、第2定量ポンプ5bの運転を停止させる運転信号10aを生成して第2定量ポンプ5bに送信し、第2定量ポンプ5bの運転を停止させ、トレーサ薬剤5aの送液を中止する。
【0029】
このようにして、水処理薬剤4aが冷却水2bに注入されると、水処理薬剤4aの注入量に対して所定の比率となるようにトレーサ薬剤5aが冷却水2bに比例注入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開平7−128324号公報
【特許文献2】特開平9−178662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
しかしながら、図3に示す従来の水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aを別々に所定の比率で開放循環冷却水系に注入する比例注入方法では、次のような問題があった。
【0032】
第1定量ポンプ4bと第2定量ポンプ5bを同期させるため、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aとの注入量の比率は、第1、2定量ポンプ4b、5bの吐出量の比率で対応せざるを得ず、適用できる比率の範囲が限定される。
【0033】
一方、トレーサ薬剤5aが蛍光物質である蛍光トレーサ法の場合、蛍光物質の添加量はごく微量であるため、トレーサ薬剤5aの注入量は水処理薬剤4aの注入量に比較して相当に少なくするのが一般的であり、そのような場合には、定量ポンプの吐出量の比率で対応することは困難であった。
【0034】
このような場合、トレーサ薬剤5aを所定の濃度まで希釈する方法で対応することも考えられるが、トレーサ薬剤5aが蛍光物質である場合には、希釈することで蛍光物質が分解し易くなり濃度減少を起こすので、希釈には限度があり改善が求められていた。
【0035】
他方、図4に示す水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aを別々に所定の比率で開放循環冷却水系に注入する従来の他の比例注入方法では、次のような問題があった。
【0036】
第1に、第1、2パルス発信式流量計から発信されたパルス信号8a、9aを受信し、受信したパルス信号8a、9aを基に演算して、トレーサ薬剤5a注入用の第2定量ポンプ5bに運転の開始や停止を指示する複雑な制御を行う制御装置10の設置が必要であった。
【0037】
第2に、水処理薬剤4a及びトレーサ薬剤5aの注入量をそれぞれ個別に計測するとともに、計測した流量に対応したパルス信号8a、9aを制御装置10に発信できる機能を有する高額な流量計を、第1、2パルス発信式流量計8、9用として2台設置しなければならなかった。
【0038】
以上のように、図4に示す水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への従来の他の比例注入方法では、複雑な制御装置10が必要であり、更には高額なパルス発信式流量計を2台設置することも必要であり、制御が複雑である上設備面での初期投資が大きくなることから改善が求められていた。
【0039】
また、パルス発信式流量計は一般的に精密な機構を有しており、僅かの原因で精度が狂うことや壊れることが多く改善が求められていた。
【0040】
そこで、本発明は、簡易かつ安価で、信頼性が高い、混合できない複数液体の水系への比例注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、混合できない複数液体を所定の比率で水系に注入する方法であって、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量は、前記混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプに、水系に前記混合できない複数液体の1の液体を必要量注入するための外部運転信号を外部から送り、前記外部運転信号に基づく前記定量ポンプの運転により制御されるとともに、前記混合できない複数液体の他の液体の注入量は、前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量に比例するパルス信号を外部から送り、該パルス信号に基づく前記パルス信号入力型定量ポンプの運転により制御されることを特徴とする混合できない複数液体の水系への比例注入方法の構成とした。
【0042】
また、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量をパルス発信式流量計で計測し、前記混合できない複数液体の1の液体の所定流量毎にパルス信号を生成、出力させ、該パルス信号を前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに送ることを特徴とする前記記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法の構成とした。或いは、前記混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプが、前記定量ポンプの所定動作毎に所定数のパルス信号を生成、出力する定量ポンプであり、該パルス信号を前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに送ることを特徴とする前記記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法の構成とした。
【0043】
さらに、前記混合できない複数液体を所定の比率で注入する水系が開放循環冷却水系であって、前記混合できない複数液体の少なくとも一つが、前記開放循環冷却水系の障害を防止するための水処理薬剤であることを特徴とする前記何れかに記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法の構成とした。
【0044】
或いは、前記混合できない複数液体の少なくとも一つが、トレーサ物質を含む液体であることを特徴とする前記何れかに記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法の構成、また、前記トレーサ物質が、蛍光物質であることを特徴とする請求項5に記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法の構成とした。
【0045】
そして、混合できない複数液体を所定の比率で水系に注入する装置であって、混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプと、混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプとを有し、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量は、前記定量ポンプに、水系に前記混合できない複数液体の1の液体を必要量注入するための外部運転信号を外部から送り、前記外部運転信号に基づく前記定量ポンプの運転により制御されるとともに、前記混合できない複数液体の他の液体の注入量は、前記パルス信号入力型定量ポンプに、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量に比例するパルス信号を外部から送り、前記パルス信号に基づく前記パルス信号入力型定量ポンプの運転により制御されることを特徴とする混合できない複数液体の水系への比例注入装置の構成とした。
【0046】
水系とは、熱交換器などの機器を用いて流体(液体、気体)を間接的に冷却する冷却水を再冷却する間接冷却水系(開放循環冷却水系、密閉循環冷却水系)、冷却対象が固体である場合に、対象物に直接噴霧し或いは対象物を浸漬する冷却水を再冷却する直接冷却水系、一過式冷却水系、ボイラ水系、冷温水系などであり、ボイラ、熱交換器、配管等の設備や機器を各種の障害から護るため、複数の液体を比例注入する必要がある箇所を有する水環境である。
【0047】
混合できない複数液体としては、複数液体が原液状態または高濃度の状態で同時に存在すると、反応しあったり劣化や分離、結晶化を促進するため本来の機能を持続しなくなる若しくは機能が安定しなくなる液体同士、比重差が大きいため均一分散が困難な液体同士などである。開放循環冷却水系にあっては、水処理薬剤とトレーサ薬剤などが該当する。
【0048】
トレーサ薬剤5aは、蛍光物質、金属イオン、各種の色素などのトレーサ物質を溶解、希釈して液剤化したものであり、原液、希釈液いずれの場合もある。
【発明の効果】
【0049】
本発明は、混合できない複数液体の1の液体以外の液体を送液する定量ポンプとして、パルス信号で運転制御可能なパルス信号入力型定量ポンプを採用することで、簡易かつ安価で、信頼性が高い、混合できない複数液体の水系への比例注入方法を提供することが可能となる。
【0050】
また、混合できない複数液体の1の液体の注入量をパルス発信式流量計で計測し、前記混合できない複数液体の1の液体の所定流量毎にパルス信号を生成、出力させ、該パルス信号を前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに送ることで、前記複数液体の注入量の比率が、それぞれの定量ポンプの吐出量の比率に制限されることが無くなり、前記混合できない複数液体の他の液体の微量注入が可能となる。また、複雑な制御を必要とする制御装置を設置する必要も無くなる。
【0051】
混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプが、前記定量ポンプの所定動作毎に所定数のパルス信号を生成、出力する定量ポンプであり、該パルス信号を前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに送ることで、高額なパルス発信式流量計を設置する必要が無くなり、精度の狂いが生じやすいパルス発信式流量計を全く使わないことで、更に信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0052】
混合できない複数液体を所定の比率で注入する水系が開放循環冷却水系であって、前記混合できない複数液体の少なくとも一つが、前記開放循環冷却水系の障害を防止するための水処理薬剤を、沈澱、分散、機能劣化の問題なく採用することができる。
【0053】
混合できない複数液体の少なくとも一つが、トレーサ物質を含む液体とすることで、混合できない複数液体の1の液体の水系、例えば開放循環冷却水系での濃度管理、添加量管理の精度が増し、機器への障害が低減されるとともに、前記1の液体を必要最小限度に抑えることができるため、水系管理コストを低く抑えることができる。
【0054】
前記トレーサ物質として、蛍光物質を採用することで、混合できない複数液体の1の液体の水系での濃度管理、添加量管理を低コストでかつ精度良く行うことができる。本願発明は、特に、蛍光物質をトレーサ物質とする水系での水処理薬剤の濃度管理、添加量管理に最適である。
【0055】
本願発明の混合できない複数液体の水系への比例注入装置は、混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号で運転制御可能なパルス信号入力型定量ポンプを採用することで簡易かつ安価で、信頼性が高い、混合できない複数液体の水系への比例注入が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態である水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法の模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態である水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法の模式図である。
【図3】従来の水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法の模式図である。
【図4】水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への従来の他の比例注入方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下に、添付図面に基づいて、本発明である混合できない複数液体の水系への比例注入方法について、水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法をもって詳細に説明する。
【実施例1】
【0058】
図1は、本発明の第1の実施形態である水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法の模式図である。図1では、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aを冷却塔2の受水槽2aの冷却水2bに、水処理薬剤4aの注入量に比例してトレーサ薬剤5aを注入する方法について説明する。図1中の直線状の実線矢印は各液体の流れ方向を示す。なお、それら各液体を注入する各配管の図示は省略した。図2においても同じ。
【0059】
冷却塔2では、受水槽2a中の冷却水2bを熱交換器(図示せず、図2においても同じ)に送り、熱交換器で熱を得た冷却水2bを冷却塔2の散水槽(図示せず、図2においても同じ)に戻し、散水して蒸発熱により冷却する。従って、冷却水2bは、循環使用されることにより濃縮が進むとともに、冷却水2bの水位も低下する。そのため受水槽2aで冷却水2bの水位を一定に保つため、水位低下に伴い自動的に補給水3aが供給されている。また、補給水3aが通る配管には、補給水3aの供給量を計測するために流量計3が設置されている。図2においても同じ。
【0060】
図中の符号11は、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aとを所定の比率で冷却水2bに注入する混合装置である。水処理薬剤4aは、所定の濃度で第1貯留タンク4に貯留され、第1定量ポンプ4bの運転により冷却水2bに注入される。トレーサ薬剤5aは、別途第2貯留タンク5に貯留され、パルス入力型第2定量ポンプ13の運転により冷却水2bに注入される。
【0061】
なお、パルス入力型第2定量ポンプ13とは、外部からのパルス信号を受けてポンプの吐出量(ストローク数)を制御することができる(単位パルス当たりの吐出量(ストローク数)を設定することができる。)流体などの物質を送液する定量ポンプである。パルス入力型第2定量ポンプ13の1ストローク当たりの吐出量は定まっているので、水処理薬剤4aの注入量に比例したトレーサ薬剤5aの必要量を送液する場合は、水処理薬剤4aの注入量に比例するパルス信号に応じて、駆動させるポンプのストローク数をパルス入力型第2定量ポンプ13に適宜設定しておけばよい。
【0062】
さらに、混合装置11は、水処理薬剤4aを注入する配管にパルス発信式流量計12を備える。パルス発信式流量計12は、水処理薬剤4aの流量を計測し、計測した流量に比例するパルス信号12aを生成し、パルス入力型第2定量ポンプ13に送信する。パルス信号12aは、水処理薬剤4aの所定の流量毎に生成される所定数のパルスである。
【0063】
なお、図1では、水処理薬剤4aを注入する配管にトレーサ薬剤5aを比例注入し、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aを混合液7として、冷却水2bに注入するように記載されているが、冷却塔2の受水槽2aに水処理薬剤4a、トレーサ薬剤5aを別配管で、別々に所定の比率で注入してもよい。特に、混合後短時間で、反応、沈殿等を生じる薬剤同士を注入する場合には、別配管で注入することが望ましい。図2においても同じ。
【0064】
以下、図1における水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法について説明する。第1定量ポンプ4bは、外部から送信されてくる外部運転信号6を受け、外部運転信号6に基づき運転し、冷却水2bに必要量の水処理薬剤4aを自動注入する。
【0065】
外部運転信号6としては、従来同様、(a)補給水3aの供給量に比例した第1定量ポンプ4bの運転のON/OFFを決定する信号(通常は、補給水3aの供給量を計測するための流量計3からパルス信号として送信されてくるのが一般的である)、(b)週間タイマーで設定された第1定量ポンプ4bを運転させる信号、(c)冷却塔2の受水槽2aで測定されるトレーサ薬剤5aの濃度により決定された第1定量ポンプ4bを運転させる信号などがある。但し、外部運転信号6はそれに限定されることなく、開放循環冷却水系に必要な水処理薬剤4aを注入できるよう第1定量ポンプ4bの運転を制御できる信号であればよい。実施例2においても同じ。
【0066】
冷却水2bに水処理薬剤4aが注入されるとともに、注入された水処理薬剤4aの流量をパルス発信式流量計12で計測し、パルス発信式流量計12は水処理薬剤4aの注入量に比例したパルス信号12aを生成し、パルス入力型第2定量ポンプ13に送信する。
【0067】
トレーサ薬剤5aの注入用のパルス入力型第2定量ポンプ13は、パルス発信式流量計12からのパルス信号12aを受信し、受信したパルス信号12aのパルス回数に応じて、予め設定したストローク数だけポンプを駆動させる。即ち、パルス入力型第2定量ポンプ13の1ストローク当たりの吐出量が定まっているので、入力パルス信号とポンプの駆動ストローク数との関係を、パルス入力型第2定量ポンプ13に適宜設定しておくことで、パルス信号12aつまり水処理薬剤4aの注入量に比例した、必要量のトレーサ薬剤5aを冷却水2bに注入することができることとなる。実施例2においても同じ。
【0068】
これにより、従来のような制御装置10が不要となる。また1台のパルス発信式流量計12を用いるだけで、水処理薬剤4aの注入量に対して所定の比率となるようにトレーサ薬剤5aを冷却水2bなどの開放循環冷却水系に比例注入することができることとなる。これにより、定量ポンプの吐出量の比率では対応することが困難な、トレーサ薬剤5aの微量注入にも容易に対応が可能となる。
【実施例2】
【0069】
図2は、本発明の第2の実施形態である水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法の模式図である。図2でも、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aを冷却塔2の受水槽2aの冷却水2bに、水処理薬剤4aの注入量に比例してトレーサ薬剤5aを注入する方法について説明する。なお、図1と同一の名称、符号は、機能、作用が同一であるためその説明を省略する。
【0070】
図中の符号20は、水処理薬剤4aとトレーサ薬剤5aとを所定の比率で冷却水2bに注入する混合装置である。水処理薬剤4aは、所定の濃度で第1貯留タンク4に貯留され、パルス発信式第1定量ポンプ21の運転により冷却水2bに注入される。トレーサ薬剤5aは、別途第2貯留タンク5に貯留され、パルス入力型第2定量ポンプ13の運転により冷却水2bに注入される。
【0071】
なお、パルス発信式第1定量ポンプ21とは、所定の駆動数に対応した所定数のパルスを生成し、外部にパルス信号21aとして送信する定量ポンプである。
【0072】
ここで、水処理薬剤4a注入用の定量ポンプとしては、ダイヤフラム方式の定量ポンプを使用するのが一般的である。ダイヤフラム方式の定量ポンプには、ダイヤフラムを駆動させる方法により、(1)モーターとリンク機構を組み合わせたモーター方式と、(2)電磁コイルのON/OFFを利用したソレノイド方式とがある。
【0073】
ソレノイド方式は、電磁コイルのON/OFFの1ショットに毎に、ダイヤフラムを1回駆動させるので、電磁コイルのON/OFFの1ショット毎に同期してパルス信号21aを送信することができる。これにより水処理薬剤4aの注入量に比例したパルス信号21aを出力させることが容易にできる。
【0074】
それ故、本発明におけるパルス発信式第1定量ポンプ21として、ダイヤフラムの駆動毎に同期パルス信号12aを出力させるためには、ソレノイド方式のダイヤフラム型定量ポンプを採用するのが好適である。
【0075】
以下、図2における水処理薬剤とトレーサ薬剤の開放循環冷却水系への比例注入方法について説明する。パルス発信式第1定量ポンプ21は、外部から送信されてくる外部運転信号6を受け、外部運転信号6に基づき運転し、冷却水2bに必要量の水処理薬剤4aを自動注入する。
【0076】
併せて、パルス発信式第1定量ポンプ21は、ダイヤフラムの駆動毎にパルス信号21aを生成し、パルス入力型第2定量ポンプ13に送信し、トレーサ薬剤5aの注入用のパルス入力型第2定量ポンプ13の運転を制御する。
【0077】
トレーサ薬剤5aの注入用のパルス入力型第2定量ポンプ13は、水処理薬剤4aの注入用のパルス発信式第1定量ポンプ21から送信されてきた同期パルス信号21aを受信し、受信したパルス信号21aを基に、予めパルス入力型第2定量ポンプ13に設定した入力パルス信号とポンプのストローク数との関係に従ってポンプが運転されトレーサ薬剤5aが注入される。
【0078】
実施例2のような比例注入方法であれば、パルス発信式流量計や制御装置10を備えることなく、水処理薬剤4aの注入量に対して所定の比率となるようにトレーサ薬剤5aを簡易かつ安価で、信頼性高く冷却水2bなどの開放循環冷却水系に比例注入することができることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明である混合できない複数液体の水系への比例注入方法は、信頼性が高く、簡易かつ安価な比例注入方法であるので、開放循環冷却水系などの水系への混合できない複数液体の比例注入制御に極めて有効である。
【符号の説明】
【0080】
1 混合装置
1a 混合装置
2 冷却塔
2a 受水槽
2b 冷却水
3 流量計
3a 補給水
4 第1貯留タンク
4a 水処理薬剤
4b 第1定量ポンプ
5 第2貯留タンク
5a トレーサ薬剤
5b 第2定量ポンプ
6 外部運転信号
7 混合液
8 第1パルス発信式流量計
8a パルス信号
9 第2パルス発信式流量計
9a パルス信号
10 制御装置
10a 運転信号
11 混合装置
12 パルス発信式流量計
12a パルス信号
13 パルス入力型第2定量ポンプ
20 混合装置
21 パルス発信式第1定量ポンプ
21a パルス信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合できない複数液体を所定の比率で水系に注入する方法であって、
前記混合できない複数液体の1の液体の注入量は、前記混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプに、水系に前記混合できない複数液体の1の液体を必要量注入するための外部運転信号を外部から送り、前記外部運転信号に基づく前記定量ポンプの運転により制御されるとともに、
前記混合できない複数液体の他の液体の注入量は、前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量に比例するパルス信号を外部から送り、該パルス信号に基づく前記パルス信号入力型定量ポンプの運転により制御されることを特徴とする混合できない複数液体の水系への比例注入方法。
【請求項2】
前記混合できない複数液体の1の液体の注入量をパルス発信式流量計で計測し、前記混合できない複数液体の1の液体の所定流量毎にパルス信号を生成、出力させ、該パルス信号を前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに送ることを特徴とする請求項1に記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法。
【請求項3】
前記混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプが、前記定量ポンプの所定動作毎に所定数のパルス信号を生成、出力する定量ポンプであり、該パルス信号を前記混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプに送ることを特徴とする請求項1に記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法。
【請求項4】
前記混合できない複数液体を所定の比率で注入する水系が開放循環冷却水系であって、前記混合できない複数液体の少なくとも一つが、前記開放循環冷却水系の障害を防止するための水処理薬剤であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法。
【請求項5】
前記混合できない複数液体の少なくとも一つが、トレーサ物質を含む液体であることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法。
【請求項6】
前記トレーサ物質が、蛍光物質であることを特徴とする請求項5に記載の混合できない複数液体の水系への比例注入方法。
【請求項7】
混合できない複数液体を所定の比率で水系に注入する装置であって、
混合できない複数液体の1の液体を水系に注入する定量ポンプと、混合できない複数液体の他の液体を水系に注入するパルス信号入力型定量ポンプとを有し、
前記混合できない複数液体の1の液体の注入量は、前記定量ポンプに、水系に前記混合できない複数液体の1の液体を必要量注入するための外部運転信号を外部から送り、前記外部運転信号に基づく前記定量ポンプの運転により制御されるとともに、
前記混合できない複数液体の他の液体の注入量は、前記パルス信号入力型定量ポンプに、前記混合できない複数液体の1の液体の注入量に比例するパルス信号を外部から送り、前記パルス信号に基づく前記パルス信号入力型定量ポンプの運転により制御されることを特徴とする混合できない複数液体の水系への比例注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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